転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

70 / 112

ことしはきこうのようすがへんなのだ(言いたかっただけ)



63. 水面下の遠足

 

継承権第一位と第二位の決闘という、聞く人間次第では色々と勘違い勃発待ったなしな戦いは無事に幕は下りた。

その結果も、傍から見れば夢遊病でも患ったのかと疑うものとなるおまけつきだ。

 

「見事なまでの詰み、ということでそこまでね。本決闘の勝者はアルガルド・ボナ・パレッティアとする!」

 

審判を兼ねるデイジーからの宣言に、その場の大半が改めて結果を認識することとなる。

現実を受け入れきれない者が1名、勝者が描いた過程に凄みを覚える者が3名といったところか。

即座に立ち上がっての賞賛を贈るマドラーシュとラスを横目に、見事に一人負けとなったガークはただただ叫びながら項垂れていた。

 

「何でアルガルド様があんなあっさり勝っちまうんだぁ!?アニスフィア様めっちゃドラゴンの力使って結構押せ押せだったよな!?」

「賭けに勝ったとはいえ、正直私も驚いてるわ……アルガルド様があそこまで巧みな立ち回りが出来るだなんて」

「あれほど巧みな技術を以て凡才と称されていたなんて……ラインヒルト様やマドラーシュ王子殿下が色々見直そうとしている理由が見えてきましたよ」

「一つ一つの要素は例え弱くても使いよう……きっと裏では凄い努力したんだろうなあ……」

 

アニスフィアは己が身に刻んだ、かつて討伐したドラゴンの力をも用いることとなった。

最初は出し渋っていてこそいたが、決闘開始直後からのアルガルドの揺さぶりからの一方的な消耗戦から奥の手を早くも引きずり出される展開に。

まさかの早い展開に、観客席からは悲喜こもごもな叫びが上がるほどだ……喜はアニスフィアに賭けていたガークのみなのは言うに及ばずで。

その中で、アルガルドの実力を正確に知るマドラーシュと実戦経験が増えてきたラスはその魂胆をある程度読んでいた。

だからこそ、勝負が終わった直後に賞賛の意を込めてのスタンディングオベーションをする余裕もある。

 

「どこかで聞いたことのある飛行トカゲ発言はさておき、終始ドラゴンの暴虐的な力をいなすことに集中してたね。水属性に長けるアルガルド様ならではの戦い方、俺としても参考になるところが多かったよ」

「元々そういう素養があったからな。この1年でそこを伸ばしてきたってわけだが……ったく、しれっとカルシオンから束縛術を教わってる辺りが抜け目ねえよな」

「双子ならでは、ということでしょう。弟君としては、望んだような成長曲線ではありませんか?」

「うかうかしてらんねえってのも事実だな。これほど引き離し甲斐のある後続ってのも悪くはねえ……これぞ『追われるってのは気分がいい』ってやつか?」

 

マドラーシュのその獰猛かつ不敵な笑みは、普段の3割増しでその機嫌の良さが窺える。

1年前の半殺し合いの時点で才を見出していて、その時の相対でも間違いなく双子の兄は歓喜を沸き上がらせていた。

それがたった1年で、観戦するだけでこれほど……ラインヒルトの言う成長曲線は、正直マドラーシュの理想と予想を遥かに上回っていると言ってもいい。

その進軍スピードを恐怖にも思わず、むしろ引き離すなり迎え撃たねばという思考に走る破天荒。

……まさに双子、どっちもどっちなイカれ具合とすら言えた。

そして、そんな様子をまざまざと見せつけられた者は隣にもいる。

 

「おいユフィ、二人のところに行くぞ」

「あ、すみません……これで無事に二人もちゃんとした姉弟関係に戻るということですよね?」

「まあ、そうだな。アル兄さんの表情はもう完全に吹っ切れてた。変なシスコンもこれでかなりのところまで直るだろうよ」

 

観客というか傍観者であった末弟の解釈に対して安堵の表情を一応は向ける。

元婚約者やら現助手だったり悪友だったりと、ユフィリアは何だかんだこの三姉弟との関係は深くなっている。

もはや他人とは言えない状態だからこそ、不和要素が取り除かれることは喜ばしいことだ。

だが、この時のユフィリアの胸中を占めるのはまるで別の事柄である。

 

(あの時のアルガルド様の表情は間違いなく既にマッド様を見据えているものでした……アニス様や私はとうに通り過ぎて)

 

白星獲得宣言と共に向けられた視線の意図、それをユフィリアは逃すことなく正しい解釈を取っていた。

これまでずっとコンプレックスを抱えていた姉を超えたことへの歓喜はそこそこ……否、むしろ淡泊の中に少量の喜色とでも言うべきか。

まるでその成就すらも過程とみなして、最大目標に対して『次はお前だ』と宣戦布告をするかの如く。

そして、そんな兄でありながら追ってくる者を同じく不敵な笑みで容認するマドラーシュの姿も見た。

──その時の二人は、見えないことをいいことに悪戯をするかの如く、盛大な火花を散らしていた。

その様は周囲の精霊が怯えを見せる程で、ユフィリアはその反応を基に察することが出来たのだが……。

 

(私たちが相容れないのは必然、今は物凄く貴方を妬ましく感じています。婚約解消していてここまで安心してしまう辺り、よっぽどですね……)

 

アルガルドに抱くその感情は、オルタに抱いているものと殆ど同じもの。

──更に言うならば、今日知り合ったラスにも少々ばかり類似したものを抱いていると言ってもいいか。

その感情の正体は、間違いなく嫉妬というものは友やぶっ飛び専属侍女から教わっている。

最初はイマイチピンとこなかったものではあったが、この時にしてようやくその全貌を認識するに至った。

しかし、それでも自分のやるべきことに変わりはない。

むしろその方角に邁進していくことにより強固な意志を持つこととなるほどだ。

 

「……勿論、私なりのやり方でという但し書きはつきますけどね」

「おい、何か今寒気したんだが。この勢いでユフィまで姉上に挑む気だったりしねえよな?ここを笑いと血の海に変えてほしくねえし、流石に姉上が可哀想になるから止めておけ」

「何でそうなるのですか。そんな卑劣な下克上精神を持つわけないでしょう」

 

──あえて聞こえるように言ってもこの反応、意図的なのか天然なのかまるで分かったものではない。

まるで温度差のある反応に、もはやお家芸と化したアルカンシェルによるツッコミを見舞おうとする。

……それもあっさりと避けられ、ますます胸中のモヤモヤを加速させるのは言うに及ばずだ。

 

「さて姉上、これで色々ハッキリしたろ?もうアル兄さんは独自の道を歩めている……余計な施しは不要だってな」

「それはもう痛いほどに……というわけでマッドくん、ドラゴンの力使い過ぎてヘロヘロ状態なお姉ちゃんを起こしてそのまま背負ってくれたりしない?」

「おい愚弟、早まったことはするなよ?いくら能率を重視したとはいえ、俺も消耗していないわけではないからな」

「うん、俺もアルガルド様に同意。迂闊なことをしたら、キュイみたいに押し付けて俺たちは逃げるから、そこのところはよろしく」

 

その問題行動をよく理解しているアルガルドとラスは徹底的に釘を刺していく。

デイジーとラインヒルトが何も言わないのは、まあこの場の年配者としての立場を弁えてのことだ。

マドラーシュは何のこっちゃと思索するも、その間にユフィリアがそそくさと行動に移っていた。

流石は助手というべきか、上司兼友人の行動パターンを把握しているからこその即決であった。

 

「何この雑な扱われ方はー!?ユフィ、将来の義姉様をもうちょっと労わってほしいんだけど!」

「下の弟君に徹底的に甘えようとする人にかける労力などどこにあるというのでしょうか」

「ユフィリア様それくらいにして差し上げてください!何というか、俺がすっごい居た堪れなくってしまうので!」

「……縄でぐるぐる巻きにされて荷物のように運ばれていた頃よりはマシなんじゃないかしら?」

 

幼少時の、それこそ未成熟だった魔学の実験で手が付けられない程の暴れ馬を発揮していた頃を知る者の共通意見である。

それこそ、侍女に近衛騎士も総動員で捕獲というどこぞの逃走中と言わんばかりの光景だった。

まあ、今も本人比で面倒なことから逃げる際はそれくらいの騒動になることも多いのだが……それはそれとして。

その頃に比べれば、あくまで手がかかる親しい同年代同世代として扱っているだけのユフィリアの扱いは優しいものだろう。

上手く魔力を利用して、野良猫をひっつかむような感じであくまで生物扱いはしているのだから。

 

「いやいや不敬、普通に不敬だからアウトだってばこれー!」

「おい姉上、アル兄さんに負けたショックから檻付きに放り投げられるとか勘弁願うぞ……」

「まさかのメンヘラ扱いはひどくない!?うう、マッドくんの鬼畜!」

 

果たしていつまで続くのやらかな漫才は、再度登場のアルカンシェルハリセンにて鎮圧された。

その際、まるで死に際かのように『おのれハリセンシェルめ……』と言い残し、そのとんでもないかつ不名誉な言われように破天荒を筆頭とした爆笑の渦が巻き起こったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルくんとの決闘から少しばかり経ったある昼間、私は中庭でマナ・ブレイドを手にしては素振りのようなことを行っていた。

昨日の決闘の反省点は、後からいくらでも浮かんでくる。

アルくんに負けたことはまあ、悔しくないわけではないけど……。

それ以上に直面した現実に私はちょっとばっかり打ちひしがれていて、それを振り払わんとばかりに動いている。

 

「まさか、アルくんまで顕魂術を得てしかもあそこまで熟成させていたなんてね……」

 

戦いの最中でその事実には気が付いていた。

魔力の流れ方がケルビムとクロエ、更にはティルティのそれと似通っていたからね。

それにしたって、まさか鯱を模して機動力を得るなんて思いもよらなかったよ……。

お陰でドラゴンとしての力をまるで発揮させてもらえなかったし。

いくらアルくんがこの対決を想定していたとはいえ、それでも私はいいようにやられ過ぎだったな……。

あの時の挑発は強がりでも何でもなく、恐らくは展開を読めていたからこそなのだろう。

泥を啜り過ぎて、捻くれに捻くれてしまった結果があの何重にも張り巡らされた搦め手の連打と考えると……少しだけ複雑だ。

……私が幻影として抱いてしまっていた弟の姿はもう無かったので、安心も出来たんだけどね。

そして、アルくんをこのような形にまで持っていったのはマッドくんとグランナイツなわけであって……。

顕魂術も『東の賢者』に才を見込まれて、マッドくんが早い段階で便宜を図ったんだろうね。

魔法との併用も可能って言うのも驚きだし、本当にしれっととんでもない技術だよね。

浸透し始めたら、それこそ魔学やら魔道具をも塗りつぶす勢いになりそうだ。

 

「そもそも、アルくんやらユフィやらと色々変化が激しすぎるよ……そういえば、以前ユフィがティルティに『波』だ何だ言ってたっけ」

 

確かに、言われてみればそのようなものを感じなくはない。

それも私の与り知らぬところで起こっているというおまけつきだ。

この間のスタンピードでは、私でもまるで歯が立たない新種のドラゴンが現れ……それを狩ったのは新世代の英雄ケルビムで。

更に従者のクロエともども顕魂術という、文字通り世界に喧嘩をふっかけているような新たな魔法を用いて。

いや、そもそもがグランナイツが表立って活躍していた頃からそういう兆候があったと言えたりするのでは……?

そうなると……マッドくんもこの波を作る側にいるのではと思えてならない。

これまでやってきたことを考慮すると……彼は前世のその手の書籍ならば裏街道サクセスストーリーを描く主人公と言えなくもないわけで。

 

「それでいて私と同じく公認なわけなんだけどねえ……もはや何だそりゃでしょ」

 

このままでは第二王子がまさかのダークヒーロー系ということになっちゃうし。

……母上はちょっと呆れつつもドヤ顔しそうだけど、それならそうともう少し表に出てもいい気がしてならない。

まあ、どちらにせよマッドくんの人脈を見るに広い範囲でやりたい放題してきたのは覆しようのない事実。

そして、その時に撒かれた種は確実に最近芽を見せつつあって……。

ユフィやアルくん……後は王国の東部は民も諸侯も必死に食らいついている。

特にユフィについては最近分かりやすいくらいだからなあ……。

今日だって、朝っぱらからオルタと一緒に意気揚々と魔物狩りなんて聞いた時は色々と大変だったんだよ!

 

「って、これ以上は止めておこう!シアン男爵令嬢絡みという水面下の大事が控えてるんだし」

 

それが終わらない限り、色々と気になって新たな魔道具の構想にだって入れやしない。

きっと、魔学の研究に打ち込む暇が無くなったからそのストレスだろう。

幸い、シアン男爵令嬢の登城日も近く決まったからね。

事件の状況が進展することで、その手の感情も減ると願いたいものだよ。

あわよくばこの件を一気に収束に持ち込めば……楽しく刺激的な日々を取り戻すことが出来る。

何なら、父上を上手いこと言い包めて素材収集がてらの旅行に出かけてしまおうか。

助手であるユフィは当然連れて行き、イリアとマッドくんも……セラとプリシラもついてくるのかその場合。

見事なまでに蒼一点だけど頑張れマッドくん!まあ、ユフィがいれば大丈夫だよね君は!

 

「まあ、暗躍系弟を引きずり出すのは後々ってことで!」

 

よし、先のことを思ったら少しだけ元気出てきた。

……当のマッドくんは一体何をしているのやらかだけど。

全く、将来の嫁候補を放って何やってるんだかなー……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東西に分かれての精鋭人海戦術は早速効果が見られた。

アル兄さんと姉上が決闘した日の時点で既にラス達は2チームに分けて行動を起こしていたらしい……仕事が早くて何よりだ。

その辺の動きについてをラインヒルト先生に共有しようとして、あの時は居合わせたとのことだとか。

そこからは元々ラインヒルト先生が面倒を見ていた、半ば部下的立ち位置のエイパたち3人及びガークも補佐役として加わることとなった。

ガークについては、働き次第で近衛騎士入りを推薦するという……要するに餌付けをしたとか。

まあ、他にも俺がかつて面倒を見た、すなわち顕魂術を先行で扱う人柱ということで経験値を振りたいってのもあるんだろう。

当人たちからしても、特にエイパとガークはラスに対抗意識を燃やしているから望むところだったからまさに誰も損をしていないという話だ。

流石はラインヒルト先生、適度にダーティな面も健在で何よりだよ。

 

「結局一番情報稼いだのはオルタなんだけどな。ったく、俺たちの立つ瀬が無くなっちまうな?」

「単騎で流浪するからには情報の正確性は何よりも重要。既にある伝手を使っただけの話さ……それに、数はあっても全部外れでは意味がないだろう?」

「多分今から行く場所については当たりさ。そういう兆候が過去にもあったってプリシラも言ってたからな」

 

しかし、情報収集に特価ないし得意なヤツが身内にいるとこれほど違うとはね。

そういう意味で石橋を叩くオルタ、顕魂術の本来の方向がまさに天職と言えるプリシラの存在はマジでデカい。

ったく、このままじゃあ明らかに俺は器用貧乏になっちまってる気がするな……。

この間出来るようになったチビグリフォン召喚、独立意志を持たせるか俺の意志をコピーするか出来ないものかねえ……。

 

「マッドがそれ以上何でも出来るようになったら本当に手が付けられなくなるって……欠点が気にかかるのは分かるが、もう少し大らかに構えてもいいんじゃないか?」

「あー、それが出来たら苦労しねえ。俺自身がどうしても気に入らねえし、やっぱ俺しか手が空いてねえって状況をついつい考えちまう」

「その執着をもう少し別の方向に回して欲しいものだよ……主にユフィリア嬢のこととかさ。こちとら帰ってきたらまた変な目を向けられそうで気が気でない」

 

あーはいはい、ユフィについては追々どうにか出来ねえか姉上とかイリアに相談しますよっと……。

さて、段々と空気が嫌な感じになってきた……ここいらが件の変則魔物湧き地域だろうな。

本来ならこの辺にいるはずのハウラーやらロッピーやらの、どこか愛嬌のある魔物どもが明らかに少なくなってやがる。

更に言うなら、それらは黒の森とかそっちの方で増えだしているって話もあったっけか。

明らかに奇妙な魔物の移動……恐らく追いやられたんじゃないかというのが俺たちの共通推測となっている。

そうなれば、連中の影がちらつくのは必然でありこうして出向いているってわけだ。

で、たった今現地周辺ってわけなんだが……。

 

「黒だな。いつぞやの地下施設とかを思い出して鼻がひん曲がりそうだぜ」

「同意見だ。以前に単独で潰した場所と似たような感覚を覚えるね……そして、お客さんも沸いているようだ!」

 

その醜悪な気配を感じ取れたなら、後ろを振り返る必要すらない。

俺たちはどちらも乗馬体勢のまま、招かれざる客たちに対して顕魂術を放っていく。

オルタが放ったのは頭上から魔力で編んだ大量の剣やら刀を降り注がせる術だ。

俺も扱うものの属性違いなだけに見えるが、その持続時間が大きな違いと言えるだろうか。

代わりに、俺は実質相手を一瞬止めるがこちらは相手の動きを遅める効果に留める。

まあ、どちらも一長一短というか単に合わせ方を変えればいいだけなんだがね。

現に、俺が放った『リトルグリフォン』がノロノロ進軍状態の迷惑な客にじっくり焼き加減の雷を注ぎ込んでいるし。

ここにキュイかプリシラがいれば更なる地獄を形成出来て楽しかったんだろうが……。

 

「呼ばれた気がすれば即座に加勢、これぞマッド様の専属侍女の掟でございます!」

「君は一体どこから出てきたんだい!?後、その掟まるで意味が分からんぞ!?」

 

あ、言ってる内に来ては早速俺の援護してくれてるし。

俺のリトルグリフォンの火力を更に高めるよう、電気を通しやすい水を上からぶっかけてやがるし。

オルタの光剣の雨(スチールレイン)で逃れようのない状態からの強化感電祭、これは実に楽しい状態である。

やっぱりプリシラマジ迅速で有能、有能すぎて俺がダメにされそうなことが困りものだが。

そんなこんなで、馬から降りることなく追っ手は振り切るどころか徹底的に感電死の刑となりましたとさ。

──なお、徒歩で向かってきたからか今は俺の後ろに乗っての二人乗り状態である。

ぜってー狙いすましてたんだろうが、ここで突っ込んだら面倒だからあえてスルーだスルー。

 

「ちなみにアルガルド様とガーク様についても接敵中ではございますが、経験の為と伺っていますのでこちらに参上した次第です」

「そこのところは一任してるし、別に問題は無いな。これくらいの相手ならアル兄さんがガークを見ながらってのも余裕だろうし」

 

まあ普通なら逆じゃねえのかって思うところだろうが……そこはアル兄さんだからな。

本人も玉座にふんぞり返るばかりでいたら、それこそ飾りになりかねないって豪語してたもんだ。

元々は姉上やユフィに対する対抗心でも、折角鍛え上げたものだから勿体ないってのもあったりなかったり。

ちなみに、俺たちの動きにアル兄さんが加わることになったのはラインヒルト先生からの提案だ。

折角だからとこの手の経験も積ませて、ついでに後の為の根っこ張りって話だが。

 

「全く、王国の第一王子と第二王子が揃って水面下活動とはね……この7年で随分と面白くなったものだよ」

「それはどっちもどっちじゃねえかよ。お前とミココロが民の助けを受けては飛び出して、俺とカイトが毎回ついていくのも大変だったんだからな?」

「と言いながらも捻くれた義侠心と共に加勢するマッド様……何と尊くて微笑ましい関係でしょうか。薄い本が厚くなるとはこのこと……失礼いたしました、つい嫉妬が」

「「それだけは勘弁(してくれ、してほしいな)」」

 

ええい、どいつもこいつも貴腐人ネタをいちいち持ってくるんじゃねえ!

ついでに、『我大義を得たり』と言わんばかりに抱き着いてくるな、んなことしなくてもお前は落馬しないだろーが!

んなことしなくたって俺はノーマルだっての。

そしてオルタ、その見るからに『女難癖だねえ』なんて楽しそうな表情止めてもらえませんかねえ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

至って暢気な破天荒達と打って変わって、その兄は険しい表情を浮かべながら魔物と相対する。

相手は黒の森や東部の一般的魔物と比べてやや強い程度なことは幸いだろうか。

一帯に蔓延る嫌な空気と魔力に感化されたからか、出てくるのは精霊豊かな国内ではそうそうお目にかかれない連中である。

かつてマドラーシュとレオンが相対したゴーストナイト、明らかにこの辺りの植生が変容したであろうエープランター。

更には人型に成り損なった、明らかに自然発生ではない不気味な存在も少しばかり混ざっている有様だった。

 

「何なんだよコイツ、腕伸ばすわ歩き方が奇妙だわで気持ち悪りぃ!」

「こんなものまで脱走させてしまえば、それこそ既存種の引っ越しが進むのも必然……迷惑な話だがな!」

 

重装備で固めているガークが一撃を受け止め、アルガルドが『ウォーターカッター』を魔力刃として纏わせた一刀の元切り伏せる。

ガークの防御能力は、体系まで考慮すればウィンやラスにそう劣るものではない。

顕魂術をまだ授かってこそいないので自己強化手段に欠けることが物足りないが、マドラーシュの手ほどきもあって効率という意味では相当なものだ。

その一瞬の鍔迫り合いで足を止めた相手を確実な手段で葬るのは、弟曰く『弱者視点の合理性の鬼』アルガルド。

防御面に劣るエープランター、ないし個体差がやや激しい中で弱めのゴーストナイトはこの基本的な動きで沈めることは容易だ。

一撃必殺と行かずとも、濃縮魔力刃を一撃浴びれば怯むなりのリアクションを見せるのでそこを二人がかりで突けばいいだけのこと。

急造コンビでこそあるが、互いが互いの役割をきっちり果たしているという意味ではいい組み合わせと言えるだろう。

ガークとしては、先日の決闘の件があって僅かながらに複雑な心境もあるがそれは脇に置いている。

 

「っつうか、アニスフィア様と戦った時のアレは使わないんですか!?」

「この接敵自体が予定外のものだが、こんなことは日常茶飯事で考慮の範囲内だ。下手に魔力を使って肝心な時に使い物にならないではまるで意味がない」

「言われてみればそうでした……単に強くなるだけでなく、そういうことにも目を向けなきゃってことですね」

 

すなわち、連戦に備えての温存ということだ。

まだ本願の入り口といったところで、ここからどれほどの敵と相対するかが読めない。

『フリーライド・メガロアビス』を用いれば確かに殲滅効率は大幅に上がるが、それは一戦限りにおいてに過ぎない。

切り札はあくまで切り札として、それを使わずに且つ効率を求める。

この1年でイグノックスやデイジーから伝授された、まさに生き延びる為の心得に当たる。

 

「ただ、流石に水の鞭とか水の弾だけじゃあ手が足りない気がしますよ!?あの骸骨騎士も強い個体ばっかりになってきたようだし、俺もキツくなってきました!」

「ゴーストナイトと奇妙な生物が共に3……カルガモのように統率が取れて、いっそ羨ましいくらいだな」

「相手の事褒めてる場合じゃないと思うんですが……!?」

 

ジリジリと迫る魔物たちを見やるアルガルドの顔は、僅かながらに口端が上がっている。

マドラーシュのそれとはどこか異なる、氷風すら感じさせるような冷笑。

先ほどの発言がただの皮肉であり、あまりの愚かしさから出てきたことだとガークは否でも察してしまった。

味方のはずなのに、その冷たい重圧を受けてしまいまるで動けずにいる。

そんな中、アルガルドは威風堂々と前に出ていく。

 

「そこまでバカ正直と来れば、実験ネズミになるのも本望だろう──『アイシクルドラグプリズン』!」

 

アルガルドが指を鳴らすと共に、アニスフィアとの決闘でも用いられた氷龍が出現する。

その媒体は、先ほどまで散々足止めや牽制に用いた水の鞭やら水弾の残骸である。

自身の魔力から生み出されたものなので、イメージ伝達速度と形成速度はかなりのもの。

まるで大蛇のように、素早く地を這い忍び寄っては残った6体の魔物を巻き込みつつとぐろを巻いていく。

何重にも巻き付けたので、6体が抵抗がてらにと攻撃をしてもすぐに砕ける気配はない。

ここからトドメかとガークは構えるが、アルガルドには次の行動に移る気配が無かった。

──何だかんだ、彼は弟思いでもあるのだ。

 

「お膳立てはきっちりしたんだ、ここは楽をさせてもらおう。トドメは任せたぞ愚弟」

「人使いが荒い愚兄だねえ。ま、リクエストには答えてやらねえとな。──『エヴォリューション・レザルト・バースト』ルォクレンダァ!」

 

『ウォーターハンマー』辺りを用いればアルガルドでも一網打尽は可能ではあった。

だが、そこは餅は餅屋……馬の足音が聞こえた段階でトドメを譲ることは考えていたのだ。

弟への信頼と共に、面倒事を押し付けながらも美味しい所を譲る誰も損をしないやり方。

使えるものならば身内でもきっちり使う、人でなしにも見えるがその為のお膳立てはきっちりとだ。

ちなみに、発射された6本の電撃ブレスは一寸の狂いなく6体の魔物を撃ち貫いていたのは言うまでもないだろう。

その証拠に、とぐろ状態の氷龍を叩き割らんとする打撃音はまるで聞こえなくなっていた。

 

「ここぞとばかりにマドラーシュ様をこき使ってしまって……いいんですかね」

「むしろここで俺が業突く張りを示したところで、纏めて仕留められるとも限らないし無駄な消耗に繋がる。それならばマッドがとどめを刺す方が相対的な労力も減る。結果、お前に余計な負担もかけずに済んだだろう?」

「俺のことまで考えてのこと、ですか……」

 

最初はアルガルドと行動を共にすることにほんの僅かの反発を抱いていたガーク。

別に嫌っているというわけではないが、やはり尾を引いているのは先日の決闘のことだった。

自身が敬愛するアニスフィアがあっさり負かされたこと、それがどうにも納得しきれず飲み込めずで今日まで来ていた。

そんなガークにとって、広い視野と思慮深さを以て立ち回るアルガルドを間近で見ることはその評価を変えるまでに至っていた。

 

「……俺、アニスフィア様に決闘挑んでボッコボコにされて以来ずっとあの人の背中を追いかけていたんです。魔学とかも色々すげえことしてたから、この方こそ一番すげえ王族だって思ってた。──だから、どこかアルガルド様のことを軽んじてて、あの決闘結果もまぐれじゃねえのかって……その、ずっと失礼な態度取ってて本当に申し訳ありませんでした!」

 

正直、この場で首を刎ねられても仕方がないほどの不敬……何だかんだで真面目なガークはそのように捉えてすらいた。

しかし、当のアルガルドもガークの心境を察しているからか怒りの表情は一切見せない。

むしろ土下座しかねない行き過ぎた勢いに、苦笑しながらもフォローする姿勢だ。

 

「気にする必要はない、姉上ほどのまともな実績が俺には一切無いのも紛れもない事実だからな。ガークのように、姉上の方が上と考える者がいるのも至極当然のことだろう……玉座に立つことが俺にとって役が重いこと、これも百も承知のつもりだ」

「そこまでハッキリ言いながらも次期国王の座にいるのが逆に凄いと思いますよ……俺なら絶対に適任者に譲ってとっとと逃げ出すところです」

「かつては色々と自他共に雁字搦めだったが、今では才が無いなりの立ち回りを覚えたことが大きかったな。それに、今は愚弟の手助けという大義名分かつ俺にとっての踏み台もある」

「しれっと酷いことをあっさり言うんですね。でもその歯に衣着せぬって感じは何だかんだでアニスフィア様の弟なんだなと今思いました……マドラーシュ様も同じことが言えますけど」

 

結局のところ、王族次世代はきっちり姉弟関係であったということ。

そこを確認できただけでも、ガークはアルガルドに対する親近感は急上昇することとなる。

その上で彼の強さの根幹と言える、なりふり構わずの泥臭さに触れたらその胸の内のしこりがなくなるのは時間の問題とさえ言えた。

……そのタイミングを見計らって、背景に徹していたこの男は動き出す。

 

「折角援護したってのに、俺とアル兄さんをあの奇天烈姉上と一緒にするとはなかなか言ってくれるなあ、ガーク……いやここはガッくんか?」

「うわあああ!?気配消して忍び寄らないでくださいよマドラーシュ様!っていうか、貴方にそう呼ばれると何かアレだから止めてください!」

「愚弟、臣下を弄るのは感心しないぞ──そう呼びたくなるのも分からんでもないがな」

「ちょ、流石にアルガルド様までそう呼ぶのは無しにしてくださいよ!?」

「こらこら君たち、楽しそうにするのはいいけど現地調査であることを忘れてはダメだからな?」

 

一見するとただのじゃれ合いだが、そこそこに狙いがあってのこととオルタは気付いている……というか確信に至っている。

いくらアルガルドの腕前を信用しているとはいえ、自身の従者が勝手に持ち場から離れるなど本来なら説教ものなのだから。

変に口にするのは野暮以外の何物でもないので、唯一の二十代ということで、友の道化役に連なるように引率役に徹することとする。

王族2、専属侍女1、出張辺境騎士1、表冒険者裏異邦者1という急造もいいところのチームだが、何だかんだで纏まりは出来上がりつつあった。

 





というわけでマドラーシュサイド暗躍スタート。
とはいえ、かなり地道な作業の一つでしかありません。
かつて王国任務で大量に狩られたゴーストナイトのお供は久々のゲスト魔物。
ラストレムナント植物系のエープラント、そしてもう1体も同じく。
この辺りは結構不気味系なので、生態系違和感演出にはちょうどいいかと。
そしてアルガルドとガークの方で色々わだかまりが解けての仲良くなるという、なあにこれえ状態。
まあ、マドラーシュのやりたい放題胃薬側ということで仲間づくりマジ大事。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。