steamでソニックアドベンチャーDXと2が解禁されて買ってしまいました。
……ああ、また積みゲーが増えていく。
マドラーシュ達が王都に戻るや否や即座に向かったのは言うまでもなくグランナイツ会館である。
救助した少女を情報封鎖した上で確実に保護できるという条件が整っているので、当然と言えば当然。
マドラーシュ在住の離宮も候補には上がるが、こちらはアニスフィアとユフィリアが頻繁に出入りしていることがネックとなる。
裏の事情を知らない彼女たちに知られること自体がセキュリティホールとなりかねないが故の対処である。
無論、現時点で裏事情に巻き込まないための措置でもあるが。
ちなみに、オルタとプリシラは既に離宮の方に戻っているので、会館に向かっているのは残りの3人だ。
「にしても、ヴァンパイアって実在したんですね……何だか、俺なんかが踏み込んでいい領域なのかこれ」
「むしろ今の内に踏み込むべきだろう。ガークの同期とその仲間たちもウガルーという大物やカル渓谷のグリフォンと相対しているんだ、張り合うならばむしろ丁度いいくらいじゃないか?」
「アル兄さんだってその領域に踏み込んだのはつい1年前のことだ。誰でも最初は初めて、徐々に慣らして行けばいいってことよ」
これまで辺境騎士として魔物やならず者と相対してきたガークにとってはまさに未知の領域である。
実際、今回の調査でも他4人との経験の差を改めて実感していた。
マドラーシュの口から出てきた御伽噺の存在に対する恐怖も致し方のないものだろう。
そこで同情からの慰めだけでなく、あえて同期を引き合いに出して発破をかける辺りはグランナイツを師とする双子ならではか。
「まあ、アニスフィア様もドラゴンを討伐したって話ですからね……俺もヴァンパイアくらいでビビッてたらダメってことですか」
「俺についてこれるならば、飛行トカゲくらいなら単騎で狩れるよう仕上げてやるよ。ほれ、丁度ライバル達もご帰還のようだぜ?」
そんなこんなで秘密裏に帰還してきたマドラーシュ一行だが、今回は意外にも間が良い。
会館に入ると同時に、聞き慣れた声が耳に入り思わず気を緩めてしまう。
その中で真っ先に一行の帰還に気が付いたのは天才兼天災であった。
「あれれ、マッド達も今帰ってきたんだ!ウチらは1個イホウケンキュウジョをぶっ潰してきたけど、そっちはどうだったの?」
「こっちはヴァンパイアの工房を潰して一名被験者救助さ。──って、潰したってそのまんまの意味じゃねえよな?」
そうなると隠蔽工作が面倒になる。
主にラインヒルトの仕事が増えてしまうのだが、マドラーシュに皺寄せがこないとも限らない。
そんな空気を悟ったか否やキュイは慌てて首を横に振り出していた。
「いやいやいや、いくらウチでもコッソリやるって分かってるからそんなことしないって!」
「こらキュイ、しれっと嘘をつかないの。爆発オチを避けたかと思ったら今度は小火騒ぎだなんて、グレードを落とせばいいってものじゃないのよ?」
「むしろコイツが小火なんてどうやってやったんだよ……逆に凄くねえか?」
この奇天烈王女すらも上回りかねない問題児の言うことを素直に信じる者がどれほどいるのやらか。
ナマリエの証言通りならば、どちらにせよ隠密しきれていないことに変わりはないわけで……。
ラスの方に絡もうとするガーク、一旦腰を落ち着けているアルガルドは別の意味でのやりたい放題っぷりに唖然としてしまっている。
「でもやりたい放題っぷりって意味ではアンタも人のこと言えないじゃない。まーた外で女の子引っ掛けて……」
「コイツが救出した被験者だっての。男だったとしてもちゃんと助けたぞ俺は」
そもそもマドラーシュは良くも悪くも男女平等を掲げているところがある。
能力があれば性別関係なく起用する側面、そして気に入らないと判断した場合には異性でもまるで情け容赦を掛けない。
むしろ女の武器をこれぞとばかりに使う相手に対しては……なかなかの絶望を叩きつけて完膚なきまでに潰すほどでもある。
放浪癖であって放蕩癖ではない、これこそが破天荒でやりたい放題の真髄とも言えよう。
「マッドの場合はもはや星回りとかって話だよね……まあ大丈夫、ユフィリア様にバレたら俺も弁護するから!」
「嬉しいような悲しいような、微妙なところを突いてくるんじゃねえっての……」
「アンタの『どうしてこうなった』現象なんて今更よ」
ラスの言う通り、こればかりはもはや本人でもコントロールできることではない。
とはいえ、ナマリエの言う『自身の取った行動の影響範囲が想定以上に大きかった』という側面があるのも事実。
これぞまさにどうしようもないことだが、もはや本人も割り切っているところはある。
──そのやり口が強引で目晦まし気味ではあるので、いいか悪いかは別の話だが。
「何だ何だ、随分と珍しい顔ぶれが揃ってるな!全員、ラインヒルトが言ってた任務帰りといったところか?」
「カ、カルリッツ様!?も、申し訳ありませんすぐに持ち場に戻りますので!」
「ガーク、落ち着いてよ……実際任務帰りなんだし、カルリッツだってそこまで鬼じゃないってば」
「むしろグランナイツを前にして素でいられるお前らが羨ましいっての……」
いきなり響いてくる張りに張ったその大声は、この場の誰もが聞き覚えのあるものだった。
その巨体に見合う存在感と共に、グランナイツ内どころか騎士団屈指の屋台骨のご登場である。
唯一ガークのみがその迫力ある声に対して、反射的に姿勢を正してしまっている。
まあ、辺境騎士として出向してきている身だから致し方ないと言えよう。
他の面々にとってはカルリッツは近しい上司だったり父親分だったりなので、溢れる圧にも臆する理由は特に無いわけだが。
「おっと親父殿いいところに。ちょいと被験者を隠匿保護したいんだが、部屋って余ってるよな?」
「ああ、それくらいは問題ないが……連中の拠点で見つかったのか?」
「いや、それが驚きのロキソニンなことにヴァンパイアの工房を見つけちまってな。裏で連中とコイツの実験データで取引してたらしいぜ?なりふり構わずが加速してる感じで、ある意味では狙い通りだな」
「楽しそうに話すことじゃないと思うんだけど……要するにヴァンパイアも絡んでる可能性もあるってことなんだからさ」
とはいえ、徐々に馬脚を露しているのは立派な事実である。
むしろ裏で利易を分け合っているのがヴァンパイア……カンバス王国所属か否かに関係なく、そちらの方がまだ対処のしようがある。
マドラーシュとグランナイツ全員はそれ以上の脅威をも認知しており、よりそちらの介入を警戒していた。
ちなみに、この勢力について知っているのは他でも偉志ノ大陸組とヴィルジール率いる『V3社』、後はセラとプリシラのみ。
秘密主義が過ぎるのではと思うのだが、下手に公開範囲を広げようものなら混乱待ったなし。
そういう意味では、この勢力が殆ど波立たせにかからないことは救いとすら言える。
「そういえば、例の登城の件について伝言だ。もう明日ということらしい」
「想定以上にはええな……あの警告でよっぽど危機感持ってくれたのかね」
「わざわざ王妃様が直々に言伝を頼まれたくらいだ。ラインヒルトやデイジーにも確認を取ったとも聞くし……いい傾向じゃないではないか?」
全貌を伝えたわけではないが、それでも事態の深さを窺い知れるようくらいの解像度を含む忠告だ。
かつてのクーデターの生き残り云々の話も伝わっている可能性もあるだろう。
表向きは解消されているとはいえそこは友誼由来の主従関係、連携については今でも衰え知らずというところか。
「全く、これならもう少し早く共有しておけば良かったな?その良かれと思っての秘密主義、とても棚に上げられるものではないと思うぞ」
「あー……これに関してはアルガルド様の言う通りだね。俺たちにも話すのがちょっと遅かったくらいだし。お陰で色々とモヤモヤする時期も長かったからね」
「お前らについては万全を期して巻き込みたかったってだけなんだが……まあ、不安にさせちまったのは悪いと思ってるっての」
イグノックスやカルシオンからスパルタ的実戦教育などの厳しい部分だけでなく、クリスティーナやデイジーの気の回し方も出来なくはない。
これもまた北風と太陽なマドラーシュならではの動きではあるが、後者が強くなることもしばしばある。
要するに、何だかんだで身内に甘いのがこの破天荒ということだ。
「んじゃ、明日早いってんなら俺はコイツを寝かせたら帰る。今回の報告についてはアル兄さんに任せていいか?」
「むしろお前は大一番の化け物を狩ったんだ、さっさと休んでろ……ガーク、お前もついてきてくれるか?報告に抜けがあったらフォローを頼みたい」
「アルガルド様なら大丈夫な気もしますが、是非お供させて頂きますよ!」
どこかフランクにも見える打ち解け方だが、この場で誰も咎めることはなかった。
マドラーシュとしては兄についていく人間が増えることは望むところである。
今回はわだかまりを解消するべくガークを優先させたが、その内エイパとその護衛とも行動を共にさせるつもりだ。
その辺りはラインヒルトとデイジーとも話し合った上での共有事項となっている。
これまた一皮剥けた兄の様子にご満悦と言った笑みを浮かべながら、マドラーシュは静かに会館を後にした。
まあそんなわけで、珍しく若干の早引けってことで我が家に帰還である。
とりあえず、今回手に入れたヴァンパイアの魔石は速攻工房入りだ。
その内ティルティとも共有する必要あるんだろうなあ、これ……主に魅了能力方面で。
俺としては再生能力の強化が一番気にかかるところだがな……セリアードの回復能力が向上しそうだし。
何ならタンク役のラスやウィンに緊急回復能力を持たせられれば理想だが、こればかりはそっちの適性が関わってくるから如何しようがない。
「こらこら、帰ってきて早々工房に引き籠ってどうするのさ。あまり仕事熱心だとラスに怒られてしまうぞ?」
「いや、アイツも人の事言えない気がするんだが?」
いつものように魔石のイメージから思考の海に入ろうとしたところをオルタに止められてしまった。
普段はむしろ付き合ってくれるくらいなのに、何だか妙な感じがするな……。
その後も何かやたらと奇妙なスムーズさが続いて、僅かながらに違和感を抱えたまま過ごすことに。
セラとプリシラは確かに普通の侍女が遥か遠くに霞むくらいには仕事が早く正確であることに定評がある。
顕魂術の有無関係なしに優秀で、それを遺憾なく発揮しているだけなんだが……。
あまりに平穏っていうか、波風が立たなさ過ぎて……何というか逆に不気味なのだ。
双方共に普段ならばしれっと爆弾を放り込むぶっ飛び属性持ちだから猶更だ。
ただ、わざわざ聞き出すのも面倒だし……たまにはそういうのもいいかと俺も流していた。
そんなこんなで至って普通にやることが無くなり、さて睡眠学習かと自室へ戻ると……
「……随分と簡単な間違い探しだ」
まあ、気配を隠そうとするその努力は認めてやろう。
とはいえ、俺の感知は気配のみに留まらない。
隠密を意識しすぎて、逆に魔力を昂らせちまったら元も子もないってやつだ。
確か、陰の鬼志に入りたての隊士がよくやらかしてたっけなあ……いやはや懐かしい。
これぞ俗に言う『頭隠して尻隠さず』
やれやれ、ご令嬢が何やってんだか……。
「たまにはこっちで寝るってのも悪くねえか……というかそういう気分だうんそうしてやろう」
俗に言う『お客様用布団』というヤツだが、ベッドで寝る気分じゃねえって時はこうやって自分で使う時もある。
若干用意するのが面倒だという欠点こそあれど、きっちり俺好みにカスタマイズしてある優れものだからねえ……。
この間はオルタにこいつを使わせたが、それはもう面白いくらいに爆睡してやがったし。
寝ると嫌な夢ばかり見るからとあまり寝ないアイツがそうなるんだ、やはり色々とえげつない。
寒くなったら出られなくなりそうで怖いね。
……何か用意してる内に眠気が襲い掛かってきやがったな。
恐るべし我が第二の故郷が誇る代物、しかしこれなら快眠が約束され……なかった。
「何でそう捻くれたことばっかりするんですか貴方は。そこは空気を読んでおとなしく引っかかってくれるところでしょうに」
いつの間にか背後を取ってきた侵入者にいきなり襲い掛かられたのだから。
はい、一本釣り完了。
「って勢い余って噛み付いてくるなユフィ。おいバカ引きずり込むの止めろかくれんぼはお前の負けだおとなしく認めやがれ」
「え、次戦に持ち込んだだけでまだ負けていませんが?」
コイツ、キュイもびっくりなごり押し策に切り替えてきやがった……。
ああくそ、もしかしなくてもアイツらこうなるの分かってて平穏貫いてたのかよ。
くっそ、戦闘モードに入るわけにいかねえから膠着状態が続いちまうなこれ!
「どうせオルタに対抗してとかそんなところだろうが、やりすぎだこのスットコ!俺の部屋に入ってる時点で目標達成してんだ、そこで妥協しろよな!」
「絶対にやです。オルタが同部屋ならば、私は同じ床まで行かないと夜も眠れません」
「むしろ俺が寝られねえんだが!?」
駄目だこれ、梃子でも動かねえヤツだぞ。
これまででも一番タチの悪い奇襲に加えて、ここぞとばかりに強烈な駄々をこねやがって……。
恐るべし、オルタへの対抗心……アイツが何をしたと同情も抱くが。
まあ、それをオルタ本人に向けないのが唯一の救いってことにするしかない。
ここはアル兄さんよろしくな犠牲フライ、引きずり込まれるしかない。
じゃないとコイツ、何をしでかすか分からん。
「ったく、こんなことで白黒つけたがるんじゃねえよ……後、せめてもの俺の抵抗を無に帰すのだけは止めてもらえないか?」
「今回のことはオルタも手伝ってくれたのであやふやにはなっていますけどね。部屋の主がベッドから転げ落ちては元も子もございませんので、もっとこっちに寄ってください」
オルタのヤツ、しれっと面白がりながら自分の汚名返上に利用しやがった……。
まあいつまでも勘違いされてては俺も都合悪いし、それに関しては許してやるが。
……キュイとかナマリエにあることないこと言い触らしたらただじゃおかねえけど。
「何でそこまでくっつきたがるんだよ……もう誰かの婚約者とかそういう身ではないとはいえ、もうちょい弁えるべきじゃね?」
「……オルタにもそうですが、アルガルド様やラスにも後れを取りたくなかったんです。だからこそ多少強引にでも行ってしまえと助言を頂きました……クリスティーナから」
そしてこの暴走事件の真犯人、アンタだったのかよクリスティーナ姉さん!
確かにあの人なら絶対面白がって言いそうだ……。
自分のこと棚に上げてよくもまあ、今度カルシオン焚き付けて弄ってやる。
というか、オルタだけでなくアル兄さんとかラスにも対抗意識って……ああ、そういう洒落にならないようなことが原因じゃねえな。
アル兄さん、ラス、オルタって言ったら最近俺と近しい位置で暗躍している3人なわけで。
薄っすらとだが、空気に気付いたってところか?
「……明日のシアン男爵たちの登城の時、マッド様も同席なさると耳にしました」
出所はあえて聞かない、というかほぼデイジー師匠かラインヒルト先生なのは確定だろう。
母上がグランナイツ会館に来ていたのを見かけたからかもしれねえが、まあそこはどうでもいいか。
決定的なところではないが、そこも時間の問題かもしれねえな……。
「親子3人だけの面談の際に頼まれてな……まあ、その手のイベントに不慣れな姉上に対する保険ってのが主だろうがな」
「……本当にそれだけですか?マッド様がわざわざ動くなんて、他に何かあるように思えてならないのですが」
先回りするかのような思考だな……真面目に学習能力全開ときたか。
しかも煙に巻くのも苦労しそうな顔つきというおまけつき。
……こいつは、ある程度の部分は話さねえと開放してもらえそうにないな。
「レイニ嬢自身に国家乗っ取りとかそういう意図が無くとも、誰かが糸を引いている可能性……いや下手すれば、他国が扇動なんて可能性も有り得る。裏方が出張るには十分な理由だろ?」
「要するに、この国でシルフィーヌ王妃に次いで他国事情に明るいことと表向き動いていないからこその人選ということですね?決して無茶苦茶をしているというわけではないと」
「無茶かまして自分を無理やり捻じ込んだわけじゃねえってことだけは理解してくれればいい。ったく、そういう過保護は俺じゃなくて姉上に向けろっての」
「……確かにアニス様は何をしでかすか分からないところがありますが、マッド様に比べればまだマシですよ」
ええー、ぶっちゃけあちらの方がよっぽど危なっかしいだろうがよ。
この件だって、裏で絡んでいる可能性のある勢力を考慮したらぶっちゃけ手が余るほどだってのに。
だからこそ俺たちが裏で押し留められるところを受け持ってるわけなんだがな。
「婚約破棄扇動や黒竜由来の特殊スタンピード、顕魂術という新たな概念……裏事情を知れば知るほど、世界の動きが想像以上に目まぐるしいと嫌でも理解してしまいました。そんな中でマッド様は裏で動いていたわけですので……その、目の離した隙にどこか遠くへ消えてしまうのではないかと不安になるんです」
「遠くへ消えるって大げさな……確かにフラッとあっちこっち行くには行くが、それくらいだろうがよ」
「物理的な意味だけではありません。最近、私はおろかアニス様ですらも遠ざけかねない空気を醸し出すことが増えている気がしますし……」
おいおい、コイツは流石に想定外だぞ……。
感覚でしかないにしても、あの勘がいい姉上よりも深いところを視ることが出来てるとは。
んでもって、必然的にしっくり来なかった部分の答えも出てきてしまったわけで……。
「オルタ、アル兄さん、ラスに向けてる嫉妬ってそういうところか?」
「……この3人はその空気を意にも介さないどころか、まるで同調するようでした。私が知り得ないマッド様と対等の位置に立っていて……つまらない嫉妬だということは分かっていても、抑えられなくて」
素直でよろしいんだが……さて、こればかりは困ったぞ。
俺の想定以上にこのお嬢様の直感はだいぶ育っちまってる。
このままほっといても、かなり深いところまで勝手に辿り着いてしまう可能性すらある。
それならばいっそ全てゲロっちまった方が楽だろうよ。
だが、ここでまた俺が変な勝手を発動したらそれこそどうなるか分かったもんじゃねえのがな……。
……今は部分的に折れてやるのが限度だ。
「そういう妬みならしょうがねえんだが……白状させてもらうと、今はそれをどうこうしてやるのは無理な相談だ」
「……何かを隠している、ということはお認めになるんですね?」
「それもまだ機が熟していないだけ……いや、それも言い訳か。だが、お前を軽んじているのではなくむしろ気は遣ってるってのは分かって欲しいね」
タイミングが合わないってのは事実だからな。
とはいえ、連中が焦りを見せているからそう遠くはないかもしれねえし。
案外何かの拍子で全部バレるかもな。
まあ、その時はその時だ。
自分から見えない檻を壊そうとしている健気な友を妨げるとか、俺の辞書ではNGぶち込み安定だからね。
「……まあ、その秘密主義も今に始まったことではないので今はこれくらいにしておきます」
「……いいのかよ、更に追及しないで。これで国家転覆とか考えてたらどうするんだ?」
「色々裏でやっていたとしても、結果的には必ず良い方に転ばせてみせる……それこそが私の知るマッド様ですので。それに、どれだけ秘密主義を振りかざしても私はなりふり構わず辿り着くまでの事です」
まあ、オルタとかに対するコンプレックスを下手に拗らせるよりかはマシか。
下手するとアル兄さんみたいなことになりかねないし、それなら真正面から来てくれた方が俺としても対処しやすい。
無論、度が過ぎなければという条件付きだがな?
……さて、そろそろ抜け出せるか?
「……しれっと、真面目な空気に紛れて逃げようとしないでください」
「ちょ、おま……気付いてやがったのか」
「何度その手に引っかかってきたと思ってるのですか。これでも3年の付き合い、もうお見通しですとも」
どさくさに紛れて布団に逃走計画大失敗。
おのれ、変なところで学習しやがって……!
完全にロック決め込まれちまったから真面目に身動きとれねえぞこれ。
……ああこら、近い近い!
ついでに何か当たってる気がするから、感覚を無にしろクリアマインドの精神!
「これでオルタに完全勝利宣言を掲げられますからね……やりました」
「オルタは男、お前は女!そもそも同じベッドで横になってる時点で条件クリアなんだ、もうちょい慎みを持ってくれねえか!?」
「そんなものこの部屋に入った時点でどこかに捨てさせて頂きました。──やはり慌てふためくマッド様は可愛らしいですね」
「嬉しくもなんともねえわ、っていうか前から思ってたのかよそれ!」
まさかユフィに真面目な空気ぶっ飛ばされるとは思わんかったぞ……。
流石に睡眠時間0ってわけにもいかねえから、カイトの真似して何とか頭の中ひたすら心頭滅却モードだ。
ちなみに、そこからは互いにクールダウンしたのか口数はだいぶ減った。
……割とすぐに背中から静かな寝息が聞こえてきたくらいだし。
その規則的な寝息がこれまた俺の睡魔を刺激したのか、俺が意識を手放すのもそう長くとはかからなかった。
──偉志ノ大陸にいた時とはまた異なる居心地の良さを何故か感じながらな。
翌日、マドラーシュは夜が明けるか否やという程で起床する。
元々ショートスリーパー気味で、更に就寝時刻も普段より早いこともあり寝覚めは普段より良かった。
……他にも理由はあるのだが、それについてはあえて言及は必要ないだろう。
普段ならばここから朝食前に身体を動かすところなのだが、今回はすんなりとは行かなかった。
「……寝てる間ずっとこのままってのは、流石の俺も予測できなかったんですが?」
要するに、起きようにもなかなか起きられない状態ということだ。
いや、その気になれば無理やりってことも出来なくはないし最初はそうしようとすらした。
マドラーシュの身体操作術を以てすれば、ユフィリアを起こさずに抱き枕的拘束を解除することもそう難しくはないことなのだから。
が、相手は限定的に生物としての勘が冴えてきている暴走令嬢。
マドラーシュが離れる兆候を悟るや否や、夢の世界にいながらも現実の拘束を強める動きを見せていた。
この睡眠駄々っ子モード、その場でマドラーシュは命名した。
「──まさか引きずり回すわけにもいかねえし、どうしたもんかねこれは」
「そこは『このまま眺めているのもいいか』ですよ、マッド様。この安らかな寝顔に尊みを感じれば時間などあっという間……経験者として語らせて頂きます」
「ああそれはすっげえ説得力だねえ……真面目に俺の身支度準備してくれてる後輩を見習え、序列入れ替えるぞ」
もはや茶々を入れてくることも予想済みなのか、ツッコミすら簡略されてしまっている。
『昨晩は』で始まる定番のセリフが無いだけマシとすら思っている節もあったり。
第二の専属侍女は殊勝にも主の余裕ある行動を先読みしていたり。
流石と言うべきか、なんというべきか。
「未だ『完璧令嬢』と呼ばれているほどの御方が猫のように丸まって……何ともまあ可愛らしいことで。ではここでマッド様、抱き着かれたまま一晩を過ごした感想を一つお願いします」
「思ったよりはまともに眠れたので、抱き枕ってのは抱かれる側にも快眠効果を与えるんじゃないかという仮定が生まれたので後で実験してもらいたいな、以上」
「釣られる様にして安らぎを覚えた、と……これはクリスティーナ様に要報告ですね。僅かながらの進展があったということで」
「進展って何だよ……さて、狸寝入りはそこまでだユフィ。いい加減起きやがれ」
二人の専属侍女との漫才染みたやり取りをしながらも目を離さない辺りは流石……というべきなのは事実だろう。
実際は魔力の流れを感知すれば、その変化で起きているかどうかくらいは即座に分かってしまう。
それが狸寝入りの即看破の最大要因……無論、分かる者と分からない者が見事に別たれるやり方であるが。
「……もう少しだけいいじゃないですか。まだ時間には余裕がありそうですし」
「とっととその駄々っ子モードから復帰しろっての……ったく、まさかお前に朝の寝ぼけ癖が凄まじいなんて弱点があったなんて流石に驚いたわ」
「隙あらば逃走系放浪破天荒に言われたくありません……まあ、早め行動というのは正しいですし……ここは私が折れて差し上げますね……」
「寝ぼけてても上から目線は健在かよ……すっかりとまあ不敬っぷりが板についたもんで。──とりあえずセラ、この寝坊助お嬢様をまともな形に戻してくれ」
『その不敬っぷりはある意味心情的な距離が縮まった証では?』
……と、ハイパー主尊きタイムに突入した二人の専属侍女は同時に内心で呟いていた。
口調こそいつもの皮肉混在だが、気の許し方に僅かながらの変化があるのは確か。
とはいえ、一旦起床さえしてしまえば行動は早い二人である。
先ほどまでベッドの住人と化していたのが嘘であるかのように、テキパキと動いてはToDoリストを消化していく。
双方スイッチのオンオフがきっちりと為されており、その様子には朝から外出しようとしていたオルタも目を丸くしていた。
「あのマッドを相手にあそこまで攻め込むとは……ナマリエが見たらさぞかし恋愛小説脳を爆発させて、もはや夫婦だー何て騒ぎかねないね」
「面と向かってそう褒めれば、ユフィリア様からの疑惑は完全に晴れるのではないですか?それとも、今度はオルタ様が嫉妬なんて方向に展開するとか……?」
「まあ、兄貴分として嫉妬もなくは無いが……それ以上に安心したよ。最近のマッドは如何せん修羅になることが多くて少しばかり心配だったからね」
「後半部分は同調致しますが……オルタ様、そのような紛らわしいことを言うからユフィリア様からライバル視されるのですよ?」
流石に再度の同性愛疑惑は勘弁なのか、『それだけは勘弁願うよ』と言い残してオルタはそそくさとその場を後にした。
そんなことは露知らず、マストタスクをきっちりこなしきった結果時間にはそれなりに余裕は生まれることとなる。
ならばとユフィリアを本来の居場所に送還するということでアニスフィア側の離宮へと向かう二人。
時間が早めということ、また少し離れて同行するプリシラのちょっとした策により誰からも見咎められることは無い。
「偉志ノ大陸の意匠はよほどマッド様と相性がよろしいようですね……何度見ても見違えてしまいます」
「流石は俺の第二の故郷ってな。もうちょいあっちから仕入れたいところなんだが……」
「あの部屋の内装で分かっていたことなのですが……相当贔屓しているんですね」
昨晩初めて目の当たりにしたマドラーシュの私室を思い返し、ユフィリアは自然と苦笑を零していた。
実際、その内装の半分はまるで見たことのないものだったから。
偉志ノ大陸は和中韓が折衷ないし調和している文化圏で、対するパレッティア王国はバリバリの中世欧風……その違いは歴然である。
「その様子だと興味が湧いたってか?衣服なら王都でも東部でも独自手法で再現してるヤツも多いし、俺の伝手で見繕い依頼してやっても……」
「へえ、デートのご予定ってやつですかい!何ならもっと腕にシルバー巻くべきだね!」
流れをぶった切るかの如く、迷言と共に現れるのが奇天烈王女というもの。
マドラーシュはその気配というか魔力を、ユフィリアも何となく予感がしていたので双方驚きはしていない。
ちなみに、その格好は既にこの後の予定に準ずるものになっていた。
「もう近くまで来ていたんですね……アニス様、こんなところで油を売ったら折角の格好が台無しになってしまいますよ?」
「むしろそれが狙いなんじゃね?そして有耶無耶にして自分だけ同伴を避けるってプラン……汚いなさすが姉上きたない」
「それは確かに汚いやり口ですね……シルフィーヌ王妃樣に報告して、折檻して頂くべきでは?」
「ちょっと茶化しただけなのにいきなり言いがかりからのデッドエンド連鎖は酷くないかなあ!?そもそも与り知らないところで朝帰りしてきたユフィに言われたくないんですけど!」
あっという間に知られたらマズイ会話に様変わりである。
今もなお陰に控えるプリシラのファインプレーが無かったら何が起こっていたのか、もはや想像もしたくない有様。
無論この状況を想定しての同行ではあるので、こればかりは主従の先見の明が勝った形とも言えるわけだが……。
「で、ちょっとは精神的距離は縮まってるように見えなくもないけど……実際はどうだったのさユフィ」
「うわーこの第一王女本当に17歳か?その言動だけですっげえ年食ってるように見えるぞ……反面教師が増えるな、ちゃんと生かすんだぞ?」
「……流石に耳年増なんて属性はいりませんからね」
「ダメだ、勝てる気がしないから話題変えよう。──そういえばマッドくん、その格好はどうしたのさ。まさか今日こそは私の盾になってくれるとか!?」
普段より2割ほど増しの連携攻撃のキレの良さは、さしものアニスフィアも逃げの一手を取らざるを得ない程。
元々二人がかりで来られては勝機が薄かったところにシンクロ率アップと来れば、賢い判断と言える。
……そのお返しとばかりにマドラーシュの恰好から予定を推測しては反撃に出る辺りはどうなのだろうか。
「マドラーシュ様も登城に同伴するよう依頼があったのではないですか?そう何度も姫様の御守にお付き合いになるほど手が空いているとは思えませんし」
「今日ばっかりはイリアがいてくれないと困るからマジで助かったよ。何度も姉上のフォロー役なんて、それこそ俺の胃が潰れちまうからな」
「失礼な物言いはさておき、それってマッドくんまでシアン男爵令嬢と顔合わせするってことだよね。大丈夫なのそれ……?」
そう言いながらアニスフィアの視線はマドラーシュとユフィリアの二者を行き来している。
その内面には色々な懸念が渦巻いているのは言うまでもないことだろう。
何か隠しているようなところもあるが、アニスフィアから見たマドラーシュは軽薄な雰囲気に反してかなり義理堅い。
今回の件もぱっと見中立の立場に見せかけているが、心情的には完全にユフィリアの味方であろうとしているのは明白で。
その状態で公平な見極めが出来るのか……これについてはまだ万に一つの不安に過ぎない。
最大の不安材料は、原理こそ分からないが近づく者全てに好意を向けられるレイニの謎の特性だ。
勿論、このやりたい放題があっさりとナヴルのような状態になるとは思えないが……確実とは言い切れない。
そんなアニスフィアの曇り具合に対して、ユフィリアはそのポーカーフェイスをまるで崩す様子もなく口を開いた。
「アニス様が何を心配なさっているかは分かりますが……相手がこの人でなし系第二王子では流石に分が悪いと思いますよ?むしろ空気を読まずに自分から悪役を買って出てしまうのではないか、そちらが心配なくらいですね」
「嬉しい信頼をどうもありがとう。親愛なるユフィのご期待に沿えるよう役者を全うしてきてやるよ」
ユフィリア、まさかのマドラーシュに対する絶対信頼宣言であった。
しかもアルガルドが放つような皮肉を交える余裕っぷりもセットと来たものだ。
言われた当人も楽しそうな笑みと共に仰々しく返しており、ますます以て双子のやり取りに似通って見えてくる。
これまでも似たやり取りは何度もあったが……明らかに何かが強固になっているというか、距離感がより近しいものになっているというか。
姉としては大いに喜ぶべき場面なのだろうが、この時のアニスフィアはそうならなかった。
(少なくとも、また一つ壁を超えたって感じなんだろうけど……何かモヤモヤするなあ)
……未だにその不安が拭いきれないからか、それとも別の何かがあるのか。
とはいえ、今それを出すのは賢明でないことが分からない奇天烈王女ではない。
理由の分からない靄を無理やり振り切って、違和感のないように表情を取り繕った。
「……まあいっか!じゃあユフィ、悪いけど留守番は頼んだよ!あ、勿論私の方の離宮だからね!?」
「子供ではないのですからそれくらいは分かっています……朗報をお待ちしておりますね」
「……真顔で待ち構えて『間違えました』とか止めろよ?フリじゃねえからな?」
「マッドくん、それ言っちゃダメなやつだよ」
昨晩のようなことが何度もあったらとてもではないが身が持たないのは確かだ。
しかし、この発言は逆にやってくれという風にしか捉えられないだろう。
前世でもあったらしいネタが出てきたことで、微笑まし気にしつつ僅かな靄を振り払うことは出来ていた。
というわけでちょっと暴走ユフィリア3回目です。
対抗心全開で同衾って何してるんですかと。
お前ら何でそれでお付き合いしてねえんだよ!って言わんばかりのやり取り。
まあ状況が状況だからってのもあるんですけどね。
そういうもどかしい感じを書くのが楽しいってのもあったりします。
これでそれなりに庭を踏み荒らせましたが、それでもまだ足りないのです。
何だかんだで堅物なんですよこの主人公。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
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転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)