というわけでいよいよあのキャラご登場です。
そして遂にグランサガハード11章完走したんですが、やっぱツルギ戦で恍惚の夜は反則だと思うんですよ……。
BGM相乗効果が凄まじいからこそやってるところもあるんですよね。
王城に到着すると、この間と同じように侍女を先頭に案内される。
今回は話が通してあったのか、マッドくんへの奇異な視線は以前より少ないね。
ただ、全く無くなったわけじゃない……特に王宮仕え貴族からは何も変わってないわけで。
まあ、主な原因はマッドくんの立ち位置というよりは今の格好にある気もするんだけれども。
「これまた見事な和洋折衷で……よくもまあこんなデザイン仕立ててくれるところがあったものだね」
「現騎士団支援長がそういう趣味なもんでね。長い付き合いってこともあってだいぶ着せ替え人形させられたものさ……乗っからせてもらったところもあるけど」
「その見事な着こなしっぷりはマドラーシュ様ならでは、感服以外の言葉が浮かびませんね」
イリアの言う通り、まさにマッドくんならではの破天荒と高貴さ、更にちょっとした妖しさも含めた複合属性のオンパレードだ。
偉志ノ大陸が是と唱える『調和』をこれでもかというくらいに表現している、どこか贔屓すら窺える辺りもらしさ全開。
これまで生きてきた環境の影響か、素の容姿はアルくんより粗野の印象もあるけど……そこを逆に味にしてしまっている。
まあ、その強烈なまでの清濁ないし陰陽混合っぷりが一般的貴族からすると悪い意味で目を惹いちゃってるわけなんだけど。
対するマッドくんは『馬鹿め、それが常識に囚われているということだ』の一点張り。
何なら鼻で笑いながら蹴っ飛ばすくらいだからね……。
私としては前世のノリを感じるしカッコいいと思うけど、もう少し寄り添ってもいいのではとも思ってしまうわけで……複雑な心境というわけだ。
──っと、ファッション談義に集中してたら王族専用の控室がもう目の前だった。
中に入ると、優雅にお茶を啜って先に待機していた人物が一人……。
「無意識なんだろうが予測してれば阻止はなんてことないんだな、これが」
「姫様はもう少し学習能力というものを身に着けてください」
……踵を返そうとするのをものの見事に防がれてしまった。
だってしょうがないでしょ、部屋に入ったと思ったら心の準備もなしに母上がいらっしゃるんだよ!?
マッドくんだっていきなりクリスティーナとかデイジーがいたら……いや、普通に平気なんだろうなあ……。
「シルフィーヌ王妃様、ご無沙汰しております。そして早々に騒がしくしてしまい申し訳ございません」
「毎度苦労をかける娘を上手く制御してくれてるのだから、むしろこちらが申し訳ないくらいよ……イリアには感謝が絶えないわ」
「恐縮至極なお言葉、痛み入ります」
「そしてマドラーシュ、先日の魔物分布調査は本当にお疲れ様でした。連日でこのようなことになってしまったのは心苦しいですが……」
「どうかお気になさらず。むしろ色々と冷却措置になりますので」
流石はマッドくんのスイッチのオンオフがきっちりしてる。
仮面をつけている、とかこの間言ってたけど……もはやその役にすらなりきっている、演じ切っているという感じだ。
これもまたグランナイツの教えの賜物なのか、それとも素なのか。
「これでアニスも手がかからないようになれば、私も安心して引退出来るのですが……まだまだ先は長そうですね」
「え、母上って引退する気あったんですか!?」
「いやむしろ生涯現役を強いる気だったのか?随分とひどい娘もいたもんだなおい……」
いや、そういうわけじゃないけどね!?
それは悪意ある言いがかりってやつじゃないかなマッドくん。
相変わらずキレッキレで何よりだけどさ!
引退するイメージがつかないってだけで、別に現世代を使い倒すとかそういうわけじゃあ……。
ああもう、母上の目がちょっと吊り上がってて既に怖いんだけど!
「世代交代というものは常に付き物、それは私たちとて例外はありません。いつまでも居座っていては後進の成長を妨げてしまいますからね……それに私もいい加減若くありませんから」
「そこは俺としても耳が痛い話だな……レオン先生やらラインヒルト先生にはまだまだ頼りっきりだし、いい加減楽させてやりたいものだけどそうそう上手く行かなくて歯痒い毎日さ」
「それは母上含めみんな年甲斐もなく若々しく健在だからこそで、マッドくんはよくやってるしそういうこと言わなくてもいいような……」
グランロードにはまだ会ったことないけど、その妹やラインヒルトを見てれば大体想像つくんだよね……。
特にデイジーは母上より少し年上なのにまだまだマッドくんをしばけるって話だし。
何というか、その世代交代を阻んでいるのは現世代そのものな気がするような?
「未来を気遣うマドラーシュとは打って変わって、アニスは私はまだまだやれると認識してくれていると。それはとても光栄なことね……久しぶりに稽古をつけたくなるくらいには」
「そういうことならいっそもう合同でどうだ?アル兄さん含め次世代を叩き上げる場ってことにしちまえば一石二鳥……いや、それ以上になるし」
ひぃ!またもや藪蛇やらかしてしまったー!
それとマッドくん、私が引き起こした小火を山火事レベルにするの止めようか!
何ならラスくんとかまで呼び出しての混沌稽古なんてやりかねない空気だしさ!
「申し訳ございません、色々と甘えてました!これからはちゃんと世代交代を意識して行動していきます!」
「全く、もう少し考えてから発言なさい。王位継承権は未だ第二位とはいえ、その言動一つで大きく事態を揺るがす可能性がある……それが王族というものなのですから」
それなら最初から王族として殆ど扱われなかったマッドくんは……いや、これは口にしては絶対にダメだ。
踏んではいけない地雷だってことくらい、私にだって分かるよ。
マッドくんは全く気にしないと思うけど……苦肉の策としてそうせざるを得なかった母上と父上のことを考えたらね。
「それでアニス、貴方の勘は今回の件についてどのように告げておりますか?」
「……シアン男爵令嬢が何かを企んでいる可能性は限りなく低いのではないかと。彼女自身が何かを抱え込んでいる可能性は否定できませんが」
これはマッドくんとユフィ、アルくんと話し合ったからこそ出た結論だけどね。
まあ、この場を代表して言うのが私の役目ということで。
「母上は今回の件、どのようにお考えなのですか?」
「この場だから打ち明けてしまいますが……実は私たちも色々と用心を重ねているのです。最近の情勢を考慮した上で考え得る謀の範囲は、それこそ膨大ですからね」
だから最近グランナイツがきっぱり王都残留組と外出組で分かれていたのか……。
フットワークの軽さはマッドくんからよく聞いたけど、まさか裏でそんなことまでしていたとは。
そういえば、さっきマッドくんは魔物の生態調査に行ってきたって言ってたけど……それも隠れ蓑だったりするのか?
まあ、今は深く突っ込むようなことはしない方がいいね。
「今回アニスを同席させたのは私たちの備えとは異なる側面を炙り出せる可能性を期待してのことです。貴女は常人では易々と辿り着かない発想にあっさりと辿り着く傾向にありますからね」
うん、想定以上に役割が重いけど……信頼あってのことだということも伝わってくるね。
普段からお小言やお説教だらけな母上だが、私の勘については大いに買ってもらえている。
傍から聞けば突拍子もないことでも、幾度か解決に導いたという実績から信頼しているとのことだ。
まあ、その大体が前世の知識から着想を得たことでしかないんだけども……それでも役に立って、信じてもらえるならばこれ以上に嬉しいことは無い。
だから、私は母上を苦手としていても決して嫌いというわけではない。
むしろ大いに慕っているし、困っているならば力になりたい……血の繋がった家族だから当たり前なんだけどね。
「そして、今回のマドラーシュはアニスの補佐役です。この手の経験を多く踏んだその実績は揺るぎないもの……貴方の勘をより確実に実らせるためにも、その力を存分に使いなさい」
「まあ俺も邪魔にならない程度の自発的補助はさせてもらうけどな。舵取りは任せておけ」
そうだ、マッドくんは表立って動けないからそうせざるを得ないんだった。
今回の一件は下手すれば国すら揺るがす事態……そんな中にマッドくんを下手に絡ませたら、それこそ火に油だ。
表に出てしまった私とは違って、まだ陰で燻らないといけない……だからこその使いよう。
うう、王族として必要なことなのは分かっているけど可愛い弟をこき使うのは複雑な心境だ……。
「何か少しでも違和感があったらすぐに私かオルファンスに伝えること。決して先走ってはならぬよう……マドラーシュも改めて心がけるようにしてくださいね?」
「まあ、今回はきっちりサブに徹するから突っ走る要素も無いんだがね……久しぶりのお小言、ありがたく頂戴いたしますよっと」
「マッドくん、お小言じゃなくてご忠言!何でそんな言い回ししちゃうのさ!」
そんなんだからグランツ公みたいなタイプと自然に火花散らしちゃうんだってば!
ハッキリものを言うのは確かに大事かもしれないけど、オブラートってものも大事にしないとだって。
って母上も、そこは苦笑で流すところじゃないと思いますよ!?
やっぱりこの問題児な末弟はちゃんと躾けないとダメみたいだ、過労死しない程度にこき使ってやろうじゃない!
その後丁度父上からの呼び出しがあり、イリアを控室に残して謁見の間に詰める。
中には騎士団長も含む、父上の腹心と言える騎士が何名も控えていた。
流石にグランナイツは誰一人としていないようだけど……流石にオーバースペック過ぎるからね。
既に場の空気も整えられているようだし……ここはちゃんと倣わないと。
いつも以上に姿勢を意識しないと……顎はきっちりと引いて、背筋も伸ばす。
……横目でマッドくんを見てみるが、こちらは何の心配もいらなさそうだ。
そこそこ高い身長やその衣装、そしてグランナイツ仕込みであろう姿勢も相まって普段は無縁な王族らしさがこれでもかというほど出てきている。
(……やっぱりズルいなあ)
姉としては鼻を高くするべきなのかもしれない。
勿論、普段からむしろ王位なんて面倒って思ってるマッドくんにとっては不本意なことなのは分かってる。
不平をぶつけるなんてとてもお門違い……そう分かっていても、ちょっとだけ黒い感情は出てきてしまう。
……不本意を軽く飲み込んで、それをあっさりと成し遂げてしまう辺りがね。
でも、さっきも言った通りマッドくんは陰に生きなければならないわけで……。
──ああダメだ、マッドくんにばかり意識が行っていたら姿勢が乱れかねないしこれくらいにしよう。
丁度、今回の主役である二人の人物がこの謁見の間に入ってきたところのようだからね。
一人はがっしりとした体躯をした、貴族風の恰好が少々窮屈に見える大男……シアン男爵だ。
なるほど、確かに元冒険者と言われても納得の風貌だ。
そんなシアン男爵の一歩後ろを歩くのが、あの場でユフィを糾弾していた3人に囲われていたレイニ・シアン男爵令嬢。
こちらは父親と対比するように華奢で、儚い印象と少々ばかりの影を思わせる雰囲気ですっかり薄幸の美少女という言葉がぴったりだ。
……ナヴル君の言った通り、容姿だけでも十分人を惹き付けるだけのものはあるね。
うう、猶更マッドくんが心配になってきた……かつてのアルくんと同じようにならないといいんだけど。
クリスティーナやユフィで会得したであろうその手の耐性の働きに期待ってところだけど……あの辺りとはまるで違ったタイプだからなあ。
「シアン男爵、並びにその娘レイニよ……よくぞ参られた。──面を上げよ、発言を許可する」
「この度は我が不肖の娘が大変なご無礼を働いてしまい……どうか、どうかご寛恕を!」
事が事だからか、冒頭からシアン男爵は恐縮しっぱなしで気の毒にすら思えてくる。
その風貌に違わなずに声を張り上げ、もはや土下座しかねない勢いだ。
でも、ここは同情は内面だけに留めておかなければならない。
あくまで私は見極める立場なのだから。
何とか平穏を保って、今は状況をきっちり見守らないと。
「この場はあくまで真実を詳らかにするために設けられた場に過ぎない。何も分からないまま誰かを責めるなど以ての外であろう?まずは気を楽にせよ」
「……はっ、お見苦しいところを大変失礼致しました。陛下のお言葉、大変染み入りますことと存じます」
まあシアン男爵としても辛い立場だから、正直この様子はどうしようもないよね。
正直、たったこれだけでも彼自身は白認定してもいいのではないかと思うくらいだ。
これでもし、腹に何かを含むようだったら相当な役者ということになってしまう。
……マッドくんの様子をものすっごく見たいところだけど、ここはまだ我慢としよう。
「アルガルドとユフィリアの関係は、1年前まではまるで進展が見られず上手く行っていなかった……その折にアルガルドは困っているレイニに手を差し伸べ、情を交わす関係になりかけたが、アニスフィアの取りなしで目を覚まして踏み止まったと聞いている」
「確かにレイニに対する教育は完全に行き届いておらず、アルガルド様の手を煩わせてしまったところはございます。情を交わすなど立場を考えたら以ての外でございます。妾ならまだしも、本来の婚約者を押し退けてまでのことは……」
「そうなると、1年越しで何故婚約破棄の扇動という不可解な事件が起こったのか。あの場に居合わせた者の大半がそこにいるレイニに同情的で対するユフィリアには強弱はあっても批判的意見ばかりだった……これは覆しようのない事実だ」
「そ、それは……」
うーん、シアン男爵は本当に何も知らない可能性が高そうだ。
子供への教育が行き届いていないとかそういう説もイマイチ考えづらいんだよね……。
……もしかして、アレがカギになるってこと?
マッドくんとアルくんは何も言わずに示し合わせ、ユフィも薄っすらと感じ取っていたレイニ嬢自身が抱えているもの。
それこそが、この疑念の大半ないし全てを解決してしまうようなブレイクスルーになるのだろうか。
父上もこのままでは埒が明かないと判断したのか、レイニ嬢へと視線を移していた。
もうそれしか無いけど、果たして何か進展が……またはどんな大蛇が現れるのやらかだ。
「レイニ・シアン、面を上げよ──発言を許す」
……その表情はまるで感情の色が見えなかった。
消えてしまいそうな儚さは変わらないのだが、徹底的に虚無を流し込んだような……。
──精巧に出来た人形だと言われたとしても、思わず信じてしまいそうなほどだ。
「率直に問うが、其方はアルガルドと情を交えるような関係を望んでおったのか?」
「……いいえ、滅相もございません」
たった一声のはずなのに、まるでこの場を支配されかねないような錯覚に陥った。
それほどまでにその声は澄み渡っており、あまりに綺麗すぎて己が耳を一度は疑ってしまう。
「アルガルド様のことを好ましいとは思っていない、と言えば嘘にはなります。ですがそれはとても我が身に余ること……王国を暗澹とさせるなど、そのようなつもりは全くございません」
──その後は暫く沈黙が続いた。
レイニ嬢の瞳を伏せる仕草や僅かに息をつく際の唇の動き、そして朗々と語る声に誰もが魅入られていたからだろう。
その空気を最初に破ったのは、気を取り直して肩を跳ねさせた父上の咳払いだった。
「──そうか、其方の言葉には嘘はないようだ」
父上のこの言葉を皮切りに、一気に場は穏やかな空気に包まれた。
え、さっきまでの物騒な空気はどこぞに?
この状況変化、気持ち悪いというか薄気味悪いような……。
皆がレイニ嬢の言い分を正しいと思っているけど、私にとっては違和感だらけだ。
事前に身構えていたことが幸いだったかもしれないけど。
この隠れた緊急事態、彼女自身が発する空気だけでは説明が付かない気がする。
そんな感じで思考の海に少々沈もうとした、その時だった。
(痛っ……それに、何か熱い!)
唐突に背中に電流が流れ、直後とんでもない熱まで襲い掛かってきた。
その熱は強制的に体温を引き上げ、全身がむず痒くなってしまう。
ヤバイ、これやらかすかも……!
しかし、身体の基本的な反応には抗うことは出来ない……っ!?
「──
……その声と共に、熱はあっさりと引いた。
吸い取られるような感覚句と共に、俗に言う寒暖差アレルギーが即座に収束していく。
それと共に発せられたのは、得体の知れない気配……殺気とも言えるものだろうか。
謁見の間全体に漂っていた、作られたような気持ち悪い穏やかな空気は『クソくらえ』と言わんばかりに吹き飛ばされた。
一体どこからその気配が発せられたのか、先ほどの空気に浸かっていた者は誰も分かっていない。
すなわち、その犯人を知っているのは私だけ。
「気持ち悪い空気はとっとと換気するもんだろ?」
周囲が突然起こった謎の空気に慄いているせいか、その声は私にしか聞こえていないようだ。
──いや、そのようにあえて発したのかもしれない。
っていうか、さっきまで私もいるってことを忘れていたんだけど……それすらも計算の内だったりするのだろうか。
ああ、今はその悪戯が成功したような笑みが何よりも頼もしく感じてしまう。
何から何までどのようなトリックかは分からないが……一つだけ、分かった。
この可愛い末弟のやりたい放題は、もはや逃れられない性なんだろうね。
実の姉以外は何が起こったかは分からずの状態の中、マドラーシュはただ一人静かに笑みを浮かべていた。
姉への道を作り出せたことへの満足感もそうだが、約1年越しでの証明を完了したことへの喜びが大半を占めている。
それは、つい先日発覚したことへの裏付けにも繋がっていたのだから。
(互いが互いをトラップと思っていたが、あちらの誤算は姉上という変数だろうよ)
マドラーシュは知っている、アニスフィアの中にいるモノを。
元々やらかしているんじゃないかと思っていたが、ケルビムとして視た時に事実として確信していた。
今回の登城に姉が同席することを渋らず、シルフィーヌの言うようにもしもの時の補佐役に甘んじたのもそれが理由なのだから。
ここまでの運びについては、マドラーシュにとってはほぼ想定から外れていない。
正直、アニスフィアから『そいつ』の瞬間的な魔力の奔流の兆候を感知した時も放置しても支障はなかった。
マドラーシュの見立てでは、せいぜい急な体温上昇によるクシャミが発生するくらいで……いい具合で場を白けさせることが出来ただろうから。
ならば何故そうしなかったのか。
それは、この謁見の間に密かに仕掛けられているブツに干渉したかったから。
(これで一端でしかないのだからな……恐るべきは黒龍だな)
一言で言うなれば、マドラーシュはその魔力を密かに拝借した。
事前展開しておいた即興版『トリーズン・ディスチャージ』で吸い取り、威力を弱めて隠密性且つ指標性を定めた『フル・ダークネス・バースト』による拡散。
アニスフィアが感じた殺気は後者のもの。
それはまさに黒龍の威光の残滓、末端とはいえ、界を滅ぼすほどの異端から湧き出る荒波だ。
当然、大体の生物の異能など塵芥に等しい扱いとなる。
その殺気と共にドラゴンの魔力を件の物にぶつけ、密かに機能停止に追い込んでいる。
まさに一石二鳥の即興、これを姉以外に自分がやったと悟らせない辺りが猶の事末恐ろしいことこの上ない。
そもそも、気配を周囲の空気にきっちり同調させているのでアニスフィア以外は彼がここにいることをほぼ忘れていることだろう。
──否、謁見の間に入場した時から血の繋がった家族以外からは認識されていなかったりもする。
隠密ながらの大胆不敵、調和の精神を持ちながらの破天荒な在り方そのものであった。
(母上のアシストもあって軒並みゴリ押せそうだな……あの肥えた掃き溜め以外は)
破天荒が耳を傾けている限りでは、姉は可能な限りの人払いを要請しているところだ。
理由は、レイニの持つ異能の影響を可能な限り減らすためだろう。
現に、マドラーシュとアニスフィア以外は『レイニの言うことは全て正しい』と言わんばかりの思考に向かわされていた。
密かに仕掛けられたものは停止に追い込んでいるので、婚約破棄扇動の時のような再現はあり得ない。
それでもレイニが発現する度に同じことの繰り返しは何かと支障が出ることに変わりはない。
何よりもマドラーシュとしては二回目以降はいちいち換気がてらの行為をするつもりなど欠片もないのだ。
正直、1回貰ったのならば2回目以降は学習して耐性を得てくれとすら思っているほど。
無論、アニスフィアはそんなある種血も涙もないことは考えてはいない。
単純にまともな質疑応答にならないからこその提言なのだろう。
アニスフィアの強気な言い回しにシルフィーヌが何かを感じ取り、オルファンスに提言することでこちらも味方につける。
結果、アニスフィアに対して渋い視線を向ける者たちも否応なく従わざるを得ない空気を作り出すことは出来た。
唯一、シアン男爵は心配の余り娘に起こり得ることを最悪の方向で捉えてばかりで懇願の嵐だ。
無論アニスフィアとしても危害を加えるつもりは毛頭ないので、何とか信用してもらえないかと宥めようと説得するが、なかなか納得はしてもらえない模様。
そこにしめたとばかりに同調するのが、この場における最も面倒な存在だった。
「アニスフィア王女殿下、些か急な申し出が過ぎるのではございませんか?か弱き令嬢を人払いしてまで問い質すなど、シアン男爵があれこれ恐れを抱くのも当然のことでしょう」
シャルトルーズ伯爵、魔法省の長官にして王家の相談役の立ち位置にいる大物である。
アニスフィアとマドラーシュ、双方にとって不倶戴天の仇と言える。
前者に至っては表立って魔学と精霊信仰という水と油による対立で、至ってわかりやすいものだ。
当のアニスフィアも、自分が発言する上で障害になり得ることは承知していた。
端から聞けば御尤もな反論だが、ここは引いてはいけないところ。
そう思い、更なる反論を口にしようとするが……横やりを入れられることとなった。
「言うに事欠いて片方を徹底擁護……しかもその対象がこのような麗しき令嬢とは、随分と怪しく見えるぞシャルトルーズ伯爵。その様で相談役とはよくもまあ……一度鏡で自身を見直してはどうだ?」
少し聞けば分かるであろう、まさに爆薬投下というとんでもない横やりだ。
実行犯は彼女の隣に立つ裏でやりたい放題の凶悪破天荒であることは言うまでもないことだろう。
「マ、マドラーシュ……王子殿下。何故貴殿がここに!?」
「そもそも誰も気づかないとは、これまた随分とたるんでいるようで。放浪癖から来る経験を買われ、こうして我が姉アニスフィアの補佐として立っていた……それだけのこと。いい感じで肥えては均衡すらまともに保てない者よりもよほど中立でいるつもりだ」
シャルトルーズ伯爵の驚愕っぷりはこの場の大半にも共通するところだった。
何せ、これまでいなかったはずの放浪第二王子が唐突に第一王女の隣で気配を醸し出したのだから。
とはいえ、マドラーシュの気配同調はそれこそ察知できる人間は相当に限られてくる。
今回の程度ならば、グランナイツと彼自身の特別近衛騎士たちは勿論、アルガルド、偉志ノ大陸の友人たちも気付くことはできる。
専属侍女2名は言うに及ばず、その手の感覚が急速に養われかつ重めの感情を抱いているユフィリアも行けるほどだ。
そんな周りに囲まれているからこそ、苦言を呈すのも無理はない。
些か理不尽に感じるところもあるが、その場に詰めている騎士たちは己の修練不足を恥じているところだ。
──なお、オルファンスも思わず忘れかけていたのはこの場ではほぼ誰も認知していないのが幸いだったろうか。
唯一その些細なやらかしに気付いたシルフィーヌから軽い肘を貰っているので、まあ置いておいても問題はない。
「先ほども申した通り、アニスフィア王女殿下の申し出は急速かつ強引なもので……」
「この場においてそのような綺麗事は隠れ蓑になるから無視させてもらう。先ほどは私とアニスフィア以外の者はレイニ嬢に問答無用で同調の意識を抱いていた……この時点で公平も何もあったものではない。レイニ嬢の発言は至って当たり障りが無いが故に破綻してはいない、ただそれだけ……彼女自身を信ずるには到底足りない。そのように我が姉も同じように捉え、だからこそ雑音を取っ払おうという話に過ぎない」
「……貴殿は我々を雑音と捉えていると?その言い分を辿ると、お二方はシアン男爵令嬢に嫌疑をかけておられるようにお見受けしますが」
「我ら二人は真実を見極めるためにここに立っている。常に疑念を抱えていなければ到底出来ないだろうよ」
綺麗事を重ねては姉弟を静かに糾弾するシャルトルーズ伯爵に対し、マドラーシュは正邪混ざるが故の的確な正論を返す。
真相を見極める、それはすなわちあらゆる分岐においては慎重を期さなければならないということ。
あらゆるところで疑いの根を張らなければ、間違った枝にたどり着くのは必然なのだから。
そして、その正論の中に相当な皮肉が言外に込められている。
……気が付いたのはアニスフィアのみであったが。
早い話が、『疑念を捨て去ったお前らはただの脳死の塵芥未満。だからすっこんでろ』という強烈な煽り文句である。
「それに、先ほどの状況の焼き直しはレイニ嬢……更にはシアン男爵の立場すらも危うくしかねない。我が姉の提言は彼女たちへのいらぬ嫌疑を晴らすための措置も含まれている……でよろしいか、姉上」
「人の耳はどこから何が入るか分かったものではありませんので。そこから下手な形で衆目に晒されようなら、最悪の未来すら考えられます。王族として、か弱き者にその災いと言える未来絵図の責を押し付けるつもりなど毛頭ございませんので」
まさか自分に振られるとは思ってもみなかったが、そこは奇天烈と破天荒の謎同調でどうにか繋ぐことは出来た。
最悪の未来というのは誇張表現ではあるが、あながち嘘とも言いきれない面もある……アニスフィアはそう判断していた。
仮にマドラーシュとアニスフィアがこの場におらず、あの空気のままで謁見を終えてしまったら?
傍から見れば異質極まりない状況をこの場の誰かの口からうっかり出て広まってしまったら?
それこそ、婚約破棄扇動など生温いほどの、国を真っ二つにしかねない亀裂が生じることだろう。
更に言うなら、アニスフィアはこの時マドラーシュとアルガルド、更にユフィリアが発していた言葉をきっちり理解していたことも大きい。
直に本人の姿を目の当たりにして、その『虚無』の本質を少しでも垣間見ることが出来たのだから。
「アニスフィア王女殿下に加え、マドラーシュ王子殿下までここまで仰るのだ。引き際を弁えるべきだと思いますぞ、シャルトルーズ伯爵」
それでもなお食い下がらんとするシャルトルーズ伯に待ったをかけるのはグランツ。
アニスフィアだけでなくマドラーシュの名前まで出している辺り、二人のぱっと見の不仲っぷりを知るアニスフィアは意外そうに目を丸くしていた。
当のマドラーシュは特に表情に出していない……否、ほんの僅かに口端を緩めていたくらいか。
グランツも一瞬マドラーシュに目を向けるが、心なしか普段よりも視線が和らいでいる。
(ユフィ的には嬉しい誤算かもだけど、この二人の仲がよく分からない……)
そもそも、普段は軽口まみれでいらん所で敵を作る印象にある末弟の人物関係図の全貌が分かりづらいというべきか。
さて、貴族側の筆頭である公爵に止められてはさしものシャルトルーズ伯爵もこれ以上粘ることは敵わず。
そこからオルファンスが締めくくり、護衛の騎士に王宮詰めの貴族は次々と一礼をして去っていく。
シャルトルーズ伯爵は挨拶すらもせず、ただ忌々し気にマドラーシュを睨みながら謁見の間を後にした。
「アニスフィア王女殿下、並びにマドラーシュ王子殿下!私も同席させて頂きたく……!」
そんな中、シアン男爵は最後まで残り、せめて娘に同伴をと懇願を連ねる。
少なくとも、アニスフィアの中では例外として許可を出したい衝動に駆られているところで、効果はそれなりだ。
しかし、ここまで来てしまったら不安要素は徹底的に排除しなければならない。
王族としての義務感を何とか駆り出すことで、アニスフィアは何とか首を横に振ることが出来た。
「先ほども言った通りこれは御息女や男爵自身をあらぬ疑いから守るための措置で、公平に徹しないといけないところです。どうかここは私たちを信じて待ってもらえないでしょうか」
「まあ、俺らのようなお子様に大事な娘を任せるなんて当然不安だろうよ。だが、ここは珍しく王族っぽいことをしてる姉上の顔を立てて従って欲しい。この同性愛宣言かました愚姉がどうしても心配というなら首輪でも付けさせますし、それでも何かしようもんなら地獄ハリセン殺法かましますんでそこのところはご安心いただければと」
「待ったマッドくん、何で私がやらかす前提なの!?それと、父上に母上も何故同調するように頷いてるんですか!」
主だった顔ぶれがいなくなったからか、マドラーシュは既に王族モードを取り払った素の状態に戻している。
その上で部分同調をかましながらも、奇妙な空気を実姉の評判を蒸し返す形で振り払わんと努めた。
滅茶苦茶なノリで空気の取り払われる様を目の当たりにしたもう一組の親子が唖然としたのは、まあ言うまでもないことだろう。
そんな空気が形成されかける中で、マドラーシュは再度真面目な表情で二人に言葉をかける。
「それにシアン男爵がどれだけ無実を訴えようと、真相とその経緯を明らかにしなければその思いは簡単に踏みにじられることになる。先ほども言ったことだが、俺と姉上以外が全員あの空気を作り出す人員にさせられたという事実は正直かなりの劇薬で、国をも揺らしかねない危険因子だ。もう御息女は舞台に上げられてしまった、この事実は変えられない」
「そう、先ほどは改めて問い質すという体で話してしまいましたがその実態は保護のようなもの。だから先ほどこの愚弟が言っていたことは断じてありませんよ!」
いつの間にか漫才から戻ってきたのか、アニスフィアも説得に乱入した。
しれっとアルガルドのようなノリで呼んでいるが、ただの売り言葉に買い言葉なのでマドラーシュはスルーすることに。
そして、二人で巻き起こった漫才の流れの中にある『保護』という言葉とその真意をシアン男爵は理解し……彼も決断を下すこととなった。
「──正直、不安な部分はまだございます。ですが、実の親である私でも目に余る事態とのことならば……お二方に託したい」
「悪かったな、王族とはいえ娘と同い年ほどの者が色々口出ししてしまって……本来なら、臣下とは言え家庭事情などに首を突っ込むなどこの上なく野暮なことだがな」
「いえ、お二方……特にマドラーシュ王子殿下のお言葉で多少は冷静さを取り戻せました。東部を纏め上げた裏の功労者の御言葉を聞かぬなど、それこそ不敬且つ罰当たりでございましょう」
元冒険者であったシアン男爵にとっては、王国東部それも奥地は未知の魔物が蔓延り、治安も悪い魔境だ。
それを独特な手腕で纏め上げたという話を最初聞いた時は眉唾ものと疑ったものだが、いくつも情報が上がる中で信じざるを得なかった。
そんな中で、その功績を挙げた第二王子と直に接触して……その人となりを知ることが出来たのは相当な好機と言えただろう。
災い転じてとまでは行かずとも、自身たちを取り巻く状況を知り渦中にいる娘を少しでも安全なところに置くことが出来たのだから。
そんな父親の背中を見てか、レイニの表情からは相変わらずの緊張こそあれ、恐怖で顔を青くしているようなことは見受けられない。
むしろその視線の先にいる、相変わらず姉弟漫才に興じるマドラーシュとアニスフィアの姿に戸惑いの色の方が強く見えた。
コイツ戦闘以外でもしれっとやりたい放題かますなーって?
まあそういう能力をとにかく備えて鍛えてなバケモノが故仕方なし。
これで王族モードとやりたい放題モードの使い分けが利くんだから、グランナイツの教育ってどんだけなんだよと。
しれっと書かれていますが、原作冒頭の本作バージョンで施されていた仕掛けがまた為されているのを今度は直接ぶっ潰しています。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
-
転天キャラでのNLとか他絡みを所望
-
グランサガの二次がレアすぎて
-
バトルハードモードに釣られた
-
ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
-
その他(そもそもの作風とか)