ううむ、なかなかストック執筆が進みません。
かなり大事な部分だから慎重にやってるのですが、こっちのアップにも影響出るかも……。
レイニ嬢の離宮入りは秘密裏に行われるが故に少々ばかり時間がかかるだろう。
俺の方からも人員を割ければ少しは違うかもしれないが、こちらもこちらで色々動きが激しい状態だからそうも行かない。
まあ、ユフィの時からそう時間経たずの二人目の引っ越しだから多少は大丈夫と思っておく。
それより気にかけるべきはこちらの新しい住人もとい部下なんだが……。
「あの、ジュンさん……荷物とかはいいのでしょうか……?」
「私の方が年少なのですから、さん付けだなんて畏まらなくてもよろしいのですよセリアードお姉さま!あ、ロム様にはこちらのスイーツを調達しておきましたので!」
「あ、ありがと……ただこれ流石に食べきれるか怪しいかも……」
帰ってきたタイミングがジャストと言っても良かったので、とりあえずラス達をジュンと引き合わせた。
一応プリシラやオルタのような単独隠密を基本させるつもりだが、情報共有する以上は早めの顔合わせが必要と判断したから。
まあラスやカルト、ナマリエ辺りには俺より2割増しの塩対応だったんだが……何故かセリアードにだけはこの有様。
何を感じ取ったのか知らんが、いきなりお姉さま呼びでひっつこうとしていた。
……当のセリアードはシャイな気質も相まって滅茶苦茶戸惑っては俺やラスに助けを求めていたり。
「あれは大丈夫なのか?さっきから俺の中で妙な感覚が走りまくってんだが」
「一目惚れっていうには何か気持ち悪さが伺えるのよねえ……女同士だからとかそういう問題だけじゃないってのは確かなんだけど」
「今回ばかりは俺も二人に同調するかな。さっきの俺たちへの態度だけだったら人付き合いが苦手って印象があるんだけど……」
真っ先に疑念を抱くであろうカルトとナマリエに加えラスまで妙な感覚を持ってしまうほどである。
現在荷物運びを手伝ってくれてるウィンも、流石に違和感を感じているくらいだからな……キュイはあの人形捌きを見て単純に対抗意識を燃やしてただけだが。
今回オルタはギルドからの緊急依頼も並行して片付けているからこの場には今いないが、多分いたとすればカルトとナマリエと同じ反応を示すだろうよ。
っていうか、このあからさまっぷりはあまりに強烈で開けっ広げが過ぎて不気味さも醸し出している。
まあ、そんなことは最初に話した時から何となく感じてはいたがね。
「セリアードは癒し系オーラが出ているから人見知りでも取っ付きやすいってのはある。とはいえ流石に分かりやすすぎだろってのもあるが、まあそこは承知の上だ」
「人材不足が顕著、且つ状況はとにかくきな臭いのが現状。とはいえ、流石になりふり構わずが過ぎないかしら」
「能力は確かだ。こっからテストもやってもらうが……煙の撒き方が相当独特だから警戒は外すつもりはない」
「そこはマッドが自発的に取り込んだわけだから、まあ任せるしかないわけだけど……何かあったら俺たちにも伝えるんだよ?」
「お前はただでさえ隠し事の宝物庫だからな」
どういう言い回しだよそれ……まあいい、突っ込むのも野暮だ。
ジュンについては、不気味だって話なら、いっそ手元に置いて見極めてしまえばいいのが俺の方針だ。
やり口としては先日の登城の一件とそう変わらない……まあ、虎穴に入らずんば虎子を得ずってヤツだ。
表向き敵対行動をしない分にはこっちも何もするつもりもない。
……それに、アイツらにいいようにされていたって背景に変わりはないから放っておけない。
詳しい事情は知らんが、恐らく単にあのヴァンパイアの実験用モルモットにされてたってわけじゃないのは確かだからな。
一応あの人形操作は、実験の副作用ってことに表向きしてるが……。
魔力感知にある程度明るければ違和感にはすぐ気付けるし、いざって時は隠れ蓑も用意してやるつもりだ。
──全く、レイニ嬢関係の方で出口を捕捉しきったタイミングでマジで助かった。
もしあっちがまだ明かりを探している段階だったとすれば、かなり綱渡りのマルチタスクを強いられるところだった。
そういう意味では、姉上たちには感謝しておかねばならんね。
さて、当の妹ちゃんは……。
「うーん、ファイヤームムとかのようには行かないかー……火が駄目だったら風かな?」
「ちょっとアンタ何してるのよ!?人形に火の精霊石とか、何をどう考えたらそういう考えに行き着くわけ!?」
あ、俺ら陣営屈指のトラブルメーカーに目をつけられてやがる。
精霊石使用の使い魔召喚を応用して人形を動かそうとしてジュンに強制停止させられていた。
なーにやってんだ問題児、流石にそれは俺でも引くんですが。
「あ、じゃあジュンの人形を古代モノに乗っけてみない?あれの操作をやってくれればウチの手間が省けるし!」
「自分で並行操作しなさいよ!?というかアンタの持ってるの明らかに弄り回したせいでおかしくなってない!?まずはそっちをまともにしなさい!」
「え、ジュン分かるの!?よっしゃー、相棒は最近忙しくて弄くり会に誘えなかったからこれでぼっちじゃなく済むよ!」
「セリアードお姉様、助けてください!あのネコを放っておいたらこの離宮が火事で全損しちゃいます!」
「ええっと、そこはマッド様がいるから大丈夫だと思うけど……」
──なんか、キュイとのじゃれ合いを見ると杞憂にも思えてくるな。
この間も話してて思ったんだが、ジュンは確かに頭は回るんだがどこか詰めも甘いんだよなあ……。
んでもって、口と態度の不一致……ふむ、どこかで見たことがある感じだねえこれは。
「……おい、何だその妙な視線は」
「はっはっは、何のことやらか。とりあえず、変な気を起こす隙も与えない方が手っ取り早いってことだ」
放っておけないなら、徹底的に構い倒すまでってな。
俺としても妹分ってのは珍しい部類だし、ちょうどいい機会だ。
末っ子兼年上囲まれ魂ってやつを見せてやろうじゃねえの。
「というわけで、それ行けナマリエお姉さまにカルトお兄様にラスお兄様ってな」
「アンタもちゃんと混ざりなさい、マッドお兄様。キュイは……見た目的にちょっと厳しい所かしら」
「ざんねーん、ウチの方がジュンより年上だもんねー。というわけでジュン、ウチのことはお姉ちゃんって呼ばなきゃダメだよ!」
まあキュイは俺より1個上で、ジュンは俺と同い年だからその言い分は間違ってはいねえか。
見た目についてはミケ族だから致し方ない所はあるがね。
内面上の問題だって?──今更過ぎて言う必要ねえだろそんなの。
「だ、誰が呼ぶものですかこのちんちくりん発火猫!そしてそこの何かムカつく笑顔のハリボテ王子、アンタは同い年なんだからぜーったいにお兄さまなんて呼んでやらないわよ!」
「わー末っ子の身でまさかの妹分出来るってのに、お兄様悲しくなるぜー。セリアード姉さまおーたーすーけーをー」
「え、ええ!?──ジュンちゃん、あんまりマッド様にそういう口を利くのはダメ、ですよ?」
「うわ、ここぞとばかりにあざとさ全開の最年少の動きだ!」
はっはっは、こちとら最年少歴は長いからなあ!
使えるものは何でも使う、こういう時は変なプライドはむしろかなぐり捨てるってな!
「お姉さまを盾にするなんてアンタそれでも王族なの!?ぐぐ、でもお姉さまの言うことに逆らうなんて私には……!」
「止めておくんだ、ジュン。マドラーシュ様相手にこの手の鍔迫り合いを展開出来るのはそれこそオルタかアルガルド様くらいしかいないんだからな」
「お、このバカ王子より『お兄様』呼びが向かないヤツが割り込んできたな」
「カルト、それはストレートすぎだって……ああほらウィン!大丈夫、まだまだ若いのは俺だけはよく分かってるから、そんな落ち込まないで!」
まあ確かに、ジュンとウィンを並べたらそれこそおじさんになっちまうよなあ……。
その件なんだが、以前確かベル教授に『若者の暴走を諫める年配者枠』としてのシンパシーを語られてたっけか。
流石の俺でもアレは弄る気にはなれんかったわ……何せ老け顔ってだけで倍くらいのおっちゃんに同年代扱いだぜ?
カルリッツ父さんと並んで同年代ですって言われても違和感ないのが悲しい所だ。
……それとはまさに対極的説なのが、この場にいる俺の専属侍女その1なわけだが。
「それにしてもマッド様、年上好きを有耶無耶にするために妹属性に手をつけるのが如何なものかと。あんまり迷走していると、今度はそれこそ押し倒されかねませんのでご注意を」
「ちょっと専属侍女までジュンを妹扱いしないでよ!ぜーったいに兄扱いなんてしてやらないんだから!」
「前も言ったが、ジュンはもうちょいスルーってやつを覚え……っておいセラ?援護射撃と共に今何を口走りやがった?」
すっげえ謂れのない風評被害だな。
そんでもって、地雷を仕掛けられた気がするんだが?
というかこれ、風向きが一気に変わりつつあるような流れ……。
「これは妹とかそんなのどうでもよくなる流れね!セラ、それって要するにあの公爵令嬢様のことよね?そっちの方が面白そうだから詳しくお願いできるかしら」
「ジュンにとっては死活問題なんだから全くどうでもよくないんだけど!そもそも誰よ公爵令嬢って、コイツの婚約者!?」
「えっと……ラス、この場合どう答えるべきなのかな……」
「当たらずも遠からずって答えておけば間違いは無いよセリアード。ここは触らぬ神に祟りなしで行こう」
ああクソ流石風属性メイン且つ恋愛スイーツ脳、潮流掴むのはええな!
そして火属性幼馴染その1、お前は炎上系騎士にでもなる気か?
最強の母が泣くぞおい、何ならいますぐ密告してやってもいいんだぞ。
「その内そうなるってこった。そうなりゃお前にとっても未来の義姉だ、聞いておいて損はねえかもしれねえな」
「見た目だけのツッコミ役ダークエルフまでしれっとハリボテの妹扱いしないでちょうだい」
「……人形使いだろうが何だろうが、こちとら完膚なきまでに捻じ伏せてやってもいいんだぞ?」
「こらそこの二人、マドラーシュ様を出汁に決闘沙汰の空気を作るんじゃない」
俺にとってはむしろ決闘沙汰の方が面白いし楽なんだ、止めてくれるなよウィン……。
くっそ、お陰でオルタとか姉上しか知らん俺の黒歴史が公開されちまうじゃねえか。
ナマリエはそれはもうノリノリで、ラスやキュイ、セリアードからは居た堪れないほどの温かい視線を貰うし踏んだり蹴ったりだ。
「まあ、要するにハリボテなアンタも色々苦労してるのね。部下として多少は労わってやってもいいけど?」
そして妹分(仮)はこう言いながらも人のことを弄る気満々の笑顔を向けてきやがった。
調子づきやがって、人の弱みにでも付け込むつもり満々な顔だよなそれ。
だがそれは俺に言わせてみれば温い、浅い、甘いわ!
「セラ、どうやら可愛い妹分はチョコミントをご所望のようだ。今日はフィーバーと行こうぜ?」
「ちょ!?タンマ、今の取り消すからそれだけは本当に止めて!そんなことされたら三日は再起不能……っていうか何で知ってるのよ!?」
「プリシラがこの間、寝言でチョコミント滅するなんて言ってたのをきっちり聞いてただけだが」
「侍女使って人の就寝時間を見張るとかアンタ鬼畜すぎでしょ!?」
いや、その辺については俺の管轄外だぞ?
プリシラならその辺は問題ないだろうし……それは隙を晒す方が悪い。
「どんだけ苦手なんだよ……だがいいこと聞いたな。俺らも常備しておくか」
「余計なことしないで頂戴、呪ってやるわよアンタら!?」
天敵とすら言える苦手なものを知ったのは本当に偶然だが、それならば有効利用しないとなあ?
まあそうでなくても、セリアードをまた盾にするだけだったんだが……そう何度も同じネタで行くのは俺も飽きるんでね。
全員共通の弄り甲斐のある妹分の加入、これでますます喧しくなったな。
無論、一部面々は水面下の心理戦ありきだろうが。
可能な限り拗れないよう俺がきっちりしてやらんとな。
「それはそうと見るからにお人好し全開そうなアンタ!お姉様と距離近すぎよ!そこはジュンの特等席なんだから離れなさい!」
「って学習能力が無い妹分だなおい!どうやら早速出番かあ!?」
「待ってマッド、流石に苦手なものをバケツサイズは可哀想だってば!」
「言われてる本人より反応して同レベルに成り下がってたら世話ねえだろうが……」
やかましいカルト、最初はナメられないようにするのが肝要だろう。
セラとプリシラもきっちり使って、上下関係だけは徹底的に叩き込んでおかねえとだ。
明らかにノーマルなセリアードに変な虫つけたくないし、是非も無いね。
マドラーシュと愉快痛快な近衛たちに新たなメンバー加入となって暫くしたある日のこと。
ようやくアニスフィア側の方でも、レイニを迎え入れる準備が整うこととなった。
表向きは外部療養という体で、殆ど誰にも知らされることのない離宮入りなので無理もないこと。
更にその当日では、変な虫が付かないようにとマドラーシュとラインヒルトがそれぞれプリシラとエイパ、ロアム、エダンを裏護衛として派遣していたりも。
当初マドラーシュはラインヒルト側からの人員派遣には驚くも、経験を積ませることが主な理由であることも即座に理解した。
日頃からラインヒルトからその手のお使いを頼まれることも多く、その手の経験を積みに積んだプリシラからも『悪くはない』と太鼓判を押されるほどではあったとか。
(……少々ばかり
姉の離宮の窓際にて茶を啜りつつ、プリシラからの独自の魔力信号で経過報告を受けとる。
魔力への感受性が相応に求められるくらいには薄いそれを感知できるのは当然マドラーシュだけ。
念話とまでは行かずとも、指向性のある思念を魔力に乗せて受け取るだけでもこの主従の場合は十二分に成り立つ。
とはいえ、このような繊細な曲芸はこの第二の専属侍女以外には到底できるものではないのだが。
(まあ、この状況で姉上をマークしないなんてアホは犯さんだろうよ。やれやれ、我ながらなかなかの先見の明だな)
これで未だにマドラーシュとアニスフィアが疎遠状態だったら、それこそとっくにゲームセットである可能性すらあったわけで。
アニスフィアとその周囲への防備が少しでも疎かになれば、連中はその穴を容赦なく突いてくるのだから。
現状ではマドラーシュは補佐役という表向きの立ち位置まであるが、それは見事なまでに防波堤として役に立っている。
……しかし、その状況は良し悪しといったところでもあるのもまた実情であった。
(ちょいと思いついたこともあるが、今は置いておくかね……こっちのケアも大事だしな)
ひとまず真っ先に懸念されていた用事は過ぎ去り、相手の出方も多少は見ることが出来たのでひとまずはここまで。
マドラーシュは陰謀由来の思考の海から脱する。
視線を窓の外から部屋の中にやると、そこには何とも言えない光景が広がっていた。
「えーっと、とりあえずは同じ離宮に住むわけだから仲良くやっていこう!ほら、もう少し空気を軽く……」
見るからに冷や汗ダラダラの様子のアニスフィアは、想定外の友の態度にひたすら焦りを見せていた。
何とか無難に宥めようと言葉を選ぶもあえなく無言で蹴散らされ、もはや押し黙る以外の選択肢以外が無い。
静観の姿勢を貫くのはそれぞれの専属侍女、こちらはそもそも口を挟むつもりは毛頭ないような様子だ。
彼女らの視線の先では、事情を大まかにしか知らない者にとっては修羅場とも捉えられる顔合わせが発生している。
とはいえ、ユフィリアは無表情のままでレイニは盛大に怯えている辺り一方的なものにしか見えないわけで。
むしろ火花が散っていた方が、その熱のおかげで悪いながらも動的な空気になっていたことだろう。
いつまで続くかわからない沈黙がもたらすのは重苦しい空気だったが、その霧散は想定よりも早いものとなった。
「……なるほど。流石はマッド様、魅了の対策はばっちりのようですね」
公爵令嬢の口から発せられたのは、そんな場違いな言葉だった。
もっとシリアスな言葉が飛んでくるものかと思っていたアニスフィアとレイニは、その空気の読まなさっぷりに思わず固まってしまう。
「まあ、そっちの方がレイニ嬢の精神衛生上いいだろうからな……じゃねえよ!今の無言は魅了無効化の確認してたってか、随分紛らわしいことしてくれるな!?」
「マッド様のことですから、『先々のことを考えて魅了への耐性くらい付けておけ』と無茶振りをしてもおかしくないと思ってついつい」
「そんなんイグノックス兄さんでも言わねえよ……お前の中で俺たちのイメージはどうなってやがんだ?」
狙ったのかそれとも素なのか、ユフィリアの発言はこれまでありそうでなかったど天然そのもの。
あまりの突拍子の無さから、マドラーシュの中ではこの一部分だけならばレオンに匹敵すると認識するほど。
そこからカルトやエリオ譲りの切れ味たっぷりのツッコミ効果も相まって、一気に重々しい空気は霧散される。
アニスフィアとレイニは何事かと呆然とするが、専属侍女2名は口元を抑えながら笑いをこらえるほどの事態になっていた。
「ぷっ……お二方、見事な夫婦漫才です。今すぐにでも陛下やグランツ公にもご覧いただきたいところですね」
「無表情を逆に生かすとは、やるようになりましたねユフィリア様……そこに合わせてしまうマッド様も流石です。ええ、本当に仲のよろしいことで……」
「なかなかの反響、これは病みつきになりそうですね……マッド様、次回も是非よろしくお願いいたします」
「ゴルァそこの侍女2名、好き勝手ほざくんじゃねえ!ユフィもいつまでボケかましてんだ、観客置いてけぼり芸はそれくらいにしろ!」
挙句観客からの野次が飛んできて、その場はもはやただの混沌空間と化してしまう。
普段ならばマドラーシュの十八番な芸当を、その場でやってのけてしまう辺りは色々な意味で流石ユフィリアというべきなのか。
そして、この二人が友人関係(仮)だということも知らされていないレイニにとっては……。
「え、えっと……?マドラーシュ王子殿下とユフィリア様って、夫婦漫才するほどの仲だったということですか……?」
「あー……うん、これには色々と深いワケがあってだね……」
普段ならば援護射撃をするアニスフィアも、今回ばかりは流れに乗り切れていない。
それほどまでに強襲染みた急流だったという、何よりの証左でもある。
「そういう勘違いはよろしくないぞレイニ嬢。流石にあんな突拍子もねえことされたら誰でもああなる、それはもはや人間のサガってヤツだ」
「まあ、こんなつれないことしか言えない人でなし破天荒王子殿下はさておき……レイニ嬢は確かに後もう一歩のところで私とアルガルド様の関係を致命的な形で壊してしまうところだった……宿されていた能力を無自覚に使ってしまったという不運があったとしても、それは事実──ですが、思い返せばあの出来事も好機の1つだったのかもしれません」
「こ、好機……ですか?」
危うく人生が滅茶苦茶にされかけたというのに、告げられたのはむしろポシティブな言葉。
大体の人間が意外な表情を浮かべる中、マドラーシュのみはどこか悟ったような微笑を浮かべていた。
まるで弟子の成長を目の当たりにした時の、年不相応な笑みだ。
「3年前までの私は、次期王妃であらんと徹底して振舞い周囲の目など知らないとばかりに愚直に進んでいました。それこそが周囲の反感や恐怖を生み出していたのもまた事実。それらが爆発したのもレイニ嬢の魅了能力がきっかけでしたが、遅かれ早かれ似たようなことがより悪質な形で起こっていたことでしょう。むしろ私でも分かりやすい形で出てきてくれたからこそ、改めて自分を顧みることが出来た。またアルガルド様との和解及び円満な婚約解消に繋げ、それぞれの道を見つけることが出来た……特に私の場合は、何が何でも追いついてやりたいと思う対象を、ですね」
初めてきちんとした形でユフィリアと対面するレイニは、何から何まで驚愕の連続だった。
ある程度の態度が軟化したという噂は聞いていたとはいえ、彼女の中でのユフィリア・マゼンタは未だ『次期王妃に相応しき完璧な公爵令嬢』なのだから。
そんな彼女が自信を卑下したり、失敗をまるで悪いものと捉えない口振りを披露するなど思ってもみなかったのだろう……至極当然の反応である。
なお、追いついてやりたい対象は猶の事深い笑みを浮かべていた。
「私としましては、この縁に感謝を伝えたいくらいです。偉志の大陸にも『禍を転じて福と為す』という格言がありますからね」
「私が発端なのは間違いないのに……許してくださるのですか?」
「いつまでも下を向いていては人生大損です。どうしようもなかった過去はきっちり水に流してしまいましょう……これを機に、ご自身をきっちりと許してあげてください」
「ユフィリア様っ……!ありがとう、ございます……!」
ただ許しを貰うだけでなく、その先にある導も示されたことによる二重の救い。
多くは言わずとも、レイニはその奥にあるユフィリアなりの心遣いを真に理解していた。
二重の意味での救済は彼女を色々な意味で泣き崩れさせるには十分な効果を発揮していると言えよう。
アニスフィアやイリアがそんな彼女を宥めるのを尻目に、破天荒はどこかご満悦な様子を見せていた。
「やるじゃねえか人間3年生。これは姉弟子としての期待も十分ってところか?」
「マッド様のお手を煩わせるのもどうかと思いましたので……既に手遅れかもしれませんけど」
「俺はちょっと背中を押しただけだ、それ以上のことはしてねえっての」
「そのちょっとが洒落にならないのですよ……ここにいい凡例がいますからね」
経験者はかく語る、と言わんばかりにジト目を向けるユフィリアを笑って流すマドラーシュ。
その少しの働きかけが洒落にならないのは、もはやマドラーシュを知る者の共通認識ですらある。
それでレイニが救われ、導かれるだけならばユフィリアとしても良しと出来るのだが……その胸の内には別の感情もある。
一体どのようなものなのかは、今の彼女では薄っすらとしか理解できていないのだが。
(夫婦漫才の次は熟年夫婦芸とは……何だかんだ余念がございませんね。マッド様も早く折れて差し上げればよろしいのに)
それを理解している者の一人であるセラは、そんな二人を微笑まし気に眺めながら頑なな主にそう提言したい気で満ち溢れていた。
無論、マドラーシュ尊しを地で行く者として……何よりその胸の内を理解する者として無粋な真似はするつもりはない。
ただただ、令嬢の怪獣大侵攻を支援することに徹するのみであった。
光すら届かないような場所、使い古された比喩である。
この王国でも、地下霊廟やマドラーシュが遊び場と設定した洞窟など数多くの場所が当てはまることだろう。
現在進行形で闇に溶けるように動く二人の女子がいる場所もその1つ。
「こんなベタで古い手を使って……だから老害なのかしら?」
「その認識でよろしいかと。こんな場所に潜伏する辺り、文字通り腐った根そのものですので」
生活空間のすぐ下、まさに灯台下暗しと言わんばかりのロケーションである。
マドラーシュお抱え第二の専属侍女プリシラと、先日同破天荒のお抱え諜報員となったジュンの2名がいるのは、潜伏するにはもってこいの場所。
無論後者の言う通り、何故これまでガサ入れしてこなかったのかと疑問に思うほどのベタな選択肢とも言えるが。
「案の定、奥の人形の目でハッキリと見えたわ……先手必勝ね!」
「全く、ただでさえ御多忙な我が主の仕事を増やさないで頂きたいものですね……!」
この視界が通らない中、二人は周囲の状況をきっちりと捉えている。
プリシラは視界に頼らない魔力探知、そしてこれまた主譲りの気配探知も併用している。
対するジュンは、得意の人形操作術による先行偵察が主だ。
魔力で編んだ糸を介して、複数の視覚や聴覚イメージを共有しては適宜切り替えるという繊細な技術を用いる。
この能力こそが疑似的嘱託諜報員として採用された最大の要因である。
そんなドローンのような役割を持ちながらも、これらの人形はジュンの武器でもある。
「こんなきったない場所にカエルなんておかしいわよねえ?それも汚い酸まで吐いて、不良になるよう教育でもされたのかしら」
捕捉しては迎え撃っている相手は、地上でも発見例が増えてきたラーナ種である。
しかし、1体も槍を持たずに素手で群がってきている。
そこから舌を伸ばしたり、強烈な酸が混じった毒液を飛ばしたり。
明らかに本来の種と異なる行動で、通常ならば面食らうところだが……。
「礼儀作法ってやつを叩き込んでやるわ、あの世で役立てなさい!」
ヴァンパイアの下でモルモットをやってきただけあり、むしろ慣れているくらいであった。
むしろ知っていたと言わんばかりに鼻で笑いつつ、武器である人形をけしかけて悉くを潰していく。
その無慈悲っぷりを見て、プリシラは楽しそうに笑みを浮かべてすらいた。
「ふふ、まるでマッド様のようなイキイキっぷり。ますます実は生き別れの兄妹でしたという説が浮上してきそうです」
「ちょっと、何てこと言ってくれてるのよ!?アイツとはあくまで利害の一致で……っ!」
陣営に加入して日が浅いながらも、既に恒例行事となりつつある憎まれ口は突如中断される。
魔力の糸を介して、1体の人形を素早く退避させる必要が出てきて口を挟む余裕がなくなったから。
プリシラの魔力感知を補佐する形で先行させていたが、それを退かせるのはよほどの事態に直面したからに他ならない。
視認できる位置まで人形を戻すと、その背後からはこれまた下水道に似つかわしくないシルエットが現れた。
「これまた奇妙な魔力でしたが、なるほどバジリスクだったと。ペットにするなら手頃なところですね……セレクトだけを見れば随分と保守的ですが」
「品種改良のやり方は随分と革新的のようだけど……って、来るわよ!」
夜目が利いてるが如く、暗がりの中でも正確にバジリスクは獲物を捕捉している。
先行させている人形を手元に戻した今、その対象がプリシラとジュンに切り替わることは言うに及ばずだ。
愛嬌すら感じられる丸っこい外見に似合わない俊敏な動きで接近……しきる前に、バジリスクは口を開く。
「なるほど、そういう趣向でいらっしゃいますか」
主兼師匠譲りの魔力の流れの捕捉、お陰でプリシラは相手の次の行動は手に取るように理解する。
本来ならば、バジリスクという種の魔物が行わないであろう魔力の流れ。
マドラーシュが相手をすることが多いデーモン種や一応災害級に類される『飛行トカゲ』が放つことが多いブレス攻撃だ。
事前に把握していた横道に逸れると、先ほどまでの立ち位置を巻き込む形で雷撃を纏ったブレスは空を切っていく。
「ふむ、雷撃ということはデーモン由来の可能性が高いと」
「そうなると、早速ガサ入れの成果はありそうね。アイツもいいサンプルになるのかしら?」
「……ジュン様、引き続き一番槍を。私は少々準備を致しますので」
「言われなくてももうやってるっての!それ行けみんな!」
暗がりに潜ませていた人形も集わせての、怒涛の反撃は突如始まった。
先ほど用いた棍棒持ちの人形に加え、その手にシクル状の魔力刃を纏わせ連続で斬りつける死神紛いの人形も攻め手に加える。
更には別の人形たちが主により込められた魔力をあらゆる形に変換しては、呪詛という形で叩きつける。
もはや呪い人形由来の怪談が笑い話になってしまうほどの、人形劇という名の蹂躙劇であった。
しかし、それほどの猛攻を貰ってもバジリスクは足を止めているだけに過ぎない。
「ああもう、どういう魔改造されてるのよアレ!ジュンの人形たちでも火力が足りないなんてメチャクチャにもほどがあるわ!」
「まあ、これくらいの存在がいるからこそマッド様は私たちを送り込んだのでしょうけど……ね!」
呪詛のせいで再度のブレスは阻害出来ている。
しかし、尻尾を叩きつけたり噛み付こうと滅茶苦茶に暴れることで人形の猛攻を少しでも減らさんと必死に抵抗を見せる。
そんなバジリスクらしからぬ耐久性に、更に攻め手を増やそうとするジュンを制したのは、軽口と共にプリシラが行ったワンアクション投擲であった。
あまりに迷いのない行動で、何を投げたのかはバジリスクに刺さっているものでようやく判断できるほど。
「どっかの凄腕メイド染みた大した投擲技術だけど、あんなナイフ刺さったところで何にもならないでしょ!?」
そもそも見た目通りの華奢な女子がワンアクションで投擲できるものなど限られてくる。
その中でも殺傷力については悪くない代物ではあるが、如何せん相手が悪すぎだ。
魔力を付与することで鱗を通してきっちり刺さっていることが唯一の救いだが、何の慰めにもならない。
──というのが、投擲を攻撃として認識する者の意見だ。
「──では、ここいらで追加投与と洒落込みましょう」
何てことないように指を鳴らすと、バジリスクの背後からただならぬ魔力の胎動が発せられる。
何事かと目の前の獲物から一旦視線を外すバジリスクだが、その行動から既に悠長なものであった。
とはいえ、その束縛から逃げ切るという選択肢など初めからありはしないわけだが。
「……あの鎖を発動するためのナイフだってこと?」
「正しく言うならば、出血の呪詛込みの私の魔力がトリガーとなります。ナイフならばそのイメージにきっちり合致して丁度良いのです」
プリシラが放った鎖は、カルトとカルシオンが扱う
しかし、彼女の放った鎖はバジリスクの抵抗をまるで許さないほどに強く縛り上げている。
プリシラの得意分野の1つ、『条件定義によるイメージ加算』がここでも発揮されていた。
とはいえ、相手もかなり必死に藻掻いているからか少しずつ嫌な音を立ててもいた。
少ししたら、確実に拘束から抜け出されてしまうやもしれない。
──無論、このやりたい放題侍女その2がそんなことを許すはずもないのだが。
「混ぜると危険、混ぜすぎカオス……それが呪詛なら尚の事。『リーサルドーズ・エクスプロード』」
ジュンの人形が引き起こした複数の呪詛に加え、プリシラが付与した出血と束縛の呪詛。
締めてその数6種類の呪詛が魔改造バジリスクの身に注がれている。
どこぞの呪いオタクが知ったら満面の笑みを浮かべそうな光景も、プリシラにとっては強力な起爆条件の1つだった。
自身が起こした呪詛を基点とし、連動して他の呪詛も魔力に還る形でどんどん爆発を引き起こしていく。
呪詛で内部から痛めつけられたところにその仕打ちは、残虐以外どのように形容すればいいのか。
爆発による暗い色の閃光が収まった時には、バジリスクが宿していたであろう魔石以外何もなくなっていた。
「呪詛をあんな風に使うだなんて、どういうイカれた思考してるのよアンタ……」
「最高の誉め言葉でございますね。また一歩、崇高なる我が主に近づけたということなのですから」
恍惚のなんたらポーズをする専属侍女を見て、ジュンは軽く引いていた。
しかも言い分からして、彼女たちの主……ジュンの言う『ハリボテ王子』はより頭のネジが外れているということ。
勝手に妹分扱いをしたり、その癖どこか気を遣ってくれたりする同い年の破天荒の姿を浮かぶからこそ共闘が若干怖くなってしまうほど。
(……想定以上にヤバいところね。でももう入ったからには後戻りは利かない……分かっていたけど、見事なまでに貧乏くじね)
とんでもない集団に混じってしまったものだと、思わず自嘲の笑みすら浮かべてしまうほど。
しかし、もう彼女の中でとっくに賽は投げられてしまっている。
例え損を被る未来が見えても、あえてやらなければならないことだ。
(……ジュンは願うだけで待ってるだけの連中とは違う。女神様の為にも多少の無謀は承知で動いてやるんだから……そのためにも、まずは見極めてやろうじゃない)
自前で気付けを入れては気力を再充填する。
ただで恩寵を賜るつもりは更々ない……その信仰対象への前向きな姿勢と言える。
そんな瞬時の思考に耽るジュンの姿を眺めるプリシラ。
微笑を浮かべてこそいるが、その眼光はマドラーシュかセラでないと分からないほどに鋭いものだ。
──見極めているのはお互い様、まさにそんな光景である。
「──っと、どうやらネズミも潜んでいるようですね。呆けてないで行きますよジュン様」
「分かってるわよ!ちゃっちゃと片付けてやろうじゃない!」
とはいえ、今は共闘体制を崩すことはない。
一寸先はこの下水道の闇が如くだが、願わくば変な亀裂が入らないように。
静かに探りの火花を散らしながらも、互いに考えることはある意味一致していた。
またまた新術披露のプリシラさん、大暴れです。
それでこそ現時点で数少ないグランサガ側と対等に渡り合える御方。
ちなみに、この術名はスターヴ・ヴェネミーの派生形から拝借。
そしてレイニとは対照的に色々怪しいジュンですが、これも平常運転です。
意外とあからさまで詰めが甘いので、むしろ格好の弄られ要員という……
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
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転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)