転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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グランサガでゴールドが溶ける溶ける……二次潜在のお陰で。
でも育成大好きだから嬉しい。


70. 御伽半分目覚める時

 

先日のレイニ嬢……もとい、レイニの一件から、明らかに流れの変化を感じるようになってきた。

あの時も妙な偵察要員がうろついていたようだが、あれはまさに氷山の一角に過ぎないのだろう。

何せ、明らかに王宮全体で何かを探るような空気を感じ取れるほどになっているのだから。

やたらと多いのは、やはりというべきか姉上の離宮周りを探る動向だな。

考えられる目的として真っ先にレイニが上がるが、果たして本当にそれだけなのかとも思っている。

 

「……ちょっと見ない間に色々随分面白いことになってるじゃない。流石は我らが破天荒、相変わらず持ってるわね」

「そう動くのが俺の仕事だからな。──ったく、せめてこいつらはちゃんと仕舞ってくれよ……」

「アンタが面白いものをどんどん持ってくるのが悪いのよ。試行錯誤に没頭していれば、他のことはどうでもよくなるなんてそっちでもザラでしょうに」

「それはどっちかと言うと姉上だっての、俺はそこまでじゃねえ。……ああくそ、外に転がってたりしたらついでに返してもらうからな?」

「ああ、そういう場合はむしろ回収をお願いしたいところね……1つ2つ放っておいてもおかしくはないもの」

 

さて、俺の現在地はクラーレット侯爵家別宅……親愛なる我が悪友の元だ。

今回はこれまたユニークなブツを仕入れてきたからそれを届けにやってきたというわけだ。

で、そのついでとばかりに見ていられない惨状になっている研究室の掃除をしている。

……いや、だって姉上の離宮並に取っ散らかってるんだぜ?

しかもあちらとは違って魔石が転がってたんだから、危なっかしいったらありゃしない。

──で、更にそのついでで屋敷の外の掃除も並行して行っていたりもする。

ったく、まさかとは思っていたがそこまでするかあの業突く張り共が。

 

「……これで全部片付いたかしら?もう結界の方は解除していいわよ、セラ」

「ティルティ様も裏では随分と人気者なのですね?ご実家で門前払いを貰いそうな輩ばかりのようですが」

 

屋敷に着いてからセラに速攻で張ってもらったのは、早い話物理的な隠蔽工作だ。

ヴィルジールから貰った書籍から、光というのは時に視覚に大きく作用するという大変面白い情報を得てな。

折角だから、光への圧倒的ぶっちぎり適性を誇るセラにやらせてみた結果……まあ、見事なまでの隠蔽結界が完成したってわけだ。

かなり精密な魔力操作が必要になるから、セラの強みであるワンマンドレッドノート戦法が取れなくなるの玉に瑕だがね。

まあ、今回はその分俺が動けば何ら問題はないわけだがな。

あっちが猟犬仕向けるってんなら、俺は神獣様のレプリカで対抗ってね。

 

「あんな悪趣味なのをけしかける時点で願い下げよ。それならどこぞのやりたい放題の元へ嫁ぐ方がよっぽど安泰ね」

「それはそれでオススメは出来ねえな。どこぞの裏彫魂師が如くのいつ吹いて消えての根無し草相手だ、ロクなことにならねえぞ?」

「その癖肝心な時は器用に地盤を固めつつも好き勝手を継続する、という愉快で矛盾した但し書きも付きますけれどね」

 

全く、どこの誰だよそんな支離滅裂な行動するバカは。

──それはさておき、速攻で心肺事を片付けた上に連中の狙いも更に絞り込むことが出来たのは僥倖だね。

プリシラとジュン、他にもラスやオルタからの報告も合わせれば……大体の動きは推測できる。

 

「例の男爵令嬢の奪還ないし再懐柔を臭わせておいて、その裏で戦力補充なんて随分と大胆なことね?」

「そのどこかおかしな魔石、やはりそういうことでいいんだな?」

「ええ。確かにバジリスクが基盤にこそなっているけど、デーモンやらドラゴンも配合されてる。調味料は例の『神の霊石』ってところね」

 

愉快そうに話すティルティのお陰で俺の推測はますます現実味を帯びてきたってわけだ。

バジリスクは本来噛み付きとか豪快なジャンプからの圧し掛かり攻撃を基本とした攻勢をかけてくる。

……のはずなんだが、昨晩はプリシラとジュンからおかしな個体の話が出てきた。

長くなった尻尾を器用に振ってきたり、電撃を纏ったブレスを吐いてきたり、それでいて随分と対物理・対魔法がやや硬かったり。

いずれもバジリスク単体ではあり得ない事象……むしろ他の魔物の特徴が融合していると考えるのが自然である。

それで真っ先に浮かんだのが、魔石同士を薬剤のように調合するってやり口だ。

3年前の時点では魔物と人間の融合ってなってたが、徐々に魔石そのものの変容のケースが増えてきているからな。

カル渓谷のグリフォンなんか、変容どころか本来存在しない魔石を生み出しちまってるし。

その繋ぎになるのが『神の霊石』ことキーストーン……まあ、これも不自然ではない。

 

「……で、案の定ハエがいやがるな。誰かつけてやろうか?」

「そこは甲斐性全開の今日みたいに随時駆けつけてくれるところじゃない?」

「アホ、今回は諸々状況が合致したから来ただけだっての……適材適所って言葉もある」

「状況が片付くまでティルティ様も離宮で匿うという手もございますよ?呪いの研究にも事欠かない環境ですし」

 

おいバカてめえ、何言ってやがんだこの残念侍女!

ただでさえオルタとジュンがいるっていうのに、更に居候増やそうとすんな!

部屋?あるにはあるがそれとこれとは話が別だ。

 

「それは妙案ね、面白そうだから乗っかってやろうかしら」

「ユフィもそうだが、この国の令嬢ってアグレッシブが過ぎねえか?いや、お前の場合は貞操観念まで引き籠らせてるのか」

「ある意味の信頼よ。アンタは軽薄に見えてその辺りは誠実そのもの、トチ狂うのは戦場と術開発の時だけというね。実際、ユフィリア様にも手を出さなかったのでしょう?」

「まあ、仲良く同じベッドで就寝までは到達いたしましたけれどそこまでですね。マッド様はその辺りも無駄に律儀ですので」

「そこまで行っておいて何も無いってのも、らしいと言えばらしいわね」

 

二人して貶してくれてまあ……誰が鶏肉味だ、堅実と言え堅実と。

まあ、ティルティの離宮入りは検討くらいはしておくべきか……。

ここからの相手の動向次第では、戦力として頼りにする可能性だってあるわけだ。

腐っても侯爵令嬢、王宮での催しで潜り込む機会はいくらだって出てくるだろうし。

それに、俺ばかりが来てばっかで招かないのはどうなんだってオルタの時と同じ理論も通じるしな。

──さて、そんな洒落にならない話をしていたらもう頃合いだな。

覚えのある魔力が複数、こちらにやってくるのはさっきから感じ取っている。

 

「マッド様の秘密主義が仕事しないなんて、随分珍しいこともあるのね」

「能動的にバラした方が後々面倒が少ないからな。──ユフィは知らん、後は野となれ山となれだ」

「──本当に面白くなってきたわ。やっぱりアンタがいてこその呪い塗れの我が人生ってやつよ」

 

なーに言ってんだこの呪いオタクは、お前も人のこと玩具扱いか?

まあ、それはお互い様なんだろうがな……そう考えたら悪くは思わんな。

さて、聞こえてくるのは5人分の足音……一人は時にティルティの影武者にもなれる従者のものだろう。

残りの4つも、わざわざこの侯爵家別邸まで来るとなったら容易に想像は付く。

──掃除が間に合って何よりだよ、本当に。

 

「ジメジメキノコ令嬢、生きてるー?……って、この部屋幻覚起きてないー!?都合のいいことにマッドくんを題材にするなんて、不敬が過ぎるんじゃないかな!?」

「アニス様、その不敬芸は流石に強引です。──ほら、これが幻覚なんてありえませんよ」

「入って早々ペタペタ触るな、マジで罠とかだったらどうする気だお前は」

「ご安心を、その場合はきっちりアルカンシェルを打ち込む自信がございますので」

 

ああうん、既に俺限定の人間コンパスになりつつある。

誰だユフィに陰の鬼志流の修行つけたやつは。

アル兄さんの言う通り、マジでいざって大逃亡できねえぞこれ。

 

「冒頭から随分と言い放題ね。──で、そちらが例の男爵令嬢かしら」

「こら共犯者、レイニに構って逃げようとするな」

 

さっきまであんな啖呵切ってたんだ、しれっと傍観者なんて真似はさせない。

レイニのポカン顔は、ウィンみたいで是非とも絵に残したいくらいだな。

そして姉上は……随分とまあ引きつった笑みを浮かべていた。

まあ、これは何となく想定していたから焦ることもないんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……思考が現実に追いつくまでは、ユフィやイリアのお陰で何とかかからずには済んだ。

とはいえ、未だに頭の中が色々とゴチャゴチャになっている。

何でこう、あちらこちらで振り回してくれるのかなあ君という人は。

 

「というわけで、何でこんな呪い大好き侯爵令嬢と仲良くしているのかキリキリ吐いちゃってくれるかなマッドくん?あ、カツ丼は無いので悪しからず」

「そこは『弟の交友関係は実は広かった、お姉ちゃんとしては安心!』で済ませるべきでは?」

「この陰湿令嬢だけは別!しれっと呪いかけられたりしてない!?」

 

これが例えばナヴル君とかだったら私だってここまで言わなかったよ。

でもねえ……よりによって何でこの陰湿を擬人化したような令嬢なのかと。

フラグを立てるにしたって相手を選んでほしいのが姉心ってヤツだ。

 

「姉弟にも関わらず長い間疎遠だった中で共犯関係兼天敵の私とは長く友人付き合いしてるんだから、アニスフィア様にとってはこの上なく面白くないってだけよ。私の心は愉悦で満ち溢れているけれど」

「そういう人でなしなところだよこの引きこもり!可愛いマッドくんに変な影響を与えてたらどう責任取ってくれるのさ!ほら、ユフィもいつもの暴走馬車よろしくで突っ込んでいいんだよ!」

「えっと……これって、アニス様も自分から同類になりに行ってませんか?」

「控えめながらいいツッコミだレイニ。将来有望でこれまた安心だな」

 

コラそこの色々やりたい放題リトルブラザー、今度はレイニと仲よくしようとはなかなか肝が据わってるなお主。

よーしそういうことなら、嫉妬による暴走機関車ユフィリア号待ったなしだね!

ティルティとかイリアからも『ええー……』って声が聞こえたけど知るかそんなもの!

さあ覚悟するがいい、ハリセンシェルの為のライフストックは万全か?

 

「まあ、多少言いたいことはありますが……ティルティからはマッド様と似た波長を感じていたので、大体納得していますとも」

「私にとっては唯一の悪友だから間違ってはいないわねえ。ついでに専属薬師も兼任してるけど」

「マッドくん、今すぐ薬師変えた方がいいよ!この引きこもり呪いオタク、悪友とか甘言ほざきながら裏でモルモットにしようと画策してるはずだから!いや、もうされてるのか!?」

「姫様、あまりご乱心が過ぎると王妃様に全て報告いたしますよ?」

 

ひぃっ!?イリア、母上を引き合いに出すのは卑怯じゃないかなあ!?

というか、ユフィがまさかこの関係に納得の方向というのが意外というか、あまりに想定外というか。

おのれティルティ、どんな顕魂術を使ったのやらか……。

 

「色々かき乱しやがって……本題であるレイニを置いてけぼりにしてどうするんだ?」

「御尤もなことを仰っていますが、そもそもマッド様も原因の一端ですからね?」

「しれっとそんなところで魔力調整の練習するんじゃない、抓るの上手くなって何にしようってんだお前さんは」

 

……ユフィが上手いこと締めてくれたので、何とか本題に入るとしましょう。

さもないと、またあの二人のドライで隠し甘味な劇場が始まってしまうからね。

元はと言えば、レイニの身体検査を行う際にティルティの知恵を借りるために来たわけなんだから。

あ、ちなみにこの行動は父上の承諾は頂いているので独断専行にはならないからね?

 

「それで、こちらが双子王子以外の貴族子息を悉く虜にした美少女男爵令嬢ってわけね……ふーん、確かに見かけだけでも結構映えるけれども……」

「こらこら、私が仕切る前に勝手に本題に入るんじゃないのティルティ。レイニが怖がるから少しは抑えなさい」

 

レイニは男爵令嬢、それに対してティルティは侯爵令嬢……その身分の差はそれなりだ。

いくらこの場がプライベートの場とはいえ、レイニからしたら初対面の目上の相手に当たるわけで……。

しかもまるで天然記念物を眺めるような視線とあっては、否でも怯えるでしょうに……って、あれ?

 

「……なるほど、これが魅了されるって感覚と。刷り込みと言い換えてもいいかもしれないけど」

「……アンタ、レイニに特別何か感じたりしないの?」

「面白いことをしでかしてくれたとは思うけど、これは元々あった興味からの派生ね。だからこそ刷り込みって例えを出したのよ。ちなみに、そっちの専属侍女にも効き目なしよ」

「マッド様最推し勢筆頭が、この程度の魅了に引っかかるわけないでしょう」

 

うわ、セラいつの間に!?──っていうか最初からいたヤツ?

全く気付かなかったんだけど……限度の知らない神出鬼没っぷりだねこちらは。

プリシラも大概なんだけど、一体専属侍女に何を仕込んでるんだマッドくん……やりたい放題は主だけにするべきだってば。

 

「要するに、ティルティとセラには魅了が効いていないということですね……それぞれ納得の行く面々ではありますが、どうにも共通点を見出せませんね」

 

私、マッドくん、セラ、そしてティルティ……ユフィの言う魅了の耐性持ちはこの4人だ。

その中で、明らかに特殊なのは私のはずだ。

ドラゴンの魔石を刻印という形で宿していて、レイニの魅了に対して直接抵抗したってわけだから。

そしてマッドくんは人外染みた魔力コントロール一本で魅了を相殺するという荒業を実行してて……。

そうなると、セラとティルティも同じってこと……?

 

「今はこの娘の身体検査なんだから、耐性云々の話は後にしなさいな。──で、この魅了を使ったという自覚はまるで無いのね?」

「はい……そもそも、無意識で使えるほど魔法が得意ってわけでもないというか……むしろ、とことん苦手です」

「それについてはここに来る前に確認済みだから、私やユフィも立派な証人になれるよ」

 

実際、精霊を認知できるならば普通に出来るようなことも悪戦苦闘していたらしいからね。

……その辺りの監修をしたのはユフィとイリアで、私はまるで分からなかったんだけどさ。

 

「なるほど、それもまた魔石由来の魔法らしいわね。直に受けて確信に至ることが出来たわ」

「厳しい環境を生きる魔物が生き抜く術、または本能……それらが刻まれたのが魔石って話だからな。レイニが無自覚で使った魅了も一種の生存本能……ああ、だから刷り込みって例えたのか」

「ご明察よマッド様。自身を守るための防衛手段として他者への庇護欲の刷り込みを行っているってわけ。さっきも『私を守って』みたいな声が聞こえてきそうな勢いだったもの」

 

生存本能を刺激されたから魅了が発動された、か……その説は有力かも。

生命の危機とは違うかもしれないけど、元々孤児院育ちであることからレイニは平民の出に当たる。

そんな彼女が、シアン男爵に引き取られて教育が不十分なまま取り急ぎ貴族学院に通うこととなるってなったら……。

そりゃあアルくんとかユフィがついつい助け船を出すのも頷けてしまう。

それでも必死に周囲の貴族に合わせるように動かないといけないわけだから……。

 

「学院内でも相当負荷がかかってたってことだね。否応なく状況が揃っちゃったわけだ……」

「……私を引き取ってくれたお父さんも、義理とはいえお母さんもそれこそ血の繋がりなど関係なくよくしてくれました。他の屋敷の人たちも、本当にいい人だってことも分かっているんです……でも、それは私のこの能力前提ではないのかと疑念も抱いてしまって……」

 

あー……学院よりはマシだとしても、家でも気が気でなかったってわけか。

確かに、あらゆる人間関係を疑いたくもなっちゃう状況だよね。

そのせいで一人で抱え込んで、でもどうにもならない……完全に負の螺旋だ。

つくづく間に合ってよかったと思うよ……。

 

「シアン男爵は実際顔を合わせたところ、魅了とか一切関係なしでレイニに親としての情を注いでるよ。似たような父親代わりを持つ身として、そこは断言させてもらう」

「まあイメージとしてはカルリッツ様が近しい所でそうか……この件が落ち着いたら、引き合わせてみては?」

「そういえば、マッド様は教育係という名の義理の家族関係で育ったようなものでしたね……」

 

あーそうか、私もコロっと抜け落ちてたよ。

むしろ血のつながりが無いからこそ、その手の感覚には敏感になっているところもマッドくんにはあるのか……。

ただ、果たしてそこまで言い切ってしまっていいものなのか……。

 

「単なる刷り込みであそこまでの鬼気は到底出せねえよ。アレは完全に一本気のある親としての愛情込みこみだ、俺も大いに覚えがある」

「それこそありすぎるほどですね。カルリッツ様もそうですが、デイジー様もイグノックス様も、何ならクリスティーナ様も……グランナイツは全員でしょうね」

「昔っからあの超人集団にベッタリだったものねえ……正直胸焼けするほどだったわ」

 

胸焼けってそれは流石に……いや、マッドくんなら十分有り得るか。

それこそ母上と父上以上に敬愛の情を向けているんじゃないかって思うくらいだし……いや、多分そうだろうな。

そしてあっち側もそれぞれ違う形で返しているから……それこそ血を超えた繋がりすら感じるほど。

そんなぶっ飛びマッドくんの意外な一面を聞いて、レイニも何か感じ入るところがあるのか自然と口を開いていた。

 

「あの時は何が何だか分からなくて、ひたすらアニス様とマドラーシュ様に注意を向けていたんですが……そういえば、私の為にあそこまで必死になるお父さんは初めて見ました」

「普段はレイニ様に余計な心労をかけさせまいと気を遣っていたのでしょうね……これは、落ち着いたら皆さまの監修の元家族会議が必要では?」

「……私もお父様とは似たようなすれ違いを起こした身ですからね。レイニとシアン男爵、どちらの心境も分かる気がします」

 

確かに、ユフィとグランツ公も似た感じだったね……それなら和解のやり口も同じ風がいいのかも。

貴族における親子関係って、やっぱりそういう風に良かれと思ってが蔓延してしまうものなのだろうか。

親は抱えているものが多いし、子も期待やら何やらと掛けられるものが多いし……。

──まあ、それを言ったら王族はどうなってしまうんだという話だけどね。

そう考えると、やはりマッドくんの在り方や周りには眩しくも思うし羨ましくも思ってしまう。

 

「互いに気を遣って距離を取ってばかりじゃあ何も解決しねえ。力と向き合ったら、次は今の家族と向き合わないとだ……そうだろ、レイニ?」

 

マッドくんが発破をかけるように尋ねると、レイニも静かに頷いた。

その目はこれまでとは違い、何かのきっかけを掴んだかのような……小さいながらも決意を秘めたものに様変わりしていた。

そうなると、何が何でもレイニの魔石の件はどうにかしないとだね。

 

「さて、心温まるお話の後はちょっと背筋が凍りそうなお話になってしまうけれど。根本的原因になる魔石、正直アレしか考えられないのよね」

「……この流れでどう切り出そうと悩んでいたところに容赦なくブチ込んでくれたわね、この陰険令嬢」

「あえて切り込み隊長になってあげたのよ、むしろ感謝してほしいくらいなんだけども」

 

あーはいはいありがとうございますー……って、いつもの芸はそれくらいにしておこう。

唐突な切り出しに、レイニもユフィも、何ならイリアまで何事かと吃驚しちゃってるみたいだし……。

……そこのぶっ飛び主従が全くのノーリアクションなのが気になるんだけど、まあそれは置いておくとしよう。

 

「とりあえず、この伝承なんだけど……ちょっと思い当たる節があると思わない?」

「ヴァンパイアについての御伽噺……っ、まさか、レイニがその身に宿した魔石というのは」

「魅了なんて七面倒くさいことしでかす連中なんて、それこそこっちじゃあヴァンパイアくらいじゃないかね」

 

──さもありなんと言わんばかりにあっさりと答え言っちゃうからこちとらたまったもんじゃないよ。

そもそも私だって、前世の知識があって熱中して調べ上げたという過程があってこそだというのに……守備範囲広すぎだってば。

やっぱりマッドくんって、私と同じく転生知識あるんじゃないのかな……むしろそうであって欲しいくらいなんだけども。

そして、どこかからかセラがすっごい見覚えのあるものを取り出しては皆に見えるように置いてくれてるんだけども。

 

「……ところでセラ、これどこから持って来たの?そもそもどういうものか分かってるよね?」

「マッド様の愛読書ジャンルの一角、『禁書』でございますね。やはりアニスフィア様も所持していましたか」

「今はこの屋敷の書庫で保管されているけれどもね。それにしても、相変わらずいい趣味しているわねマッド様」

 

いやいや、いい趣味とかそういう問題じゃないでしょうが……。

レイニは聞き覚えの無い単語で戸惑っているようだけど、空気で察したのか恐れ恐れ聞いてきた。

 

「えっと、禁書って……雰囲気的に持ってちゃいけなさそうなものに聞こえるんですけど……」

「端的に言えば、国にとって危険思想や物騒な技術に当てはまるものが記された書物だね。普通に罰せられるほどには持ってたらマズいし、愛読書にするほど蒐集するなんて以ての外なんだけど……」

「んなもんバレなきゃいいってだけの話さ。全く意味の無い下らない規則に従う謂れなんぞどこにもないね」

「私も以前は一緒に読んでいたので、もはや今更なことですね」

 

うん、表向き不良男児のマッドくんならそう言うと思ったよ。

ただ、その気に入らないという感情は完全な自分本位じゃないんだよなあ……。

長い付き合いでその辺りを理解しているからか、ユフィはむしろ苦笑程度で留まってるくらいだし。

……いや、禁書まで一緒になって読むなんて、そんな不良令嬢属性はいらないと思うんだけどね?

ツッコミを入れる気力?もう無いよそんなの……ユフィはすっかり染まってしまったんだ。

 

「このままだと愚痴だらけになるし、話を戻すとしましょう……この禁書についてだけど、端的に言うならヴァンパイアの始祖となるとある魔法使いについて書かれているわ」

 

再度ティルティが話を強引に戻しながら、セラが持ち出した禁書を開いて該当項目を探し始める。

私たちが持っているものと大差は無いからか、ページを捲るスピードはかなりのもので……あっという間に辿り着いたようだ。

 

「この魔法使いはひたすら魔法の深淵を追い求めて、結構なところまでは辿り着いているのよ。その過程はアニスフィア様と似ている部分も結構あるんじゃないかしら?」

「……完全否定はしないけど、その目的を考えたら同類視されるのは勘弁願うかな。私がこんな狂気染みたこと考えると思う?」

 

そんな強い部分否定をしながら、私は皆にとある部分を指し示した。

そこに書いてあるのは、その魔法使いの狂気を纏めたような文章だ。

 

「目的は『不老不死』、そしてその方法は……他者の血を奪い、それを糧とする……!?」

「ただの魔法では時間による老いばかりはどうにもならない……ならば他者を餌としてしまえばいいと」

「……清々しいくらいに外道ですね。探究心が過ぎるあまりに魂が腐ってしまったのでしょうか」

 

前世では吸血鬼なんて化け物の定番だったけど、こっちではやっぱり受け入れ難いんだろうね。

……ただ、イリアの言い分はなかなかこちらとしても刺さるものがある。

過程が同じだからこそ、あまり度が過ぎると私もそうなりかねないってことだからね。

 

「記されてるのは極端にアホな生き物ってだけだ。俺からすれば、人間だろうと人外だろうと関係ない。要は魂やら心やら精神やらだからな」

「……1500年の旅路を経てなお人間としての己を保ち、最後は主君の命を果たした忠節の騎士という存在もありますからね。私は可能な限りそう在りたいものですが」

「逆に言えば、短命な人間でも簡単に腐らせてしまう。どんなに些細でも、過剰にもなり得る能力を持ってしまったら猶更注意が必要ということよ」

 

対するこちらはまるでブレてない、というかもはや溜息混じりのご様子。

でも、マッドくんとティルティの言は説得力の塊とすら言えるし、先の3人もきっちり聞き入れたようだ。

というかセラ、まさか主と共に1500年も生きるつもりじゃないでしょうね……?

心意気の問題というのは分かってるんだけど、このぶっ飛び主従は本当に何をしでかすか分かったものじゃないし。

 

「もしこの魔石を制御下に置いたら、身体だけでもヴァンパイアになってしまうのでしょうか……」

「そこは奇天烈な姉上様が反例になるから安心しろ。こちらは飛行トカゲの魔石を身体に刻んでいざって時は羽やら爪を生やすなんてトンチキかましてるが、それでも普通に人間だからな」

「頭おかしいことはしてるけど人間の範疇は超えていない、そこだけがある意味では救いと言うべきかしらね」

「言いたい放題に聞こえますが、まるで正論ですね。反論がまるで浮かんできません」

 

こらユフィ、私の助手なんだから少しは庇って欲しいところなんだけど!

イリアもうんうんと頷く形で同調してるし……ああもう分かった、ここは私が道化だ道化!

でもみんな、何か一つだけ忘れてると思うからあえて言わせてもらうけども。

 

「ああもう、そうだよ私はいざって時にドラゴンになっちゃう奇天烈です!でもれっきとした人間のままだよ!ほらこれで安心!──はいいんだけどさ、レイニは本当にそれでもいいのかって話が先じゃないの!?」

 

とんとん拍子に話が進みそうになっているから、ここであえてストップをかけるべきだ。

どこまで行ってもこればかりはレイニ自身の問題であり、選択権は彼女にしかない。

 

「ありがとうございます、アニス様。でも、ここまで来てしまったら私がやれるやれないで悩む場面ではない……そう思うんです」

「……いいの?マッドくんとティルティが発する熱量に負けたとかそういうわけじゃないよね?」

「ここでやるべきことから逃げたら、それこそマドラーシュ様の言う人間脱落じゃないかって思うんです。私もユフィリア様のように、ちゃんとした人間としての生を歩み始めたい……皆さんのおかげで、前を向く決心が付きました」

 

そこまで言うならば、私からはもう何も言えない。

──みんなのおかげってレイニは言ってくれてるけど、最も大きいのはマッドくんの檄なんだろうなあ。

適度な厳しさも兼ねて情を向けてくれる相手なんて、レイニがこれまで一番恵まれなかったタイプの人材だろうし。

まあ、幸いというべきはユフィの立場を脅かすような状態ではないってことかな……今のところはだけど。

 

「やーっと本領入りか……誘導その他は任せた」

「弟子がやる気出したからってはっちゃけすぎるんじゃないわよ?──体内の様子を見るから、少しお手を拝借するわよ」

 

レイニの決心を聞き入れるや否や、問題児コンビが颯爽と行動に移っていた。

眼を瞑っている辺り、マッドくんは恐らくティルティを補佐するように全体の魔力の流れを読んでいるのだろう。

謁見の間で見せた悪魔的魔力運用は、恐らくその流れを知覚するの方向でも健在ということ。

魔道具の試運転でも、ピーキーな品の数々を一発で使いこなすその様は『弘法筆を選ばず』と言わんばかりだった。

恐らく、流すべき加減とかを発動させる瞬間で理解できていたのだろう。

 

「この様子、やはり魔石が起きていない感じね。──手っ取り早く行きましょうか」

「心臓ってのは人体の循環において最も大事な部分だ。魔石が存在してようがそこは変わらねえ……体に空気と血を巡らせるイメージをちゃんと起こせ。いつもと同じ呼吸に、ちょいと魔力を乗せてやれば……」

「……この流れを辿るんですね?それでいて、体内の巡りを意識して……っ!」

 

──くっ、ここで来たか静電気のような反応!

それはすなわち、魔石に宿りしヴァンパイアの力が起動されたということ。

 

「起きた魔石を介して魔力がきっちり巡るようになったようね。力の方はどう?」

「……マドラーシュ様の仰ったイメージを今も描いているのですが、そのお陰で魔石と……対話でしょうか?そんな感覚が生じていて……」

「それは魔石とその内を意識できるようになっているということ。──レイニ自身の自発的な意志もあって、魔石もきっちり応えている……悪くない傾向だな」

「その結果が早速外見にも出ているようですね。現状は眼と歯、この2つでしょうか」

 

セラに言われて全員がレイニの目と口を確認する。

……確かに、レイニの目の色は魔性を思わせるような赤に変わっていた。

また、さっきまでは見られなかった牙を思わせる歯も新たに生えている。

 

「これが魔石活性化の効果ということですか?薄っすらとですが、魔力の流れを感じますけれど……既に制御下にあるということですか?」

「これまた姉上が持つ刻印と同じ理屈さ。魔石を介して魔力を流せば、刻まれたイメージが身体的特徴として表出する……一番分かりやすい使い方こそが最もやりやすい制御法だ」

「逆に起きていなかったら本当に生命活動において邪魔になって、ただただ魔力と共に力そのものが漏れ出てしまっていたってわけ。ならいっそ、起動した上で安定させた方が手っ取り早いのよ」

 

そうか、魔石が妨げになっていたってこともあって魔力の流れも停滞一辺倒だったってわけだ。

そうなってくると、魔法の行使そのものが苦手というのも辻褄があってくる。

その原因となっている魔石が逆に循環器としての役割を果たせば、一気にその流れもスムーズそのものになるわけで……。

 

「──新鮮というか、すごい清々しい気分です。今まで何かある、でもそれ以外分からなかったのに……一気に靄が晴れた感じです」

「魅了の力は眼に集約されて魔眼になってるな。出力もまあまあ安定している──これなら一旦相殺魔力を解除してもいいか」

 

それだけ言うと、マッドくんはずっと展開していた魅了への対抗魔力を引っ込めた……っぽい。

いや、そもそも殆ど分かってなかったから発言を信じるしか無いんだけども。

……っていうか、ずっと素振りも見せずにそんなことしていてまるで動じないのもとんでもない気がするんだけども。

 

「大変お疲れ様でした。これでようやくマドラーシュ様がご不在でも大丈夫、ということですか?」

「それでも心配といえば心配だがな?魔眼殺し系統の何かを手配できれば尚良しだが……」

「いざという時はあちらをアテにするしかないようですね」

 

こら、今度は一体どこの誰をアテにしているというのだ。

偉志ノ大陸なら全然いいけど、しれっとアーイレン帝国とかカンバス王国で物騒なビジネスを展開しててもおかしくないからなあ……。

まあ、そっちはさておき……ようやく己の中の物と向き合えたレイニはどことなく浮足立っているようにすら見えた。

魔力の流れが正常になったと共に、これまでの薄幸だったり儚かったりな雰囲気は霧散している。

停滞していた時間の長さも考慮すれば、まるで別人のような空気になるのも頷けるけど……それにしたって差が激しくはないだろうか。

 

「眼と歯、今ちょっと爪を伸ばしてみているですが……他に何か変わったことってありませんか?」

「こら、制御出来るようになったからって調子に乗るんじゃない。この状態を至極当然として、いざって時に段階を引き上げることが出来て初めて半人前のラインだ。慢心で足元掬われたらそのまま転落しちまうってことを肝に銘じておくように」

「いやいや、そんなスパルタ全開なこと言っちゃダメでしょ。折角制御出来たんだから、まずはそれを祝ってあげないと……」

「イグノックス兄さんとかレオン先生なら絶対こう言ってるさ。慣れ始めた時が一番危険、これは万事共通事項だと」

 

いやいや確かにそうだけどいきなりそのノリは流石に、ねえ?

そんな熱血指導!な感じ、ついていけるわけないと思うよ?

こればかりはと思い、フォローしようとレイニに声を掛けようとしたんだけど……。

 

「そうですね、また逆戻りだけは私も真っ平ですから……心しますマドラーシュ様。いえ、マドラーシュ先生!」

 

そこにはまるで落胆の色は見受けられなかった。

──いや、むしろノリノリだったー!?

何だ何だ一体何が起きたのさ!?

 

「指摘も素直に受け取れるのはいいことだ!とりあえず、魔石を再度寝かさないというのを最低出力と定義して、そこから出力値を意識できるようにするのがとりあえずの目標にするぞ」

「じゃあ、一旦魔力の流れをギリギリまで抑えて……これは普通に出来るようになりましたね。ここから段階の引き上げを出来るように……」

「この分だと、最初は1割の魔力を爪に流せるように……といったところでしょうか。そこから次は歯だけ、魔眼だけ。そこから分配できるように……」

 

待って待った待ちなさい!

そこのぶっ飛び主従、何で更なる制御の段階に進もうとしてるのかな!?

レイニも思いっきりついていく気満々だし!

更に先生呼びって、どんだけ慕われちゃってるのさマッドくん!?

うう、今からユフィの反応を見るのが怖い!

……それにしても凄いね魔石の起動って。

ここまで宿主のキャラまで変えちゃうものなのか。

 

「楽しそうにしているところ水を差しちゃうけど、一旦休憩にしなさい。アンタたちのそのノリだと、今日1日でどこまでも突っ走りそうよ?」

「……っと、ついつい熱が入っちまったか。まあ魔石の起動直後で魔力も高揚気味だろうし、少しクールダウン入れなきゃか」

「休憩も鍛錬の内……これはあらゆる分野で通ずることですからね」

 

ティルティが珍しくまともなことを言ってマッドくんを制止してくれた。

この陰険ジメジメ令嬢のことだから、何か企んでいるんじゃないかとも思わなくもないが……私もちょっとばかり疲れているから丁度良かった。

レイニもマッドくんとセラの言うことを聞くべきと判断したのか、魔力操作を一旦止めた感じだ。

──というか、ティルティの言うことは割と素直に聞くんだねマッドくんって。

 

「そういえばユフィ、さっきから口数が減ってるけど……どうかしたの?」

「口を挟む必要が無かったということもありましたが、少々考え事をしていました。──些細なことなので、気にしなくても大丈夫ですよ」

 

まさかここまで来てマッドくんの女性関係に対しての嫉妬爆発……の割には、随分と考え込んでいるようだけども。

うーん、最近のユフィは突拍子もないことを考える節もあるからなあ……それこそマッドくんのように。

まあ、本人が気にしなくていいって言うならそのようにするべきかな。

色々疲れたし、とりあえず休憩だ休憩。

 





マッド先生爆誕(マテ)
書いてる内に「レイニに先生呼ばれるのアリじゃね?」と思いこうなりました。
素直だから影響を受けるのも早い、まあセリアードと似た感じですね。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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