さて、いよいよ後半というか本章のメインイベントに差し掛かってきます。
離宮に戻ってきてからのレイニの経過は順風満帆そのものだ。
自身の力が『ワケの分からない何か』から自分の制御下における能力にジャンプアップを果たしたのはよほど大きかったのだろう。
マドラーシュからの課題をルーチンのようにこなす傍ら、ユフィリアから勉強を教わるほどの前向きの姿勢、そして熱を見せている。
なお、魔法については殆ど触れていないのが現状なのだが。
これは成り行きで師匠的立ち位置になったマドラーシュからの意向であったりする。
『まずは魔石を通じた魔力制御が第一。魔法を並行して教えるのはむしろノイズになるから後回し』という、それらしい見解を述べていた。
それを聞いたアニスフィアは最初は首を傾げていたが、今となってはそれが最も合理的な解だということを理解していた。
「魔石に魔力を取られるが故の吸血衝動、ねえ……そんなところまでマッド様は予測していたのかしら?」
「ヴァンパイアと言えば吸血、そして血というのは諸々を考慮しない場合かなり効率のいい魔力供給物資。それくらいは何となくで行き着くもんじゃねえか?」
「それはマッド様の考えが三歩先を行っているだけでは?──まさか、ご自身で試したりとかしていませんよね?」
「ただの偉志ノ大陸書物からの引用だっての……こら傷を探そうとまさぐろうとすんな!ティルティ、吹き出してる暇があったら証言しろよ!」
なお、実証したのは確かである──実戦の上で。
最近接敵したヴァンパイアとの戦いで似たようなことを試したなどとは口が裂けても言えやしない。
そもそもマドラーシュの『トリーズン・ディスチャージ』で相手の魔力を奪って自身にとって益に変えるという変則スタイル、これこそヴァンパイアの吸血行為と似通っていると言える。
明確な魔法ないし能力、純粋魔力生物までしか対象に出来ないが、相手から奪うという意味ではまさに同じ穴の狢である。
マドラーシュの場合は奪った力に溺れんと自律を徹底する、ここが唯一かつ極めて大きな違いと言えるか。
人外じみた力も手綱さえ離さなければ、まあいつものことである。
「そうなると、例え魔力を節約できるようになってもいずれ補給は必要ってことよね……」
「そこも魔力の相性問題もあるからホイホイとってわけにも行かないんだよねー。血を魔力に変換するからある程度は誤魔化せるらしいけど……」
「……その、ええっと色々と問題が……」
何が問題か、そもそも問題じゃないところがあるのか。
いきなり起こったなんとも言えない微妙な沈黙を前にティルティは全てを察する。
決め手になったのは、レイニがマドラーシュにチラチラ視線を移していることである。
「──そういう修羅場的な呪いまで持ってるだなんて、本当に退屈しないわねアンタ」
「他人事みたいに言うんじゃねえよ、呪いオタクならご利益になる薬くらい用意しろや」
「天然人たらしにはちょうどいい呪いじゃない?レイニ、隙あらば貰っちゃうのも全然アリだからその気になったら言いなさい?」
「こら、マッドくん弄るついででレイニをからかうんじゃない」
そんなティルティの全力の揶揄うような言動に最も顕著に反応した者が別にいることは言うまでもないだろう。
マドラーシュはただただ溜息を吐くだけだが、しれっと隣に座る彼女はどこか気まずそうな表情をしているのだから。
……なお、その際にはきっちりと破天荒の脇腹を抓るというお約束付き。
まさに『はいはいいつもの夫婦漫才』、残りの3名は知ってたと言わんばかりに流していた。
それが出来る辺り、レイニもすっかりこの環境に慣れてきたと言ってもいいだろう。
「更に言うなら、私とユフィも含めて立場的にどうなんだってことになってね……相性もそこそこなイリアが一時的に補給役を担うことにはなったわけなんだけど」
「先のことを考えると、やはり効率的な対処法が欲しいところですね……」
「真っ先に上がるとすれば、輸血手段を応用する形だろうがな……ティルティ、その辺お互い漁ってみねえか?」
「面倒だけどやってみましょうか。アンタのところの書籍漁りなんていつぶりだったかしら」
ちなみに、マドラーシュの発言は半ば相槌のようなもの。
実際、目処を立てようと思えばこの面々の中ではぶっちぎりのイージーモードなのだから。
彼の交友関係の中には、まさにこの案件でドンピシャリと言える人物がいるわけで……。
そうでなくても、顕魂術を併用した魔力変化の手法があれば案外どうにかなるとも踏んでいる。
ティルティもその胸の内をきっちり理解した上で、あえて流れに乗っかったに過ぎない。
目も合わせずに即興で会わせる辺りは、やはり長年の共犯関係で培った阿吽の呼吸だろう。
「書物の精査でしたら私もお力になれるかと。新たな禁書に触れられるのでしたら、私としてもいい機会ですのでお手伝い致しますよ」
「おいおい自分から素行不良に飛び込むんじゃねえよこのご令嬢め……」
「いやそこは染まってきたことを喜んであげない?──私としてもどうなんだろうとは思うけどさ」
「え、ドラゴンの魔石を刻んだりその他色々やらかしてるアニス様がそれを言っちゃうんですか……?」
レイニのカウンターがものの見事に決まり、アニスフィアはきっちりと1発KOを貰う羽目となった。
少し前ならば確実に考えられない構図だが、これもまたレイニなりの成長と言えなくもないか。
──なお、このツッコミ技術を仕込んだのはマドラーシュであることは言うまでもない。
「さて、この場にヒエラルキー最下層に落ちかけている姫様に魔法省からお手紙が来ておりますが」
「だーれが口で勝てなくなってきた奇天烈バカイザー兼最下位ザー王女だって!?」
「誰もそこまで言っていません。イリアに八つ当たりは止めてあげてください」
どこぞの裏守備流だ、そう言わんばかりにハリセンシェル芸が炸裂する。
もはや魔剣兼魔杖というよりも戦闘用兼お笑い用になっているのは気のせいではない。
そしてアニスフィアが口走ったそのあだ名は、次の段階という意味ではむしろ末弟の方が近しいだろう……使用する顕魂術的な意味で。
「その様子、随分と嫌な内容っぽいな──強請りか?」
「実際そのようなものですね……端的に言えば、この間譲り受けた新種ドラゴンの素材について講演会の依頼ですが」
イリアの口から手紙の大まかな内容を知らされ、明らかにアニスフィアの表情は変化した。
それはもう盛大に苦虫を噛み潰したようなもので、作画崩壊一歩手前と言ってもいいレベルだ。
とはいえ、誰もそれを咎めることはしない……レイニは事情が分からないので何も言いようがないのだが。
「何でこう、そこそこ平穏だなーって時に面倒事持ってきてくれるのかな……」
「あの、魔法省からの依頼というわけで何でそこまで嫌な顔に……?」
この中で唯一認知がまっさらなレイニから質問が飛んでくるのは必然であった。
彼女自身、魔法省という組織を名前だけ知っているという状態でもある。
それに加えてアニスフィアたちの深い所の事情もまだ知らされていない。
温度差という意味で置いてけぼりにされるのは致し方ない。
「アニス様は魔法省との折り合いが致命的に悪いのよ。これまでも魔学の為の素材を手に入れても、その豊富な資金力と政治力を盾に妨害されたことが何度あったかことやらか」
「そういうティルティも一回だけ新薬を出した時にひどい目に遭ってたじゃん。魔法の理念に合わないだの何だの、それっぽい理由で開発停止とか成果を取り上げられたり……ああもう、過去を思い出すだけで腹が立ってくる!」
「……改めて私も思い返すと腸が煮えくり返ってくるわね」
「そ、そんな横暴が許されていいんですか……って、ユフィリア様?」
あまりに負のオーラを撒き散らすので思わず視線を外した先。
要するにマドラーシュとユフィリアを再度視界に入れることとなったのだが、少々ばかり違和感を覚える空気を醸し出していたのだ。
更に言うなら、ユフィリアの面持ちがどこか悲痛なものになっており……対するマドラーシュは苦笑を浮かべている。
「ったく、どういう顔をしてんだお前さんは。それがあっての今なんだ、いちいち憂いてどうする」
「……頭では分かっていても、飲み込み切れないことは私にだってあります。今はそういうことにしてください」
「まあ、気持ちだけ受け取っておいてやるさ」
明確に怒号という形で示したティルティとアニスフィアと異なり、ユフィリアから滲み出てくるものは特に濃密であった。
事情を知らないレイニはまだしも、ある程度のところは知っているアニスフィアとイリアも思わず驚きを見せてしまうほどには。
マドラーシュは半ば呆れこそ見せているが、堂々と憤怒を見せる友の姿に僅かながらの喜色も滲ませていたり。
「まあこいつの場合、因縁という意味では私とアニス様より時が長いわ溝が深いわでもっと大変よねえ……」
「……ユフィリア様はマッド先生の代わりに怒っている、ということなんですね?」
「やはり同じ貴族としてはどうかと思う面も多くて……正直かつ率直に言ってしまえば、とにかく気に入りませんし腹立たしいくらいです」
「もうそれだけで殴りかかっていけそうなこの空気でお察しってことだよ」
『あの』ユフィリアがそんな個人的感情を振りかざしていることと、そもそも魔法における稀代の天才が魔法省を毛嫌いしているというとんでもない事実。
事情を知らない者からすれば、これ以上に無い衝撃を引き起こすダブルパンチであろうことは想像に難しくない。
「それにしてもようやく落ち着き出したって時に来るなんて、厭らしいにもほどがあるわね……どのように返してやるのよ」
「それがすぐ出てきたら苦労しないよ。しかも私だけの問題じゃないってのが余計にタチが悪いったらありゃしない……ああもう、本当にやってくれるね!」
自分だけならば別にいくらだって悪評が出ても構わない。
しかし、今回はアニスフィアの助手としてユフィリアが、更に保護対象としてレイニを取り込んでいる状況だ。
どちらも騒動の渦中にいる人物ということも相まって、間接的に火の粉を貰いやすい立ち位置にいる。
特にレイニについては、事情に明るい者以外からすれば間違いなく邪推からのあらぬ陰謀に巻き込まれかねない。
彼女がシアン男爵と共に登城したあの日の状況もまた、その可能性を加速させている。
「これを下手に突っぱねたりしようものなら、あの時居合わせてたシャルトルーズ伯からどんな吹聴をされるか分かったものじゃない……それにあの時はマッドくんも盛大にかましてたし、その報復が特に怖いんだよね」
「姉上はレイニとユフィヘの影響だけ考えてろ。俺への火の粉は適当にかわすなりまた殴り返してやるまでのことだ」
「そこで殴り返すって選択肢が出てくるのは流石というべきなのでしょうが……マドラーシュ様の場合はむしろ相手の心配が必要では?」
「先生、あまりやりすぎないようにしてくださいね……?」
やりたい放題っぷりを知っていたり、やるときは苛烈にやる面を知るからこその懸念である。
ちなみに、レイニ以外は他方面からの追撃も恐れていたり。
──主に、彼を溺愛する兄貴分やら専属侍女が原因だ。
「まあ、マッド様のことを考慮しないとしても代償なしというわけには行かない……難しいところね」
「全くだよ……相変わらず突けるところは遠慮なく、本当に腹が立つ話だ」
行くにも引くにも二進も三進も行かないとはこのこと。
リスクを避けられないのならば、せめてどう分散するのが最適解なのか。
アニスフィアとしては、もう破れかぶれで行って最悪新種ドラゴンの素材は取られても構わないとすら考えつつある。
そもそもが現代最強冒険者のケルビムから譲り受けたものであるから、政治的な絡みでも易々と他者に譲ることはしたくはない。
が、それでもレイニとユフィリアへのあらぬ評と天秤をかけてしまえば……少なくともアニスフィアはそちらを切り捨てることは出来なかった。
「……魔法省がアニス様を気に入らないのであれば、矢面に立つ人物を変えればいいのではないですか?」
重い沈黙を振り払うように発せられたその言葉に、全員の視線がその主に集中する。
鶴の一声の主は、先ほどまで友(と思っているのは当人同士のみ)の為に憤怒を露わにしていた公爵令嬢だった。
その表情は鋭いことは変わらないのだが、何か決意のようなものを固めたような凛々しさを秘めている。
「その言い分だと……例えばユフィ、お前が代わりに講演するってことか?」
「アニス様に次ぐ適任者となれば、立場を考慮すると私になりますからね。協力者という意味ではティルティですが……アニス様と似た結果になるだけ焼け石に水になってしまいかねないかと」
「ハッキリ言ってくれてるけど、まあその通りね。むしろ余計なこと言って講演会場を大火事にしちゃうかもしれないもの」
「分かってるんだったら自分から火種を抑えればいいって話でしょうに……」
ちなみにマドラーシュの場合でもティルティと大差は無い。
彼自身は研究に携わっていなくても、その理論や構想、理念は常々聞いているし理解も深い。
しかし、彼は魔法省への嫌悪……否、憎悪の度合いが桁違いである。
この面々ではその内面を知る者ばかりではないので、彼が講演代打バッターを行った場合のイメージはそこそこに異なっていたり。
まさか新入りかつ保護対象のレイニにやらせるわけにも行かない。
アニスフィアが壇上に立たないとあれば、真っ当な次点候補がユフィリアになるのは必然であった。
「最大の問題は、アニス様と魔法省の軋轢と今の状況が嫌な形で絡み合いかわしようがないこと。後者はどうにもなりませんが、前者は緩和の余地があります。──私ならば、『まだ』魔法省と特に事を荒立てていませんからね」
「ぷっ……要するに今からやる気ってこと?裏ではグツグツ煮え滾らせて表向きは友好的ですまし顔しながら皮肉をぶちまけるって?なにそれ最高、採用よ採用面白すぎるわ」
「楽しそうに何言ってるのよ人格破綻者!ああもうユフィ、お願いだから真に受けないでよね!?ほら、マッドくんからも何か言ってあげて!」
節々に強気な空気を感じる物言いへの反応はまさに三者三様と言える。
楽しそうにするティルティ、対照的に慌てだすアニスフィア。
レイニはこれまで見たことの無い意外な一面に対して驚きを見せ、イリアは知ってたと言わんばかりに苦笑を浮かべる。
そもそもユフィリアをそのようにした張本人と言える男の反応は、ティルティとイリアの中間といったところであろうか。
むしろその内にある熱と芯の強さ、そして奥底にある何かを感じ取っているからか……どこかほくそ笑んですらいた。
「なら遠慮なく……お前がそうしたいってんなら一発派手にブチかましてやれ。それでこそ今のユフィだ、やりたいようにやっちまいな」
「そのご期待に沿えるよう、きっちり主役づくりはしておきますね」
「って火にニトログリセリン撒いちゃってるよこのやりたい放題第二王子ぃー!」
二人が不敵な笑みを交わすと共に、アニスフィアはそれはもう盛大にズッコけた。
もはやこれでは奇天烈王女系芸人と言われかねない惨状ですらある。
「えっと……私はアニス様と魔法省の軋轢が分からないんですけど、それでもユフィリア様が代わりに壇上に立った方が円滑になるというのは分かります。そこを理解した上でマッド先生も激励を送ってるんじゃないでしょうか」
「それに姫様、ユフィリア様がここまで覚悟を固めているのであれば余計なことを言うのはそれこそ野暮ではないでしょうか」
「トンチキなのは魔法由来だけにしておきなさい。そんなんだからマッド様の方が兄っぽく見えるのよ」
「……ああもう分かった、私も腹を括るよ!そして人が常々気にしていることをここで刺してくるの止めてよね引きこもり!」
ようやく講演会への対応については全会一致となった。
というより、元々アニスフィアとしてもユフィリアの代打という策が唯一の有効打ということは理解していた。
完全に反対していたわけでもないのだが……彼女が懸念していたのは当のユフィリアの状態だ。
まるで魔法省と対立しても別に構わないと言わんばかりの、一種の潔さすら感じられる勢いに思わず圧されかけたのだ。
そこから反射的に反対というか、ユフィリアを思い留まらせて冷静にさせようとした……ただそれだけのこと。
無論、そこには別の懸念もあったわけだが……それは本人のみぞ知るところだ。
「……ただ、どちらにせよ魔法省の面々を納得させるような話じゃないといけないのは変わりはない。そこのところは大丈夫なわけ?」
「そこはご心配には及びませんとも。誰かさんをぎゃふんと言わせるよりはよほど容易なことですし」
「その『華麗に引導を叩きつけましょう』なんて顔しているからこそ心配なんだってば!さっきも言ったけど、炎上講演会なんてのは勘弁だからね!?」
法廷にでも立とうものなら、発想の逆転でもさせていそうな顔つきと言えるか。
ある意味では頼もしさ溢れる姿に見え、レイニとイリアもどこか安心感を覚えるほどだ。
マドラーシュとティルティは煽っている側だからこそ、ただただ面白そうにするのみ。
──その中で色々と気をやっては慌てるアニスフィアは、完全に孤立無援状態であった。
こうして工房に引き籠る時間が出来たのはいつぶりになってしまうのだろうか。
結局姉上が王位継承復権してから、裏でバチクソ動く羽目になっちまったからねえ……。
まあ、そのお陰で面白いサンプルと共に意気揚々な弟子を迎えられたからプラスも大きい。
しかも姉上の方にも益をもたらせられただろうし、まさに一石二鳥……いや三鳥とすら言えるか。
「この工房も完全に変異体の見本市になったじゃない。こちとら呪術開発のモチベーションが青天井で夜も眠れないわね」
「ここで寝落ちしたって誰も運んでやらねえからな?セラとプリシラにも、何ならオルタとジュンにもそう言い聞かせておくし」
「ユフィリア様とは随分と扱いの差が激しいのねえ……別に姉貴分である私にも優しくしてくれたっていいんじゃないかしら?」
半ば押しかけでここに来たくせに何を言い出すのやらかだな。
それと、ユフィの場合はあくまで奇襲でやられたってだけで普段からあんなことするつもりは毛頭ないっての。
──と、当たり前のようにこの工房にいる呪いオタク令嬢ことティルティだが、これは単に冷やかしにきたとかそういうわけではない。
早い話、自身が住む別邸と王宮の間を行き来する手間を省くため……まあ、宿代わりってやつだ。
レイニの定期健診及び予後調査の為には、それなりの頻度で姉上側の離宮に顔を出さなければならねえらしいからな。
そのついでで飛行トカゲの魔石をその身に刻んだ姉上の方も診ているらしいし。
……そこまではいいんだが、ここで片手間のように自分の研究も進めるってどういう了見なんだか。
「マッド、来たよー……って呪い大好きなコーシャクレイジョーもいるの!?」
「やっと来たのね、噂の妖精様に記憶を読み取れる特殊能力持ちの箱入りお嬢様!さあここに座って、ちょっと色々診させてちょうだいな!」
「え、えええ!?マ、マッド様これはどういう……」
「バカ呪いオタク、セリアードをおかしな道に引きずり込んだら俺とラスがただじゃおかねえからな?」
ああくそ、読んではいたけどタイミング悪い!
今回セリアードには重要な役目があるし、時間も無いので早急にティルティを引っぺがしてやる。
……姉上と違って背丈はある分、猫のように掴むのは無理があるから多少強引になってしまうのは許せ。
まあ引きこもり生活のせいか華奢な方で、かなり軽いんだがね……ジュンと似たり寄ったりかもしれん。
「ちょっと、何もアニスフィア様と同じような扱いする必要はないんじゃないかしら?」
「首根っこ掴んでない分マシだと思え。また綺麗に投げられたいってんならお望みどおりにしてやるが」
「わ、私は大丈夫ですから!マッド様、お姉さんと同じ立ち位置の人をそうそう投げたりしちゃダメですよ!」
しゃあねえ、セリアードがそこまで言うなら離してやるか。
ったく、心優しい箱入り娘に感謝することだな……っと、手短に済ませないといけねえんだった。
とりあえず、検品対象となるそのブツを取り出してはセリアードに手渡した。
それを見た瞬間、ティルティは即座に苦笑を浮かべてくれる。
ついさっきあっちの離宮で見たから、まあそういう反応になるのが当然だろうよ。
「全く、手際がいいというか手癖が悪いというか……バレたら挟み撃ち待ったなしじゃない?」
「カルシオン仕込みナメるな、そんなヘマはしねえっての。それに今のユフィならそんなことしねえだろ?」
「……まあ、知ってたって感じで流しそうよねえ。砂糖吐きたくなってきたわ」
共犯者よろしくなやり取り、互いに浮かべるのはまさに悪い笑み。
まあ、わざわざ手がかりを用意してくれたんだったら拝借しないわけには行かねえだろ?
「この手紙の宛名、アニスフィア様になってますけど……マッド様、ひょっとして?」
「流石にお姉さん宛ての手紙を盗むのはアウトだと思うんだけどー!?」
「後でこっそり返すから問題ないっての。姉上の既読も確認してあるし、まあいくらでも誤魔化せるさ」
「ええー、それって適当過ぎない?──後でどうなっても、知らぬ存ぜぬを貫くからね?」
言われるまでもねえっての……さて、改めて書かれている内容を確認する。
……相変わらずダラダラと、至って貴族様らしさ全開の文章だねえ。
講演会の日時以外まるで内容が無く、まともに読むだけ時間の無駄だなこりゃ。
とりあえず、その辺りの事情が分からないセリアードとロム助には一通り説明は挟んでおくとしよう。
「まあ、ぱっと見は穏健そうな講演会の誘いだが……その実はただの難癖付け、あわよくば姉上の持つ素材の強奪が狙いさ」
「……ひどい。アニスフィア様の魔学が世の為人の為になっているのは歴然とした事実なのに、その邪魔をするだなんて……貴族として本当にそれでいいのですか?」
「これこそが私とマッド様が連中を大いに嫌う理由よ。既得権益に縋り、貴方たちの上でふんぞり返って──そんな慢心だらけだからこんな致命的な手がかりを残すんでしょうけど」
「致命的って……この手紙が?講演会の日時以外のどこかに暗号とかあったりするの?」
そう言いながらロム助は必死に文面を眺めるが、そんなのあるわけねえだろうが。
半ば敵対している相手に渡す手紙で暗号なんざやるだけ手間が無駄にかかるだけだからな。
大事なのは手紙の中身ではなく、姉上を招く講演会を開くと告知するのがこのタイミングであるってことだ。
受け取った姉上にとってはいつもの嫌がらせや難癖にしか見えないだろうが、俺たち側にとっては意味合いが変わってくる。
「俺たちだけが見えている状況と照らし合わせてみろロム助。そうすれば自ずと答えは出てくる。──セリアードは分かってるようだぜ?」
「この手紙に残った記憶を読み取るんですね?むしろ私にはそれしか出来ないのですが……」
「手紙の記憶に、私たちだけが見えてる状況?……ああ、そうか!この講演会で何か企んで、その裏でダンシャクレイジョーに何かするとか、そういうことだね!」
はい、ロム助合格。
実際はレイニだけじゃねえだろうが……目的の一つである可能性は極めて高い。
そうじゃなければ、わざわざ流れ者のヴァンパイアに投資なんかまず有り得ねえし。
ならレイニ周辺の守り……要するに姉上側の離宮の守りを固めればいいのかって言われたらそう問屋は降ろさない。
そこでネックになってくるのは、ここ最近急増している人工的に魔石に変異をもたらされた魔物の存在だ。
俺が出くわした異常な再生能力を持つヴァンパイアやら人造人間(ホムンクルス)、ジュンとプリシラが遭遇した飛行トカゲの能力を扱うバジリスク。
どいつもこいつもキーストーンの力が用いられた調整体で、こんなのに群がられたら流石に面倒にも程がある。
──そんなところでこんな手がかりを持ってきてくれるんだ、なかなか相手も間抜けというか、慢心が過ぎるものだよな。
「……どうしてもぼやけているところはありますが、講演会自体は『囮であり、檻でもある』らしいです。それと、本命はやはりレイニさんですね……これは確実だと思います」
「魔力の流れは感じるけど、まるで見たことないものね……セリアード、貴女ヴァンパイアより面白いわよ?」
「ちょっとちょっとー、それって褒めてるように聞こえないんだけど?」
ロム助、この呪いオタクの言うことを真正面から受け取るなっての。
コイツの言動捻くれ度合いはジュンとかカルトに匹敵すると思った方がむしろ楽だし。
「お疲れさん、セリアード。面倒な真似させちまって悪かったな」
「いえ、マッド様から教わった魔力操作や精神統一が役に立ったのかそこまで負担はなかったです……この力に慣れてきたからでしょうか?」
ノヒルリアの時が最初だから、これでもう5回目くらいか。
物の記憶って時点で初めてでこそあったが、創作物ではむしろそれこそが記憶読み取りの基本って書かれてたくらいだ。
それを参考にしてやらせてみたんだが、まあ無事に済んでマジで良かったぜ。
さて、次は読み取ってくれた記憶の精査だが……。
「囮と共に檻……レイニが本命って言うんなら、その為の障害足り得るアニスフィア様やユフィリア様を誘き出して、事が終わるまで講演会の会場に閉じ込めようって辺りが妥当かしらね」
「……最悪、擬態できる魔石持ちを紛れ込ませてぶつける可能性まであるか。ゴーストナイトとかウィスパー、人造人間……他にも鬼札を切ってくるかもしれねえ」
「それって、オルタを襲った呪術師みたいなのも出てくるかもってことだよね?この間研究所を潰した時も似たようなのがいたし、今回もそうだったら……」
ラス達がオルタと初めて会った時の、例の呪術師か……しかも以前に違法研究所潰しの時にも出てきやがったと。
改造魔石を宿した魔物の存在は明らかだし、恐らくテイマー的存在が出てくる可能性も高い……その裏付けも出来たってわけだ。
まあ、何にせよ方針はだいぶ固めやすくなったな。
講演会会場がそのまま乱戦上等の戦場になりかねないってんなら、それこそ適性戦力が必要になるわけだし。
「その様子だと、猫の手も借りたいってところじゃない?」
「何だティルティ、この王宮人魔大戦のキャスト参戦希望なのか?」
「ユフィリア様が講演会で啖呵をかますまでが第一部、その後の第二部でアンタ達が大暴れする。──そんな面白い舞台、助演という特等席で見物しなければ勿体ないじゃない」
「物好きな奴め、それでこそ俺の共犯者だよ」
実際、ティルティが加勢するとなればかなりありがたい。
精霊に魔力を食われ尽くすという欠点を除けば、魔法を使っていた頃でもユフィに匹敵するんじゃないかって誰かが言ってたしな。
それほどの豪傑が、グランナイツと並ぶ顕魂術初期テスターと来れば……まあ、想像つくだろ?
そうなると、ティルティが講演会場に着くってこと前提で他の割り振り決めなきゃか。
「セリアード、他の面々ってどれくらい残ってる?」
「オルタさんとジュンちゃん以外は離宮かグランナイツ会館で見かけました!」
「セリアード含めて6人が揃ってればひとまずはヨシ!久々発動速攻魔法呼び鈴!」
効果は……言うまでもねえよな?
ちなみに結構酷使しているから年2くらいのペースで交換しているのはここだけの話である。
「呼ばれて飛び出ては至高の下僕、酷使無双上等でございます」
「セラ先輩がそう自称するのであれば、私は火の車大車輪……あ、これではローカルですね」
「折角ポーズ決めて登場してるのに何言ってるか全然分からないんだけどー!?」
そりゃあ例の賭博の役だ、お前ら二人が疑問符浮かべて当然だろうよ。
セラは時折俺と混ざって切った張ったしてたし、プリシラもV3社所属時代に潜入がてらやってたみたいだし?
まあ、何にせよやる気に満ち溢れているってことでとっとと頼んでおいた。
──さて、今度こそよからぬことを始めようじゃあないか。
無論、連中にとってのだけどな!
セリアードのサイコメトラー能力の有効活用。
グランサガ本編でも割と行われた手口であり、当然転天世界でもぶっ刺さりです。
箱入りだったりと色々ハンデありスタートでもセリアードが役目を持つことが出来る理由でもありますね。
色々人間やめてるマドラーシュと組んだら、そりゃあ情報戦は強いでしょということで。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
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転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)