転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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【朗報】遂に転天キャラ登場
分割状態8話目でようやくかよ!
そして遂に始まる原作ブレイク工業。
百合を求めるなら早々に踵を返しましょう。


8.破天荒のその出会いは最悪なもので?

 

結果から言うと、説教自体は大して長引かなかった。

デイジー師匠曰く

 

『ドラゴンを狩るのは別にいいけど、実験台のように倒して挙句変な騒ぎにするのはダメ』

 

とのことだ。

要は実験がてらワンショットキルするんじゃないってことなんだが……。

いやでもさ、目新しくて面白い効果があるんだからついつい試しちゃうものだろう師匠よ。

『新しく手に入れたものはとりあえず試せ』って、どっかの家訓でもなかったっけ?

更に言うなら、その辺の雑魚だと実験にもならんのも問題なんだよ。

あのトカゲくらいにある程度はタフで、更に多少の抵抗はしてくれないとモルモットにもならねえし。

──無論そんな口答えは一切してないけどね。

したら夕飯抜きになりかねなかったし。

では見た目従順にしていて、説教が早めに済んだはずなのに何で時間が結構経っているのか。

夕飯の仕込み手伝ったからだよ……あれ、俺王族だよね一応。

結構食材の量が多くなったことから、本日は参加できるメンバーで一緒に夕食にしちゃおうって話だからだ。

グランナイツで現在王都にいるメンバー、俺、ラス、セラ。後ラスと俺の友人をもう一人誘っている。

セラもデイジー師匠と共に調理に回っていたし、俺も何かした方がいいとは思ってたからいいんだけどさ。

王族らしくない?別に家事が多少は出来る王族がいて何か問題あるのか?

侍女の仕事を取るのは流石にどうかと思うがな。

よっぽど手が空いてなさそうなら手伝っても罰は当たらんだろうよ。

それに顕魂術使用の際の魔力制御訓練とか繊細作業による集中力養ったりも出来るし、今までとは違う筋肉鍛えたり出来るからな。

後者はデイジー師匠の受け売りで、だいぶ前にイグノックス兄さんと一緒になって家事手伝いした時に言ってたことなんだが……。

その効果があったかは分からんけどな。

単にイグノックス兄さんをやる気にさせるための方便じゃないかって説もあるし。

ちなみにそんなイグノックス兄さんは特に掃除でやる気を出すタイプのようで、クリスティーナ姉さんにしょっちゅう笑われてるんだよな。

あの真面目な鉄面皮でやってることが掃除ってのは確かにシュールな光景だが、それにしたって笑い過ぎだったなあ。

そして何だかんだで煽りで返して、何故か競うように一緒に作業をしてるんだよなあの二人って。

前から思ってたんだが、アンタらはよ付き合えっての。

デイジー師匠とエリオ姉さんもずっと裏で悶々としてるぞ。

さて、話を戻すと俺は離宮にある顕魂術研究の為の工房に足を運んでいる。

魔石とか他の素材をあらたかた倉庫にぶち込むためだ。

一応国宝級のドラゴンの魔石も混ざっているし、いつまでも持ち歩いて面倒ごとからやってくるなんてのは勘弁願うからな。

そんなわけで、偉志ノ大陸で仕込まれた気配同調術と共にそそくさと移動する。

まあこっちの離宮にはほぼ誰も来ないから、見咎められることなんて考えづらいが……念には念をってことで。

特に何事もなく全ての素材を倉庫に放り込んで……。

で、流石に魔石はちゃんと保管しておくでヨシ!っと。

一応資金源としては使えなくもないし、保存状態は良好に保っておかねえともったいない。

保管作業を無事に終え、工房から出て暫く歩いた辺りで物珍しいものが視界に入った。

──待て、気配同調と共に魔力の流れは常に探知していたはずだぞ。

……何でそこに人間がいるんだ?

身なりからして貴族なのは1発で分かるな、そして恐らく俺と同年代。

なお全く見覚えが無い。

いや、貴族の知り合いなんて一人しかいねえから当たり前なんだが。

白銀色の髪、距離的に確認できる瞳の色はピンクってところか?

容姿は100人見て100人美少女と回答一致ってところか?

……そこは正直どうでもいい気がするが。

貴族の娘で類似する外見がいたような、いなかったような……即座には出てこないな。

そして、その纏う気配というか雰囲気は……。

 

「──ちっ」

 

それを感じ取った途端、無意識で舌打ちをしていた。

そこに込められた感情は、その行動通りの怒りと侮蔑だ。

あの時、初めて魔法を見た時と似たような……いや、少しばかり趣が異なるなこれは。

あの時のような爆発的な憤怒ではない。

ジワジワと這いよって寄り付かれるようなもの……総合すると不快感ってやつか。

更にそれらに乗じる形ですっげえイライラしてきた。

 

「こんなつまらないところで何してるんだ、お人形さん?」

 

俺は見ず知らずの御令嬢にいきなり暴言を吐き捨てていた。

怒りも嘲りも、何もかも隠すつもりもない俺らしさの欠片もない行動である。

見るだけでも分かってしまうほどのあの令嬢のお利口さんっぷりはどうにも反吐が出てきてしまう。

具体的な理は知らねえ、とにかくムカつくから仕方ねえだろ。

そういや、もはや言葉の殴り合いとすら言えるような口喧嘩ってのは初めてだったな。

ああもうどうにでもなっちまえ。

今はとにかく、この沸騰しかねない状態の怒りを嘲笑とともにぶちまけたい気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お父様に帯同する形で私は王宮を訪れていた。

陛下や他の有力貴族との話し合いがなかなか時間がかかるとのことで、言われるがままに婚約者と顔を合わせてきた。

本当に顔を合わせるだけで、ほとんど何もない時間が過ぎるばかりでしたが……。

その後は特に理由もなく、ただ当てもなく王宮敷地内を歩いていた。

まるで何かを探しているように徘徊するこの様子を、私のことを知る者が見たら果たして何を思うのだろうか。

──特に何も聞こえない辺り、今私がいるのは人気がまるでない場所なのでしょう。

無意識にそんな場所に来てしまうなんて……見えないところで疲労があるのだろうか。

私の立場上、それは易々と表に出してはいけない余分なものだ。

──ああ、息を入れ直したいから誰もいないところを求めていたのでしょう。

私は公爵令嬢として、次期王妃として国を背負っていく義務がある。

そのためならば、己を律するのは普通のこと。

疲弊など感じていていいのかと問われたら──

 

「──この程度で疲れていてはダメでしょう」

 

感じていた疲弊を押し込み、どこまで来てしまったのかとそれとなく見回す。

──同時に、私は強烈な違和感に襲われた。

王宮にはお父様に帯同する形でそれこそ何度も訪れている。

それなのに、今いるこの場所は……まるで覚えが無かった。

建造上の作りは細やかな違いこそあれ、王宮とそこまで差はない。

しかし、場の雰囲気が……空気がまるで違う。

別世界に迷い込んでしまったのかと錯覚してしまうほどだった。

その差異を完全に認識すると、私の理性は即座にこの場を離れることを選択しようとしていた。

『とにかく離れろ』、どこからか聞こえるそんな声がとにかく五月蠅かった。

 

「こんなつまらないところで何してるんだ、お人形さん?」

 

遮るように聞こえてきた声によってそれは叶いませんでしたが。

声が聞こえてきた方に目を向けると、婚約者と同じ白金色の髪にアメジストの瞳を持つ男子がそこにいた。

見たところ、年は私と同じくらいだろうか。

衣装からして高貴の出であろうことは間違いないだろう。

しかし、王族と同じ髪色を持つ貴族はこの国でいただろうか……私には覚えが無い。

そんな人物から発せられた言葉には、わかりやすく侮蔑が入り混じっていた。

顔も見たこともない同年代の暴言ともとれるその発言は、本来の私ならば普通に無視できる……はずでした。

……何故か、今回に限っては言われっぱなしというのが癪だという感情が湧いて出てきた。

彼の言葉に、心の底から反発心が生まれたのだ。

次期王妃の道が決まったあの時、不要と判断して捨て去ったはずの感情のはずなのに……何故?

それもこれほどの激情は、ユフィリア・マゼンタの12年の中でも生まれて初めてのものだった。

もう、どうにでもなってしまえばいい。

この激情に身を任せて、捨てていたはずのものを凄くこの場に撒き散らしてしまいたい。

私は何故か、そんな気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、双方の胸中はこれまでに無かったもので埋め尽くされていた。

世界を支配する欺瞞に一種の破壊衝動を抱え、先人への憧れを昇華して破天荒の道を歩んできた代替品の張りぼて王子……マドラーシュ・リヴェ・パレッティア。

ひたすら国の為にと己を殺してきた、あらゆる感情を殺してその役というか駒に殉じてきた公爵令嬢……ユフィリア・マゼンタ。

その内に在るものすら対極である二人の出会いは、見事なまでに最悪な始まりとすら言えた。

 

「そのお人形さん、というのは私のことでしょうか。随分と言葉の選び方が稚拙ですね。見たところ貴族のようですが、ちゃんと教育は受けたのですか?」

「やれやれ、この上なく簡単な言葉を選んだつもりだがな。感情を殺して表情も作り物。人形に何かが憑いて動いてるっていう三流怪談そのものじゃねえか。今どきの貴族は人形に変装するよう教育を受けるものなのか?」

 

まさに売り言葉に買い言葉、言葉のナイフによる切り合いだ。

マドラーシュ側は自身の兄貴分2名の皮肉を参考にして返している辺りは流石と言うべきなのか、無駄に頭を使っていると言うべきなのか。

ちなみに、令嬢……ユフィリア側はマドラーシュが王子だと気づいている様子はない。

気付いていたとしても、何か変わるのかと言われたらそれは否なのだろうが。

 

「口調から育ちの悪さが丸わかりですね。親の顔が見てみたいものです。学院には通っていないのですか?それとも通えるだけの頭ではないのですか?既に救いようがないのですね」

「個人的に最高級の教育を現在進行形でも受けているがね。それこそそちらとは比較するのが烏滸がましいくらいのものをな。学院?やれやれ、あそこに通ってることでマウントを取るとは、まさに井の中の蛙だな。ああ、カエルに失礼か。アレはお人形と違ってなかなかに愛嬌がある」

 

果たしてこの言い争いはどこまでもエスカレートしていくのか。

貴族と王族とは言え互いは同年代……というか同い年。

要するに、立場を除外してしまえば12歳の子供が相対しているだけだ。

そんな状態で言論における泥仕合(マドラーシュ側がやや有利に見えるがそれすら投げ捨てている)となれば……。

 

「もうなんなのですか貴方は!ああ言えばこう言う、反論を思いつくのは本当に早いですね!そういう弁論でしたら私よりもっと相応しい相手がいるのでは!?後私は人形ではありません!バカなのですか貴方は!」

「俺の視界でそんな生気感じられねえ面構えでいるのが悪いんだよ!人形じゃねえんだったらまともに表情筋動かして、もうちょい反論しがいのある言葉使ってみろ!後バカって最初に言った方がバカなんだよバーカ!」

 

論理性も何もない罵り合いの始まり始まりである。

もはや互いの地位に見合う品も何もあったものではない、12歳同士のヒートアップしすぎただけの口喧嘩だ。

ちなみにマドラーシュ側はこれまた兄貴分の片割れの丸パクリが含まれている。明らかに無駄なことをストックしている気がする。

互いに手が出てないのが奇跡だが、そこは互いが誇る教育の賜物なのだろう。

無論この激しい口論は周囲に誰か……例えばデイジーやラインヒルトがいたらもう絶対に止めている光景だろう。

しかし、言い争い現場はマドラーシュ在住の離宮であることはまさに幸運だろう。

彼の身内以外ほぼ誰も寄り付かない一種の伏魔殿で、派手に言い争っても殆ど聞こえない。

止められるであろう者が軒並みグランナイツ会館にいるということは、果たして幸か不幸かは読めないところだが。

ちなみに、言い争いの結果など言うまでもないだろう。

そもそも、明確な論点が無い口喧嘩など勝敗の定義が無い戦いの代表例なのだ。

お互いに言いたい放題言った後、マドラーシュとユフィリアはぴったり同時に息切れした。

そして互いに発散するだけ発散したからか、唐突に平静を取り戻す。

……この場合、取り戻してしまったとも言うべきか。

そこから何を言うわけでもなくそのまま別れたのは、あまりの気まずさからなのは言うまでもないだろう。

泥仕合になった口喧嘩に勝者などいるわけがなく、どちらも敗者になるのが世の常。

その悲しい現実を、二人して初めて知った奇妙な一幕でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……完全にやってしまいました。

なんであんな、私らしくない言い争いをしてしまったのでしょうか。

確かに、あそこまで正面切って悪口を言われたのは初めてのことでした。

主に同性からの悪口も、軒並み陰口という陰湿な形でしか聞いたことがなかったから。

無論、そんなあることないことで心を乱したことなどただの一度もありません。

次期国王であるアルガルド様の婚約者である私を妬むのは、貴族の界隈ではよくあることと流せますからね。

 

「何であんなに私は怒っていたのでしょう……」

 

しかし、先ほどの彼の悪口は完全に一線を画していた。

いつものように流せば良かったのに……あの時の私は何故かそれが出来なかった。

彼の言うことに悉く反発を覚えてしまった。

その上で、何かかしらか反論しなければ気が済まなかった。

──最初に言われた人形という言葉が原因?

幼い頃にも同じことを言われたような記憶はありますが……。

ただ、あの頃は分かりやすい容姿の話だったので、特に不快感は覚えなかったはず。

対して先ほどは明確な不快感……いえ、これは今なら違うと断言できますね。

 

「思い返せば、否定したり揚げ足を取ってばかりでしたね……」

 

あの時の自分は、ひたすら相手を否定したり揚げ足を取ったりしてばかりでした。

まるで、言われたくなかったことに対して遠ざけろと言わんばかりに。

そこを前提に更に私は彼の言葉を思い返すと……。

 

「口調の悪さがあまりに目立っていましたが……思えば、指摘という意図もあったのでしょうか……」

 

随分と皮肉混ざりで分かりづらいことこの上ないのですが……。

もしあの最初の発言からして、そういう意図が混ざっていたとしたら?

──私の中に思い当たる節はあるにはある。

だが、どうしてもそれを認めたくない……いや、認めてはならない。

それは、今の自分の生を支える重要な柱なのだから。

そこを崩したら……恐らく公爵令嬢という肩書以外の何もかもが無くなってしまう。

否、その肩書すらも無くなって、文字通り何も……いや、止めましょう。

そんなことを考え出したら永遠の負の螺旋に陥ってしまいそうだ。

別のことを考えなければ……と、新たに思い直すのは彼の容姿だ。

ところどころでアルガルド様に似ているところがありました。

瞳の色こそ違いますが……髪についてはアルガルド様だけでなく何度か目にしたことがあるアニスフィア様とも同じ白金色でした。

そう考えると、面影もあると言えばあったような……。

 

「実は血縁関係?でも、他に兄弟は……!」

 

ここで私は思い出しました。

パレッティア王家には、次期国王のアルガルド様と王位を捨てた通称奇天烈王女のアニスフィア様と……そしてもう一人、次男がいらしたはず。

アルガルド様の双子の弟で、それが故に国を割りかねないと最初から王位継承権があってないようなものとなった……。

 

「──マドラーシュ・リヴェ・パレッティア様」

 

アニスフィア様と同じく、魔法が使えないことで無能の王族という烙印を押されてしまった……アルガルド様の代替品と称されている第二王子。

かろうじて聞いたことがあるのは、その扱いに嫌気が差して教育係を振り回しながら外に出てばかりの放浪王子ということくらい。

表向きの実績も何も無いから、国内の存在価値が疑われているということも耳にしたことがあります。

平民からも話題など全く上がっていないらしい。

教育係は何故か、そんな彼に付き従っているって話もあるが……。

いや、そこまでは今はいいです。

大事なことはそんなことではないのですから。

 

「わ、私はなんてことを……!」

 

そう、私は明らかにとんでもないことをしでかしていた。

いくら実質あってないような代替扱いの継承権第二位で、貴族からももはやいない者扱いを受けているとはいえ……血筋は正統な王族に連なるのは間違いない。

そんな方に、私は激昂しながら面と向かって何と言いました?

『親の顔を見てみたい』……『学院に通える頭が無い』……『ちゃんと教育は受けたのですか』……他にも色々と。

 

「親って、国王陛下と王妃様でしょう!完全にやらかしていますね私!誰がどう見ても、とんでもない不敬者ですよね!?」

 

思わず声に出してしまっていた。

慌てて周りを見渡すが……誰にも聞かれていないようだ。

しかし、そんなことで安心している場合ではない。

もしこのことをマドラーシュ様が誰かの耳に入れてしまったら?

ちょっとした会話の弾みから噂になって、国王陛下と王妃様がこのことを知ったら……!

 

「早急に謝罪しなければ……私たちだけの問題じゃなくなったらそれこそとんでもないことに……!」

 

最悪の状況が脳裏に浮かんでしまい、私はもう居ても立ってもいられなくなってしまった。

幸い、お父様はまだ迎えに来る様子はない。

踵を返すまでの一部始終を目撃した者はいない……はず!

この時、そんなことを気にしている余裕なんて微塵もありませんでした。

早くこの洒落にならない危機を、何とか乗り切らなければ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……さっきはものの見事にやってしまった。

普段の俺ならもっと上手く抑えて立ち回るだろうに、一体どうしたって言うんだ?

アイツの様子にいきなりイライラしてきて、あちらも売り言葉に買い言葉で。

俺もそれに返す形でものの見事な泥沼底なし沼となってしまった。

これ、母上は当然としても父上に知られたら拳骨ものじゃねえか?

あっちは俺のこと第二王子って認識出来てなかったっぽいのが救いかもだが……。

変装とか全くしてなかったし、どんな拍子で思い出すか分かったもんじゃねえぞ。

 

「ねえマッドー、何であんなところで女の子と口喧嘩してたの?」

 

そうそう、何で俺はあんな口喧嘩を……ん?

おいおいおい?この天才兼天災ミケ族、今何をのたまいやがった?

 

「キュイ……お前、見てたのか?」

「マッドを探しに工房に行こうって思って向かったらさ、怒鳴り声が聞こえてきてね?色々珍しかったからつい覗いちゃったんだー」

 

キュイはラスと俺の友人に当たるミケ族だ。

きっかけはあちらが迷子になっていたからとかラスが変だから友達になってあげたとか証言が一致せずあやふやだが、まあ友人関係だ。

貴族や王族でもないはずが、何故か魔法が使える異端児でもある。

ただその魔法の使用を盛大に失敗して、恐れられて村から追い出され王都に流れ着いたらしい。

流れ着く前の経験からなのか、凄い守銭奴かつ金儲けに目が無い随分と危なっかしいところもある。

魔法が使える才を生かすため、俺の顕魂術研究を手伝ってくれているが、その度に報酬要求してくる困った面も。

あーそうか、そりゃああの場にいてもおかしくねえよな。

完全に口喧嘩に意識集中してて失念してた……気配は常に探らねえとダメだろ俺。

ミケ族はただでさえ基本小柄だから、気配の方で探らねえとほぼ見失うんだよな。

 

「マッドが口喧嘩してて、しかも相手は女の子だって?キュイお嬢ちゃん、その話詳しく頼めるか?」

 

いや、今はそれどころじゃない。

カルシオンのこの発言から始まってこの場の関心が完全に俺に集中してやがる。

発端となったカルシオンも明らかにイヤーな笑み浮かべてやがるし。

ぜってー何か勘違いしてやがるぞこの顔は。

そもそも何でそういう方向に向かうかが理解できないが。

 

「え、工房に行く途中ってことはマッドが住んでる離宮ってことだよね。それで知らない相手ってことは貴族確定じゃないかな……大丈夫なの、それ」

「マッド。あくまで口喧嘩の範疇で済ませているのよね?」

「いや、相手が貴族だとその地位によっては口喧嘩でも十分まずい気がするぞ。キュイ、相手の特徴とか覚えているか?」

 

まあそりゃ場所が場所だから、ラスの言う通り必然的に相手は貴族って推測になるよなー……。

そういえば、結局誰だったんだアイツは。

1発で貴族だってことくらいは分かったが……貴族とか基本的に興味ないからな俺。

顕魂術のテスターやってもらってる呪いオタク以外見事に認識出来ねえぞ。

既視感はやたらあるからどこかで見たことはあるんだろうが……。

 

「髪は白銀色だったね!後は……そうそう、目がピンクだった!お人形さんみたいで凄い綺麗な子だったよ」

「そんな綺麗なご令嬢と喧嘩とは、いつの間にかやるようになったじゃないかマッド君。偉志の大陸風に言うなら、お赤飯ってところか?」

「微塵も嬉しくねえお褒めの言葉ありがとうカルシオン君。赤飯はよく意味わからねえから自分の胃にでも収めておいてくれ」

 

何故赤飯?確かに美味いけど今出てくるべきものなのか。

まだまともな話をしているラス、デイジー師匠、カルリッツ父さんを見習ってくれ。

そういえば、さっきからクリスティーナ姉さんとエリオ姉さん、イグノックス兄さんが静かなんだが……。

特にクリスティーナ姉さんが凄い不気味だ。ぜってーロクでもないこと考えてるやつだろ。

 

「白銀色の髪って、もしかしなくてもマゼンタ公爵令嬢では?確か名前はユフィリア・マゼンタ……ほら、完璧な公爵令嬢とか噂、聞いたことありません?」

 

あ、今しがた一気に思い出せたぞ。

精霊に愛されていると言われるほど魔法の才に富んでいるとかって話もあったっけか。

それに加えて勉学、政治、武芸と多方面で才覚を発揮しつつある欲張り性能持ちとか何とか?

そして、俺にとっても全く無関係な存在じゃなかった。

 

「それって、アルガルド様の婚約者、要するに次期王妃様じゃない!マッド、いつの間にそんなドロドロラブコメ展開できるようになっちゃったのー!?イグノックス、これって俗に言う危ない恋愛よね!?応援するべきなの?咎めるべきなの?姉的にはどうするべきなのー!?」

「俺に振るな。そもそもただの口喧嘩からどうしてそういう話になるのかが理解できん」

 

やっぱりクリスティーナ姉さんはろくでもないこと考えてやがった……完全に何か勘違いしてやがる。

イグノックス兄さんだけだな、俺と同意見なのは。

何で口喧嘩しただけでそんな浮ついた話になるんだよ……まるで意味が分からんぞ!

まあいい、お陰でようやっと彼女のことを思い出せた。

そりゃあ兄上の婚約者なら薄っすらと見覚えがあるようなないようななわけだ。

それにしても、完璧と呼ばれている……ねえ。

この言葉を浮かべた途端に、あの人形染みた雰囲気にもどこか納得してしまったよ。

っていうか、魔法云々に関しては俺の不倶戴天ってやつじゃねえか?

そこまでは行かなくても、対極ではあるが……。

 

「まあ、言い過ぎたことには変わりないわな」

 

だからと言って、あの原点が沸き起こった時と同じノリをぶつけていいってことにはならんがね。

頭が冷えた今思い返して分かったが、あれは八つ当たりが多分に含まれていたな。

ああいうのは、あくまで個人的に腹が立つ概念や世界、それらを妄信して押し付けるクズに向けるべきものだ。

これは俺からきっちり頭を下げないとダメだな。

この喧嘩が誰かの耳に入ったら絶対兄上に飛び火して婚約関係が危うくなりかねないし。

何とか俺たち当人同士の問題として、影響拡大しないように解決できないものか。

大事にしないように、更に俺の方が悪いからちゃんと自分から動く……。

──ちょっと考えるだけで分かったんだが、結構難しくね?

クソトカゲワンショットキルの方がよっぽど簡単なんだが。

だがウダウダ言ってられんのよな……動かないとマジでやばいし、俺も納得行かねえ。

 

「ほら、明らかに恋煩いしてる顔!マッド、ダメよ!そんな面白……じゃなくて背徳的なこと考えるなんて!」

「まあ、相手がユフィリア様なら事が大きくなる可能性が高くないことが救いと言えば救いだけど、本当にやってくれたわね……」

「あの顔は自分でどうにかしようって考えている風だ。ならば俺たちがいちいち口を出すことじゃないだろう」

「そうそう、マッドはもう12なんだぜ?少しずつ俺らの手から離してやらねえとだろ」

「いや、だが今回は影響範囲が広いし、一人だと心配だから裏で助力をだな……」

 

周りは相変わらずてんやわんやだが、俺はひたすら思考の海に落ちているので気にならない。

──そういや、ここまで一個人に思考回路が奪われたことって今まであったっけ?

怒りぶちまけた時と言い、悉く俺のテンプレを乱してくれる。

……一体何なんだろうか、あの公爵令嬢は。

そして、その感覚も悪くないって思っている自分がいるってのもなあ……。

うん、まるで意味がわからんぞ!ってやつだ。




はい、というわけで転天サイドトップバッターはユフィリアでした。
そして初登場早々、多分色々と突っ込みどころはあるんじゃないかと思います。
とりあえず、『何でいきなり口喧嘩?キャラ壊し過ぎじゃない?』についてですが……これはちゃんと意味はあります。
なんなら、地の文で薄っすらと張っています。
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