転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

80 / 112

メインイベント前夜祭……というにはなかなか賑や蟹ですかね。
ギリギリまで加筆したので、後で色々修正加えるかもしれません。


73. 嵐の前の過ごし方、これまたそれぞれ

 

魔法省主導の講演会の話は、当然グランナイツにも行き渡っている。

とはいえ、彼らも独自に動き続けているが故に王都に留まれない者も多い。

その傾向が特に強いレオン、カルシオン、ルドミラからは一度戻って『激励』を置いては再度立ったそうな。

 

『むしろラスの方が心配なくらいだ、そこはデイジー共々しっかりと見守ってやってほしい。──マッドについては……まあ俺たちに何も言わないなら問題ないだろう』

『どうせ弟バカを拗らせまくった青い炎と白銀の聖女が勝手にフォロー入れるだろうからな。むしろそっちがやりすぎないように見てほしいね』

『どうせ通過点と豪語しておるじゃろう?もう一人の方も手出し無用とか突っぱねそうじゃし、今回はお手並み拝見ということで観客に徹するとするさね』

 

……思いっきり薄情な言い回しでもあるが、これこそ彼らなりの激だから致し方ない。

言われた本人もますます楽しそうに笑みを深めているので、結局はいつも通りということ。

そして、次世代の特別近衛騎士たちにもその様子は見事に伝播されていた。

自分たちが矢面に立つと改めて自覚すれば、後はじたすら静かに闘志やら何やらを燃やす。

更には見習い卒業試験代わりとなれば尚の事で、既に策を練っては準備完了なのは言うに及ばず。

そんな次世代たちの姿を遠目とはいえ見たからこそ、安心して託した……と美談にすることも出来なくはない。

無論、ラインヒルトにとっては当然そのように映るはずもないわけで。

 

「貴方やカルシオンはともかく、レオンもまた年甲斐なく忙しなくなったもので……過労にならないか心配でなりません」

「下の世代が軟弱で憂いているよりかはよほどマシじゃないか?」

「……その影響でフットワークを過度に軽くするのはどうかと思いますがね。黒竜襲撃以前よりも動いているではありませんか」

「以前から思っていたんだが、お前はレオンに対してやたら辛口だな……」

 

彼らのリーダーであるレオンはその強さととある事情から一人で突っ走りがちなところがある。

ラスという可愛い甥が生まれ、更にマドラーシュという導くべき存在が生まれてからは多少は鳴りを潜めているが……それでも芯は変わらず。

そして今は、全盛期ほどではないにしろその悪癖が再発しているのではとラインヒルトは真っ先に疑ってしまうほどだ。

 

「グランロードが過労気味だと、マドラーシュ様も負けじと同じようになってしまいますからね。秘密主義なところも含め、すっかり似てしまいましたから尚更心配でならないのですよ」

「──まさかとは思うが、今回の話をあっさり引き受けたのはそういうことか?」

「お察しの通りです。次世代という意味でも、あの方の地盤固めという意味でも彼女の存在は必要だと私の勘が囁いていまして」

 

二人の視線の先には、それなりの色の魔力が飛び交う幻想的な光景が広がっていた。

その中心にいるのは、たまたま同席していたクリスティーナとエリオ……そして、ちょうど話題に上がりだした公爵令嬢。

その光景を目の当たりにしては、イグノックスはほんの僅かに眉を顰める。

 

「──イグノックスもいい加減認めてはどうでしょう。彼女もまた、次世代を担うに相応しい人材になりつつあると私は思いますが」

「以前より見違えたことは認める。だが、まだまだ甘さが抜けてない……せいぜいアイツの背中が見えるかと言ったところだろうな」

「……辛口意見については貴方も人の事は言えませんね」

 

嗜めの言葉を聞いても、厳しい表情を変えるつもりは更々ないようだ。

とはいえ、以前顔を合わせた時に比べれば評価そのものは間違いなく上がっている。

少し前、弟分の離宮で顔を合わせた際の令嬢は下を向いたままの弱者であった。

甘えすら見受けられ、そのせいで苛立ちを隠せず忠告を吐き捨ててしまいたくなるほど。

本来歯牙に掛ける理由も無いのだが、一応弟分の友人ということでほんの僅かに義理を果たしたのみ。

それから然程時間は経っていないが、先日顔を合わせた時は同一人物かと疑ったほどだ

更には、とあることを自ら志願する思い切りの良さを発揮してはイグノックスの顔を鳩が豆鉄砲を食ったものに変えたとか。

そして現在は……。

 

「ふむふむ……流石はユフィリア様、上々ですな~。イメージとしてはセラと私やセリアードを足して2で割った感じだね!」

「属性魔力もそうですが、それ以上に目を見張るのは魔力効率ですね。意識して訓練しないとここまで凝縮は出来ないことはマッドが証明済み……自己流で鍛えてこれならば、流石と言わざるを得ませんね」

 

かの破天荒の姉貴分2名がつきっきりで指導をしていた。

元々は貴族の血筋にあらずとも魔法が使え、現在でもグランナイツ屈指の純粋術士。

マドラーシュ以上に交友が狭いユフィリアにとって、恐らく最高の指南役と言える存在。

イグノックスと三人揃って帰還したのは、奇しくも講演会の代打を直談判した日のこと。

そのタイミングで密かにグランナイツ会館に訪れて鉢合わせるのだから、なかなかの豪運としか言えない。

 

「アルガルド様は彼の受け売りを自己流に昇華させた結果、あれだけの強さを身に着けたのです。ならば、私も基礎に立ち返らないとと思い至りまして……」

「さっすが~とっても賢い!それでこそ私が認めた義妹ちゃん!お義姉さんがよしよししてあげますね~」

「おわっ……クリスティーナそれは流石に失礼ではありません!?──すみませんユフィリア様。後できつく言っておきますので……」

 

かつては特別近衛騎士という立ち位置にいたとはいえ、それも昔の話。

表向きは平民と似た地位のはずなのに、平然と公爵令嬢の頭を撫でるクリスティーナはなかなかに豪胆である。

だが、今のユフィリアはいい意味で柔軟な思考回路を持っているわけで。

本来なら不敬に当たる行為も、彼女にとっては心地の良いものとして変換されていた。

 

「ちょうど姉的存在が欲しいなと思っていたところですので、どうかお気になさらず。」

「あの時はドタバタしちゃっててあんまり話せなかったけど、本当にいい娘だね~!それに比べてマッドはどこかの誰かさんに似て捻くれちゃったから大変なんですよ~?」

「……何故こっちを見ているんだ、お前は」

 

むしろその理由を理解していないのはイグノックスのみである。

クリスティーナは当然としてエリオとラインヒルトも、何ならユフィリアですら苦笑を浮かべていた。

レオンからは妙な秘密主義とかその他、カルシオンからは不敵な口調と飄々とした態度、イグノックスからは鍛錬狂い、遠慮皆無なズバズバとした物言いと年不相応な頑固っぷり。

実力や経験などもきっちり受け継いだり昇華させたりしているが、この3人については見事に変なところまで継承してしまっている。

とんだ異常敬愛っぷりだと、特に女性陣の苦言は止まることがないとか何とか。

 

「そういえばイグノックスは以前釣り合わないとか言ってなかったっけ?今のユフィリア様を見ても同じことが言えるのかな~?」

「クリスティーナ、あんまり煽らないでください……そんなことを言ったら意地を張ってまた同じことになってしまいかねませんよ?」

 

清々しいまでの意地の悪い笑みを浮かべる幼馴染に思わず青筋が立ちそうになるが、今の相手はそちらではないので抑える。

遠巻きに見ていたところからイグノックスが近づいてくると、ユフィリアは術の行使を中断して視線を向けてきた。

知らない者が見たら、学院所属時代の面影を匂わせるところだが……その本質は逆と言ってもいい。

その鋭き視線は熱を帯びつつも氷のような冷徹さも兼ねる……否、調和していると称すべきか。

それがただのコピーではないことを悟ったのか、イグノックスは自身に纏う棘を僅かながらも緩めつつ口を開く。

 

「ただただアイツを真似ただけではないことは否でも分かる。無論、継続してこそ意味があることだが──それが出来るならば、アイツの周囲にいることくらいは認めてやってもいい」

「──ありがとうございます、イグノックス。この身はまだ道半ばですらなく、ただの入り立て……同じく追いつき追い越しの精神を以て進んでいきますとも」

 

口調こそいつも通りだが、間違いなく険はある程度抑えられている。

以前よりかは周囲の人間として在ることを認めている、それはユフィリアだけでなく周囲も理解するところであった。

──が、暖かい視線を向けるだけで終えるような顔ぶれではないのもまた事実であり。

 

「何よ、『認めてやってもいい』だなんて!小姑っぽさが全開でイヤな感じだね~!」

「アイツの苛烈かつ貪欲な姿勢を考慮すれば妥当な評価だろう。これでも妥協している方だが」

「義兄として嬉しいって素直に言えばいい話でしょ!」

「いやいや、イグノックスがそんな素直になったら明日は剣の雨でしょう……」

「おい、義兄って何のことだ。どこぞの狙撃手みたいな砂糖頭に漬ける薬なんぞ持ち合わせていないからな?」

 

そして始まるはこの三人組のいつもの流れである。

マドラーシュやデイジーがいればすぐに収まるところだが、幸か不幸かどちらもいない。

とはいえ、発端が発端なのでどちらかと言えばじゃれ合いの一環とも取れる。

あえて介入はせず、ユフィリアはこの場を用意してくれた陰の立役者の元へ戻った。

 

「やれやれ、またあの3人は変な流れを作って……申し訳ありません、ユフィリア様」

「むしろ急に押しかけたのは私の方ですので……こちらとしては礼を言わなければいけない立場でしょう。こういう雰囲気も慣れていますし、悪い気はしませんよ」

 

イグノックスの手前どっしりと構えてこそいたが、この電撃訪問に驚きを見せたのはラインヒルトも同じくである。

あのグランロード譲りの秘密主義を抱える、年不相応に頑固な第二王子がそうそう折れないことはよく分かっている。

セラやプリシラに尋ねる場合でも、かの破天荒への神格視入りの忠誠心からその難度はウルトラD級。

そうなれば、必然的に別ルートを用いたという結論に至るのが自然だろう。

その可能性もそう多くは無いので、絞りきるのは容易だが……彼が驚いたのは、その執念だ。

──高貴な身分らしからぬその熱は、この13年で見てきたそれとどことなく似通っていたのだから。

 

「しかし、ユフィリア様も随分と思い切ったことを考えたもので……マドラーシュ様の裏で動くだなんて、初めてのことではないでしょうか」

「これまで散々目隠しをさせられた身ですので、たまにはお返しをと思った次第です。──いざという時は仲介をお願いしたいところなのですが」

「なるほど、目には目を、ということですか。──なるほど今の貴女らしい考え方で、それはマドラーシュ様としても好ましいもの。そして回り回って私共としても嬉しい追い風となれば……その程度、お安い御用ですとも」

 

ラインヒルトが新規参入を歓迎するのは、結論こそ同じでもその中身はクリスティーナやエリオとはまるで異なる。

というより、グランナイツ内でもその考え方はある程度の温度差があると言ってもいいだろう。

その中でも、視点一つで熱くも冷たい在り方なのが彼であろう。

理知的でどこまでも己を律しているように見えるが、その内はそれなりに激情家だ。

そこにマドラーシュへの深い忠誠と親愛を大前提として、王国の腐った部分に対する憤怒が多分に含まれている。

だからこそ、彼はマドラーシュのやりたい放題を苦笑しながらも止めることはしなかった。

この国に必要なのは、劇薬や激流の類……その成長と芽吹きを妨げるなど以ての外。

──7年前のあの日見たのは、本当に霧の中で彷徨う中で見つけた灯台そのものだったのだから。

そして目の前にいる令嬢は、自身の導と同じ世代にして公爵令嬢という強力な立ち位置にいる友人……もしかしたら、それ以上になるかもしれない存在である。

そんな彼女が参戦するというのに、それを妨げる理由などありはしない。

いきなり強烈なうねりを作ろうとするのであれば、喜んで受け入れてやろうという気になるのも当然である。

 

「マッド様が何かを起こそうとしているならば……出来得る限り私も手を差し伸べたい。守られる存在ではなく、隣に立って恥ずかしくない対等な存在になりたい」

「でしたら、そこも含めて陰から助力するのがあの方を擁立する私の務め……まあ、恒例行事の範囲ですね」

「ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします──ラインヒルト先生」

 

まさかの破天荒と同じ呼ばれ方をしたからか、この時のラインヒルトは僅かながら表情を緩ませていた。

ある種の外堀埋めをしれっと行う辺り、ますますもって朱に交わっては何とやら。

閉ざされし世界を切り裂く新風、それは思わぬところからも誕生しつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれの立ち位置やら立場やらの面々が、各々の出来ることを着実に消化する。

そんなことをしていれば、時の経過が早まるのも無理もないだろう。

時は既に講演会前夜……否、もう当日に変わりかける時間帯。

嵐の前の静けさとはよく言ったものだが、その陰ではとっくに何かが起きているのもまた常。

まさにそのことを指し示すか如く、王都から伸びる街道より少し外れた地点にて彼女は密談を行っていた。

わざわざ人形を張らせての二重警戒網を敷いてる辺りはなかなかの徹底ぶりである。

 

「遂に明日なんだが、そっちの首尾はどうなんだ?」

「どう悪く見積もっても痛み分けがせいぜいじゃない?数で劣ろうとも、グランナイツがわざわざ出てこなくてもいい程に質を充実させてるわ。アポカリプスの方々の懸念がドンピシャ──特にあのハリボテ王子ついては、今もなお想定を飛び越えているわね」

「過剰警戒かと思ったが、評価を改める必要があると。流石は特異点と言うべきか……」

 

男が知る限り、同僚に当たる人形使いは国でもかなりの腕を持つ存在だ。

多少非人道的な『英才教育』にも食らいつき、年齢に見合わない経験もそれなりにしてきている。

そんな彼女から口にされた、言葉越しでも一定の脅威を感じさせるような報告。

勝気で生意気な彼女にここまで言わせる相手に、恐れ以上に興味も抱いてしまうほどであった。

しかし、負けじとなんてわけではないが男にもそれなりの情報が入ってきていた。

 

「ただ、こちらもトンデモ情報が入った。──連中、遂に出力を引き上げ、大精霊相当に至る術も至ったようだぞ」

「はあ!?女神様の慈悲そのものと言える代物をそんな下らないことに使うだなんて……頭のネジが全部吹っ飛んでるんじゃないの!?」

「気持ちは分かるが声は抑えろって!」

 

誰も通りそうにない時間と場所の組み合わせとはいえ、万が一などいくらでもあり得る。

どこぞの破天荒が認める詰めの甘さは、こういうところでも発動してしまいがちだ。

基本優秀な諜報員のジュンではあるが、この欠点ばかりはなかなか直そうにも悪戦苦闘気味であることは同僚も把握済みだ。

……無論、いちいちフォローするたびに疲れるのは言うに及ばず。

 

「……ったく、こうして考えるとつくづくハリボテがまともに見えてくるわね」

「第二王子の方はあくまで人の域を保つことに意義があると考えている節があるからな……まあ、お前の場合はそんな事情抜きで気に入ってるように見えるけども」

「……アンタも遂に目のリニューアル時期?むしろ馴れ馴れしく来て鬱陶しく思ってるくらいなんだけど」

「本気で鬱陶しく思ってるなら、歯牙にもかけないのがお前だと思うんだがな」

 

……今度はまるで反論が浮かばなかった。

それは、指摘が的確であることを自覚しているが故の沈黙である。

とはいえ、同僚としては咎めるつもりは特になかった。

祖国での環境を思えば、致し方なしと言えなくも無いから。

 

「──あまり浸かりすぎるなよ。下手な情で動いたら、それこそ宙ぶらりんな立ち位置に自らを追いやることになるからな」

「分かってるわよ、そんなの……っ!避けて!」

 

突如発生したのは、真夜中に似つかわしくない物体であった。

まるで小型の太陽のように輝く球体はジュンと同僚のいた位置に現れ、小規模の爆発を誘発。

僅かでも反応が遅れていたら、最悪既に焼死体と化していたかもしれない。

 

「やれやれ、見覚えのある人形が多数あるからお遊びに混ぜて頂きたかったのに……つれない人形使いですね」

「ジュンの人形劇にアンタたちみたいな連中はお呼びじゃないの。せめてその汚らしい狂信者の気配を隠してから出直してきなさい」

 

人形を多量に連れているが、それはあくまで警戒のためである。

ただ、人形劇を催そうとしていてもお帰り願いたい……その本音を一切隠そうともしない。

それも当然だ、彼女の目の前にいるのはあまりに下らない信仰を掲げる狂信者たちなのだから。

 

「やれやれ、帝国からの援助物資がここまで使えない道具とは……我々の叡智を一部授けたというのに、随分とお粗末なものだ」

「説明書も読まないで使ってる癖して道具に責任転嫁なんて、自分の無能をひけらかすだけよ?アンタたちのモルモットになってやったのはただのついで。大事なのはお姉様とロム様をお守り出来る位置にいるという今よ」

「ほうほう、まああの二人については確かにその通りなのでしょうが……本当にそれだけでしょうか?」

 

この時、人形遣いの脳裏に浮かんだのはセリアードとロムだけではないのは言うに及ばずだ。

どこから拾われたのか、身分もまるで証明できない怪しい馬の骨に対しても親身に接するお人好しやら小さな天災を筆頭とした面々。

色々とイヤミやら何やらを口にしてきたが、それでも彼らは匙を投げることなく接し続けてくれていた。

──そして、リスクだらけの自分をあっさりと受け入れてくれたハリボテ第二王子。

憎たらしい口調がとにかく鼻に付くし、同い年の癖に兄貴風を吹かしてきて

それでいながらも、明らかに勘の良さやら嗅覚を含めた能力という面では圧倒的な凄みを持つ。

それでいながらも自分のことを気に掛けていたことは、いくら人付き合い経験が浅いジュンでも理解はしていた。

先ほどの同僚の発言は、的外れではないということだ。

ジュン本人は、この時点では決して口にすることはないだろうが。

 

「まあ、貴女方の事情などどうでもいい。ソレが中にある限り、貴女は私たちの駒なのだから。おとなしく従わないのならば、相応の手を使うまでのこと!」

「精霊に縋るだけでは飽き足らず、他国に色々売り渡すなんて外道行為をやらかした不出来な信者に出来るのかしら?」

「やってみせますとも。そこを想定して念入りに準備してきたのですからね!」

 

その場のリーダーである貴族風の身なりの男がハンドサインを送ると、ローブで身を包んだ怪しい三人組が一斉に何かを唱える。

そう時間が経たない内に、どこからともなくそいつらはやってきた。

 

(アレがさっき奇襲してきた……第6を根城にしているヤツをベースに色々混ぜ合わせやがったのね)

 

大体は想定内の魔物で、実質的な数で劣らない分対抗するのは難しいことではない。

ゴーストナイトや影の番人は、扱いやすさを重視してか通常のものより明らかに弱い。

しかし、ただ1体だけその場の頭領として存在するのは……かのデーモンの上位種。

『グレーターデーモン』という分かりやすい名ではあるが、その能力は明らかにケタ違いだ。

本来ならばグリフォンやドレッド・ドラゴンと比べれば大きく劣る存在だが、先ほどの攻撃の主がコイツとなれば話は別である。

この数日で得てきた情報から整理するに、間違いなく別種の魔石が融合されているタイプである。

数の暴力に加え、親玉にこれほどの存在が控えているとあっては流石のジュンでも苦戦は免れない。

 

(でも、この計画が潰れたらジュンも共倒れ確定。やるしかないわね……!)

 

とはいっても、腹を括るしかない。

これこそが今の己の役回りだと、そう意を決して体内の魔力を滾らせる。

最悪、中に潜んでいるものも使わざるを得ないかもしれない……そう思った矢先だった。

背後から強烈で獰猛な魔力音波が放たれていたのは。

 

「通報アンド束縛!精霊狂信者ってのは実はロリコン傾向にあったのかあ!?」

 

魔力音波は呪詛も含まれているからか、襲い来るはずだった魔物たちは無理やり進軍を止められていた。

聞こえてきた場違いな軽口と共に、リーダーであるグレーターデーモンが大きく吹き飛ばされる。

僅かながらも不自然な風を感じたことから、一度だけ見たことある風属性魔力製の散弾であることはすぐに思い至った。

そうなれば、次に起こることも凡そ検討がついている。

反動を逆に利用した跳躍で魔物の群れから距離を取ると、乱入者は当然のように追撃に入る。

 

「出来立てイカレ術の実験タイムだ。魔力圧縮結合(パワー・ボンド)発動──ひれ伏せ、雑兵ども(Kneel before me)

 

一つ目の詠唱と共に、ジュンとその同僚はとんでもない圧に襲われることになった。

一体それが何なのか……かろうじて魔力であることは分かるが、それ以外に詳細は掴めず。

その後は、明らかに距離が離れているにも関わらず居合の構えに入る。

本来ならば刃が届くような距離ではないが……彼とその得物の前ではまるで関係が無い。

──その静と動はもはや呼吸と同義というところまで引き上げられていた。

より涼やかな音色と共に、かろうじて視認が出来る形で魔力混じりの斬撃を三度引き起こして……多数の影の番人やゴーストナイトは空間ごと切り裂かれてはバラバラ死体と化す。

 

(えっ……何で。何で今、あの方の御姿がダブったの……?)

 

あまりに暴虐で圧倒的な光景だが、ジュンにとっては違うものに見えたらしい。

月明かりの効果も相まって幻想的な光景ではあるかもしれない。

しかし、ジュンが感じたのは今までまるで感じたことが無い未知の領域……更なる超越概念とでも言うべきだろうか。

近しい細かなイメージもフラッシュバックするほどの、まさに鮮烈な一コマ。

──そう、それはまるで自身が敬愛する中の一柱のような……。

 

「ったく、そんな背伸びの仕方じゃあ逆効果だぜ?こういうのはもう少し歳を重ねてからやらねえとな」

 

思考の海から引きずり上げられたのは、冒頭と同じ風の軽口であった。

先ほどの接敵だけでグレーターデーモン以外は全て処理して、更にその頭領も遠くで拘束されている状態。

貴族風の男や呪術師も視認できる距離にこそいるが、同じく束縛の呪いがかけられて身動きが取れない。

明確な劣勢がたった一人の増援でものの一瞬でひっくり返され、今はむしろ余裕があるほど。

死闘を想定していたからこそ気を緩めてしまうのも無理はないだろう。

 

「はい、女神様……って違う、違う!何でアンタがここにいるのよ!っていうか、その理屈だとアンタもさっさと練るべきじゃないの!?」

「おいおいご挨拶だな?フラフラと外に出るお前を追ってやったっていうのに……」

「余計なお世話ってものよ!私はただの臨時諜報員で、道具みたいなもののはずよ!そんな小娘の事情にいちいち首を突っ込んでたら、アンタの負担が洒落にならないでしょ!そもそも今日じゃなかったっけ!?まさか過労死希望だったりするの!?」

「この程度で過労とか大げさだっての、全くいつも以上にお小言飛ばしながら意地張りやがって……困った妹分だ」

 

色々な感情がグチャグチャになっているジュンとは対照的に、マドラーシュの内心はどこまでも冷静そのもの。

マドラーシュ自身がここにいるのは偶然でもなんでもないのだから、当然と言えば当然だ。

ジュンという身元不明の諜報員、それは言うまでもなくレイニと並ぶほど……いや、それ以上の地雷案件だ。

それは名前とその能力以外の何もかもが不明であることもだが、彼女の中に潜んでいるものも一因している。

元はと言えば王国に流れ着いたヴァンパイアを使ってまで例の連中が研究していた、胸糞悪いテーマの被験者なのだ。

それだけ重要な被検体をわざわざ奪還されたまま泳がせておく理由があるのだろうか。

だからこそ、彼らはその動向に注目していたのだ。

 

(プリシラをつけておいた甲斐があったってもんだ)

 

地雷設置系専属侍女の役割は、表向きは新たな諜報員の監督役。

裏では間隙を縫ってのジュンの再奪還の妨害も兼ねていた……実際は監視の役割も含まれていたが。

それらの役回りは全て功を喫しており、現在の状況に至る。

豪胆と静謐を合わせ持った結果、相手に強引な策に走るよう誘うことは成功していた。

可愛い妹分の問題に首を突っ込んでいるのも間違ってはいないが、相手の調子を更に崩すという打算も破天荒の行動には含まれている。

 

「旗印が自ら出向くとはな!ならば、多少の無茶を承知で討ち取りと奪還を並行させてもらおう!」

 

のんびりしている内に腐れ外道たちも復活を果たし、今度は全員で先ほどと同じ詠唱を唱える。

魔物の質こそ先ほどより弱体化しているが、その数は少なく見積もっても三倍はいるであろうか。

完全な数の暴力頼りに切り替えており、更に先ほど吹き飛ばしたグレーターデーモンも束縛から解放されている。

 

「あーあ、わざわざアンタが出張ってきたから相手も躍起になっちゃってまあ──こんな面倒な状況にしてくれたんだから、ちゃんと責任取ってよね」

「なあに、深夜のローリング慣らし運転にはちょうどいい。それが兄妹のランデブー走行だってんなら……夜更かしには最高だよなあ!」

「冗談!私は早く寝たいから、とっとと終わらせるわよお兄様!」

 

どちらの陣営にとっても混沌極まる前哨戦がここにて開幕した。

特にマドラーシュは深夜テンション全開であるが、これが吉と出るか凶と出るか。

まあ、これまでを顧みればどう転ぶかは……大体想像は着くことだろうが。

 





実は予定よりも場面を少なくして盛大に加筆を加えた回だったり。
ジュンのこういうところ無いとダメだよなーと思いつつ、頑張って足しました。
お陰でコピーした時は7500だったのがあっという間に5桁突入です。

そして、遂にサイバー流と言えばなあのカードまで顕魂術化です。
ハイリスクハイリターンで定評がある究極の融合カード、果たしてこちらではどうなるのか。
まあ、その結果が一時的に鬼いちゃん譲りの次元斬発動ですがね!

ちなみに、ジュンは流石にまだまだツン期ですので悪しからず。
あの存在がダブったからこそちょっとだけ心を許した、それだけのことです。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。