転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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というわけで、3章最終話。
あれだけの激闘の後ですが、果たして周りが綺麗に締めさせてくれるのか……?
特にほら、二重の斬とかやりそうなオーラを纏う令嬢とか


89. 狂気の大戦、終幕

 

「……まあ、盛大にポーズは取らないでおいてやるかね」

 

モーリッツが己にもたらした進化、それは間違いなく人の域からは完全に外れていた。

方向性こそ邪なれど、その質量は間違いなく初代国王が為した偉業に迫っていたとすら言える。

『神の霊石』というジョーカーを使っていたとしても、その一点に偽りは一切存在しない。

そこまで至ったからこそ魔法至上主義は驕り……それが故に敗北を喫した。

ただただ蔑んでいた、不信者たちの手によって。

例え持たざる者であっても、ありとあらゆる手を尽くして臥薪嘗胆とばかりに藻掻き足掻き──各々の高みや深淵を目指すことが出来ると。

その総意と言わんばかりに爽快かつ堂々のKO勝ちをもたらしたとあれば……マドラーシュとて小さくガッツポーズを取るのは必然だろう。

やや気恥ずかしさがある辺り、何だかんだ彼もまだ15歳……子供と言えなくもない年頃だと再認識させられるところでもある。

 

「──おいおい、余韻に浸ってるのに勝手に来るんじゃねえよ」

 

キーストーン、そして元はレイニが所持していたヴァンパイアの魔石がマドラーシュの元に引き寄せられていく。

ほんの一部分とはいえ、魔力を吸引しては完全調和させたことが功を喫したのだろうか。

暴走の気配はまるでない安定っぷりを見せており、その様はまるで馳せ参じるが如くだ。

まるで意味が分からなかったが、手間が省けるということで細かいことはあえて考えない。

──しかし、目の前で起きた異変は話が別だった。

 

「……っておい、せっかくの現行犯をどこに連れて行く気だコラ!」

 

先ほどまで空中で束縛状態で放っておいたモーリッツが忽然と姿を消してしまう。

普段ならばきっちり反応できているところだが……戻したての視覚でいきなりそれを求めるのは酷と言えるだろう。

とはいえ、感覚が尾を引いているからか魔力そのものの感知はきっちり出来ている。

一歩で遅れても、索敵をしながら追尾を図れば……そう思って網を張るが。

 

(索敵に引っかかりきれてねえ……何だこの魔力は?)

 

スペシャリストである第二のぶっ飛び侍女に比べれば範囲と精度は型落ちではあるものの、それでも人並み外れた感知力は健在。

更に、モーリッツがその場から離れてそう時間が経っていない。

それだけの条件が整っているはずにも関わらず、なかなか引っかからずにいた。

 

「ちっ、まさかの時の回収班がいるとかってオチか?こうなったら虱潰しに──」

 

業を煮やして周辺を探ろうとするが……その行動は未然に防がれてしまう。

巧みな身体強化を用いた羽交い絞め、この時点で相当対象は絞られる。

勿論、マドラーシュは気配の時点でその実行犯は分かっていたが。

 

「……離してくれユフィ。まだ俺にはやることが残ってるんでね」

「あれだけ滅茶苦茶しでかしておいて、これ以上何をしようと言うのですか?」

「いや、首謀者を取り逃したら流石にやべえだろうが……っ」

「既にプリシラが動いていますから、彼女に任せるべき……ああもう、私を振りほどけない時点で諦めて下さい!」

 

それでもと動こうとするが、ここに来て色々とツケが回ってしまう。

視覚を封じてまでして行ったのは、体内の魔力流を強制的に高揚させる行為……合法ドーピングとすら言える。

そこにキーストーンやら、上位存在の因子を帯びた魔力やらのギリギリ加減の調和まで行っていたのだ。

いくら徹夜からのぶっ続けで動きまくり、脳内麻薬を働かせている破天荒と言えど限度と言うものは当然存在するわけで。

人から外れた所業をいくつもこなした彼と言えど、ベースが人間であるという事実は覆しようがない。

早い話、ようやくあちこちでガス欠の兆候が見受けられるようになったということだ。

それでも彼自身は『まだやれる』と意地を見せて動こうとする。

しかし、ユフィリアもこれ以上の狼藉を許すつもりは毛頭ない。

 

「そこまで聞く耳を持たないというのならば……こちらもクリスティーナという鬼札を切りますからね?

「おい?ちょっと待て、お前何言ってやがる!?」

「限界を遥かに超えて動いた挙句に何かあったら、今度はきっと監禁コース待ったなしでしょうね……それでもよろしいのでしたら拘束を解除しますとも。ええ、どこへでも追撃に向かえばよろしいかと」

 

……そこまで言われてしまえば、マドラーシュにとってもはや選択の余地などありはしない。

普通ならばこけおどしと思うだろうが、それは『白銀の聖女』の裏面を知らぬ者、いわば部外者の意見だ。

そのお仕置きを幾度か受けた者、ないしその惨状を知る者のみがハッタリでもなんでもないと理解できる。

そこまでの局地的な脅しをされてしまっては流石の破天荒も引かざるを得ない。

──というより、このタイミングで唯一と言える恐怖映像を流されたことでらしくもなく怯みを見せたのが致命的か。

 

「……分かった分かった、おとなしく引いてやる。だからとっととHA☆NA☆SE!」

「『勝って兜の緒を締めよ』……でしたか?マッド様は最後まで油断ならないのでこのまま戻りますよ」

「その格言ってむしろ今の俺に適応されるやつ……いでででででっ!?コラ、連れ戻すってんならもうちょい丁寧にやってくれねえか!?」

 

もはや有無を言わさずの強制送還。

色々と矛盾が見受けられる光景にも見えなくもないが、それだけ止める側も必死ということ。

元・精霊の申し子が大精霊をも泣かす存在を引きずり戻す……何とも笑うに笑えないようで、結局は大草原待ったなしの愉快な光景。

先ほどまでの狂気と狂気が入り混じる殺し合いとは何だったのか、そう言いたくなる閉幕であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体何をどうしたらこんなことになるのでしょう。

自ら視覚を潰すという、一歩間違えたらまともに日常を送れなくなる異常行動だけでも冷や冷やものだと言うのに。

紛い物とはいえ、初代が為した偉業に近しい存在相手に嬉々として立ち向かうだなんて……酔狂とかそういう言葉が裸足で逃げ出すほどでしょう。

挙句目には目をと以前に倒したドラゴンらしき何かを纏ったり、他の何かを召喚したり何だり……もう滅茶苦茶にも程がある。

 

(霞んでいた背中がやっと見えてきたのに……これでは結局イタチごっこじゃないですか)

 

こうして飛び出してはマッド様を諫めたのは、彼の肉体を配慮したのは当然の事。王城内を駆けずり飛び回り、相手の戦力を削いでは味方の状況把握も絶え間なく行って戦場全体を把握する……後者については確かに総大将がやるべきことかもしれない。

しかし、それはちゃんとした補佐あってのこと……マッド様は何てかにて自身への役割比重を偏らせすぎです。

更にはアニス様と交代する形で激闘を繰り広げて……一楽しそうにしていて分かりづらいが、それは自分に対して厳しくしていることの裏返しでもある。

そのあまりの狂気的な在り方……やっと垣間見ることが出来たその性質に、今どれほど恐怖を抱いているか。

……高みや深淵にしか目が向かない貴方には絶対に分からないでしょうね。

 

「あらら、せっかくの凱旋なのにこれじゃあ締まらないじゃない」

「楽しそうに言うなスイーツ脳が……どうにかしてくれねえか?」

 

……っと、考え事をしている内に合流出来たようですね。

これでますますマッド様は変な行動は出来なくなる……そこは有難い。

……そのはずなんですが、いの一番に感じたのは居心地が良くなるとは言えない類の視線であった。

 

「あの……何でそんな楽しそうな表情をしていたり、苦笑いを浮かべているのでしょうか」

「むしろその状況で尊さを感じるなというのが無理な話ですね」

「俺たちよりも反応早かったからね……ちょっと悔しいところもあるけど」

「まあ、この狂乱王子の暴走を止めたことは評価に値するけどな……にしても、すっかり借りてきた猫ってやつだな?」

「あーもううるせえな天邪鬼ダークエルフめ!とりあえずユフィ、俺もそこまでしてもらうほどガキじゃねえからいい加減離せ!」

 

と言いながら私を強引に振り払い、レイニの元へ駆け寄るマッド様。

確かに最優先事項は彼女に魔石を返すこと……それは分かっています。

ただですね……貴方と言う人は、どれだけ人の世話になるのが嫌なのですか?

 

「ほれ、約束通り取り返してきたぞレイニ。ええっと、移植とかはしておくべきなのかこれ」

「あ、あのマッド先生?私の方は大丈夫なのでユフィリア様の方に……」

「ええっと、マッドくん?愛弟子を逃亡のダシに使うのは良くないと思うよ……?」

 

……なんて姉君が仰ってるのにまるで意に介さずですか、そう来ますか。

まあ、マッド様の場合は単純に優先順位を弁えているだけの話でしょう。

ええ、ええよく分かっていますよ貴方がそういう人だというのは。

あれだけの激戦の後のはずなのに、まるで『ちょっとお使いしてきた』ような感じで飄々とした振る舞う辺りもいつも通り。

……その『いつも通り』が鼻に付くというか、少しばかりイライラするというか。

 

「そういえば、首謀者であるモーリッツを引きずって来なかったけど……何かあったの?」

「恐らく最悪を見越した回収班がいて、アーリマンの魔石ごと見事にやられた。キーストーンとレイニの魔石があるからひとまずってところだが……」

「その割に随分と悔しそうにしてるじゃない。ユフィリア様が止めなかったら、そのまま追うつもり満々だったわけ?」

「仕留めたのに捕え損なうなんて流石に情けなさすぎるだろ?まあ結局そうなっちまっては主演失格なわけなんだがな……まあ笑うなら笑え、道化扱いは慣れてる」

 

なんて思っていたら、今度は自嘲の表情を浮かべる。

言い回しこそ相変わらずだが、その自分への厳しさは先ほどまでの狂気を引きずっているかのようで。

 

「あの大精霊もどきはマッド様でないと打倒できませんでした。少なくとも総大将としての役目は果たしたのですから……むしろ胸を張ってください。道化と笑う者がいるのならば張っ倒しますとも」

「強引に追撃を止めたお前に言われてもなあ……痛い痛い痛い何でそこで抓るんだよお前は!?」

 

いつまでもそんな風だからに決まっているじゃないですか。

いい加減に学習してください、このバカ破天荒。

……実際、将来の近衛騎士たちも苦笑しながらも私に同調している風ですよ?

 

「まあ、アイツは所詮魔法庁の長官の息子ってだけだろ?中の上くらいの立ち位置のヤツなら有益な情報は持ってたんだろうが……今回は内乱食い止めただけでも恩の字ってことにしておきな」

「そもそも今回の主目的は堂々と表舞台に出ることで、そこは達成されてるんだ。度が過ぎる欲は自滅の道の第一歩……マッド自身が言ってたことだよ?」

「アンタはいつもいつも完璧主義が過ぎるのよ。その為なら黒焦げ、綱渡り、挙句五感の一つを自己放棄って毎度のように無茶苦茶して……たまには自分を労わりなさい」

 

……3人して私が言って欲しいことをそのまま忠言してくれていた。

特に長身のエルフの女性……確か、ナマリエと言いましたか。

無茶苦茶しでかす弟分に内心いつも肝を冷やしているような……まさに姉貴分のそれだ。

グランナイツだけでなく、近衛騎士からも弟分扱いというのはどうなのでしょう。

 

「散々言ってくれるなお前ら……まあいい。次はとっととオルタ達と合流──っ」

 

──その兆候を見たか見ないか、そんな辺りの完全反射な行動だった。

断片的な状況を照合すれば、日が変わってから一睡もせずに戦闘尽くしのはず。

日頃から寝る間も惜しんで陰で活躍することに慣れているマッド様と言えど、疲れ知らずというわけではないのだ。

……ヴァンパイア由来の魔力運用、これを精神の部分でも働かせていたのでしょう。

上手いこと精神を高揚させ、感覚を誤魔化していたのでしょうが……戦が終わった今、ほんの僅かに緩みが出た。

一瞬だが、糸が切れたように倒れかけるマッド様を私は咄嗟に抱き止める。

……ほぼ同タイミングでラスとセラが動く気配を見せていましたが、今回は私が先んじさせて頂きました。

 

「あれだけはしゃいで大暴れしていればそうなるのは必然……本当に世話が焼ける人ですね」

「……急に視覚を取り戻したのとか、黒龍再現で色々感覚が狂っただけだ。重いだろうからさっさと離してくれ、まだ最後の後始末があるんでな」

「あまりに暴れすぎて鳥頭になったのですか?」

「オイコラ誰がチキン野郎だ、それはグリフォンにでも言ってやれ」

 

ええっと、それは確か臆病者って意味でしたよね。

マッド様の場合、逆と言うか、むしろ対極だからこちらは困っているのですが。

何が何でもはぐらかそうとしているようですが、流石にもう看過できませんね。

かくなる上は……

 

「──せっかくの機会ですので、罰としてこのままされるがままになってもらいましょうか」

「は?いやマテ、なんだよその意味不明な罰は。俺もラス達と同じく事後処理やるんだ、だからHA☆NA☆SE!」

「仕事熱心なのはいいことですが、それも時と場合ですよ?『無慈悲な主演』でしたらその程度の事は部下に任せるべきでしょう」

 

もういっそのこと今の内に彼らも巻き込んでしまいましょう。

ラスはともかく、残りの二人には『初対面でいきなり何を言ってるのか』なんて思われても不思議はありませんが……背に腹は代えられません。

しかし、そんな心配もすぐさま杞憂となった。

──3人とも、それはもういい笑みを浮かべていたから。

 

「公爵令嬢サマもなかなか言ってくれるじゃねえか……まあ、そういうことなら任されてやるよ」

「折角の機会なんだから二人きりでゆっくりしなさいな~。オルタ達にも私たちがきっちり説明しておくから」

「あはは……まあ根も葉もないことが流れることが無いようには努力するよ」

お前ら実は買収でもされてるんじゃねえのか!?ああくそ、この際姉上でもレイニでもいいからコイツを止めろー!可愛い弟が埒られるぞー、師匠のピンチだぞー!?」

 

往生際が悪い人ですね……。

アニス様はともかく、弟子に助けを求めるのは如何なものかと。

というか買収って、私の事を何だと思ってるのですかねこの破天荒。

──罪状ポイント1追加ですねこれは。

 

「ええっと……先生、ごめんなさい!私も流石に擁護しきれません!」

「うん、それでいいんだよレイニ。あの状態のユフィは本当に手が付けられないからそれで正解」

「ユフィリア様、後で尊いポイントの共有はプリシラ共々よろしくお願いいたしますね?」

「これで全会一致……私の勝ちですね」

 

これぞぐうの音も言わせない完全勝利、というものです。

クリスティーナとラインヒルトの教えが早速役に立ちましたね。

下手に理論で武装するくらいなら、多少強引でもまかり通してしまえ。

まさに勝ったもの勝ち精神……これからは格言にしましょうか。

 

「全会一致とかそういう問題じゃなくてだな!仮にも旗印が動かねえって流石にどうなんだって話というかだな……」

「いつ倒れてもおかしくない状況なのですよ?でももでっていうもありません、さっさと休むのも仕事の内です」

「どこにその力あるんだよおいこら!マッスルユフィにでも進化したのか!?」

「……よほど張り倒されるのがお望みのようですね、マッド様?

 

疲労困憊なのにその減らず口……これが俗に言う分からせ案件というものですか。

これはもう徹底的にやってやりましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王城上空で繰り広げられた戦いを目の当たりにしたものは決して少なくはない。

その決戦の終結……内乱の首謀者の撃破が伝わったことで、王城内は瞬く間に勝鬨ムードと化した。

陰ながらその責務を全うすることが出来た騎士たちも、最低限の事情は理解しているから当然と言えるだろう。

そして、今回の舞台で助演に当たる破天荒の身内の反応は……それはもう千差万別と称してもいいほどであった。

 

「あっはははははは!魔石やらキーストーンやらに加えて、自分たちが信じて止まない精霊も大盤振る舞いしておいてあのザマ、もう爽快痛快で最高の喝采ものね!」

 

古くからの姉貴分であり、魔法至上主義嫌いの同志であるティルティはこれ見よがしに高笑い。

混ざりものであれど、明らかにモーリッツはかなりのところまで精霊に近づいたと言える。

それを完膚なきまでに粉砕し、しかもそれを為しえたのが何だかんだで可愛く思っている弟分とあっては無理もない。

……如何せん加減知らずが過ぎており、もはや狂気すら感じるその様は見る人によってはホラーものでもある。

 

「えーっと……ティルティ嬢?喜ぶのはいいけど、魔力が暴走して色々とマズイ状態だから抑えた方が……」

「ああもううっさいわね!彫魂石の方で勝手に制御されるんだからちょっとくらいはしゃがせなさいな!」

「君の場合は呪詛になりかねない……って言ってる傍から色々出てきていないかい!?」

 

もはや呪いを前にした時よりもテンションが振り切れており、お陰で溢れ出る魔力から軽めの怪異が発生しかけているほど。

オルタが相反する光属性魔力で抑え込んでいるから事なき事を得ているが……。

そんな様子を横目にしながら、講演会場に居残っていた特別近衛騎士組3人と妖精1名も主の講評を口々にしていた。

 

「さっきのマッド、悪魔の手とかドラゴンとか大盤振る舞いだったもんね~。むしろウチも混ざりたかったくらいだよ!」

「ノヒルリア様を鎮めた時に使った大技も相変わらず圧巻だったな。」

「あれだけ巨大な大精霊を相手に一歩も引かずに対面する……やっぱりマッド様は凄いです。私も見習わないと……」

「セリアードが前向きなのは凄いいいことなんだけど、あのやりたい放題っぷりに追いつくというのは流石にどうなの……?」

「何言ってるのさロム!追いつき追い越せ、それがウチらのモットーだってラスも言ってたよ!」

 

ティルティほどではないにしろ、こちらも間違いなく熱狂寄りの空気だ。

基本的に控えめなセリアードも、メンバー内で最も冷静沈着なウィンも普段よりはハイテンションなことは間違いなかった。

マドラーシュが視覚を一時的に潰すという正気を疑われかねないことをしでかしているのをまだ知らないから、というのもあるのだが……。

まあ仮に知ったとしても、ティルティとキュイは何も変わらずであろうが。

そして、表にこそ出さずとも同じく熱に浮かされている者はもう一人。

 

「紛い物とはいえ、相手は大精霊相当の存在なのよ?それに人の身で勝つなんて何してくれちゃってるのよ……」

 

ジュンにとって、魔力を用いた高倍率の五感強化はお手の物だ。

人形と感覚を共鳴できるようになった、いわば人形遣いの能力の副産物……それもあって文字通り全てを見ることが出来ていた。

……それらがもたらす強大な影響についても、少なからずこの王城内ではかなり遠くまで見通せていると言っても過言ではない、

 

「更に一時的とはいえあの黒龍を再現?ここまで来たら完全にクロ案件じゃない……」

 

ジュンの中ではその疑念は既に確定的なものとなっている。

あの戦いで破天荒が示したのは、存在上の格上に対しても一歩も引かないという本能のようなものだ。

それこそが、かの存在が司るものであり……それを綺麗に有言実行して見せるというおまけつき。

無論、そこまでならばただ単に力とそれを貫く強烈な意志を保っていられるというだけの話だが……。

 

「考えれば考えるほどあの御方に近しいだなんて──ほんっとうにどうしてくれるのよ。お陰でこっちは色々複雑だっていうのに」

 

そもそもが怪しい現場を目撃されているというのにこの采配ときたものだ。

他にも色々と見ては察しているというのに、これまた狂気の沙汰とすら言える行動ばかりで。

いくら表向きはハリボテな立場とはいえ、得体の知れない人間を傍に置いて平然としているなど本来ならあってはならない。

少なくとも、彼女はそうやって教えられて育ってきた。

その危険性も散々指摘したが、結局は『やりたいようにやってるだけ、文句は言わせない』の一点張りで……。

ラス達(他のバカ)も大概だが、かの第二王子はもはや筋金入りとすら言える。

誰もがいつものやりたい放題と纏める、暴君ながら人を不幸にしない振る舞い。

──奇妙で戸惑いを覚えなくもないが、少なくとも不快感はない。

 

「……軽い雰囲気でいい加減に見えるけど、思い返してみれば結構気遣ってくれて。ジュンがどれだけイヤミを言ってもまるで意に介さず構ってくれて……何ならセリアードお姉さまよりも……って、違う違う!それは流石にあってはならないというか」

「ジュンちゃん?私がどうかしたの?」

 

まさにギリギリの瀬戸際だった。

自分を呼ぶその声が聞こえていなかったら、割と爆弾発言をしていた可能性すらあったのだから。

とはいえ、途中まで聞かれていたとしたら……それはもう色々な意味で自分の立場が拙いことになる。

 

「お、お姉さま!?違うんです、これはその……そう、あのハリボテが何かやりそびれてはお姉さまのお手を煩わせないかを見張っていて……」

「マッド様の戦いはもう終わってるし、あっちにはラス達やユフィリア様、アニスフィア様もいるから大丈夫だと思うよ?」

「そもそも見張っていたって割には上の空だったような……」

「いえいえそんな、お二人のことを差し置いてあのハリボテのことを考えるなんて……あ、今のも違くてですね!えっと、一体あのドラゴンが何だったのかが気になって……」

 

言い訳をすればするほどドツボに嵌っていく様は、普段の腹黒さはどこへやらである。

必死になればなるほどの悪循環っぷり、まさに不意打ちに弱い人間のソレである。

当の破天荒がいれば、さぞ面白がっては率先して揶揄いに来るのはほぼ確実だろう。

 

「盛大にやらかしたマッドのことが気になってしょうがないって素直に言えばいいのにね?」

「……キュイ、そこは触れてやらない方がいい。あの年頃の女子はそういうものだとマドラーシュ様も仰っていたからな」

「うう、次から次へと……どんな聴力としてるのよ」

 

そもそも口に出ていることに気付いていなかったことが問題とも言えるが。

それほどにマドラーシュの更なる裏事情の確信を得た衝撃が大きかったということなのだろうが。

とはいえ、この隙だらけの様は本人の迂闊……詰めの甘さともとれるだろう。

 

「え、ウチはジュンとマッドの1個上だけどここまで捻くれてないし面倒じゃないよ?」

「アンタは俗っぽい上に子供っぽい問題行動が多すぎなだけのお子ちゃまだからでしょ!ジュンと一緒にしないでもらえない!?」

「ええーお子ちゃまはヒドくない!?それ言ったらそっちだって人形遊びしてたりしてるじゃん!どこかでマッドの事お兄様って間違えて呼んでたし、ジュンの方がよっぽどお子様だよーだ!」

「ちょ、何でそれ知って……アイツがあんまりにもウザかったからいっそお姉さまに置き換えた方がストレスないかなと思ってたら間違えて……」

 

流石にその論には無理がある、あまりにありすぎる。

この場で最も控えめなセリアードでもそう思ってしまうほど。

今回の論争は、普段から開き直ってるキュイに軍配が上がるか。

色々な意味で沼に嵌っている状態だったが、そこに天啓のような悪運が発揮されることとなった。

 

「あ、ナイスタイミングよ見張り役!……って、何か貴族っぽいのに凄い勢いで攫われてるんだけど!?何してくれてるのコイツ!」

 

念のためにと点在させておいた見張り役の人形からの反応を受理しては、これ幸いにと感覚共有。

これでいい具合に話題転換する時間を……といったところで、ただならぬ様子の破天荒の姿が直接頭に叩き込まれた。

てっきり回収した者が映ったのかと思ったからこそ、再度動揺が湧きおこるのは当然であろう。

 

「待ってジュンちゃん、それは多分マッド様のお友達だから、邪魔するのは流石にダメだと思うよ?」

「あれだけのことをしでかして、盛大にダメージ残ってるのをいいことに攫われてるんですよ!?友人なら尚更労わってやるべきじゃないのですか!?」

「ジュン、あれだけマッドのこと嫌ってたのにいきなり心配するなんてどうしちゃったのさ!?」

「確かに嫌いではありますけど、それとこれとは話が別なんですロム様!」

「今のジュンがあちらに行ったらマドラーシュ様がますます意を痛めかねないから止めるんだ!」

 

恐らく誰が聞いても支離滅裂な言動であろう。

嫌いだ何だ言いながらも、激戦の影響を危惧している辺りどう考えても言動と行動がまるで一致していない。

セリアードとロムの制止すら聞かないことがますます拍車をかけているとすら言える。

その状態であの二人の元へ素直に送り出したらどうなるか、そんなものは火を見るよりも明らか。

遂にはウィンが物理的なとおせんぼうも始める始末である。

 

「うわー、これは後々修羅場ってヤツになりそう……まあいいや、暇になったしコイン拾いにでもいこーっと」

 

そして我関せずと言わんばかりに単独行動を勝手に始めるキュイ。

この騒動で落ちているかもしれないあぶく銭に意識が完全に行っている辺り、実に薄情なことである。

とはいえ、既に戦いは終わっていて、更に言うなら人的被害がほぼ無いことも把握済みではある。

天災からすれば、手持ち無沙汰故致し方なし。

 

「やれやれ、舞台が終わって尚場を沸かせ続けるか。主役というのも大変なのだな」

「そこで笑える辺り、アルガルド様も大概ですよね……」

「そうでなければやってられんさ。ガークもいずれ分かる時が来るぞ」

「いや、正直既に分かりかけてるんですがね?これって手遅れってことっすよね……」

 

そんな舞台袖の修羅場を、それはもう皮肉たっぷり且つ非常に楽しそうに眺めるのは双子の兄。

普段から先を行っては先行者面する憎たらしい弟の修羅場は、彼にとっては栄養素そのもの。

その様は、『他人(末弟)の不幸は蜜の味』と言ったところか。

こちらもまた見事なまでに人でなしっぷりを見せつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事前に詳細を知った上でも、色々と懸念点が多かった今回のクーデターだったが……まあまあ何とかなったほうだ。

道すがらで一応気配を探ったりしたが……アル兄さんやジュンの掃討要員たち、オルタ率いる別動隊は上手くやってくれたようだ。

他にも裏方を担ってくれた顔ぶれに対しても労ってやらんとなあ。

どこか一つでも欠けてたらまず間違いなく綻びが出てただろうし。

 

「なのに何で俺は暢気に自室にいるんだろうなあ?」

 

しかも強引に寝転がされている始末である。

更にはきっちりとロック状態……もはや休む以外の選択肢を与えられていない状態だ。

そんなことをしでかしているのは、ここまで人のことを拉致した張本人でもあったり。

 

「……もはや筋金入りですね。何でそういうところはアニス様に似てしまっているのでしょうか」

「いや、あの魔法大好き過ぎて命まで懸けてる姉上と一緒にしないでくれよ」

 

流石にあそこまで視野を狭くしての暴走なんてことはしてないからな。

……そのはずなのに、何故かユフィから批難混じりのジト目を向けられる。

いや待て、俺はそこまでトンチキじゃねえよな?一応ティルティからも言われたことねえぞ?

……何だよ、何見てんだよ。宝玉設置するぞ?

 

「……まあ、確かに姉と弟で違う所もありますね。アニス様は一旦は忠言を聞いて下さるので」

「俺だって聞き分けのいい時はあるがな?今回だってもう少し慎みある行動だったら、ほんの僅かでも割り切ってやったかもしれねえってのに」

「……ここまでしているのに折れないマッド様がトチ狂ってるだけです」

「いやお前の怪獣紛いの進撃っぷりも大概だっての……」

 

挙句前よりも開き直ってやがる始末だ。

スイッチが入ったらとことん暴れる、どうしろってんだこれ。

おまいうとか言われそうだが、それとこれとは違うだろと反論準備は万端だ。

 

「しかもここぞとばかりに身体強化のピンポイント掛けで脱出を許さないときたもんだ。クリスティーナ姉さんめ、他に教えるべきことあったんじゃねえか?」

「エリオからも魔力精密制御の基礎を教わり、イグノックスからは悪くないとお墨付きを頂きましたが」

「……流石に一夜漬けが過ぎるんじゃねえの?」

「以前に言いましたよね?なりふり構わずで行かせてもらいますと」

 

あのイグノックス兄さんが、ユフィにそんな評を下したのは意外に思えなくもないが、今となってはおかしなことでもない。

どこか向きがおかしくとも、間違いなく純粋な向上心とか反骨精神を評価してのことだろう。

とはいえ、基本貴族嫌いなあの人に評価されるのはよっぽどのことだぞ。

この分だと、ラインヒルト先生辺りも取込完了している可能性高そうだな。

揃いも揃って人のダチを魔改造しやがって……後でグランツ公から苦情来ても俺は知らねえからな?

……何かまた『お前が言うな』って聞こえてきた気がするが、まあ管轄外だそれは。

 

「……これまで、ずっとあんな戦いをしてきたのですか?」

 

打って変わって聞こえてきたのは、消え入りそうな問いだった。

そういや、ユフィに見せたのはケルビム演じてた時のドレッド・ドラゴン戦くらいだからな。

そう考えると、ちょい刺激が強かったかもだが……。

 

「あー……まあそうなるのか?今回は死にかけてすらいないだけ俺としては遥かにマシな方だがね」

「あれ以上に酷かった時があるのですか……?」

「そりゃあいくらでも。そもそも負けて上等ボロ負けイコール死な果し合いはいくらでもあったね」

 

確かに存在的な格という意味ではさっきのモーリッツはそこそこだ。

しかし、俺にとってはもはや慣れっこなことで。

あっちで戦を引き起こした連中やら世界を見守ってる連中に比べれば、まあイヤでもそうなっちまう。

──だからなユフィ、ここぞとばかりに力を強めるのは止めてもらえねえか?

痛覚とちょい危うい感触のコラボとか勘弁願うから。

 

「っていうか、ある程度はクリスティーナ姉さん辺りから聞いたんじゃねえのか?」

「あそこまでやりたい放題の狂乱を見てしまえば誰でもこうなるのでは?」

「俺としては自制出来る範囲で動いたまでのことなんだがな……」

 

頭が働いていないほどなのかと言われたら、むしろ真逆だ。

理性と本能、相反する要素が高次元でせめぎ合わせて調和していく。

要するに、如何に安全マージンをギリギリまで削っていくかという領域の話だ。

ヤケとかではなく、狂気に身を任せながら己を決して見失わない。

それこそが俺の求める究極理想……自我のままに求め、窮める。

……ティルティが呪いと称しているのは、恐らくこれのことなんじゃないかね。

 

「まあ、改めて理解できただろ?俺は死んでも治らねえ真性のバカ、変についてこようとしたら命がいくつあっても足らねえ。折角姉上とダチになれたんだ、助手としての任をしっかり全うしておいた方が……」

「……言いたいことはそれだけですか、バカマッド様」

 

……諭そうとしたら見事にぶった切られたんだが?

っていうか、流れの中で色々話してやったのに改めてバカ言うんじゃねえよ!

後ここぞとばかりに力強めて締めるな、あっちこっち怪しい音が聞こえてきてるんだが?

 

「確かにあの危険極まる戦いを見ていた時は少々恐怖を抱きましたが……そもそも私が何の為に顕魂術を修め始めたと思っているのですか」

「……なりふり構わずの範疇ってことでいいんだよな?」

「あの日私は隣に立つに相応しい人物になると宣言しました。──その為の一歩だったというのに、貴方と言う人はまるで後ろを顧みず。流石に堪忍袋の緒が切れるというものです」

 

待った、いくら何でも前のめりすぎだろこれ……。

ただの依存というには明らかに違うから尚の事質が悪い。

目の前にいるのは、抗いの意志で研磨を始めた原石そのもの。

だからこそ、ものすっごく否定しづらい。

 

「ただただ遠くで眺めながら待つことの方が私にとっては地獄そのもの。無力を嘆いて下を向くのはもうたくさんです」

 

ああくそ、案の定梃子でも動いてやらねえぞって顔してやがるし。

負けず嫌いとかその他諸々をとんでもない方向に拗らせた結果なんだろうが、どうしてこうなった?

そんなに俺の後塵を拝するのが嫌なのか……いや、対抗心から追いかけられるってのは悪い気はしねえんだがな?

いずれ顕魂術まで至るまでなら想定出来たんだが、ここまで突っ込まれるのは流石に想定外だ。

真面目にどうしてこうなったと叫んでやりてえ……。

3年前のお前が見たら、こんなん速攻気絶ものだぞ?

 

「……とりあえず、この件は俺たちだけの問題じゃなくなってくるから保留にしておくぞ」

「それもそうですね。今の私はアニス様の助手という立ち位置ですし……」

 

逃げの一手になっちまうが、実際間違ったことを言ってはないはず。

ユフィの方もひとまずは妥協の意を示してくれては表情を和らげてくれた。

……全く、休むどころかむしろ疲れちまったわ。

 

「さて、キリが良くなったわけだから……ユフィ、いい加減離れやがれ」

「やです。今日はこのまま就寝すると周知済みですので観念してください」

「……せめてこの間のように背中向けさせてくれねえか?」

「それもやです。さっきまで大暴れして調子に乗っていたマッド様の慌てふためく様子を眺めたいので」

「コイツっ……もはや強か通り越して悪魔染みてやがる……!」

 

そういうことならこっちもタダではやられねえ、意地でも抗ってやる。

幸いなことに、魔力を使うには問題ない状況だ。

騒ぎにならない程度に調整して、上手いこと拘束から逃れ……られねえ!?

 

「あら、そんなことを言われてしまうと……もう悪魔らしく遠慮なしで行くしかありませんね?」

「藪蛇やらかしたあ!おいコラ、拘束強めるんじゃねえよ!?スリップダメージ(色々危うい状態)で俺を殺す気か!」

「……やっぱりこの状態のマッド様はちょっと可愛いですね」

「ぶっ飛び侍女ウイルスに侵食されてやがるぞコイツ!?」

 

そんなこんなで何とか前回のように俺が背を向ける形にするまで格闘は続いてしまった。

挙句ベッドの上での小規模顕魂術合戦にまで発展する羽目に。

とんでもなくしょうもない魔力の使い方な気がするんだが……ここで抵抗を止めたら俺は確実に腑抜け(ダメ)にされる。

……おい、今R指定の方考えたヤツは表出やがれ。

実際は、抗おうとかそんなこと考えてる内に意識落としちまったんだ、そんなことあるわけないだろうが。

 





というわけで、無事に第3章終了でございます。
本来なら転天書籍2巻部分のところなのですが、大量にオリジナル部分を追加した結果こんな長丁場に。
グランサガの本筋はまるで書いてないのですが、あちらの足がかりにも出来る形にはしました。
そして本章最後もきっちりと締めるユフィリア様。
まさに目には目を、歯には歯を、やりたい放題にはやりたい放題を。
破天荒は攻めっ気が強い分一度受けに回ったら崩れやすい……というクリスティーナからの黒い助言をそのまま実行した結果です。
ただこんな行動に出ている理由が単にマドラーシュを『ギャフン』と言わせたいがためという……メインヒロイン、いいのかそれで。
この辺りに集中していたから、実は舞台裏を書きたかったけど書けず。
まあグランサガ側のあの勢力と、転天側のあの勢力なので後ででもいいかなあと(怠惰)

さて、原作はここから曇り全開章ですが……こちらは本格的2作品合流からの〜となります。
まあ流れだけ書き上げている中には物騒な回もありますが、バトルは一旦少なめです。
そして色々と流れを弄る必要が出てきたので、以前から告知した通り少し投下をお休みします(最大一カ月程度)
その間は設定資料の追記やら整理を主に、頭を空っぽにした超短編集とか密かに書いてはいる別作品も進行次第ではというところです。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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