攻撃貰っていたみたいですが、迅速な対応ありがとうございます。
運良くメモ帳に咄嗟に移して修正が出来たので、何とか滑り込みセーフです。
つい先週、別作品となる原神の二次お試し(読み切り)を上げました
興味があればそちらもどうぞ
普段は王宮仕えの貴族たちと共に使われる会議室だが、今回ばかりは様相が異なっていた。
それぞれ国王と王妃であるオルファンスとシルフィーヌ、その宰相グランツ、更にはミゲルの父であるグラファイト侯爵……常連はここまでだ。
残る顔ぶれとしては、騎士団顧問ラインヒルトにここまで表立って政治に関わってこなかった第二王子マドラーシュ。
そこに先ほど入室した、任命されて間もない特別近衛騎士たち6人……更には魔学と顕魂術を繋ぐ唯一の人材としてユフィリア。
そして外に控えるのは侍女でありながらもトンデモ戦力となるセラとプリシラ。
まさに『魔法省暗部への対策』、そして『顕魂術と魔学という異端を加味した上での今後』という議題でなければ到底集まることは出来ない面々である。
「あの時のクーデターの時から暗躍していたというのですか……?そんなことも知らずに、私たちはのうのうと──」
「お前たちの代にとんでもない負荷を残してしまったということか……ぐう、別の意味で胃が痛くなってきたぞ」
「俺としてもあの連中にはムカついてたわけだし、父上と母上が気に病む必要はない。悪いのは、ここぞとばかりに増長して暗躍してたアホ共さ」
手始めに、マドラーシュとラス達がこれまでの対魔法省暗部とのいざこざを全て証言した。
ラインヒルトは以前に出来得る限り事前知識を話していたので、聞き手となる4人はどこかで詰まるということは無かったが……大小様々の罪悪感は計り知れない。
自身が今の地位に就くきっかけとなったクーデターで、処刑したはずの不穏分子が今の今まで暗躍していたなど顔面蒼白にするには十分な不祥事だ。
その尻拭いを行っていたのが、またもや王位から最も遠ざかっているはずのマドラーシュであることに実の親としては特に恥じ入るところ。
土下座でもしかねないほどの勢いの謝罪に対して末っ子はいつもの調子で宥めていた。
そんな様子で空気が重くなるが、淀んだ空気を良しとしない鶴の一声はすぐさま上がる。
「それにしても、アニスフィア王女の魔学が台頭する中よくぞこのような隠し刃を磨き続けて……偉志ノ大陸で言うところの『石の上にも三年』というものでしょうな」
「些か切れ味が過ぎる気もしますがな……そのお陰でこちらにも混迷の余波が至っているのが現状です」
「魔学と顕魂術、双方軍部の方でも重用すればいい話だろうに。現に顕魂術の方は、既に幾人もの使い手がおって実績を挙げておるのだぞ?」
魔学と共に顕魂術を押せ押せと言わんばかりに推すグラファイト侯、対して更なる混沌を警戒するグランツ公。
中立派と革新派の衝突が表向きではあるが、本来の立場とは真逆を行く言い分なのが猶更滅茶苦茶である。
当然ながら、そのチグハグの原因になっているのは……。
「この期に及んでまだマドラーシュ王子を過度に警戒しておるのか。確かに、ここ最近まではグランナイツと共に秘密主義然と動いておったからこそ怪しく見えたが……それも潜在的な国家の敵への対抗の為と腹を割ってくれたであろうに」
「ええ、本人はそこまでと思っているでしょう。しかし……」
この時のグランツは、その鋭い視線をマドラーシュに向けてはいなかった。
水面下で動くという慎重が過ぎる立ち回りは、下手な人的介入を避けることが主目的。
そこから余計な波風を立たせないようにしつつ、膿を絶とうと動いていた。
陰の役回りというポジションを、下手な野心を持たずに担ってくれるならば、むしろ歓迎だ。
しかし、その下手な野心がグランツには見えていた……正しく言うなら、その後ろ盾からだが。
「まあいいでしょう、多少順序が前後するだけのことです。──正直なところを申しますと、マドラーシュ王子を陰に追いやったままでは国にとっても損失が大きい。皆さまはそう思いませんか?」
自身に矛先が向かうや否や、咄嗟の爆弾で反撃する。
その威力はラス達やユフィリアですら驚愕で見開いてしまうほどである。
暗にこれまでのやり方を否定している、不遜な物言いなのだから。
火種となっている張本人は、特段狼狽えることなく涼しい表情だが。
普段ならばこちらも食って掛かるはずのところが、まるで動く気配が無い。
「……まさか、これを機にアルガルド王子を押し退けろと?」
「存在感を示すだけの地位にはいて頂きたい、それだけのことですよ」
「そこは一理あるな。今回の暗部騒動も、結局は頂点であらなければならない王族が軽んじられたが故の暴虐未遂だ」
「……それについては返す言葉も無いな。魔法省との折り合いをあまりに重視しすぎた結果と言える」
とはいえ、これもまた仕方のない結果だ。
先代国王が敷いた、秀でた平民を貴族としての位を与えるという政策は些か先鋭が過ぎた。
その結果が、当時第一王子であったオルファンスの兄が起こしたクーデターであり……兄弟が保守派と革新派に分かれて対立することとなる。
当時の軍事的戦力を根こそぎ取られている状況下で魔法省に頼るのは必然で……。
(ま、それで盛大に図に乗りやがったのが大体悪いわけで……まあ、父上ももうちょい上手く強硬策取れたらよかったんだろうが)
二人はそのような負債を次代に残すことをどこまでも悔やんでいるが、少なくともマドラーシュは割り切れている。
時にはどうしようもないこともある……このことを、齢15ながらある程度は理解していた。
彼の第二の故郷と言える偉志ノ大陸でも、そのような歴史はわんさかとあったのだから。
それと共に、そんな状況下にあって如何に足掻くか……それが大事であることを改めて学んだわけで。
「今やアルガルド王子とマドラーシュ様は顕魂術や他の面において互いに研鑽を積んでおられる仲でございます。ならば、共通の敵に対して一丸となって立ち向かう方が臣下としても好都合でございましょう」
「今代は座を賭けて争い、次代はそこを鑑みて内と外の脅威に共に立ち向かう……これ以上になく頼もしいことではないか」
これにはオルファンスとシルフィーヌも大いに頷く。
当時は担ぎ上げられて致し方なしだった、しかしそれでも当時の混乱を担ってしまったことは事実で。
その時の苦汁を次代に生かされるならば、まさにその苦労を背負っただけの甲斐があったというもの。
しかし、もう一人の当事者筆頭はその案に潜む事柄に懸念を示す。
「しかし、派閥として見るとそう上手くいくかどうか……」
「それは当然の懸念ですね。魔法省の方はグラファイト侯爵の手引きでどうにかして頂くとしても……」
「はっはっは、そんなものは貴族社会の常であろうに。グランツ公としては、己が擁立しているアニスフィア王女が除け者になるのが面白くない、そうじゃろう?」
グラファイト侯爵の追撃は、まさに遠慮なし。
持ち前の鉄面皮で表には出さずにはいるものの、痛いところを突かれているというのは誰の目から見ても明白。
そしてマドラーシュとラインヒルト、後はラスとキュイ、セリアードという面々は内の魔力の乱れも大小なりとも感じ取っている。
だからこそ、他の面々よりも老獪に向ける苦笑の色が強かった。
「……マドラーシュ王子が表舞台に上がるということは、彼自身が生み出しこれまで育ててきた顕魂術が表沙汰になるということに外ならない。ただでさえ魔学という劇薬をゆっくり浸透させようという時に新たな劇薬……いや、もはやそれ以上のものを投げかけたらどうなることでしょう」
「やれやれ、もうそんなことを言うてる場合ではないだろうに……のう、マドラーシュ様よ」
「ええ、正直そんなみみっちい権力争いしてる場合ではない。チンタラしていたら、確実に国が無くなりかねない事態ですので」
破天荒はここぞとばかりに攻勢を見せつける。
流れを変えるならここだと言わんばかりの勢いに、さしものグランツも、更にはオルファンスも一瞬気圧されることとなった。
ラインヒルトとグラファイト侯、そしてシルフィーヌは微笑を浮かべているだけだが。
「精霊への異常な信仰心に取り込まれる、そこまでの話ではないのか?」
「先日の一件がただの国の中の内輪揉めでしたらその通りでしょう。しかし、水面下ではもはやそうも言ってられない状況です」
「なるほど、それは要するに……他国の介入ということですな」
またもやグラファイト侯の一言で、今度は緊張が走ることとなる。
狂信者たちの謀反だけに留まらず、外からの侵略もあり得るとなれば当然のことで。
むしろそんな事態にあって尚平然としている顔ぶれが、あまりに肝が据わり過ぎているだけとも言える。
「シャルトルーズ伯爵子息が何者かに身柄を確保され、その際にこれまで知覚したことの無い魔力波長が見受けられた。その所属は明らかになっていないが……裏で糸を引いている存在の証明には十分でしょう」
「違法研究所を摘発する際にも、明らかに王国の外から持ち出された技術が散見されました。──そして極めつけとなるのは、キーストーン──『神の霊石』です」
これまでの暗部との戦いの更なる裏事情が遂に明かされることとなった。
暗部が精霊契約を人為的に行うという目的とキーストーンの繋がりについては特に強調していく。
時折ラスとセリアードが重要参考人として話を挟み、ウガルーの復活やグリフォンの暴走についてもようやく明るみとなる。
そこに先日のクーデターにおける、大精霊紛いとなったモーリッツ率いる暗部たちの蛮行を繋げれば……。
「この国の礎でもある精霊契約……そこに至れるやもしれぬ代物が存在して、更には本当に至りかけてしまった」
「思えば、暗部はどこからヴァンパイア含む魔石関連の知識や技術を得たのかという問題もありましたが……これでようやく辻褄が合いましたね」
「……我々が内政の立て直しで手いっぱいの内にそこまで腐敗していたとは」
アルガルドを懐柔し間接的に王族を操ろうとする……その為にヴァンパイアの力が使われたことなど比較にならないほどの衝撃だ。
今回はあくまで紛い物ではあるが、キーストーンの扱い方次第では本物に極めて近いところまで至る可能性もある。
そして、その過程で犠牲になった者が少なくないというのも見過ごせない現状だ。
それも亜人種だけでなく、国内で禁止されている奴隷を他所から買い付けては実験の糧とするという外道っぷり。
ちなみに、この実験の犠牲になった者がいるという事実はラス達ですらも初耳である。
各々魔法省暗部のやり方に改めて不快感を表したり、悲痛な表情を浮かべていた。
これにて、この場の全員に本当に優先すべき事柄は共有されることとなる。
「当然、この案件に全力対処しなければなりませんが……それだけではあまりに味気がない」
「これまで癌であった魔法省の高圧っぷりが鳴りを潜めている今はまさに好機。暗部の傲慢さによる自爆には感謝至極ですね」
どの口がそのようなことを……と、裏事情を知る者察した者は思うことだろう。
破天荒王子もそうだが、ひたすら陰に徹してきた腹心もなかなか辛辣なことこの上ない。
敵方の暴挙を誘うどころか、そこを利用して内政における洗浄作業に持ち込むなど……グレーゾーンにも程があるのだから。
更には、王家の監視役をも味方につける周到さも兼ねられては……まさにさもありなん。
まさに、目には目──混沌には更なる混沌という暴論という名の綱渡りである。
「せっかく禍を表沙汰に出来たんだ、この際徹底して掃除に取りかかってしまいたい。どこかの誰かさんも予見したように、むしろ禍を転じて福と為すいい機会……この転換点を前にして、立ち止まる選択肢などどこにあるだろうか」
賽は既に投げられている、そのことは最も慎重であるグランツですらも理解はしている。
親友であり忠誠を誓う相手も、どこか安堵の息を吐いているのも理解できる。
同志とも言える王妃は、いつものように末の息子の暴れっぷりを見て歓喜しているのでとりあえず流すとして。
勿論、破天荒王子が良からぬ野心を抱いているという疑念はとっくに晴らしているが……そことは別のところで懸念を拭いきれなかった。
あの後、会議は手早くお開きとなった。
分かっていたことではあるが、改めて聞いてしまうと息を飲んでしまう。
まあ、この国の根幹が既に揺らいでいるわけで……こうなるのも致し方ないと言うべきでしょうけど。
「全くマドラーシュめ、あやつまで儂の胃を抉るようになるとは……」
「それでこそ次代を担うだけの地力というもの……あの子も事前告知はしっかりしておりましたよ?」
「それでもあの情報量は流石に、なあ……そういう意味で大変だったのはユフィリアであろう。今度は末の息子に苦労をかけられているのだからな」
「お気遣い感謝いたします、陛下。しかしマッ……マドラーシュ王子がとんでもないことを言い出すことはもう慣れつつありますので、こちらは特に問題はありません」
ええ、本当にいつものことで……あの場で一体何度どれほど抓って差し上げようかと思ったことか。
しかも、しれっとグラファイト侯爵家まで味方につけているだなんて……十中八九ラインヒルトが撒いた種でしょうが、それでも気に入られ過ぎです。
恐らくあの話の進み方では、恐らく事前に示し合わせていたのでしょうね。
「その口振り、まるでマドラーシュ王子のことを以前より知っているかのようだが……?」
「今回私がこの機に謁見を申したのはまさにそのことが関係しております。まずは私とあの方の事の成り行きからお話いたします」
──そこから、私はこの3年について大体洗いざらいお三方に話した。
大体というのは……その、流石に話したら拙いと分かる部分を省いています。
いくら私でも、勢い余って寝室に突撃しただなんて言えるはずがありませんからね……下手したら一発で勘当されかねません。
……『なら最初からやるな』とマッド様から言われそうですが、それはそれです。
流石に馴れ初めの部分はそこまでぼかせなかったので、呆れられること覚悟で正直に話しましたけどね。
「……まさか、アルガルド王子との婚約解消の裏ではそのようなことがあったとはな」
「隠していたことについては大変申し訳なく思っております。ただ、下手に表沙汰にしたらそれこそ大事だとあちらが仰って……」
「……流石は暗躍特化のマドラーシュ王子というべきか。よくここまで隠し通したものだとむしろ感心と驚愕が先行するほどだ……陛下の方は?」
「ほぼ同意見だ。全く、誰かに見咎められでもしたら一発で破綻するというのにあやつは……」
「アニス以上に首を突っ込みつつ、危ない橋を渡り切るのがあの子の常ですので──それでこそマドラーシュ、理解も納得も出来ますし賞賛ものですね」
お父様の驚きようは言葉のままだが、表情に出ていないのが少々怖いですね……。
ちなみに陛下は今すぐにでもひっくり返りそうな様子で、まるでアニス様の問題行動が露見した時と似ている。
強いて言うならば、胃痛は発していなさそうなのが救いでしょうか。
ところで、シルフィーヌ王妃は何故どこか誇らしげな表情でいらしてるのでしょう……。
これが、クリスティーナの言っていた末っ子補正というものなのでしょうか。
先ほどのグラファイト侯爵もそうですが、しれっと信用を得ているケースが本当に多いですね……。
「そうなると、お前をここまで変えたのは誰でもないマドラーシュ王子だったと……二人がそこまで懇意にしているのであれば、あの噂についても合点が行くか」
「顕魂術についてですね。ユフィリアが講演会の締めで使ったと先日からひっきりなしで飛び交っていますが、それもまた事実なのですか?」
「はい、紛れもない事実でございます。当時のマッド様はまだ限られた者にしか明かしておりませんでしたが、クラーレット侯爵令嬢とグランナイツの協力もありそこまでこぎ着けることが出来ました」
そこまで断言すると、お父様は小さく溜息を吐いていた。
──これがなかなかの劇薬であることは承知の上だ。
先ほどの会議の様子から、お父様は間違いなくマッド様のやり方には疑問を持っている……というより、持たざるを得ない。
あちらのやり方は、これまでの王国からすれば前代未聞とすら言えるやり方なのだから。
マッド様が台頭することを渋々許容したのも、状況からしてそうせざるを得なかったからだ。
そして、ここからが遂に本題となる……お父様もそこは理解したのか、私に鋭い目線を向けてきた。
「噂は噂であってほしかったところだが、そう甘くないのが現実か……それはマドラーシュ王子の為そうとしていることは理解した上のことなのか?」
「長年かけて根付いてしまったこの国の膿を取り除くこと、という認識までならばそうなりますね。ですがそれは……」
「ああ、王族として見ても問題のある思考ではない。むしろこちらとしても望むところではある。──しかし、その手を取ることは簡単なことではない」
……向いている方向は同じということですね。
しかし、お父様の中には承服しかねない何かがある……ということ。
その対象がマッド様となれば、その理由は容易に想像はついてしまう。
「──その手法があまりになりふり構わずで、かつ周りを顧みていないからですか?」
「まさしくその通りだ。マドラーシュ王子はオルファンスないしアニスフィア王女とは対極的……器の質はまさに暴君そのもの。現に先ほども、国を割ってでも突き進む勢いであっただろう?」
こればかりは流石に否定出来ませんね。
暗部の暴発を誘発しては迎撃して、その悪事を表沙汰にすることで……魔法省そのものを弱体化させたのだから。
そうでなくとも、元々は裏でその悪事を掴むために自ら泥を被ることすらもまるで厭わず。
マッド様のやりたい放題は、お父様の仰る通り暴君的気質が強いのは事実なのでしょうね……。
「それとこれは、先ほどはあえて口にしなかったことだが……更に国外勢力まで暗躍しているという話があったが、その狙いもまたマドラーシュ王子と顕魂術なのではないかと私は疑っている」
「……あやつがそもそもの火種と疑うか、グランツよ」
「影響力がとんでもないことは事実だろう?いくら水面下で動こうと、その余波を嗅ぎつける輩が国外にいても不思議はあるまい」
「そこは否定出来ませんね。偉志ノ大陸の方では婿養子にということでとことん好感的でしたが……カンバスやアーイレン他西方では脅威的に見られても不思議はないかと」
……え、待ってください?
今婿養子とか不穏な言葉が聞こえてきたのですが。
あのやりたい放題傍若無人無茶苦茶第二王子に婿入り話って、一体どこをどうしたらそんな話が……。
しかし、マッド様は事あるごとに話題を出すほどあちらを好いていることを思い出す。
──まさか、そのとんでも話もそのまま受けているからあんなに贔屓にして……
「ユフィリア、落ち着いて下さい。あくまで婿だ何だは合間で出てきた雑談程度、いわば冗談で本人も相手に悪いとお断りしておりますから」
「……凝縮された魔力がとんでもないことになっている。少し抑えなさい」
「っ──し、失礼いたしました」
……ほとんど無意識で魔力制御を怠ってしまいました。
まさかこんな場面で暴発しかけるだなんて……我ながら何たる失態。
この程度で魔力に乱れが生じるなど、イグノックスやラインヒルトに叱られてしまう。
「外部の影響力がここまで強く、更に本人は国を割りかねない危険因子と来ている。正直、魔法省の暗部が明らかになっていなければ再度陰に伏せてもらっていたところだ」
「……マッド様も表に出たくて出たわけではありません。相手の勢力が想定以上に強大で、そうしないと国すらも潰れかねないと先ほども仰っていましたが」
「彼は魔法至上主義を大層憎んでいるとも耳にしている。挙句その原点を以て亜人種や不当な扱いを受け貴族の地位を追われた者、魔物の脅威に晒され続けた東部を纏めてしまった……更には次期国王であるアルガルド王子も勢力下のようなもの。これほどの手勢で国を壊さないとどうして言い切れよう。実際アルガルド王子にも影響を及ぼしている可能性があると知って、本格的にアニスフィア王女の台頭を強引にでもと考えそうになったほどだ」
……お父様の声色から察することが出来るのは、明確な恐怖だ。
本来ならばとっくにハリボテの烙印を押されているはずのマッド様が、裏でここまでの手腕を発揮しては勢力を保持するとは思ってもみなかったのだろう。
あの怖いもの知らずなお父様にここまで言わしめる辺り、流石と言うべきなのか呆れ果てるべきなのか……。
「グランツよ、それは些か警戒しすぎではなかろうか。そもそも今下手にアニスフィアを立てたとて……」
「……アニスフィア王女も確かに異端で、私も恐れを抱いていないかと言われれば嘘になる。だが、元々私はそのつもりであの方の後見人となったのだからな……想定していた分舵取りもしやすい。ユフィが引き続き助手として支えれば、もはや言うことなしだった」
要するに、同じ恐怖の対象でもまだ制御出来なくもないアニス様ならばということですか。
しかし、そんなお父様の考え方は間違っていない……国を思うが故にということなら致命的な綻びはないでしょう。
国の安寧を第一に思う場合、マッド様の存在はアニス様以上の劇薬であるのは間違いない。
もしかしたら、グラファイト侯もその辺りを理解した上で一時的な後ろ盾になっているに過ぎないのかもしれない。
あくまで暗部との闘争限りの結託で……事が済んだらあっという間に離反する可能性もある。
……そうなってしまったら、あの人がこの国に留まるという保証はどこにもない。
そもそも彼自身も異端であることを重々理解している節があり……何だかんだで思慮深いところもある。
確実に出ていくことは間違いない……恐らく、グランナイツや特別近衛騎士の面々、専属侍女と共に。
──そんなの、あまりにこちらにとって都合が良すぎる話だ。
「しかし、ここまでは私の忠義に過ぎない。今度はお前がどう思っているのか、是非聞かせて欲しい」
当人の耳は及ばないところで懸念や不安を話す……牽制という面もあるにしろ、なかなかの真正面からの突撃だ。
お父様がここまでするのならば、娘の私も相応なものを見せなければならない。
お父様を納得させられるかはさておき、とにかくぶつける……これはそういう親子喧嘩のようなものだ。
深く一呼吸を入れ、改めて姿勢を正し……私は口火を切ることとなった。
「確かに、マッド様についてはお父様が仰る通り懸念も目立ちます。不敬を承知であえて申すと、傍若無人で人をまるで顧みない、まさに暴君と言われても首を縦に振らざるを得ない御方。どこからか『時代を切り裂く烈風』と称されたこともありますが、彼の破壊行為全般を指す言葉としては相応しいのではないでしょうか」
「……いきなり遠慮ない物言いで始まるものだな」
仕方ありません、事実は事実ですので。
そこから目を背けては何も始まりません。
大事なのは、そこから先なのですから。
「その反面、多くの者が彼の『気に入らない』という言葉から発せられた行動で導かれ……結果的に救われました。専属侍女であるセラ、プリシラ。本日特別近衛騎士に任命された面々、東部の亜人種……そして、私自身も」
「……彼を慕うのは、自分を救ってくれたことへの恩義からか?」
「恩義を大いに感じ、報いようと思っているのも確かですが……真っ先に挙がるのは、彼に対する対抗心でしょうか」
端から聞けば随分とおかしな言葉でしょうね。
実際、私自身ですらそう思ってしまうほどですから。
流石のお父様も想定外だったのか、珍しく目を丸くして……っと、
しかし、マッド様との関係を事細かく語るには必要不可欠な言葉が故に致し方なし。
──全ては、何てかにてハチャメチャなあの方が全て悪い。
「彼の場合、あまりに遮二無二に首を突っ込んでくるのです。そこから与えられるだけの自分に嫌気が差してしまい……何ならこの破天荒と同じ位置に立ってしまえ、対等になってしまえばいいと開き直るに至りました」
「……そういう意味での対抗心か。そして刺激されて挙句対等を求む……貴族と王族で考えれば、なかなか大きく出たものだな」
もはやここまで来たら血筋だ地位だ……関係が無いとまでは行かずとも、最重要視されることではない。
何がしたいか、何が出来るか……その中で最も譲れないものは何なのか。
マッド様はこれまでの生を以て、幾度も私たちにそれを示してきた。
その結果、私の中に渦巻く色々な情はつい先日ようやく焦点が定まることとなった。
「更に言うならば、マッド様は些か己に……いえ、自我に正直過ぎるきらいがあります」
「正直『過ぎる』、か。──なるほど、言い得て妙とはこのことか」
「グランナイツを到達すべき高みの一つとするのは、まあ構いません。しかし、毎度毎度自身を掛け金とするのは悪癖と言えるでしょう。我が身すらギリギリの領分までしか顧みずに痛めつけることも厭わず。そんな自分勝手でいながら、その責を己の中で押し留めるように動く。だからあの方は常にいっぱいいっぱいの破滅一歩手前で……正直、見ていられなくなることもあります」
先日の迎撃戦の時が特に顕著だった。
私たちを巻き込んでしまうからとせめてもの負担を徹底的に自分に押し込み、更には首謀者のモーリッツもきっちり大将対決と義務付けては仕留め切って。
その過程でも他の者に手出しさせず、単騎で完結させようと本当の目潰しという荒業で強引に打倒し得る領域に己を持っていく。
他にも幾度となく自身をギリギリいっぱいの領域に持って行って……何度自身をその淵に立たせれば気が済むのか。
「だからこそ、これ以上余計なことを背負わせたくない……それが彼にとっての不本意ならば猶の事です」
「……先ほどの杞憂を、あえて余計と捉えるか」
「度が過ぎるところはございますが、それでもあの狂気じみた童心に魅せられた身でありますので」
それはすなわち、マッド様の暴君的気質を認めるのと同義だ。
当然国という視点で物を見れば、物騒極まりない判断であることも承知の上です。
その領域を侵させたくないのであれば、やらなければならないことはむしろ分かりやすい。
……後は、その為に必要な力と建前を得るだけのこと。
「掬って頂いたことへの恩義、異常染みた自分勝手さへの苛立ち……後は年を重ねて尚失われない童心混じりの御心への親愛や憧憬。これらが彼と同等の位置に立ちたいと思った源泉です。色々と矛盾やおかしなところがあって尚輝く、そんな様もまた慕う理由です。だからこそ、その先に有り得る破滅から遠ざけたい──これこそが私の忠義です」
「その言い分だと、既に近しい望みも定まっているのだな?」
「──私も暗部との戦いにおいて先陣に立ちます。根付いた腐敗を断じるという貴族としての義務、どうしようもないほどになりふり構わずなあの御方に食らいつくという私の望み……どちらも果たすために」
最後に、ようやく直近における願いを口にすることが出来た。
まさにいつ、どのように死ぬかも分からない戦いに身を投じようという……貴族としてはあるまじき、酔狂染みた懇願。
もはや国よりも個人を選んでいるのだ、正直狂気的なことは自覚している。
それでも譲れないものは譲れないのだ、どうにもならない。
……そんな意を決した言葉に対して、お父様は……笑みを浮かべている?
「随分と混濁してはいるが……それもまた立派な忠義と言えるな。しかしオルファンス、これもまた時代が変わったというべきなのか?」
「で、あろうな……全くあのやりたい放題め、次世代の筆頭をここまでしっちゃかめっちゃかにしおって」
それに加え、陛下までも僅かに苦笑しながらも穏やかな表情だ。
シルフィーヌ王妃に至っては、それはもう満足げな微笑……まるで状況が読めない。
少なくとも、悪い手応えではないのでしょうが……何故か胸の奥がざわざわする。
「これで先ほどの反応にも合点が行くものだな……全く、私もまだまだ見通しが甘いな」
「陛下、先ほどの反応とは一体……?」
「マドラーシュが偉志ノ大陸から婿入り話があったと零した後のことですよ、ユフィリア。随分と面白い反応を見せていたではありませんか」
「先ほどの思いの丈を聞けば、まあ納得せざるを得ないだろう」
……思わぬ追撃に、私は一瞬固まってしまった。
言葉だけでも氷属性の魔力は放たれるものなのでしょうか。
そんな洒落にならない冗談を飛ばしたくなるくらい、今の私は瞬間凍結してしまったと思う。
「……何故そこで固まる?先ほどの婿入りの話に対する反応を見たら誰でもそう判断すると思うが……まさかの自覚なしか?」
「何の自覚、でしょうか。正直分かりかねるところなのですが……」
「あのマドラーシュに対してあそこまで豪語して、その上慕っているとまで言ってのけたというのにか?」
……待ってください、あれってそういう意味で伝わってしまうものなのですか!?
え?『同衾しておいて何を今更』って……アレはマッド様をぎゃふんと言わせるための一環です!
せっかくいい感じで締めくくったかと思ったのに何でこんなところでグダグダになるんですか!?
そういうのはマッド様だけでいいでしょう、何故私までこんな目に!?
なんて頭の中で激しい一人芝居を繰り広げていると、お父様が何とか締めくくってくれた。
……何故か先ほどから嫌な感じの微笑をこちらに向けてきているのですけれどね。
絶対変な勘違いを抱えたまま自己完結しようとしていますよね……。
「とにかくお前はマドラーシュ王子の暴君的気質を是とし、縛るのではなくよりよく振りまけるよう努めると宣言した……これだけで十分。無論、私なりの忠義には反するから大っぴらに支援はするつもりはない。私としては引き続きアニスフィア王女の下で魔学の功績の一端を担い……それを以て改革を担ってもらおうと目論んでいたからな」
それもまた承知の上です。
お父様が良かれと思って用意してくださった道から外れる、それは庇護から外れるのと同義だ。
……とはいえ、そこで完全に袖を分かつつもりもないのですけれども。
「そのことについてですが……アニス様の助手も引き続き兼任する腹積もりでもあります。魔学にも可能性を抱いている、これについても一切の嘘偽りはございませんので」
せっかく得てきたものをみすみす手放すなどそれこそもったいない……マッド様でも同じことを仰ることから、私も倣うまでですね。
それに、アニス様もまた友人で……これからもお助けしたい方でもある。
それに、魔学と顕魂術は異なるところは数あれど……未来という一方向を向いているところは立派な共通点だ。
道は違えど、それでも手を取り合うことは決して不可能ではないはず。
「ほう……魔学と顕魂術の双方を担うとまで言い切るか。まさに今のお前らしい強欲さだ。ならば、私からも一つ餞別を送るとしよう」
そこまで言うと、お父様は唐突に陛下に向かって頭を垂れていた。
……何でしょうかこの流れ、どことなく妙な感じが。
「陛下、これまでの状況を鑑みて、大変厚かましいことこの上ないことは理解しておりますが……一つお願い申し上げたいことが」
「ユフィリアをマドラーシュの婚約者に、だろう?安心しろ、こちらからも性懲りもなく願い出ようとしたところだ」
「二人についてはまさにお互い様、頭を上げて下さいグランツ」
私の困惑を他所に、見事なまでの爆弾が投げ込まれました。
……あの、待ってください。
何で婚約者なんて言葉が出て来るのでしょうか?
一体どこにそんな流れが──どうしてこうなったのですか!?
これで正式ヒロイン化だよやったねユフィリア様!
勝手に外堀埋まるのはこちらも同じこと、何だかんだそういうところも似た者同士
なお鬼門はお相手の攻略の模様
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
-
転天キャラでのNLとか他絡みを所望
-
グランサガの二次がレアすぎて
-
バトルハードモードに釣られた
-
ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
-
その他(そもそもの作風とか)