”「……相伝の術式を引き継がなかっただと? …所詮は女というわけか。 閉じ込めておけ、汚らしい。」”
"「あんたのせいよ! あんたが生まれてきたせいで私まで!」”
”「……チッ、汚いわね、あんたにやる飯なんかあるわけないでしょう。」”
ずっと無能だと言われ続けてきた。
自分でもわかっている。家の相伝術式どころか、普通の術式でさえなかった。そんな私が無能じゃないわけがない。
だから、私には一生小さな四畳半の倉の中で過ごすのがいいんだってこともわかってた。
でも、一度くらいは認めてほしかった。一度くらい、あの小さな蔵から出て、お父さんと、お母さんと暮らしたかった。
”「喜べ、お前にも使い道が見つかったぞ?」”
だからあの時、外に出してもらえて嬉しかった。
私にもできることがあったんだって思った。
でも結局、誰も私のことは見てなかったんだね。
♢
「っ…!」
起き上がって辺りを見渡す。
そこは小さな四畳半の倉でもなんでも無く、私にあてがわれた呪術高専の部屋だった。
そうだ。あの後五条さんに連れられて、今日からここで過ごすんだった。
『……どうやら、寝起きは悪かったようだね?』
腕に生えた口…狩人に言われて見ると、寝汗でひどいことになっていた。
「…ええ、まあ。昔の夢を少し。」
『ほう、貴公の夢か。私としては是非その夢について話してもらいたいところだがね?』
「…お断りします。私にそんなメリットないでしょう。」
そう答えると、狩人は何が可笑しかったのか、少し含んだ笑いをしながら消えていった。
ともかく、まずは服装を整えなければ。
♢
呪術高専、その教室の一角にて。
呪術高等専門学校は、その名の通り呪術を教える学校である。だが別に呪術のみを教えるわけではない。
五教科はもちろん、一般社会に出てもなんら問題はないようにきちんと教育を施される。この学校から一般社会でもトップクラスの会社に上り詰めた生徒もいるくらいだ、通常教育に関してはかなり力が入っていると言えるだろう。
そのため、通常の学校よろしくホームルームじみたものもあるのだ。現在この教室に集まっている一年生3名も、そのためここにいるというわけである。
「……チッ、おせえなあの目隠し。」
メガネをかけたポニーテールの少女、禪院真希が少し苛立ちつつ言う。
それを聞いた隣に座るパンダ、パンダともう一人の長襟をつけた少年、狗巻棘が返事をする。
「ま、悟が遅刻するのはいつものことだろ。時間通りに来る方が珍しい。」
「しゃけ。」
「ハァ……。」
そういや、とパンダが思い出したように声を上げる。
「なんか悟が小学校くらいの女の子連れ回してるって噂があったな、今日遅れてるのはそれか?」
「おっ、なんだよそのネタ、聞かせてくれ。」
「ツナマヨ。」
パンダがそれについて説明する。
「…2週間前くらいに入り口のところで幼稚園くらいの女の子連れた悟を補助監督の人が見たらしいんだよ。噂じゃ悟の隠し子だとか言われてるらしいぜ。」
「ついにやることやったかあのバカ目隠し。」
「おかか…。」
そう棘が呆れたように言った時、突然教室のドアが開かれ、3人の担任である五条悟が入ってくる。
見知らぬ幼女を連れて。
「おっはよーみんな! 今日も頑張っていこー!」
「悟…お前マジで…」
「え、なんでそんな不倫した男を見る目みたいな感じで僕を見てんのさ。」
生徒に変な目で見られて困惑する五条に、横の少女から声がかかる。
『……凪を連れて歩き回っていたのが原因ではないかね、五条。』
明らかに少女からしていい声ではない、男の声。
その声を聞いた3人の背に悪寒が走る。
術師として呪霊を倒したことのある彼らの間がこう囁いていた。『アレは呪霊だ』と。
「…月見凪で…すっ……私、何かしました?」
「だっても何もあるか。……お前、呪われてんだろ。」
黒板の前に立つ少女、月見凪に薙刀を突きつけつつ、真希はそう言った。
『……ふむ、私が声を上げてしまったのがよくなかったようだ。』
「っ…!」
3人が声のした方を見る。そこには凪の手があったが、普通の人の手ではなかった。
彼女の手の甲には口が現れていたのだから。
その口は身構えている3人を見て楽しそうに笑う。
『……クク、五条悟の生徒だ、流石に声を出して仕舞えば私の存在にも気づくようだな。』
「どう? 優秀でしょ? うちの生徒。」
『ああ、どうやら私は貴公の教師としての腕前を見直さなければいけないようだな。』
「さて! そういうことなんでとりあえず全員席に座って! 早く早く!」
五条の言葉に従い、3人はそれぞれ武器をしまって自分の席に座る。最も、警戒を解く気はまだ無いが。
彼らが座った様子を見た五条が、改めて少女の紹介に入る。
「というわけで! やばい呪霊の依代になっちゃった月見凪ちゃん! まだ高校生ってわけじゃ無いけど、うちで面倒見ることになったから!」
「……よろしくお願いします。」
その五条のあっけらかんとした言葉に、思わず3人は呆れてしまう。
事前に誰か来るよとかはいえ、と。
♢
「…さて、準備いいかな?」
「スゥ……はい、大丈夫です。」
教室で1年生の皆さんに挨拶をした後、私と五条先生はグラウンドに来ていた。
五条先生曰く、「体力測定的なあれだよ〜」とのことだが、目の前に呪骸が置かれているあたり、ただの体力測定ではないことは一目瞭然だ。
「よし。まあ相手はただの呪骸だし、呪霊だと思ってガンガン殴っちゃってもいいからね。学長のところから掻っ払ってきたものだから出費もないしね〜。」
「……それ、許可とかは…。」
「へ? あるわけないじゃん。」
あっけらかんと言い放った五条に、私は思わず数日前にあったコワモテサングラスの学長さんの胃が割れない様に祈ってしまった。南無。
ともかく、今は動き出した呪霊に集中しよう。
「…狩人さん。」
『言わなくてもわかっているとも。…クク、せいぜい良い狩りを、若い狩人。』
その言葉と共に私の影から浮かび上がる二つの武器を手に持つ。
右手には
左手には
長い長いあの悪夢で使い古した武器たちを呼び出す。
「ウルルルルル…ガウ!」
呪骸がその小さい体のどこに詰まっているのかわからない力と速度で突っ込んでくるのを、ステップで軽くいなす。
「……まるで、犬の様ですね。」
「グルルルウっ!」
突進が当たらないと思ったのか、今度は短い腕を振り回して攻撃してくる。
確かにそれは素早く動き回る相手にならば有効だろう。だが狩人ならば、その程度の小細工さえもくぐり抜ける。
振り回される腕を避けつつ、反撃に鋸鉈での一撃を返す。
「
「グルッ!? …グオオオオオオオオオオッッッッ!!」
片腕を切り裂いたからか、呪骸は残った腕を振り回し、最後の抵抗とばかりに狩人を殴りつけようとする。
しかしその最も重い一撃は、狩人に小さな隙を晒すことになるものだった。そしてこの若い狩人が、それを見逃すはずもないだろう。
「っ、甘いです!」
「グルゥッ!?」
その隙だらけの体に、凪は短銃を使い銃弾を撃ち込む。それによって呪骸は大きくゆらめき、隙だらけになる。
隙だらけの敵に狩人がするべき事と言えば一つだけだろう。
凪は隙だらけの呪霊の腹部に向け、腕を伸ばす。
「失礼します…っ!」
「ゴオッ……!?」
致命の一撃。狩人の必殺技とも言えるこの技を喰らった呪骸は、立つ事さえもままならず。そのまま、地面に倒れるのだった。
「……ふう。」
『良き狩りだった、貴公。しかし、あの乳母とどうやら闘い足りない様だな?』
その狩人の言葉に、凪は思わずえずく真似をしつつ狩人に言う。
「うえ…あの悪夢を見せるのはもう勘弁してくださいよ…。」
『何を言う、若い狩人。あれがなければ貴公は今の様な動きすらできないだろう。私に頼り切りというわけにもいかないと言うのに、守ってもらうつもりか?』
「私くらいの歳の子は普通守ってもらうものなはずですけど…。」
『全く、ヤーナムの幼子は自ら進んで
「はぁ…。」
『……最も、彼女も結局は食われてしまった様だがな。』
口元から出かけたダメじゃないですかと言う言葉を飲み込みつつ、こちらに歩いてきた五条の方を向く。
「お疲れ様ー。いや、ずいぶん強くなったみたいだね?」
『特訓の成果、と言うやつだとも。貴公がいない間暇だったのでね、鍛え上げたのだよ。』
「はぁ……まあ、そう言う事です。おかげで自衛くらいはできる様になりましたよ。」
「うんうん、生徒が強くなった様で先生は嬉しいな!」
ニコニコと笑う五条、ニヤニヤと愉しむ様に笑う
そんな彼らを見ている凪は、嫌な予感を感じつつため息をつくのであった。
「うーん、凪の今の実力なら1級くらいはいけそうかな!」
「ええー…。」
と言うわけで0組との出会いand実力チェック編でした。
本格的に0編始まるのは次回あたりからになりますね。
ちなみにプロローグ〜3話と4話の間には数ヶ月ほど空白期間がありまして、その暇な時間に特訓を受けたと言う形になります。
0スタートか本編から入るか、どっちがいい?
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