【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 介護からは逃げられなかったよ……



#10 ベストピクチャー

「起きろ姉貴!! 今日はアー写撮りに行くんだろうが!!」

「んぅ~……。撮りに行くの午後から……」

「もう十二時回ってんだよ! 待ち合わせまで一時間ないの!! はよ着替えて飯食って行かんかい!!」

「……いいこと思いついた。レン……私の服着て代わりに写ってきて」

「お前マジでぶっ飛ばすぞ?」

 

 後藤さん達がバイトを始めた週の土曜日。今日は結束バンドのアーティスト写真、通称「アー写」を撮る予定になっている。予定自体は午後からだから、油断していたら姉貴は全く起きていなかったらしい。

 

 昨日「サメ映画はしご」とかくだらんことやってるから起きれないんだろうが。付き合わされた俺はちゃんと起きてるのに。

 

 ちなみに今日はバンドメンバーだけに招集がかかっているので、俺は自分の動画撮影とかやろうとか思ってたんだけど……

 

 今日の予定は完全に潰れたな。

 

「蒸しタオル持ってきたから顔拭け」

「拭いて」

「自分でやれ! 今から飯持ってくるから着替えくらいは出しておけよ。戻ってきてまだベッドで寝てたら本気でキレるからな」

 

 俺はそれだけ言って姉貴の部屋を出てキッチンまで姉貴の朝飯兼昼飯を取りに行く。はぁ……こんなことならもうちょい早めに姉貴を起こしに行っておけばよかった。

 

 さすがに姉貴が昼回ってまで寝てるのは久しぶりだったから完全に油断してたわ。

 

 姉貴の飯は……食べやすいもんでいいな。コーンフレークと牛乳と、フルーツゼリーがあった気がする。……ほんとにさぁ。もう高校二年生だからいい加減しっかりしてほしいよ。

 

 もう介護放棄する? いやでもそうしたら虹夏ちゃんの負担が激増するしなぁ……。あんまり虹夏ちゃんを困らせたくないし。

 

 そんなことを考えながら姉貴の飯をトレーに乗せ、階段を登って姉貴の部屋へと戻る。これで寝てたらマジで怒る。鉄拳制裁も辞さない。DV野郎と罵られようが知らん!!

 

「姉貴、入るよ」

「おぉ~……」

 

 気の抜けた返事が返ってくる。……俺の拳が火を噴くか?

 

 ドアを開けると、意外や意外。ベッドの上に起きて上半身は着替えが完了し、下半身は寝間着のままという姉貴にしては上出来な進捗具合だった。

 

 姉貴! やればできるやんけ! 俺の中で姉貴に対するハードルがものすごく低くなっていることには目を瞑ります。

 

「ほら、寝癖直すからその間に食っとけ」

「レンさんや、いつもすまないねぇ」

「そう思うなら自立して?」

「無理」

 

 こんにゃろう。

 

 俺は姉貴の寝癖を直しながら大きなため息を吐く。姉貴は姉貴でなんか知らんけど鼻歌交じりでコーンフレークを頬張ってご機嫌だし。

 

「レン、ゼリー一口食べる?」

「あ」

「ん」

 

 姉貴が振り返ってスプーンを差し出してきたので俺はそのままぱくりと咥えた。これ多分貰い物のゼリーだよな。美味っ。

 

 そんなこんなで、休日も平日と変わらずドタバタしながら姉貴の介護に勤しんでおります。

 

 あ、ヤバい。本気で時間がない! 集合場所は駅だからそんなに遠くないけど……姉貴の亀のごとき歩みだと絶対間に合わない。下手したら途中で寄り道するかもしれないし。

 

 ぐぬぬ……こうなったら……

 

 

 

 

「あとはリョウ先輩だけですね」

「それが一番の問題だよ」

 

 現在時刻は十二時五十五分。集合時間まであと五分だけど……あたしが迎えに行けばよかったかな~。でも午後からの予定だから流石のリョウも起きてるだろうし、いざとなったらレンくんがなんとかしてくれると思うけど。

 

「ぼっちちゃん、お休みの日にここまで来てもらってごめんね」

「あ、いえ……お、お休みの日にお友達とお出かけするの、夢だったので……」

 

 ぼっちちゃんが恥ずかしそうに俯きながらそう言った。あ、これレンくんがこの場にいたら涙腺を刺激されて泣くヤツだ。レンくんってリョウと違って感情表現豊かで感受性が強い子だからなぁ。

 

「ひとりちゃん! これからは毎週一緒に遊びましょうね!」

「えぇ……!? (そ、そんなには遊びたくない)」

 

 ぼっちちゃんが「そんなに頻繁には遊びたくない」って顔してる。……ぼっちちゃんはほんとにわかりやすい子だなぁ~。この子がギターヒーローだなんて、未だにちょっと信じられないかも。

 

「そういえば、ぼっちちゃんなんで制服なの? 私服でよかったのに」

「え? あ、が、学生バンドだし、この方が良いと思って……(本当は持ってる私服があんまり好きじゃないからなんて言えない)」

「ひとりちゃんの私服見たかったわ~。あ、今度遊びに行くときは私服で来てね」

「(い、いやだ……!!)あ、はい」

 

 ぼっちちゃん、どんな私服着るんだろう。一度だけなぜかピンクジャージを着てきたことがあったけど、あれについてはレンくんも曖昧に笑って誤魔化すだけだったし。

 

「ま、間に合った……ギリギリセーフ!!」

「十二時五十九分……。ふっ、また世界を縮めてしまった」

「はよ降りろクソ姉貴。ごめんみんな、お待たせしました!!」

 

 ぼっちちゃんと喜多ちゃんのじゃれ合いを見ていると、レンくんがリョウを自転車の後ろに乗せて結構なスピードであたし達の方へ突っ込んできた。……今日は介護疲れしているであろうレンくんにゆっくり休んでもらおうと思って声をかけなかったのに。

 

 ごめんねレンくん。あたしが迎えに行くべきだったよ。

 

「レンくんずるいわ! 私だってリョウ先輩と二人乗りしたいっ!」

「いつでもどうぞ。俺だって好きでやっとるわけじゃないわいっ。あ、後藤さん。体調はもう大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫です。ご心配をおかけしました」

「それならよかった。季節の変わり目は体調を崩しやすいから気を付けようね」

「あ、はい」

「……ひとりちゃんにだけやけに甘くないかしら?」

「そんなこと……あるな」

「……自覚あるのね」

 

 あ~、レンくんの甘やかしセンサーがぼっちちゃんに過剰反応してるね。仕方ないよ、ぼっちちゃんってレンくんのそういう庇護欲をくすぐる要素満載なんだもん。

 

 レンくんって昔っからそうだもんな~。リョウのお世話をしている影響が強いとはいえ、付き合ってきた女の子もみんな……ちょっと変な子ばっかりだったし。

 

 大丈夫かなレンくん。普段はしっかりしてるけど、こういうところはちょっと心配かも。うーん……いざとなったら、あたしと付き合う? ……なーんてね。

 

「じゃあ、姉貴も送り届けたんでこれで」

「あ、あれ……? 山田くん、帰っちゃうんですか?」

 

 おろ? ぼっちちゃんが意外な反応をしている。これはこれは……? もしかしてあれですか? 甘酸っぱい感じのヤツですか? 

 

 私の心の声が漏れていたのか、喜多ちゃんとバッチリ目が合った。ほほう、どうやら喜多ちゃんもあたしと考えていることが一緒みたいですねぇ。

 

「レンくん、今日ってこの後に何か予定ある?」

「いや、特にないよ。帰って趣味に没頭しようかと思ってたくらいで……」

「それなら、私達のアー写撮影を手伝ってもらえないかしら?」

「手伝うって……何を?」

「それは、その……あれよ! ねえ、虹夏先輩!」

「うんうん。あれだよ。えーっと、そう! カメラマン! 一応三脚は持ってきてるけど、やっぱり誰かに撮ってもらった方が良い写真になりそうだからさ」

「なんか……すっげー取ってつけたような理由」

 

 レ、レンくんがものすごく疑わしげな目であたしと喜多ちゃんを見てくる。あたしが言ったことは一理あるでしょ? それ以外の邪な理由が大半を占めてるだけで……

 

「俺は別にいいけどさ……後藤さんは俺がいても大丈夫?」

「どうしてひとりちゃんに確認するの?」

「休日に異性と出かけるってそれだけで結構なストレスになるでしょ。しかも予定外の人間と」

 

 おおっと、ここでレンくんのぼっちちゃんに対する気遣いが裏目に出てしまいました。言ってること自体は正しいんだよね。ぼっちちゃんが普通の女の子だったら、レンくんもここまで気を回さなかっただろうし。

 

「あ、私は、大丈夫……です。や、山田くんがいると、楽しそうだし……」

「そういうことよ! 観念しなさい!」

「観念って……別に俺悪いことしてないでしょ?」

「いーや、したわね。ひとりちゃんに余計な気を遣わせちゃったでしょ?」

「あー……確かにそれは。うん、反省。今日は誠心誠意お手伝いさせていただきます。ありがとね、後藤さん」

「い、いえ……こちらこそ、よ、よろしくお願いします」

 

 ぼっちちゃんがレンくんの弱点になっちゃった……。いや、むしろお互いがお互いの弱点になっちゃってるかも。レンくんもぼっちちゃんも、お互いにお願いされたら断れないんじゃないかな? 

 

 う、うーん……とりあえずしばらくは経過観察ということで!

 

 ……問題を先送りにしたわけじゃないからね?

 

 

 

 

 姉貴を自転車の後ろに乗せて全力で爆走したことでなんとか集合時間に間に合った。……電動自転車でよかった。普通の自転車だと絶対間に合わなかったよ。

 

 で、なんかよくわかんないけどアー写撮影を手伝うことになりました。まあ、手伝うっていってもスマホでパシャパシャするだけだろうけど。

 

「で、虹夏ちゃん。撮影場所は決めてるの?」

「ふっふっふ。当然だよ! ではここで問題です! 金欠バンドマンの定番のアー写撮影場所といえばどこでしょうか?」

「姉貴、パス」

「答える気ゼロ!?」

「階段、森、草とか木の前、海、公園、フェンス……あと『なんかよさげな壁』」

 

 最後のめっちゃ曖昧なヤツ何?

 

「具体的に言うと、ちょっとひび割れてて落書きがされてるような壁」

 

 あー、はいはい。イメージできたわ。うん、確かにそういう壁をバックにしたアー写を見たことあるな。

 

「海は今から行くのは無理だからそれ以外の場所で撮影する感じで~」

「おっけーおっけー。じゃあ適当に裏通りとかぶらぶらしますかね」

「れっつごー!」

 

 というわけで、明確な目的地がないまま歩き出しました。ただのお散歩にならなかったらいいけど。

 

 あと、自転車は邪魔なんで駐輪場に置いておきます。

 

「あれ? そういやなんで後藤さんだけ制服なの?」

「あ、その、他の三人は私服なので、一人くらい制服がいてもいいんじゃないかと思って……」

「確かに、上手い具合に差別化できてるね」

 

 でも、後藤さんの私服姿が見られないのはちょっと残念。……いや待てよ? ピンクジャージの件があるし、もしかして後藤さんのファッションセンスってぶっ飛んでるんじゃ。

 

 いやいや、あのピンクジャージはあくまでバンド女子っぽさを出すためのアイテムだったはず! あれを私服として着るようなとち狂った行動なんてしないはず!

 

「レンくんもひとりちゃんの私服姿を見たいわよね?」

「喜多さん急にどうした!?」

「見たいわよね!?」

「あ、これ完全に人の話聞かないモードだ」

 

 喜多さんが俺にグイグイ詰め寄ってくる。なんでこんな興奮してんだこの子? 後藤さんの私服でしょ? そりゃあ色んな意味で興味あるよ。……もしセンスがぶっ飛んでたら早めに矯正しないといけないし。

 

「見てみたいね」

「ほら、ひとりちゃん! レンくんもこう言っているわよ! 次に遊びに行くときは絶対私服で来てね!」

「え? あ、あ……」

「こらこら喜多さん。後藤さん困ってるじゃん。そういうのは無理強いしちゃダメだって。制服って案外楽なんだし」

 

 俺がフォローすると、喜多さんは「こいつ何にもわかってねーな」みたいな目で俺を見てくる。なんか喜多さん、今日はいつにも増しておかしなテンションだね。

 

「あ、あ、あ……じゃ、じゃあ……がんばってみましゅ……」

「その意気よ! 不安だったら私が一緒に選んであげるから、ね?」

「は、はいぃ……(き、今日の喜多ちゃんなんか怖い……)」

 

 あ、後藤さんの喜多さんに対する警戒レベルが上がった。せっかくこの一週間でちょっとずつ下がり始めてたのに。

 

 こんな風にぐだぐだお話ししながら下北の街を練り歩きます。

 

 

 

 

「レン、お金貸して。このシャツ買いたい」

「……財布は?」

「二十円しかない」

「次の小遣いか給料日まで待て」

「……郁代」

「はい先輩! 私が貸してあげますね」

「貸すな貸すな貸すな!!」

 

 裏通りにあった古着屋をめざとく見つけた姉貴が気に入ったシャツを物欲しそうにずっと見ていたかと思うと、俺や喜多さんにお金を借りようとする。

 

 俺はともかくバンドメンバーに金を借りようとするな! お前ほんとろくな大人にならねーぞ。

 

「姉貴の借金手帳のページが増える……」

「結局買ってあげるんだね」

「このまま放置してたら喜多さんがマジでお金貸しかねなかったから」

 

 姉貴がウキウキでレジにシャツを持っていくのを尻目にため息を吐いていると、虹夏ちゃんがよしよしと慰めてくれた。虹夏ちゃんはほんとにいい子。大好き。

 

「ひとりちゃん、このナイロンジャケットなんてどうかしら?」

「あ、き、喜多ちゃんに似合うと思います」

「私じゃなくてひとりちゃんに着てほしいのよ」

「わ、私ですかぁ……!?」

「ほう……郁代、なかなかいい目をしている。古着初心者かつジャケットを選ぶなら最初は白や黒を基調としたシックなカラーの物を選ぶといい。季節に関係なく着れるし、どんな服装にも合わせやすい。今のぼっちみたいに制服の上着代わりに羽織るのもお洒落。ちなみに私のおすすめブランドはナイキかアディダス」

「リョウ先輩、詳しいんですね!」

(リョ、リョウさんってこんなに饒舌な人だったんだ……)

 

 姉貴のスーパー古着トークタイムに対して喜多さんは目をキラキラ輝かせ、後藤さんは軽く引いていた。うん、後藤さんの方が正しい反応。

 

 かくいう俺も姉貴の影響で古着はちょこちょこ集めてるけど、姉貴ほどドはまりはしていない。

 

「ねえねえレンくん。どっちのスカートが良いと思う?」

「うーん……虹夏ちゃんにならこっちのチェックのスカートの方が似合いそうかな。スウェットとかパーカーと合わせたら秋でも使えそうだし」

「あ、やっぱりそうだよね? 私もこっちの方が可愛いと思ってたんだー!」

「買うの?」

「うん。可愛くておしゃれで安いしね~」

 

 虹夏ちゃんもご機嫌な様子。虹夏ちゃんには散々「女の子が服を買う時は適当な反応をしないこと! どっちでもいいって言わないこと! ちゃんとどういうところが似合うか具体的に褒めること!」って教育されたからな。

 

「レンくん、レンくん! ちょっとこっち来て!」

「なんぞや」

 

 喜多さんの目がシイタケみたいになってる。どうやってんのそれ? 漫画でしか見たことないけど。

 

「じゃーん! 下北系バンド女子ひとりちゃんでーす!」

 

 試着室から出てきたのは、黒を基調としたアディダスのナイロンジャケットを羽織った後藤さんだった。白のラインが良いアクセントになっており、制服のスカートともよく合っている。確かに、喜多さんの言う通りバンド女子っぽいな。

 

「あ、あの……どう、ですか?」

「うん。後藤さんって髪色が明るいからこういう暗めの服装だとコントラストになって映えるね。ジャケット自体がシックなデザインだから大人っぽさもあってなおヨシ! 総じてすごく似合ってる」

「あ、あへ……ふひゅっ……あ、ありがとうごじゃいます……」

 

 後藤さんは顔を赤らめて俯いてしまいました。あら可愛い。

 

 こうやって服装を褒められることにも慣れてないんだろうな。姉貴も虹夏ちゃんも喜多さんもファッションセンス良いし、後藤さんもこれからこういうことを少しずつ勉強していこうね。

 

「うんうん。百点の褒め方ね」

 

 喜多さんは俺の後ろで腕を組んで訳知り顔で頷いていた。君はどの立場から物言ってんの?

 

「虹夏虹夏。あそこにいるあれ、私の弟なんですよぉ」

「レンくんに女の子の褒め方を伝授したのはあたしだよ?」

 

 そして、後藤さんもこのジャケットを気に入ったらしくご購入されました。喜多さんも春物の上着を一枚買ってたみたいだね。

 

 俺? 俺は春休みに姉貴の「古着屋春の衣替え祭り」に散々付き合わされた時に買ったから買わないよ。

 

 というか、アー写よアー写! 本題忘れて寄り道し過ぎでしょ!

 

 と、なぜかバンドメンバーじゃない俺がアー写撮影に一番熱心になるという謎現象が起こっていました。

 

 

 

 

「この階段……『君の名は。』っぽい。レン、おいで。私と一緒に隕石止めよう」

「俺と姉貴で隕石を止められるはずがない」

 

 古着屋の後は、良い感じに寂れてアスファルトの亀裂から雑草がボーボー生えている階段や、これまた寂れて穴の空いているフェンス、潰れたCDショップの前などで次々と写真を撮っていった。

 

「あ、公園がありますよ! ちょっと寄っていきましょう」

 

 そして再びあてもなくぶらぶら歩いていると、それなりに広い公園を見つけた。ジャングルジムや滑り台、ブランコ、鉄棒、砂場など一通りの遊具が揃っており、休日ということもあって親子連れの姿も見られる。

 

「こういうの、久しぶりに乗ったけど案外楽しいわね!」

「意外と前後の動きが激しいな!? 小さい子吹っ飛ぶんじゃないこれ!?」

 

 俺と喜多さんは、土台がバネになっている馬の乗り物に乗って前後左右にぐわんぐわん揺れている。俺達の体重が子供達よりも重いこともあって、まあまあ激しい動きになってたけど、喜多さんはきゃっきゃと喜んでいるみたいです。

 

「レンくん、次はあっちに行ってみましょう!」

「……ジャングルジムってこんなに小さかったかな?」

「滑り台も小さい頃はあんなに長く見えたのに」

「なんだろう……。すごく懐かしいのにちょっと寂しく感じる」

「わかるわそれ! 成長するのは嬉しいことなのにね」

「俺達はもう……純粋だったあの頃には戻れないんだ」

 

 などと、ほんの一瞬だけ哀愁漂う雰囲気になったけど、俺と喜多さんの二人の間でそんなシリアスな空気が長続きするはずがなく、三十秒後には二人でブランコに乗って「どっちが靴を遠くに飛ばせるか」という懐かしい遊びで競い合っていた。

 

「元気だね~あの二人」

「レンも基本的にはアウトドア派の陽キャだから」

(じゃ、ジャケット褒められちゃった……。が、学校にも着ていこうかな?)

 

 週明けの月曜日、後藤さんのイカれた服装矯正大作戦partⅡが繰り広げられたことは言うまでもない。

 

 

 

 

 公園でひとしきり遊んだ後、再びぶらぶらタイムに突入して雑談しつつ適当に写真を撮っていると、後藤さんが「なんかよさげな壁」を発見し、五人でそっちに移動する。

 

 そこには確かに最初に姉貴が言ってた通り、カラースプレーで落書きされて良い感じにひび割れてる壁があった。後藤さんよくこんなとこ見つけたな。

 

「お~。確かにこれは『よさげな壁』だね~」

「ぼっち、お手柄。偉い」

「あ、へへっ。そ、それほどでも……」

「リョウ先輩! 私も公園見つけたんですよ~」

「郁代も偉い」

 

 姉貴に褒められて頭を撫でられている後藤さんに対抗して喜多さんも「褒めて褒めてアピール」をしている。ほんとに姉貴が兄貴じゃなくてよかった。バンド四人の内一人が男、しかも顔とベースの腕だけが良くて万年金欠で性格が終わってる。

 

 ……このバンドはおしまいですね。

 

「じゃあ、撮ってくからそっちに並んで~。後藤さん、もうちょい虹夏ちゃんの方に寄ろうか」

「あ、はい」

 

 四人を壁の前に並ばせて、ポーズや表情を変えて写真を撮る。

 

「メンバーの個性は出てるけど、バンドっぽさが足りないね」

「なんか惜しい」

「え~? 十分可愛くないですか?」 

「可愛さよりもバンドらしさが欲しいんだよ」

 

 虹夏ちゃんの言う通り、撮った写真を見る限り普通の仲良し四人組にしか見えないのは否めない。んー……でもこんなもんじゃないの? これから活動していけばそれっぽく見えてくるかもしんないし。

 

「それにしても、喜多ちゃんはどの写真も可愛いね~」

「そんなことないですよ。ただ、写り慣れてるだけで……」

 

 喜多さんはそう言いながら自分のスマホを操作して画像フォルダを開く。フォルダの中には友達との自撮り写真や遊びに行った時の写真が何千枚と収められていた。

 

「(と、友達と写真……青春コンプレックスが刺激されてしまうっ!?)あ、あ、あ……あばばばばばばばばばばっ!?」

「ぎゃーっ!? ぼっちちゃんの作画がいきなり崩壊して幼稚園児の落書きみたいになったー!?」

「ひとりちゃんどうしたの!? 死なないで!!」

「あ、あ……私が……私が下北沢のツチノコです。のこのこ……のこのこ」

「おお、ピンク色のツチノコになった。……ちょっと美味しそう」

「涎を垂らすな姉貴!! 後藤さんこっちおいで! 姉貴のそばにいると食われちゃうから!」

 

 俺はツチノコぼっちちゃんを抱えて姉貴から距離を取る。

 

 おお、このツチノコぼっちちゃんぷにぷにしてて温かくて抱き心地良いな。星歌さんが好きそう。

 

「ダメよレンくん! そんな無造作にひとりちゃんを抱っこしたりしたら……」

 

 あ、やべ……

 

 喜多さんの警告も虚しく、ツチノコぼっちちゃんは爆発四散してしまいました。干しかえるぼっちちゃんの時の二の舞ですね。ごめん、後藤さん。姉貴の魔の手から救うことしか考えてなかった。

 

 後藤さんが復活するまでアー写撮影は中断になりました。ほんとごめん!

 

 

 

 

「よーし、ぼっちちゃんも再生したし撮影を再開しようか!」

「す、すみません……。ご、ご迷惑をおかけして……」

「いやいや、悪いのは俺だからね。ごめんね後藤さん。今度から気を付けるよ」

「あ、いや……お気になさらず……(山田くん良い匂いしたし。むしろ……ふへっ)」

 

 よし、切り替えよう。これ以上この話題を引っ張ってまた後藤さんが七変化したら無限ループになっちゃうからね。

 

「でも、アー写どうしようか?」

「あ、そうだ! ジャンプしてみます? 絵になるしみんなの素の感じが出るんじゃないですか?」

「それいいかも~! 喜多ちゃんてんさ~い! いい子いい子~」

「えへへ~」

 

 喜多さんと虹夏ちゃんもめっちゃ仲良くなったな。まあ、虹夏ちゃんの母性にかかれば喜多さんもイチコロだね。

 

「有識者は言っていた。OPでジャンプするアニメは神アニメだと」

 

 いや、大概の日常系アニメはジャンプしてるよな。

 

「よくわかんないけどやってみようか。レンくんシャッターよろしく~」

「ういうい。じゃあ、さっきみたいに四人ともそっちに並んでくださーい」

 

 俺の指示通り四人が壁を背景にして並ぶ。そんじゃあ、カウントに合わせてジャンプしてもらうか、と思ったけど、そこで俺は気付いた。後藤さんが挙動不審になっていることに。

 

 いやいつも挙動不審だろって思うかもしんないけど、このタイミングでっていうのはちょっと変だな。

 

(え? じゃ、ジャンプってどうすればいいの!? ど、どのくらいの高さで飛べばいいの!? れ、練習なしのぶっつけ本番はコミュ障陰キャにはハードルが高過ぎる!!)

 

 うん。彼女の表情で色々察しましたわ。

 

「一回練習しない? ジャンプの高さがバラバラ過ぎたら一体感なくてそれはそれで微妙になりそうだし」

「そうだね~。じゃあ、喜多ちゃんお手本!」

「はい! このくらいの高さでどうでしょう?」

 

 喜多さんが練習にもかかわらず見事なカメラ目線美少女スマイルを決めつつジャンプする。さすが喜多さん、色々慣れてるな。

 

「じゃあ、今の喜多ちゃんくらいの高さで飛ぼうか? ぼっちちゃんも大丈夫そう?」

「あ、はい。大丈夫です(あ、ありがとう山田くん……!! や、優しさに甘えすぎちゃってごめんなさい)」

「あともう一つ。四人ともスカートだから気を付けてね。俺、自分のスマホに同級生のパンチラ写真とか保存したくないから」

「あ~。レンくんもそういうところ気にするんだ~?」

「レンのえっち」

「えっちー」

「え、えっちー……」

「後藤さんも無理して乗らなくていいから」

 

 いいから。早く撮りますよ。

 

 俺はからかってくる三人の女どもの声を無視してカウントを取る。すると四人は慌ててジャンプする羽目になるも、鉄壁のスカートで絶対領域を守り切るのだった。

 

「あ、ぼっちちゃんが目を瞑っちゃってるね」

「ご、ごめんなさい……ジャンプすることに集中しちゃって……」

「慣れるまでは難しいよね~。よし、もう一回撮ろうか!」

「は、はい」

 

 写真慣れしていない後藤さんの写りが悪いのはある程度仕方ないけど、もったいないよな。後藤さんってちゃんと顔を上げればめっちゃ可愛いのに。

 

 うーん……ちょっと提案してみる?

 

「後藤さーん。スマホのレンズはここね? ここ。あともうちょっとだけ顎を上げてみようか。背筋も伸ばして……」

「あ、顎と背筋……こ、こうですか?」

「お? いいねいいねー! それそれ。それがほしかった!」

「なんかレンくんが本物のカメラマンっぽくなってる……」

「そ、それよりもひとりちゃん! ひとりちゃんを見てくださいっ!」

「ぼっちちゃんがどうした───ってええええええ!? ぼっちちゃんがものすごく可愛くなってる!?」

「……ぼっちはダイヤの原石だったのか」

 

 ふっ。今頃気付いたのか三人とも。俺は後藤さんと出会った初日に後藤さんが本当はものすごく可愛いってことに気付いとったんやで? と、心の中でマウントを取ってみる。

 

「あ、元に戻った」

「十秒しかもちませんでしたね」

「十秒間のシンデレラ」

 

 ずこーっ!?

 

 人と目を合わせるとか関係なしに十秒しかもたんのかい!? そ、それはちょっと予想外でした。い、いやでも……十秒あれば写真を撮るのには十分!!

 

「後藤さん、できるだけさっきの姿勢を維持しながらジャンプして目線はしっかりレンズにお願い。制限時間は十秒だから他の三人もちゃんと息を合わせてくださいよ!」

「む、難しい……」

「タイマーでもないのに制限時間ついちゃった!?」

「でも、これはこれでなんか楽しいですよね!」

「ぼっちのビジュアルを前面に押し出すのもありか……」

 

 姉貴が何やら恐ろしいことを考えているようなので、それは後でしつけておくとして……わちゃわちゃしながらもどうにかこうにかアー写を撮影することに成功しました。

 

「おー! 良い感じだね! ぼっちちゃんもちゃんとカメラの方を見てるし」

「ひとりちゃん……こんなに可愛いなら早く教えてくれればよかったのに」

「あ、かわ……そ、そんなことないですぅ……」

「ぼっち。ギターヒーロー動画で顔出しすれば再生数は十倍。つまり収益も十倍になる」

 

 目が和同開珎になっている姉貴をどついておきました。容姿を武器に再生数を稼いでいる俺が言うのもあれだけど、男と女の顔出しは全然リスクが違うからな。厄介ストーカーとかエロい目でしか見ないキモい視聴者が沸く可能性があるんだから。

 

「じゃあ、最後にせっかくだからレンくんも入れて五人で撮ろうか!」

「いいですね! ほらほらレンくん。真ん中に来なきゃダメよ? ひとりちゃんはレンくんの隣ね?」

「あ、あ、あ……(さ、さっき抱っこされた記憶が蘇って……)」

「秀華高校一年生三人組を真ん中にして、あたしとリョウは両サイドだね」

「レン、今のお気持ちは?」

「ハーレム主人公って二十四時間こんな感じなんだなって」

 

 絶対気が休まらないヤツじゃん。現実で二股とか三股かける男の気が知れない。俺には絶対無理。

 

「タイマーセットしたからねー? じゃあ撮るよー?」

 

 虹夏ちゃんが三脚にスマホを取りつけてタイマーをセットする。後藤さんはどういうポーズをしたらいいかわからず困っていたようなので、こっそり耳打ちしてあげました。

 

「後藤さん、俺と同じようにやってみて」

「え? は、はい……」

 

 俺と後藤さんは両手で耳のようなシルエットを作り、両手を自分の耳よりも少し上のあたりまでもってくる。

 

「はい。顔上げて笑顔!」

「は、はい」

 

 その直後、シャッター音。

 

 うん、いい感じになったんじゃないかな。

 

「ほうほう。レンくんとぼっちちゃんったら仲良くシナモンポーズしちゃって~」

「あらあら。お可愛いこと」

 

 虹夏ちゃんと喜多さんがからかうように言ってきたので後藤さんが恥ずかしそうに俯いている。

 

「山田家は顔面偏差値とあざとさだけでのし上がった一族だからね。俺にも立派なその血が流れているということだよ」

「その言い回し。リョウにそっくり」

 

 虹夏ちゃんの言葉に俺の心に鼻毛を抜いた時に匹敵する痛みが走る。どうしてそういうこと言うの!?

 

「虹夏せんぱーい。アー写と今の写真送ってくださいね~」

「グループロインに載せておくよ」

 

 虹夏ちゃんがそう言った約十秒後、ロインの通知が入り写真が送られてくる。……あれ? そういえば俺っていつの間に結束バンドのグループロインに入ってたんだ?

 

 まあいっか。

 

 写真を見ると、恥ずかしそうにしながらも笑顔でポーズをとっている後藤さんが非常に可愛らしかったです。うん、やっぱ顔を上げてると別格だわこの子。

 

「まだ時間あるし、どこかで何か食べていく?」

「あ、じゃあ私ここ行きたいです! 最近オープンしたカフェなんですよ~」

「お洒落だね。じゃあそこにしよー!」

 

 喜多さんと虹夏ちゃんが仲良くスマホを見ながら先導していく。

 

 まーた姉貴の借金の項目が増えるやんけ。

 

「後藤さん、行こうか」

「あ、はい(こ、この写真……焼き増しして押し入れにたくさん貼ろう)」

 

 ニヤニヤと不気味に笑いながらスマホを眺めている後藤さんに声をかけたら、とてとてと慌てて俺の隣に並んできた。

 

 さっきの美少女とは別人ですね。やっぱり可愛く笑う練習もしないといけないなと思いながら俺は三人についていくのだった。




ちょっとはラブコメ要素が出てきたな!
ぼっちちゃんの情緒が今後育ってくれることに期待しましょう。

次回は結束バンドを路上ライブという戦場に叩き込みます。
多分、虹夏回になる予定。


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