【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 いつもより短いです。
 虹夏回



#12 才脳人応援夏

「結束バンドの路上ライブが無事に終わりましたことを祝しまして……かんぱ~い!」

「乾杯!」

「かんぱ~い!」

「乾杯」

「か、乾杯……」

 

 路上ライブ終了後、俺達は近くのファミレスで打ち上げを行っていた。お酒が飲めないからドリンクバーで乾杯だけど、姉貴が俺のドリンクだけ特製ブレンドにするという小学生の定番の遊びをやりやがった結果、クソまずドリンクで乾杯することになりました。

 

 コーヒーを混ぜんなコーヒーを!! 他のジュースの味が全部かき消されてんだよ!!

 

 ちなみに後藤さんはここまでキャリーケースの中に引きこもったまま俺がゴロゴロ転がして運びました。「おんぶとどっちがいい?」って聞いた結果、死にかけながらキャリーケースを選んだんだよね。

 

「お客さんの反応も結構良かったし……上出来ですね!」

「技術的な課題はいっぱい見つかった。でも、初めてにしてはよくやった方」

「ひとりちゃんのギターイントロ……すごかったわね。あれでお客さんの顔色が一気に変わったのよ?」

「あ、あんまりお客さんの方を見る余裕はなかった、です……(あの時は山田くんばっかり見てたので)」

「ぼっちはやっぱりソロでこそ輝く。これから作曲する上で、ぼっちのギターソロをなるべく入れるようにする」

 

 姉貴が珍しく燃えている。確かにそれは戦法としてありだ。今の段階だと後藤さんの実力が飛び抜け過ぎてて、でもバンドとしてだとその実力の一割も発揮できない状態。

 

 だからこそ、ギターソロのパートを意図的に増やして観客を一気に引き込む。ソロなら後藤さんが他のメンバーに合わせる必要もないから実力を存分に出せるしね。

 

「……虹夏ちゃん、大丈夫? どうかした?」

「え? あ、ううん。何でもないよ……。緊張が一気に解けて、疲れがドッとでちゃったのかな? あはは……」

 

 姉貴達三人と比較して、一人だけ神妙な面持ちで何かを考えている虹夏ちゃん。

 

 何でもないわけないじゃん。何年の付き合いだと思ってんのさ。

 

 でも、虹夏ちゃんは責任感の強さが災いして、こういう場面で素直にバンドメンバーに自分の不安や悩みを打ち明けられないのが欠点だ。

 

 だからといって、俺もこの場で無理矢理聞き出そうとは思わない。

 

「あ、そうだ。俺にチケットを一枚売ってほしいんだけど」

 

 だから、ここはあえて虹夏ちゃんの反応をスルーした。

 

「チケット? レンくん、自分の分を買うの?」

「いや、俺の分じゃなくて俺が()()分。結束バンドに興味を持ってる人がいるから、その人に声をかけてみようと思ってるんだ」

「へー……学校の人?」

「内緒だよ」

 

 尋ねてきた虹夏ちゃんに俺はクスリと笑って返事をする。俺があえてさっきの反応をスルーしたことで、虹夏ちゃんもちょっと安堵したみたいだった。

 

「絶対女だ。そうに違いない。私は詳しいんだ」

「なっ……レンくん見損なったわ! あなたは顔と性格とスタイルが良いだけの男だと思ってたのに!!」

「その三つ以外に何を求めんの!?」

「金」

 

 姉貴がたった一文字で答えやがった。そらお前はそう答えるでしょうよ。

 

「え……お、女の子なんです、か……?」

 

 何か後藤さんまで食いついてきた!? そういえば、前も俺と虹夏ちゃんが付き合ってるのか? っていうことを聞いてきたし……後藤さんもそういうのに興味があるのね。お兄さんちょっと安心。

 

「女の子だよ」

「私は……私より良い女じゃないとレンの相手とは認めないっ!」

「姉貴より良い女なんて世界の女性の内九十九パーセント以上が該当するわ」

「先輩より良い女なんて世界の女性の内一パーセントしか該当しないわ」

 

 俺と真逆のこと言うとるやんけ。

 

 喜多さんはもうダメだ。俺の手に負えないよ……。

 

 ちなみに後藤さんと虹夏ちゃんはもちろん姉貴より良い女に該当します。喜多さん? うん、さすがに姉貴以下はないよ。さすがに。

 

「……それはレンにとってどんな女?」

「どんなって……尊敬できる先輩だよ」

「私以外に尊敬できる人間……? 果たしてそんな女が存在するのか」

「リョウ先輩以上に尊敬できる人なんて存在しませんよ!」

 

 ……よし、放置しよう。虹夏ちゃん、チケットちょうだい。ちゃんと千五百円払うから。

 

「え? あ、うん……」

 

 やっぱ虹夏ちゃん、上の空だな。これは結構重症のパターンかもしれない。……久しぶりの虹夏ちゃん介護タイムになりそうですね。

 

 そこでふと、服をくいくいと引っ張られていることに気付く。顔を横に向けると、隣に座っていた後藤さんが、不安そうな目で俺を見てきた。

 

 ……え? 何その視線? そんなにその女の子のことが気になる? もしかしてあれかな……俺が取られちゃうとか、そういうこと考えてる?

 

 うーん……でも、今までの経験上、後藤さんが俺に対して恋愛感情を持っている感じはないし……というか出会ってまだ三週間しか経ってないしな。

 

 どっちかというと、大事な玩具が取られちゃった子供? みたいな……。え? 後藤さんって俺のこと玩具か何かだと思ってた? いやいや、そうっぽく見えるだけで本当にそう思ってるわけじゃないと信じたい。

 

「尊敬できる先輩であり、大事なお友達だよ」

「お、お友達……お友達……そうですか。……ふへっ」

 

 なんでそこで不気味に笑う? 後藤さんってわかりやすいときとわかりにくい時の差が激し過ぎるな。少なくとも恋愛感情じゃなさそうだ。……今のところはだけど。

 

「郁代、まずい。レンの好みは年上の巨乳お姉さんだから、その先輩とやらのおっぱいが大きかったら大変なことになる」

「レンくんどうなの!? まな板でしょ!? 絶壁でしょ!! 回答はイエスしか認めないわ!!」

 

 なんで喜多さんまでそんなに必死になっとんねん。

 

 もしかして……喜多さんって俺のこと好きなんじゃ───

 

 そんなわけあるかい。もしそうだとしたら、もっとわかりやすくアプローチしてきてるわ。喜多さんは面食いだけど、それだけで恋愛感情を抱くようなチョロい女じゃないっていうのはわかってるしね。

 

 あと後藤さん、男がいる前で自分の胸をぺたぺた触るのはやめなさい。あなたおっきなお胸してるんだから目のやり場に困るでしょ。

 

 そんな感じで打ち上げはカオスに進んだものの、俺は無事にチケットを一枚手に入れることができたのだった。

 

 

 

 

 打ち上げが終わって解散した後、あたしは一人でSTARRYの扉を開いていた。

 

 お姉ちゃんももう家に戻ってて、誰もいない、無音でがらんとしたライブハウス。あたしはスマホの明かりを頼りにライブハウス内の電気を点けて、スタジオへと向かう。

 

 いつもあたしが練習で使っているドラムがあった。そのまま慣れ親しんだスタジオに入り、ドラムスローンに腰を掛けてほっと息を吐く。

 

 スティックを取り出し、目を閉じて今日のライブでの自分の出来を反芻する。

 

 そして一度深呼吸して、たった一人で一曲目から演奏を始めた。

 

 あたしは今日の自分の出来について、はっきり言って何一つ満足できていない。ライブ自体をトラブルなく無事に最後までやり遂げることができた。それはすごく喜ばしいことだし、良い経験になったと思う。

 

 でも、あたし自身は、今日のライブでお客さん達にどんな印象を残せただろうか。

 

 ぼっちちゃんは二曲目のギターイントロで一気にお客さん達の心を鷲掴みにし、リョウはぼっちちゃんがいるから霞んで見えるけど、その実力は学生レベルで収まらない。喜多ちゃんだって、今日はボーカルに専念していたけど、ぼっちちゃんにギターを教えてもらってて、初心者とは思えないとてつもないスピードで上達している。

 

 あたしだけが平凡だ。

 

 このバンドで……あたしだけが、特別な何かを持っていない普通の女の子。バンドを組んで、夢を叶える。そんなことばっかり考えていたけど、現実はどうだ?

 

 結束バンドを作った張本人が……一番平凡で、一番拙い技術しか持っていない。きっとみんなは、これからもあたしなんかが想像しているよりもずっとずっと、すごいスピードで成長していくのだろう。

 

 平凡なあたしを置いて……

 

 だからあたしは、置いていかれないように他のみんなの何倍も練習しないといけないんだ。

 

 その一心で、他の何にも目もくれず、あたしはドラムを叩き続けた。

 

「虹夏ちゃん」

 

 そして、しばらく無我夢中で叩き続け、さすがに少し疲れたから手を止めて、荒れた呼吸を整えていた時に、幼馴染の男の子の声が聞こえてきた。

 

「レンくん……」

 

 レンくんはスタジオのドアを開けて、優しい笑顔であたしを見ていた。そして、あたしにゆっくりと歩み寄ってペットボトルのお水を渡してくれる。

 

「ありがとう」

 

 お礼を言って、一口飲んだ。冷たいお水が喉を通る感覚が心地良い。

 

 ほっと一息ついていると、レンくんはパイプ椅子を持ってきて、あたしの隣に座る。でも、何かを言うことなく、ただ黙ってあたしの隣にいてくれた。

 

「何も聞かないんだね……」

「虹夏ちゃんの考えてること、大体わかるし」

 

 レンくんとも長い付き合いだから、お互いの考えていることは言葉にしなくても大体わかっちゃうんだ。だからあたしは、レンくんがこのタイミングでこの場にやってきたことについても驚いたりはしなかった。

 

 むしろ、来てくれることを期待していた自分すらいる。……そんなこと絶対口に出さないけど。

 

「姉貴からの伝言」

「……聞くよ」

「『虹夏じゃなきゃやだ』だって」

 

 レンくんの言葉に、あたしはちょっと泣きそうになった。

 

 ああ、そうだよね。リョウにもわかっちゃうよね。今日の打ち上げの時のあたし、ずーっとおかしかったんだもん。みんなが楽しんでいる横で、内心が冷めている自分を悟られないように取り繕ったつもりだったけど……

 

「虹夏ちゃんはさ。責任感が強いけど、一人で抱え込みがちになっちゃうよね」

 

 あたしは結束バンドのリーダーだ。リーダーが不安な姿を見せちゃったら、他のメンバーはもっと強い不安を感じる。だからあたしだけは、どんな時でも真っ直ぐ前を見てみんなの先頭に立たなくちゃいけないんだ。

 

「だから、自分が抱えてる不安をメンバーには相談できないんだ」

 

 本当は、それがよくないことだってわかってる。もしも、あたし以外の誰かがリーダーだったとして、今のあたしと同じような不安を抱えていたとしたら、素直に他のメンバーに相談してほしいから。

 

 でも、いざ自分がリーダーという立場になると、それがたまらなく怖いんだ。ただでさえ、あたしは頼れる立派な人間なんかじゃないのに……

 

「でもね、虹夏ちゃん。今……ここにいるのは俺だけ。()()()()()()()()()()()俺だけだ」

 

 そしてレンくんは、そんなあたしの内面を全部見抜いている。そういう風に、人の気持ちを、特に女の子の気持ちを察することができるように教育したのはあたしだけど……こういう時になって思う。

 

 彼のその優しさに、無条件で甘えてしまいたくなる自分がいる、と。

 

「レンくん……」

 

 リョウと同じ、黄色い瞳があたしの目を真っ直ぐにとらえた。ああ、ダメだ。そんな風に優しい目をされちゃうと……今まで堪えてたものが全部溢れ出ちゃいそうだよ……

 

 あたしは無意識の内に、彼に体を預けていた。そんなあたしの体を、彼は壊れ物を扱うようにそっと、優しく優しく抱き締めてくれる。

 

 あたしがあげた、あたしの好きな香水の匂い。彼の温かさに包まれて、あたしもゆっくり抱き締め返す。

 

 とくんとくん、と。彼の心臓の音が伝わってきた。彼の匂いが、温かさが心地よくて、あたしは静かに目を閉じる。

 

「レンくん」

 

 彼の名前を呼ぶと、今度は優しく頭を撫でてくれた。本当に彼は、あたしのことをわかってくれているんだね……

 

 いつもはあたしがお姉ちゃんだけど、今だけ……今だけはこうやって甘えさせてほしい。

 

 小学生の頃は、あたしの方が背も高かったのになぁ……

 

「レンくん───おっきくなったね」

「虹夏ちゃんはちっちゃいまんま」

「……あたしはこれから成長するの」

「虹夏ちゃんが大きいのは解釈違いだからどうか成長しないでほしい」

「こいつー」

 

 気の置けないやりとりに、心がフッと軽くなる。でも、ちょっと悔しかったので彼の胸に顔をぐりぐりと押し付けた。そんなあたしを見て、彼が笑っているのがわかる。

 

「レンくん」

 

 あたしはもう一度、彼の名前を呼んだ。

 

「今日のこと……みんなには内緒だよ?」

 

 彼は返事をする代わりに、あたしを抱き締める力をほんのちょっぴり強くした。

 

 ありがとう。あたしの大好きな幼馴染。

 




 文字数がいつもの半分以下ですが、キリが良いのでここまでにします。幼馴染みヒロイン回ですね。

 私もこんな可愛い幼馴染みが欲しかった……

 今日の夜にこのお話にくっつけるはずだったSIDEROS回を投稿します。

 ヨヨコとレンくんが暴走します。

 次回もよろしくおねがいします!

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