【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 SIDEROS回
 


#13 しでろすろすろ

「あらためて紹介するわね! ここにいる四人が『新生SIDEROS』よ!」

 

 五月に入り、まだまだゴールデンウィーク真っ只中というところで、俺は新宿FOLTへとやってきていた。理由は単純明快。SIDEROSが四人揃ったので、そのメンバーを紹介するという名目で大槻先輩に呼び出されたから。

 

 ちなみに廣井さん達はいません。埼玉の方へ遠征に行ってるらしいです。つまり今日の新宿FOLTは平和なのです! やったね!

 

「ウチは必要ないすけど一応……ドラムの長谷川あくびっす」

「ギターの本城楓子です。おぉ~噂以上のイケメンさんだぁ~」

「ベースの内田幽々です~。ほうほう……なるほどなるほど」

 

 あくびちゃんはもう知り合っているからいいとして……マロンベージュの髪色をしたゆるふわお嬢様の本城楓子さん。この子は俺の庇護欲センサーがビンビンに反応している。

 

 そして、黒髪ゴスロリ少女の内田幽々さん。この子は俺の頭の上やら肩やらをじっと見つめて意味深に笑っている。うん、ちょっと怖い。

 

「そして私がリーダーでギターボーカルの大槻ヨヨコよ!」

「いや大槻先輩は知ってるから別に自己紹介しなくてもいいですよ」

「こういうのはね、ノリよノリ! ノリが大事なの!」

 

 なんかいつもよりテンション高いなこの人。まあ、メンバーが集まったから気持ちはわかるけど……でも、それだけが理由じゃない気がする。

 

「あくびちゃんあくびちゃん」

「なんすか?」

「大槻先輩ってなんであんなにテンション高いの?」

「この前メンバー全員でカラオケに行ったときに、ウチらがめっちゃチヤホヤしたからじゃないすかね?」

「ああ、なるほど……」

 

 納得ですわ。めっちゃご機嫌で鼻歌歌ってるし。

 

「レンさんが『そうした方がいい』ってアドバイスしてくれたじゃないすか」

 

 そういやそうだった。カラオケに行く前日にあくびちゃんからロインがきたんだったわ。……つまり、あの大槻先輩のテンションは俺のせいだということに。

 

 害はないし可愛いから別にいいか。

 

「本城さんに内田さんね。俺は山田レンです。大槻先輩とは一年くらいの付き合いで、相談に乗ったり乗ってもらったりと、良い友人関係を築いております」

「よろしくね~。同い年だし、レンくんって呼んでいーい?」

「あ、同い年なんだ。うん、いいよそれで。じゃあ、俺はなんて呼べばいいかな?」

「ウチはふーちゃんって呼んでます」

「ならふーちゃんで」

「おっけー」

 

 ぽわぽわと天真爛漫な笑顔でふーちゃんが手を差し出してきたので握手する。小さくてやわっこいおててですね。……やばいな、庇護欲センサーと甘やかしたいセンサーが過剰反応してる。イライザさんといい、新宿FOLTはちょっと俺への特効が多過ぎませんかね。

 

「私も幽々でかまいませんよ~。それにしても山田さん……面白いものが憑いてますね~」

「幽々ちゃん? なんで俺の肩をじーっと見てるのかな?」

「幽々ちゃんは幽霊が見えるんすよ」

「え!? 何それこっわ!! ねえ、俺に何が憑いてるの!? ねえ!?」

「山田さんはこれからもたくさん苦労すると思いますよ~」

「どういうこと!? そもそも憑いてて大丈夫なヤツ!? お祓い行った方がいいの!?」

 

 幽々ちゃんは怪しく笑うだけではっきりしたことは言ってくれなかった。いや普通に怖いんですが。絶叫マシーンとかは全然平気なんだけど、ホラー系はマジで無理。姉貴は逆にホラー系は平気で絶叫系が全然ダメだけど。

 

「ふっ、情けないわね山田。幽霊なんて見えなければいないのと同じ───」

「あ、ヨヨコ先輩の後ろに夢半ばで自殺したバンドマンの霊が……」

「きゃああああああああああああああっ!!」

 

 大槻先輩が悲鳴を上げて俺に思い切り抱き着いてきた。大槻先輩の意外と大きいお胸が当たってるけどそんなの気にしてる余裕はない!! 俺も普通に怖いんだって!! というか、ライブハウスにそんなバンドマンの幽霊がいるとか縁起悪すぎでしょ!?

 

 吉田さーん! 吉田店長さーん! ここって実はいわくつきの土地だったりしませんかー!?

 

 俺と大槻先輩はがくがく震えながらしばらく抱き合ってました。

 

 ……先輩とのお化け屋敷デートは絶対無理だな。

 

「そ、そもそもこの科学全盛期に幽霊だのオカルトだのナンセンスだわ。全ての事象にはちゃんとした理由があるのよ」

「そ、その通りです。大体、幽霊がほんとにいるんならなんで昔みたいな心霊番組がなくなっちゃったんですかね? スマホが普及して心霊写真も見なくなりましたし」

 

 俺と大槻先輩が早口で捲し立てる。そうだよ心霊番組なんて全部やらせなんだよっ! この世に科学で説明できないことなんて何もないんだ! 後藤さん? あれはそういう新種の生物だから! あるいは人類の進化の可能性だから!

 

「二人とも手を繋いで仲良しだね~」

「や、山田が怖がってるから、し、仕方なく繋いでやってるだけよ!」

「はい。普通に怖いです」

「そこはレンさんもツンデレ返しする場面じゃないんすか?」

「いやだってほんとに怖いんだもん」

 

 そんなラブコメみたいなことをする元気はありません。大槻先輩と手を繋いでるけど、手汗かいてたらごめんなさい。そこまで気を配る余裕もないので。

 

「う~ん、ヨヨコ先輩もすごいの乗っけてますし……幽々のスマホで撮ってあげましょうか~? きっと面白いものが見れますよ~」

「やめなさい幽々! そんなことをしても誰も幸せにならないわ!」

「もしもガチで写ってたら……俺は今日、一人で風呂に入ることもトイレにも行くことも寝ることもできなくなる!」

 

 姉貴と以前、深夜にホラー映画を観た時は、朝まで部屋の電気を点けっぱなしにして起きてたからな。姉貴はぐーすか寝てたけど。

 

「レンくんレンく~ん。お風呂で頭を洗ってる時に後ろから視線を感じて……」

「俺、今日は人がたくさんいる時間帯に銭湯に行く」

「わ、私もそうしようかしら……。た、たまには大きいお風呂で疲れを取るのもいいかもね」

「二人が安心して入っていても、気付けばお客さんが全員いなくなってて聞こえるのは自分がシャワーを流している音だけになってるかもしんないすよ」

「先輩。今日は一緒にお風呂に入りましょう。大丈夫、ちゃんと目隠ししますから」

「そ、そうね。誰かと一緒に語らいながらお風呂に入るのも乙なものよ」

「やべえ。この二人の組み合わせめちゃくちゃ面白いすわ」

 

 言っておくけど、結構本気だからな。恥じらいとか下心とか微塵もないわい。そんなもんを感じる余裕は、今の俺達には全くないんだからなっ!

 

「そういえば~……すごいのと言えば、結束バンドさんのギターさん。あの人に憑いているのが一番すごかったです~」

 

 後藤さん……?

 

「あの人の近くにいれば、大抵の幽霊はイチコロですよ~」

 

 もう死んでいるのにイチコロとはこれいかに。なんてくだらないことを考えている場合じゃない。……つまり、後藤さんと行動を共にすれば安全だと、そういうことか!

 

「なるほど……じゃあ今日は後藤さんと一緒にお風呂に入ればいいんだね」

「ちょ……私を見捨てる気なの!?」

「大槻先輩も一緒に……三人で入りましょう」

 

 これが勝利の方程式。俺、これからもなるべく後藤さんと一緒に行動しよう。男として情けないかもしれないけど、幽霊以外の部分はめっちゃがんばるからさ。

 

「おぉ、もう……」

 

 なんかあくびちゃんが「そっとしておこう」みたいな諦めた表情してるけど、君さっきまで悪ノリしてたよね?

 

「ヨヨコせんぱ~い。レンく~ん。怖がらせちゃってごめんね~。クッキー焼いてきたから一緒に食べよう? ホットミルクもあるから。落ち着くよ~」

「楓子……あなたなんていい子なのっ!」

「ふーちゃん……好き」

 

 大槻先輩はふーちゃんを抱き締め、俺はそんなふーちゃんの頭を優しく撫でていた。……でも、冷静になってみたら、ふーちゃんも途中で悪ノリしてたんだよね。……可愛いからヨシ!

 

「山田さんって面白い人ですね~」

「意外な弱点がありましたね。完璧イケメンかと思ってたっす」

「このギャップが逆に魅力的では~?」

「そうっすけど……幽々ちゃんの目、新しい玩具を見つけた子供みたいすよ?」

「ヨヨコ先輩みたいに良い反応してくれるから気に入りました~」

「……ウチは優しくしてあげるっす」

 

 SIDEROSは実に個性的なメンバーが集まりましたね。……結束バンドに負けず劣らず。

 

 ま、まあ、このくらいキャラが濃くないとバンド戦国時代を生き抜けないからね。仕方ないね。

 

 

 

 

「そういえば、幽々ちゃんはなんで後藤さんがギターだってことを知ってたの? 会ったことはなかったと思うんだけど……」

「それはですね~」

「幽々……? わかってるわね?」

「わかってますよ~。結束バンドさんの路上ライブが気になってたけど、素直に観に行くのも癪だから下北のカラオケボックスに行く途中で偶然を装って遭遇したなんて言いません」

「全部言ってるじゃない!?」

 

 一旦落ち着いた俺達は、ふーちゃんの手作りクッキーとホットミルクで一息をつく。さっきまでの会話を思い出して、俺は頭を抱えたくなった。なんで後藤さんと大槻先輩と一緒に風呂に入る話になってんだ? どんだけとち狂ってたんだよ俺。……これも山田家の血か。

 

「……あくびちゃん。SIDEROSって漫才の練習もやるの?」

「この二人だけっす。あの時、レンさんがフライヤーを配ってたんで声をかけようかとも思ったんすけど……」

「ヨヨコ先輩が恥ずかしがっちゃって、そのままスルーしたんだ~。だから演奏も観れなかったんだよ」

「私は別に恥ずかしがってなんかなかったっ!」

「マジか。全然気付かなかった」

 

 あの時にSIDEROSの全員に見られていたとは。事前に大槻先輩にはロインしておいたから、もしかしたら変装してこっそり観に来るかもとは思ってたけど。まさか四人全員とニアミスしてたとはね。

 

 まあ、この前の路上ライブは俺もいっぱいいっぱいだったし気付かなかったのも当然か。

 

「それにしても、安心したよ。大槻先輩って誤解されやすいところがあるから三人が馴染めるかどうか不安だったけど、今日の様子を見たら大丈夫そうだね」

「ヨヨコ先輩ってわかりやすいすからね」

「そうそう。一匹狼を必死で装ってるチワワみたいで」

「幽々の話を馬鹿にしないで本気で信じてくれますし」

「あれ? 私って褒められてる? それとも馬鹿にされてる?」

 

 前者ですよ前者。ほんとによかったですね。前のバンドメンバーの時とは違って、早くも素の先輩を曝け出せてるみたいだし。良い化学反応が起こってるな。

 

「これからの活動方針はどうするんですか?」

「基本的にはこれまでと変わらないわ。まずはメジャーデビュー。でも、そこがゴールじゃない。私達は常にナンバーワンを目指しているの。最終目標は海外フェスの大トリよ!」

 

 すっげー目標を掲げてますね。海外フェスの大トリとか……でも、他の三人の表情を見る限り、先輩の目標を馬鹿にしてる感じも、温度差があるようにも思えない。

 

 つまり三人は、大槻先輩がこういう人間だということを理解した上でバンドに入っているんだ。共通の目標に向かってメンバー全員が一致団結する。言葉にするのは簡単だけど、それができなくて解散するバンドは無数に存在する。

 

 そしてSIDEROSは、その困難な課題を結成してから短期間で克服した。

 

 これは……結束バンドもうかうかしていられないな。STARRYでのライブ後に、メンバー達でそういうことを話し合った方がいいかもしれない。

 

「かといって、漠然と大きい目標を掲げるだけじゃモチベーションを保てないわ。だから、目先の目標として……これのグランプリを獲るつもりよ」

「Tokyo Music Rise?」

 

 関東を中心に、二十三歳以下のアマチュアバンドが参加する音楽コンテストだ。去年は全国から三百組がエントリーし、ファイナルステージは東京ビジュアルアーツのメディアホールで行われるらしい。

 

「本当は未確認ライオットに出たかったのだけど、応募は締め切られちゃったのよね……」

「未確認ライオット?」

「十代限定のフェスっす。日本最大級のね」

 

 未確認ライオットの去年のエントリー数は三千組以上。Tokyo Music Riseの十倍だ。しかも最終審査は海浜公園でのフェス形式。大槻先輩はそんなもんに出ようとしていたのか。

 

 や、やばい……。結束バンドとは根本的に何もかもが違い過ぎる。これが……これが本気でメジャーデビューを、その先を目指すバンドなのか。

 

「Tokyo Music Riseの応募締め切りは六月末……結束バンドはどうするのかしら?」

 

 大槻先輩は不敵に笑ってそう言った。 

 

 ……持ち帰って上(虹夏ちゃん)と相談させていただきます。

 

 あらためて思うけど……大槻先輩って本当に俺の姉貴と同い年? ロマンを追い求めているのに現状をしっかり把握して実際に行動を起こしている。

 

 人としても……バンドとしての在り方も、見習うところが多すぎるな。こういうところ、本当に尊敬します。

 

「ヨヨコ先輩、余裕ぶっこいてるっすけど……Tokyo Music Rise用の曲を作んないといけないすからね?」

「こ、これから死ぬ気でがんばるわよっ!」

 

 既存のSIDEROSの曲じゃないのか。新メンバーで全くの新曲に挑戦してコンテストに挑む……。どこまでも妥協しない性格ですね。

 

 虹夏ちゃんに相談してみないとわかんないけど……多分結束バンドも挑戦することになると思いますよ。楽曲制作が間に合えば。

 

「まあまあ、そんな堅苦しい話はここまでにして~。ウチ、レンさんに聞きたいことがあったんすよ」

「俺に聞きたいこと?」

「私も~!」

「幽々もです~♪」

 

 三人の小悪魔的な笑顔を見て、俺は次の質問の内容が予想できた。……できてしまった。多分、三人とも俺に同じことを聞きたいんだと思う。

 

「レンさんの好みの女性のタイプを教えてください」

 

 あ、やっぱりね。そういう質問ですよね。予想した通りですよ、はい。ほんとに女の子ってこういう話が大好きだよね。

 

「ドン引きしない?」

「マゾやロリコン、凌辱趣味などでなければ」

 

 俺が尋ねるとあくびちゃんは親切に答えてくれた。……そのどれにも当てはまらないな、ヨシ!

 

「年上の巨乳お姉さんに甘やかされたい」

(イライザさんすね)

(イライザさんだ~)

(イライザさんです)

 

 三人は「あ~」と、なぜか納得したような表情で頷いていた。え? 俺ってそんな「年上の巨乳お姉さん好き」に見えるの? そんな顔してる? だとしたらちょっと恥ずかしいです。

 

「ちょっと、なんで三人ともそんな『あっ……』て顔で私を見るのよ!? 私何か変なことした!?」

 

 大槻先輩の反応は普通だった。だって大槻先輩は俺の好みの女性についてすでに知ってるし。

 

 全くの余談ですが、それからしばらくSIDEROSでは豆乳がブームになったようです。……健康的だね。

 

 その後もみんなと楽しくお話して、新メンバーの子達ともロインを交換して仲良くなりました。入学してから女の子の連絡先ばっかり増えていくな。俺がイケメンだから仕方ない。

 

 あと、大槻先輩に今度の結束バンドのライブのチケットを渡しておきました。

 

 他のメンバー? 大槻先輩は他のメンバーに「結束バンドを意識している」と思われたくないから一人かつお忍びで来るそうです。

 

 ……手遅れじゃね? というのは思うだけにしておきます。

 




 #12と分けた理由として、虹夏介護の直後にSIDEROSといちゃいちゃすると、レンくんが女たらしクソボケムーブ野郎に見えるのでやめました。

 次回はSTARRYでの初ライブになる予定です。

 ようやくアニメの一話に辿り着きましたね。入学式から長かった……

 性格の良い高身長イケメンのくせしてホラーが苦手とかいうくっそあざとい男がいるらしい。

 これはまぎれもなく山田の弟ですね。

 次回もよろしくおねがいします!

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