【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 前回はレンくんとリョウの名前を盛大に間違えてすみませんでした!



#14 大誤解大会

『Tokyo Music Riseかぁ~』

「うん。夏と春にやってるみたい。規模はそこまで大きくないけど、結束バンドの現在地を確かめるのに丁度いいコンテストだと思うよ」

『だよね~』

 

 大槻先輩からTokyo Music Riseについて教えてもらった翌日、俺は虹夏ちゃんと電話をしていた。声を聴く限り、虹夏ちゃんも立ち直ったっぽいな。よかったよかった。姉貴も顔には出さないけど心配してたし。

 

 あと、幽々ちゃんから怖い話を聞いて一人でお風呂に入れなかった俺はSIDEROSのみんなとスーパー銭湯に行きました。もちろん俺は男湯だからね? でも、可愛い女の子達のお風呂上り姿が見れたのでラッキーでした。

 

『ありがとうね、レンくん。わざわざ調べてくれて』

「いや、俺の尊敬する先輩が教えてくれたんだ」

『……その尊敬する先輩ってさぁ───レンくんがチケットを売った人?』

「そうだよ」

 

 正確にはお金は取らなかったんだけどね。お世話になってるお礼兼Tokyo Music Riseや未確認ライオットの情報料として。

 

『それって……どんな人?』

「一昔前の深夜アニメを彷彿とさせるような古き良きツンデレ凄腕美声コミュ障ストイックギターボーカル」

『属性過多っ!! でも、レンくんが気に入りそうな子だねぇ』

「後藤さん並みのテクに喜多さんのレベルをMAXにした歌唱力を持っています」

『漫画の主人公かな?』

 

 事実なんだよね。しかも向上心の塊で常にナンバーワンを目指している。マジで大槻先輩って漫画の主人公染みてるな。

 

『Tokyo Music Riseについては、あたし個人では参加したいと思ってる。漠然と練習するよりも、目標があった方ががんばれるし、それも踏まえてみんなにも意見を聞いてみるよ』

 

 これが大槻先輩と虹夏ちゃんの違い。大槻先輩はこういうことをバンドメンバーに相談せずに「出るわよ!」って強権を発動して反感を買ってた頃があったからな。今はメンバー達に弄られてるし、だいぶ丸くなったけど。

 

「あとさ、虹夏ちゃん。聞きたいことがあるんだけど……」

『うん。何かな?』

「虹夏ちゃんの夢って───あれから変わってないんだよね?」

『……そうだね。お姉ちゃんの分まで有名なバンドになって───STARRYをもっともっと有名なライブハウスにする。あたしの夢は何も変わってないよ』

 

 虹夏ちゃんは、小学生の頃にお母さんを亡くしていた。お父さんは仕事が忙しくて、虹夏ちゃんにとっての一番の家族は星歌さんだった。

 

 虹夏ちゃんはお母さんを亡くして塞ぎ込み、一時期は学校に行かなくなりかけたらしい。そんな虹夏ちゃんを、星歌さんはライブハウスへ連れて行って、自分達のバンドの演奏を聴かせてあげた。

 

 ライブハウスで演奏する星歌さんは、虹夏ちゃんにとって、とても輝いて見えたんだ。……でも、実は虹夏ちゃんはバンドばっかりで自分と遊んでくれない星歌さんを見続けていたから、最初の頃はバンドなんて大嫌いで「将来は公務員になる!」って言ってたらしい。

 

 そして、星歌さんのバンドは一時期レーベルに声を掛けられるところまでいったんだけど、星歌さんはバンドを辞めることになるんだ。

 

 理由は───虹夏ちゃんのためにライブハウスを作ってあげるため。星歌さんは絶対そんなこと言わないけど。

 

 STARRYは、虹夏ちゃんにとって、星歌さんにとって、俺の語彙力では表現できないような特別な……本当に特別な場所。

 

 そんな特別な場所を有名にしたいっていう虹夏ちゃんの夢を、俺は純粋に応援している。

 

「じゃあさ、早い内にバンドの方向性をしっかり決めておいた方がいいんじゃないかな」

『……うん。そうだね』

「虹夏ちゃんの目指しているところと、姉貴の目指しているところは同じ。でも───」

『喜多ちゃんはリョウに憧れて、ぼっちちゃんはバンドを組むこと自体が夢だった』

 

 そう。姉貴と虹夏ちゃん、後藤さんと喜多さんの間にはバンドに対する思いや目標に対するモチベーションに差がある可能性があるんだ。

 

 そして、メンバー間のそういう意識の差は、バンド解散の原因に直結しかねない。

 

 「ただ楽しく学生バンドとして活動したいだけ」っていう人と「本気でメジャーデビューを目指す」っていう人が同じバンドに所属すると、その温度差が軋轢を生むことになる。

 

 だからこそ、結成して日が浅い今なら、()()()()()()()()今のうちにそこをはっきりさせておく必要があった。

 

 そして俺は「楽しく活動したいだけ」という考えを否定するつもりはない。むしろ健全な考えだと安心するくらいだ。だってそうでしょ? 本気でメジャーデビューを夢見て、それを叶えることができたバンドがどれだけいる? 夢半ばで散っていったバンドがどれだけいる?

 

 虹夏ちゃんが目指しているのは、そういう世界だ。

 

『今度のライブ……それが終わったらみんなで腹を割って話してみるよ。あたしの夢も、やりたいことも全部ぜーんぶ! 本音を話すっ!』

「うん。それが良いと思う。たとえ……どういう結果になったとしてもね」

『怖いこと言わないでよ~』

「だって、現実的に考えたら……ねえ?」

『そこはさぁ。可愛い幼馴染の夢を応援して「大丈夫。絶対叶えられるよ!」って背中を押すところじゃないの?』

「ごめんね虹夏ちゃん。俺、そういう根拠のない薄っぺらな励ましや綺麗ごとって嫌いなんだ」

『知ってるよ! レンくんが変にリアリストなことは知ってるよ! でもね、そういう言葉が欲しくなるときってあるじゃん』

「またぎゅーってしてよしよししてあげようか?」

『……いじわる』

 

 電話の向こうで虹夏ちゃんがわざとらしく不機嫌なリアクションをしているのがわかった。でも、本気で怒っているわけじゃない。俺が言ったことは、虹夏ちゃんだって理解できているし、話し合いの結果、結束バンドが解散することになる可能性も想像できるからだ。

 

『でも、珍しいね。レンくんがこういうことを言ってくるなんて』

「そうかな?」

『そうだよ。これまでも色々お手伝いしてくれたり、相談に乗ってくれたりっていうことはあったけど、レンくんが能動的に、あたし達のバンド活動にここまで関わろうとしたのって初めてじゃない?』

 

 言われてみれば確かにそうだ。俺は別にバンドメンバーじゃないし、ただ流れでSTARRYでバイトして、姉貴と虹夏ちゃんがバンドを結成して、後藤さんや喜多さんと知り合っただけ。

 

 もちろん純粋に応援しているし、虹夏ちゃん達には夢を叶えてほしいと思ってる。

 

 でも、俺がここまで彼女達に積極的に関わろうとしたのは……ああ、そうか。

 

 大槻先輩の影響だ。

 

 この一年間、大槻先輩の苦悩と努力を見てきた。何があっても妥協せず、真っ直ぐに進み続ける姿勢と、何よりも自分に厳しいところ、夢を叶えるために口先だけじゃなく実際に行動に移しているところ、その熱量に……俺はあてられていたんだ。

 

 そして、大槻先輩と───SIDEROSと結束バンドの差を思い知らされた。技術的なことじゃない。バンドとしての在り方という点で。

 

 だから俺は、こんなにも……焦りにも似た感情というか、衝動に突き動かされていたんだ。

 

「ごめん、生意気だったね」

『そんなことないよ。レンくんがあたし達のことを本気で考えてくれてるっていうのがわかって、すごく嬉しかったんだから。それに、あたしもバンドの方向性についてはちゃんと話したいって思ってたからね。きっかけをくれてありがとう!』

 

 虹夏ちゃんは本当にいい子。この子には絶対に夢を叶えてほしい。夢半ばで全てを諦めて涙を流す虹夏ちゃんなんて……俺は絶対に見たくない。

 

『レンくん』

「んー?」

『この前のことと……今日も電話してくれてありがとう。おかげで、良い状態でライブを迎えられそうだよ』

「どういたしまして。あのくらいでよければ、いつでもやってあげるから」

『えへへ。じゃあまたしんどくなったらお願いしちゃおっかなー♪』

 

 あんまり辛そうにしているところは見たくないんだけどな……。でも、虹夏ちゃんの夢を考えるなら、これから先、辛い現実に直面することなんていくらでもあるだろう。

 

 そういう時に、俺が彼女の支えになれる人間の一人であるなら、それでいい。

 

『あたし。レンくんのそーゆー優しいところ───大好きだよ』

「……よくそんな恥ずかしいことを堂々と言えるね」

『だってほんとのことだもん』

 

 そうやって数多の男を勘違いさせてきたんでしょうが! 下高の男子達は大丈夫だろうか……。手遅れか。南無。

 

「とにかく、今度のライブ楽しみにしてるから」

『照れたんか? おねーさんの「大好き」って言葉に照れたんか? お? お? 愛いヤツよのぉ~』

「この前のこと……バラしてもええんやで?」

『君もただでは済まないよ?』

 

 それから少しの間、くだらない雑談をして俺は電話を切った。とりあえず、用件は終了。虹夏ちゃんのメンタルも回復してたし、バンドの今後についても話し合う予定を立てた。あとはライブを迎えるだけ。

 

 そこでスマホが振動し、ロインの通知が入る。

 

 誰からだろ。

 

───今度のライブのMCってどんな感じでやればいいと思う?

 

 喜多さんからのロインだった。さーてどう返事をしようかな……

 

 そう考えていると、部屋のドアがコンコンとノックされる。そして、俺が返事をする前にドアが開いた。ノックした意味!!

 

「レン、電話終わった?」

「終わった」

「……そう」

「虹夏ちゃんは元気になったから、安心して」

「いや、そこは別に心配してない」

 

 嘘つけ。

 

「それよりも、レン。……大変なことになった」

「絶対大変じゃない」

「お腹空いた。焼きそば食べたい」

 

 何で焼きそばなんだよ。美味しい焼きそばの作り方動画でも観てたんか?

 

「オーチューブで美味しい焼きそばの作り方動画観てた。そのせいでお口が焼きそばの気分。もう耐えられない。作って作って作って作って作って……」

「うるせー! 縋りついてくんな! 作ってやるから離れろ鬱陶しい!」

「さすが神様仏様レン様」

「イカの姿フライは?」

「買ってきた」

「ならばヨシ!」

 

 俺も腹減ったし、昼飯にはちょうどいいな。

 

 俺は喜多さんへの返信内容を考えながらキッチンへと向かう。姉貴は案の定作る手伝いは全くしないで、五歳児みたいに俺の間近で作っている様子をじーっと観察していた。

 

「うまうま」

「口の周り汚れ過ぎだろ」

 

 大変美味しい焼きそばができました。

 

 そして、ゴールデンウィークの残りは姉貴とぐだぐだ映画を観たり、姉貴の宿題を手伝ったり、自分用の動画撮影をしたりと充実した時間を過ごしました。

 

 入学したばっかの高一に高二の宿題を手伝わせるってどうなん?

 

 

 

 

 そして、いよいよ五月九日を迎える。

 

「……なんだ? お前ら意外と落ち着いてんな」

 

 STARRYにやってきた四人を見て、星歌さんはポツリとそう言った。

 

「この前路上ライブやったからね~。あの時ほどは緊張しないかな」

「私はいつもと変わらない」

「路上と違って音が反響するからやりやすいですし。ねえ、ひとりちゃん!」

「あ、はい(な、なんでみんなそんなに平気そうなの? き、きききき緊張で心臓が飛び出そうなんだけど……)」

 

 後藤さんを除く三人は思ったよりもリラックスしていた。後藤さんは……うん。君はとりあえずしばらくはこの調子だろうね。これに関しては場数を踏んで慣れていくしかないよ。

 

「はい、後藤さん。温かい梅昆布茶。落ち着くよ」

「あ、ありがとうございます……」

「レンくんそんなもの持ってきてたの!?」

「家にあったから淹れてきた。みんなも飲む?」

 

 俺が尋ねると飲みたいとのことだったので、星歌さんを含めたみんなの分を用意しする。ライブハウスの一角で、温かい梅昆布茶を飲みながらほっと一息。

 

「シュールな光景だね」

「レンくんが発起人でしょ!?」

「でも、落ち着きますよ。おばあちゃん家に行ったみたいな気分です」

「実家のような安心感」

「お、美味しいです……(これからライブ前は絶対梅昆布茶を用意しよう)」

 

 こういう緊張感との向き合い方は人それぞれだ。最後まで楽器の手入れに余念のない人や、心を落ち着かせる音楽を聴く人、目を閉じて瞑想する人。ルーティーンとして何かしらの方法を確立しておくに越したことはない。

 

「レン、お茶請けは?」

「いちご大福。抜かりはない」

「しのびねえな」

「かまわんよ」

「この山田姉弟……」

 

 虹夏ちゃんが呆れたように呟いた。

 

 母さんに言って買ってきてもらったちょっとお高いいちご大福。甘いあんこといちごの酸味のバランスがとてもいいですね。

 

 しばらくお茶と和菓子で和んでいると、チケット販売の時間になりチラホラとお客さんがライブハウス内に入ってくる。

 

「虹夏ちゃーん。きたよー!」

「ありがとう! 楽しんでいってね~」

「山田さんもがんばって」

「うん」

「もしかして、隣にいるのって……山田さんの……」

「私の弟」

「そうなんだ~! よく似てるね~」

「び、美形姉弟……。こんなの反則でしょ……」

「どうも、ウチの姉貴がいつもご迷惑をおかけしております。いらんことしてたらどつき回してもらって結構なので」

 

 虹夏ちゃんの友達兼姉貴のクラスメイトが五人ほどやってくる。姉貴も一応クラスメイトと会話くらいはできるんだな。ほんとに必要最低限だけど。

 

「喜多ちゃーん。やっほー!」

「喜多~。ヒップホップ好きのウチをわざわざ呼んだんだからそれなりのもの見せろよ~?」

 

 続いて喜多さんの友達が数名。さすがに男子は呼んでないのか。

 

 喜多さんと虹夏ちゃんが女子高生らしいきゃっきゃとした交流をしている中で、後藤さんは人見知りを全開で発動し、メタモンのような顔になって心を閉ざしていた。……うん。これから少しずつ慣れていこうね。

 

「あれ? そっちにいるのは噂の山田くん?」

「さっつー。レンくんのこと知ってるの?」

「五組に結構来てるじゃん。それに、喜多と仲の良いイケメンが噂にならないはずがない」

 

 さっつーと呼ばれたオリーブグリーンの髪色をした女の子。確かこの子、喜多さんとよく話してる子だよな。五組で見覚えがある。

 

「ども。一年二組の山田レンです。お互い顔は知ってるよね?」

「そだね。ウチは佐々木次子。喜多とは腐れ縁で中学からずっと同じクラスなんだ」

「へー。喜多さんにそんなお友達が……そういやさっき、ヒップホップが好きって言ってたよね」

「そーそー。普段ロックは聴かないんだけど、喜多にどうしてもってお願いされちゃってね」

「ヒップホップか。一時期姉貴にドレイクの物真似を無理矢理仕込まれてたんだよな……」

「どんな姉弟だよ。ウケるわ」

「そこの無表情女が俺の姉貴」

「よろ」

「めっちゃ顔似てる。さらにウケるわ」

 

 佐々木さんって結構話しやすい子だな。サバサバしてるし。でも喜多さんの友達って割には女子高生全開って雰囲気じゃない。

 

「で、こっちにいるのが俺と同じクラスの後藤さん。ほーら後藤さーん。喜多さんのお友達の佐々木さんだよー。そろそろ帰っておいでー」

「どんな声のかけ方だよ。ほんと面白いねあんた」

 

 いや、後藤さんの方がもっと面白い。

 

「あ、あ、あ……?」

「おはよう後藤さん。佐々木さんにあいさつしようか」

「あぶぇ!? さ、ささささささん!? (し、知らないうちに知らない人がたくさん増えてる! い、いつの間に……。す、STARRYは床から人間が生えてくるSAN値直葬スポットだった!?)」

「何個『さ』って言うんだよ。ウチは佐々木次子。よろしくね、噂の後藤さん」

「あ、えぁ……ご、後藤ひとりでしゅ……(だ、誰だろう、この綺麗な人。も、もしかして山田くんの彼女!?)」

「佐々木さん、噂って何?」

「ん? ああ、喜多が言ってたんだよ。ものすごくギターが上手い友達がいるって。だからさ、ウチが来た目的の半分はあんたなんだよ。ごとー」

「わ、私が……私だけが目的……えへへ。あ、サインいりますか? (や、山田くんの彼女じゃなかったんだね)」

「なんで解釈の仕方が極端なわけ?」

「佐々木さん。これがロックなんだ」

「……ウチ、ロックを舐めてたよ」

 

 喜多さんのお友達である佐々木さんと仲良くなりました。後藤さんも佐々木さんとは普通に会話できてるし、新しいお友達候補だね。うんうん。こうやって少しずつ人の輪を広げていこうか。

 

「ひとりちゃーん!」

「あ、喜多ちゃんと山田くんもいる~!」

 

 佐々木さんと話していると、今度は俺と後藤さんのクラスメイトがやってきた。後藤さんがクラスでまともに会話ができる二人の女子。俺を除けばこの二人がクラスの中では後藤さんと一番仲が良い。

 

「あ、こ、こんにちは……ほ、本日はお足元が悪い中お越しいただき……」

「あはは。今日は晴れだよひとりちゃん」

「後藤さん。何を演奏するかは今日まで内緒だったから知らないけど、楽しみにしてるからね!」

「は、はい……。あ、ドリンクはあそこで交換できるので……」

「ありがとう。行ってくるね~」

「一番前で応援するからね。がんばって!」

「あ、ほ、ほどほどの距離からでお願いします」

 

 後藤さんの反応にクラスメイト二人と佐々木さんが噴き出した。クラスメイトは後藤さんがこういう子だっていうのを理解しているからこその反応だけど……

 

「佐々木さん、素質あるよ」

「何の?」

 

 後藤ひとり検定三級の。

 

「ごとーってもしかして……かなり面白い?」

「……佐々木さん、STARRYでバイトしよう」

(や、山田くんって髪が短い子の方が好きなのかな?)

 

 勧誘したけど残念ながら佐々木さんにバイトを断られてしまいました。でも、後藤さんのお友達候補としてこれから積極的に絡んでいこうと思います。個人的にも、佐々木さんのこと気に入ったしね。

 

「もう結構混み始めてるね」

「ほんとだ。あ、結束バンドのみんなはあそこにいるよ」

「おーい、ひとりちゃーん!」

 

 続いてこの前の路上ライブでチケットを買ってくれた女子大生の二人がやってきた。名前を聞きそびれたので、勝手に俺達の間では「一号さん」「二号さん」って呼んでる。……よく考えたらめっちゃ失礼だな。あとで名前聞いておこう。

 

「みんな、これ差し入れね。何を持ってきたらいいかわからなかったから……とりあえず飲み物を買ってきたよ」

「わぁ~、ありがとうございます! 虹夏先輩、なんだかバンドマンっぽいですよ私達!」

「喜多ちゃん、バンドマンだからね?」

 

 結束バンド目当てのお客さんが意外と多くてびっくり。十人以上は集まったよな。しかも今回は路上じゃなくてちゃんとチケットを買ってもらったし。……欲を言えば、オリジナル曲で勝負したかったな。まあ、それは次回までの課題ということで。

 

「へ~。なんだかんだ盛り上がりそうじゃん。正直、もっとお通夜みたいになると思ってた」

「佐々木さん、オブラートって知ってる?」

「ウチ、そういう回りくどいのあんまり好きくない」

「君も言葉のナイフでナチュラルに人の心を抉るタイプの人間か……」

「喜多と一緒にされたら困る」

「……喜多さんがバンドに入った理由聞いた?」

「聞いた聞いた。昔からそうだったけど、喜多ってやっぱヤベーヤツだわ」

「ちょっと中学時代の喜多さんについて詳しく……」

「いいよ。あれは中二の秋だったかな───」

 

 俺が佐々木さんと談笑していると、後藤さんがしょぼーんとした表情で俺を見ていたので、後藤さんも交えて三人で会話する。ヒップホップについては後藤さんも一時期聴いていた時期があったらしく「ゴトラップ」を披露してくれようとしたけど、ものすごく嫌な予感がしたので丁重にお断りしておいた。

 

 ライブ前にド滑りしてメンタルがやられそうな気配を察知したので。佐々木さんは見たがってたけど……それは学校で、尚且つ人がいないところでやってね。

 

「おとーさん、おかーさん、見て見てー! おねーちゃんの周りに人がたくさんいるよー!」

 

 このライブハウスには似つかない、幼い声が響き渡った。入口の方へ視線を向けると、肩より少し上で切り揃えられた桃色の髪に青い瞳をした五歳くらいの少女がいた。

 

「あら本当ね~。ひとりちゃんったらいつの間にあんなにたくさんのお友達が……」

「ほらな、母さん。言った通りだろ? 音楽は人と人とを繋ぐんだよ!」

 

 後藤一家のご登場です。後藤ママは娘二人と同じく桃色の髪で後藤パパは薄紫色の髪で前髪が長く、目が隠れている。……うーん、普通のご両親っぽいけどな。妹ちゃんも活発そうだし。

 

「はじめまして。店長の伊地知星歌です。今日はありがとうございます」

「店長さんですか? いつもひとりちゃんがお世話になってます~」

「いえいえ。ぼ……ひとりちゃんはいつもバイトもバンド活動もがんばっていますよ」

「あの子に接客のバイトなんてできるか不安で不安で仕方なかったんですけど、最近は楽しそうで───」

 

 星歌さんと後藤ママが話している横をすり抜け、妹ちゃんがこっちへ……正確には後藤さんの方へ駆け寄ってくる。

 

「お姉ちゃん。ほんとにお友達いたんだね~」

「い、いきなりなんてこと言うの、ふたり!」

 

 ライブ前で緊張している姉にかける最初の一言がそれ!? こ、子供って純粋故に怖い……。それに、後藤さんってそんなに大きい声を出せたんだね。あとさ、聞き間違いかと思うけど……今、この子のこと「ふたり」って呼んだ? ち、違うよね?

 

「この子がぼっちちゃんの妹か~。こんにちは。伊地知虹夏です。お名前教えてくれるかな~?」

「後藤ふたり、五歳です! お姉ちゃんがいつもお世話になってます!」

「ちゃんと自分のお名前言えて偉いね~」

「可愛い~! 私は喜多郁代。喜多ちゃんって呼んでね!」

「虹夏ちゃんと喜多ちゃん! ふたり、覚えた!」

 

 聞き間違いじゃなかったーっ!! 後藤ひとりちゃんの妹は後藤ふたりちゃんでしたーっ!! 人様の……人様の家庭事情にあんまり口を出すのは良くないけど……絶対ノリで名前つけたろ!?

 

「山田山田ー。三人目ができたらどうなると思う?」

「三人って書いて、みつと?」

「ふつーにありえそうでウケる」

 

 女の子だったら……みつり、とか? でもこれだと鬼滅の刃の乳柱と同じ名前になっちゃうよ……。

 

「私は山田リョウ。人は敬意を表して私のことを『世界のYAMADA』と呼ぶ」

「せかいのやまだ……なんかかっこいい!!」

「嘘ばっか教えんな姉貴!」

 

 俺がそう言うとふたりちゃんが俺の方へ振り返る。そして、俺と姉貴の顔を交互に見比べていた。

 

「お兄ちゃん?」

「違う。あれは弟。世間では『日本のYAMADA』と呼ばれている」

「スケールが小さくなった!? 違うからねふたりちゃん! 俺の名前は山田レン。君のお姉ちゃんのお友達だよ~」

 

 俺はしゃがんでふたりちゃんと目線を合わせてそう言った。するとふたりちゃんは、今度は後藤さんと俺の顔を交互に見比べている。……なんで?

 

「うそだー! お姉ちゃんにこんなかっこいい男の子のお友達がいるはずないもん!」

 

 あ、後ろで佐々木さんが噴き出してる。ほんとに子供って残酷ね! ううっ……でも、悪気はない。悪気はないんだ。ふたりちゃんは家での後藤さんや中学校時代の後藤さんをよーく知ってる。だからそんな風に考えちゃったんだね。……涙が出ますよ。

 

「嘘じゃないよ。俺はひとりお姉ちゃんのお友達だから。俺が高校に入って、最初にできたお友達がひとりお姉ちゃんなんだよ?」

「ふごっ!?」

「あ、ごとーが口から緑色の汁を垂れ流して気絶した」

 

 なんで!? あ……俺が「ひとりお姉ちゃん」って呼んじゃったからか。だって仕方ないじゃん。ふたりちゃんにわかりやすく説明するにはこうするしかなかったんだから。

 

「ほんとーに?」

「ほんとーに」

「……ふーん?」

 

 ふたりちゃんが疑わし気に俺の顔をじーっと見てくる。

 

「飴ちゃん食べる?」

「食べるー! レンくんありがとーっ!」

 

 俺が飴をあげるとふたりちゃんは満面の笑みを浮かべてお礼を言って、後藤パパのところへ走って行った。あぁ^~可愛い。癒される~。俺の庇護欲センサーと甘やかしセンサーが爆裂に反応しちゃってる~。

 

「おとーさーん! お姉ちゃんの男に飴ちゃんもらったー!」

 

 こらーーーーーっ!! なんてこと言うのふたりちゃん!? あと佐々木さんもさあ!! 爆笑してないでフォローとかするつもりないの!?

 

「ふ、ふたり……お父さんに詳しく教えてくれるかな?」

「あそこにいるレンくんっていうかっこいい男の子が……お姉ちゃんの初めてで……」

 

 待て待て待て!! 確かに俺は!! 後藤さんにとって初めてのお友達かもしんないけど……その言い方は……その言い方は新たな誤解を生んじゃうよ!?

 

 状況が……状況がカオスすぎる……。おかしいな。今からライブなんだよね? 緊張感とかピリピリした雰囲気とかライブハウスのダークな感じとか全部どっかいっちゃったよね?

 

 くそっ! と、とにかく……とにかくこのカオスな状況を何とか打破せねば……!!

 

 俺がそう考えて後藤パパのところへ向かおうとした時だった。ライブハウス入り口の扉が勢いよく開く。

 

 

 

 

「へいへーい! きくりお姉さんの登場だぞ~! 私に声をかけなかった薄情者の山田少年はどこだ~!?」

「ね、姐さん……! ま、待ってください!」

 

 ……俺もう帰っていい? 




 ライブが終わりませんでした。
 色んなキャラと会話させるのは楽しいけど話が進まない不具合。

 佐々木さんも一年くらいの早めに登場してぼっちちゃんのお友達になってもらいます。ぼっちちゃんに優しい世界。

 山田の背中を見て育ち、虹夏に英才教育を施され、ヨヨコの影響を大きく受けたレンくんのやっていることが介護RTAというね。



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