【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#15 メーデー

 一度冷静に状況を整理しよう。

 

・気絶している後藤さん

・俺に熱い視線を向けてくる後藤パパ

・フォローする気のない佐々木さん

・しいたけみたいな目で俺を見てくるキタキタオーラ全開の喜多さん

・現状を理解しようとしている虹夏ちゃん

・この状況を全力で楽しんでいる姉貴

・廣井きくり

・みんな大好き大槻先輩

 

 ……問題が多すぎる。とはいえ放置してても状況は好転しないので、優先順位が高いものから対処していこうと思います。

 

 まず後藤さん。彼女については一旦放置。無害だしこの状況に巻き込まない方が幸せだと思うから。個人的にはすぐにでもお世話してあげたいけど……泣く泣く放置。

 

 続いて結束バンドの面々。これに関しては一言で全員を動かせる言霊を思いついたから問題なし。

 

 ニヤニヤしながら「山田ー。呼ばれてるよー」と言っている佐々木さん。喜多さんの友達やってるだけはあるな! 放置。

 

 後藤パパ。ふたりちゃんが言葉足らずであらぬ誤解が生じているけど……でも、五歳児の言うことをそのまま鵜呑みにするとは思えない。あとでしっかり挨拶して誤解を解けば問題ないので緊急性は比較的低いはず。

 

 もしも、ふたりちゃんが全て計算済みで言葉の意味も理解しているとしたら末恐ろしい。虹夏ちゃんなんて足元にも及ばない立派な悪女へと成長してしまうでしょう。

 

 大槻先輩。今日は髪を下ろして眼鏡をかけています。服装もライブで着るような衣装ではなく普通の女子高生らしい私服です。可愛い。眼福。……ふぅ、大槻先輩を見ると安心するね。

 

 廣井きくり。最優先対象。理由? そんなもん一目瞭然でしょ。

 

「レンくん? あの人、知り合い?」

「あれはSICKHACKのベースボーカルにしてリーダーの廣井きくり。私とレンは何回かライブを観に行ったことがある。でも、レンがどうやって知り合ったかは不明。でもレンだからどこで知り合っててもおかしくない」

 

 虹夏ちゃんの問いに姉貴が饒舌になりながら答えた。そりゃあ姉貴は気付くよな。正直、知り合ったのは完全に偶然だし。大槻先輩に新宿FOLTに連れて行かれなかったら知り合うこともなかっただろうし。

 

 もしやこのカオスの原因は大槻先輩なのでは? 先輩には責任を取ってもらわないといけないですねぇ。

 

「じゃあ、あの後ろにいる子は?」

「それは私も知らん」

「あれが俺の尊敬する先輩」

「あー……レンくんがチケットをあげた」

 

 大槻先輩は「お忍びで来たい」って言ってたから結束バンドのメンバーにも詳細は話してないけど……廣井さんと一緒に来た時点でお忍びもクソもないよね。

 

「それより虹夏ちゃん。そろそろライブの準備したらどう?」

「あ、ほんとだ。結構いい時間だね。みんな、楽屋に行くよー!」

「虹夏先輩! ひとりちゃんが目を開けたまま緑色の汁を口から垂れ流して気絶してます!」

「溶けてないからヨシ!」

 

 虹夏ちゃんの指示の下、結束バンドは移動を始める。姉貴はこの状況をもうちょっと観察したかったみたいだけど、ライブが始まるので渋々他のみんなに付いて行った。これで問題を一つ解決。

 

 さてさて、廣井さんの対処に向かいますか。

 

「こんにちは廣井さん。わざわざ来てくださってありがとうございます」

「おいお~い、山田少ね~ん! 大槻ちゃんにだけ声をかけて私には何も言わないって冷たいんじゃないの~?」

 

 今日も今日とてパック酒を飲みながら酒臭い廣井さん。美人なのにもったいない。あなたに声をかけなかったのはそれが理由ですよ。誰が好き好んでトラブルの原因になりそうな酔っ払いを招待するんですか。

 

「この前新宿FOLTに行ったときは、SICKHACKのみなさんが遠征に行っていたので声をかけられなかったんですよ」

「でもロインで連絡してくれてもよかったじゃ~ん」

「そうしようとも考えたんですけど……でも、俺が推してる結束バンドはまだカバーしかできないですから。せっかくならオリジナル曲が完成したときに来てもらおうと思って」

 

 嘘である。たとえオリジナル曲ができてもこっちから声をかけるつもりなんて微塵もなかった。……勝手に来る分にはどうしようもないけど。それにできるなら志麻さんかイライザさんに来てほしかった!

 

「大槻ちゃんにはチケットあげてたのに?」

「先輩には色々お世話になってますからね。貴重なアドバイスや情報を貰ってますから、そのお礼です」

「う、う~ん……」

「ほら、そろそろ先輩である星歌さんにあいさつしたらどうですか?」

 

 必殺丸投げ!! バイトの手に負えない事態になったら責任者に投げるのは普通だもんね。仕方ないね。

 

「そうだったそうだった! せんぱ~い! 可愛い可愛い後輩であるきくりちゃんが来ましたよ~!」

「酒臭っ! 抱き着いて来ようとすんな! お前、レンと知り合いだったのか?」

「この前ライブハウスに来てくれて~」

 

 これで解決したな、ヨシ! 我ながら見事な手腕で全てのトラブルに華麗に対処したと言えるでしょう。

 

 後藤家? ら、ライブが終わったらちゃんとご挨拶に伺いますので。

 

「大槻先輩」

「な、なに……?」

 

 俺が声をかけると大槻先輩が挙動不審気味に返事をする。初めての場所で緊張してるのかな? いや、それもあるけどもっと大きな理由として「廣井さんを連れてきてしまった」ことに責任を感じてるんだろうな。

 

「……廣井さんがウザ絡みして無理矢理ついてきたんでしょ? 先輩が責任感じる必要はないですよ」

「それは、そうかもしれないけど……」

「そんな落ち込んだ顔しないでください。せっかく来てくれたんだから楽しみましょうよ。あ、ドリンクは何がいいですか? 俺が持ってきますから」

「……コーラ」

「わかりました。じゃあ、ちょっと待っててください」

「……私も一緒に行く」

 

 そう言って大槻先輩は俺の後ろにぴったりとくっついて来る。なんか今日の大槻先輩はしおらしいな。いつもの強引な感じがないというか。……そうか。後藤さんと同じで人見知りを発動してるのか。大槻先輩は後藤さんとはタイプの違うアクティブぼっちだからな。

 

「はい、どうぞ。コーラです」

「ありがと」

「前の方で観ます?」

「……ここでいいわ。十分わかるもの」

 

 前の方には結束バンドメンバーのお友達と一号さん、二号さんが大集合している。あの中に大槻先輩を突っ込むのは残酷過ぎる。

 

 それに先輩は無言で俺をじっと見つめて「どこにも行くな」って顔してるし。なんなら俺の服の袖を掴んでるし。完全に借りてきた猫状態だった。

 

「今日は眼鏡をかけてるんですね」

「お忍びだから」

 

 誰かさんのせいで全然忍べてないけど。そして俺は、まだ挙動不審になっている大槻先輩の緊張をほぐすために、彼女の眼鏡を取って自分にかけてみる。

 

「あ、ちょっと……!」

「どうです大槻先輩。これで俺も少しは知的に見えますか?」

 

 大槻先輩がぼーっと俺の顔を見ていたかと思うと、急にハッとした表情になってブンブン頭を振って我に返る。

 

「……返しなさい」

「さては普段見ないクールで知的な眼鏡姿の俺に見惚れてましたね?」

「返しな……さいっ!」

 

 大槻先輩は顔を赤くしながら俺から眼鏡を奪い返してかけ直す。これでちょっとは緊張がほぐれたかな。

 

「その恰好でライブするのもいいんじゃないですか?」

「メタル要素が薄れちゃうでしょ!」

「えー。新鮮で良いと思いますけどね。一見おとなしそうに見える少女から繰り出される神テクメタルってギャップありますよ?」

「そんな小細工しなくても、私は正々堂々勝負するわ」

「……そうですか、ちょっと残念」

 

 観たかった。眼鏡清楚な大槻先輩がステージに立ってる姿を観たかった。

 

「この恰好、そんなに気に入った?」

「いつもは結構活発な印象の服が多いですけど、今日は髪型も服装も落ち着いた雰囲気じゃないですか。男はみんなそういうギャップに弱いんです。もちろん俺も例に漏れません」

「そ、そう?」

 

 あ、ちょっと嬉しそう。

 

「ま、まあ? ライブでこの恰好は無理だけど? あ、あなたと会う時くらいは……た、たまにならしてあげてもいいわよ? たまになら、ね?」

 

 大槻先輩はそっぽを向きながら恥ずかしそうにそう言った。可愛すぎませんか、この生き物。

 

 でも、すっげーコテコテのツンデレ台詞。三十歳くらいのおじさんが懐かしさで涙流してそう。

 

「あ、そろそろ始まりますね」

「……あなたが推すギタリスト。その実力をしっかり拝ませてもらうわ」

 

 俺もしっかりカメラに収めさせてもらいましょう。そう考えながら俺は自分のビデオカメラを用意するのだった。

 

 

 

 

「みなさんこんばんはー! 結束バンドでーす! 実はつい先日路上ライブをやったばかりで、その時に私達を知ってくれた方は二度目ましてでーす! でも、こうやってライブハウスで演奏するのは初めてなので緊張してますが、みなさんに少しでも楽しんでもらえるよう精一杯がんばりまーす!」

 

 MCの子、初めてのライブハウスの割にハキハキ喋るわね。……圧倒的な陽のオーラ。さぞかし友達がたくさんいるんでしょうね!! っと、いけないいけない。なんてところに嫉妬してるのよ私。友達っていうのはね、数じゃなくて絆の深さなの!

 

 私にだって、隣に自慢の友達がいるんだから!

 

 私はそう思って隣を見ると、山田は授業参観に来た保護者のような顔つきでカメラを回していた。……相変わらずね。

 

「それとー……結束バンドっていう名前ですが、エゴサが全く機能しないので近々改名するかもしれませーん! なので別にバンド名は覚えてもらわなくても結構でーす! むしろ良いバンド名があったら教えてくださーい! それでは一曲目行きます!」

 

 いやどんな曲の入り方よ!? 確かに結束バンドってバンド名はネタに全振りしてるけど……それを本人達が言っちゃうの!? というか、誰がそんなバンド名にしたのよ!?

 

「喜多さん、打ち合わせ通りにできてるな」

「あなたが元凶だったの!?」

「元凶……というか、喜多さん───ボーカルの子にMCについて相談されたから一緒に考えただけで……」

「そういうのって普通メンバーと相談するものじゃない!?」

「虹夏ちゃん……ドラムの子と相談してたみたいなんですが、そのネタがあまりにもつまらなさ過ぎて会場冷え冷えお通夜ライブにしかならないと思ったので仕方なく……」

「あなたがそこまで言うなら逆に観てみたかったわよ」

「共感性羞恥心で死にますよ?」

「そこまで!?」

「……先輩のツッコミ、全部録音されちゃってますからね?」

「あっ……け、消しなさい!!」

「演奏始まってるのに無理ですよ」

 

 ぐぎぎぎぎっ!! お、落ち着きなさい大槻ヨヨコ。私は一体ここに何をしに来た? 山田が推しているギタリストの実力を測りにきたのでしょう。それ以外のことはすべて雑事……忘れなさい。演奏に集中しないとね。

 

 一曲目は、誰もが知っている有名バンドの代表曲だけあって、あの子達目当てで来たお客さんは割といい反応してるわね。でも、演奏のレベルははっきりいって低い。よくある高校生バンド。その域を出ないわね。

 

 期待していたギターも……山田が推すほどの実力は感じない。ソロだと圧倒的って話だったけど、バンドとしてなら、今のギターのレベルは平均よりも遥かに下ね。

 

 むしろベースの子……彼の姉の方がよく目立っているわ。学生にしては……いや、学生レベルではないわね。ちょっと自分の世界に入り込みがちなのが気になるけど、そこを改善できれば一気に伸びてくるわ。

 

 ドラムの子は周りに合わせようとし過ぎ。典型的な個性のないドラマー。あれが山田の幼馴染で、山田をこんな男に育て上げた女か……。

 

 ボーカルの子は……きっとカラオケは上手なのでしょうね。でも、ライブやレコーディングとカラオケは全くの別物。音程が合っていれば良いってものじゃない。そもそも、腹式呼吸をちゃんと使えてないわね。あれじゃあ声が演奏にかき消されても仕方ないわ。

 

 マイナスの面ばかりが目に付いてしまう。これは私の悪い癖だ。でも、どれも紛れもない事実。本人達にも自覚はあるのでしょうけど……果たしてそれを厳しく指摘できる人間がいるのかしらね。

 

 だけど……この子達、本当に楽しそう。

 

 楽しい()()では絶対に上を目指すことなんてできない。それを私は嫌というほどわかっている。でも、()()()()()()()()()()()()上を目指すことなんてできないわ。

 

 その点だけは合格。その点だけはね。あとはぜーんぶ落第点。少なくとも、現時点では私達SIDEROSのライバルにはなりそうにないわね。同世代の都内のバンドだとやっぱり、ケモノリアくらいかしら。

 

「一曲目、BUMP OF CHICKENで『天体観測』でしたー!」

 

 盛り上がっているのは前の方にいる結束バンド目当てのお客さんだけ。他のバンド目当ての人達の反応は……まあ、こんなもんよね。このレベルの演奏じゃあ、彼らを惹きつけることなんてできないもの。

 

 でもこの子達……冷ややかな反応をしているお客さんがたくさんいるのに全然へこたれないわね。ふーん? 前の路上ライブでそういうのは経験済みってこと?

 

「ここからが本番ですよ。大槻先輩」

「本番?」

「彼女の本気が見れます」

 

 山田はそう言って、小さな子供のように表情を輝かせる。……何よその顔。初めて私の演奏を観た時と同じじゃない。

 

 あなたは───私以外の相手にも……そんな表情を向けるわけ?

 

 ……悔しいわ。ちょっとだけ。

 

 だけど、その悔しさは

 

 彼女の演奏によって呆気なく砕かれるのだった。

 

 彼女がソロで演奏していた時間は、およそ八秒……人によってはたった八秒と思うだろう。

 

 だけど、違う。()()()なんてものじゃない。

 

 本物の───一流のギタリストには、会場の空気を一変させるのに、八秒()必要ない。

 

 有名バンドの、私も知っているギターイントロ……私も、練習の一環で弾いたことのあるギターイントロ……。弾いたのが数年前のこととはいえ、あの少女は……当時の私よりも遥かにレベルの高い演奏をしている。

 

 この瞬間を、何度見てきただろうか。

 

 たった一人の圧倒的な演奏に、空気が震えるこの瞬間を───

 

 ああ、そうか。

 

 認めよう。

 

 彼女は確かに……()()()()()側の人間だ。

 

 決して才能だけではない。人並外れた努力を、血の滲むような努力を繰り返してきたのだろう。私にはわかる。

 

 だって私も……同じだから。

 

 気付けば、私も彼女の演奏の虜になっていた。それを自覚したのは、二曲目が終わった後のこと。

 

「……名前は?」

「え?」

「あの子……彼女の名前」

 

 悔しさはある。山田の言う通り、彼女には人の心を動かす力があった。そして、悔しさと同時にそれと同じくらいの尊敬の念を抱いてしまったのだ。

 

「ひとり───後藤ひとり。それが彼女の名前です」

「……そう。後藤ひとり、ね」

 

 噛み締めるように、私は彼女の名前を呼んでみる。

 

 知らぬ間に三曲目が始まって、会場の盛り上がりもどんどん熱を帯びていく。

 

 悔しい……悔しい……本当に悔しい……

 

 彼にこんな表情をさせていることも……彼女が私と同じかそれ以上の実力を持っていることも……

 

 それに何より

 

 私が……この私が───同世代で、自分以外のギタリストを初めて格好良いと思ってしまったことに。

 

 三曲目が終わり、会場は拍手喝采に包まれていた。私も、彼も、彼女達に敬意を表して拍手する。

 

 技術だけなら、彼女達よりレベルの高いバンドは都内だけでも無数に存在する。

 

 でも、彼女達からはそれらを全部はねのけてしまいかねない「何か」を感じた。

 

「山田」

「はい」

 

 私は彼の名を呼ぶ。……なんでちょっと涙声になってんのよ?

 

「誘ってくれてありがとう。今日、あの子達の演奏を観れてよかったわ」

「……どういたしまして」

 

 鼻がズーズー鳴ってない!? 私が珍しく素直にお礼を言った貴重な場面なのに鼻水垂れそうってどういうことよ!? カメラ回しながら涙も流してるし。どんだけ感動してるのよ!!

 

 ああ、もう! 世話が焼けるわね。ほら、涙拭いてあげる。

 

「ありがとうございばず……」

 

 締まらないわね……。ポケットティッシュあげるから、鼻かみなさい。せっかくの綺麗な顔が台無しよ?

 

 ……まったく。いつもはもうちょっと頼りになるくせに。

 

 でも、そうやってあなたに甘えられるのも悪くな───

 

「山田少年! 山田少年! 山田しょうね~~~~~ん!!」

 

 き、きくり姐さんがいきなり飛び込んできた!? いやむしろ山田に抱き着こうと……したけど腕を伸ばした山田にガッツリ頭を掴まれてるわね。

 

「山田少年! あれ誰!? あの子……あのギターの子!! そんじょそこらのギタリストじゃない!! 学生バンド……いや、インディーズにもそういるレベルじゃないよあの子は!!」

 

 つまり、メジャー……プロに匹敵するって姐さんは思っているのね。わ、私だって実力は引けを取りませんよっ!

 

「彼女は後藤ひとりさん。バンド内では親しみを込めて『ぼっちちゃん』と呼ばれています」

「それ絶対いじめでしょ!? 何!? 結束バンドっていうのは名前だけで実情は女の醜いドロドロした争いが勃発しているギスギスバンドだったの!?」

「そんなわけないでしょ大槻先輩。後藤さんは『ぼっち』というあだ名に喜びを感じているんです」

「どこの世界にそんなあだ名で喜ぶ人間がいるのよ!?」

「一ヶ月前の俺と全く同じ反応をありがとうございます。俺達仲良しですね」

 

 そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! あなたが推してるバンドだから安心してたけど……も、もしかして争いの原因ってあなた!? あ、ありえる……山田って顔も性格も良いし背も高いっていうモテ要素の塊。そんなのが近くにいたらバンドメンバー全員で取り合っててもおかしくないわ。

 

 ま、まさか山田はそんなハーレムな状況を心地よく感じてて「誰も傷つけたくない」とかほざいて全員に曖昧な態度を取り続けるクズ野郎だったの!?

 

「もしかして大槻先輩。俺がクズ野郎って思ってます?」

「な、なんでわかるのよ!?」

「顔を見ればわかりますって」

「あはは~。大槻ちゃんってばわかりやす~い」

 

 ね、姐さんまでっ! それに山田……こういう時にも察しの良さを発揮するなんて……!

 

「あのですね。後藤さんって、ものすごく内気で人見知りなんですよ。だから中学校までは親しい友人がいなくて、バンドを組むことが夢だったのにずっと叶えられなかったんです。で、高校に入って夢が叶って……『ぼっち』っていうあだ名は、人生で初めてつけられたあだ名だったんです」

「うぅ……その気持ち、わかる……。私もわかるよぼっちちゃん!!」

「俺はそのエピソードを聞いた時、涙が出そうになりました」

 

 姐さんまで共感しちゃってる……。でも、私もその気持ちすごくわかるわ。私もこんな性格だから、中学校までは誰も友達なんていなかったもの。

 

 そう……後藤ひとり───あなたは私に似ているのかもしれないわ。

 

 

 

 

「ぼっち」っていうあだ名はどうかと思うけどねっ!!

 

 

 

 

 ま、まあ? いじめとかじゃなく本人が喜んでいるならそれでいいわ。山田もクズ男だと疑っちゃってごめんね。よく考えたら、あなたがもしもクズ男だったら私と仲良くなれるはずがないもの。

 

「ぼっちちゃん……いや、この子達は絶対上がってくるよ。私が保証する」

「なんか廣井さんに保証されても素直に喜べない……」

「どうしてそういうこと言うの!?」

「だって……俺、演奏以外で廣井さんの頼れるところ見たことないですし。志麻さんに保証されたら飛び上がって喜んでましたけど」

 

 山田! 姐さんに謝りなさい! 確かに姐さんの私生活はボロボロで四六時中お酒飲んで酔っ払ってて、時間は守らないし、リハにも来ないし、最終的にライブはめちゃくちゃにするし、機材を頻繁にぶっ壊すし、金欠で私にお金を借りるし……だ、ダメだ……これじゃフォローにならない。

 

 と、とにかく!! 姐さんは演奏してる時はすごく格好良いの!! 私の憧れなの!!

 

「くそ~! 私だってなぁ~。頼れる大人の女性なところが一つくらい……」

「星歌さーん。廣井さんの良いところを教えてくださーい!」

「あん? そんなもん、ツラとベースの腕と歌だよ」

「人間的な部分で」

「ねえ!」

「先輩っ!?」

 

 姐さんの人間的な部分の長所よね! 任せてください姐さん! 私がここから華麗にフォローを……

 

 な、何も思いつかない……!!

 

 いいえ、諦めるのはまだ早いわよ大槻ヨヨコ。私はまだ、姐さんとの付き合いがたったの数年……それよりももっと付き合いの長い人達は、きっと姐さんの良さを知っているはず!!

 

 そう思って私はスマホを取り出してロインを送る。

 

吉田:ないわね~

志麻:ない

イライザ:ないヨ~ 

 

 微塵も嬉しくない満場一致!! 

 

 ちょっと待って……ここはあえて付き合いの短いあの子達なら……そうよ。先入観を持たないあの子達なら違った目線で姐さんを評価してくれるはず!!

 

あくび:ないっす

楓子:ないですね~

幽々:ないです~

 

 

 

 

 あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!

 

 

 

 

「大槻ちゃんが急に発狂したぁっ!?」

「大丈夫ですか大槻先輩? ほーら、俺はちゃんとここにいますからね~。息吸ってー、吐いてー。もう一回息吸ってー、吐いてー。はーい、よくできました。いい子いい子」

「大槻ちゃんが幼稚園児みたいに甘やかされてる!?」

「レンはぼっちちゃんに対してはいつもこんな感じだぞ」

「あの子もこんなに情緒不安定なの!?」

 

 れんおにーちゃん。もっとよよこをあまやかしてくれなきゃやーやーなの!

 

「うんうん。ヨヨコちゃんはいつも一生懸命がんばっててえらいね~」

 

 私は後に「暗黒の十五分(クオーター)」として、この記憶を永久封印することになるのだった。




 ヨヨコ回!
 ぼっちちゃんの演奏に脳を焼かれてきくりにとどめを刺されるお話。

 次回はライブの後始末をやります。レンくんが後藤一家にあいさつします。

 誤解が解けるといいね。


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