【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 後藤一家との初会合!



#16 話がしたいよ

「いい? さっきのことは忘れなさいよ? もしも他言でもしようものなら酷い目に遭わすからね」

「言いませんよ。カメラの録画を切ってて幸運でしたね。切ってなかったら大惨事でしたよ」

 

 全てのバンドの演奏が終わって「おおつきよよこちゃんごしゃい」から元に戻った先輩はおめめぐるぐる状態で顔を真っ赤にしながら俺の胸ぐらを掴んでそう言った。心配しなくても言いませんて。

 

 それにしても、あんな大槻先輩は初めて見たな。可愛かったから得した気分。

 

「では大槻先輩。気を取り直して総評をお願いします」

「総評?」

「結束バンド全体に対する評価と、メンバー個人の評価について」

「なんで私がそこまでしなきゃいけないのよ!?」

「……ダメですか?」

「……しょうがないわねぇ」

 

 俺がちょっとお願いすると大槻先輩は素直に言うことを聞いてくれた。なんだかんだで面倒見良いからなこの人は。俺もついつい甘えちゃう。それに、真面目な話、俺よりも専門的な人間の客観的な意見っていうのはものすごく参考になるんだ。 

 

「バンドとしての力量は……まあ、平均以下ね。後藤ひとりのギターソロでちょっと盛り返した感はあったけど、総合的にはそこらにいる学生バンドの域を出ないわ。その後藤ひとりもバンドになると全然ダメ。あの子の実力が飛び抜け過ぎているからワンマンバンドにすらならないわ。あなたのお姉さんが辛うじてついていけるかも……ってくらいよ。もっと個別に欠点を上げていくとしたら───」

 

 大槻先輩は俺の要望通り、バンド全体に対する評価とメンバー一人一人について具体的な改善点、それに加えて良かったところを分かりやすく教えてくれた。良かったところをきちんと褒めてくれるあたり、大槻先輩の成長が垣間見える。

 

 そして俺は先輩のアドバイスを今後のバンド活動に役立てるため、一つ一つ丁寧にメモに残していた。

 

「こんなところかしらね。色々言っちゃったけど……少なくとも、私に『来てよかった』と思わせる何かを感じさせた。そこは胸を張っていいわよ」

「大槻ちゃんめっちゃ上から目線……」

「う、上からって……ち、違いますよ姐さん! 私はそんなつもりじゃ……」

「実際、SIDEROSの方が上でしょうしね」

「あなたもフォローしなさい!」

 

 経験や場数ならSIDEROS……大槻先輩が飛び抜けている。それに、話を聞く限り他のメンバー三人も大槻先輩の実力についてこられるだけの力量を持っているとのことだ。

 

「廣井さんは何かありますか?」

「ん? んー……大槻ちゃんがほとんど言ってくれたしね。それに、私はそうやって誰かに技術的なアドバイスをするのは得意じゃないんだよ。どちらかというと、行動で示すタイプだから」

 

 行動で示す……なんだろう。廣井さんがそう言うと嫌な予感しかしないのは。

 

「だからあの子達……具体的にはぼっちちゃんにやってほしいことがある」

「やってほしいこと?」

「それは後のお楽しみだよ、少年♡」

 

 廣井さんが怪しく笑いながら言う。……何をするか知らんけど、いざとなったら星歌さんを召喚しよう。

 

「ねえ、山田。さっきから気になってたことがあるんだけど……」

「何ですか?」

「あそこにいる親子が……ずっと私達の方を見てるのよね」

 

 親子……ああ、後藤一家か! 結束バンドのライブに夢中になっててすっかり忘れてたわ。ふたりちゃんの爆弾発言で誤解されたままだったんだよな。

 

 よし、あいさつついでに誤解を解いてくるか!

 

「あそこにいるのは後藤さんのご家族ですね。俺、今からあいさつに行ってこようと思いますが、先輩も来ます?」

「本人と会話すらしたことないのに行くわけないでしょ。そもそも、どうしてあなたがそんなことするのよ?」

「後藤さんは友達ですし。あと、ちょっと不幸な入れ違いがあったので、誤解を解いておきたいなと」

「誤解?」

「子供は純粋故に残酷だということです」

 

 俺がそう言うも、大槻先輩は首をかしげるだけだった。誤解が生じたのは先輩達が来る直前ですからね。わからなくても仕方ない。

 

「じゃあ、そういうことなんで行ってきます」

「え? あ、ちょっと……」

 

 大槻先輩を残しておくのは心苦しいけど、廣井さんがいるし、何より後藤一家をこれ以上放置しておくのは俺の精神衛生上あんまりよろしくない。だからごめんなさい大槻先輩。また今度何か埋め合わせしますから許してください。

 

 俺はそんなことを考えながら後藤一家がいるところへ向かうのだった。

 

 

 

 

「はじめまして。ひとりさんのクラスメイトで友人の山田レンと申します」

 

 俺は自他ともに認める爽やか好青年イケメンスマイルでそう言った後、丁寧に頭を下げる。人間、出会って数秒の第一印象が大事だからね。ここで下手を打っちゃうと、後々まで大きく響いてしまう。

 

「あらあら~。わざわざご丁寧にどうも。後藤美智代、ひとりちゃんの母です」

「後藤直樹です。よろしくね山田くん」

「ふたりはもうあいさつしたもん! ね~レンくん?」

「そうだね。ふたりちゃんはきちんとあいさつできたもんね。偉い偉い」

「えへへ~」

 

 俺はしゃがみ込んでふたりちゃんの頭を優しく撫でる。あぁ、癒される……俺も甘やかしてくれる姉か、こんなにも純粋で可愛い妹が欲しかった。

 

 にしても、後藤さん本人といい、ご両親といい、ふたりちゃんといい……顔面偏差値の高い一家だな。

 

「山田くんは、ひとりちゃんとはどういうきっかけで仲良くなったのかしら?」

「きっかけは入学式の日の放課後ですね。俺もひとりさんもバンド好きっていう共通の趣味があったので、俺から話しかけたんですよ」

「き、君から話しかけたのかい? ひとりに?」

「はい。最初の自己紹介でバンド好きってわかって、放課後にたまたま話す機会があったので、それで」

 

 全部紛れもない事実である。ただ、ご両親が想像しているような光景と、実際の光景にはかなりの差異があるけど、嘘は言ってませんよ。言葉の選び方ひとつで、こうも与える印象が変わっちゃうんだね。 

 

「じゃあ、ひとりちゃんが言っていた入学式の日にできたお友達って……」

「俺と……バンドメンバーの三人ですね。その日にみんなで一緒にお昼ご飯を食べて、ライブハウスに行って、ひとりさんがバンドに加入したので」

 

 今になって思い返してみると、入学初日からめちゃくちゃ濃いな。展開が怒涛過ぎる。漫画やアニメの第一話でもうもうちょい自重するんじゃないかな。

 

「き、君は本当にひとりのお友達なんだよね? その……レンタル彼氏的なものではなくて」

 

 パパさんがとんでもないことを言い出した。普通に考えたらものすごく失礼で相手にキレられても文句言えないセリフだけど、俺は腹を立てたりしない。

 

 むしろ、父親にそう思われてしまう後藤さんのこれまでの学生生活に深く深く同情し、目頭が熱くなったくらいだ。

 

「もう、お父さんったら失礼でしょ?」

「あ、ごめんね山田くん。気を悪くしないでほしいんだ。……あの子は、ひとりは……君もよくわかっているだろうけど、ちょっと人見知りが激しくて、中学を卒業するまでは周りにうまく馴染めなかったんだよ。それが、高校に入っていきなり……同性どころか異性の、しかも君みたいなものすごいイケメンの友達ができたって……そんな少女漫画みたいなことが現実に、ねえ……」

 

 パパさんの言うこともわかる。内気で人見知りが激しくてこれまで友達が一人もいなかった少女が入学式の日にクラス一のイケメンに声をかけられて友達になる。

 

 ……完全に少女漫画の第一話やんけ。これで他のクラスや他の学校のイケメンが二、三人出てきて後藤さんを取り合う恋のライバルになったら完璧だな!

 

 いやでも取り合う以前に後藤さんが他のイケメンとまともに会話できなくて死ぬか。

 

「ひとりさんだって、ものすごく可愛いじゃないですか。もう少し背筋を伸ばして、顔を上げて、前髪を短くすればいいのに。もったいないですよ」

「確かにひとりは───」

「そうなのよ!」

 

 パパさんの言葉を遮ってママさんが思い切り食いついてきた。

 

「ひとりちゃんは本気を出せば可愛いのよ! でも、あの子は人前に顔を晒すのを嫌がって、美容院に行くのも半年に一回とかで、それも気絶している内に切ってもらってて……前髪はもう少し上げた方が良いって私も言ってるんだけどね」

「内気な性格が災いしちゃってますよね。顔色も……色白だと言えば聞こえはいいですけど、割と頻繁に病的な白さになるので、顔色が良く見えるナチュラルなピンク系のメイクをするだけでも印象が大きく変わりますよ」

「お化粧も教えたいのだけど……あの子は嫌がるのよね」

「そこはバンドメンバーに任せてください。そういうのが大好きな人種が集まっていますので(姉貴以外)」

 

 喜多さんと虹夏ちゃんにお願いすれば喜んでやるだろうな。ついでにメイク用品も一通り揃えてもらえばいい。

 

「メイクで自分に対する印象が変わって、少しでも自信を持てるようになれば自然と姿勢も良くなって顔も上がってくると思いますよ」

 

 後藤さんに最も足りないのは自己肯定感だ。「自分は何をやってもダメだ」という気持ちが強すぎて、ギター以外には自信を持てない。そのギターも、ネット上では無敵でもいざバンドになるとその実力を十分に発揮できていなかった。

 

 でも、この一月で……前回の路上ライブと今回のライブ。少しずつ、本当に少しずつだけど成功体験を重ねてきている。その成功体験こそが、後藤さんが自分に自信を持つために一番必要なものなんだ。

 

 というようなことをご両親に丁寧に説明すると、二人は黙って俺の話を聞いてくれた。

 

「山田くん……君のご実家はアイドル事務所だったりするのかな?」

「いえ? 両親は医者ですけど」

「なるほど、そっちか(心療内科とか精神科に勤めるご両親。それなら納得だ)」

 

 パパさんにそう言うとなぜか深く頷いて納得した様子だった。……なんで?

 

「前髪については……目が見えないとどうしても暗い印象を与えちゃうので短くしてほしいですけど、あまり無理強いもしたくないので」

「そうなのよねぇ。でも、ひとりちゃんの目ってすごく綺麗な色をしているでしょ? だから隠しちゃうのはもったいないのよね」

「うーん……あんまり使いたくない手ではありますけど、褒めちぎって褒めちぎってちょっと調子に乗らせて勢いで切るっていう方法もあります」

「我に返った時のひとりちゃんのダメージがちょっと心配ね」

「ですよね。……前髪については保留ということで。これからもっと暑くなって鬱陶しいと思うようになるかもしれませんし」

 

 ちょっとでもそう思ってくれたら自然に誘導できるんだけどな。……というか、俺はあいさつに来たつもりだったのになんでこんなに真剣に後藤さんのご両親と一緒に、彼女について話し合ってんだろ。

 

 楽しいからいいけど。

 

「そういえば、この前ひとりちゃんがジャケットを買ってきたのだけど、あれは?」

「ああ。バンドメンバーでお出かけした時に古着屋で買ったんですよ。シックで大人っぽいデザインだから俺もかなり推して……」

「そうだったの。あのジャケット、ずいぶん気に入ってるみたいでバンドの練習に行くときはいつも着ているのよね」

「それならよかったです。……失礼ですけど、彼女は普段どんな私服を?」

「う~ん……あの子、自分で自分の服を買ったりしないのよ。だからいつも私が似合いそうなものを買ってきてあげるんだけど、一度も着てくれなくて……。通販で買った変なTシャツはよく着てるみたいだけど」

 

 変なTシャツってなんぞ? めっちゃ気になりますね。……まさか、あのクソダサバンドTシャツを家でも着てるってこと?

 

 俺はそう思っていたけど、かなり後になって彼女の部屋着を見る機会があり、ママさんの「変なTシャツ」という意味を深く理解することになるのだった。

 

「ちなみに、どんな服を買ってるんです?」

「こういうのなんだけど……」

 

 もしかしたら、ママさんのファッションセンスも後藤さん同様ぶっ飛んでて着るに着れないのかもしれない。と、思っていた時期が私にもありました。

 

「……これ、ママさんが選んだんです?」

「そうだけど、もしかして変だったりする?」

「いえ、逆です。びっくりするくらい可愛いものばかりだったので」

 

 ママさんがスマホで後藤さんのために買った服を見せてくれたけど、普通にセンスの良い可愛い系のものばかりだった。逆に大人びた服は少なかったけど……うーん、あのジャケットといい、もしかして後藤さんって大人びた服装の方が好きなのかな?

 

「服に関してもバンドメンバーと一緒に買いに行く機会を作りますよ。同世代の友達と一緒に買いに行って、自分で選んだものなら大丈夫かもしれませんし」

「本当? そうしてくれるとすごく助かるわぁ。あの子ったら高校生になったのに、全然そういうことに興味がなくって困ってたのよ」

「興味がないのも本当かもしれませんが、単純に服屋で店員さんに声をかけられるのを嫌ったのでは?」

「あら、よくわかったわね。実はそうなのよ。だから一緒にお買い物に行っても服屋さんには頑なに近寄ろうとしなくて……」

「ウチの姉も一人で静かに選びたいタイプですからね。その気持ちはわかりますよ」

 

 その後も俺は後藤ママと最近女子高生の間ではやっているファッションやメイクなどについて、熱く語り合うのだった。俺が詳しい理由? 虹夏ちゃんと姉貴の影響。

 

 それにしても、後藤ママめっちゃ話しやすいな。パパも普通に良い人そうだし、ふたりちゃんは明るくて天真爛漫だし。

 

 ……後藤さんは誰に似たんだ?

 

「おとーさん、仲間外れにされちゃったねー」

「最近の男子高校生は……みんなこうなのか?」

 

 いや、多分違うと思います。俺は姉貴と虹夏ちゃんの英才教育を受けているので。

 

「ねーねーレンくーん」

「どうしたの? ふたりちゃん」

 

 ふたりちゃんが俺のズボンをくいくい引っ張ってきたのでしゃがみ込んで視線を合わせる。

 

「ふたりもお化粧したらもっと可愛くなるかなー?」

「んー……ふたりちゃんは今のままでもとっても可愛いよ。だからお化粧するのはもうちょっと大きくなってからで大丈夫」

「ふーん……」

 

 七五三とか特別な機会にお化粧するのは良いと思うけど、あんまり早い時期から化粧をやり過ぎちゃうと肌荒れの原因になったりするからね。……その辺はママさんが上手くやってくれるでしょう。

 

「じゃあね、じゃあね」

「うん」

「ふたりとおねーちゃん。どっちがかわいーい?」

 

 あらー、これはまたずいぶんおませさんな質問ですね。……女の子は何歳でも「女」というわけですか。

 

 俺はそんなことを考えながら、心がほっこりと温かくなった。

 

「ふたりちゃんの方が可愛いよ」

「ほんとにー?」

「ほんとにー」

 

 ふたりちゃんが疑わしげな表情を数秒浮かべるも、すぐににぱーっという効果音が聞こえてきそうな純粋な笑顔になった。

 

「えへへ~。ありがとーレンくん! おねーちゃんに自慢してやろーっと!」

 

 ふたりちゃんはそう言って、クラスメイトや佐々木さん、女子大生に囲まれている結束バンドの面々の方へ走って行くのだった。

 

「おねーちゃーん! レンくんがねー! おねーちゃんよりふたりの方がいちまんばいかわいいってー!」

 

 一万倍とは言ってないよ一万倍とは!?

 

 さ、最近の五歳児は口が達者なんですね。お兄さんびっくりしちゃった。

 

「ひとりがあんなにたくさんの人に囲まれて仲良くしている光景を拝めるとはなぁ……」

「東京の学校に行かせてよかったわね」

「……中学時代までは、やっぱり?」

「中学時代どころか幼稚園の頃からよ。頻繁に『お母さんのお腹の中に戻りたい』って言ってたわ」

 

 幼少期からブレないな後藤さん。なんかもう……逆に安心するわ。

 

「あの、すごく失礼なことを聞いてもいいです?」

「遠慮しないで何でも聞いてちょうだい。ひとりちゃんのことでしょ?」

「まあ、はい」

 

 なんか、後藤ママが目をキラキラさせて俺を見てくる。……この目、喜多さんと同類だ! 多分後藤ママもシイタケみたいな目になれるに違いない!

 

「ひとりさんの性格は、ご両親のどちらにも似ていないように思えるんですけど……何かきっかけがあったり?」

「ああ、ひとりちゃんはね。私のお母さん……つまりあの子のおばあちゃんにそっくりなのよ。隔世遺伝ってやつね」

「なるほど、おばあちゃんも内向的なところがあるんですね」

「内向的なんてもんじゃないわよ~。物事を何でも極端なマイナス方向に考えちゃって、ことあるごとに首を吊ろうとするんだから」

「病院に連れて行きましょう! ね!?」

 

 それもう精神病とかそっちの類じゃん! よく「おばあちゃん」って呼ばれる年齢まで生きてられたな! 多分、おじいちゃんがものすごく優しくて面倒見が良くて理解のある人だったんでしょう。……後藤さんにもそんな人が見つかれば───

 

 そこで俺は気付いた。気付いてしまった。

 

 現時点で該当してるの俺やんけ!?

 

 ……まあ、あくまで現時点でだしね。俺も後藤さんも今のところお互いに対して、そういう感情は持ってないし。意識するのも馬鹿らしいな。

 

「ぼっちちゃんのお父さんとお母さんですよね? はじめまして! ぼっちちゃんと一緒にバンドを組んでいる伊地知虹夏です!」

「喜多郁代です! ひとりちゃんとは違うクラスだけど、お昼休みに一緒にお弁当を食べたりして仲良くしてもらっています!」

「山田リョウです。娘さんの才能に誰よりも早く気付き、娘さんが最も尊敬している先輩です」

 

 みなさんに問題です。この中に大嘘をついている人がいます。正解した方に抽選で大槻先輩のハグ券を差し上げます。

 

「あらあら~。みんなご丁寧にありがとう。ひとりちゃんにこんなに可愛いお友達がたくさんできて嬉しいわ~。今度、ぜひお家に遊びに来てちょうだいね? 歓迎するわ」

「はーい! 絶対遊びに行きまーす!」

 

 虹夏ちゃんが元気よく答える。片道二時間かかるけど、連休とか使えば問題ないでしょう。最悪、あっちでビジネスホテルでも取れば良いし。

 

「あれ? どうしたの後藤さん」

「か、家族がお友達とお話してるのって……なんか気まずいです……」

 

 気が付けば後藤さんが俺の後ろに隠れるようにぴったりとくっついて俺の服を掴んでいた。わかるわーその気持ち。別に悪いことしてる訳じゃないのに、なんかこういたたまれないというか……気恥ずかしさがあるよね。

 

「でも、友達ができたからこそ、だよね」

「そ、そうですね。えへへ……こんな気持ちになったの、初めてだから……。嬉しい半分恥ずかしい半分、です」

 

 後藤さんは恥ずかしそうにふにゃふにゃ笑っていた。そういえば、今日はライブの後なのにちゃんと自分の足で立ってるね。偉い偉い。

 

「ねーねーレンくん」

「どうしたの、ふたりちゃん?」

 

 いつの間にか足元にいたふたりちゃんが俺のズボンをくいくいと引っ張る。

 

 この姉妹は俺の服をやたらと引っ張りたがりますね。

 

「あそこにいるお姉ちゃんがレンくんのこと怖い目で見てるよ?」

 

 あっ……やべえ。大槻先輩をずっと放置してた。後藤家へのあいさつに夢中になってました。マジでごめんなさい! 俺が両手を合わせて心の中で全力で謝ると、大槻先輩は「しょうがないわねぇ」といった呆れた表情の上に笑顔を浮かべていた。

 

 良いタイミングだし、大槻先輩のことも紹介するか。

 

「後藤さん、ちょっとごめんね?」

「え? ……あ、はい」

 

 俺の服を掴んでいる後藤さんに一言断りを入れて俺は大槻先輩の方へ向かう。ちょっと! 後藤さん、そんな悲しそうな顔しないで! 後ろ髪めっちゃ引かれちゃうから!

 

「虹夏ちゃーん! みんなー! ちょっとこっち来てー! 紹介したい人がいるからー!」

 

 俺がそう呼びかけると結束バンドの面々が俺の方、つまり大槻先輩と廣井さんがいる方に集まってくる。

 

「ご紹介します。こちらは新宿FOLTを拠点に活動している、あのSICKHACKのリーダーでありベースボーカルの廣井きくりさん」

「よろしく~。初々しい演奏だったね~。昔の自分を思い出したよ~」

 

 廣井さんは相変わらず舌っ足らずな声色でパック酒を片手にへらへらとあいさつをする。

 

「君、山田少年のお姉さんだよね? しかも私と同じベーシスト。私のファンだって聞いたよ~? これから仲良くしようね~」

「何度もライブ観に行きました。顔面踏まれたのは良い思い出です」

「でしょでしょ~? それなのに山田少年は私に冷たい態度をとるんだ~。今日だって私を誘ってくれなかったんだよ?」

「レン、酷い。廣井さんに謝って」

「……ごめんなさい」

「ふっふっふ。気にするな少年。心のひろーい廣井お姉さんが許してやろう。あ、ここ笑うところね~」

 

 廣井さんが自分でくっそおもんないギャグを言って自分だけで笑っている。大槻先輩でさえ「あはは」っていう愛想笑いしかできていなかった。

 

「リョ、リョウ先輩の憧れの人……? つ、つまり私が目指すべき姿はあれ? 次のライブ、私も泥酔した状態で歌えばあの人のようになれるかしら?」

「お? いいね~君。素質あるよ~! ロックなんて世間に逆らってなんぼじゃん!」

「じゃ、じゃあ……」

「ダメだよ喜多ちゃん! 戻ってきて! ベーシストは演奏技術以外は何も……何一つとして参考にしちゃいけない類の生き物なんだ! 喜多ちゃんはまだ……まだ間に合うからそっちの道に行っちゃダメ!!」

「に、虹夏先輩……」

「あ~。君が先輩の妹か~。うへへ~、先輩と違って可愛い顔立ちをしてるねこの子~」

「……どうも」

「おい廣井。それ以上虹夏に近づくな。出禁にするぞ」

 

 星歌さん直々にストップが入る。残念ながら当然である。俺は薄々思っていたんだけど、もしやこの廣井きくりという女は……俺の姉貴をも超えてしまう逸材ではないのか?

 

 いやよそう。姉貴で手一杯なのにこれ以上面倒な女の知り合いが増えてたまるか!!

 

「そして君がぼっちちゃんだね。───君の演奏、素晴らしかったよ」

「あ、は、はい。あ、りがとう……ございます」

 

 そして廣井さんは後藤さんと向かい合って彼女に声をかける。これまで聞いたことのないほどの真面目なトーンで。

 

 ……そんな真剣な声も出せるんですね廣井さん。ちょっとだけ見直しましたわ。ちょっとだけ。

 

「あとでお姉さんとイイコトしようか♡」

「はえっ!?」

 

 前言撤回。見直したなんて嘘です。後藤さんに変なこと教えようとしたらただじゃおかないからな。

 

「はい注目。もう一人紹介したい人がいます。こちらにいるのは───って先輩?」

 

 何やってんすか? さっきの後藤さんみたいに俺の後ろにくっつくように隠れて。また人見知りを発動させたんですか?

 

「(な、名前は出さないでちょうだい!)」

「(なんでですか?)」

「(なんでもよ! いいから言う通りにして!)」

 

 どれだけ恥ずかしがり屋さんなんですか? 活動を続けていれば、遅かれ早かれSIDEROSとは出会うことになるんですから。

 

 でも、お願いされたなら仕方ない。本名は出さない方針でいきましょう。

 

「こちらにいらっしゃるのは俺が尊敬する───つっきー先輩です。みんなも気軽につっきーと呼んであげてください」

「(つっきーって何よ!?)」

「レンくんが色々お世話になったみたいだね。これからよろしく、つっきーさん」

「レンくんに尊敬されるなんて……きっとものすごい人格者なのね。仲良くしましょうつっきーさん!」

「よろしく、つっきー。……どこかで会ったことある?」

「つ、つつつつっきーさん。(い、一向に目を合わそうとしない。もしかして私と同類かも……ちょっと親近感。でも、山田くんにあだ名で呼ばれるくらい仲良しなんだね……)」

「(み、みんな優しい……結束バンド、悪くないかも……)」

 

 ちょっと大槻先輩の目がキラキラしてきた。あだ名で呼ばれて嬉しかったんだね。ちょろ可愛くて不安になるよ。というか姉貴、こういうところはほんとに鋭いな。その鋭さと頭の回転の良さはもっと違うところで発揮して?

 

 ちなみに廣井さんは俺が「しーっ!」ってジェスチャーしたから黙っています。

 

「えー、ちなみにこちらがつっきー先輩による結束バンド全体の総評プラス個人へのアドバイスになります。俺が一言も聞き漏らさずに書いた貴重なご意見なので、心して見るように」

「(は、恥ずかしいからあんまりそういうこと言うのやめなさいよ!)」

「御覧の通り、つっきー先輩はちょっと人見知りなところがあるので、距離の詰め方に気を付けつつ仲良くしてあげてください」

「(だから保護者みたいなこと言うな!)」

 

 だったら俺の後ろに隠れながら顔だけ出すんじゃなくてちゃんとあいさつしてください。ほら、後藤さんが「同類を見つけた」って顔してますよ。

 

「す、すごい……みんなの良かった点と悪かった点をものすごく細かく分析してあるよ!」

「腹式呼吸……全然意識したことなかったわ。これから毎日やらなくちゃね!」

「……参考になる」

(わ、私個人へのコメントが他のみんなに比べて少ない……。そ、そんなに印象に残らないほどダメだったのかな?)

 

 評判は上々。大槻先輩は俺の後ろでビクついていたけど、みんなの反応に安心したようです。後藤さんはなぜかちょっと悲しそうだったけど……絶対変な勘違いしてるな。後でフォローしておくか。

 

「今回だけではなく、以前も俺に電話で非常に有用で献身的なアドバイスをくださいました。みんなしっかりお礼を言いましょう。せーのっ!」

「ありがとうつっきーさん!」

「ありがとうございました!」

「あざます」

「あ、あああありがとうごじゃいましゅっ!」

「結束感全然ないわねっ!」

 

 あ、大槻先輩が思わずツッコんだ。その反応を見て、虹夏ちゃんと喜多さんはきゃっきゃと喜んでいました。距離が縮まった感じがするよね。嬉しいよね。先輩は自覚した瞬間に顔を赤くしてまたすぐに俺の後ろに隠れちゃったけど。

 

(レンくんが甘やかすタイプだ)

(レンくんの庇護欲センサーに引っかかる人ね)

(もっとおっぱいが大きければ即死だった)

(や、山田くんの後ろは良い匂いがして安心しますよね。す、すごくわかります!)

 

 こうして、結束バンドと大槻先輩の初会合は心温まる優しい空気のまま終わりました。

 

 と、言いたかったんだけどね。

 

「───ぼっちちゃん」

 

 ここで、今まで不自然なほど静かだった女───廣井きくりが動き出す。

 

「お姉さんと───セッションしようか?」

 

 ……ぼっちちゃんときくりおねーさんがセッ〇〇〇するらしいです。




 まだSTARRYから出られません。
 きくりのせいでもうひと悶着あります。

 後藤一家とも心温まる交流ができましたね。初めてのご挨拶にしては上出来だったと思います。

 時系列的にはアニメの第一話ですが、この時点で喜多ちゃんがいてギターヒローバレしててヨヨコ、きくりと遭遇してファン一号、二号がいて後藤一家がいてささささんがいて……

 詰め込みすぎだろ。欲張りセットにもほどがある。

 次回でSTARRYでの初ライブ編は終わります!

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