【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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きくりお姉さんのカリスマ回!



#17 アンサー

「せ、セッション……ですか?」

「そう。私とぼっちちゃんとで、ね? あ、君~。ちょっとベース貸してくれない?」

「どうぞ」

 

 廣井さんがこれまでの会話の流れとか空気とかを全てぶった切って、いきなりとんでもないことを言い出した。何がしたいんだ、この酔っ払いは。姉貴も姉貴で躊躇いなくベースを貸してるし。後藤さんは突然のことで戸惑ってるし。

 

 そもそも、後藤さんとセッションすることに何の意味が───

 

 いや待てよ……。意味ならあるな。

 

「先ぱ~い。ちょっとの間だけ機材とステージをお借りしてもいいですか?」

「は? それなら金払え」

「え~! 先輩のケチ~。……お金あったかな?」

 

 星歌さんの冷たい言葉に、廣井さんはポケットを漁って財布を探している。

 

「三百円しかない……」

「さっさとお帰りやがれください」

「ひど~い! 可愛い後輩を助けようっていう気概はないんですか~?」

「ない」

 

 星歌さんマジで塩対応。まあしゃーない。本来なら片付けして閉店する時間だしな。というか、二人は先輩と後輩って間柄らしいけど、いつの関係だ? 高校? 大学? それとも二人がバンドを組んでたとか? 今度聞いてみよう。

 

 それよりも今は、星歌さんにお願いしたいことがある。

 

「いいんじゃないですか。少しくらい。何なら俺がお金出しますよ」

「山田少年……」

 

 廣井さんが目を輝かせてるけど、あなたのためじゃないですからね?

 

「は? お前、どういう風の吹き回し……」

「(これ以上駄々こねられるのが面倒っていうのもありますけど、それ以上に結束バンドのためですよ)」

 

 星歌さんが不思議そうな顔をしていたので、俺は他の人に聞こえないように星歌さんにそっと耳打ちする。

 

「(現状を正しく理解するなら、良い機会じゃないですか?)」

「(お前……結構鬼だな。それで心が折れたらどーすんだよ)」

「(傷が浅い内に諦めるのは決して悪いことじゃないです)」

 

 俺の一言で星歌さんは俺の考えを察してくれたらしく、困ったような呆れたような表情をしている。でも、この人はなんやかんや身内には甘いからな。俺のお願いを聞いてくれるはず。

 

「しゃーねーな……一曲だけだぞ?」

「いえーい! 先輩太っ腹~! さあ、いくよぼっちちゃん。私とのExtraステージだ!」

「はえ? あ、お、お姉さん……! ちょ、ちょっと……!?」

 

 廣井さんが強引に後藤さんをステージへと連れて行く。普段なら初対面の人にそんなスキンシップをされたら即死するんだけど……意外とがんばってる。廣井さんにシンパシーでも感じたのかな? 

 

 廣井さんも後藤さんの過去に強く共感してたみたいだし。案外、似ている部分はあるかもしれない。……絶対に後藤さんをアル中にはさせないけど。

 

「店長はレンに甘い」

「お前と違って真面目で有能だからな」

「レンが枕営業したんだ。そうに違いない」

「シバくぞ」

 

 姉貴が余計な一言を言ったせいで星歌さんにコブラツイストをかけられている。何が枕営業だよ。星歌さんとそんな関係になってみろ。虹夏ちゃんに一生口きいてもらえなくなるわ。そんなん耐えられんよ。

 

「山田、どういうつもりよ? 姐さんと後藤ひとりをセッションさせるなんて……」

「気になりませんか? インディーズでも上澄み中の上澄みであるSICKHACKのリーダーと、メジャーに手が届くかもしれないギタリストの競演って」

「それは、気になるけど……」

 

 大槻先輩は不満そうにほっぺたを膨らませている。わかりやすく嫉妬してるなーこの人。「私の姐さんが取られた!」って思ってるんだろうな。愛い愛い。

 

 まあ、さっき星歌さんに言った通り俺の狙いはそれだけじゃないけど。

 

「じゃあ、やろうかぼっちちゃん。どうなっても()()()()()()からさ。君の本気、見せてよ?」

「え? ……あ、はい」

 

 後藤さんは不安そうな表情を浮かべて俺を見てきた。……うん。後藤さん視点だと、廣井さんってただの酒臭いお姉さんだからね。色々不安……というか疑っちゃうよね。それは仕方ない。でも、廣井さんの実力は俺が保証しよう。そこに関しては何の疑いも持ってはいない。

 

 俺は後藤さんを安心させる意味も込めて、笑顔で頷く。それを見て彼女は、数秒間目を閉じて深呼吸した。

 

 そして───

 

 選んだのは、今日のライブで演奏した一曲目「天体観測」

 

 初心者向けの曲という人もいるけど、俺はそうは思わない。特にベースに関しては。この曲は……姉貴の影響もあるかもしれないけど、ベースラインが結構動く曲だからギターよりもむしろベースに注目すべきだ。

 

 後藤さんも、それを理解しているからこそこの曲を選んだのだろう。

 

 半信半疑。後藤さんは廣井さんの実力を疑っていた……だから、それを確かめるための選曲。そして、演奏が始まってわずか十秒ほどで後藤さんの顔色が変わる。

 

(このお姉さん……す、すごい。私と合わせるの、初めてなのに……ちゃんと、私の演奏を支えてくれているっ!)

 

 本気になった。

 

 半信半疑で、演奏が始まってすぐは遠慮がちだった後藤さんが本気になった。つまりそれは、廣井さんが相手なら本気を出しても大丈夫だという信頼。

 

 いつも彼女は、バンドメンバーに合わせることばかりを考えていた。もちろん、逆に彼女の本気に他のメンバーが合わせるという練習も取り入れてはいる。

 

 だが、廣井さんは───廣井きくりというベーシストは……そんな合わせの練習が必要ないほど、ぶっつけ本番で後藤さんの全力を引き出し、尚且つ彼女を支える演奏ができるほどの実力の持ち主。

 

「ぼっちちゃん……」

 

 虹夏ちゃんが小さく呟いた。その表情には、喜び、驚き、寂しさ……色々な感情がごちゃ混ぜになっている。姉貴も、顔には出ていないが虹夏ちゃんと同じか、あるいはそれ以上に複雑な心境だろうな。

 

 廣井さんが、自分と同じベーシストで、その実力の差を思い知らされたから。

 

 喜多さんは、ただただ驚いている。今後自分がギターボーカルとして……後藤さんと同じギタリストとして肩を並べなくちゃいけない。その事実を、あらためて認識しているみたいだ。

 

 この場にいるのが関係者の俺達だけでよかった。一般のお客さん達は、片付けもあるから先に帰ってもらっている。……こんな演奏、こんな彼女達の姿は、他の人達には見せられない。

 

 人によっては酷だと言うだろう。バンドを結成したばかりの、それも精神が未熟な少女達に突きつける現実ではない、と。時期尚早だと。

 

 俺だって、この子達がただ毎日楽しく学生バンドとして活動するだけなら廣井さんの提案を断っていた。でも、少なくとも……四人のうち二人は上を目指すということを目標としている。

 

 だからこそ、現実を突きつける。君達が戦おうとしているのは、そういう世界だと。その世界の一端を垣間見て、どう感じるか。

 

 心が折れて別の道を行くか。奮起して茨の道を進み続けるか。

 

 どちらも正解だ。

 

 あとは、選択するだけ。そして、この二人の演奏は、バンドとしての方向性を全員が本気で考えるきっかけには十分すぎる。

 

 そこまで考えて俺は、星歌さんにお願いしてまで廣井さんの提案を受け入れたんだ。

 

 星歌さんに鬼って言われちゃったけどね。もしかしたら「余計なお世話だ」ってみんなに嫌われるかもしれない。それでも、みんなが後悔のない道を選択できるなら……

 

 あ、でもやっぱ辛い。せっかく仲良くなったのに、明日から後藤さんに教室でめっちゃよそよそしくされたら泣きそう。

 

「ありがとうぼっちちゃん───最高だったよ」

「あ、こ……こちらこそ、ありがとうございます」

「君の演奏には、人の心を動かす力がある。だから、胸を張りな」

「は、はいっ……!」

 

 いつの間にか演奏が終わっていた。後藤さんは廣井さんの言葉に背筋を伸ばして、真っ直ぐに目を合わせて返事をする。

 

「君も、ベースありがとね。よくメンテナンスされている。大事にしているのが伝わってきた。良いベースだね」

「ありがとう、ございます」

「実力的には、君がぼっちちゃんに一番近い。でも、あの子を支えるにはまだまだ足りない。精進するように」

「……はい」

 

 廣井さんは姉貴にベースを返し、無表情で受け取った姉貴に優しく笑いかけてそう言った。

 

「君は、ボーカル専属なのかな?」

「いえ、ギターも練習している最中で……」

「なるほど。フロントマンで、しかもギターもやるならその負担はボーカル専属の比じゃない。ギターも初心者なら、周囲との技術的な差を痛感することはこれからいくらでもあると思う。……でも、腐るなよ? おねーさんも同じフロントマンだから気持ちはよーくわかる。困ったら連絡しておいで。相談くらい乗るからさ」

「は、はい。ありがとうございます」

 

 ……この人、本当に廣井さんか? 演奏前までと別人やんけ。俺の隣にいる大槻先輩も唖然とした表情を浮かべてるし。

 

「君はもっと自分を出して、我儘になった方がいい。バランスを取ることだけがドラムの仕事じゃないよ? リーダーだから、色々と気を遣わなきゃいけない部分も多いだろうけど、君のその優しさは、武器にも弱点にもなりうる。どんな状況でも自分を主張することはやめないでね」

「わかりました。アドバイス、ありがとうございます」

 

 廣井さんの言葉に虹夏ちゃんは丁寧に頭を下げた。

 

 やっぱり、こういう人に直接言葉をかけてもらうのが一番()()

 

 実力も、経験もある人間。成功体験を、無数の失敗を繰り返し、数多の辛酸をなめてきたに違いない。

 

 これが、SICKHACKの廣井きくりか。彼女クラスの実力でないと、後藤さんのフルパフォーマンスを活かすことはできない。

 

 ……そんな彼女達がインディーズに留まっているという現実に、戦慄する。どんだけ魔境なんだよこの世界は。

 

「じゃあ、帰ろうか大槻ちゃん」

「は、はい。姐さん」

 

 あ……今普通に本名で呼びましたよね。ま、まあこれだけで大槻先輩の正体に気付く人はいないでしょう。みんなそれどころじゃないだろうし。

 

「がんばりなよ結束バンド。()()()()()も楽しみにしてるから」

 

 それだけ言って廣井さんは、大槻先輩を伴って颯爽とライブハウスから去っていく。最後の最後でカリスマを発揮していったなあの人。大槻先輩が慕っているだけはある。

 

 常時あんな感じだったらもっと尊敬できるんだけどね。

 

 さーて、あとは結束バンドの面々だけど……

 

 空気が重いなぁ~。まあ、仕方ない。目の前であんな演奏を見せられたら、そりゃあそうなるよ。後藤さんは状況をよくわかってないみたいでオロオロしてるし。

 

 ただ、きっかけを作ったのは俺だしな。責任はちゃんと取りますよ。

 

「とりあえず、今日はもう遅いし解散したら? 各々話したいことをしっかりまとめて明日のミーティングで全部話すってことで」

「あ、うん……そうだね。みんな、明日も学校が終わったらSTARRYに集合だよ! 結束バンドのこれからについての大事なミーティングをやるからね!」

「おけ」

「わ、わかりました!」

「は、はい……」

 

 虹夏ちゃんがそう言うと三人はしっかりと返事をする。今日この後すぐに話し合うなんて時間的にも精神的にも無茶だしね。各々、考えを整理する時間が必要だ。

 

「後藤さん、時間大丈夫? ご家族が待ってるんじゃない?」

「あ、そ……そうでした。あ、あの……お、お先に失礼しますっ……!」

「ぼっちちゃんお疲れ~。また明日ね~」

「ぼっち、ばいばい」

「じゃあね、ひとりちゃん」

「は、はい。また……明日」

 

 後藤さんはペコペコと何度も頭を下げて足早にSTARRYから出て行った。引き止めちゃって申し訳なかったな。遠くからわざわざご家族が来てくれてたのに。

 

「姉貴、先帰ってていいよ。俺は片付け手伝ってから帰るから」

「待ってる」

「じゃあ手伝え」

「やだ」

 

 そう言って姉貴は椅子に座ってテーブルにだらしなく上半身を投げ出していた。さすがの姉貴も今回のことは堪えたか。……帰ったらちょっと優しくしてやろう。

 

「それじゃあ、私もお先に失礼しますっ」

「喜多ちゃん、気を付けてね~」

「はーい。お疲れ様でしたー!」

「おつ」

 

 喜多さんも明るく振舞いながらSTARRYから出ていく。今夜、一番悩むのは彼女かもしれないな。技術的な面で、一番劣等感を感じているのは喜多さんだろうし。

 

「レンくん」

 

 廣井さんが最後に使った機材を運んだりしていると、虹夏ちゃんが声をかけてきた。

 

「ありがとね」

 

 虹夏ちゃんが笑顔でお礼を言ったことに、俺は思わず安堵してしまった。

 

「嫌われてもおかしくないことしたよ?」

 

 当てつけみたいに廣井さんと後藤さんをセッションさせたし。

 

「……あたしがレンくんを嫌いになることはないよ。ぜーったいに」

「なんか重くない?」

「えへへ~」

「可愛く笑って誤魔化そうとしない」

「だってほんとのことだもーん」

 

 「だもーん」じゃないよ「だもーん」じゃ。虹夏ちゃんって、幼馴染には何してもいいって思ってる節があるよね? まあ、俺は虹夏ちゃんになら何されても大概受け入れるけどさ。

 

「レン、お腹空いた。早く帰ろう」

「だから先帰っていいって言ったのに」

「弟が変な女にたぶらかされないか見守るのが姉の役目」

「はいはい」

 

 姉貴がうるさいのでさっさと片づけを終わらせて帰ります。明日も普通に学校あるし。……姉貴、ちゃんと宿題やってるんだろうな?

 

「星歌さん、今日はわがまま言ってすみませんでした。明日もよろしくお願いします」

「……気にすんな。気を付けて帰れよ」

「はい。……虹夏ちゃんも、また明日」

「うん。じゃあね! ……リョウ、宿題ちゃんとやってくるんだよ」

「今日の晩御飯は何かな?」

「聞けっ!」

 

 そして俺達は伊地知姉妹にあいさつをしてSTARRYをあとにする。姉貴に優しくしようとは思ったけど、宿題は手伝わないからな。

 

「それにしても……」

 

 帰り道、しばらく会話もなく黙って歩いていたら、姉貴が神妙な面持ちで話を切り出した。シリアスなのは表情だけで絶対アホなことを言うに決まってる。俺にはわかるんだ。……でも、何を言い出す気だこいつ。

 

「レンが───大槻ヨヨコとまで知り合いだったとは」

 

 完全にバレとるやんけ!? これも全部廣井きくりって女のせいなんだ!

 

 結局俺は、口止め料としてコンビニでハーゲンダッツを買わされることになるのだった。

 

 あんなことがあったのにどこまでもブレない姉貴に安心したよ。はい。

 

 

 

 

「おほん! それでは、今日は昨日言った通り結束バンドの今後について話し合いたいと思います」

 

 翌日、いつものように放課後にSTARRYに集まった結束バンドの面々は、虹夏ちゃん主導の下でミーティングを行う。

 

「あたしは……この結束バンドで絶対に叶えたい夢がある。だけど、あたしは自分の夢を他の人達にまで強要するつもりはないんだ。……それでも、みんなにはあたしの話を聞いてほしい。そしてその上で、みんなの本音を聞かせてほしい」

 

 虹夏ちゃんがメンバー達に静かに語り始めるのを、俺は少し離れたところで見守っていた。

 

「お前は参加しなくてよかったのか?」

「いや、俺が参加する意味はないでしょうよ」

「あの状況になったのは、ある意味お前が原因でもあるんだけどな」

「廣井さんは良い仕事をしましたね。後藤さんの本当の実力を引き出す基準を結束バンドのみんなが体感できたんですから。できるできないは別として……知っているのと知らないのとでは大違いですよ」

 

 俺はカウンターで仕事をしている星歌さんの隣に座りながら、結束バンドの様子を眺めている。会話内容が全部聞こえてくるわけではないけど、みんな真剣に虹夏ちゃんの話を聞いているみたいだった。

 

「まだ早いと思うんだけどな。……もうちょっと、バンドとして活動して楽しんでからでもよかったろ」

「星歌さんの言うことも一理あります。ただ、活動が長引いて仲が深まれば深まるほど傷も大きくなるでしょ?」

「そうだけどさぁ……。やっとメンバーが集まって、虹夏が夢に向かって走り出そうとしたときに『やっぱりやめます』って子が出てきたら……それはそれでめっちゃキツイだろ」

「その時は……ちゃんとメンタルケアしますんで星歌さんも協力してください」

 

 実際、その可能性は十分にありえる。姉貴は問題ないとして、後藤さんと喜多さん……特に喜多さんだ。あの子は、姉貴に憧れて嘘をついてまでバンドに加入した経緯があるっていうところだけ見ればめちゃくちゃやべーヤツだけど……それ以外は普通の陽キャ女子高生だ。

 

 彼女のご両親だってバンド活動に理解があるとは限らない。さらに技術的にも一番拙い状態でフロントマンを務めるというプレッシャー。あの子が一番、虹夏ちゃんとの熱量に差があってもおかしくはなかった。

 

 後藤さんは、なんやかんや大丈夫だと思う。中学時代に一日六時間も練習していた熱意、実力。バンドに対する思いも強い。

 

 問題は実力が飛び抜け過ぎていることだ。

 

 ぶっちゃけ、他のレベルの高いバンドに放り込んだ方が彼女は大成功を収める可能性が高い。……彼女が極度の人見知りとコミュ障でなければ。

 

 もしも彼女が、それこそ喜多さん並みの陽キャだったら結束バンドには加入していなかっただろうな。

 

「この前も、虹夏のこと色々と気にかけてくれてたろ?」

「それなりに長い付き合いですからね。がんばり屋さん過ぎるところが心配です。根っこは普通の優しい女の子ですから」

「お前が虹夏を貰ってくれたら私も安心なんだけどな」

「ごめんなさい星歌さん。俺、今度こそ年上の優しい巨乳お姉さんと付き合って甘やかされるって決めてるんです」

「まだその野望を諦めてなかったのか」

 

 虹夏ちゃんだって夢を諦めてないでしょ? それと一緒です。いや、一緒にしたらさすがに虹夏ちゃんが怒るか。

 

「虹夏だってこれから成長するかもしんないだろ」

「虹夏ちゃんが巨乳とか解釈違いもいいところ。どうかあのままちんちくりんであってほしい」

「ぶん殴られるぞ?」

「それに、俺は虹夏ちゃんには自分の胸が小さいことを気にしててほしいんです。それで、いざ体の関係を持つ場面で彼氏に『小さくてごめんね』って恥ずかしさと申し訳なさが混じった表情をしてほしい」

「お前やっぱりリョウの弟だわ。間違いない」

「星歌さんは虹夏ちゃんよりもご自分の心配をされた方がよいのでは?」

 

 俺が怪しく笑ってそう言うと、星歌さんに頭をぐりぐりされるのだった。星歌さんもなー、美人さんなんだけど彼氏がいないんだよな。もったいない。

 

「料理の練習、しましょうか」

「喧嘩売ってんのか?」

「でも虹夏ちゃんが家を出ることになったら自分で作んなきゃいけないんですよ?」

「……料理ができる男を探せばいい」

「それ以外の家事も虹夏ちゃんに任せてますよね?」

 

 俺の指摘に星歌さんはプイっと顔を逸らした。まずいな……前々から思ってたけど、星歌さんから行き遅れダメ女臭がプンプンする。でも、星歌さんに紹介できるような男の知り合いなんて……新宿FOLTの吉田店長? 色々と濃い組み合わせだな!

 

「二人で何のお話してるんですかぁ?」

 

 可愛らしい声が聞こえてきたかと思うと、PAさんが後ろから俺の両肩にポンと手を置いて会話に入ってくる。

 

「星歌さんにどうすれば彼氏ができるのかという話です」

「店長に彼氏ですか? ……女子力を磨くしかないのでは?」

「ほら、PAさんも俺と同じ意見ですよ」

「家事は女の仕事っていうのは古い考え方だ。そんな悪しき風習にとらわれている男なんてごめんだね」

「それは家事ができる人のセリフであって、できない人が言っていいことじゃありませんよ~」

 

 PAさんの言葉のナイフに星歌さんは胸を押さえて苦しそうな表情をする。正論は人を傷つけますね。

 

「PAさんはお料理できるんですか?」 

「も、もちろんできますよ~。と、得意料理は肉じゃがです」

 

 めっちゃ嘘っぽい。あ、でもなんだろう。美人で優しくておっぱいが大きい年上のお姉さんのちょっとダメなところ……ま、まさか……俺の甘やかしセンサーがPAさんに対して反応しているのか!?

 

「嘘つけ。お前いつもコンビニ弁当だから胃と肌が荒れるって嘆いてたろ」

 

 さっきの正論殴りによる意趣返しなのか、星歌さんの言葉を聞いてPAさんが後ろで「うっ」と呻いていた。

 

「レンく~ん。店長がいじめてきます~」

 

 そしてPAさんは何を思ったのか、俺の両肩に置いていた手をそのまま首に回し、後ろから俺を抱き締めて耳元で甘く囁いてきた。

 

 PAさん、めっちゃおっぱい当たってるんですけど。そんなことされたら好きになりますよ。いいんですか?

 

「あ! お前そーやってレンに色目使いやがって……。犯罪だ犯罪! もしもし警察ですか? 不純異性交遊に走ろうとしている女がいてですね……」

「星歌さん、パワハラですよ」

「お前そいつの味方すんのかよ!?」

 

 PAさんがくすくす笑ってる。吐息が耳に当たってくすぐったいですよ。

 

 それにね星歌さん。PAさんの味方するって……当然でしょ。男はおっぱいに勝てない生き物なんだ。

 

 年上の美人な巨乳お姉さんに抱きしめられて微塵も劣情を抱かない男だけが、私に石を投げなさい。

 

「年上のお姉さんに甘やかされたいって常々思っていましたけど……そういう人を甘やかすのも乙なものですね」

「お前、リョウのせいで色々拗らせてんな……」

 

 結束バンドが真剣にミーティングしている一方で、俺は年上の美人なお姉様達といちゃいちゃしていました。PAさんのおっぱいは大きくて柔らかくて気持ちよかったです。

 

 

 

 

「店長っ……店長……!! 私……感動しましたっ!! 虹夏先輩のために、バンドを抜けてこのSTARRYを作ったんですね……!! 涙が、涙が止まりばぜんっ!!」

「はぁ!? ばっ、ち、ちげえし!! 誰が虹夏のためだ!? 私は自分のライブハウスを持ちたかったから作ったんだよ!! 変な勘違いすんな!!」

 

 ミーティングを終えた結束バンドが俺達の方へやってくるや否や、喜多さんは涙で顔面をぐしゃぐしゃにしながら星歌さんに抱き着いていた。

 

 虹夏ちゃん……全部話したのか。

 

「私、もっともっとがんばりますっ!! 結束バンドでメジャーデビューして有名になって、このSTARRYを日本一のライブハウスにして店長を胴上げします!!」

「最後の胴上げは全く意味わかんねえよ!? 日本シリーズじゃねえんだぞ!!」

 

 胴上げはともかくとして……喜多さんがああ言ってるってことは、つまり───

 

「結束バンドは───本気でメジャーデビューを目指すよ」

 

 虹夏ちゃんは俺の目を見て力強くそう宣言した。

 

 なるほど、全員の意思は共有できたということだね。

 

「私はバンドでしか食っていけないし食っていくつもりもない。最悪の場合は虹夏かレンに世話してもらう」

「ふざけんな。てめーの世話なんか絶対してやらないからな」

(お世話しちゃうんだろうなぁ……)

(お世話するわね……)

(お、お世話する。絶対に)

 

 なぜか結束バンドの姉貴を除く三人が気の毒なものを見るような目で俺を見てくるのだった。なんでや。

 

「ぼっちの夢は売れて高校中退」

「え!? 後藤さんそんなこと考えてたの!?」

 

 どれだけ学校嫌いなんだ!? その夢はちょっと……応援できない。せめて高校は卒業しよう! 大学進学までは無理強いしないからさ。

 

「あ……え……あ……」

「学校辞めたら、せっかくできた友達と会えなくなるよ?」

「そ、それは……ちょっと嫌かも……」

「それに、現役女子高生バンドがメジャーデビューして人気バンドになって……俺達の卒業式のための曲を作ってサプライズで卒業式ライブやるのって最高に格好良くない?」

「!!」

 

 後藤さんの顔が上がった。

 

「下級生の『後藤先輩! 握手してください』とか『サインください』っていう長蛇の列ができるかも……」

「!!!」

「なんならテレビ局の取材が来たりして……」

「!!!!」

「後々情熱大陸とかのドキュメンタリー番組で感動エピソードとして語られるかも……」

「!!!!!」

 

 後藤さんの目が大きく見開かれる。な、なんか今まで見たことがないくらい表情がキラキラ輝いてるね。

 

「卒業します」

「ぼっちちゃんが夢の半分をあっさり諦めた」

「さすがレン。ぼっちの心をくすぐるポイントをよく抑えている」

「レンくんって昔からあんな感じなんですか?」

「そう。手のかかる面倒な女であればあるほど……あの男は本領を発揮する」

 

 相手が強ければ強いほどそれに合わせて土壇場で成長するバトル漫画の主人公みたいな言い方なんなの?

 

 まあでも、どういう理由であれ後藤さんがちゃんと学校に通って卒業する気になってくれてよかったよ。さすがに中退はね。いじめとかを苦にやめるならまだしも。

 

「絶対一緒に卒業しようね、後藤さん!」

「は、はいっ!」

 

 後藤さんが力強く拳を握って元気の良い返事をしてくれる。

 

 ああ、成長したなぁ後藤さん。

 

 俺もできる限りお手伝いするからね。困ったことがあったら何でも言いなよ? 必ず力になってあげるから……

 

 大丈夫。今の君なら───きっと

 

 

 

 

「や、山田くん……」

 

 時は少し進んで五月下旬の放課後、俺は隣の席に座る後藤さんに渡された複数の()()()()()に書かれてある数字を見て───背筋が凍るような感覚に陥っていた。

 

 秀華高校第一学期中間テスト

 

 後藤ひとり

 

 現代の国語:十三点

 言語文化:十五点

 数学Ⅰ:三点

 数学A:〇点

 コミュニケーション英語:七点

 論理表現:五点

 地理総合:八点

 公共:七点

 生物基礎:五点

 化学基礎:六点

 

 中退どころか留年の危機だよこれ!?

 

 

 

 

 五月二十九日

 

 全ての中間テストが返ってきたこの日

 

 この日は、俺にとって───生涯忘れることのできない特別な日となった。 

 

 俺の、俺による、後藤さんを留年させないための長く苦しい戦いの幕が切って落とされた日なのだから。

 

 ちなみに五月二十九日は虹夏ちゃんの誕生日です。バンドメンバーとSTARRYのみんなでお祝いしました。甘いはずのケーキの味が絶望の涙でしょっぱく感じました。ぴえん。




 そして感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございます!

 ぼざろブームが過ぎ去ってあんまり反応がもらえないかなと不安になってましたが、想像の百倍くらい好評でびっくりやら安心やら嬉しいやら複雑です(笑)

 次回もよろしくお願いします!

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