【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 ごとりちゃん暴走回!



#19 彼女と俺の家

 た、たたたた大変なことになってしまった!!

 

 中学時代……どころか人生で一度もお友達のお家に行ったことのない私が、十五年の時を経てついに、ついにお友達のお家訪問をすることになるとは!!

 

 よもやよもやだ。ぼっちとして不甲斐なし!! し、しかも……しかもそれが男の子の家とか!! 女の子の家でさえ未知の世界だというのに、男の子の家!? しかもイケメン……クラスで一番、どころか学年でも多分トップクラスのイケメンのお家に!!

 

 私、今日で死ぬんじゃないだろうか。

 

 彼のことを好きな子に殺されたりしないだろうか。

 

 陰キャでゴミクズな私が山田くんのお家にお呼ばれされちゃってごめんなさい。緊張もある。申し訳なさもある。

 

 でも、それ以上にイキってイキって声高に自慢しまくりたい~~~~~っ!!

 

 いやね。だってクラスのイケメンに「後藤、今から俺ん家来いよ」(そんな言い方はしてない)なんて言われたら「はい♡」ってなっちゃうじゃん!! 

 

 どうしようどうしようどうしよう!? 「今日は帰さないよ」とか言われちゃったらどうしよう~~~~!!?? あ、だ……ダメです山田くん。リョウさんが、いるのに……「ひとり、あんまり声を出すなよ」だって……ぶひゃひゃひゃひゃひゃっ!! 

 

 ……ふぅ。落ち着こう。私の悪い癖だ。山田くんがそんなことを言うはずがない。そもそも、歌詞をリョウさんに見せるために山田くんのお家に行ってるんだ。山田くんがそんな……え、えっちなことを考えてるわけない!

 

 で、でも……年上のおっぱい大きいお姉さんに甘やかされたいって言ってたから……。あ、でも私は年上じゃないですね。はい。

 

 いや待てよ? もしも山田くんの誕生日が私より遅かったら私の方がお姉さんってことにならないだろうか? 

 

 それはないか。だって私の誕生日って二月二十一日だから。私より遅い確率なんて十パーセントもないんだよ? 期待するだけ無駄だね。

 

 でも、もしかしたら……もしかしたら山田くんの誕生日が三月くらいっていう可能性もあるしぃ? そんなに期待はしてないよ? 期待はしてないっすよ? こんな確率の低いことを期待するなんて、まるで私が夢見がちな妄想バカ女みたいじゃないですか!

 

 ただ……こう、さりげなく、何気ない雑談の中で彼の誕生日を聞いちゃうのわね。仕方ないよね?

 

 さりげなーく、さりげなーく……

 

「や、やあまあままままままだくんのお、おおおおおお誕生日はいつでしゅか?」

「突然どうした!? え? 誕生日? 俺の?」

 

 そうです。そうです。山田くんがびっくりした表情で私を見てくる。あ、そんなに見つめないでください。五秒以上は目を合わせないでください死んでしまいます。

 

「三月三日だけど……それがどうかした?」

 

 しゃあっっっっっっっっっ!! 大勝利!! 大勝利!! 後藤ひとり大勝利!! 彼は私より誕生日が遅い。つまり私の方がお姉さん。ぶへへっ、ぶへへっ。

 

「わ、私のこと……と、時々ならお姉ちゃんって呼んでくれてもいいんですよ?」

「いきなり何を……あ、あー……そういうこと。そういうことね……」

 

 ぐわああああああああああっ!! キモイ!! キモすぎる!! 今の私の発言キモすぎだろ!! 何を……何を血迷って同級生の仲の良い男の子に「お姉ちゃんって呼んでもいいんだよ?」だ!!

 

 ぐげろげごごごっ!? 血迷ってるYO!! 血迷い続けの人生だYO!! 調子に乗ったYO!! 後藤ひとり!!

 

「……じゃあ、俺の精神が限界に来たときは、お姉ちゃんに甘やかしてもらおうかな?」

 

 気遣いが……気遣いが痛い!! ごめんなさい山田くん!! こんなくだらないことにまで気を遣わせちゃってごめんなさい!! 君以外の男の子だったら絶対ドン引きして明日から口きいてくれませんでした!!

 

「あ、そうだ。俺も後藤さんに一つ聞きたいんだけどさ」

「な、なななななななななんでしょう!?」

 

 ひぃん!? な、何を聞かれるんだろう。「どうしてそんなに笑い方が気持ち悪いの?」とか言われたら私はもう!! 絶対に!! 学校にもSTARRYにも顔を出せなくなる!!

 

「後藤さんっておばけは平気?」

「お、おばけ……ですか?」

「うん」

 

 はえ? な、なんだろうこの質問。ぜ、全然予想してなかったよ。

 

 と、とにかく答えないと。おばけ……おばけ……。

 

「へ、平気ですよ。音でしか存在を主張できないところとか、むしろ親近感がわくというか……」

「ふ、ふうん……そうなんだ」

 

 知らない間にお墓にいることもあるし。でも、どうして山田くんはこんなことを聞いてきたんだろう? おばけなんて別に……はっ!!

 

 も、もしや山田くんはおばけが苦手なのでは? だから頼れるお姉ちゃんである私に平気かどうか尋ねたんだ! そうに違いない!

 

 ふへっ、ふへへへへっ。

 

 や、山田くぅん。可愛いところあるじゃないですかぁ。も、もしおばけが出てもお姉ちゃんがしーーーっかり守ってあげますからねぇ。ぶへへへへへっ!

 

(年上と判断するには微妙だけど……優しくて(本気を出せば)可愛くて胸大きくて素直で俺の庇護欲を掻き立てる……。あれ? もしかして後藤さんって俺の理想にかなり近かったりする?)

 

 どさくさにまぎれて「レンくん」って呼んじゃう? 呼んじゃうぅ? むほほほほっ!!

 

 

 

 

「とうちゃーく! 後藤さん、ここが俺の家ね」

「お、おっきい……」

 

 山田くんのお家はものすごい豪邸だった。お家自体も大きいし、庭もかなり広い。あ、そういえばご両親がお医者さんって言ってたよね。

 

 お金持ちでイケメンで優しくて頭が良くて背が高い……君、生まれてくる世界を間違えてませんか?

 

「はい、後藤さん。どうぞ」

「お、おじゃ、おじゃみゃ……お邪魔しますっ」

 

 大きな門を通って、広い玄関に案内されると、山田くんがスリッパを出してくれた。こ、このスリッパ……ふかふかですごく履き心地が良い。

 

「ぼっち、ようこそ。我が屋敷へ」

「あ、リョ、リョウさん! お邪魔します。あ、あのっ……歌詞、歌詞を持ってきました!」

「レンから聞いてる。部屋で見るからおいで。……レン、飲み物とお菓子。大至急」

「へいへい」

「あ、お、おかまいなく……」

「大丈夫。ぼっちが遠慮したらその分を私が全部食べる」

「晩飯食えなくなるだろうが」

「晩御飯も全部食べる」

「そう言ってこの前も姉貴が残した分を俺が食べたよな?」

「いつまでも昔のことをぐちぐちと……ねちっこい男は嫌われるよ」

「じゃあ、俺のことを嫌ってる姉貴の分は用意しなくていいな」

「嘘嘘!! 大好きだから持ってきて!!」

 

 山田くんは呆れた表情をしながらも、廊下をまっすぐ進んで奥の部屋へと入っていく。や、山田くんとリョウさんって家でもこんな感じなんだ。STARRYにいる時と何一つ変わらない……。

 

「部屋は二階だから。こっちだよ」

「あ、はい」

 

 そして私はリョウさんに呼ばれて階段を登り、二階の廊下を進んでとある部屋のドアの前で立ち止まった。

 

「ここ」

「リョウさんの部屋ですか?」

 

 私が尋ねるも、リョウさんは怪しく笑うだけで答えてくれない。な、なんですかその笑顔?

 

 リョウさんがドアを開けると、整理整頓されたシックでお洒落な部屋が視界に広がった。勉強机、本棚、テーブル、ギター、ベッド、カーペット、人をダメにするクッション。掃除もちゃんと行き届いてる。

 

 い、意外だ……。リョウさんの部屋ってもっと壊滅的に散らかってると思ってた。

 

「リョウさん、このギターって……」

「ん? ああ、それは昔レンが使ってたギターだよ。YAMAHAのPACIFICA 。コスパが非常に良いギター。デザインも良いし、レンもすごく気に入ってた」

 

 色は山田くんの髪色に合ったIndigo Blueだ。……か、カッコいい!! わ、私も二代目のギターを買うならYAMAHAにしようかな?

 

「でも、山田くん……もうギターをやってないんですよね?」

「本格的にはね」

「本格的には?」

 

 どういうことだろう?

 

「最初は私のベースのセッション相手のために強制的に練習させてたけど……」

 

 そ、そんなことさせてたんだ。

 

「私がバンドに入って、その必要がなくなって……レンはギターを弾かなくなった。でも、ギターが嫌いってわけじゃないよ? 元々、身体を動かす方が好きなだけだったから。私と違って」

「そ、そういえば……本気でやるとしたらドラムって山田くんが言ってたような……」

「それは虹夏が洗脳した」

 

 に、虹夏ちゃん……

 

「でも、最近になって……レンはまたギターをちょくちょく弾くようになった。まあ、お遊びみたいな感じだけどね」

「そうなんですか?」

「うん。ぼっちのせい」

「わ、私のせい!?」

 

 わ、私は何もしてませんよ!?

 

「ぼっちがギターヒーローだってわかったあの日の夜……久しぶりにレンの部屋からギターの音が聴こえてきた。レンはね、ぼっちの演奏に脳を焼かれちゃったんだよ?」

 

 の、脳を焼かれたって……私、もしかして山田くんにイケないことしちゃったんですかぁ!?

 

「虹夏はレンを自分色に染め上げようとするし、ぼっちはレンの心に消えない爪痕を残すし……レンの周りには悪い女ばかり集まる」

 

 山田くんの周囲にいる中で、一番悪い女はリョウさんなのでは?

 

「……ぼっち。『一番悪い女は私』って言いたい顔してるね」

「し、ししししししてないでしゅよ! わ、わた……私がリョウさんにそんなこと思うわけないじゃないですかっ……!」

「ぼっちは悪い子だ。そーんな悪い子には、お仕置きしないとね」

 

 リョウさんが怪しく笑いながら私の手を掴み、そのまま私をベッドに座らせた。

 

 かと思ったらいきなり押し倒してきたぁ!?

 

「ぼっちはギターとこのおっぱいでレンを誘惑したのか」

「ゆ、誘惑なんか……してません……」

 

 むしろ山田くんの方が誘惑してきました!!

 

「これはもう『ぼっちちゃん』じゃなくて『えっちちゃん』だねぇ」

「ひぃんっ」

 

 ふーっってされたぁ!? 耳ふーってされたぁ!? りょ、リョウさんも、山田くんも顔立ちがよく似てるから……そ、そんなに顔を近づけられると……へ、変な気分になっちゃう……

 

「さーて……こんな可愛いえっちちゃんをどうしてくれよう───」

「人の部屋で何してんの?」

 

 部屋のドアが開いたかと思うと、そこにはお菓子とジュースを乗せたトレーを持った山田くんが立っていた。……も、ものすごく冷たい目でこっちを見ている!! こ、こっちというよりリョウさんを……

 

「なあ、()()()()()()()()で何してんの?」

 

 あ、リョウさんが冷や汗かいてる。か、身体もちょっと震えてるような……

 

 でも待って!! ちょっと待って!! それよりも私はぁ!! 気になっていることがぁ!! ありまぁす!!

 

「こ、こここここここここってリョウさんの部屋じゃにゃいんですか!?」

「……俺の部屋だよ、後藤さん」

 

 オレノヘヤ、オレノヘヤ……つまりここは山田くんのお部屋ということで……私は今、山田くんのベッドに寝ているということで……

 

 あっ───

 

「大変だレン。ぼっちが溶けた」

「そこに座れ」

「ぼっちが───」

「正座」

「あの……」

「早く」

「はい。ごめんなさい」

 

 薄れゆく意識の中、私が最後に見た光景は涙目で正座しているリョウさんの前で仁王立ちしている山田くんだった。

 

 

 

 

「親しき中にも礼儀ありって言葉知ってる?」

「知ってます」

「じゃあさ、なんであんなことしたわけ? 別にさ、リョウが勝手に俺の部屋に入ってるなんて日常茶飯事だし、俺のベッドで漫画読んで寝落ちしてることもしょっちゅうあるから、そういうのは気にしないよ? でもさ、今日は後藤さんがいたよね? 後藤さんにここは俺の部屋って説明した? してないよね? あたかもリョウが自分の部屋みたいに騙して連れ込んだんでしょ? 百歩譲って連れ込むだけならいいよ。でも、ベッドに押し倒すのはどうかと思う。後藤さんはただでさえ人見知りで内気な女の子だよ? 入学して二か月経って、ようやく俺以外の男子ともあいさつできるようになってさ。ちょっとずつ異性にも慣れ始めてさ。そういうデリケートな時期なわけ。そんな時期に異性のクラスメイトの部屋に勝手に連れ込んでベッドに押し倒したりしてさ。後藤さんが異性に対して拒絶反応を示してトラウマ抱えちゃったらどう責任取るつもり?」

「ごめんなさい……」

「謝る相手が違うよね?」

 

 い、意識を取り戻したら……や、山田くんがリョウさんにガチ説教していました。こ、怖い……や、山田くんって怒ったらこんな感じになるんだね。ど、怒鳴ったりしないで淡々と正論で相手の痛いところをグサグサ刺してくる。

 

 よ、余計に怖いよっ!

 

 ぜ、絶対に山田くんを怒らせないようにしよう。私、山田くんにこんな感じで怒られちゃったら立ち直れなくなっちゃう!! 

 

 私は山田くんのベッドに寝転がったままガタガタ震えていた。普段優しい人が本気で怒ると怖いっていうのは本当だったんだね。

 

 正直、山田くんのベッドで寝ていることに対する緊張感とかドキドキはどこかにいっちゃいました。あ、でもベッドは山田くんの匂いがしてちょっと変な気分になっちゃったのは本当です。

 

「ほら、後藤さんが生き返ったし、ちゃんと謝りな」

「……ぼっち、ごめんなさい。調子に乗り過ぎました」

「あ、いえ……私は、全然、き、気にしていないので……」

 

 リョウさんが目を真っ赤にして涙を流しながら深く頭を下げる。りょ、リョウさんってそんな顔もできるんですね!? わ、私にはそっちの方がびっくりですよ。

 

「あの……本当に、気にしてないから。……ね? か、顔上げてください。……山田くんも、私、本当に大丈夫だから」

「……後藤さんがそう言うなら」

「ぼっち優しい。好き」

 

 リョウさんがそう言って私にギュッと抱き着いて、私の胸に顔を(うず)めてくる。ど、どうしよう……ふたりにやってあげるみたいに、頭を撫でた方がいいのかな?

 

 どうしていいかわからず、とりあえずリョウさんの頭を撫でていると、山田くんが呆れた表情になって思い切りため息を吐いていた。

 

 え? え? わ、私……何かやっちゃいました?

 

 はっ!? なんか今の私「なろう」っぽい! なろうぼっち!

 

「ほんとにごめんね後藤さん。あと、()()はあんまり甘やかさなくていいから。どうせ飯食ったらケロッとして元通りになってるし」

「わ、私こそごめんなさい。や、山田くんのお部屋だとは知らずにはしたない真似を……」

「いや、後藤さんは何も悪くない。それに、俺の部屋は半分姉貴の部屋みたいなもんだからね。気付かなくても仕方ないよ」

 

 うん。全然気付かなかった。絶対リョウさんの部屋だって思ってたもん。でも、今になって部屋をしっかり眺めてみると、高一の教科書が勉強机に並んでることに気付いた。……私のバカ。

 

「ほら、姉貴もいつまで泣いてんだ。晩飯は姉貴の好きな生姜焼き作ってやるからいい加減泣き止め」

「……うん」

 

 や、山田くんもリョウさんにあまあまだっ! あれだけ厳しいことを言っていたのに……

 

「後藤さん。よかったら晩御飯食べていってよ。迷惑かけたお詫びにさ」

「め、めめめめ迷惑だなんてそんな……」

 

 むしろ役得……って、何考えてんだ私!!

 

「じゃあ、俺の顔を立てると思って。ね?」

「お、お母さんに連絡しますっ」

 

 「ね?」って!! 「ね?」って!! き、君みたいなイケメンにそんな笑顔で言われたら断れるわけないよっ!! 断るヤツは女じゃねえ!!  心が漢の中の漢に違いないっ!!

 

 あ、お母さんからめちゃくちゃテンションの高いロインが返ってきた。

 

 ……山田くんのお家だっていうことは黙っておこう。

 

「あ、あの……そ、それじゃあ、お言葉に……甘えまして……」

「よかった。今日は父さんも母さんも帰りが遅いから二人だけの予定だったんだよ。だから、後藤さんが一緒に食べてくれて嬉しい」

 

 ぐわあああああっ!! そ、そんな……そんな爽やかにはにかみながら言わないで!! わ、私の中にある何かが浄化されてしまうぅぅぅぅぅぅ!!

 

「じゃあ、晩御飯の準備してくるから。姉貴、その間にちゃんと歌詞を見てあげなよ?」

「……わかった」

 

 そ、そうだった! 今日はリョウさんに歌詞を見せるために山田くんのお家にお邪魔したんだった!

 

 い、色々衝撃的なことが多くて忘れてた。

 

「リョウさん……そろそろ、大丈夫です?」

 

 山田くんが部屋を出て行ったあと、未だ私に抱き着いているリョウさんに声をかける。

 

「ぼっちのおっぱい柔らかくて気持ちいい。……もうちょっとだけだめ?」

 

 リョウさんは顔を上げて上目遣い気味に私を見る。そ、そんな山田くんに似た目で……涙目の上目遣いで見ないでくださいっ!! わ、私の中にある邪な感情が暴走してしまう!!

 

「も、もうちょっとだけですよ」

「……ありがと」

 

 妹が増えたみたいだなぁ。と、私はリョウ先輩の頭を撫でながらそんなことを考えていた。

 

 

 

 

「ぼっち的には、この歌詞で満足?」

「し、してないです……」

「だろうね。こんなの、ぼっちらしくない。郁代が歌うことを意識し過ぎて、個性が死んじゃったありきたりな歌詞になってる」

 

 ふぐぅ!? さ、さっきまでベタベタ甘えて泣いてた人とは別人だ。や、山田くんよりも直球の言葉で私の歌詞を評価している。

 

 で、でも……思ったよりもショックじゃない。山田くんに指摘されてワンクッション挟んだっていうのもあるけど、それ以上に自分でしっかり自覚できているからだ。

 

「さっきも言ったけど……私、昔は別のバンドに所属してたんだ。私は、そのバンドの青臭くて真っ直ぐな曲が大好きだった」

 

 だけど、そのバンドは次第に自分達の曲ではなく、売れるための曲を作るようになり始めた。

 

 でも、その気持ちはよくわかる。自分達の個性を出すことはすごく大事。ただ、それ以上に「売れたい」っていう気持ちもすごく大きいんだ。自分達の個性を精一杯出した結果、誰にも認められない。誰からも評価されない。そんなのは、辛すぎる。

 

「そんなバンドに嫌気がさして……やめたんだよ。バンドを抜ける時も、ちょっと揉めたんだけどね」

「そ、そうだったんですか……」

「結局、そのバンドは解散。私はベースを弾くことすら嫌になって……あの頃はレンに迷惑かけてたなぁ」

 

 い、今でも十分かけていると思います。っていうのは野暮なツッコミなんだろうな。そんなことを言える空気じゃないし。

 

「でも、そんな私に虹夏が声をかけてくれた。こうしてできたのが結束バンドなんだよ」

 

 結束バンドができるまでにそんな経緯があったとは……私を誘ってくれたのも虹夏ちゃんだし。虹夏ちゃんがいなかったら、このバンドは存在していないんだね。

 

「バラバラな人間の個性が集まって、それが一つの音楽になる。だからぼっちも、つまんないことは考えないで、自分の好きなように書いてよ。私も、みんなも、ぼっちが書いた、ぼっちにしか書けない歌詞が見たいんだ」

 

 リョウさんはそう言って優しく私に笑いかけてくれる。その笑顔を見て、私は思う。やっぱり二人は姉弟なんだな、と。

 

 リョウさんと二人っきりで話したことはあまりなかったけど、少しだけ……リョウさんのことが分かった気がする。こんなに真剣に、音楽と向き合って真面目なお話ができる人だったんだ。

 

「ヨシ! じゃあ真面目な話はここまでにして……」

 

 あれ? なんか雰囲気が変わって……

 

「ぼっち。私のレンを婿にどう?」

「ぶほっ!!」

 

 の、飲んでたジュースを思いっきり噴き出しちゃった……。てぃ、ティッシュ、ティッシュ。

 

「この程度で動揺するとは、まだまだ甘いぞぼっち」

「い、いいいいきなり何を言うんですか!?」

「ごめん。婿は確かに早かった。私のレンを彼氏にどうだい?」

「か、かかかかかかか彼氏って……!?」

 

 そういう……そういうことじゃないです! いきなり山田くんを彼氏って、会話に脈絡がなさすぎる(自分のことは棚上げ)!! と、というか……リョウさんってそういうことに興味がある人間だったんですか? そっちの方がある意味びっくりですよ。

 

「あれは良い男だ。ルックスはもちろん、優しいし甘やかしてくれるし理解はあるしこっちの心情をすぐに察してくれるし、おまけに家事も勉強もできる。私によく似て、できた弟だ」

「それ、ツッコミ待ちですか?」

 

 思わず言っちゃった。山田くんとリョウさんが似ているのは顔立ちだけです。他には似ているところなんて何もありませんよ。

 

「姉の贔屓目を抜きにしても、あれほどの男はそういない。相当な優良物件だと思うがね?」

「そ、それは私もわかりますけど……話が飛躍し過ぎですっ! そ、それに、虹夏ちゃんがいるじゃないですか?」

「正直、虹夏とレンはいつどのタイミングで付き合い始めてもおかしくない距離感だけど……でも、お互いがお互いに告白することはないと思う」

「な、なんでですか? 二人は幼馴染なんですよね?」

「幼馴染だからだよ、ぼっち」

 

 リョウさんが不敵に笑った。リョウさんがこうやって笑う時って、大体的外れなことを言うんだよなぁ。

 

「二人の関係は、あれである意味完成しているんだ。今さら二人とも、その関係をどうこうしようっていう気はない。まあ、そもそもお互いに恋愛感情がないっていうのも大きいんだけどね」

 

 そ、そう言えば前に……「幼馴染は負けヒロイン」ってリョウさんが言ってたような……

 

「虹夏ってああいう性格だから、母性を求める愚かな男共にばかり告白されていたけど……虹夏はあれでかなり甘えたがりなんだ」

「そ、そうだったんですか?」

「だから虹夏は、自分が本当に辛いときに甘えることができる相手として、レンを作り上げた」

 

 何か虹夏ちゃんがすごい悪女みたいに言ってるけど……そもそも山田くんがあんなに甘やかしたがりなのはリョウさんが原因ですよね?

 

「虹夏の光源氏計画は成功したと言っていい」

 

 リョウさんは腕を組んでうんうんと頷いている。

 

「だから虹夏は、恋愛感情とはまた違う……重い感情をレンに持っていたりする」

「だったら、山田くんに彼女ができたら余計に拗らせちゃうんじゃ……」

「かもしれない。でも、今のままだと虹夏がレンにずるずる依存しちゃって一線を越えちゃう可能性だってある。そうなったら、誰も幸せにならない」

 

 い、依存……それはちょっとわかるかも。山田くんって、すごく頼りになって優しくて何でも受け入れてくれて……正直私も、彼のそういう部分にかなり甘えちゃっている。

 

「まあ、それはあくまで最悪の可能性だけどね。ただ、バンドを続けていくとこれから先辛いことはたくさんある。そういう時に、虹夏がレンじゃなくて私達を頼ってくれるような……そんな関係にしていきたい」

 

 そ、そうだよ。リョウさんの言う通りだ。確かに私達は虹夏ちゃんの優しさや包容力に甘え過ぎている部分がある。でも、そうじゃなくて……虹夏ちゃんがちゃんと私達を頼ってくれるように、もっともっと、私達がしっかりしなくちゃいけないんだ!

 

「……リョウさん、もしかしてそれが本当に言いたいことだったんですか?」

「……うん」

「じゃあ、山田くんが彼氏うんぬんのくだりは!?」

「ぼっちの面白い反応が見れると思って」

 

 やっぱりリョウさんはリョウさんだったよ。すごく良いことを言っているのに……他の言動で全てを帳消しどころかマイナスにしちゃってる。

 

「でも、全部冗談ってわけじゃないよ。ぼっちは結構、レンの理想としては良い線いってる」

「はえ!? そ、そそそそそんなことないでしょう!?」

「ある。レンは常々『年上の巨乳お姉さんに甘やかされたい』ってほざいてるけど……ぼっちはその条件に当てはまる部分が多い。おっぱい大きいし、さっきみたいに私を優しく慰めてくれる母性もある。しかもレンの庇護欲&甘やかしセンサーが全開で発動している。二人の相性は悪くない……むしろ良いと思ってる」

「あ、ふへっ。ふへへへへっ。しょ、しょんなことないですよ~」

「そういうだらしない笑顔もレンの心をくすぐるポイント」

 

 いや~っ! そうかぁ! そうかぁ! 私はいつの間にか!! 山田くんにとって理想の女になっていたということかぁ!!

 

 いやいや待て待て落ち着け落ち着け後藤ひとり。これはあくまでリョウさんが勝手に言っていること。ここで調子に乗って山田くんに変な態度で接してみろ。察しの良い彼のことだ。私とリョウさんの間でどんな会話が繰り広げられたかすぐに理解しちゃうに決まってる。

 

 ここは毅然として!! クールな私にならなければ!!

 

 でも理想的なんだって♡ 私は山田くんの理想の女神様なんだって♡(そこまで言ってない)

 

 ぐへへっ、どうしよう……思わず顔がにやけちゃう。

 

「レンと付き合ったら、今ならもれなく私もついてくる」

 

 すごくれいせいになった。そうだよ、山田くんと付き合うってことは、リョウさんとの関わり方も変わってくるってことだ。

 

 ……い、いらない。

 

 浮かれ気分が一瞬で吹き飛ばされちゃったよ……

 

「おかしい。郁代なら喜んで食いついてくるのに……」

 

 狂信者の喜多ちゃんと一緒にしないでください。

 

「き、喜多ちゃんは山田くんをどう思っているんでしょうか?」

「郁代は完璧すぎる男には靡かない。何かしらの欠陥を抱えていて『私が支えてあげなくちゃ!』と思わせるようなダメンズに惹かれて身を滅ぼすタイプ」

 

 ごめん喜多ちゃん……!! 否定、できないっ!!

 

「まあ、付き合う付き合わないは個々人の自由として……」

 

 散々引っ掻き回しておいて身も蓋もないことを言い出した!

 

「レンと付き合うことはなくても……()()と仲良くなった女は、将来必ず苦労する」

 

 ど、どういうことだろう?

 

「無意識の内に、レンと他の男を比べちゃうから」

 

 その瞬間、私は背筋が凍るような感覚に陥った。い、言われるまで気付かなかった……。き、喜多ちゃんや虹夏ちゃんみたいに、他に仲の良い男の子が多そうな人達はともかく……

 

 わ、私は山田くん以外に仲の良い男の子がいないっ!! 

 

 つ、つまり……私の中の男の子の基準が彼になっちゃうってこと!!

 

 それが何を意味するか……行き遅れ、生涯独身、ショッピングモールで買い物をしている家族連れに感じる劣等感、孤独死、店長さん……

 

 あ、あばばばばぼいfひゃじょkばばあばばばけうypばあああばっばばばあbっばばっばあはおjはぼあお!!??

 

 

 

 

「姉貴ー、後藤さーん。ご飯の準備で来たよ───って、なんで後藤さんバグってんの?」

「レンのせい」

「何もしてねーだろ!?」

 

 数分間意識を失った後、山田くんの手作り生姜焼きをいただきました。ものすごく美味しかったです。

 

 き、君に欠点はないのかな? いや、欠点がないことが欠点になりうるという……も、もはや哲学だよ!

 

「お口に合ったみたいでよかったよ」

 

 あ、そんな風に優しく笑いかけないでください。リョウさんのせいで今ちょっと……君の顔をまともに見れないので。

 

「レン、おかわり」

「自分でやれ」

 

 そう言いながら山田くんはリョウさんのお茶碗にごはんをよそってあげていた。君! ほんとそういうところだよ!? 

 

「もう遅いし、駅まで送っていくよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 美味しいご飯を食べて満腹になったら気持ちがちょっと落ち着いた。……ふぅ。これなら山田くんと二人で駅まで歩いても平気そう───

 

「ぼっち、ぼっち」

 

 玄関でリョウさんに呼び止められ、嫌な予感がしながらも無視するわけにもいかないのでリョウさんの方を見る。

 

 するとリョウさんは、悪戯っ子みたいな表情を浮かべて私にそっと耳打ちした。

 

 

 

 

「レンが()()()()()()()()で家に呼んだのはぼっちが初めてだから」

 

 

 

 

 その言葉を聞いて数秒間、私は硬直し……そして───

 

 爆発四散した。

 

 あ、ちゃんと復活したので電車には間に合いましたよ。終電に間に合わなくて山田家にお泊りすることになるなんて……そんなラブコメ展開に!! 私がこれ以上耐えられるはずがないっ!!

 

 でも、数日間は山田くんのことを変に意識しちゃってよそよそしい態度になってしまいました。

 

 山田くんが悲しそうな顔をしてたけどごめんね! ちょっと……ちょっとだけ時間をくださいっ!

 

 これも全部全部ぜーんぶ……リョウさんが悪いっ!! 




 ぼっちちゃんの愉快な山田家訪問でした。
 レンくんの出番はほぼありません。山田とぼっちちゃんがひたすらいちゃいちゃするお話になりました。

 ぼっちちゃん視点は初めてですごく難しいのですが、どんな言動をさせても「ぼっちちゃんだから」で許されるのが最大の強みだと思います。

 次回はおそらく後藤家でTシャツを作る話になると思います。

 ずっとぼっちのターン!

 感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございます!

 次回もよろしくお願いします!

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