【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 原作の展開をガンガンぶっ壊していくスタイル



#02 白いブラウス似合う後藤さん

 第一印象は「すごく綺麗な顔をしている男の子」だった。

 

 ジャニーズやイケメン俳優って言うより、端正な顔立ちをしているユニセックスな容姿の男の子。私のような日陰者と違って常にみんなの中心で陽だまりを歩き続けてきた、私とは全く別の世界に住んでいる生き物。

 

 本来なら、コミュ障でゴミクズで承認欲求が強くてかまってちゃんで普通の会話すらままならない私となんて、絶対に接点が生まれないような存在。

 

 そのはずだったのに───

 

「後藤さんって、もしかしてバンド好きなのかな?」

 

 廊下で彼から見られないように隠れていた私に、優しく声をかけてくれた。自己紹介で彼が「ロックバンドが好き」って言っていたから思わずガン見しちゃったけど……それに気付かれていたみたいです。

 

 は、恥ずかし過ぎるっ! っていうか、彼もよく私の反応を見てたね。

 

 も、もしかして……私に一目惚れしちゃってたり───ないですね。ありえません。私なんぞよりも可愛い女の子はたくさんいるし、彼の容姿なら選り取り見取りでハーレムだって夢じゃないでしょう。

 

 でも、ちょっとだけ……ちょっとだけお話しするくらいなら大丈夫かもしれない。ちゅ、中学のときはバンドを組みたくても組めなくて、仲の良いお友達もいなくて……そんな自分を変えたくて一念発起して東京の高校に進学したんだ……!

 

 こ、ここで逃げるように帰っちゃったら中学までの私と何も変わらない。

 

 よーし……

 

 うん。深呼吸しよう。まずは落ち着かないといけないからね。

 

 そ、そろそろ教室に入ろうか。いや待て待て。ちょっと心臓がバクバクしすぎておかしい気がする。い、命に関わることかもしれないから慎重に越したことはない。

 

 さーて、いい加減勇気を振り絞ろうか。家族以外の誰かから……しかも同級生の男の子から声を掛けられるなんていつ振りかわからないし。こ、この機会を逃したら灰色の高校生活を送る羽目になるかもしれないっ……!

 

 で、でもいきなりは怖いからもうちょっと彼の様子を観察しようかな……。

 

 そう思って私は教室のドアを開けて少しだけ顔を出して彼の様子をうかがう。

 

 一瞬だけ彼は驚いた表情をしていたけど、すぐに慈愛に満ちた優しい笑顔に変わった。

 

 あ、これ……私のお母さんの笑顔にそっくりだ。

 

 彼の包容力のある笑顔を見て、私はちょっとだけ気分が楽になる。

 

「もし時間あるなら、ちょっとお話しない?」

 

 穏やかな口調で、彼はそう言った。彼の表情と様子を見て、私はこう結論付ける。

 

 こ、これならいけるかもっ……! 

 

 私は勇気を出して教室に入り、彼から二つ離れた席に座った。彼はそんな私に苦笑していたけど、さっきみたいに優しく笑って話しかけてくれた。

 

 あ、待って待って待って。距離が物理的かつ急激に近くなったから精神力が───

 

 

 

 ───はっ!? い、意識を失ってた。わ、私……何をやっていたんだろう?

 

「おかえり、後藤さん」

「あ、ただいま……です……?」

 

 お、思い出した! 目の前の男の子が「お話ししよう」って声をかけてくれたからなけなしの勇気を振り絞って教室に入ったんだった。

 

 そ、それで私が死んじゃって……ふ、復活するまで待っててくれたんですね。ふへっ、優しい。

 

 それから私は彼とどうにかこうにか会話をすることができた。

 

 私の人間性を一発で理解してしまった彼は、ものすごく気を遣って言葉を選びながら私が答えやすく、尚且つ話しやすい話題を提供してくれました。

 

 ちょ、ちょっと優し過ぎやしませんかね? で、でも私にはどうしようもないので、全力でその優しさに甘えちゃってますが……

 

 申し訳ないっていう気持ちもあるけど、それ以上に───

 

 入学式初日に同じクラスの男子と放課後の教室で二人っきりで会話するっていうシチュエーションに酔いしれてしまう~!

 

 で、でもダメ! これまで散々調子に乗って痛い目を見てきたんだから! ちょっと優しくされたくらいでコロッといっちゃうほど、私は単純な女じゃないんですよ?

 

 ……だけど、ほんのちょっぴり、小指の甘皮くらいは調子に乗ってもいいよね? ふへ、ふへ……ふへへへへへっ。

 

「山田レンです。一年間よろしく!」

 

 それから色々彼とお話して、彼は自分の名前を名乗ってくれた。や、山田くんって言うんですね。お、覚えておきます。

 

 ───はっ!? こ、ここは私も華麗に自己紹介をしてこれまでの失態を挽回するチャンスなのでは?

 

 そう考えて気合を入れ直した私だけど、思いっきり噛みまくって恥の上塗りをしただけに終わってしまいました。げ、現実が私に厳し過ぎる……。

 

 

 

 

「さっきからロインしてたんだけど、全然気付いてなかったみたいね」

 

 俺が後藤さんとハートフルコミュニケーションを取っていたところに、赤髪美少女兼姉貴全肯定狂信者である喜多郁代が教室に飛び込んできた。

 

 何回かスマホがブルブル震えてたのは喜多さんからのロインだったのか。……くそ、気付いた上で逃亡すればよかったな。

 

「あら……そっちの子は?」

 

 そして当然、喜多さんは後藤さんの存在にも気づくわけでして。極度な人見知りの後藤さんは喜多さんのダイナミックエントリーに、ただでさえ悪い顔色をさらに青白くさせていた。

 

 しかも喜多さんは後藤さんと対極に位置するスーパー陽キャコミュ強パーソナルスペースブレイカーJKだ。ぶっちゃけ二人の相性は最悪と言っていい。だから俺がどうにか緩衝材……というか喜多さんの陽キャオーラを緩和するフィルターにならないといけないな。

 

「この子は後藤ひとりさん。バンド好きらしいからちょっとお話してたんだ」

「そうだったのね。私は一年五組の喜多郁代。よろしくね、後藤さん!」

「ひぃん……!?」

「はいストーップ!」

 

 喜多さんが表情を輝かせてツカツカと後藤さんに歩み寄ろうとするのを俺が身体を張って阻止する。

 

「……何するのよ?」

「後藤さんはね。ちょっと人見知りが激しい子なんだ。だから喜多さんみたいな陽キャがいきなり距離感を無視して近づいちゃうと───」

 

 あ、後藤さんが干からびてる。やっぱり喜多さんの陽キャオーラに耐えられなかったか。

 

「あーあ、喜多さんのせいで後藤さんが干物になっちゃった」

「干物になっちゃうってどういうこと!? 後藤さん大丈夫!? クロコダイルに水分搾り取られたルフィみたいになってるわよ!?」

「警察行こう、喜多さん。大丈夫。不可抗力だったってことをちゃんと俺も説明してあげるから」

「その前にこの状況について説明してほしいのだけど!」

 

 仕方がないので後藤さんが復活するまでの時間を使って喜多さんに状況を説明してあげました。

 

 虹夏ちゃんのアホ毛という不思議現象を目の当たりにしている喜多さんは俺が思ったよりも早く後藤さんについて理解してくれたみたいです。さすが、姉貴の狂信者なだけはあるな。只者じゃない。

 

「で、俺に何の用?」

「あ、そういえば忘れてたわね。リョウ先輩と伊地知先輩から一緒にお昼を食べましょうって連絡があったのだけど」

「場所は?」

「STARRYの近くのファミレスよ」

 

 STARRYとは俺や姉貴、虹夏ちゃんがバイトをしているライブハウスのことだ。喜多さんは高校受験とかがあったからまだバイトはしていない。……俺も受験生だったって? サボった姉貴の代わりにシフトに入ってたんだよ。

 

「バイトまで特に予定もなかったから別に───」

「あ、後藤さんが復活したわよ」

 

 喜多さんの言葉通り、干からびていた後藤さんが、どういう原理かはわからないけど復活を遂げていた。多分、大気中の水分を上手く体内に取り込んだのでしょう。

 

「ねえ後藤さん。私達これからお昼ご飯を食べに行こうと思うんだけど、よかったら一緒にどうかしら?」

「喜多さん、さっきまでの俺の話聞いてた?」

「聞いてたわよ。聞いた上で誘ってるの」

 

 喜多さんと接触しただけで干物になるほどのコミュ障なのに、いきなり初対面でご飯を食べに行くってハードル高過ぎない? 後藤さんの耐久力的にもっと段階を踏んでからの方がいいと思うんだけど。

 

 でも、喜多さんって割と人の話を聞かずに突っ走る子だからなぁ……。

 

「後藤さん、どうかしら?」

「あ、えっと……」

 

 喜多さんがキタキタオーラ全開で一歩近づくと後藤さんが一歩下がる。また近づくと一歩下がる。また近づくと───あ、後藤さんが壁に追い込まれた。

 

「はいそこまで」

 

 俺は喜多さんの制服の襟を掴んでズルズル後ろに引っ張る。女の子に対する扱いじゃないかもしれないけど、俺の注意を無視した喜多さんが悪い。

 

「後藤さん、無理しなくていいよ。この喜多さんっていう子は心の壁とか一切合切無視して突撃を繰り返す距離感クラッシャーだから」

「あ、はい……」

「失礼ね。みんなで食べた方が楽しいじゃない」

「気持ちはわかるけどあんまり強要しちゃダメだよ」

 

 特に後藤さんみたいな子は接し方を間違えると心を閉ざしちゃいそうだし。一回そうなっちゃうと、心を開かせるのに通常の何倍もの時間と労力がかかるからな……。

 

「まあでも、俺も一緒に来てくれたら嬉しいかな」

「結局山田くんも誘ってるじゃない」

「俺はちゃんと距離の詰め方とかに気を遣ってるの。喜多さんみたいに『常にアクセル全開。ブレーキ何それ美味しいの?』コミュとは違うんだ」

 

 後藤さんに来て欲しいっていうのは間違いなく本音だ。せっかく仲良くなりかけてるし、個人的にもうちょっとお話したいっていう気持ちもある。もちろん、無理強いはダメだけどね。

 

「あ、あの……」

 

 俺と喜多さんが返事を待っていると、後藤さんが意を決したような表情を浮かべて口を開く。

 

「ご、ご迷惑でなければ……一緒に……」

 

 相変わらず俯いたままで弱弱しい声だったけど、俺達の誘いを受けてくれるみたいです。ちょっぴり感動。

 

「迷惑なんかじゃないわ! たくさんお話ししましょうね!」

 

 感激した喜多さんが勢いのまま後藤さんに突撃しそうだったので、さっきと同じように首根っこを掴んで後藤さんに近づけないようにしておきました。君はお散歩中の犬なのかな。

 

 あ、一応姉貴と虹夏ちゃんにロインしとくか。「友達を一人連れて行く」って。

 

───雄or雌?

 

 姉貴から爆速で返信がくる。何が雄雌だよ。女の子じゃバカタレ。

 

───入学初日でいきなり女をひっかける。さすが私の弟

 

 既読スルーします。相手にするだけ無駄なので。

 

 で、無視したらしたで五分後にスタンプが三十個くらい送られてきてくっそうざかったです。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「三人です。連れが二人先に来てるんですけど……」

「おーい、レンくーん。こっちこっちー!」

 

 それから俺達三人は予定通りファミレスへとやってくる。ここに来るまでの道中では喜多さんを先頭に真ん中が俺、最後尾を後藤さんという縦に三人並ぶ奇妙な隊形になっていました。

 

 喜多さんの陽キャオーラを俺で軽減するという緻密で隙のない作戦です。ちなみにことあるごとに喜多さんが後藤さんに話しかけていたけど、ぶっちゃけ喜多さんの一方通行だったんだよね。

 

 それでもめげずに仲良くなろうと話しかけ続ける喜多さん。君のそういう前向きな姿勢は尊敬できますね、はい。

 

「リョウ先輩、お待たせしました!」

「おつ」

「喜多ちゃん。あたしはー?」

「ついでに伊地知先輩も!」

「ついでかい。……で、レンくんの後ろにいる女の子がロインで言ってた子だよね?」

 

 虹夏ちゃんと姉貴が俺の後ろにいる後藤さんに視線を向ける。その瞬間、後藤さんは俺の背中にサッと隠れてしまった。……仕方ないよね。知り合い四人の中に突然放り込まれた初対面の人間なんだから気まずさもあるだろうし。

 

 ただ、虹夏ちゃんには後藤さんが人見知りの激しい内気な子だから気遣ってあげてほしいって事前にロインで伝えておいたんだけど。

 

「ほう。その桃色の女子(おなご)が我が弟の毒牙にかかった哀れな被害者だと?」

「いきなり何言ってんだクソ姉貴。それよりちゃんと金持ってきてんの?」

「……さて郁代。何食べる?」

「聞けやこら」

 

 姉貴は俺を無視して喜多さんと一緒にメニューを見始める。俺は一つため息をついてそのまま喜多さんの横に座り、おろおろしていた後藤さんを俺の隣に座らせる。

 

 姉貴と喜多さんが向かい合って仲良くメニューを見ている一方で、後藤さんの正面では虹夏ちゃんがにこにこと可愛らしい笑顔を浮かべていた。

 

 虹夏ちゃんなら初対面かつコミュ障な後藤さんを上手くフォローしつつ仲良くなってくれるだろうという俺の名采配です。

 

「はじめまして。下北沢高校の二年、伊地知虹夏です。君のお名前、教えてもらえるかな?」

「あ、え……えっと……後藤、ひとり、です……」

「そっか。ひとりちゃんって言うんだね。よろしく!」

「あ、よ……よろしくお願いします」

 

 おお。俺や喜多さんと自己紹介した時よりも遥かに落ち着いてるね。やっぱり虹夏ちゃんをここに配置しておいてよかった。我ながら慧眼ですね。

 

「で、あたしの隣にいるのが───」

「山田リョウ。そこにいるレンはどこに出しても恥ずかしくない我が弟」

「姉貴はどこに出しても恥ずかしいけどな」

「いやん照れる」

「後藤さん、()()とはあんまり深く関わらない方がいいからね。ろくなことにならないから」

「あ、え……? お、お姉さんなんですよね?」

「不本意ながら」

「よ、よく似てますね……特に、目元とか……」

 

 正直、俺と姉貴の顔立ちはかなり似ている。十人に聞けば十人とも俺達二人が姉弟だってわかるくらいにはね。ただ、俺は姉貴と違ってちゃんと目に生気がありますから!

 

「リョウとレンくんは顔立ちは似てるけど性格は似ても似つかないんだよね~。レンくんはリョウと違ってコミュ力高いし、色々しっかりしてるし」

「あ、しょ、初対面の私にも優しく話しかけてくれました……」

「そーそー。レンくんは昔っから面倒見がよくてね。いっつもリョウのお世話をしてたんだ」

「つまりレンが立派に育ったのは私のおかげ。感謝してくれてもええんやで?」

「てめーはその百倍俺に感謝しろ」

 

 虹夏ちゃんが上手く後藤さんに話を振ってくれるおかげで、自然な形で彼女が会話に混ざることができている。喜多さんの陽キャごり押しコミュとは違うのだよ。

 

「はー……マジで虹夏ちゃんが俺の姉貴ならよかったのに。一週間くらい代わってくれない?」

「うーん、そうすると(うち)が崩壊しちゃうかな? でも、お姉ちゃんって呼ぶのは許してあげよう」

「虹夏おねーちゃーん」

「よしよし。レンくんはいい子だね」

 

 虹夏ちゃんが俺の頭を優しく撫でてくれる。あ~年上の可愛い幼馴染に甘やかされてダメになる~。これで虹夏ちゃんが巨乳だったら文句なしだったのに。

 

「ひとりちゃんは兄弟いるの?」

「あ、妹が一人……」

「へー。じゃあ後藤さんもお姉さんなんだね」

「あ、はい。お、お姉さんです……うへへっ」

 

 何が琴線に触れたのか知らないけど、笑顔になってくれて何よりです。あとはその笑顔が不気味じゃなければもっとよかったんだけど。

 

「なら、時々レンくんを甘やかしてあげてね? ひとりお姉ちゃん」

「あ、はい」

 

 虹夏ちゃんなんてこと提案してるの! それに後藤さんも後藤さんであっさり受け入れ過ぎじゃない!?

 

「まずい郁代。レンがあっちの二人に寝取られてしまう」

「寝てから言え定期」

「レンのベッドで何回も寝ている定期」

 

 姉貴は自分の部屋に入りきらない漫画やら雑誌やらCDやらを俺の部屋に収納してるからな。俺のベッドで勝手に漫画読んでそのまま寝落ちしてることも頻繁にあるし。

 

「……そうか。喜多さんが姉貴の妹になって俺が虹夏ちゃんの弟になれば全部丸く収まるな!」

「それはダメよ。だって私、先輩の妹じゃなくて娘になりたいんだもの」

 

 おっと、その発言は普通にドン引きですよ。隣にいる後藤さんも「何言ってんだこいつ」みたいな顔してるし。まあ、あの姉貴の狂信者になるくらいだから喜多さんも相当ヤバい女だっていうことをわかってたつもりだけど……うん。本当に()()()だったみたいですねぇ。

 

「その理論でいくと、俺は喜多さんのおじちゃんになるわけだ」

「レンおじちゃん。お小遣いちょーだい♡」

「俺は喜多さんがパパ活やってるって言われても驚かない」

 

 俺がそう言うと喜多さんが肘打ちしてきた。この子の隣に座ったのは失敗だったな。

 

「ねえレン。お腹空いた」

「そういや喋ってばっかで注文してなかったな」

 

 今気づいた。女三人寄れば姦しいって言うけど、マジでその通りだな。なんで女の子達ってあんなに話題が尽きないのかね。

 

「後藤さんは何がいい?」

「あ、えっと……ハンバーグ食べたいです」

「ハンバーグ系は……このページか」

 

 後藤さんもこの空気に慣れてきたのか、少しずつ自分の意思を伝えられるようになってきた。短い時間だけど確かな成長を感じられますね。姉貴とは大違いだ。

 

「俺もハンバーグにしようかな。あと別でパスタとサラダと……」

「よく食べるね~」

「成長期だからね」

「レンくんって身長いくつ?」

「最近測ってないけど……百七十二~三センチくらいだと思う」

「いいなー。あたしももうちょっと身長ほしいんだよね」

「虹夏ちゃんはそのくらいちんまい方が丁度いい」

 

 抱きしめやすそうなサイズ感だし。

 

「ひとりちゃんは私と身長同じくらいかな?」

「い、いくつだろう……。ひゃ、百五十五センチくらいだったような」

「じゃあ同じくらいだね。リョウは生意気にも百六十センチ以上あるからなー」

「スタイルには自信がある」

「顔もスタイルも良いなんて……リョウ先輩って本当に完璧な存在ですね!」

「いや、中身が終わってるから」

「そのギャップも魅力なのよ」

「どう考えても見た目も中身も優れてる方がいいでしょ」

「まだまだ甘いわね山田くん。私が君に熱を上げないのはそういうところなのよ?」

 

 「リョウ先輩には私がいないとダメなんだわ!」とでも言いたいのかね。それ、めっちゃ危うい思考だよ。都合よく利用されるだけされてポイ捨てされる未来しか見えない。

 

 まあ、そのうち喜多さんも我に返る日が来るでしょう。姉貴は親しくなればなるほどその魅力が下がっていく女なんだから。

 

 とまあ、こんな感じで料理が来るまでぐだぐだ雑談していました。

 

 

 

 

「あ、あの……気になってたんですけど」

 

 料理を食べ終わって俺がドリンクバーのパシリから帰ってくると、後藤さんがおずおずと話を切り出した。気になること、か。……うん、多分いっぱいあると思います。

 

「お、お二人が姉弟で、虹夏ちゃんが幼馴染っていうのはわかったんですけど……き、喜多さんとはどういうご関係ですか?」

 

 あ、確かにそこは気になるよね。でも俺はそれよりも後藤さんが「虹夏ちゃん」って呼んだことに密かに感動しています。……もしかして、俺が虹夏ちゃんって呼びまくってたせい?

 

 まあいっか。虹夏ちゃんも名前で呼ばれて嬉しそうだし。

 

「私はね。リョウ先輩の娘候補なの。本当は一番の理解者枠になりたいのだけど、それは山田くんに譲るわ」

「いらんわそんな枠」

 

 でも実際、姉貴の一番の理解者は誠に不本意ながら俺なんだよな。ほんっとうに不本意ではあるけど。

 

「喜多ちゃん、何の答えにもなってないよ」

「え? でも私の本音ですよ」

「……ひとりちゃん、あたしが説明するね」

 

 判断が早いですね虹夏ちゃん。ちなみにある意味話題の中心である姉貴はパフェを貪り食っていました。金出すの俺なんだけどな。

 

「リョウ先輩。一口ください!」

「いいよ。はい、あーん」

「あーん♡」

 

 幸せそうですね。俺はもうツッコまんからな。

 

「リョウ先輩に食べさせてもらったから、その分美味しく感じます!」

「人の金で食う分さらに美味く感じる」

 

 いやちゃんと来月の小遣いから差っ引いておくからな?

 

 もういいや。このあほあほコンビは放っておこう。俺の知らんところでどうか幸せにおなり。

 

 そう判断して虹夏ちゃん達との会話に混ざることにします。

 

「喜多ちゃんとあたし達の関係だよね?」

「は、はい……」

「ものすごーく端的に言うと、あたし達三人でバンドを組んでるんだ」

「ば、バンドですか……!?」

 

 後藤さんがめっちゃ食いついた。やっぱりバンドとか音楽関係の話題がこの子にとってはクリティカルなのか。

 

「あ、でも三人って……山田くんは……?」

「俺はメンバーじゃないよ。楽器できないし」

「便利なパシリ」

 

 うるせーぞ馬鹿姉貴。

 

「でもレンくんって歌はすっごく上手じゃん」

「俺はカラオケで満足する男なので」

 

 ギターも一時期姉貴に教えてもらってたけど、俺はどっちかというと体を動かす方が好きだったんだよな。だからもし今後、バンド活動をするのなら、一番動きが激しいドラムをやりたい。

 

「あたしがドラムで、リョウがベース。喜多ちゃんはギターボーカルなんだー」

「そ、そうだったんですか……で、でもお二人と喜多さんは学校が違いますよね? ど、どうやって知り合ったんですか?」

「後藤さん! 私が教えてあげるわ!」

「ひぃん……!?」

 

 ここで喜多さんが目をキラキラさせながら会話に混ざってきたので後藤さんが俺に隠れるようにして小さな悲鳴を上げる。

 

 あ、これ本当にヤバいときの喜多さんの顔だ。俺を間に挟んでいるとはいえ、俺一人の力じゃ喜多さんのこのオーラを相殺しきれないっ!

 

「私はね。リョウ先輩が路上で演奏しているところをたまたま見かけて───一目惚れしたのよ!」

「ひ、一目惚れ、れしゅかぁ……?」

 

 後藤さんは俺の腕を掴んで俯きながら辛うじて言葉を返している。この状態の喜多さんは話が通じないので……誠に遺憾ながら我が姉の力を借りようと思います。

 

「姉貴」

「まったくもう、レンったら私がいないと何もできないんだからぁ」

 

 姉貴は自分の両頬に手を当て、わざとらしくくねくねしながら甘ったるい声を出す。

 

「もう二度と宿題手伝わなくていいんだな?」

「郁代。ステイ」

「はい! リョウ先輩!」

 

 俺が脅すとあっさり姉貴は陥落した。そして喜多さんも姉貴の言葉に従って陽キャオーラをしまい込んでおとなしくなる。

 

「後藤さん、わかりやすく説明するとね。姉貴が路上で演奏する→喜多さんが目撃する→愚かにも血迷って一目惚れする→虹夏ちゃんが姉貴に声をかけてバンドを結成する→姉貴を追っかけてバンドに加入する。以上です」

「す、すごくわかりやすい……」

 

 姉貴は演奏しているときだけはほんとに格好良いからファンがいること自体は不思議じゃないけど……()()()姉貴には変なファン(しかも女限定)ができることが多かったんだよね。

 

「そ、そうですか。み、みなさんでバンドを……」

 

 後藤さんはそう言いながら、膝の上に置いた手がぎゅっと拳を作っていることに俺は気が付いた。

 

 なんというか、薄々思ってはいたけど後藤さんってただのバンド好き少女って感じじゃなさそうなんだよね。

 

 俺が虹夏ちゃんに目配せすると、虹夏ちゃんも察したらしく、優しく笑って後藤さんに声をかけた。

 

「ねえ、ひとりちゃん。あたし達のバンド……興味ある?」

「……え?」

 

 虹夏ちゃんの問いかけに、後藤さんは顔を上げて虹夏ちゃんの目を真っすぐに見つめ返した。後藤さんはぱちぱちと瞬きしながら返す言葉を悩んでいるらしい。

 

「あ……えっと……」

 

 そして今度は俺に視線を向けてきたので、俺は笑顔で頷いた。

 

「あ、あります……す、すごく……」

 

 その言葉を聞いて、虹夏ちゃんはますます笑顔になった。そうだよね。自分達のバンドに興味を持ってくれる人がいるってすごく嬉しいよね。

 

「じゃあさ───」

 

 虹夏ちゃんが後藤さんに返事をしようとしたところで、なぜか姉貴が勢いよく立ち上がって虹夏ちゃんの言葉を遮る。

 

「よし、行こう」

 

 姉貴はただ一言そう言った。後藤さんはもちろん、喜多さんも虹夏ちゃんも姉貴の言葉の真意を理解できていないらしく、三人揃って口をぽかんと開けていた。

 

 俺? 理解できちゃったんだよ。残念ながら。

 

 ただ、今回ばかりは姉貴の意思に俺は賛同できてしまうんですよね。

 

「STARRYに」

 

 姉貴は首をかしげている後藤さんに向かってそう言った。

 

「すたー……りー……?」

「ライブハウス。私達が活動の拠点にしてる。……気になるでしょ?」

 

 そして姉貴はクスッと微笑んだ。その笑顔を見て喜多さんは少女漫画みたいに瞳にハートを浮かべている。姉貴も顔はめちゃくちゃ良いからな。狂信者からすれば垂涎ものですよ。

 

「き、気になりますっ……!」

「じゃあ決定。ここから近いし、案内してあげる」

「は、はいっ」

 

 姉貴の言葉に後藤さんは嬉しそうに返事をした。

 

 ……大丈夫? 後藤さんも姉貴信者にならないよね? 

 

 なったら困る。非常に困る。「後藤さんもリョウ先輩の娘になりましょう!」みたいな展開にならないことを切に願う。

 

「リョウに良いとこ取られちゃったね」

 

 虹夏ちゃんが意地悪く笑いながら囁いてきたので乱暴に頭を撫でてあげました。姉貴が美味しいとこ取りするのは今に始まったことじゃないので別に悔しくありません。ただ釈然としないだけです。

 

「あ、すみません……もう一つ気になることが……」

 

 立ち上がってみんなで移動しようとしたところで、後藤さんがおずおずと手を上げてそう言った。

 

 もう一つ気になること? 何だろ一体。

 

「あ、み、みなさんのバンド名は……?」

 

 あっ……。

 

 後藤さんの問いに虹夏ちゃんは困ったような表情で俺を見てくる。それに対し姉貴は渾身のドヤ顔を浮かべてこう言った。

 

「結束バンド」

「……え?」

「結束バンド」

 

 姉貴の言葉に後藤さんが聞き返すも、姉貴の口から出た言葉はさっきと変わらない。

 

 姉貴達のバンド名は冗談じゃなく、マジで「結束バンド」です。ただの駄洒落ですね。ひっどいネーミングセンスだよな。

 

 誰が考えたかというと……もちろん我がお姉様です。

 

 ドンマイ虹夏ちゃん。俺に任せてくれたらこんなことにはならなかったのに。

 

 ほら、後藤さんもどう反応していいかわからない微妙な表情になってるし。

 

「虹夏ちゃん。やっぱ『下北卍ニジンジャーズ』にすべきだって」

「……レンくんとリョウってほんと似た者姉弟だね」

 

 虹夏ちゃんに呆れられました。……なんで?

 




 原作とは全く違う流れでSTARRYに行きます。
 
 次回も完全オリジナルな流れになりそうですね。


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