【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 まだまだぼっちのターン



#21 続・Hello,(Goto)world!

「どうですか、虹夏先輩。友情・努力・勝利! でーす!」

「体育祭で見るヤツだよ! 可愛い系のデザインにするんじゃなかったの!?」

「可愛いじゃないですか! ほら、この辺のマークとか……」

「申し訳程度にニコちゃんマーク入れてるだけじゃん!」

 

 後藤さんの虚言についてはそれ以降一切触れず、各々は再びTシャツのデザインについて考えていた。喜多さんの考案したデザインは全然ロックバンドらしさがなく、虹夏ちゃんが言うように体育祭でクラスやグループが作るTシャツのそれだった。

 

「リョウは何か考えた?」

「可愛い系といったらこれしかない」

「可愛いけど全体的にキラキラしてて完全にプリキュアだよ!!」

「私達の髪色的にプリキュアはいける」

「弟から金借りるようなヤツがプリキュアになれるわけないじゃん!」

 

 日曜の朝からそんな生々しいプリキュア嫌だわ。というか、姉貴のデザインって結束バンドの四人と同じ髪色のプリキュアを適当に配置しただけじゃん。「結束バンド」ってロゴも完全にプリキュアと同じフォントになってるし。清々しいほどの著作権違反だわ。

 

「虹夏のだって、完全にビートルズのパクリ」

「パクリじゃなくてオマージュ! さすがにそのままにはしないから。四人のシルエットをもうちょっと格好良く……」

「虹夏先輩のデザイン、ロゴだけでも十分格好良いですよね」

「ほんと~? えへへ。ありがと」

「郁代、私のは?」

「虹夏先輩の百倍素敵です!」

「あたしが完全にかませ扱い!」

「プリキュアの黄色は主役じゃないけどあざと可愛いから『あざとイエロー』って呼ばれている」

「虹夏先輩にぴったりですね」

「プリキュアから離れろっ!」

 

 女三人がぎゃーぎゃー言い合っているのを尻目に、俺はふたりちゃんと一緒にジミヘンにどんどん芸を仕込んでいた。

 

「ふたりちゃんはプリキュア好き?」

「好きー! 一番好きなのは初代のキュアブラック!」

 

 ふ、ふーん。歴代プリキュアで最強と名高い初代が好きとか……ふたりちゃんって結構()だな。というか、初代なんて俺が生まれてくる前のシリーズだよね? なんでふたりちゃんが知ってるの?

 

「レンくーん! 三人のデザインだとどれがいーい?」

「それ、聞く意味ある?」

 

 虹夏ちゃんが尋ねてくるけど実質一択でしょこれ。

 

「聞くまでもなく私のデザインを採用とは。偉いぞレン」

 

 姉貴が頭を撫でてくるけど、実際姉貴のデザインも考え方自体は悪くないんだよな。キラキラ感をもっと減らして、メンバーの四人を可愛くデフォルメしてフォントを変えればいけそうだし。

 

 喜多さん? 選考外。

 

「とりあえず、第一弾としては虹夏ちゃんのデザインをベースにする感じでいいんじゃない?」

「ほらほらー! やっぱりあたしが一番でしょー?」

「レン。虹夏になんぼ積まれたんや? 枕か? 枕されたんか?」

 

 姉貴の発言を聞いて虹夏ちゃんが姉貴にアナコンダバイスを極めている。星歌さんの影響でプロレス技を覚えちゃってまあ……

 

 虹夏ちゃんと俺がそんな爛れた関係になるわけないでしょ。

 

「あ、お、ぐふぅ……」

「あ、ひとりちゃんが復活したわ」

「今回は時間かかったね~」

「このぼっちを撮影した方がよっぽど再生数を稼げる」

 

 およそ女子高生が発してはいけないうめき声を上げながら後藤さんが復活した。多分後藤さんは、死亡前に受けたストレスの度合いで復活の時間が長くなったり短くなったりするのでしょう。

 

 もっとデータを集めて、復活までの時間の測定を続けていけば傾向も見えてくるだろうし。

 

「んはっ!? わ、私は何を……」

「おはようぼっちちゃん。バンドTシャツのデザインを考えてたところだよ~」

「バンドTシャツ……はっ! そ、そうでしたっ。あ、わ、私もデザインが完成したところだったので……(なんで気を失ったのか全然覚えてないけど)」

「そうだったのね。じゃあ、ひとりちゃんの考えたデザインを見せてもらっていいかしら」

「は、はい。これですっ!」

 

 後藤さんがやけに自信満々な表情で立ち上がる。お? もしかして後藤さんって絵も得意なのかな。一日六時間をギターの練習に費やすくらいだし、芸術肌でもおかしくない。

 

 これは結構期待でき───

 

「ど、どうでしょうか?」

 

 だが、彼女がスケッチブックを開いた瞬間、俺は己の考えがいかに愚かで浅はかなのかを思い知るのだった。

 

 彼女が考えたデザインは……大量のファスナーに謎の鎖、裾は破けていて色はワインレッド。そして、極めつけは中学生男子が好きそうな謎フォントで書かれた英語の羅列。日本語訳したら意味の分からん言葉になっているに違いない。

 

 総じて……

 

 だっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっせ!!!!!!!!

 

「ご、後藤さん……こういうTシャツ、持ってたりする?」

「は、はい。あ、み、見ますか?」

 

 俺が返事をする前に後藤さんがニチャアと笑いながら洋服ダンスから何枚かのTシャツを取り出す。

 

 前に後藤ママがSTARRYで言ってた「変なTシャツ」ってこれかぁ~~~!!

 

「後藤さん……小学校の時に買わされた裁縫セットで『ブラックドラゴン』選んだでしょ?」

「よ、よくわかりましたね。そうです。ま、まだ残ってるんですよ。ふへへ」

 

 そして今度は押入れの中から思い出の裁縫セットを取り出す。あかん、懐かしさと悲しさで涙出そう。

 

「レンも同じの買ってた」

「あ、そうなんですね。や、山田くん……私と、お揃いですね。ふへっ」

 

 全然嬉しくないお揃い!!

 

 いや別にね。女の子だからって可愛い物を選べって言うつもりはないけど……ないけどさ!! 高校生にもなってそのセンスはヤバいでしょ!?

 

「じゃ、じゃあTシャツは私のデザインを採用ということで……」

 

 なんでこういうところだけ自信満々なの!? いつもの引っ込み思案はどこいった!? こんな場面で変な図々しさいらないから!! もっと大事な場面でそれを発揮してよ!!

 

 でも、めちゃくちゃ嬉しそうにしている後藤さんの笑顔を見たら……無下には……無下にはできないっ!! 

 

 俺ってほんとに甘いよなぁ。

 

 虹夏ちゃん、なんとかして?

 

 俺は助けを求めるように虹夏ちゃんを見るも、虹夏ちゃんは「無理」って言いたげな笑顔で俺に訴えかけてきた。

 

 喜多さんはドン引きしてスンとした表情になってるし、姉貴は初めからあてにしてない。

 

 くそっ、俺がやるしかないのか!? この純粋無垢な少女に……残酷な現実を突きつけることしかできないのか!?

 

 俺が葛藤していると、唐突にふたりちゃんが口を開いた。

 

「お姉ちゃんのが一番ダサいっ!」

 

 ふ、ふたりさんっ!?

 

「だ、ださっ……!? ダサくないよっ!! ふ、ふたりはまだお子様だからこのデザインの良さがわからないだけ。そ、そうですよね? 山田くんっ!」

 

 おおっと、ここで後藤ひとり選手からのキラーパスです。このパスの処理の仕方次第で今日の会合が地獄と化すか天国と化すか決まってしまうでしょう。

 

 個人的にはこのパスをスルーしてそのまま虹夏ちゃんに渡したいっ!!

 

 でも無理だよね。パスの受け手になりうるメンバーの三人全員がサッカーで言う「イタイヨーイタイヨー」アピールをしているが如く、俺からのパスを拒んでいるんだから。

 

 結束力はどこいった!? いや、ある意味三人とも結束していると言えなくもない。

 

 というか、こんな大事なパスをバンドメンバーじゃない俺に託すなよ!?

 

「山田くん……」

 

 後藤さんが悲しそうな目で俺を見てくる。ああっ、もう! そんな目をしないでよっ! なんか俺がすっげー悪いことしてる感じになるじゃん。甘やかしたくなるじゃん。庇護欲掻き立てられるじゃん!

 

 仕方ない……

 

 俺はふたりちゃんを降ろして立ち上がり、後藤さんに歩み寄って真っ直ぐに向かい合う。

 

「後藤さん」

「は、はい」

 

 名前を呼ぶと、彼女はビクッと震えた。さっきまでの図々しさはどうしたのかな?

 

「後藤さんのデザインは───人類に理解されるには早すぎるんだ」

「じ、人類には、早すぎる……?」

「そう。おそらく、これが正しく評価されるのは百年以上も先……少なくとも、後藤さんが生きている間は正当な評価をされないと思う」

「そ、そんな……」

 

 後藤さんがショックを受けたような表情になる。これでショックの方向性をデザインがとてつもなくダサいことからそらせたな、ヨシ!

 

「でも、芸術の世界ではよくあることなんだ。突出し過ぎた才能が、その時代では理解されない。悲運の天才達がこの世界には溢れている」

「悲運の、天才……」

「今では美術の教科書に当たり前に載っているゴッホ。彼もまた、その才能が死後に評価された天才なんだ───今の後藤さんのようにね」

「ゴッホって……あの『ひまわり』の?」

「うん。彼の才能は、世に出るには早すぎたんだ……」

「そんな人と、私は同じ……」

「だから後藤さん。今は評価されなくても、数百年後に誰かがそれを見つけた時……世界はひっくり返るんだ」

(レンくんがワンピースみたいなこと言い出した)

 

 虹夏ちゃんの心の中のツッコミが聞こえてきた気がした。お願いだからもう少し黙っててね。あとちょっとで言いくるめられるから。

 

「今はそれを、世に出す必要はない。でも、後藤さんが将来有名になって……生きる伝説として生涯を全うした後、そのデザインが見つかったらどうなると思う?」

「ど、どどどどどうなってしまうのでしょう!?」

 

 後藤さんがワクワクを隠し切れない幼稚園児みたいな瞳で俺を見上げてきた。

 

「死後もなお───永遠にその名を残し続ける伝説のロックスター『後藤ひとり』になるっ!!」

「!!!!!!!!!!!!」

 

 この二か月で後藤さんの性格は把握済みよ。彼女のどういうポイントをくすぐればこっちの思惑通りに誘導できるかなんて……簡単ではないけど、まあ、できる。

 

 これでも姉貴よりはだいぶ楽だよ。うん。

 

「げ、現代で評価されないなら仕方ないですね。……これは、未来のロック界のために、封印しておきます」

「それがいいよ。大丈夫、後藤さんの───ロックの意志を継ぐ者が必ずこれを見つけてくれるから」

「……はい」

 

 後藤さんは慈愛に満ちた表情で、己が生み出した人類には早すぎる迷作を眺めた後、名残惜しそうにスケッチブックを閉じるのだった。

 

 ………………セーーーーーーーーーフ!!!!!

 

 いやこれもう表彰もんだろ。後藤さんを一切傷つけることなく自分のデザインを諦めさせるって快挙でしょ。

 

「レンくん、あたしは君を信じていたよ!」

「レンくんったら本当にいい子なのね~」

 

 虹夏ちゃんと喜多さんが俺の頭をよしよししてくれました。

 

 女の子ってほんとにあれだな! 都合の良い生き物だよな!

 

「ひとりちゃんって……私服もこんな感じなの?」

「あ、いえ。私服はいつもお母さんが買ってくるんです。好みじゃないので、一度も着たことないんですけど」

「へー。どんな服を持ってるの? ぼっちちゃんの私服、すごく気になるなー!」

「え? あ、いや……ほんとに、あの……私には似合わないようなものばかりで……」

「そんなことないわよ。ひとりちゃんってすごく可愛いんだから、お洒落しないともったいないわよ?」

「そうそう。メイクとかわからなかったらあたし達が教えてあげるから」

「ひとりちゃん、香水は持ってる?」

「も、持っていません」

「じゃあ、今日は私のを貸してあげるわ。今度一緒に買いに行きましょうね!」

「あたしも行きたーい! ぼっちちゃんを可愛くコーディネートしてあげるよ」

 

 虹夏ちゃんと喜多ちゃんに押されて後藤さんはたじたじになっている。姉貴? 姉貴は出されたお菓子をもぐもぐ貪り食ってるよ。

 

「まずはひとりちゃんの私服チェックね!」

「あ、レンくんは外に出ててね? 今からぼっちちゃんのお色直しが始まるから!」

 

 お色直して……誰と結婚するのよ?

 

 どうやら、後藤さんがピンクジャージから私服に着替えるっぽいので俺は一時部屋の外まで退散します。

 

「レンくん、一人だと寂しいでしょ~? ふたりが一緒にいてあげる~」

「ふたりさん……」

 

 ふたりちゃんへの本日二回目のトゥンク……

 

 この子、さっきから俺の好感度を上げることしかしないな。でも、こんな純粋無垢なふたりちゃんもいつかは彼氏ができて結婚してお嫁に行くんだろうなぁ……

 

 俺はふたりちゃんを抱っこしながら、気の早すぎる悲しさを噛み締めながら階段を降りていくのだった。

 

 丁度いいし、後藤パパママの誤解を解いておくとしよう。

 

 

 

 

「───というわけでですね。俺はひとりさんの彼氏ではないので、そこは誤解なきようお願いします」

「あら~、そうだったの? ひとりちゃんと仲の良い男の子なんて、山田くんしかいないと思ってたから、私てっきり……」

「え? 山田くんはバスケ部じゃなかったのかい?」

「帰宅部ですよ。運動部に入ってたら、さすがにライブハウスでバイトなんてできないです」

 

 ふたりちゃんとジミヘンと一緒に一階に降りた後、リビングへと通された俺は後藤パパママにことのあらましを説明する。俺の思った通り、パパママも後藤さんの虚言には気づいていたらしく、俺のことを彼氏だと思い込んでいたらしい。

 

 あっぶねー。ちゃんと話をしておいてよかった。これで後藤さんが俺に対して変に意識しちゃってたらバンド活動や学校の成績に支障が出てたかもしんないし。

 

「ほらねー。ふたりが言った通りだったでしょー? お姉ちゃんにレンくんみたいなカッコいい彼氏ができるわけないよー」

 

 俺の膝の上で二人ちゃんが満面の笑みを浮かべて言う。あ、悪意はない……悪意はないんですよこの子には……

 

「でもふたり、万が一っていうことがあるだろう?」

 

 後藤パパがキッチンで料理を作りながらそんなことを言ってきた。

 

 フォローのつもりかもしれないですけど、全然フォローできてませんからね。そんなに、万が一って言わないといけないくらい後藤さんに彼氏ができないとでも……そうですね。まずはクラスメイトとしっかりコミュニケーションを取れるようになることから始めましょう。

 

「山田くんは、ひとりちゃんのことをどう思っているのかしら?」

 

 後藤ママ……穏やかそうな見た目でとんでもないことぶっこんできますね。俺はあなたの目が一瞬怪しく光ったのを見逃しませんでしたからね。

 

「どうって……いい子ですよね。自分の弱さや欠点をちゃんと理解していて、それを克服しようとひたむきに努力する姿勢。すごく好感が持てますよ」

「が、学校の先生みたいなこと言うのね」

 

 だって、俺が後藤さんにやってることって学校の先生みたいなことをめっちゃ甘々にした感じだし。

 

「私が思ってる答えとはちょっと……いやかなり違ったけど、ひとりちゃんに良い印象を持ってくれてるみたいでよかったわ~」

「大事なお友達ですし、彼女の努力を毎日そばで見ていたら自分もがんばらなきゃなって気持ちになるんですよ」

「そう言ってもらえて嬉しいわ~。ひとりちゃんはお友達……()()()()()()なのね?」

 

 口調は穏やかだったものの、後藤ママの言葉にはなぜかものすごい重力を感じてしまった。……まさかとは思うけど、俺に()()()()()()を期待しているわけじゃないよね?

 

「それにしても、初対面のひとりとよく会話が成立したね。あの子はこう……人と話をするのがすごく苦手な子だから」

「俺の姉に比べたら可愛いもんですよ」

 

 いやほんとに。

 

「君のお姉さん……確か、ベースをやってた子だよね?」

「ええ。俺の姉もなんというか……ものすっごくマイペースで猫みたいな女でして……」

 

 俺が普段、姉貴に対してどんな介護をしているかを後藤パパママに話す。姉貴に比べれば、自分からがんばろうとしている後藤さんとコミュニケーションを取るなんて難しくない。たとえ初対面であっても、だ。

 

「山田くんはお姉さんのことが大好きなのね~」

「え? まあ、そうですね。家族ですし、好きじゃなきゃこんなことやってられませんよ」

「……意外だ。君くらいの年齢の子はこういうことを言われると、もっと照れるような反応を見せると思ったのに」

「じゅーーーぶんに自覚してますからね。俺ってほんとに難儀な性格をしているなと常々思っています」

「いいことじゃない。ご姉弟の仲が良いのはとても素敵なことよ?」

 

 仲が良い。外からだとそう見えるのかもしれないけど……なんというかこう、俺達って普通の姉弟の距離感じゃない気がするんだよね。

 

 いや、姉貴みたいな女がそういないって言われちゃったらそれまでなんだけど。

 

「ねーねーレンくん」

「んー? どうしたの?」

 

 俺の膝の上でおとなしくしていたふたりちゃんが俺を見上げながら尋ねてくる。

 

「ふたりとお姉ちゃん、どっちが好き?」

 

 あらやだ。またとんでもないことを聞いてきましたよこの子。ほんとにふたりちゃんったらおませさんなのね。

 

「ふたりちゃんの方が好きだよー」

「ほんとー?」

「ほんとー」

 

 前にSTARRYで会った時もこんな感じの会話をしていたなと、俺は一ヶ月前のことを懐かしむように思い出していた。

 

「ふたりもねー。レンくんこと好きー」

「俺もふたりちゃんのこと好きー」

「一緒だねー」

「一緒だねー」

 

 なんやこの癒し空間。後藤家は俺にとっての理想郷(ユートピア)だった? 

 

 ジミヘンと戯れながらふたりちゃんを甘やかし、後藤さんの成長を温かく見守る……完璧な世界ですね。

 

「そうだ、山田くん。もうすぐ料理ができるから他のみんなを呼んできてもらえないかな?」

「はーい。わかりました!」

「ふたりも一緒に行くー!」

 

 そして俺はふたりちゃんとジミヘンを伴って、再び後藤さんの部屋へと戻るのだった。

 

 

 

 

「お嬢さん達ー。そろそろいいですかー?」

「ひとりちゃん、レンくんが来たわよ! お披露目しないと!」

「ま、ままままままだ心の準備が……あと三十分くらい……」

「ぼっちちゃんは可愛いんだから大丈夫だよ! レンくーん、今開けるからねー!」

 

 部屋の前で声をかけると、JK三人のきゃっきゃと戯れる声が聞こえてきた、相変わらず姉貴はこういう会話には参加しないな。まあ、姉貴がきゃっきゃし始めたらなんか別の病気を疑うけど。

 

「さあ、刮目するんだレンくん! スーパーぼっちちゃんだよっ!」

「あ、あ、あ……」

 

 虹夏ちゃんが勢いよく襖を開けると、喜多さんに後ろから肩を掴まれて立っている私服姿の後藤さんがいた。

 

「……なるほど。黒に近い紺のロングスカートと白ブラウスで清楚さと大人っぽさを表現し、赤のリボンが良いアクセントで可愛らしさも醸し出している」

 

 後藤さんは恥ずかしそうに頬を染めながら俯いている。そういう仕草が余計に庇護欲を掻き立てるんだよね。

 

「うん。すごく似合ってる。可愛いよ、後藤さん」

「あ、あへ……あへ……あ、ありがとう、ごじゃいましゅ……」

「熱い!! 熱い!! ひとりちゃんの体温が急激に上昇しているわ!!」

「ゆでだこみたいになっちゃった!! レンくん、やりすぎっ!!」

「虹夏ちゃんの教えを忠実に守っただけだよ?」

 

 あと、かなり饒舌になっちゃったのは正直、俺自身の照れ隠しだったりする。もちろん、可愛いと思ったのは本心だし、今の服装がよく似合っているっていうのもお世辞じゃない。

 

 ただ、それ以上に───ちょっとドキッとしただけ。

 

「ふっ、愛いヤツめ」

 

 そして、今まで会話に全く入ってこなかった姉貴が怪しく笑いながら俺を見る。……俺がドキッとしたことに気付いてるな。姉貴ってほんとにこういうところは鋭い。喜多さんと虹夏ちゃんに気付かれなかったのは不幸中の幸いだ。

 

「すごーい! お姉ちゃんが可愛くなってる! いっつも変な服しか着てなかったのにー」

 

 ふたりちゃんにまで変って思われるって……まあ、あのピンクジャージとバンドTシャツを学校に着てくるくらいだしな。まともに制服を着るように誘導しておいてほんとよかった。

 

「そうだ! 前髪を上げたらもっと可愛くなると思うわよ!」

「うんうん。ぼっちちゃんの顔ってすごく綺麗だから、隠すのはもったいないよ」

「あ、あ、あ……前髪は、前髪だけはなにとぞご勘弁を……」

 

 後藤さんは自分の顔を晒すことに拒否反応があるみたいだけど、喜多さんと虹夏ちゃんの言うことには賛成しかできない。後藤ママも後藤さんの前髪問題について嘆いていたし、ここでしっかり自分の可愛さに自覚と自信を持ってもらえたら。

 

 というのは、実に浅はかな考えだったと、俺はすぐに思い知ることになる。今日二回目だなこの展開。

 

「大丈夫よひとりちゃん。私達がもっともーーーっと可愛くしてあげるからね!」

「あたしがセットしてあげよう!」

 

 そして、虹夏ちゃんが後藤さんの前髪に触れた瞬間───

 

「ゔっ……!!!!」

 

 後藤さんは謎のうめき声を上げて全身が崩壊し、ピンク色の粉末になってしまった。……なんで!?

 

「お姉ちゃんが粉になっちゃったー」

「わんっ!」

 

 ふたりちゃんは全然動じてないな!? やっぱり家でも日常茶飯事なのか……

 

 初めて見る現象だけど、十分くらいすれば元に戻るでしょう。多分。

 

「ぐっ!?」

「虹夏先輩! どうしたんですか!?」

「な、なんか眩暈が……」

 

 その瞬間、嫌な予感がした俺はふたりちゃんを抱えて部屋の外へと飛び出した。

 

「ち、力が抜けていく……」

「わ、私も……な、何かしら、これ……思考が、極端に、マイナスに……」

 

 なぜか急激に部屋が暗くなり、虹夏ちゃんと喜多さんが弱弱しく畳の上に倒れる。完全にホラー現象じゃん!! やめてよほんとに怖いんだってこういうの!!

 

「レンくん大丈夫だよー。ふたりがいるからねー」

「わんわんっ!」

 

 俺が怖がっているとふたりちゃんが俺の頭を撫でてくれる。俺、決めた。ふたりちゃんを絶対嫁になんてやらねー! 彼氏? は? そいつ俺より良い男なの?

 

 そしてジミヘンも俺を元気づけるように足にすり寄ってくる。ええ子や。

 

「元気さだけが取り柄でごめんなさい……レンくんに激重感情向けてごめんなさい」

「ギター下手くそでごめんなさい……可愛すぎてごめんなさい……」

 

 二人が畳に倒れたまま、うなされるように何かを呟いている。喜多さん、実は結構余裕あるでしょ?

 

 それに、虹夏ちゃんも俺に重い感情を向けてるっていう自覚はあったんだね。大丈夫だよ、俺はちゃんと受け止めてあげるから。

 

「下の階から良い匂いがする……これは、唐揚げっ!!」

「何で姉貴は平気なんだよ」

「私にはこんなもん効かん」

 

 部屋の外に退避した俺達はともかく、後藤さんの近くにいた姉貴は何故か平気そうにしている。まあ、姉貴だからな。

 

「後藤パパが色々作ってくれたんだって」

「これは行くしかない。ちょうど小腹が空いていたところ」

「この惨状どーすんの!?」

「どうせ十分くらいしたら元に戻るに決まってる。それよりもお腹を満たす方が大事」

 

 うーん、どこまでいってもブレない姉貴。でも、十分くらいで元に戻るっていう見解は俺と同じだな。

 

 結論、時間が解決してくれる!!

 

 実際、後藤さんを異形から元に戻す有効な手段ってないんだよね。だから時間が経つのを待つしかないんだ。

 

 あと、ホラー展開が普通に怖いっていう理由が八割。漫画の主人公とかだったら、自らの危険を顧みず死地に飛び込んでヒロインを助けるかもしれないけど、ホラーはマジで無理。むしろ俺は真っ先に死ぬタイプ。

 

「レンくーん。ふたりもお腹空いたー」

「じゃあ、リビングに行こうか?」

「さんせー!」

「わんわんっ!」

 

 ふたりちゃんもひとりお姉ちゃんのことを全く心配していないみたいです。これなら逆に安心できるな。

 

 そして、ふたりちゃんを抱えたまま階段を降りようとしたところで、姉貴が俺に近づいて耳元でそっと囁いた。

 

「ぼっちにキュンとしてたこと───黙っててあげる」

 

 姉貴の言葉に、俺は自分の顔に熱が集まるのを自覚するのだった。




 後藤家が二話でも終わりませんでした。

 多分次で終わります。そろそろヨヨコを出したいので。 

 それでは、感想、評価、誤字報告、ここすき等お待ちしております!
 
 次回もよろしくお願いします。

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