後藤家訪問編最終章!
「すごく美味しい。レン、今度これ作って」
「そんなに慌てて食うなよ。あ、すみません。この唐揚げのレシピって教えていただけたりします?」
「もちろん。こっちの方は塩麹を使ってて……」
後藤さんの部屋の惨状を完全に無視し、俺と姉貴、ふたりちゃんとジミヘンは一階のリビングで後藤夫妻お手製の料理を楽しんでいた。
姉貴は目を輝かせて料理を次々と口に運んでいき、後藤夫妻は優しい眼差しで姉貴を見ている。わかるよ、その気持ち。姉貴って美味しいものを食べる時は、表情こそあんまり変わんないけど、本当に美味しそうに食べてくれるから作りがいがあるんだよね。
「山田くんはお家でお料理をするのかしら?」
「ウチ、両親が医者なんで帰りが遅いときがあるんですよ。そういう時は基本的に俺が作ってますね」
「料理ができる男の子はポイント高いわよ~」
「虹夏ちゃん……えーっと、ドラムの幼馴染の子に教わったんです」
「幼馴染?」
「はい。金髪のサイドテールで、ギターピックみたいなアホ毛をしている子ですね」
後藤ママが幼馴染という言葉に反応する。俺はそんな可愛い幼馴染を見捨てて美味しい料理を食べてるんですけどね。でも、そろそろ後藤さん達が復活してもおかしくない時間なんだけどな。
「レンくんがお料理して~……リョウちゃんは何するの?」
「私は食べる専門兼片付ける人。ちゃんと私も仕事をしてる」
「そうなんだ! リョウちゃん偉いね~」
「そう。私は偉い」
「ふたりもね~。お母さんのお手伝いするの~」
「偉い」
姉貴がふたりちゃんの頭を撫でている。意外や意外。姉貴って小さい子が苦手だったと思うんだけど……それだけふたりちゃんが人たらしってことか。この子の将来が恐ろしいですね。
「二人とも高校生で多感なお年頃なのに本当に仲の良い姉弟なんだね」
後藤パパの言葉に俺と姉貴は顔を見合わせる。まあ、ね。俺が甘やかしてる部分もあるけど、それ以上に伊地知姉妹の前では仲の良い姉弟であり続けたいっていう思いも強いんだよな。彼女達はお母さんを亡くしてから相当に苦労してきたから。
「レンは私という偉大な姉をもっと尊敬すべき」
「……ほんとはふたりちゃんみたいな妹が欲しかったんだよなぁ」
「山田姉弟の絆はもうボロボロ」
結束バンドといい、すぐに絆がボロボロになるな。
「じゃあ、ふたりがレンくんのこと───お兄ちゃんって呼んであげようか?」
ふたりさん? それ、色んなことを計算していってます?
いやいや、そんなはずがない。ただ純粋に、俺が言った何気ない一言に応えようとしてくれているだけだ。そうだよね?
あと、後藤ママの目が一瞬喜多さんみたいに光ったのを見逃しませんでしたからね!
「ん~……お兄ちゃん呼びはしなくてもいいかな~」
「え~? どうして~? ふたりもレンくんみたいなかっこよくて優しいお兄ちゃんが欲しいのに~」
「どうしてって……ねえ?」
困った。非常に困った。姉貴はこの状況を楽しんでるみたいで助けは期待できないし。というか、そもそも姉貴がさっき
だってふたりちゃんに「お兄ちゃん」って呼ばれるってことは……ねえ?
あーっ! やめやめっ! 後藤家に来てから調子が狂わされまくりだな、俺。深く考えすぎだ。こういうのはシンプルに答えるに限る。
「ふたりちゃんには『レンくん』って呼んでほしいから」
「そーなの?」
「そーなの」
姉貴が俺の隣で鼻で笑っているのがわかった。お前……家に帰ったら覚えとけよ。
「も~。しょうがないなぁレンくんは。ふたりのことが大好きなんだからぁ」
「そうだね~。大好きだよ~」
ふたりちゃんはご機嫌な様子で俺の頭を撫でる。これでなんとか誤魔化せたな、ヨシ!!
でも、後藤ママの笑顔がなんかすごい圧力がある。何も言わないのが余計に怖い。後藤パパは「ウチの娘と仲良くなってくれて嬉しい」って感じでうんうん頷いてるし。
後藤パパに関しては何も問題ないな。後藤パパに関しては。
後藤ママは……うん。娘を心配する親心だという感じに受け止めておきましょう。ただの自意識過剰なら俺が恥をかくだけで済むから。
そう考えていたら、何やら階段をバタバタと降りてくる複数の足音が聞こえてきた。お? 三人とも復活したかな。
「あたし達を置いて先に美味しい物食べてるなんて酷くない?」
「ごめんね。でも、あの時の俺達にはバイオハザードに対して封じ込め策を実行することしかできなかったんだ」
「レンくん、見損なったわ!」
「真っ先に降りようって言ったのは姉貴だよ?」
「許したわ!」
「喜多ちゃん!?」
清々しいまでの掌返し。でも、事実だからね。最初に言い出したのは姉貴だから。俺はそれに便乗しただけで……まあ、責任の何割かは俺にある。それは認めよう。
「みんなの分もたくさんあるからどうぞ」
「はーい! いただきまーす!」
「ほら、ひとりちゃんも」
「あ、はい」
「お姉ちゃーん。こっちおいでー!」
ふたりちゃんはそう言って、手持ち無沙汰にしてオロオロしていた後藤さんを自分と俺の間に座らせる。何をそんなにびくびくしてるのかな? ここ、自分のお家でしょ?
後藤さんが隣に座ると、ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐった。喜多さんに香水を借りたのかな?
「はい、後藤さん。どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
俺は取り皿に後藤さんの分の唐揚げやピザ、ポテトなどを取り分けて渡す。
「飲み物は何が良い?」
「あ、コーラで……」
「おっけー」
そしてコップにコーラを注いで渡してあげた。……はっ!? 今の、ほとんど無意識の行動だった。介護癖というか、もはや条件反射の域に達してる気がする。
「ねーねー、お姉ちゃん」
「どうしたの?」
「レンくんがねー。お姉ちゃんよりもふたりの方が好きなんだってー!」
「ふごっ!?」
ふたりちゃんの発言に後藤さんがコーラを吹き出しそうになった。さすがにこんなところで乙女の尊厳を崩壊させるわけにもいかないので、俺はティッシュを渡す。
でも、よく考えたら普段の奇行やら爆発四散やら液状化、粉末化とかの七変化で乙女の尊厳を投げ捨てている気がするな。
「げほっ、ごほっ!! ふ、ふたり……あ、あんまりそういうこと言って山田くんを困らせたらだめだよ?」
「困らせてないもーん。ねー、レンくん」
「ねー」
俺は苦笑いを浮かべながら答える。後藤さん、そんなに痙攣しながらこっちを見ないでよ。五歳の子が言うことだよ? 真に受けすぎだって。
(ふ、ふたりは五歳だけど、十年後には十五歳と二十五歳の山田くん……「お姉ちゃん。私、レンくんと付き合うことにしたんだ」「よろしく、後藤さ───いや、お義姉さん」ぐわああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!? 普通にありえそうな未来で怖い!! 妹が私を差し置いてイケメンと付き合ってしまうっ!! そして結婚!! 幸せそうな妹のウエディングドレス姿!! 独身の私!! 誓いのキスをする妹!! 独身の私!! ブーケを投げる妹!! 独身の私!! 名前の通り独り身だYO!! 後藤ひとりだYO!!)
なんか、後藤さんがとんでもない勘違いをしている気がする。
「虹夏ちゃーん!」
「何かな~?」
そんな俺達の胸中は露知らず、ふたりちゃんはソファからぴょんと降りて、今度は虹夏ちゃんに抱き着くように隣へと座る。
「虹夏ちゃんがレンくんにお料理教えてあげたの?」
「そうだよー。レンくんのお姉ちゃんがダメダメさんだから、レンくんががんばったんだー」
「リョウちゃん、ダメダメさんなの? ふたり、さっき偉い偉いってしてあげちゃった。リョウちゃーん! さっきのなしー!」
「悲しい」
ふたりちゃんの言葉に俺は思わず吹き出した。「さっきのなし」は反則でしょ。そして姉貴はわざとらしく泣き真似をしながら俺にもたれかかってくる。食い辛いからやめろや。
「喜多ちゃんはダメダメな子~? それともいい子?」
「私はすっごくいい子よ。それとね、ふたりちゃん。リョウ先輩はダメダメなんかじゃないわ。私はリョウ先輩の娘だからわかるの」
「え!? リョウちゃんって、喜多ちゃんのお母さんだったの!?」
「そうよ。それと、虹夏先輩も私のお母さんなの」
「こらっ! 唐突にあたしを巻き込むな!」
「虹夏ちゃんも!? じゃあ、お父さんは?」
「……複雑な家庭なのよ」
「ふくざつなかてい……ふたり、しってる。テレビでやってたヤツだ……」
喜多さんは純粋無垢な幼女に何を吹き込んどんねん。このくらいの年齢の子はほんとにそういうこと信じちゃうよ?
「じゃ、じゃあ……レンくんはどうなっちゃうの?」
「レンくんは、私のおじさんになるわね」
「……ふたりのお兄ちゃんなのにおじさんになっちゃった」
「あら。レンくんがお兄ちゃんになってくれたの?」
「お兄ちゃんって呼んでいい? って聞いたら『レンくんって呼んでほしい』って言われちゃったの。でも、ふたりにはわかる。レンくんは照れ屋のおませさんだから、ふたりにお兄ちゃんって呼ばれるのが恥ずかしいんだ」
今度は隣で姉貴が噴き出していた。なんかちょっとムカついたので肘で小突いておく。というか、ふたりちゃんやりたい放題だな! 口もめちゃくちゃ達者だし! ほんとに五歳児なのあの子!?
「ちょっと待ってね~。状況が複雑になってきたわ。ふたりちゃん、ペンと紙ってあるかしら?」
「あるよー。はい、どうぞ」
「ありがとう」
喜多さんは今度は何をやらかす気や。虹夏ちゃんはジト目で喜多ちゃんを見ながら料理を食べてるし。後藤さんは念仏みたいなものを隣でブツブツ唱えてるし。
あなた……俺がさっきドキッとした女の子と本当に同一人物ですか?
「リョウ先輩がここ、虹夏先輩がここ。その間に娘の私がいて……」
「レンくんはリョウちゃんの弟だからここ!」
「そうね。じゃあふたりちゃんは……」
「レンくんがお兄ちゃんだからふたりはここね!」
なんか二人で紙にゴソゴソ書いてますね。喜多さんも一回スイッチが入ると暴走して止まらないからなぁ。虹夏ちゃんも諦めちゃってるし。
「でもこれだとお姉ちゃんが仲間外れになっちゃうよ?」
「んひぃっ!?」
今度は後藤さんが悲鳴を上げる。「仲間外れ」という、後藤さんのトラウマワードを容赦なく使いますねふたりさん。
「お姉ちゃんはふたりのお姉ちゃんだから……」
「ひとりちゃんはレンくんより誕生日が早い。つまり、ひとりちゃんの方がお姉ちゃんね」
「できた! ふたりのお兄ちゃんがレンくんで、レンくんのお姉ちゃんがお姉ちゃんで、お姉ちゃんのお姉ちゃんがリョウちゃんで……」
「お姉ちゃんがゲシュタルト崩壊しちゃう!!」
あ、とうとう虹夏ちゃんからツッコミが入った。何を書いてたかと思ったらツッコミどころしかない家系図かい。もうね、喜多さんの言う通りにすると人間関係複雑骨折どころじゃないよ。そもそも骨がないからね。
「あっ! ふたりとお姉ちゃんが喜多ちゃんのおばさんになっちゃった!」
「ふたりおば様ね」
「おば様……ちょっとカッコいいかも……」
「喜多ちゃん、五歳児のおば様ができちゃったけどそれでいいの!?」
「これが私の幸せ家族計画ですっ!」
「何一つ実現しないガバガバ家族計画!!」
やっぱり喜多さん、とんでもなくやべーヤツだったわ。姉貴もやべーし、後藤さんも色々やべーし……虹夏ちゃんしか勝たんっ!
「あ、あの……山田くん」
俺もツッコミを放棄して後藤パパの料理に舌鼓を打っていると、後藤さんが俺の服をくいくいと引っ張ってきた。どうしたのかな?
「(わ、私はふたりよりも背が高くて歳も上で髪も長くてギターも弾けます)」
突然後藤さんが俺の耳元で変なことを囁き始めた。
え? 何何? 俺にアピールしたいの? さっき「お姉ちゃんよりふたりの方が好き」って言われたことに対抗心を燃やして?
……ちょっとこの子可愛すぎない? アピール内容は別として。
「(あと……あと……)」
「(あと?)」
「(わ、私の方が……)」
さてさて、今度は何をアピールするつもりなのかな?
「あ、あうぅ……」
俺が内心ワクワクしていると、後藤さんは何も思いつかなかったのか、顔を赤くして俯いてしまった。
ああ、ヤバい。庇護欲が掻き立てられる。全力でドロッドロに甘やかしてあげたい。なんでこう……この子は俺のツボを的確についてくるのかな。
(ある意味レンくんが一番ヤバい)
(私よりレンくんの方がヤバいわね)
(ぼっち。レンをキメ過ぎると後戻りができなくなるよ?)
(言えない言えない言えない~~~~~っ!! 「私の方がふたりより胸が大きいですよ」なんて絶対言えない~~~~~っ!!)
こんな感じで、後藤家のみなさんとの心温まる昼食会はつつがなく進行していくのだった。
「さあ! お腹もいっぱいになったし、午後からはミーティングをやっていくよ」
「眠い」
「てめー作曲担当だろ!? リョウの曲とぼっちちゃんの歌詞の確認が最優先なんだからね!」
みんなでお昼ご飯を食べた後、再び後藤さんの部屋に戻ってバンドミーティングを開始する。ふたりちゃんもお腹がいっぱいになって眠そうにしていたんだけど……
「まだレンくんと遊びたいのー!」
と言って、今は俺の膝の上で半分寝ながらタブレットで動画を観ている。午前中フルパワーで遊んだからな。そろそろおねむの時間でもおかしくない。
「ぼっちの歌詞……陰気だけどぼっちらしさがよく出てる。特定の人に深く刺さるんじゃないかな」
「私、ここのフレーズ好きです!」
「リョウの曲もめちゃくちゃ格好良いじゃん!」
「ぼっちの歌詞を見てたらインスピレーションが刺激された」
曲のタイトルは「ギターと孤独と蒼い惑星」か。歌詞を見せてもらったけど、良い感じに後藤さんの不満がぶちまけられたような歌詞になってる。
曲も結構アップテンポなのな。それに、聴いてる限り音程は割と低い。まあ、喜多さんの声域なら大丈夫か。
「よーし、じゃあ明日からはこの曲を練習して、六月末締め切りのTokyo Music Rise参加用の収録もするからね!」
「それって、確かレンくんが見つけてくれたコンテストですよね?」
「正確には俺じゃなくておお───つっきー先輩が教えてくれたんだ」
思わず大槻先輩って言っちゃうところだった。危ない危ない。
「気になってたのだけど、つっきー先輩って何者なの? ウチの生徒じゃないわよね」
「俺が尊敬するバンドマンだよ。多分、そのうち対バンとかする機会があるんじゃないかな」
「へー……それは楽しみね!」
「ぼっちちゃん並みのテクと喜多ちゃんのレベルをMAXにした歌唱力なんだって」
「……漫画の主人公かしら」
虹夏ちゃんと同じこと言ってら。そういや、大槻先輩の新曲の制作状況はどうなんだろう。最近は邪魔しちゃ悪いと思ってあんまりロインしてなかったけど。……あとで連絡してみよう。
「ウェブ投票が七月七日からだから、締め切りから一週間以内に音源審査の結果が出るみたいだね」
「音源審査に通過すると、二週間のウェブ投票……その中からグランプリを一組、もしくは二組を決める……」
「ら、ライブ審査とかはないんですね」
「みたいだね~。各地域のグランプリ受賞者は八月二十九日に東京ビジュアルアーツメディアホールで行われるファイナルステージへ進出……」
「専門学校のホールでやるんですね」
会場の規模は新宿FOLTよりも小さいかな。収容人数四百人って書いてあるし。まあ、それでもSTARRYに比べたら遥かに大きいけど。
やっぱり結束バンドがこういう大きい会場で演奏してる姿を観てみたいよなぁ……。吉田店長にお願いして……いやいやいや。全然実力が伴ってないのに無理だろ。せめてTokyo Music Riseのファイナルに残れるくらいじゃないとお願いなんてできないな。
「今年の未確認ライオットのファイナル審査は……八月七日だね。みんな! この日は予定を空けておいてね。来年のために下見に行くよ~!」
「虹夏先輩ったら気が早いのね。でも、そのくらい強い気持ちじゃないとメジャーデビューなんてできないですもんね!」
(す、STARRYよりも大きい会場……。おえっ、吐き気がしてきた)
みんなが前向きに、そして本気で取り組もうとする姿勢は素直に称賛できる。ただ、これから彼女達に必要なのは、漠然と大きい目標を掲げるだけじゃなくて、その目標を達成するために具体的にどう活動していくかということだ。
「虹夏ちゃん。今後の活動スケジュールについては考えてる?」
「大まかにはね。六月いっぱいはTokyo Music Rise用の練習、それと七月にSTARRYでライブをする予定だから再来週にお姉ちゃん達の前でオーディションを受けるよ」
「お、オーディションですか……!? て、店長さん達の前で……!?」
「五月のライブはそんなことしてませんでしたよね?」
「あの時は特別だったんだ。これからお姉ちゃんは、私達を身内じゃなくて一バンドマンとして扱うつもりだよ」
「な、なんだかライブより緊張しそうですね」
まあでも、星歌さんは口ではああ言いながらもなんだかんだで甘々だからな。俺も人のことは言えないけど。
「STARRYでのライブもそうだけど、路上ライブも積極的にやっていきたい」
「そうだね。私達に足りないのは技術もそうだけど、何よりも場数! 経験を積んで積んで積みまくって『下北に結束バンドあり!』って言われるくらいになろう!」
ほーん。姉貴も姉貴でちゃんと考えてるのね。路上ライブはお金がかからないからそこは大きなメリットっちゃあメリットだけど。
「みんな、路上ライブはいいけど熱中症には気を付けなよ。これからどんどん気温が上がって三十五度とか平気で越えてくるから」
「そこはレンがちゃんとみんなの水分補給とかを管理してくれたらいい」
「なんで俺なんだよ。自分で管理しろそのくらい」
「可愛い女子高生四人を炎天下でライブさせて……自分だけ涼しい屋内で過ごすつもり?」
「姉貴さぁ……そんな罪悪感を刺激する言い方を……」
他の三人の顔を見ると「え? 手伝ってくれるんじゃないの?」みたいな表情を浮かべていた。
あれ? 俺って一応……結束バンドの後方支援者面してる最古参ファンくらいの立ち位置だったと思うんだけど。
あるぇー?
「レンくん、他に何か意見はないかな?」
「え? うん、そうだね。Tokyo Music Riseが終わるまではそれでいいとして……来月のSTARRYでのライブはオリジナル一曲とカバー二曲でいくの?」
「いや、ライブまでにもう一曲作る。ぼっちの歌詞は二曲分貰ってるから、あとは私ががんばるだけ」
「姉貴、いけるの?」
「……心配?」
姉貴がクスッと笑って尋ね返してくる。なんか、俺にシスコン発言を期待してるみたいだけど、俺が心配してるのはそこじゃないからね?
「今月、期末テストあるよ」
「ひあっ!?」
なぜか姉貴ではなく後藤さんが激しく反応した。バンド活動もいいけど、学生の本分は忘れないでね? 留年だけはマジで洒落にならないから。
「……みんなで勉強会、しようか」
「はい。その方がいいと思います」
成績優秀組の虹夏ちゃん&喜多さんの一声で結束バンドの勉強会が実施されることが決定しました。
「後藤さん、そんなに心配しなくても俺がいるから大丈夫だよ」
「ふ、ふふふふふ不束者ですがお手柔らかによろしくお願いしましゅ」
姉貴はちょっと……虹夏ちゃんに任せきりになるな。俺は後藤さんの勉強を見るので手いっぱいになりそうだし。いや、俺が姉貴の勉強の面倒見ること自体がそもそもおかしいよな。
「まあ、テストについては一旦置いておこう……MVやミニアルバムについてはどう考えてる?」
「どっちも結構お金かかるよね~。あたしとしては、まず一曲分のMVを作ってみたいと思ってる」
「大体、三十万円くらいあればできるから……STARRYで月一回ライブをやるとして三万円。それとは別でみんなのバイト代を月に一人一万円ずつ積み立てるとして、ひと月で四万円。三十万円溜まるのは七か月後か」
「じゃあ、年明けくらいからMVを作ることを目標にしよう! その間に練習やライブを重ねて、実力を磨かなきゃね」
「半年後なら、曲も増えてる。私とぼっち次第だけど」
「あ、ががが、がむばりますっ!」
「MV製作の業者か~。……つっきー先輩に聞いてみようかな」
「つっきーさんが万能すぎる!!」
だって、こういうバンド関係では一番頼りにしてるし。あ、志麻さんや吉田店長に聞いてみるのもいいな。イライザさんは……あの人は可愛いからいいんだよ。廣井さん? 禁酒してから来てください。
「虹夏せんぱ~い。私は何をすればいいです?」
「喜多ちゃんはSNS担当大臣に任命したから、ライブや新曲の告知、Tokyo Music Riseに応募するっていうことを発信してほしい」
「わかりました! 任せてください!」
「喜多さん、ちなみに今って結束バンドのSNSってどうなってんの?」
「え? こんな感じよ」
喜多さんのスマホをのぞき込むと、トゥイッターやイソスタには流行りのメイクやおすすめの化粧品の投稿ばかりしてあった。……バンド活動どこいった?
「だ、だって……何を投稿していいかわからなかったから」
「まあ、確かに。……ってか、フォロワー数すごいな!? 五千人超えてんじゃん!」
「何だか知らない間に増えてたわ」
「このフォロワーさんの内、どれだけがロックバンドのアカウントと認識しているのか……」
「うーん……百人くらい?」
「可愛い笑顔で誤魔化そうとするな」
「てへっ。レンくんに可愛いって言われちゃった」
「はいはい。郁代ちゃんは可愛いね」
「名前で呼ばないで」
「姉貴は呼んでるじゃん!」
「私のことを名前で呼んでいいのはリョウ先輩だけよ」
彼氏ができたらどーすんの? とは思ったけど、これ以上は話が脱線しそうなのでやめておこう。あと、ふたりちゃんが一言もしゃべらないけど、完全に寝ちゃってるよねこれ。
「あ、そうだ。来月のライブ、一曲はカバーって言ってたけど、曲は決めてあるの?」
この前ライブでやった三曲のうちのどれかにするのか、はたまたこれから新しく練習するのか。
「ネタ曲にしようと思ってる」
「なんでネタにする必要があるんだよ!?」
「だって、結束バンドって名前がもうネタだからみんなの期待に応えなきゃと思って」
「応える方向性が完全に間違ってるだろ!?」
「結束バンドの名付け親として……ここは譲れないっ!!」
「意味わからんとこで頑固さを発揮するな!!」
姉貴に聞いた俺がバカだった。ネタ曲っていってもどうするんだよ。そういうのはシークレットトラックに入ってるからいいのであって、それを前面に押し出したら───
そこで俺は気付いた。気付いてしまった……
「まさか、姉貴……」
「今はまだ、その時ではない」
「意味深に言うだけ言って大したこと考えてない表情っ!!」
実際、すっげーくだらないこと考えてると思う。まあ、お好きにどうぞ。ただ、ネタ曲をやるなら恥を捨てて振り切って全力でやらないと余計に恥かくからな。俺はもう……姉貴の中学時代の文化祭お通夜ライブみたいな空気は御免だよ。
そして、俺達がこれだけ喋っていてもふたりちゃんは全く起きる様子がありません。……小さい子って、寝てると体温上がるよな。
俺はふたりちゃんの重みと体温を感じながらそんなことを考える。
「俺の言いたいことはこんなところかな」
「……そこまで具体的かつ客観的な意見をくれてさ。『俺、ただのファンですよ?』ムーブは無理だと思うよ」
「だって求められたら全力で応えたいじゃん」
「レンくんのね~。そういうところはね~。すごく良いと思うんだけどね~」
虹夏ちゃんがニコニコ笑いながらそんなことを言ってくる。
「これから、苦労するよ?」
「もう十年以上してるから……」
俺がそう言って姉貴を見ると、なぜかこの女はドヤ顔を浮かべてやがった。
「じゃあ俺、ふたりちゃんを下の部屋で寝かせてくるよ」
そして、眠っているふたりちゃんを起こさないように抱き上げて部屋を出る。……俺も将来、お昼寝している娘をこうやって運ぶ日が来るんだろうなぁ。
ふたりちゃんの寝顔を見ながら、俺はものすごく温かい気持ちになるのだった。
「さっきのレンくんの顔、見た?」
「見ました見ました! すっごく優しい笑顔でふたりちゃんを抱っこしてましたね!」
「レンは家だといつも私にあんな感じ」
「堂々と嘘つくなっ!!」
「男の子のああいうところを見ると……こう、心にくるものがありますよね」
「ね~。ちょっとドキッとするよね」
「すべては私の教育の賜物」
「教育したのあたしだよっ!」
「洗脳の間違いじゃないですか?」
「人聞き悪いこと言わないでっ!」
(わ、私もお昼寝してたらあんな風に優しく抱っこして運んでもらえるかな? あ、でも抱っこされたらその瞬間に死んじゃいそう……。し、死なないように抱っこのトレーニングを……でも抱っこされたら死んじゃう……あれ? 詰んでいるのでは?)
その後、ふたりちゃんを後藤夫妻に引き渡して部屋に戻ったら、なんか知らんけどおかしな空気になってました。まーた姉貴が変なこと言ったな。
そして、後藤家での実りある一日が終わり、翌日からバンドメンバーはTokyo Music Riseへ向けて、ますます練習に熱が入る。カバーとオリジナル曲では、勝手が全然違うから苦戦していたみたいだけど、それでもなんとかテスト期間に入るまでには収録を終えることができた。
STARRYでのオーディションも問題なし。バンドとしての成長がよく見られたと、星歌さんは言っていた。……本人達には直接言わなかったみたいだけど。このツンデレアラサーめ。
んで、問題の期末テストは……
「や、山田くん……!! や、やりました……!! 全科目の平均点は五十.一……ですっ!!」
「しゃあっっっっっ!!」
それを聞いた瞬間、俺は後藤さんの両手を握って上下にブンブンしたんだけど、やっぱり彼女は死んでしまいました。……俺、後藤さんのキルスコアが何気に高いかもしれない。
ちなみに最高点はコミュニケーション英語の五十九点です。
日本語でのコミュニケーションに難のある子が、この科目で最高点を取るって……なんだか感慨深いよね。これは泣いても許されると思う。後で聞いた話だと、後藤パパは号泣してたらしい。
姉貴も相変わらずの一夜漬けで平均点が九十点オーバーという意味の分からん成績を収め、現時点では留年の危機を回避することができた。
来てる!! 完全に流れが来てる!!
今の俺達には───結束バンドには確実に追い風が吹いている!!
この勢いのままTokyo Music Riseのグランプリ獲るぞおおおおおお!!
「え? 予選落ち?」
ウェブ投票にすら進めませんでした。
現実は無常である。
あ、ちなみにSIDEROSは予選を通過したみたいです。
後藤家訪問編というよりふたりちゃん編でしたね。この子は場を引っ掻き回すのに適しすぎている。
レンくんがぼっちちゃんをちょっと意識する描写を入れましたが奇行で全部台無しになっています。
そして予選落ちオチ
これは最初から決めてました。ここまで割とトントン拍子で進んできたから、苦い経験をさせたかったので。
次回はもう一人のぼっちに会いに行きます。ヨヨコ回です。
それでは感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!