SIDEROS回!
結果発表当日、就活の不採用通知のごとくお祈りメールが虹夏ちゃんのスマホに届き、STARRYではバンドメンバーの四人が意気消沈していた。
うん……気持ちはわかる。なんかイケる感じの雰囲気だったもんね。結束バンドの初オリジナル曲が完成して「音楽業界に殴り込みじゃー」って意気込んだところで出鼻をくじかれた感じ。
「まあ、現実はこんなもんでしょ。むしろ、今の結束バンドの実力を客観的に評価してもらった結果だよ」
「わかってる……!! わかってるけど……ショックなもんはショックじゃん!!」
「す、すみません……もっと早く、歌詞を完成させて練習時間をたくさん確保できていれば……」
「それを言うなら、私も作曲に時間がかかった」
「私がもうちょっとしっかり歌えてたらなぁ……」
いつもは元気な喜多さんもさすがにへこんでいるらしい。姉貴も無表情だけど責任を感じてるし、後藤さんは顔面崩壊しかけてるし、虹夏ちゃんは……またちょっとケアが必要かもしれないな。
今日はこのままスタ練の予定だったけど、今の四人を普通にスタジオに放り込んでも実のある練習ができるとは思えない。……しゃーないな。
「はいはい。四人とも、顔上げてー。ちゅうもーく!」
俺は両手をパンパンと叩いて四人の視線を集める。このままお通夜になってても良いことないし、フォローしましょうかね。
「今の率直な気持ちを、一言でっ! 虹夏ちゃんから!」
「……悔しいっ!」
「辛いっ!」
「あ、あ、か、悲しいです……」
「小腹が減った」
約一名、変なことを言ってたけどまあ大体みんな似たようなもんでしょう。
「それでは、今から三十分間あげます。今のその滾りに滾って抑えきれない感情を思い切り演奏にぶつけてきてください。周りに合わせる必要はありません。ただ感情の赴くままに、スタジオで思い切り発散してきてください」
これは大槻先輩や、志麻さんがよくやっている方法だ。特に志麻さんはライブの後に、怒り狂ってドラムを叩きまくることで気持ちを整理し、技術が格段に向上したらしい。まあ、怒りの原因は廣井さんなんだけど。
「三十分経ったらもう一度動画を見直して、反省会をして、ちゃんと練習しましょう」
反省会は絶対必要だ。今回どうして予選落ちをしたのか。それをしっかり分析する必要がある。しかも、予選を通過したバンドはTokyo Music Riseの公式ページに動画がアップされているから、そのバンドの演奏を観て勉強するのも悪くない。
「レンくんの言う通り。いつまでもウジウジしてても仕方ないよね。あたし達の今の熱い思いを思い切りぶつけてやるぞーっ!!」
「私も今、周りなんか気にせず無性に歌いたいですっ!」
「わ、私も……!」
「私は小腹が減っている。レン、なんか持ってない?」
「……カロリーメイトやるから食っとけ」
「バニラ味がよかった」
贅沢言うなボケ。なんだかんだチョコが一番美味しいんだよ。
姉貴はカロリーメイトをもそもそ食いながらスタジオへ向かう。とりあえず、これである程度は気持ちを切り替えられるかな。
そして、四人がスタジオに入った、かと思いきや虹夏ちゃんだけが俺の方へ戻ってきた。
「レンくん、ありがとね。ほんとはあたしが言わなきゃいけなかったのに……」
「だって虹夏ちゃんが一番辛いでしょ? 俺も虹夏ちゃんと同じ立場だったら、さっきみたいなことは言えなかったと思う」
客観的な立場だからこそ言えることがある。ただ、虹夏ちゃんもそういうことがわかってて、それでも俺にちゃんとお礼を言いたかったんだろうな。
俺は笑顔で虹夏ちゃんの頭をぽんぽんと撫で「スタジオに行っておいで」と促した。
「レンくん」
「んー?」
名前を呼ばれたかと思うと、虹夏ちゃんがぎゅーっと抱き着いてきた。……珍しい。二人きりじゃないのに、外でこんな感じになるなんて。
「……ん。元気出たっ! じゃあ、スタジオで暴れてくるねっ!」
「物は壊さないでね」
虹夏ちゃんは俺から離れて「わかってるよ~」と手を振りながら小走りでスタジオへと入っていく。あれなら大丈夫そうかな。
結束バンドのケツも叩いたし、次は星歌さんに声をかけないと。
「へこんでますね」
「へこんでねえ。ばか」
星歌さんはカウンターに突っ伏してぶっきらぼうにそう言った。ほんとにこの姉妹は……
「虹夏ちゃんみたいにぎゅってしてあげましょうか?」
「そんなことされたら……人として終わってしまう」
「……よしよし」
「だーっ!! 頭撫でんなアホ!! お前ほんとそういうとこだぞ!?」
「自分の半分しか生きていない小生意気なガキに慰められる気持ちはどうですか?」
「私を慰める気あんの!?」
星歌さんはぎゃーぎゃー言ってるくらいがちょうどいいんですよ。素直な虹夏ちゃんとは違って意地っ張りなんだから。
というか、この世界の厳しさはあの子達以上に星歌さんの方がよくわかってるでしょ。
「それはそうなんだけどな。虹夏の悲しい顔を見るのはやっぱ、辛い……」
星歌さんが言うと重いっすわ。
「だったら素直に慰めてあげたらいいのに」
「そんなことしたら、私が先に泣く」
ですよね。未だにぬいぐるみ抱っこしながらじゃないと眠れない可愛い可愛いアラサーですもんね。
「俺は今から用事あるんで出ますけど、あの子達が戻ってくるまでに、その辛気臭い顔をどうにかしておいてくださいね」
「あれ? 反省会するんじゃねえの?」
「……ちょっと行くところがあるので」
「女か?」
「はい」
俺があっさり答えると、星歌さんは呆れたような表情になる。これから女と会うって言うのは嘘じゃない。しかも一人じゃなくて複数の女に会いに行きます。
「だからチケット売ってください。七枚」
「七枚も!? お前ほんとに誰に会いに行くつもりなんだよ!?」
「それは───ライブまでのお楽しみです」
「……その小悪魔みたいな笑顔、虹夏に教わったな?」
俺が勝手に
そして俺は星歌さんからチケットを七枚受け取り、STARRYをあとにするのだった。
「辛い悲しい泣きたいなんで結束バンドが予選落ちなの……?」
「久しぶりに顔を見せたと思ったらそれ?」
星歌さんからチケットを買った俺は新宿FOLTへとやってきていた。そして、大槻先輩の顔を見るや否や、なんかこう……色々とこみ上げてくるものがあって、テーブルに突っ伏して泣き言を吐いている。
「……あなたもそんな風に弱るのね」
「俺だって人間ですからね。ただ、あの子達の前じゃ結構強がってましたけど」
「ふーん。私の前ではそういうの、曝け出せちゃうんだ?」
「だって、大槻先輩ですし」
なんだかんだ、俺が一番甘えている相手は大槻先輩だからね。虹夏ちゃんみたいな母性があるっていうよりも、純粋に頼りになるんだよな。それに、虹夏ちゃんと違ってへんに抱え込んだりもしないし。むしろはっきりズバズバ言うし。それでいて面倒見がいいし。
「いやー。俺だってね? わかってるんですよ? 結束バンドが結成してからまだ三ヶ月くらいで、本気でメジャーデビューを目指し始めて二ヶ月で、初のオリジナル曲ができたのなんて一か月前ですから。それでいきなりコンテストのグランプリをとってとんとん拍子で階段を上っていけるほど甘い世界じゃないって」
「……聞いてあげるから全部吐き出しちゃいなさい」
「大槻せんぱぁい……」
大槻先輩が今まで見たことないくらい優しい笑顔で俺を受け入れてくれている。正直「いつまでも過ぎたことをめそめそしてるんじゃないわよ! この悔しさを糧に練習に打ち込んで次の舞台で見返してやればいいじゃない!!」くらい言われるかと思った。
「俺なんて所詮、ちょびっとギターが弾けるだけのド素人ですからね。専門的なアドバイスなんてできないし、せいぜい、情報収集するか、客観的な立場から忖度のない意見を言うか、あの子達のメンタルケアに努めるくらいしかできないから」
「むしろそこまでやっておいてまだ何かするつもりなの!?」
俺にもね。色々と思うところがあるわけですよ。もっとこう……上手くやれたんじゃないかって。
「そうやって試行錯誤を繰り返して、一歩一歩成長していく。バンドに限らず、人間ってそういうものよ。私だって何度もこんな目に遭ってきたわ。でも、その度に歯を食いしばって壁を乗り越えたの。あなたも今回のことを糧にして、次に活かしなさい。……良い経験ができたわね」
「先輩。抱き着いていいですか?」
「こ、こんな人がたくさんいるところでいいわけないでしょ!!」
なんか、大槻先輩のそういう反応を見ると安心する。やっぱり先輩に相談してよかったな。俺のメンタルがかなり回復しましたよ。
「私がぎゅーってしてあげるー!!」
年齢に似つかわしくない子供っぽい声が聞こえてきたかと思うと、後ろからイライザさんが俺に抱き着いてきた。髪の毛がほっぺたに当たってくすぐったいですよ。
「レンくんはがんばった。いい子いい子」
そして、いつの間にかやって来ていたふーちゃんが俺の頭をよしよしと撫でてくれる。あぁ^~癒し系コンビに甘やかされて成仏してしまう~。
「レンさん。結束バンドの曲聴きましたけど、めっちゃ良いじゃないすか。ウチ、こーゆーの好きっすよ」
「幽々も~。この鬱憤をぶちまけるような歌詞が気に入りました~」
そして、SIDEROSの他のメンバーもわらわらと集まってきた。あくびちゃんや幽々ちゃんはともかく、イライザさんはどこから来たの? 志麻さんや廣井さんと練習してたんじゃ……
「弱ってるレンの心の隙間に付け込もうと思って」
「どこでそんな日本語覚えてきたんですか?」
「今は悪魔がほほ笑む時代なんだヨ?」
「ほんとにどこで覚えてきたんですか!?」
イライザさんが全然離れてくんないけど……暖かいし良い匂いするしやわっこくて気持ちいいからこのままでいよう。うん。
「この曲、作詞は後藤さんで姉貴が作曲したんだ」
「へ~。ぼっちさんが作詞を。それなら納得です。歌詞にものすごく重みがあるので」
「ウチにはこんな歌詞書けないっすね。それに、曲もめっちゃセンスありますよ。歌詞だけだと暗くて陰気ですけど、それに引っ張られ過ぎないテンポになっててバランスが取れてるっす」
「やめて。そんなに褒められると……嬉しくて涙が出そうになるから」
「……レンさんってあれっすよね。完璧イケメンに見えて結構あざと可愛いところがあるっすよね」
それは虹夏ちゃんの影響です。でも、涙腺ガバガバなのとおばけ怖い怖いなのはわざとじゃないから。マジですから。「あたしぃ、天然ってよく言われるんですぅ~」とかほざく女とは全く違いますから。
「レンくん。クッキー焼いてきたからこれ食べて元気になろ? はい、あーん」
「……美味しい。ふーちゃん優しい。好き」
「私もレンくんのこと好きだよ」
「ごふっ!!??」
俺がふーちゃんにクッキーを食べさせてもらっていると、ジュースを飲んでいた大槻先輩がいきなり噴き出してあくびちゃんがティッシュを渡している。さすがSIDEROSの大槻先輩係だね。
「や、や、や、山田……いきなり何言って……」
「レン。私のことは好きー?」
「好きですよ」
「えへっ。ありがとっ!」
イライザさんが俺を抱き締める力を強くする。年上妹属性金髪巨乳とか好きになる要素しかないじゃん。
「こらーーーーーっ!!」
「どうしたんですか、大槻先輩。いきなり大きい声出して」
「にゃ、にゃ、にゃ……にゃにを平然と『好き』とか言ってるのよっ! しかも、複数の相手に対してっ!! あ、あなたがそんなに軟派な男だとは思わなかったわ!!」
大槻先輩が顔を真っ赤にして俺をビシッと指差しながら糾弾するような声を上げる。
「あくびちゃん。俺って軟派な男に見える?」
「見えないっす。ヨヨコ先輩が過剰反応してるだけっす」
「だよね」
「なんでそうなるのよ!? そんな簡単にね!! 異性に好きとか言っちゃいけないの!!」
「レンさん、ウチのこと好きっすか?」
「うん、好き」
「ウチもレンさん好きっす」
「二人とも私の話聞いてた!?」
「幽々だけ仲間外れにしないでくださ~い」
「ごめんね。幽々ちゃんのことも好きだよ」
「幽々も~山田さんのこと好きです~」
「リーダーの言葉が微塵も心に響いてないわね!!」
大槻先輩が地団太を踏んでテーブルをバンバン叩いている。相変わらず面白い反応してくれるなこの人。他の三人も普通に大槻先輩を弄ってるし。これまでのSIDEROSではありえなかった光景に感動。
「ヨヨコ先輩は硬派過ぎるんすよ。今時の高校生は、男女間で気軽に『好き』って言い合うんす」
「そーそー。あいさつみたいな感じだよね~」
「イギリスでも普通だヨ~」
「ヨヨコ先輩は~ちょっと恥ずかしがり屋さんすぎです~」
「え? 嘘……私がおかしいの? 私が知らないだけで、学校ではそんな風になってるの?」
いやそんなわけないじゃないですか。みんなが悪乗りしてるだけですよ。でも、こういうくだらない嘘を簡単に信じちゃうのが大槻先輩の良いところだよね。
「山田……ごめんなさい。私、あなたのことを『全方位に思わせぶりな態度を取りまくるクソ男』だと誤解するところだったわ」
マジでクソ男ですね。いや、俺はその場の空気を読んで相手をちゃんと見て言葉を選んでますからね。
「『好意はしっかり相手に伝えなきゃダメ』って幼馴染に小さい頃から教育されていたので」
「……あなたの幼馴染、罪深過ぎない?」
「彼女ほど多くの男の屍を積み上げた女を、俺は知りません」
「やっぱりものすごく誤解を与えているじゃない!?」
「あくびちゃん、どう思う?」
「『こいつ、俺のこと好きなんじゃ……』って愚かで哀れな勘違いをする男が悪いっす」
「だよね」
「さっきもこの流れやったでしょ!? どう考えても勘違いさせる行動する方が悪いじゃない!!」
でもね。虹夏ちゃんには全く悪意がないんですよ。男を惑わそうとしてるんじゃなくて、ごく自然に距離を縮めてきて母性が溢れてて優しくて可愛くてコミュ強なだけなんです。
「それを魔性の女って言うの!!」
「虹夏ちゃんはドラマーだから……大槻先輩の理論でいくと、あくびちゃんや志麻さんが魔性の女になりますね」
「別にドラマーは関係ないでしょ!!」
「……ふーちゃん。何があってもウチが守ってあげるっす」
「はーちゃん……トゥンク」
「そっちはそっちで雑にカップリングすんな!!」
「でもでも~志麻さんは女性ファンから『志麻様』って呼ばれてるから魔性の女なのでは~?」
「……だって志麻さん格好良いじゃない」
あ、そこは認めちゃうんですね。いやー、でもほんとにSIDEROSはみんな仲良しだな。大槻先輩のこの一年の苦労を見てきた俺としては感慨深い。
「ねーねー、レン」
イライザさんは未だに俺に抱き着いたまま耳元で囁いてくる。どうせまた爆弾発言するんでしょ? 俺は詳しいんだ。
「レンはこの中で誰が一番好き?」
はい。予想通りの爆弾発言ですね。でも、質問の答え自体はすごく簡単だ。俺がこの中で誰を一番好きかなんて、そんなのは決まってる。
「大槻先輩ですね」
「ちょおっ……!!」
一番付き合いが長いですし、先輩の良いところをたくさん知ってるから当然ですよ。
「ウチもヨヨコ先輩のこと好きっす」
「私も大好きですよ」
「幽々もです~」
「あーっ!! あーっ!! あーっ!! 恥ずかしいから!! 恥ずかしいからやめなさいっ!!」
大槻先輩は顔を真っ赤にしておめめぐるぐる状態で額をテーブルにガンガン打ち付けている。そういや、後藤さんも時々こんな奇行に走ってたな。……似た者同士か。
「大槻ちゃん愛されてるネ~。じゃあ、みんなで大槻ちゃんに良いところを一つずつ言っていこう!」
「大槻先輩の良いところ……まずいな。一つじゃ足りない」
「わざとやってるでしょ!? ねえ!! 私をからかってるんでしょ!?」
「からかってませんよ───俺の本気、見せてあげましょうか?」
「やめて……ほんとにやめて……」
いつもは「私を褒め称えなさい!」って感じの態度なのに、いざ褒めまくろうとするとこうやって恥ずかしがって自分の殻に閉じこもっちゃうんだ。可愛いね。
「ヨヨコ先輩はどうなんすか?」
「どうって……何がよ?」
「ウチらのこと、好きっすか?」
「ぶびゃあっ!?」
今度は大槻先輩が後藤さんみたいな乙女の尊厳を投げ捨てる奇声を上げる。……実は二人、血の繋がった姉妹だったりしない?
「……ウチらのこと、好きじゃないんすか?」
あくびちゃんがしゅんとした表情になる。甘やかしたい。
「ヨヨコ先輩……」
ふーちゃんが悲しそうな表情になる。甘やかしたい。
「悲しいです~」
幽々ちゃんは笑いをこらえ切れていない。さすがベーシストやな!
「ちょ、ちょっと……ちょっと待ちなさい! そんな顔しないで! わ、私が……嫌いな相手とわざわざ組むような性格をしてると思う」
「思わないっす」
「じゃあわかりきってるじゃない!!」
「それはそうっすけど、やっぱりちゃんとした言葉を聞きたいじゃないすか」
「ヨヨコ先輩……」
「ヨヨコせんぱ~い」
「う、うぅ……」
他の三人に詰められて大槻先輩はたじたじになっている。助けを求めるように俺を見るけど、三人とも先輩の反応を楽しんでるだけだから大丈夫ですよ。
それはそれとして助けるけど。
「大槻先輩。ここは素直になって自分の気持ちを伝える場面です」
俺がそう言うと、大槻先輩はうんうんと唸り、恥ずかしそうに机に突っ伏し、ツインテールをぶんぶん振り回すなどのいちいち可愛い仕草をやってのける。……この人が一番魔性の女じゃない?
「み、み、みんなのこと……す、好きに決まってるでしょっ!!」
目を瞑りながら顔を真っ赤にしてそう言った大槻先輩に、他の三人が思い切り抱き着いていた。これでSIDEROSの結束力も上がったな。
あれ? 最初は大槻先輩に甘やかしてもらうために新宿FOLTに来たのに、いつのまにかSIDEROSのお世話をしている……。まあいっか。
「でもヨヨコ先輩。まだ肝心なことを聞いてなかったっす」
「か、肝心なこと? これ以上私に何を言わせる気よ?」
あくびちゃんがニヤニヤ笑っている。ふーちゃんも幽々ちゃんも同じ感じだ。悪い女どもやでほんまに。
「ヨヨコ先輩はレンくんのこと好きですか~?」
「んひぃ!?」
先輩、そんな声出せるんですね。初めて聞きましたよ。
「そ、そそそそそそそそんなことわざわざ言うまでもないでしょ!? ほら、私と山田の仲だし……」
「言うまでもない、取るに足らない関係ってことですか。悲しい」
「レン、大丈夫~?」
「なんでこんな時だけ悪い方に受け取るのよ!?」
イライザさんが俺を抱き締めながら頭を撫でてくれる。あぁ^~イライザさんに甘やかされてダメになる~。
「ほら、ヨヨコ先輩。レンさんが落ち込んでるっすよ」
「もしかしたら、もう新宿FOLTに来てくれなくなっちゃうかも……」
「私達のファンが減っちゃいますよ~」
「う、うぐぐっ……」
今度は「ぐぬぬ」顔で俺を見てきた。ほんとに大槻先輩は表情がコロコロ変わって見ているだけで面白い人ですね。
「わ、わかったわよ! 言えばいいんでしょ、言えばっ! (そう。これは別に山田を変に意識しているわけじゃないわ。相手にちゃんと好意を伝えるのはあいさつみたいなものって楓子も言ってたじゃない。そうよ。これはあいさつ。あいさつなのよ。深い意味はないわ。意識する必要はないわ。「おはよう」って言うくらいの気楽さで、気楽さで……)」
大槻先輩がぷるぷる震えている。うーん、これはチワワですね。間違いない。
「す、す、す……」
大槻先輩の言動に、全員が注目している。さて、おおつきよよこちゃんじゅうななさいはちゃーんとおはなしできるのかな~?
「───って、言えるわけないでしょっ!!」
大槻先輩はそう叫んで顔を真っ赤にして逃げ出し、楽屋へと引きこもってしまった。……ちょっとからかい過ぎたかな。後で謝っておこう。
ただ、それはそれとして……
「大槻先輩の一番良いところって……ああやって恥ずかしがって顔を真っ赤にしちゃう可愛いところだよね」
俺の言葉に、イライザさんを含む全員がうんうんと頷いていた。大槻先輩がみんなから愛されてるみたいでほんとによかった。
「そういや今さらっすけど、レンさんって何しに来たんすか?」
「SIDEROSのみんなに予選通過おめでとうって言いに来たのが二割、大槻先輩に甘やかされに来たのが五割。で、残りの三割はこれ」
「これ……ライブのチケットっすか?」
「うん。結束バンドのね」
俺はチケットを取り出し、その場にいる全員に渡す。
「イライザさん。廣井さんと志麻さんにも渡してくれませんか? 都合が合えば、ぜひ来てほしいです」
「絶対行くヨ~! 前は廣井だけ行っちゃってずるいって思ってたの!」
「ヨヨコ先輩もお忍びで行ってたっすね」
「みんなにバレバレだったけどね」
「前日からすごくそわそわしてたんですよ~」
めっちゃ楽しみにしてたんじゃないですか! ほんとにいつでも可愛いなあの人。
それに、結束バンドは前回よりもレベルアップしてるから、もっと楽しめると思いますよ。
「いつかはこういう大きいライブハウスでも演奏できるくらいになってほしいんだけどね」
「銀ちゃんに頼んでみれば? あっさり出してくれると思うヨ?」
「今は何の実績もないので、Tokyo Music Riseでグランプリを獲ったらお願いしようと思ってました」
「じゃあ、ウチらと対バンでもします? ワンマンもいいんすけど、体力的にキツイんすよね」
「あ、私達の前座で出るっていうのはどう? それならプレッシャーも少ないと思うヨ!」
「お二人の申し出はすごくありがたいんですけど……俺一人で決めるわけにはいきませんし、せっかくなので今度のライブを観て判断してください」
なんか思ったよりも簡単に出してもらえそうな雰囲気だけど……実力が伴わないままこういう場所でライブをやって、その後二度と呼ばれなくなるっていう事態だけは避けたい。だから、結束バンドよりも実力も実績も上にいる人達に、あの子達の演奏を評価してもらいたい。贔屓目なしで。
「だったら銀ちゃんも呼ぶ? 誘えば来てくれると思うヨ?」
「いやいや、さすがに忙しいでしょ」
「聞いてみなきゃわかんないヨ? 銀ちゃ~ん! ちょっとこっち来て~!」
イライザさんが吉田店長を呼ぶと、彼は俺達を不思議そうに眺めながら近寄ってきた。
「どうしたのよイライザ。───って、あなたまだ山田ちゃんにくっついてるの? いい加減離れなさい」
「やだっ。イケメンに抱き着くのはやめられないの!」
「……ごめんね、山田ちゃん」
「いえいえ、役得ですよ。それに、イライザさんにはさっき慰めてもらったんで」
「あんまり女を甘やかしすぎるのもよくないわよ?」
なんか、吉田店長が言うと説得力がありますね。さすが、男心と乙女心が同居しているだけはある。
「それで、何の用かしら?」
「レンが銀ちゃんをライブに呼びたいって!」
「ライブ?」
「……一から説明しますね」
イライザさんの説明がざっくりし過ぎているので、俺はここまでの経緯を吉田店長に話した。仕事中なのにお時間取らせちゃってすみません。
「なるほどね~。そういうことならありがたくお誘いを受けさせてもらうわ」
「え!? いいんですか? 言っちゃなんですけど……全然無名のアマチュアバンドですよ?」
「私の仕事はね。ライブハウスを経営することだけじゃない。優秀なバンドマンを発掘することも仕事なのよ。それに、廣井と大槻ちゃんが一度観ていてその子達に光るものを感じたのでしょ? あの二人、特に廣井は普段はどうしようもないダメ人間だけど、バンドに関しては信のおける人物。そんな二人が評価したバンド……純粋に興味があるわ」
なんだか話が予想外の方向に進んじゃったけど、これはまたとないチャンスだ。虹夏ちゃん達に話を通さないままなのはちょっと心苦しいけど、吉田店長の目に留まればこういう場所でライブができる機会がくるかもしれない。
「わかりました。では当日、お待ちしております」
「ええ。楽しみにしているわ」
俺がぺこりと頭を下げると、吉田店長は笑顔でチケットを受け取って仕事へと戻る。
……事後報告になるけど、虹夏ちゃんに電話しておこう。
あ! そういや今気付いたけど、吉田店長にチケットをあげちゃったから、一枚足りなくなっちゃった。……廣井さんには当日券を買ってもらうか。ごめんなさい廣井さん。
「ウチらも楽しみにしてるっす。あと、レンさん。これどうぞ」
「……これは?」
「結束バンドがオーチューブにオリジナル曲の動画をアップしたじゃないすか。ヨヨコ先輩がそれを見て改善点と良かったところをまとめてました」
「ヨヨコ様……」
あくびちゃんからルーズリーフを受け取ると、両面にびっしりと非常に参考になる意見が書かれていた。俺はそれを丁寧に折りたたんで、大事に鞄へとしまい込む。
こんなことされてさ。大槻先輩に好意を持つなっていう方が無理でしょ。
「じゃあ、そろそろ行くよ。大槻先輩はまだ引きこもったまま?」
「出てこないっすね~」
「最後にあいさつしていくか」
そこでイライザさんが名残惜しそうに俺から離れる。俺も名残惜しいです。
そして俺は席を立ち、大槻先輩が引きこもっている楽屋へと向かった。
「せんぱ~い。そこにいますか~?」
「いないわよっ!!」
「またベタなこと言いますね」
俺は楽屋の中には入らず、外から声をかけると大槻先輩の元気な声が返ってきた。この感じなら心配なさそうだな。
「先輩、今日はありがとうございました。慰めてもらって、励ましてもらって、すごく元気が出ました」
「……この一年、あなたにはたくさん助けられたから。そのお返しよ」
「俺も先輩には助けられてばっかりです」
「じゃあ、お互い様ね」
「そうですね」
扉を挟んだまま、俺達は笑い合う。
「それと、ずいぶん遅れちゃいましたけど……Tokyo Music Riseの予選通過、おめでとうございます」
「ありがとう。でも、予選通過くらいで満足していないわ。ファイナルステージへ進んで優勝する。それ以外に興味はない」
大槻先輩はいつでも変わらない。どこまでもストイックで、それを成し遂げるだけの努力を積み重ねている。本当に、心の底から尊敬できる人だ。
「今月、結束バンドがライブをやります。観に来てくださいね」
「……楽しみにしてるわ」
「改善点とかをまとめてくれたメモ、ありがたく有効活用させていただきます」
「……せいぜい、がんばりなさい。簡単に私達に追いつけると思わないでね」
「簡単には追いつけないですよ、
大槻先輩の言葉に、俺は嬉しさを隠せなかった。簡単には追いつけない、言い換えればいつかは自分達に追いつける、結束バンドに対して潜在能力のようなものを感じていてくれていたからだ。
「じゃあ、そろそろ帰りますね。また今度、ライブハウスで会いましょう」
「あ、ちょっと待って……」
俺が背中を向けて帰ろうとすると、背後からドアの開く音が聞こえ、振り返ると大槻先輩が立っていた。
「私ね……あなたのこと、好きよ」
完全に予想外だったその言葉を聞いて、俺は間の抜けた表情を浮かべてしまった。
「へえ。あなたもそんな顔するのね。初めて見たわ」
大槻先輩はそんなことを言いながら意地の悪い笑みを浮かべて俺に近づいてくる。
「ただ、友達としてだからね? ───勘違いしちゃダメよ?」
そして先輩は背伸びをして、俺の耳元で甘い声でそっと囁いた。やべえ、すっげえ恥ずかしい。
「……大槻先輩」
「何かしら」
先輩は小悪魔チックな笑みを浮かべたまま俺を上目遣いで見てくる。そんな風に、男を挑発するような態度を取る先輩に対して言いたいことは一つだけだ。
「耳真っ赤ですよ?」
大槻先輩が素面でこんなえっちな真似ができるわけないでしょ!! そんなの解釈違いですっ!!
俺の指摘に、大槻先輩は完全に余裕をなくしたらしく、顔をリンゴみたいに真っ赤にして再び楽屋へと引きこもってしまった。……最後の最後まで可愛かったなあの人。帰ったらフォローのロインしておくか。
そして俺はその日の夜、虹夏ちゃんに電話でことのあらましを伝えたら
「なんでそんなことになってんの?」
と、真っ当なツッコミをされました。ただ、他のメンバーに伝えたらライブに対するモチベーションが上がったから結果的には良かったと思う。
あと、結束バンドの大槻先輩に対する好感度が爆上がりしました。あのアドバイスメモ、めちゃくちゃ役に立ったので。
大槻先輩なら「結束バンドはワシが育てた」ムーブをしても許される。
で、これは少し先の話になるんだけど
SIDEROSは大槻先輩の宣言通り、Tokyo Music Riseのファイナルステージまで進んで見事に優勝を果たしました。
あ、結局大槻先輩に「異性の友達同士で『好き』って言い合うのがあいさつみたいなものっていうのは嘘です」ってことをバラすの忘れてた。
まあいっか。
レンくんは色んなところでコネを作りまくりですね。大体ヨヨコのおかげです。
結束バンドが成長できたのは大槻先輩のおかげじゃないか!!
ヨヨコはぼざろ界の月島さん……オオツキシマさんですね。
では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!