【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#24 BOCCHI-BOCCHI-GIRL

「あ、山田じゃーん。おすおす~」

「佐々木さん。今日も来てくれたんだね」

「前のライブが結構良かったから。あと、ごとーの観察に来た」

 

 STARRYでのライブ当日、今回もメンバー各自にチケットノルマが課せられ、喜多さんは佐々木さんや他の友達を呼んでいた。虹夏ちゃんも友達を何人か呼んでおり、姉貴は全然知らない五人にチケットを売りつけたらしい。

 

 しかも姉貴目当てで来た人は全員女で「リョウ様」って呼んでるし。ほんとに何したんだあいつ。

 

 後藤さんのご両親は、今日は都合が合わず残念ながら来られなかったけど、クラスメイトと一号さん、二号さんは来てくれている。あ、そういやまた一号さんと二号さんの本名を聞くのを忘れてたな。

 

「ごとーごとー。今日も格好良いところ見せてよ」

「あ、さ……ささささん! は、はいっ。がんばりますっ!」

「いい子だ。ほれ、飴ちゃんをあげよう」

「あ、ありがとうございます……(佐々木さん、私によく話しかけてくれるし優しいから好き……)」

 

 佐々木さんとは廊下ですれ違ったらあいさつするくらいの仲から、軽く雑談するくらいの仲にまでレベルアップしていた。

 

 喜多さんとシフトが重なっている時に毎回毎回五組に行って話をしている内に、俺も後藤さんも佐々木さんと仲良くなったんだよね。

 

 ちゃんとロインも交換したし、友達が増えて後藤さんも大変喜んでおりました。

 

「なんか後藤を見てると甘やかしたくなるんだよね」

「あ、わかるわー。こう、庇護欲を掻き立てられるというか……」

「いや、ウチの場合はペット感覚。ウチが飼ってるトイプーに似てるんだよね」

「ごめん、さすがにクラスメイトの……しかも女の子をペット扱いはできないわ。さすが喜多さんの友達」

「それ、褒め言葉じゃないよね?」

 

 やべー女の周りにはやべーのが集まるということか。佐々木さんは比較的まともだと思ってたのに。でも正直、俺も口に出さないだけで彼女が言わんとしていることは理解できる。

 

 後藤さんはペット扱いされていることに喜ぶべきなのか悲しむべきなのか迷っている表情をしてるけど、怒るところだと思うよ?

 

「でも、後藤って犬っぽくない?」

「それはわかる。初対面の時はめちゃくちゃ警戒してる野良猫だったけど、今は人見知りする小型犬っぽさがあるよね」

「チワワとかポメラニアンみたいな?」

「そうそう。ちなみに俺には『自分を狼だと思い込んでいるチワワ系新宿女子』の知り合いがいる」

 

 言うまでもなく、大槻先輩のことです。

 

「どんな知り合いだよ。じゃあ、後藤はポメラニアンだね。よしよし、いい子いい子」

「あ、えへへ……ご、ゴトラニアンですっ」

 

 後藤さんは佐々木さんに頭を撫でられてふにゃふにゃのだらしない笑顔を浮かべている。大槻先輩もこんな風に撫でてあげたらだらしなくなるのかな? ……今度廣井さんに頭撫でさせてみよう。

 

「俺も犬飼いたいけど……両親が医者だから衛生上の理由で飼ってないし」

「ウチの犬。マロンってゆーの。可愛いでしょ?」

「……抱っこして撫でまわしたい」

 

 佐々木さんがスマホで画像や動画を見せてくれる。やっぱりペットっていいよな。もしも俺が犬を飼うとしたら柴犬かコーギーがいい。

 

「ウチの家に来たらいつでも触らせてあげるよ」

「いいなぁ。散歩させたい散歩」

「今度ウチと犬の散歩デートでもする?」

 

 佐々木さんがニマニマ笑いながらものすごく魅力的な提案をしてきた。そして頭を撫でられてふにゃふにゃだった後藤さんが驚愕の表情を浮かべて俺と佐々木さんを交互に見てくる。

 

「俺は彼女と一緒に犬の散歩をしても犬にかまい過ぎて嫉妬させる男だよ?」

「経験済みかよ」

「歴代彼女の中に犬を飼っている子がいてね」

「おいおーい。女の前で別の女の話をすると嫌われるぞー」

「別に俺達付き合ってるわけでもないからいいじゃん」

「それもそーだ」

 

 俺と佐々木さんはけらけらと笑い合う。佐々木さんはこんな感じでサバサバしてて軽ーい感じでお話しできるからいいよね。でも、こういう女の子が付き合い始めたら本気で嫉妬しちゃったりするのが可愛いんだ。

 

「や、山田くん。わたっ、私も犬飼ってますよ……! ジミヘンのことは、山田くんもすごく気に入ってくれてたと思います。あと、あと……ふたりもいますよ?」

 

 後藤さんが変な対抗心を燃やしてアピールしてくる。おまけみたいにふたりちゃんを混ぜてくるのが後藤さんらしい。でも、確かにふたりちゃんも人懐っこい小型犬っぽさはあるよね。

 

 将来、恋愛関係では泥棒猫になりそうだけど。

 

「(ごとー。山田を取ったりしないから安心しな)」

「(と、ととととと取るとか、な、なにをおっしゃいましゅかっ……!?)

「(……今度、山田と一緒にウチの家に遊びにおいで。マロン触らせてあげる)」

「(あ、さ、ささささんも私の家に遊びに来てください。ジミヘンと遊ばせてあげます)」

 

 二人は俺そっちのけで何やらこそこそと囁き合っている。後藤さんが顔を赤くしたり嬉しそうな顔をしたり、表情がコロコロ変わってるのはわかるけど、会話の内容までは聞こえてこなかった。

 

 でも、後藤さんって佐々木さんとは自然に話せるようになったよな。ちょっと感動。

 

「山田、今日はあのやべー人来ないの?」

「……どの人のこと?」

 

 やべー人の心当たりがあり過ぎて……あ、でも喜多さんや姉貴はバンドメンバーだし、あと佐々木さんが知ってる人といえば……

 

「泥酔してたきれーなお姉さん」

「あー……廣井さんか。多分、そろそろ来ると思う。愉快な仲間達を引き連れて」

「え? あんなのがまだ増えるの?」

「いや、あれレベルはいないよ。けど、個性あふれるメンバーが結束バンドの応援に駆けつけてくれます」

「……ごとー。がんばってね」

「な、なんだかものすごく嫌な予感しかしないです……」

 

 大丈夫だって。みんなキャラが濃いだけで良い人ばっかりだから。多分、前のライブ以上にカオスなことになると思うけど。

 

「そういえば、バンドTシャツ作ったんだね。格好良いじゃん」

「そ、そうなんです。ほんとは私のデザインを採用する予定だったんですが、私の才能が現代の人類に早すぎるという理由でお蔵入りになって……」

「どういうこと?」

「色々あったんだよ。色々」

 

 佐々木さんは「意味が分からない」と言いたげな表情で俺を見てくるけど、実際ほんとに意味わからんと思う。そして、バンドTシャツのデザインについては虹夏ちゃんが考えたものを採用していた。

 

 黒地のTシャツで結束バンドのロゴと四人のシルエットが白で書かれているシンプルなもの。物販でも扱う予定らしい。ちなみに俺も買わされたので今日は着てきています。

 

「あ、ささささんも買いますか? い、一枚三千円です」

「結構取るね? ……でも、アーティストグッズってそんなもんか」

 

 姉貴は五千円で売りつけようとしていたけど。メジャーバンドでもないのに五千円のTシャツはアホ過ぎる。結束バンドの五百円も結構な暴利だけどね。

 

「それにしても……」

 

 佐々木さんはそう言ってTシャツ姿の後藤さんのある一部分を凝視し、ニヤッと笑って今度は俺を見てきた。

 

「山田が喜多と付き合わない理由がわかった。なんだかんだ男だね~」

 

 佐々木さんが俺を肘で小突いてくる。堂々とセクハラ発言するのやめーや。後藤さんは確かに、薄着になるとおっぱいの破壊力が増して喜多さんは逆に残念なことになるけど。

 

「喜多さんだって需要はある。どこかに」

 

 大きいのが好きな人もいれば、小さいのが好きな人もいる。後藤さんは俺達の会話の意味が分からなかったようで首をかしげていたけど、そのままの君でいてね?

 

「おら~っ!! きくりお姉さん率いる新宿FOLT御一行様のお出ましじゃ~い!!」

「誰がお前に率いられてんだ。迷惑になるから下がってろ!!」

「志麻、そのまま廣井を押さえつけてなさい。私はここの店長にあいさつしてくるわ」

「あ、レンがいる。お~い! イライザお姉さんが遊びに来てあげたヨ~!」

 

 新宿FOLT御一行の内、吉田店長とSICKHACKの三人がやってきた。相変わらず絶好調ですね廣井さん。でも今日は志麻さんがいるからあの人の監視はしなくてもいいな。

 

 イライザさんは階段の上から俺に手をぶんぶん振ってくれている。今日も可愛いですね。

 

「あ、前のやべー人だ。あと、前にはいなかった人。……女の人ばっかりだね。さすが山田」

「俺ってモテるから」

 

 知らない人が増えたからか、後藤さんがごく自然に俺の後ろに隠れる。

 

「新宿FOLTと違って地下ってのが雰囲気あっていいすね。ウチ、こういうの好きっすよ」

「ヨヨコ先輩、隠れてないで行きますよ~」

「わ、わかってるから背中押さないで」

「山田さんの後ろにいるのが生ぼっちさんですね~。相変わらずすごいのが憑いてます~」

 

 そして、廣井さん達の後ろからSIDEROSの四人がやってくる。今日の大槻先輩はいつものツインテールに帽子というライブ仕様だった。なんか先輩を見てると安心しますよ。

 

「あれ全部山田の知り合い?」

「そう。みんな俺が呼んだ」

「……山田が一番やべー」

「結束バンドのチケットノルマや店の売り上げに貢献してる有能バイト最古参ファンなんだが?」

「男が一人だけとか」

「その男の人も、心は乙女だから実質全員女性だよ」

「もっとやべー」

 

 さらに知らない人が増えたので後藤さんが俺の服を掴んできた。まだまだこういうところは成長しないね。佐々木さんは佐々木さんで「やべーやべー」言いながらやってきた八人を見てるし。

 

 でも、ちょうどいいタイミングだから結束バンドのメンバーを紹介するか。

 

「虹夏ちゃーん! 紹介したい人達がいるからしゅうごーう!」

 

 友達と喋っていた虹夏ちゃん達に集合をかける。SICKHACKやSIDEROSの人達も俺の意図を察してくれたらしく、俺達がいる方へ集まって来てくれた。……こら後藤さん、逃げようとしないの。

 

「SICKHACKの岩下志麻です。廣井のバカがいつもご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「結束バンドの伊地知虹夏ですっ。廣井さんのおかげで結束バンドの方向性を決めることができたので、すごく感謝しています」

「ほらね~志麻。私だってやるときはやるんだよ?」

「でも、ほぼ毎日ウチにお風呂を借りに来るのはやめてください」

「……おい」

「だって私のボロアパートお風呂ついてないんだもん!! 角部屋なのに隣から話し声が聞こえてくるし!!」

 

 俺、絶対廣井さんのアパートには行かない。大槻先輩と目が合ったので、お互いうんうんと頷き合っておきました。

 

「君が廣井とレンが言ってた『ぼっちちゃん』だネ~。私、清水イライザ。二十一歳です! 君と同じギターだよ! よろしくネ~」

「あ、はい。よ……よろしくお願いします(と、年上の金髪巨乳お姉さん……!! や、山田くんの好きな要素しかないっ!! しかも虹夏ちゃんタイプのコミュ強……だ、ダメだ……ちょっと強すぎるっ……!!)」

 

 イライザさんは後藤さんと握手をして手をぶんぶん上下に振っている。でも、後藤さんは顔を強張らせるだけで爆発四散したりはしなかった。成長したなぁ……。

 

「ドラムの長谷川あくびっす。レンさんのお姉さんすよね? 新曲聴きました。めちゃ格好良かったっす! 今日はあの曲やってくれるんすか?」

「山田リョウ、よろしく。今日はオーチューブにアップしたものと、今日が初お披露目の新曲を演奏する」

「マジっすか。めちゃ楽しみっす!」

「幽々もお姉さんと同じベース担当です~。こっちはルシファーとベルフェゴールちゃん」

「ものすごく雰囲気のある人形。呪われそう」

「さすがお目が高いですね~。雑に扱うと不幸に見舞われますよ~」

「……レン、ちょっとこっちおいで」

「やめろバカ! 俺がそういうのダメだってわかってて言ってるよな!?」

 

 お前自分の弟が得体のしれない呪いを受けてもいいの? それに、幽々ちゃんが持ってる人形ってそんな名前を付けてたのね。あとさ、意味深な表情で後藤さんを見るのをやめようか。いや、後藤さん本人じゃなくて彼女に憑いてる「すごいの」を見てるのか。 

 

 ……余計怖いわ!!

 

「私、本城楓子です! 後藤さんのギターソロすーーーっごく格好良かったです~! 私もギターなので今度一緒にセッションしましょ~!」

「あ、ふーちゃんだけずるーい! ぼっちちゃん、私もっ! 私も一緒にするっ!」

「あ、あ、あ……(や、山田くんが甘やかすタイプのゆるふわ癒し系お嬢様……!! し、清水さんも年上お姉さんなのに妹属性持ち……ぎ、ギタリストには山田くん特効が多すぎるっ!!)」

 

 SICKHACKとSIDEROSが誇る癒し系コンビでも後藤さんの人見知りフィールドは突破できなかったか。でも、もうちょっと時間をかければ普通に仲良くできそうだな。とりあえず、後藤さんのさらなる成長のためにこのまま様子を見守っておこう。

 

「喜多さん、この人がSIDEROSのギターボーカルだよ」

「喜多郁代です! よろしくお願いします! ギターボーカルといっても、ギターは初心者なのでまだまだ下手っぴですけどね」

「大槻ヨヨコ。よろしく……」

「TOKYO MUSIC RISEの公式ホームページに掲載されてる曲聴きました! 大槻さんの歌、演奏に全く負けてなくて、それでいて心に響いてくる感じがして……すごく感動しましたっ!」

「そ、そう? あり、がと……。私も、あなたの声、結構好きよ? 演奏に負けちゃってるのがもったいないけど」

「どうしてもかき消されちゃうんですよね~。何かコツってあるんですか?」

「腹式呼吸、は意識してるわよね? それ以外だと───」

 

 

 こっちもこっちで大槻先輩は人見知りを発動していた。でも残念ながら、喜多さんはそんな人見知り相手でもグイグイ距離を詰めてくるスーパー陽キャだからな。

 

「大槻さん……? どこかで会ったことあるかしら?」

「ひ、人違いじゃないっ!?」

 

 喜多さんの言葉に大槻先輩は顔を思い切り逸らして口笛を吹いている。……誤魔化す時の反応が後藤さんにそっくりだわ。

 

「この前ライブに来てくれたつっきーさんだよ。ほら、俺が尊敬している先輩」

「なんでそんなにあっさりバラすのよ!?」

「いや、もう隠しておく意味がないでしょ?」

 

 俺がさらっと正体をバラすと、先輩は顔を真っ赤にしながら俺に詰め寄ってきた。むしろまだ隠しておくつもりだったんですか? こういうのって後になればなるほどタイミングがなくなって、いざバレた時に変な空気になるんですからね。

 

「つっきーさん!? あなたがつっきーさんだったのね!! あなたのアドバイス、ものすごく参考になったわ!! ありがとうございますっ!!」

「近い近い近いっ!! 距離の、距離の詰め方を考えなさい!! 私のパーソナルスペースは人の五倍あるのよっ!!」

「大丈夫です。ひとりちゃんはその十倍ありますからっ!!」

「極端な例を基準にするな!! この子、新宿FOLTにはいないタイプの陽キャね……!?」

 

 新宿FOLTどころかバンドマンとしてはかなりレアな性格をしてると思いますよ。

 

(あれがつっきーさん。年上で、お姉さんで、凄腕のギタリストでコミュ障気味……わ、私とキャラが被ってる!! でも私はつっきーさんみたいに胸元が開いた服は着ない。……つっきーさんってもしかしてものすごくえっちな女の子なのでは? 年上、お姉さん、おっぱいがそこそこある、えっち……あーだめだめ!! 山田くんの山田くんが危険で危ないっっっ!!! えちえち警報発令しますっっっ!!)

 

「どうしたの、後藤さん?」

 

 癒し系コンビに絡まれて成仏しかけていた後藤さんが俺と大槻先輩の間に入ってくる。……珍しいな。もしかして大槻先輩が自分の同類だと気付いたのかな?

 

「ご、ごごごごご後藤ひとりでしゅ……!! (や、山田くんとSTARRYの風紀は私が守らないと……)」

「大槻ヨヨコよ。よろしく(コミュ障なのに自分から私に話しかけてきた? ふっ……どうやら私のカリスマにあてられたようね)」

 

 なんか二人の間でものすごい誤解が発生してそうだけど……さすがに詳細まではわかんない。というか、わかったら読心術の領域だわ。俺も察しは良い方だけど、あくまで人間にできることの範疇だからね。

 

「レンくんが尊敬する先輩って……SIDEROSの大槻さんだったんだ。納得」

「私は気付いてた」

「なんで黙ってたの!?」

「レンがハーゲンダッツを奢ってくれたから」

「メンバーとの情報共有には三百円以下の価値しかないのかな!?」

「あと、大槻ヨヨコが黙っててほしそうだったから」

「そっちを先に言え!! 大槻さーん! 私、リーダーの伊地知虹夏。今日は来てくれてありがとう!」

「や、山田にどうしてもって頼まれたから、仕方なく……仕方なく、ね(ギターボーカルの子よりこの子の方が話しやすい陽キャだわ。あくびと楓子を足して二で割ったような子ね。……でも、山田をあんな怪物に育て上げた女でもある)」

 

 虹夏ちゃんと大槻先輩はリーダー同士ということで交流を始めたみたいです。虹夏ちゃんなら初対面の後藤さんともパーフェクトコミュニケーションができていたから大丈夫かな。

 

「レンに女運が下がるような幽霊憑いてない?」

「女運が下がるというより~責任感の強い介護士さんの霊や保育士さんの霊が憑いてますね~」

 

 そういうの怖いからほんとやめて!! ベーシストコンビは放っておこう。それが一番。

 

「へ~。イライザさんってイギリス出身なんですね。なんでまた日本に?」

「アニソンのコピーバンドをやるためだヨ! なぜか今はサイケをやってるけど」

「サイケ?」

「サイケデリックロック。うにゃうにゃしてもにゃーんとしてる感じのジャンルだヨ。説明が難しいから……あ、私達のライブを観に来ればいいよ! それに、喜多ちゃんってギター初心者なんでしょ? 今度私が教えてあげる~!」

「わぁ~! ほんとですか! ひとりちゃんも誘って三人で練習しましょう!」

「いいネ~! 楽しみ! あ、ロイン交換しようヨ!」

 

 陽キャコンビは問題なし。どっちも天然だから一歩間違えればとんでもない化学反応が起きそうだけど……そうなったら志麻さんを呼んでこよう。

 

「ごめんなさい後藤さん。私も後藤さんと同じギターだからつい親近感を持っちゃって……初対面なのに迷惑でしたね」

「あ、いえ……そ、そんなことは(せ、せっかく話しかけてくれたのに、私が上手く会話を広げられなかったから変な空気に───こ、ここはバイトと結束バンドで鍛え上げられたコミュ力を発揮する時!! そうだ。清水さんとすぐに仲良くなった喜多ちゃんの会話術を参考にすれば……)」

 

 喜多さん達のすぐ横でふーちゃんと後藤さんが話してるけど、まだふーちゃんには後藤さんの相手は荷が重かったか。

 

「ぼっちさんとふーちゃんの様子はどうっすか?」

「ん~……二人ともがんばってるし、後藤さんも初対面の割にはふーちゃんに心を開いてるけど、そろそろフォローが必要かな」

「そうっすね。ふーちゃんも困ってるみたいっす」

 

 さっきからふーちゃんがチラチラと視線をこっちに向けてくるんだよね。そろそろ潮時かな~。

 

 そう考えてあくびちゃんと一緒に会話に混ざろうとした時だった。

 

 不動の後藤が───ついに動きを見せる。

 

「あっ……かわい……ぐふっ……肌白っ……ロインID教えて……!?」

「……ぼっちさん、距離の詰め方エグイっすね」

 

 後藤さんがニチャアとした笑顔でふーちゃんの顎に手を添えていた。こらーーーーーーっ!! 何やってんの後藤さん!? ふーちゃんはいい子だから状況をよくわかってなくてぽかーんとした表情になってるけど、あくびちゃんは普通に引いてるからね!?

 

「ふーちゃん、ウチの後ろに……」

 

 あくびちゃんはふーちゃんを守るように後藤さんとふーちゃんの間に立つ。うん、しゃーない。今の後藤さんはその……男だったら通報案件な顔してたから。後藤さんってほんとに自分の魅力を自分で台無しにしていくよね!?

 

「後藤さん……今の何?」

「あ、喜多ちゃんの真似をしただけなんですけど……」 

「ひとりちゃんの目には私があんな風に映ってるの!?」

 

 あ、喜多さんにまで飛び火した。いや、後藤さんに悪気はないんだよ。ただその……ね? 他者に対する解像度がものすごく低いというか、解釈の仕方が独特なんだよ。だから喜多さんを貶めるつもりなんてさらさらないんだ。

 

 あくびちゃんもそんなに警戒しないで。後藤さんなりにふーちゃんと距離を縮めようとした結果なんだ。ふーちゃんを怖がらせようってつもりは全くなかったんだよ。

 

 とまあ、こんな感じでフォローを入れておきました。

 

「……確かに、過剰に警戒しすぎたっす。すみませんぼっちさん」

「あ、いえ……私こそ陰キャ全開のキモイ絡み方をしてすみません」

「私は気にしてないですよ~。でも、そういう不器用なところヨヨコ先輩に似てるかも~」

「あ、そうなんですか? (や、やっぱり大槻さんも私と同類なんだ。陰キャ同士仲良くなれるかもしれない。……えっちだけど)」

「『ギターと孤独と蒼い惑星』ってぼっちさんが作詞したんすよね。結構刺さるフレーズがあって、ウチは好きっすよ、あの歌詞」

「ほ、ほんとですか? えへへ。ありがとうございます。あ、サインいります?」

「ぼっちさん……そーゆーとこっすよ?」

「あ、え……? な、何がですか?」

「……レンさん、苦労してるんすね」

 

 あくびちゃんとふーちゃんがものすごく同情した視線を俺に向けてくる。わかる? でもね、後藤さんは本質的にはすごくいい子だから。あくびちゃん達も偏見を持たずに仲良くしてくれると嬉しいな。

 

「ひとりちゃんにとって……私の絡み方ってあんなに気持ち悪く見えてたのね……」

「そ、それは違うって。後藤さんの中で、ああいう場面で一番参考になりそうだと思ったのが喜多さんだっただけで、咄嗟のことで後藤さんも焦ってたから。ほら、あの子ってアドリブに弱いでしょ? それに、真っ先に喜多さんを思い浮かべるあたり、すごく信頼されてるよ」

「レンくん……」

 

 喜多さんがショックを受けて落ち込んでいるのは珍しい。でも、俺も後藤さんが俺の真似をしようとしてあんな距離の詰め方をしているのを目撃したら同じようにショックを受けるかもしれない。

 

「リョウ先輩に似た顔でそんなに優しくフォローされると……私の中にあるリョウ先輩の純度が薄まってしまうわ……」

「俺を不純物みたいに言わないでくれる?」

 

 なんだよ姉貴の純度って。むしろそんなもん下がってしまえ!!

 

「ねえねえ。ぼっちちゃんって呼んでいーい?」

「あ、はい。えっと、お二人のことはどう呼べば」

「私はふーちゃん、この子ははーちゃん。あそこでお人形を持っているのが幽々ちゃんだよ」

「ふ、ふーちゃんにはーちゃん、ですね。ふへへっ。よ、よろしくですっ」

「よろしく~」

「よろしくっす」

 

 どうなることかと思ったけど、とりあえず後藤さんが他の人達と仲良くなれて良かった。やっぱりふーちゃんは新宿の大天使やな。

 

「廣井、お前はもっと虹夏ちゃんやヨヨコを見習え! お前より年下なのにこんなにバンドのことを一生懸命考えてて……お前の百億倍立派にリーダーやってるだろ」

「し、志麻さん……姐さんだって何も考えてないわけじゃ……」

「でも大槻さん。自分の楽器をパフォーマンスで壊すならともかく、ライブハウスの機材をぶっ壊すのは絶許だと思う」

 

 志麻さん、虹夏ちゃん、大槻先輩、廣井さんの四人組の間にはピリピリした空気が流れていた。先輩はなんとかフォローしようとしてるけど……正直、フォローできる要素はないですよ?

 

「お、お酒の力でテンションが上がっちゃってつい~」

「お酒が悪いんですね?」

「こ、ここでお酒が悪いって言っちゃうと強制的に禁酒させられちゃうから……お、お酒は悪くないっ!」

「じゃあ、廣井さんが悪いんですね?」

「わ、私も悪くない」

「つまり、こういうことですね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()と……志麻裁判長。判決を」

「有罪。一ヶ月の禁酒刑に処す」

「しょ、しょんな~!?」

「し、志麻さん。お慈悲を……どうか姐さんにお慈悲を……」

 

 一ヶ月かよ。志麻さんも甘いな。……でも、廣井さんにとっては地獄の一ヶ月になりそうですね。……俺は知ーらない。

 

「やまだやまだー」

「どったの?」

 

 完全にカオスな空気になっていて、すでに俺の手には負えない状況下で佐々木さんがつんつんと俺の背中をつついて話しかけてきた。

 

「ここにいるのって、もしかして全員やべーヤツ?」

「佐々木さんも含めてね」

「はっはっは。こやつめ」

「はっはっは」

 

 結局俺は、結束バンドがスタンバイに入るまで佐々木さんと仲良く軽口を叩き合い、小突き合っていました。はっはっは。




 はい。ライブが終わりませんでした。

 キャラをたくさん出すと楽しいのですが、話が長くなる上に全然進まないです。

 次回でライブは終わります。ライブは。

 では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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