【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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本作のメインヒロインは山田です!



#26 ラブ・トライアングル 喜多と姉とぼっちちゃんver.

「ウーロン茶四つ、オレンジジュース二つ、ジンジャーエール一つ、コーラ一つ、メロンソーダ一つお願いします」

「は~い。かしこまりました~!」

「料理は大根サラダとフライドポテトと鶏のから揚げとだし巻きと串の盛り合わせと天むすとイカリングと───」

 

 STARRYでの第二回目のライブが無事に……色々アクシデントはあったけど無事に終わって、結束バンドのメンバー&SIDEROSのメンバープラス俺で居酒屋に打ち上げに来ています。

 

 それなりの人数になったので、座敷タイプの個室を二部屋用意してもらって、一部屋は俺達子供組が、もう一部屋はSICKHACKのみなさん、吉田店長、星歌さん達のアダルト組が使っている。

 

 うまいこと廣井さんを隔離できてよかった。そういえば、廣井さんって禁酒の刑にされてたけど、居酒屋で一人だけ酒飲めないって拷問だよね。……絶対大人組の方には行かないでおこう!! 臭い物に蓋をするの精神ヨシ!!

 

「レンくんごめんね~。注文全部任せちゃって」

「いいよ。姉貴はそのつもりで俺を呼んだんだろうし」

「その通り。レンは面倒な女に尽くすことに喜びを感じる変態だから。虹夏が謝る必要はない」

「お前には感謝の心とかないの?」

 

 総勢九名ということで、中途半端な人数になったんだけど、姉貴は喜んで一番上座のお誕生日席に座ったからな。……ほんとどんだけ図々しいんだよあいつ。

 

 ちなみに俺は一番入り口に近くて注文のしやすい場所に座っています。

 

「後藤さん大丈夫? 疲れた?」

 

 隣で死にそうな顔をしながら座っている後藤さんに声をかけた。

 

「あ、疲れたのもあるんですけど……さっきのライブ、反省点が多くて」

 

 あんなに良い演奏をしていたのに……それでもまだまだ満足していないのか。うん。こういう風に向上心があるんなら大丈夫だ。現状に満足しちゃったら、そこで成長が止まっちゃうもんね。

 

「ライブってそういうものよ。私達は常に、一曲一曲に自分が持つ実力の全てを……全身全霊を込めるの。それでも、私は今までに一度たりとも完璧に納得のできる演奏なんて……できたことがないわ。だからこそ、それを追い求めて私達は走り続けるのよ」

 

 俺の前に座る大槻先輩が熱く語る。こういうことを、自分にプレッシャーがかかることを平然と言ってのけるのが先輩の良いところだよね。

 

「あ、いや……演奏後のパフォーマンスがいまいちウケなかったことを反省してて……」

「あんなのがウケるわけないでしょ!? 大真面目に語った私がバカみたいじゃない!!」

「ええ……!? お、おもしろくなかったですか?」

「ドン引きよドン引き!! せっかく良い演奏してたのに最後のアレで全部持っていかれたわよ!!」

「あ、ふへへ。つ、つまりお客さんの心には深く刻まれたということですね……」

「なんでこういうところだけポジティブになるの!?」

 

 大槻先輩が必死で後藤さんにツッコんでいる。……案外、この二人の相性って悪くないのかもな。でも、なーんか後藤さんって大槻先輩にシンパシーを感じながらも警戒してるような雰囲気があるんだよね。

 

(大槻さん……山田くんの正面に座って胸元の開いた服でセッ〇スアピールしてる……や、やっぱりすごくえっちな子なんだ……わ、私が近くでしっかり見ておかないと山田くんが大槻さんのえちえちオーラに当てられてお持ち帰りされてしまうっっ!!)

(この子、やたらと私の方を見てくるわね。そんなに私のことが気になるのかしら? ふっ……どうやら私の溢れ出るカリスマに惹かれているようね)

 

 なぜか大槻先輩がドヤ顔で後藤さんを見ている。先輩が何を考えているのかはよくわかんないですけど、多分盛大な勘違いですよ?

 

「こ、今度は会場全体が笑いの渦に巻き込まれるような一発ギャグを……」

「ぼっちちゃんはギター弾いてるだけでいいよ。ライブ中は一言も喋らないで」

「虹夏ちゃんが廣井さんを見るような目で後藤さんを見てる……」

「あの子、あんなに冷たい表情もできるのね」

「に、虹夏ちゃんっ……! あのギャグのどこが悪かったんですか……!? や、やっぱり武田信玄じゃなくて上杉謙信の方がよかったと……」

「改善すべきはそこじゃない!! なんでぼっちちゃんって変なところで自信満々になるのかな!?」

 

 服装のセンスにもなぜか自信を持ってるよね。他のことになると極端なマイナス思考になるのに。

 

「そういえば、ふーちゃん達って物販で結束バンドを買ってくれたんだね」

「そうだよ~。色んな色があって可愛いし、何かに使えそうだと思って~」

 

 ふーちゃんはそう言って手首に巻いたピンク色の結束バンドを見せてくる。ギターだから後藤さんカラーを買ったんだね。

 

「ウチも買いました。ドラムなので虹夏さんカラーを」

「幽々も~新発売だったからリョウさんカラーを買いました~」

「あなた達正気!? 五百円も出して結束バンドを買ったの!?」

「大槻先輩。これ、百本で千五百円くらいです」

「とんでもない暴利ね!」

「バンドグッズってそんなもんじゃないすか? 正直、Tシャツのデザインも格好良かったので買おうと思ったくらいっす」

「Tシャツは他の色はないんですか~? あったら買いたいです~」

「幽々はバンドパーカーをおすすめしますよ~。冬は暖かくて便利なので」

「バンドパーカーか~。考えておこう。Tシャツについてもメンバーのカラーに合わせたものを作る予定だよ」

 

 なんか普通にSIDEROSの子達が結束バンドのファンになってるな。グッズのことできゃっきゃと楽しそうに話し合ってるし。……そういや、SIDEROSの物販については聞いたことがなかった気がする。

 

「お、大槻さんも一本いっときますか?」

「『一杯やる?』みたいな感覚で言わないでちょうだい!」

「大槻さん! 私と同じギターボーカルだから赤色にしましょう!」

「商売魂たくましいわねあなた達!?」

 

 結局、大槻先輩は喜多さんカラーの結束バンドを買わされていた。……どんまい。でも、これでSIDEROSの結束力も上がったんじゃないですか?

 

「上がるわけないでしょ!?」

 

 飲み物や料理が来るまでこんな感じで雑談していました。後藤さんや大槻先輩がもっと人見知りを発動させるかと思ったけど……案外大丈夫だったな。

 

 二人とも真っ先に俺の近くに座ったということとは関係ないと思いたい。うん。 

 

 

 

 

「取り分けるから適当に回していってね~」

「レンくん、手伝うわよ」

「じゃあ、喜多さんはそっちのテーブルをお願いね」

「わかったわ」

 

 料理と飲み物が来たので、乾杯を済ませて料理を取り皿に取り分けていく。こういう時、喜多さんや虹夏ちゃんは積極的に手伝ってくれる。姉貴はお誕生日席で踏ん反り返ってて、後藤さんはどうしていいかわからずおろおろと手持無沙汰にしていた。

 

「後藤さん、みんなに割り箸を配ってくれる?」

「あ、はいっ」

 

 役割を与えてあげると後藤さんは嬉しそうにみんなに割り箸を配っていた。

 

「大槻先輩、この中で食べられないものはありますか?」

「……ないわ」

「先輩って、確か唐揚げには抹茶塩をつけるんでしたよね? 店員さんに頼んでおきましたから。はい、どうぞ」

「あ、ありがとう」

「ドレッシングはゴマが好きなんですよね。はい」

 

 俺が大槻先輩の分の料理を取り分けて渡してあげると、先輩やSIDEROSの他のメンバーからすごい目で見られてしまった。……あ、やべ。いつもの癖でやっちゃった。姉貴と飯食う時はこんな感じになるからつい。

 

「や、山田くんっ。他にお手伝いすることありますか?」

「じゃあ、こっちの取り分けたサラダをみんなに渡してくれる?」

「あ、はいっ」

 

 娘がお手伝いをしている姿を見守る父親ってこんな心境なのかな。俺は嬉しそうにお手伝いをしてくれる後藤さんを見ながら、ほっこりと心が温かくなるのだった。

 

「レンさんってやべーすね。全方位甘やかしマシーンじゃないすか」

「私達よりも先にヨヨコ先輩と仲良くなるくらいだからね~」

「ぼっちさんもすごく懐いてますね~」

「SIDEROSのみなさん。あれ、私の弟なんですよぉ」

「……家でもあんな感じなんすか?」

「お家だともっと甘々介護士になるよ」

「あれより甘くなるんすか!?」

「甘やかされて出来上がったのがリョウだからね」

「あれはゆっくりじっくり体と精神を蝕んでいく性質の悪い毒。ぼっちも大槻ヨヨコも手遅れ」

 

 誰が毒だ誰が!! 俺がこんなになったのはほとんどてめーのせいだろうが!!

 

 と、心の中で悪態をつきつつも、後藤さんや大槻先輩のお世話をやめられない俺なのだった。

 

 

 

 

「よし。なんかゲームやろう」

 

 しばらく料理を食べてみんなで歓談していると、姉貴が唐突にそんなことを言い始めた。ざっくりしすぎだろ。ゲームって……何をするつもりなんですかねぇ?

 

「もちろん、合コンの定番───王様ゲーム」

「合コンじゃねえし、この令和の時代に王様ゲーム?」

「王様ゲームって都市伝説じゃなかったんすか?」

 

 男一人女八人の合コンとかバランス崩壊ってレベルじゃねーぞ。しかも王様ゲームって……あれって三十代とか四十代のおっさんが大学時代にやってたんじゃなかった?

 

「じゃあ、おっぱいゲームにする?」

「酒入っててもやりたくねーわ」

 

 あのね。俺も一応男だからね。気まずさとか感じるからね。しかもおっぱいゲームって名前の割にルールが結構面倒だったりするし。

 

「とにかくやろう。割り箸はたくさんあるし。番号は一~七と王様、あとは『レン』って書いたやつ」

「なんで俺だけ名指しなんだよ。毎回罰ゲームを受けんといかんのか?」

 

 俺がぐちぐち文句を言うも、姉貴はせっせと割り箸を用意していく。こういう時だけ行動早いな。

 

「リョウ先輩、なんでも命令していいんですよね?」

「もちろん」

「喜多ちゃ~ん? 常識の範囲内でだよ~?」

「わかってますよ! 結束バンドの絆が崩壊するような真似はしませんから!」

「はーちゃんに当たったらどんなお願いをしようかな~」

「これって指名制じゃないっすよね?」

「幽々は霊視を応用して無双しちゃいますよ~」

 

 意外とみんなも乗り気だった。……大槻先輩と後藤さんを除いて。

 

(お、おおおおおお王様ゲーム? そ、それってあれだよね!? 合コンで王様がえ、えええええっちな命令をしてお持ち帰りされちゃうヤリサー専用の十八禁ゲーム!? ま、まずい……大槻さんが王様になったら絶対山田くんにえっちな命令をするに決まってる!! なんとか……なんとか山田くんの山田くんを守らないと……!!)

 

 後藤さんがものすごい形相で俺と大槻先輩を交互に見てくるけど、どうしたの? 彼女の行動の意味が分からず、俺と大槻先輩は顔を見合わせて首をかしげていた。

 

「記念すべき最初の~王様だ~れだっ?」

 

 全員に割り箸を引き終え、ノリノリの喜多さんの掛け声で各々割りばしに書かれている番号を確認する。……とりあえず俺は王様じゃない。

 

「はーい。私でーす!」

 

 最初はふーちゃんか。……とりあえず安心できるね。ふーちゃんなら変な命令はしないでしょう。一回目だし、そんな過激な内容にはならないはず。……ならないよね?

 

「四番の人は~王様の頭をなでなでしてくださ~い」

 

 はい可愛い。こんな可愛い子を疑ってごめんなさい。そんな命令しなくてもいつでもなでなでしてあげます。

 

「四番はあたしだね~」

「虹夏さ~ん。なでなでしてくださ~い」

「よしよし。こっちおいでふーちゃん」

 

 虹夏ちゃんとふーちゃんという癒し系コンビ。虹夏ちゃんは聖母のような笑顔を浮かべてふーちゃんの頭を優しく撫でている。……もう、この光景だけで世界を平和にできるんじゃないかな。尊い。

 

「虹夏さんってお姉ちゃんみたいです」

「あたしもふーちゃんみたいな可愛い妹が欲しかったな~」

 

 虹夏ちゃんの言葉に、俺とあくびちゃんが腕を組んでうんうんと頷く。

 

「虹夏先輩は結束バンドのお姉ちゃん兼ママということですね!」

「ママは余計でしょ!?」

「そしてリョウ先輩もママです!」

「二人のママ……百合アニメっすか?」

「私はそんなリョウ先輩達の娘になりたい……」

「おっと、聞き間違いっすかね? 聞き間違いじゃなかったらナチュラルにヤバい発言っす」

 

 聞き間違いじゃないよあくびちゃん。喜多さんはね。姉貴の狂信者過ぎてちょっと頭が残念な感じになってるの。

 

「そしてひとりちゃんはペット! これが結束バンドよ!」

「あ、ぽ、ポメラニアン後藤です。ふへへっ」

「なんでこの子ペット扱いされて喜んでるの!?」

 

 大槻先輩がツッコむけど……先輩も狼気取りのチワワですからね? まあ、大槻先輩はなんやかんや包容力あるし、甘やかしてくれるからSIDEROSのママといえばママですけど。

 

 ということで、一回目は平和に終わりました。こーゆーのでいいんだよ、こーゆーので。

 

「じゃあ二回目。王様だ~れだっ?」

 

 割り箸をシャッフルして二回目、次に王様になったのは……

 

「ウチっすね。ん~、まだ序盤だし軽~いのでいくっすよ」

 

 あくびちゃんか。良心がまだ続くな、ヨシ! 王様になったらまずいのは姉貴と喜多さん、ずっと怪しく笑ってる幽々ちゃん。あと、何をしでかすか予想ができないという点で後藤さん。……多いな!!

 

「一番は三番に膝枕してください」

 

 膝枕か。うん、軽い軽い。平和的でいいですね。……って、三番って俺じゃん!

 

「三番は俺だけど、一番は───」

「わ、私よ……」

 

 俺の前に座る大槻先輩が震える声を出しながら名乗り出る。マジか。こういう系の命令で引き当てたらまずい人を引き当てちゃったな……

 

(お、大槻さんが山田くんに膝枕!? ま、まずいまずいまずいまずい!! えちえちオーラ全開の大槻さんが膝枕なんてしちゃったら……二人はこの後夜の街に消えていき……おぼろろろろろろろろろっ!! そ、想像したら吐き気がしてきた……)

 

 なんか後藤さんの顔が真っ青になってるけど大丈夫!? 対照的に大槻先輩の顔は赤いけど!?

 

「ヨヨコせんぱ~い。王様の命令は絶対っすよ~?」

「そうですよ~? レンくんにちゃぁんと膝枕してあげてくださ~い」

「幽々が記念撮影してあげます~」

 

 SIDEROSの三人はここぞとばかりに大槻先輩を弄り始める。喜多さんはスマホを構え、姉貴は満足そうに腕組みをしてうんうんと頷き、虹夏ちゃんはニコニコと笑っている。

 

「もしかしてヨヨコ先輩。照れてるんすか? 意識しちゃってるんすか?」

「はぁ!? だ、誰がこんなヤツのことを意識するのよっ!!」

「大槻さん。それならレンくんに膝枕するくらい余裕ですよね~?」

「あ、当たり前でしょっ!! 山田っ!! こっちに来なさい!! ひ、膝枕してあげるからっ!!」

 

 あくびちゃんと喜多さんにあおられて、大槻先輩はおめめぐるぐるになりながら捲し立てる。……大丈夫かなぁ? 家に帰って枕に顔埋めてバタバタするんじゃない?

 

「じゃあ、先輩。失礼しますね」

「は、はい……」

 

 なんか敬語になってるし。とはいえ、時間をかけても大槻先輩が可哀そうなので俺は先輩の太ももの上に頭を乗せる。……ふっ、こういう時、イケメンって得だよな。顔が良ければ大抵のことは許されるし。

 

「う~ん……レンさんは割と余裕そうっすね」

「虹夏がよく膝枕してあげてたから」

「え? そうなんすか?」

「そうだよ~。といっても、昔の話だけどね」

「虹夏さんってリョウさんやレンくんと幼馴染なんですよね~」

 

 あくびちゃんやふーちゃんが怪しく笑いながら俺を見てくるけど、俺からお願いしたわけじゃないからね? ソファで昼寝してて、起きたらなぜか虹夏ちゃんが膝枕してくれてたりっていうことが多かっただけだから。

 

「も、もういいかしら?」

「ヨヨコ先輩ダメですよ~。あと一分」

「い、一分も!?」

「レンくん。ここで大槻先輩に一言!」

 

 幽々ちゃんと喜多さんがスマホを向けながらそんなことを言ってくる。なんか命令増えてない?

 

「いつもは先輩が俺を見上げてますけど、先輩を見上げるのも乙なものですね」

 

 大槻先輩が顔を真っ赤にして俺のほっぺたを引っ張ってきた。全然照れを隠せてない先輩は可愛いですね。

 

(や、山田くんがえちえちに染められている!? で、でも……えっちになった山田くんもちょっと見てみたいかも……って、違う違う!! そうじゃないだろ後藤ひとり!! 山田くんが感染してしまったえちえちウイルスを何とか取り除かないと……はっ! 次のゲームで私が王様になっていい感じの命令をすればいいんだ!!)

 

 さっきまで顔面ブルーハワイだった後藤さんが超サイヤ人みたいに黄金のオーラを纏ってる。……そんなに王様になりたいのかな?

 

 あ、大槻先輩の膝枕はとても心地よかったです。

 

「次の王様は~……私よっ!!」

「げっ!?」

「レンくん、げって何よ!? げって!?」

 

 とうとうこのときが来てしまった……王様にしてはいけない四天王の一人が……いや、確率が九分の四だからそりゃあいつかは当たるんだけどね。

 

 どうせ姉貴関連の命令にするんだろ? 俺は詳しいんだ。

 

「リョウ先輩は私をハグしてください!!」

「いいよ」

「くじ引きにした意味!!」

 

 なんで名指しで命令してんだよ。ルールぶっ壊しじゃん。王様ゲームの一番面白いところを堂々とぶっ壊してくるなこの子……

 

「……だめ?」

「そんな可愛くおねだりしてもダメ。俺以外の男なら効果があったかもね」

「……ちっ」

 

 舌打ちしやがったこの女。まあ、喜多さんは自分の可愛さを自覚していて最大限利用する女だからな。

 

「姉貴への愛が本物なら、八分の一っていう確率の壁くらい超えてみろ!!」

「っっ!? そうね!! ただ命令するだけなんて……私はなんて愚かなことを……困難に打ち勝ってこそ、真実の愛が芽生えるのよ!!」

「この人達何言ってんすか?」

「はーちゃん、しー! しー!」

 

 あくびちゃんがものすごく冷静にツッコミを入れている。虹夏ちゃんは色々と諦めているみたいでふーちゃんの頭を撫でていた。

 

「私の運命力なら必ず先輩の番号を引き当てられる!! 刮目しなさいっ!! これが結束バンドのギターボーカル、喜多郁代の真の力よ!!」

「この子、お酒飲んでるわけじゃないわよね?」

「完全に素面ですよ、大槻先輩」

「素面なら素面で逆にヤバいと思うのだけど」

 

 姉貴が絡むと喜多さんは大体こんな感じですよ?

 

 喜多さん、めっちゃ気合入ってるけど、俺には違う番号を引き当てて即落ち二コマするフラグにしか思えない。

 

「七番っっ!!!!」

「あ、俺だ」

「山田違いっっ!!??」

 

 俺が手を挙げた瞬間、喜多さんは膝から崩れ落ち、後藤さんは驚愕の表情で俺を見てきた。

 

「レンくんモテモテだね~」

「イケメンとハグできるのに喜多さんが微塵も喜んでないのがめっちゃウケるっす」

「喜多ちゃんはリョウ信者だから」

「でも~お二人はご姉弟だから山田さんをリョウさんだと思い込めばいいんじゃないですか~」

 

 幽々ちゃんが何気なく言ったその一言に、喜多さんは天啓を受けたような表情で幽々ちゃんを見る。そしてキタキタオーラ全開で、目をしいたけみたいにして俺に詰め寄ってきた。その顔やめーや。

 

「レンくん、櫛で髪型をリョウ先輩っぽく整えるからじっとしててね」

「なんか鼻息荒くなってない?」

「レンくんは目に生気があり過ぎ。リョウ先輩はもっと死んだ魚のような目をしているの。あと、声ももっと無感情な感じで高くして……」

「この王様、命令が細かすぎる!?」

「私が使ってる香水をつけてやろう」

「姉貴も悪乗りすんなや!!」

「こ、これで五感全てでレンくんをリョウ先輩だと思い込めるわ!!」

「俺、喜多さんのヤバさをまだまだ侮ってたわ」

 

 佐々木さんはこんな喜多さんとの腐れ縁なんだよな。……なんか、佐々木さんの顔を思い浮かべたらちょっと心が落ち着いた。

 

 で、大槻先輩の顔を見たら喜多さんにドン引きしていました。仲の良い男の子が自分以外の女の子とハグするのに、嫉妬とかしてくれないんですね。

 

 この喜多さん相手なら嫉妬もクソもないか。

 

「私は今からレンくんを全力でリョウ先輩だと思い込むから、レンくんも全力でリョウ先輩になりきるのよ?」

「え? やだ」

「声っ!!」

「はい」

 

 目がマジじゃん。ふつーにこえーよ。

 

 そして俺達はそのまま抱き合う。……女の子と抱き合っているのに微塵もドキドキしないのはなんでだろうね。

 

 ドキドキはしない。ドキドキはしないけど、ただ……

 

(喜多さんってやっぱ可愛い顔してるよなぁ)

(レンくんってやっぱり綺麗な顔してるわね)

 

 喜多さん……色々ともったいなさすぎる。俺は至近距離で彼女の顔を眺めながらそんなことを考えていた。

 

(き、ききききき喜多ちゃんまで大槻さんのえちえちウイルスに感染しちゃった!? こ、これ以上感染が広がる前に食い止めないと!! やれるやれる私ならできる諦めるな後藤ひとり!!)

(後藤ひとりがやたらとチラチラ見てくるけど……これ以上私に何をさせるつもりかしら? というか、山田も女の子と抱き合ってあの反応はないでしょ。……相手が相手だから仕方ないかもしれないけど)

 

「今のところ、結束バンドの『やべーやつランキング』は喜多さんが堂々の第一位すね」

「二位がぼっちさんで~三位がリョウさん」

「虹夏さんは一番普通! そのままの虹夏さんでいてね?」

「……悩み事があったらいつでも連絡ください」

「幽々も相談に乗りますよ~」

「SIDEROSが……SIDEROSの子達が温かすぎる……!!」

 

 虹夏ちゃんは人の優しさに触れて感激しているようです。

 

「大槻先輩、いい子達を見つけましたね」

「でしょ? 自慢のメンバーよ!」

 

 大槻先輩はドヤ顔でそう言った。可愛いね。

 

 

 

 

「次の王様は~?」

「わ、わたっ……私ですっ……!!」

「ぼっちちゃんかぁ~(も、ものすごく不安なんだけど)」

「ぼっち。わかってるね?」

「あ、はい。わかってます(大槻さんのえちえちウイルスをここで撲滅させますっ!!)」

 

 後藤さん、めっちゃ気合入ってるな。そんなに王様をやりたかったのか……でも、ものすごく嫌な予感しかしないのは気のせいじゃないな。ライブの時の突拍子もないパフォーマンスといい、こういう場面での彼女の言動はちょっと……予想できない。

 

(で、でも……撲滅させるってどうすれば? わ、私も大槻さんや喜多ちゃんみたいな命令で上書きする……? いやいや、それじゃ上書きにならないだろっ!! えっちな雰囲気が加速してしまうっっ!! ここには山田くんしか男がいないんだから、エロ漫画みたいな展開になって……あーだめだめ!! そういうのは早すぎますっっ!! もっと……もっと段階を踏んで関係を進めてからじゃないと!! はっ!? 待てよ……このピンクのオーラを消し去るには対極の力───すなわち「純愛」をぶつければいい!! さすが私!! 天才過ぎるっっ!! この勝負、もろたで後藤!!)

 

 なんか後藤さんがとんでもないことを考えてそうだけど……まあ、どうなっても後でちゃんとフォローしてあげるからね。

 

「に、二番の人は王様に愛を囁いてくださいっ……!! (これぞ純愛!! ピンクでえちえちなヤリサームードをこれで一変させてやる!! あ、でも山田くんが二番だったらどうしよう……え、えへへへ。み、耳元で甘~い言葉を囁かれちゃって……私もそれを受け入れてそのまま二人は愛を育み……ぐへっ、ぐへへへへっ)」

 

 後藤さん……そんなに愛に飢えて……というか、承認欲求を変に拗らせた感じかな?

 

「に、二番はどなたでしょうか? (ま、まあ? 山田くんだろうけどぉ?)」

「私だ」

「りょ、リョウさんっ!? (や、山田違いっっ!!??)」

「ひ、ひとりちゃん……いいえ!! 後藤さん……こ、この泥棒猫っ!!」

「ち、ちがっ……そんなつもりは……!!」

 

 喜多さんが寝取られてて草生えますよ。

 

「そんなに私の愛が欲しいのか、ぼっち。いいだろう、どこまでも情熱的に愛してやるよ」

「リョ、リョウ先輩……わたっ、私との関係は遊びだったんですか!?」

「郁代、お前のことは……好き()()()よ」

「いやああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁああぁぁぁぁああああっっっ!!!!!!」

 

 あ、喜多さんが脳破壊されて顔面が後藤さんみたいに崩壊してる。君もそんなことできるんだ。ふーん、すごいね。

 

「……何、この茶番?」

「結束バンドじゃ日常茶飯事ですよ」

「あなた達……間違いなくロックバンドだわ」

 

 大槻先輩はドン引きを通り越して呆れていた。このくらいキャラが濃くないと、このバンド戦国時代を生き残れないですからね。

 

「ぼっち、好きだよ。愛してる。この世界中の誰よりも」

「あ……りょ、リョウさん……(や、山田くんに似た顔でそんなに迫られると───はひゅぅ……)」

 

 後藤さんは姉貴に耳元で愛を囁かれ、そのままドロドロに溶けてしまいました。……大丈夫? 後藤さん、百合に目覚めたりしないよね?

 

「誰かこの惨状にツッコミを入れなさいよ!!」

 

 大槻先輩以外のメンバーは後藤さんが溶けたことには一切触れず、きゃーきゃー盛り上がってました。……この子達も結構大物だな。

 

 あと、大丈夫ですよ先輩。十分くらいで元に戻るので。

 

 

 

 

「んはっ!? わ、私は何を……」

「……変ね。ここ十分くらいの記憶を失っているわ」

 

 世の中には、忘れたままでいた方が良いこともある。きっと、喜多さんにはこれ以上精神を傷つけないための自己防衛本能が働いたのでしょう。

 

「結構いい時間だし、次で最後にしようか?」

「そ、そうですね。うぅ……なぜか頭が痛い……」

「大丈夫? おいで郁代。よしよししてあげよう」

「リョウせんぱぁい♡」

 

 お前、自分で脳破壊しておいて自分で治すんかい。やってることが完全にDV男のそれやんけ。……良い空気吸ってんなー姉貴。

 

「最後の王様は───幽々で~す!」

 

 ゆ、幽々ちゃんかぁ~……そこは虹夏ちゃんや大槻先輩あたりの安パイに引いてほしかった。幽々ちゃんも考えが読めないところがあるから結構怖いんだよな。あと、その人形もかなり怖い。人形が俺の方をじっと見ているのは気のせいだよね?

 

「最後なので~ちょっと過激な内容にしますよ~?」

「盛り上がる命令を頼むよ~幽々ちゃん!」

 

 ふーちゃんも煽らないで! 君はあんまり被害受けてないから余裕なんだろうけど……その余裕が命取りになるかもしれないよ?

 

「まず内容から発表しま~す。今から言う番号の二人は……キスをしてもらいます───ほっぺに♡」

 

 その言葉に、ふーちゃんとあくびちゃん、喜多さんの三人は黄色い歓声を上げて盛り上がる。口って言わないあたり、幽々ちゃんもギリギリ踏みとどまった感があるな。

 

 ただ……ここで俺の番号が指名されたらほっぺだろうが何だろうが、空気がヤバいことになるのは確定している。

 

 頼む神様仏様大槻様!! どうか……どうか今回ばかりは俺を見逃してください!! 八人のうちの二人……確率四分の一だからそんなに無茶なお願いじゃないはずです!!

 

「では……五番の人~!」

「……お、俺だ」

 

 しかし、俺の願いも虚しく見事に指名されてしまう。……俺が当たる確率高くない!?

 

 あと、ふーちゃん達!! そんなに盛り上がらないの!! いや俺だって他人事だったら盛り上がるけどさぁ……

 

 後藤さんや大槻先輩は顔を赤くして俺を見てくるし……相手がこの二人だったらちょっとヤバいな。それ以外の五人だったら……比較的平和に終わるはずっ!!

 

 虹夏ちゃん? 虹夏ちゃんはずーっとニコニコしながら俺を見てるよ?

 

「じゃあ、山田さんがほっぺたにキスをする相手は───一番の人~」

 

 一番……一番は誰だ!? 後藤さんと大槻先輩は……自分の番号を見てほっとしている感じだ。ならばヨシ!!

 

 残りの五人のうちの誰が───

 

「私だ」

「姉貴かい!?」

 

 姉貴はドヤ顔で立ち上がって俺の方へ歩いて来る。いや……よく考えたらこれは一番平和に終わる相手なんじゃないのか? 下手に他の人にやっちゃうと後々悔恨が残りそうだったし……

 

「幼馴染? ツンデレ先輩お姉さん? 内気なおっぱい同級生? 誰も彼も相手にならんよ。レンのメインヒロインはこの私。私は───全てのヒロインを過去にする」

「何言ってんだお前?」

 

 とりあえず、面倒だからさっさと終わらせよう。ほら、ほっぺた出せ姉貴。

 

「だ、ダメよ!! そんなのダメ!! たとえ王様が許しても私が許さないわ!! 姉弟で……姉弟でだなんて非生産的よっっ!! そんなの……そんなのは漫画の中だけにしか存在しちゃいけないの!!」

「あくびちゃん、ふーちゃん。喜多さんを押さえてくださ~い」

「あ゙ーっ!! あ゙ーっ!! あ゙ーっ!! 離してっ!! 離してよっ!!」

「王様の命令には逆らえないんすよ~」

「喜多ちゃ~ん。観念しようね~」

 

 また喜多さんが雑に脳破壊されてる……ちょっと本格的にこの子の更生について考えた方がいいかもしんないな。

 

「じゃあレン、よろしく」

「うい」

 

 そして俺は、そのまま姉貴の頬にそっと唇を落とす。

 

 まあ、多少の気恥ずかしさはあるけど海外だと挨拶みたいなもんだしな。相手が姉貴でよかったよほんとに。これで後藤さんだったらちょっと……うん……俺もさすがに意識するわ。

 

「あ、喜多さんが気絶したっす」

「起きるまで私が膝枕しててあげよう」

「姉貴……やってることが完全にクズ男のそれだからな」

 

 しかも喜多さんに効果てき面なのが余計にな~。

 

 そんなことを考えながら自分の席に戻ると、顔を赤くした大槻先輩と後藤さんが俺からさっと視線を逸らした。

 

 ちょ、ちょっとショック……

 

 いやでも、本当に最後の命令がこの二人に当たらなくてよかった。若干残念な気もするけど。……若干ね? 若干! 小指の甘皮くらい。

 

 で、喜多さんが生き返るまでは普通に歓談していたんだけど

 

 なんというかこう、お約束の()()がありまして

 

 

 

 

「廣井のバカはどこだ!? どこへ行った!?」

「伝説の日本酒を求めて新潟に行きました」

 

 禁酒中の廣井さんを追って、武装した志麻さんが俺達の部屋に突撃してくるのでした。

 

 めでたしめでたし。




 本作のメインヒロインは山田(レン)です!

 ちょっとくらい恋愛フラグを進行させようと思ったんですが、気付けば喜多ちゃんと山田に全部持っていかれてました。

 この二人のギャグ適性が高すぎる。

 唯一ヒロインっぽいムーブをしていたヨヨコも完全に食われてしまいました。

 つ、次のお話ではもうちょっと甘くするから許して。

 次回は夏祭りに行きます。

 多分ぼっちちゃんのターンになるかな。ターンになったところでヒロインムーブできるとは思えないけど……

 ではでは、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

 
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