【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#28 カルマ

「暑いし、かき氷食べようか」

「あ、そ……そうですね」

 

 男の子にヨーヨーを取ってあげて、他の屋台を回っているとかき氷の屋台を見つけた。この暑さはちょっと洒落にならなくて、冷たいものが欲しかったからちょうどいい。後藤さんも人混みで余計に体力を使っているだろうし。

 

 でも、あれだな。普通に後藤さんと手を繋いで歩いてるけど、全然緊張とかしないな。むしろ安心感すらある。やっぱ後藤さんの家で情緒不安定になってたのは後藤さんの浴衣姿に衝撃を受けたからだったのか。なるほど納得。

 

「後藤さん、ブルーハワイ好きでしょ?」

「ど、どうしてわかったんですか……!?」

「だって、そうとしか思えなかったから」

「あ、そ、その笑い方……ちょ、ちょっとバカにしてますね……?」

「してないしてない」

「し、してるもんっ!」

 

 後藤さんはそう言いながら、俺に抗議をするように手を握る力を少し強めながらジト目でじーっと見上げてくる。あら可愛い。そんな顔もできたんだね。

 

 なんで後藤さんがブルーハワイ好きってわかったかっていうと……「後藤さんだから」としか言いようがない。この子のセンス的にね。

 

「じゃ、じゃあ……山田くんの好きな味を当ててあげますっ……!」

「どうぞ~」

 

 どうしよう。当てられる予感が全くしない。

 

「メロン!」

 

 あ、でも結構惜しい。

 

「残念、レモンでした~」

「う、嘘……だってファミレスではいつもメロンソーダ飲んでるじゃないですか?」

「メロンソーダはメロンソーダで完成された飲み物。バニラアイスがあればなおヨシ! でもかき氷はレモンが一番」

「……メロンとレモンって語感が似てますし、ほとんど正解ですよね?」

「残念ながら不正解です。じゃあ罰ゲームはどうしようかな……」

「ず、ずるいですっ! そんなの最初に言ってなかった……!!」

「世界はね、残酷なんだよ」

 

 俺が笑ってそう言うと、後藤さんは「むむむむむむむむむむむむ!!」と言いながら首を高速でぶんぶん横に振って「イヤイヤアピール」をしてくる。何やこの可愛い生き物。

 

「まあ、かき氷のシロップって色が違うだけで全部同じだから何を選んでも一緒なんだけどね」

「い、色々台無しです……」

 

 俺と後藤さんは顔を見合わせて笑った。

 

 そこでふと、俺は思う。入学式の日は、廊下で隠れながら俺の様子をうかがっていた後藤さんと……こんなに自然に話せて、笑い合えるくらい仲良くなったんだな、と。

 

 こう……色々と感慨深いものがあるよね。

 

 それから、屋台に並んでかき氷を買い、食べながら歩いていると後藤さんが何か閃いたような表情になり俺を見てくる。

 

「あ、あ……や、山田くん。私、すごいことに気付きました! レモンとブルーハワイを混ぜると緑色になるから……実質メロン。私の正解ですっ」

 

 そう言って後藤さんは自分のブルーハワイのかき氷を一口分、俺の容器に入れてくる。……結構大胆なことするのね、君。絶対今、自分が何やったか意識してないでしょ? というか、意識した瞬間爆発四散しちゃうでしょ?

 

 俺は「気付いた私、偉いでしょ?」みたいな純粋な笑顔を向けてくる後藤さんを見てそう思った。

 

「確かに、緑色になったね」

「ですよね? な、なので罰ゲームは山田くんが受けるということに……」 

 

 後藤さんが「ふへへ」と怪しく笑いながらそう言った。……前髪を切って見た目はかなり変わったから、次は内面をもっと磨いていこうか。

 

「後藤さんは、俺に何をさせたいのかな?」

「あひぃ!?」

 

 後藤さんが少し調子に乗り気味だったので、俺は怪しく笑って彼女の耳元でそう囁くと、彼女は素っ頓狂な声を上げてかき氷の容器を落としそうになった。

 

「か、かかかか……考えておきます」

 

 あ、俺が受けることは確定なのね。何をやらされるのか全然想像つかないけど……「面白い一発芸をやれ」とか言われたらどうしよう。普通にありえそうで怖い。

 

「あ、山田くん。虹夏ちゃん達とは……いつ合流しましょうか?」

「そうだね。屋台の列もそろそろ終わるっぽいし、買いたいものは一通り買えたからそろそろ連絡してもいいんだけど……」

 

 スマホを取り出して時間を確認すると、午後六時を過ぎたところだった。ぼちぼち花火を見れる場所を確保しておきたいな。

 

 そう考えて、ロインを開いて虹夏ちゃんに連絡を取ろうとしたけど……

 

「───やっぱやめた。ねえ、後藤さん。せっかくだし、このまま二人で見ない?」

 

 俺はスマホをポケットにしまい、笑顔で後藤さんに提案する。なんで俺が突然こんなことを言い出したのか……残念ながら、この時の俺には全く自覚がなかったんだ。

 

「あえ? ふ、ふたり? ……二人でですかぁ!?」

「うん」

 

 後藤さんは大きく目を見開いて俺を見てくる。そりゃあ驚くよね。俺も自分でこんなことを言い出すなんて思ってもいなかったんだから。

 

「今から虹夏ちゃん達を探して合流するのは……結構面倒だし、姉貴の介護と夏祭りでテンションの上がった喜多さんの相手をするのは疲れる」

「そ、それは確かにそうですね……」

 

 虹夏ちゃんには後日謝ります。負担増やしちゃってごめんなさいって。今度また甘やかしてあげるから許してください。

 

「じゃあ、決まり! 実は俺、落ち着いて見られそうな場所を色々調べてたんだ」

「そ、そうなんですか?」

「うん。電車で一駅移動するから来た道を戻ろうか───ほら、行こう」

「あ、え……? (ま、また手を繋いじゃった……! 山田くんに流されちゃったけど……こ、これでいいんだよね? えへへ……)」

 

 俺はもう一度後藤さんの手を握り、元来た道を戻り始める。彼女のちゃんとした返事を聞いてなかった気もするけど……まあいっか。

 

 

 

 

 海の公園南口駅から金沢シーサイドラインに乗り、一駅先の野島公園駅で降りた後、五分ほど歩いて野島公園の展望台へとやってくる。地元の人が知っている穴場で、展望台に上ると何組かのカップルがいた。

 

 人が少なくて快適に見られそうだ。展望台からの眺めも良いし。

 

 俺達は展望台のベンチに座り、屋台で買ったたこ焼きや焼きそばを一緒に食べる。

 

「こんな場所があったんですね。知らなかった」

「ネットで検索すれば出てくるよ。会場からそんなに遠くないけど、電車で移動したりここまで登らなきゃいけないからあんまり人は来ないみたい」

「た、確かに……ちょっと疲れました」

「二学期は体育祭があるし、がんばって体力つけようね」

「た、体育祭っっ!!??」

 

 俺が体育祭というワードを使った途端、後藤さんが激しく痙攣し始めた。ごめんごめんごめん!! 体育祭って後藤さん的には禁止ワードだったよね!! うっかりしてたからどうか溶けたり爆発したりしないで!!

 

「クラス一致団結……陽キャ達の応援団……準備で男女の仲が縮まり付き合い始める体育祭ラブ……いつもより格好良く見えてしまう男子……運動能力の低いものが淘汰される悪魔の所業……」

「それ全部歌詞に使えそうなワードだね」

 

 こうやって喋っていられるうちは大丈夫。本当にヤバかったらいきなり変態するからねこの子は。

 

「まあ、運動が苦手な子でもそんなに問題がない団体系の競技に出ればいいよ。俺も運動は好きだけど、本職の運動部に比べたら全然だし」

「い、一緒の種目に出てくださいっ」

「いや、男女別だからね?」

 

 いつもお話してる前の席の女の子達と同じ種目に出れば大丈夫だって。

 

「あ、そうだ。後藤さん、ラムネどうぞ」

「あ、ありがとうございます……」

「今時ビンの容器でビー玉入りって珍しいよね」

「あ、あまり見ないですね。私、いつも開ける時に噴射して手がベタベタになっちゃいます」

「わかるわかる。慌てて口に入れるよね」

 

 プラスチック容器のラムネとか普通のジュースも売ってたけど、これが一番お祭りに来た感があって俺は好きだ。ビー玉を押してポンって音が鳴る瞬間がいいんだよね。

 

 二人で縁日で買ったものを食べ、ラムネを飲んでほっと一息。……なんかすごいな。後藤さん相手に普通にお祭りを楽しんでるよ。しかも二人っきりで。これってもしかして結構な快挙なんじゃないかな。

 

 浴衣姿を見た瞬間はまともに話せなくて、どうなるかと思ったけど。

 

 今ならもう少し、彼女のことを上手く褒められる気がする。

 

「ど、どうしました?」

 

 後藤さんの横顔をぼーっと眺めていたら、彼女が不思議そうに尋ねてきた。

 

「やっぱり、後藤さんは前髪を上げてる方がいいよ。その方が───ずっと可愛い」

「あ、あ、え……あ……あり、ありがとうごじゃいましゅ……」

 

 俺がそう言うと、彼女は漫画みたいにぷしゅーって音が聞こえてきそうなほど顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

 うん。大丈夫。さっきみたいに、心臓が変に高鳴ったりはしない。いつもの俺だ。うん。大丈夫大丈夫。

 

 俺は自分に、そう言い聞かせる。

 

 本当は、ちょっとだけ緊張して、ドキドキしていた。ちょっとだけね。本当にちょっとだけ。誤差レベルで。

 

「あ、花火……始まったね」

「そ、そうですね」

 

 しばらく沈黙していると、ドンという大きな爆発音とともに、夜空が色とりどりの花火に覆われる。この花火大会には初めて来たけど……結構迫力あるな。

 

「後藤さん、もっと見やすい方に行こうか」

「あ、はい」

 

 そして俺が手を差し出すと、彼女は恥ずかしそうに、でも嬉しそうな笑顔で俺の手を取るのだった。

 

 

 

 

 花火が始まって、私達は会場である海の公園側のフェンスに寄り掛かりながら夜空を埋め尽くす花火を眺めていた。……しっかりと手を繋いだまま。

 

 初めは緊張していたけれど、今はもうすっかり平気だ。

 

 ……嘘。本当は今もちょっとだけドキドキしてる。

 

 でも、全然嫌な感じじゃない。むしろ彼とこうしていられることが、すごく嬉しい。今まで感じたことがない、ふわふわして、ぽわぽわした不思議な感情。

 

「綺麗だねー」

「そうですね」

 

 そう言った彼の横顔はどこか(うれ)いを帯びているような、儚い笑顔だった。

 

 でも、すごく───すごく綺麗な横顔。女の私が羨ましく思ってしまうくらいに。

 

 山田くんは、容姿端麗で、頭が良くて、背が高くて、すごく面倒見が良くて、優しくて……本当なら、私なんかが隣にいたら気後れしてしまうような男の子だ。

 

 クラスでも、クラスの中だけじゃなくても……すごく人気者で、君はみんなから愛されて───

 

 はっ!? なんか今のフレーズとか心情……新曲の歌詞に使えそう!! ちゃんと覚えておかなきゃ!!

 

 こ、こんな時にまで歌詞が浮かんでくるなんて……作詞の才能が溢れすぎて自分が怖い!!

 

 あれ? それで……新曲の歌詞の前は何を考えていたんだっけ?

 

 あ! そうだそうだ思い出した! 山田くんのことだ。彼の横顔に見惚れちゃってたら歌詞が浮かんできたんだった。

 

 山田くんって本当に反則級の男の子だよね。彼のことを好きな……彼のことを思っている女の子はきっとたくさんいるんだろうな。

 

 でも私は……そんな子達に申し訳ないなと思いながらも、ちょっとだけ優越感に浸っていた。

 

 嘘ですちょっとじゃないです。めちゃくちゃ優越感あります。

 

 本当なら今すぐ「私、こんなイケメンと二人きりで花火を見たんだよ?」って声高に叫んでSNSで自慢しまくりたいです。でも、私は承認欲求が人の十倍はあるのでSNSには手を出していないから無理だけど。

 

 だって……だってこんな状況だったら調子に乗っちゃうでしょ!!

 

 陰キャに優しい高身長イケメンと二人きりで花火を見て、周りの女どもに微塵も優越感を持たない者だけが私に石を投げなさい。

 

 だーれも私に石を投げる資格はありません! 以上、証明終わりっ! 

 

 それにしても、さっき山田くん……私のこと「前髪を上げた方が可愛い」って言ってくれたよね。

 

 お、お母さんの言うことを聞いててよかった……

 

 美容院に行くのはすごく……ものすっっっっっっっっっっっっごく嫌だったけど、寿命を犠牲にした甲斐があったよ。

 

 こ、これからも前髪は今の長さくらいをキープするようにしよう。山田くんがまた褒めてくれるかもしれないし。

 

 そう考えながらもう一度山田くんの方を見ると、今度は彼を目がばっちり合ってしまった。綺麗な黄色の瞳が私を真っ直ぐに捉える。

 

「後藤さん」

「わひゃい!?」

 

 彼の顔に見惚れていたら、思わず変な声が出ちゃった。あ、山田くんがクスクスとおかしそうに笑ってる。は、恥ずかしい……

 

「写真、撮ろうか?」

「は、え……?」

「花火をバックに……こう、ね?」

 

 山田くんはそう言って、繋いでいた手を離して、花火を背にするようにしてフェンスにもたれかかる。な、なるほど……私も君を真似すればいいんですね?

 

 そして私も彼と同じようにフェンスに背中を預けた。 

 

「後藤さん、もうちょっとこっちに」

「こ、これ以上ですかぁ……!?」

「───こんな感じで」

「ひぃん!?」

 

 私が狼狽していると、山田くんは優しく笑って私の肩に手を回し、自分の方へ抱き寄せる。

 

 ち、近い近い近い近い良い匂い良い匂い良い匂い良い匂い!!!!!

 

「はーい、撮るよー?」

「ま、まままま待ってくだひゃい……」

 

 山田くんは右手で私を抱き寄せたまま、左手でスマホ自撮りモードにして構えている。

 

 む、むむむむむむむむむむむむ!!!! 今の私、まともにカメラを見られないよっ!!

 

 は、恥ずかし過ぎて……ぜ、絶対顔が真っ赤になっちゃってるっっ!!

 

「後藤さん……俺だってね───結構恥ずかしいんだよ?」

 

 その言葉を聞いて山田くんの顔を見ると、確かに彼の頬もほんのり赤く染まっていた。

 

 あ、君も……そ、そんな風に思ってるんですね。なんだか、ちょっと安心します。でも……それ以上に、嬉しいです。すごく。

 

 なんで私が嬉しく思ったのか……理由はよくわからないけど。

 

「じゃ、じゃあ私達、恥ずかしい者同士ですね」

「そうだね」

 

 そう言ってお互い笑い合うと、さっきまでの緊張がいくらか和らいだ。ま、まだちょっとドキドキはしてるけど。

 

 でも、今ならちゃんとできる気がする。

 

「じゃあ、撮るよ?」

「は、はい」

 

 無機質な音とともに、撮影が終わる。写真を見せてもらうと、恥ずかしがってはいるけど……自然に笑えている二人が写っていた。バックの花火もすごく綺麗。

 

「良い写真だね」

「そ、そうですね」

「……他の三人には、内緒にしておこうか」

「は、はい」

 

 彼は悪戯っ子のように笑って、人差し指を唇に当てる。ふ、二人だけの秘密の共有って、なんだかドキドキしますね。えへへ。

 

 前に撮ったアー写は焼き増しして押入れの中にびっしり貼ってあるけど……この写真は誰にも見られないように大事に保存しておこう。

 

 そして私達は再び花火鑑賞へと戻る。

 

 もちろん───ずっと、手を繋いだまま。

 

 

 

 

 午後八時を少し過ぎたところで、花火が終わる。

 

 それにしても、その場の雰囲気に流されたとはいえ……結構大胆なことやったな俺。ああ、今日帰ったら絶対思い出して枕に顔埋めて悶絶するやつだ。

 

 ……まあ、いっか。良い写真が撮れたし。後藤さんも嬉しそうだったし。何より俺も嬉しかったし。

 

「終わっちゃいましたね」

「そうだね」

 

 花火が終わってからも、俺達は手を繋いだまま展望台のベンチに座っていた。どうせ今移動しても、駅は花火大会に来た人達でごった返している。それなら、少し時間を空けてからの方がいい。

 

 それに、こうやって彼女と一緒に花火大会の余韻に浸っているこの時間がとても心地良かった。

 

「花火に夢中になってたから気付かなかったけど、夜景もすごく綺麗だね」

「はい。八景島シーパラダイスのネオンが幻想的です」

 

 しばらく二人でぼーっと夜景を眺めていたら、気付けば展望台にいるのは俺達二人だけになっていた。……あー、やばい。この雰囲気は……ちょっとやばい。

 

 お互いその気は全くなくても……()()()()ことになりかねない。

 

 雰囲気に流されるのだけは、絶対にダメだ。お互い不幸な結末にしかならない。

 

 大体、俺はそういう感情を───知っているだけで、()()()()()()()()()()()んだよ。

 

 そう考えていたら、スマホがブルブルと振動し始める。

 

 姉貴からの電話だった。

 

 ある意味、最高のタイミングだよ。姉貴。

 

 俺は電話に出ようとしたけど、少し考えて画面の「拒否」をタップする。

 

「で、出ないんですか?」

「メッセージを送っておくよ。それよりも、思い出したんだ」

「な、何をですか?」

 

 ちょっと色々刺激的なことがあり過ぎて忘れてた。

 

 俺は繋いでいた手を離し、リュックの中からあるものを取り出す。

 

「後藤さん」

「は、はい……」

 

 俺は後藤さんに取り出したものを見せて、笑顔を浮かべる。

 

「二人で───花火大会の続きしよ?」

 

 

 

 

 展望台を降りて、すぐ近くの海岸までやってくる。

 

 私達以外にも、いくつかのグループが花火をやっていたり、散歩をしている人がいた。

 

 下駄だからちょっと砂が入っちゃうかもしれないけど、それは我慢しよう。電車に乗るときに落としておけばいいかな。

 

「こうやって、市販の花火で遊ぶのってすごく懐かしい気がする」

「あ、わかります。私も家が普通の住宅街だからできる場所が限られてて」

「……姉貴は小さい頃、庭でロケット花火を打ち上げてたんだ」

「も、ものすごく近所迷惑になりますね」

「珍しく父さんが怒ってた。本当に珍しく」

 

 私達は花火を手に持ちながら、そんな会話をする。さっきまでみたいな、大きな打ち上げ花火も綺麗で好きだけど……こういう手持ち花火も落ち着いてできるから好きだ。

 

 それに、独特の火薬の臭いが「夏」って感じがして───いけないいけない……青春コンプレックスを発動させて死ぬところだった。過去の何の色気もない夏を思い出しそうになっちゃう。

 

 で、でも……それを考えたら今年の夏は人生で一番充実していると思う。バンドのみんなで遊びに行く約束もしてるし、フェスも観に行くし、あとは……海水浴とかできたらいいかな。私は泳げないけど。

 

 あ、バイトは嫌です。できるならさっさと辞めたいです。

 

「後藤さん、蛇花火って知ってる?」

「うねうねする気持ち悪いヤツですよね?」

「そうそう。姉貴はうねうねするのをじーっと観察するのが好きなんだ」

「リョウさんらしい」

 

 しゃがみ込んで蛇花火を観察しているリョウさんが簡単に想像できてしまった。

 

「あと、姉貴はねずみ花火を投げてきゃっきゃと喜ぶアホだ」

「や、やんちゃなんですね」

「クソガキなだけだよ」

 

 いつもリョウさんに振り回されてて、でも君はそんなリョウさんが大好きなんだね。なんだか、そう考えると愚痴を言っている彼がすごく可愛く見えてくる。

 

「や、山田くんは……どの花火が一番好きですか?」

 

 私が一番好きなのは線香花火。あの地味で儚い感じがものすごく落ち着く。線香花火百本セットとか売っていたら、迷わず買って一人で全部やっちゃいそう。

 

「俺は───線香花火かな」

 

 い、意外だ。もっとこう……ロケット花火とかねずみ花火とかが好きなのかと思ってた。

 

 でも、びっくりする以上に、なんだかとても嬉しかった。私と同じ、線香花火が好きで……

 

 山田くんとは、性格も、歩んできた人生も何もかもが違うはずなのに……そんな彼と自分の間に共通点があることが、たまらなく嬉しくて心がぽわぽわと温かくなる。

 

「わ、私も……線香花火が一番好きですっ」

「そっか。俺達、結構好みが合うのかもね」

 

 無邪気に笑う彼を見て、私はトクンと胸が高まる。またこの感覚だ……私が知らない、経験したことがない不思議な感覚。でも私はそれが不快だとは思わなかった。

 

「じゃあ、最後に線香花火をやろう」

「は、はい」

 

 その後も、何気ない雑談をしながら花火を消費して最後に線香花火が残った。

 

 二人で火を点け、パチパチと静かな心地よい音を立てる線香花火を楽しむ。ああ、やっぱりこれが一番好きだ。儚くて、寂しげで、でもそれこそが何よりも美しいと思う。

 

 いつか、線香花火をモチーフにした歌詞を書いてみようかな。

 

「どっちが長く保てるか、勝負しようか?」

「わ、私……結構自信ありますよ?」

「ほう……姉貴の数多の妨害を経験してきた俺に勝てるとでも?」

「リョウさん、邪魔してくるんですね……」

「肩を揺らしたり息を思い切り吹きかけてきたりする」

 

 リョウさん……でも、そうやって妨害すると、妨害した側が大体負けちゃうよね?

 

 そう言うと、山田くんは笑って頷いてくれた。

 

「ま、負けた方はどうしましょうか?」

「いつになく積極的だね? ……そういや、かき氷の一件で俺に罰ゲームが残ってたな」

「こ、これで負けたら山田くんは罰ゲーム二回分ということになります」

「そんなに俺に罰ゲームを受けさせたいのか。後藤さんって結構悪い子なんだね」

「ば、バンドマンですから……」

 

 山田くんが意地の悪い笑顔を浮かべるけど、私はそんな彼の顔を直視できなかった。そ、そういう意地悪な、悪戯っぽい、小悪魔的な笑顔はちょっと、反則です。……絶対虹夏ちゃんの影響だ。

 

「よし、じゃあ同時に火をつけるよ?」

「ま、負けませんっ……!」

 

 二人で一緒に火をつける。

 

 そしてお互い沈黙したまま、じっと自分の花火を見つめていた。な、なんか私、ちょっと緊張してる? 気のせいかもしれないけど、手がぷるぷる震えてるような。

 

「あ」

「あ」

 

 約三十秒後、二人の間抜けな声が重なった。と同時、線香花火の火球が二つ同時に砂浜に落ちる。

 

「引き分け、だね」

「ですね」

 

 そう言って、お互い顔を見合わせて笑い合う。なんか、すごく私達()()()終わり方な気がする。……「らしい」って思えるほど、付き合いは長くないけど。

 

「結局、俺が一回分の罰ゲームか~」

「な、何をしてもらいましょうか……」

「お手柔らかに、ね?」

 

 どうしよう。調子に乗って罰ゲームの話とかしてたけど……内容を全然考えてなかった。

 

 はっ!! こ、こういう時こそ紡いできた絆の力を発揮する時なのでは!? みんな!! 私に力を貸してくれ!!

 

 虹夏ちゃん:あたしと付き合ってもらおうかな~……なんてね♪

 

 こ、小悪魔すぎるっ!! 私にそんなこと言えるわけないっっ!!! そもそも虹夏ちゃんはこんなこと言わない!! 多分。……い、言わないよね?

 

 喜多ちゃん:じゃあ今度、買い物に付き合ってくれないかしら?

 

 ふ、普通にデートのお誘いだよ!! き、喜多ちゃんみたいな陽キャが言えば絵になるけど……私みたいな陰キャが言ってもドン引きされるだけ~~~!!

 

 リョウさん:今までの借金チャラで

 

 論外

 

 大槻さん:ピー音(放送規制)

 

 あー!! ダメダメ!! えっちすぎます!! 私の脳内が大槻さんのえちえちウイルスで侵されてしまうぅぅぅぅぅぅ!! 出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ!! 煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散!!

 

 どうしよう……き、絆の力が何一つ役に立たない……

 

 本当は……本当は罰ゲームというか、山田くんにお願いしたいこと、あるけど……

 

 でも言えないっ! 言えないよっ!

 

 「来年も一緒に花火を見に来ましょう」なんて、そんなこと絶対言えやしない! は、恥ずかし過ぎて死んじゃうもんっ!

 

 山田くんの顔を見ると、彼はニコニコと笑っていたので私は思わず目を逸らしてしまった。

 

「あ、ほ……保留でお願いします」

「保留ね。楽しみにしてるよ」

 

 うごごごごごごご!! なんか……なんかめちゃくちゃハードルが上がった気がする。も、もういっそのこと、このまま自然消滅させてしまおう。うん、その方がいい。わ、私は罰ゲームなんかで山田くんの心を操ったりしない! 硬派な女なんだから!

 

「そ、そろそろ帰りましょうか?」

「そうだね。この時間なら、電車も空いてるだろうし」

 

 私は内心を悟られないように、話題を逸らして花火の片付けをする。でも、山田くんってすごく察しがいいから私の考えていることなんて気付いちゃってるかもしれない。あうぅ……そうだったら、は、恥ずかしい。

 

 そして私達は片付けを終えて、来た道を戻り駅へ向かって歩き出す。

 

 色々、本当に色々と想定外のことばかりだったけど、今日はすごく楽しかったな。

 

 彼の隣を歩きながら、私は思う。

 

 「来年も一緒に来たいな」と。

 

 でも私には、そんなことを言う勇気なんてない。そんな勇気があるのなら、とっくの昔に私はたくさん友達ができていただろう。

 

 だけど、もしも私にそんな勇気があって、たくさんの友達ができていたとしたら……結束バンドに入ることもなかったし───山田くんに会えなかったかもしれない。

 

 それはそれで……なんだか嫌だな。だって、今がとても幸せだから。

 

「後藤さん」

 

 思いに耽っていると、隣を歩く山田くんが私を呼んだ。

 

 

 

 

「来年も───一緒に花火を見に来よう」

 

 

 

 

 ああ、君は……どうして君は……いつもいつも、私がほしい言葉をくれるのかな?

 

 今が夜で、よかった。

 

 だって……今の私、鏡で見なくてもわかるくらい顔が赤くなってるんだもん。

 

 私は彼の言葉に、すぐには返事をできなかった。

 

 だから、その代わりに

 

 今度は私から、彼の手を握るのだった。

 




 青春ポイントが高過ぎて死にそう。

 このぼっちちゃんは「青春コンプレックス」なんて歌詞を書けなさそうですね。その代わりに夢女子みたいな妄想ラブソングを書きそうです。

「星座になれたら」の歌詞の意味……解釈は無数にあるでしょうが、私は喜多ちゃんに向けた歌詞だと思っています!! この話だとレンくんのおかげで閃いた感じになっちゃいましたけど……

 あと、この話を書いててレンくんは猗窩座殿の素質があるんじゃないかと思いました。でも、ぼっちちゃんは死んでもすぐ復活するから悲しいエピにはならないですね。

 次回は夏フェスに行きます。一年早く「未確認ライオット」の最終審査を観に行きます。SIDEROSも出すので、多分ヨヨコ回になるのかな?

 あと、みんなが大好きな「あのキャラ」がかなりフライングで登場する予定です!

 ではでは、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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