【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

29 / 98
#29 superpoya(mi)

「来たぞー! 未確認ライオット最終(ファイナル)ステージ!」

 

 八月七日、俺達は未確認ライオットの最終審査会場である東京ビッグサイトに来ていた。屋外駐車場に特設ステージが作られ、ファイナルステージには全国から審査を勝ち抜いた八組が出場できる。

 

 応募総数三千組以上から、わずか八組。倍率は四百倍近い。

 

 だけど、彼女達は……結束バンドの四人は一年後、このステージに立つことを本気で目指しているのだ。いや、立つだけじゃない。ファイナルステージを勝ち抜き、グランプリを獲るつもりなんだ。

 

「スタートは十二時だから、それまでは適当にぶらついたりご飯食べたりしようか」

「はーい!」

 

 特設ステージがある屋外駐車場の近くには芝生が広がる水の広場公園があり、屋台が立ち並んでいる。喜多さんや虹夏ちゃんはかなりテンションが上がっているけど、俺は二人に……いや全員にどうしても言っておきたいことがあった。

 

「その前に、はい! 全員分のクールコアタオル。これ、水でぬらすだけでひんやりするから首に巻いたりして使って。それと塩タブレット。飴だと溶けて食べにくいからこっちの方がおすすめ。あとスポーツドリンクも渡しておくね。喉が渇いてから飲むんじゃなくて乾く前に飲むんだよ? 冷えピタも持ってきてるから、欲しい人は言ってね」

「れ、レンくんの熱中症対策がガチすぎるわ……」

 

 俺はリュックから次々と熱中症対策グッズを取り出して四人に渡していく。過保護? 馬鹿者、東京の暑さ舐めんな。あと、熱中症舐めんな。過保護すぎるくらいでちょうどいいんだよ。

 

「あ~……でも、レンくんがここまでしっかりやるのにはね、理由があるんだ」

「理由、ですか?」

 

 後藤さんが虹夏ちゃんに尋ねる。

 

 そう。俺がここまで警戒する理由を、虹夏ちゃんと姉貴は知っている。

 

「去年、あたしとレンくんとリョウの三人でろっきんを観に行ったんだけど、その時にリョウが熱中症で倒れちゃって……救急車で運ばれたんだ」

「え!? りょ、リョウ先輩!! ほんとですか!?」

「ほんと」

 

 姉貴はたった三文字で軽く答える。お前……お前……あの時俺達がどんだけ心配したと思ってんだよ!!

 

「それでレンくんが責任感じて落ち込んじゃってね~。あたしが慰めてあげたんだけど……」

「あの時のレンはなかなか見物だった」

「あそこまで取り乱して落ち込んでたレンくんを見たのは、後にも先にもあの時だけだね」

「私への愛が深すぎる故に……」

 

 姉貴はそう言いながら俺の頭を撫でてくる。やめんか!

 

 それに……あの時は虹夏ちゃんにはかなーり情けない姿を見せちゃって甘やかしてもらったからなぁ。でも、しゃーないやん。いきなり何の前触れもなくフラッと倒れたりしたらそら動揺するよ。しかも救急車まで呼ぶ事態になったし。それに毎年この時期って熱中症で死者が出たってニュースをやってるしさぁ……

 

「熱中症は、命に関わる。だからみんな、ちゃんと対策しなきゃだめ」

「……そうね。気を付けるわ」

「わ、私も……」

 

 喜多さんと後藤さんの二人は素直に言うことを聞いてくれた。今年も誰かに倒れられたりしたら……マジで俺はフェスがトラウマになるかもしれない。

 

「さーて、じゃあ辛気臭い話はここまでにして……何を食べようか?」

 

 虹夏ちゃんがポンと手を叩いて切り替えるようにそう言った。

 

「ロックフェスと言ったらケバブですよケバブ!」

「俺はLa Andyのベーコンエッグロールを食べたい」

「カレーこそ大正義」

「あ、こ、この冷たい焼き芋……食べてみたいです」

「見事にみんなバラバラだなっ!!」

 

 結束バンドの結束力のなさよ。ちなみに虹夏ちゃんは「ルヴァン」のパンを食べたいらしい。

 

「二時間しかないから……今言った屋台の中で早く買えそうなものを優先して買えばいいんじゃない?」

「そうだね。どっちみち全員の希望は叶えられなさそうだし」

 

 というわけで、みんなで屋台がたくさん並んでいるところへ向かいます。

 

 その結果、喜多さんが希望したドネルケバブ専門店「グリルワーク」のピタサンドと後藤さんが希望した「OIMO café」の冷たい焼き芋を買うことができた。

 

 俺を含む残りの三人が希望していた屋台は、恐ろしいほどの行列だったのであえなく断念。ちょっとしょんぼりしちゃったけど、そんな憂鬱を吹き飛ばすくらい嬉しい出来事がこの後起こったんだよね。

 

「あ、大槻先輩じゃないですか!」

「あれ……? 山田と、結束バンド?」

 

 公園内で比較的落ち着いている芝生ゾーンにレジャーシートを広げてご飯を食べようとしていた時に、大槻先輩率いるSIDEROSのメンバーとたまたま遭遇したのだ。

 

「落ち込んでたレンくんのテンションが露骨に上がったわね……」

「レンは大槻ヨヨコに懐いている。それに、あれは私が期待している女の内の一人」

「期待って……何のですか?」

「内緒」

 

 姉貴の「懐いてる」って言い方はどうかと思うけど……否定できないな。今の俺、完全に飼い主を見つけた犬の反応だったし。

 

(きょ、今日の大槻さんは胸元が開いてない普通のTシャツ……なのに、なぜかえっちに見えてしまうっ!! ふ、服を着ている方がえっちに見えることもあるってネットに書いてあったし、大槻さんはそういう人種なのかもしれない!! 警報までは出ないけど……こ、これはえちえち注意報ですっ!!)

(後藤ひとりが今日も熱い視線を向けてくるわね。……ふっ、そんな風にライバル視されるのも悪くないわ。勝つのは私だけど)

 

 なぜか後藤さんと大槻先輩が無言で見つめ合っていました。脳内で会話でもしてんの?

 

「みなさんも未確認ライオットのファイナルステージを観に来たんすか?」

「そうだよ~。来年はあたし達があのステージに立つことになるからね」

「……口先だけではなんとでも言えるわよ。Tokyo Music Riseで予選落ちしてるようじゃ───」

「ぼっちちゃーん! オーチューブに上がってる新曲聴いたよ~。今回は結構爽やかな歌詞だったね! 私、すっごく好き!」

「あ、ふ、ふーちゃん。えへへ。じ、実はそうなんですよ。喉越しがよくて爽やかな後味に仕上がってて……」

「リョウさ~ん。今回の曲もよかったです~。イントロからテンション上がっちゃいましたし、喜多さんの最後のウインクがとても可愛くて……」

「実は、九月までにもう一曲作る予定」

「ねえねえ。私の歌、どうだった? 少しは成長してた?」

「前のライブよりずっと良くなってましたよ~」

 

 大槻先輩が正論をぶちかまそうとしたところで、他のメンバーが結束バンドのメンバーときゃっきゃと楽しそうに交流をし始める。

 

 大槻先輩そっちのけで。

 

「先輩……」

「……何よ。笑いたきゃ笑いなさい」

 

 笑うわけないでしょ。そんな露骨に、あの顔文字みたいにしょぼーんっとなってるんだから。あぁ^~大槻先輩を甘やかしたくなるんじゃ~。

 

「一緒にご飯、食べましょ?」

「……うん」

 

 というわけで、SIDEROS御一行と一緒に仲良くご飯を食べることにします。

 

 

 

 

「意外でした。大槻先輩が未確認ライオットを観に来るなんて」

「そう?」

「だって、先輩って『未確認ライオットは観るものじゃない! 出るものよ!』とか言いそうだし」

 

 俺がそう言うと大槻先輩はぷいっと顔を逸らし、代わりにあくびちゃん達がニヤニヤと笑っていた。

 

「実際に言ってたっすよ」

「でも幽々達がわがまま言って連れてきたんです~」

「ヨヨコ先輩、ずっとライブハウスに引きこもってたので」

「なんであっさりばらすの!?」

 

 あー、やっぱり言ってたのか。でも、それでメンバー達の言うことを聞いてこうやって観に来るあたり、先輩ってなんだかんだ甘やかしたがりですね。

 

「あなたにだけは甘やかしたがりとは言われたくないわね!」

 

 ごもっともです。

 

「あのー……一つ気になってることがあるんすけど、いいすか?」

 

 あくびちゃんが手を挙げて俺達を……正確には後藤さんを見る。

 

「ぼっちさん、前髪切ったんすね」

「あ、あ、あ、は……はい。お、お母さんに言われて、記憶を失っている間に前髪も失いました」

「過程はちょっと意味わかんないすけど、似合ってますよ。というかぼっちさん、めちゃくちゃ美人さんじゃないすか!」

「うん、絶対その方が可愛いよ~! なんで今まで隠してたの?」

「アイドル事務所に履歴書を送れそうです~!」

「え、えへ……えへへへ。そ、そうですかね。で、でも私は、硬派なギタリストなので……そ、そんなにちやほやされて調子に乗るような女じゃないですよ~」

 

 後藤さんはそう言いながら、だらしなく「えへえへ」と笑って、隣に座っているあくびちゃんの腕をツンツンつついている。なんか後藤さんってあくびちゃんに対しては警戒心が薄いんだよな。

 

 大槻先輩もぼっち気質だし……あくびちゃんは「ぼっちに優しいギャルオーラ」が出ているのかもしれない。

 

「これ、この前みんなで花火大会に行った時の写真よ」

 

 喜多さんはそう言ってSIDEROSのお子様組にスマホを見せる。

 

「うわ~みんな浴衣着てて、髪型もいつもと違ってて可愛い~!」

「花火大会いいっすね。ヨヨコ先輩、ウチらももうちょっと夏らしいことしましょうよ」

「花火大会……夏祭り……リア充カップルども……うっ……」

 

 なんか大槻先輩の顔色が悪くなった。先輩もそういうの気にする人だったんですね。俺と出会ってからの一年は、メンバー集めやバンド活動で右往左往してたからそんなところまで気を回す余裕がなかったんだろうけど。

 

「わ、私達にはTokyo Music Riseに向けての練習があるでしょ! そ、そんな浮ついたイベントに参加してる余裕なんてないのっ!」

「レンさん、一言お願いします」

「オレ、オオツキセンパイノユカタスガタ、ミタイ」

「なんでちょっと片言になってるのよ!?」

 

 絶対可愛いに決まってる。髪型は今日みたいにツインテールのままでも下ろしても後ろで結ってもグッド!

 

「ほらほら~レンくんもこう言ってますよ~? ヨヨコ先輩! お祭り行きましょう! お祭り!」

「う、うぅ……」

 

 あ、大槻先輩が押されてる。このパターンは先輩が「仕方ないわねぇ」って言いながらなんやかんや願望を叶えてくれるヤツだ。

 

「……し、仕方ないわねぇ」

 

 ほらね。

 

 大槻先輩がため息を吐いている傍らで他の三人は無邪気に「わーい!」と喜んでいた。先輩は完全にSIDEROSのママになってますね。その面倒見の良さと包容力、好きです。

 

(でも私……浴衣ってどんなのが良いのか全然わからないのよね……)

 

 喜んでいる三人とは対照的に、大槻先輩が困ったような表情になっていた。行きたくないってわけじゃなさそうだけど……ああ、そういうことか。

 

 先輩の心情を察した俺はスマホを取り出してあくびちゃんにロインを送る。

 

「大槻先輩の浴衣を一緒に選んであげて」と。

 

 そして、俺のロインに気付いたあくびちゃんは親指をグッと立てて、ものすごく頼りになる笑顔を見せてくれた。

 

「ヨヨコ先輩、今度浴衣を一緒に観に行きましょう」

「さんせ~! 私達が可愛いのを選んであげます!」

「幽々も~ちょうど新しい浴衣が欲しいなって思ってたんですよ~」

「あ、あ、え……?」

 

 三人の急な申し出に大槻先輩は戸惑っている。その戸惑い方、完全に後藤さんと同じですよ。……やっぱりこの二人、種族違いぼっちとはいえ本質は一緒だ。

 

 これでSIDEROSの仲がさらに深まったな! ヨシ!

 

「そういえば、花火大会の写真……山田さんとぼっちさんだけ全然写ってなかったんですけど、なんでですか~?」

 

 俺が腕を組んで後方支援者面でうんうん頷いていると、幽々ちゃんがとんでもない爆弾を投下してきた。それに合わせてあくびちゃんとふーちゃんの二人も目を輝かせて俺を見てくる。

 

「ぼっちとレンは途中から別行動してた。……二人きりで」

 

 そして姉貴がここぞとばかりに追撃を仕掛けてくる。お前ほんと良い空気吸ってんな!!

 

「ほうほうほうほうほう。ぼっちさんぼっちさん、その辺りのことを詳しく教えてくれないすかね?」

「あ、あ、あ……」

「私も私も~! すっごく気になるな~!」

「なんで別行動したんですか~?」

「そ、それは……私が体調を崩して、山田くんが休憩所に連れて行ってくれて……」

 

 SIDEROSの陽キャ組に詰め寄られて後藤さんは痙攣しながらもどうにかこうにか質問に答えている。なぜこんな状況になっても彼女が死なずにいるのかというと……すでにSTARRYで一度、虹夏ちゃん、喜多さん、姉貴の三人に同じような尋問をされていたからだ。

 

 俺も尋問されたけど、のらりくらりとかわしてボロを出さなかったから標的が後藤さんに移ったんだよね。ちゃんとツーショット写真の存在だけは何とか守り切ったよ? あれを見られたら流石に俺も……平常心じゃいられないから。

 

「ねえ」

「どうしました?」

 

 隣に座る大槻先輩が、ちょっぴり不満そうな顔で俺を見てくる。

 

「あなた……後藤ひとりと付き合ってるの?」

「いえ、付き合ってませんよ」

 

 さらっととんでもないことを聞いてきたなこの人。でも、今思い返してみれば、花火大会の時の俺達はちょっと……いやかなり距離感がおかしかった。

 

 花火大会の雰囲気に当てられたっていうのもあったんだろうけど、それを差し引いても、あの時の俺は普通じゃなくて、不思議な知らない感情に振り回されてたな。今はすっかり元に戻ったけど。

 

「……そう」

 

 大槻先輩はそれだけ言って後藤さんに視線を移す。後藤さんはまだ三人に弄られてるな。でも、楽しそうだから放っておこう。後藤さんも嫌がってるわけじゃないみたいだし。

 

 それよりも今は大槻先輩だ。平静を装ってるけど、先輩の不機嫌メーターがちょっぴり上がっている。俺にはわかる。もちろん、その理由もだ。

 

「先輩、やきもちですか?」

「ぶふっ!?」

 

 俺が耳元でそっと囁くと、先輩がジュースを思い切り噴き出しそうになったので、ウェットティッシュを渡してあげる。

 

「はぁ!? わ、私が何にやきもち焼いてるって言うのよ!? しょーこは!? しょーこをだしなさいしょーこを!!」

「その態度が証拠になりませんか?」

「~~~~~~~っ!!」

 

 俺がそう言うと先輩が顔を真っ赤にして肩をぽこぽこ殴ってくる。典型的なツンデレ反応ですね。星歌さんといい勝負できそう。

 

 俺は先輩がやきもちを焼いてくれていることが、素直に嬉しかった。それに、もしも大槻先輩に彼氏ができたりしたら、俺だってその彼氏に嫉妬してもにゃっとするだろうし。

 

「そうやって意地悪言う人、嫌いっ」

 

 そんなことを考えていると、先輩はツーンと不機嫌そうな表情になって俺から思い切り顔を逸らす。

 

 あ、ヤバい。「嫌い」っていう言葉が先輩の冗談だとわかっててもめっちゃショック!

 

「ちょ……!? そんな捨てられた子犬みたいな表情しないでよ!? 冗談、冗談だから! ……そんな簡単にあなたのことを嫌うわけないでしょ?」

 

 露骨に表情に出ていたらしく、大槻先輩は慌てて俺を慰めてくれる。先にからかうようなことを言ったのは俺なのに、優しいですね先輩は。

 

 そこで俺は、大槻先輩に対して自分で思っている以上に大きい感情を持っているんだということを自覚した。

 

「からかい過ぎました。ごめんなさい」

「別にいいわよ。私も変なこと聞いて悪かったわね。これでお相子よ?」

「そうですね」

 

 そう言って俺達は笑い合う。もしも大槻先輩に本気で嫌われたりしたら……俺は一ヶ月くらい引きこもる自信があった。で、その心の隙を誰かに突かれてドロドロの依存関係になって破滅する未来まで見える。

 

 うん、そうならないようにしよう。

 

「先輩」

「何よ?」

「La Andyのベーコンエッグロール、一口ください」

「だったら私にもピタサンドを一口ちょうだい」

「いいですよ」

 

 色々あったけど、俺と先輩はお互い一口ずつ食べさせ合って、実に平和な昼食会になりました。

 

(大槻ヨヨコ……嫁ポインツを1(ワン)ポインツ追加)

(お、大槻さん……お、お互い食べさせ合うなんてやっぱりすごくえっちな子だ……!!) 

 

 姉貴と後藤さんが意味深な目で大槻先輩を見てたけど……あれ何なん?

 

 

 

 

「せっかくだから一番前で観るわよ!」

「え? マジすか。この人混みを突っ切って前に行くんすか?」

「その方が臨場感があるでしょ? それに、ステージ上での立ち居振る舞いとか参考になるだろうし、来年自分達が立つことをより鮮明にイメージできると思うわ」

「幽々は後ろの方でのんびり観てます~」

「私も」

「ウチも」

「無理矢理私を連れ出しておいてなんでこういう時だけノリが悪いの!?」

 

 お昼ご飯を食べて、ちょっとテンションが上がり気味だった大槻先輩がいきなり出鼻をくじかれる。幽々ちゃんはともかく、ふーちゃんやあくびちゃんまで断るとは……

 

 確かに、この人混みを突っ切って前に行くのはちょっと大変だろうけど、それ以外に行きたがらない理由がありそうな気がする。

 

「大槻先輩、俺がついて行ってあげますから」

「本当っ!? こういうのはやっぱり前で観ないとダメよね」

「先輩が迷子になった結果『おおつきよよこちゃんじゅうななさい』を放送で呼び出さないといけないので。それを防ぐために」

「このくらいで迷子になるわけないでしょ!?」

 

 大槻先輩って変なところでぽんこつだから普通に迷子になりそうなんだよな。

 

「いや、ヨヨコ先輩ならありえるっす」

「あるある~」

「山田さん、ヨヨコ先輩から目を離さないでくださいね~」

「私の方がこいつより年上なんだけど!?」

 

 SIDEROSの三人もどうやら俺と同じ考えのようです。

 

「ヨヨコちゃん、お兄ちゃんから離れないでね~」

「山田も悪ノリするなっ!!」

 

 俺がからかうようにそう言って大槻先輩に手を差し出すと、ピシャンと勢いよく叩かれてしまう。

 

 でも、はぐれる可能性は十分にあったので、結局俺は「おおつきよよこちゃんじゅうななさい」と手を繋いで人混みの中へ突っ込んで行くのだった。

 

「先輩、私達も前に行きましょうよ~!」

「そうだね。大槻さんじゃないけど、あたし達が来年立つことになるステージなんだから!」

「私はここにいる」

「あ、私も……(山田くんがいないのにあんな人混みに突っ込むなんて無理。……はっ!! で、でも人混みに紛れて大槻さんが山田くんにえっちなことをしちゃうんじゃ……)」

「やめておけぼっち。前に行くと───死ぬぞ?」

「え、ええ……? (リョウさんがすごく真剣な顔をしてる。ぜ、絶対くだらないことを考えてるに違いない!! 山田くんが心配だけど……え、えっちなことされて傷物になっちゃったら私が慰めてあげるからね)」

 

 

 

 

 け、結構無理矢理前に来たけど……思ったよりも人が多かったわね。ただ、人の多さよりも気になるのが……

 

「前は危険だからな。俺が守ってやるよ」

「嬉しい。私の手、離さないでね?」

 

 カップルが……カップルが多い! 何よあんた達、いちゃつくならどっか別のところでいちゃつきなさいよ! どうせこの後はホテルに行ってR18なロックフェスを開催するんでしょ!? まったく……いやらしいったらありゃしないわね!

 

 で、でも? 私も山田と二人だしぃ? は、傍から見れば完全にカップルよね、私達。しかも山田は顔だけならそんじょそこらの男とは天と地ほどの差がある。……ふっ、たとえ彼氏じゃなくても私の勝ちね。

 

 そもそも、山田は私のお友達だから、そんなつもりは全然ないんですけどぉ? 羨ましくなんてないんですけどぉ? そんな軽い気持ちでここに来てないんですけどぉ?

 

 ま、まあ? 山田がどーしてもって言うなら? ちょっとくらい、そーゆー風にカップルっぽく振舞ってあげてもいいわよ? ちょっとだけね? ちょっとだけ……

 

「大槻先輩、俺も『人混みから彼女守るマン』ごっこしていいですか?」

「ごっことか言わないでよ!? ちょっと虚しくなるじゃない!!」

「……ごっこじゃなくて本気ならいいんです?」

「ち、ちがっ……そーゆー意味じゃないわよバカっ!!」

 

 む、ムカつくわね~!! その「大槻先輩の考えてること、わかりますよ?」みたいな笑顔!! あなたの察しの良さは十分過ぎるほど理解してるけど……そうやってからかってくるのは……あれ? あんまり嫌じゃない……

 

 嫌じゃない理由はよくわかんないけど……でも、やられっぱなしっていうのは性に合わないのよっ!

 

「先輩?」

「あ、あなたが自分で言い出したんだから……さ、最後まで責任取りなさいよ」

 

 悔しかったから山田の腕に思い切り抱き着いてみる。山田は一瞬、間の抜けた表情で私を見てきたけど……どうやら私の勝ちみたいね。私の顔が熱くなっているのは気温のせいにしておくわ!

 

 あと、こいつ……すごく良い匂いがしてなんだか安心するわ。もっとドキドキするかと思ったけど、意外と落ち着いて……って! ドキドキするって、私がこいつを意識してるみたいじゃない!

 

 冗談じゃないわ! 大事な友達をそんな風に見るなんて……ありえないっ!

 

 後藤ひとりと二人で花火を見てたって聞いた時はちょっともにゃったけど。

 

 山田は私の初めての友達だから、取られちゃった気がして嫉妬したのね。……あれ? 私って意外と面倒臭い女?

 

「わっ、す……すみませんっ!」

「大丈夫?」

 

 私が自己分析して自分に軽くショックを受けていると、人混みに押された一人の女の子が山田にぶつかってきて、女の子が倒れそうになったところを支えてあげていた。

 

「ご、ごめんなさいっ。無理して前で観ようとしたら、思った以上に人が多くて……」

「ここまで来るの、大変だったでしょ? 怪我とかしてない?」

「あ、してないです。お兄さんこそ、大丈夫ですか?」

「うん、俺も大丈夫」

 

 山田にぶつかったのは中学生くらいの女の子だった。ハートと十字架が描かれたピンク色のシャツ、ツインテール……というよりも両サイドを短く結っているわね。

 

 何かしら。同じ女として……この子から良からぬものを感じるわ。

 

「一人で来てるの? それともはぐれちゃった?」

「あ、一人です。ここに来たのは、取材も兼ねてるので」

「取材?」

 

 山田が首をかしげて尋ねる。……なんだか雲行きが怪しくなってきたわね。

 

「あたし、こーゆー者です!」  

 

 そう言って女の子が一枚の名刺を取り出して山田に渡した。

 

「ふりーらいたー、ぽいずん♡やみ、じゅうななさいだよ。……え? ライターさんだったんですか!? しかも俺より年上……タメ口使っちゃってごめんなさい! てっきり中学生だと思ってました!」

 

 年齢もそうだけど……ツッコむところ他にもたくさんあるでしょ!? 何よこの怪しい名刺!? 完全に水商売してる感じじゃない!!

 

「いえいえ、お気になさらず~。よく間違われるので~(本当は二十三歳だけど、イケメンに十四歳に見えるって言われちゃった! 今度から十四歳って名乗ろう。痛い恰好してる甲斐があったわ)」

 

 めちゃくちゃ山田に媚びを売ってるわねこの女。だけど、相手が悪かったわね。容姿を武器に媚びを売るような女に靡くほど、山田はチョロい男じゃないのよ?

 

「十七歳でライター……どこかの高校の新聞部さんですか?」

「いえいえ。正真正銘、一端の社会人ですよ。といっても、三文記事しか任されないしがないライターですけどね」

 

 あ、まずい。この女の境遇はまずい。

 

「十七歳で……姉貴と同じ年齢で立派に社会人をやってる。しかも自分の未熟さをしっかり理解した上で、こんなにも暑い中精力的にフェスの取材に来るなんて……ぽいずんさん、飲み物どうぞ」

「あ、ありがと……?」

 

 ぐあーーーーっ!! 山田の甘やかしセンサーが発動しちゃってるーーーーっ!! そうよね!! あなたはそういう男だものね。あのだらしないお姉さんと同い年の人ががんばっている姿を見るとそうなるわよね!!

 

「ぽいずんさん。がんばってください! 応援してますから!」

「う、うん……(理由はよくわかんないけどイケメンに応援されたからヨシ! あ、もしかしてあたしに一目惚れしたとか~? まったく、彼女を連れているのにあたしに目移りしちゃうなんて……あたしってなんて罪深い───)」

 

 そこで私はぽいずん♡やみとバッチリ目が合った。かと思うと、彼女は口をぽかんと開けて私の顔を凝視している。……はぁ、やっぱりそうなるのね。

 

「あ、あああああなた……も、もしかしてSIDEROSの大槻ヨヨコさん!?」

 

 気付かれちゃったか~。そうよね~。フェスに取材に来るライターだものね。私のことくらい知ってるわよね~。かーっ! 有名人はつれーっ!!

 

 って、喜んでる場合じゃない! よりによって山田と一緒にいる時にライターと遭遇するなんて!!

 

「……ってことは、お兄さんは大槻さんの彼氏さんですかぁ?」

 

 ほらぁ! そういう誤解を生んじゃうでしょ!?

 

「あ、違いますよ。大槻先輩はお友達です」

 

 山田も山田で全く動揺しないでスラスラ答えるな! ちょっとくらい……こう、意識してくれてもいいじゃない!

 

「え~? でも二人きりですよね~?」

「他のメンバーは後ろの方にいますよ。先輩が『前で観たい』ってわがまま言ったから、迷子にならないよう俺が引率してるだけで……」

「ちょっと! まるで私が悪いみたいな言い方じゃない!」

「でも、事実ですよ?」

「もうちょっとオブラートに包むとか……色々やり方があるでしょ?」

「……本職のライターさん相手に言葉を濁したら都合よく解釈されて変な記事を書かれるかもしれないじゃないですか」

 

 うぐっ……た、確かにその可能性はあるわね。

 

「あたしはそんな記事を書いたりしませんよ~。あ、そうだ大槻さん。よかったら今度、SIDEROSのことについてお話を聞かせてほしいんですけどぉ~」

 

 こ、この女……なかなかやるわね。このタイミングで……絶対に私が断れないタイミングで取材を申し込んでくるなんて……

 

 言外に「今日のことを記事にされたくなかったら取材受けてね♪」ってことでしょ?

 

「……そういうしたたかさ、俺は嫌いじゃないですけど先輩には逆効果ですよ。それなら真摯にお願いした方が百倍いいです」

 

 山田がフォローを入れてくれるけど……フォローになってる? 結局私が取材を受ける方向になってない? 

 

 ああ、なるほど。断ると変な記事を書かれかねないから、受けるのは確定として……私が気持ちよく受けられるよう配慮してくれてるってことね。

 

「失礼しました。最近、あまり大きな仕事を任せてもらえなくて焦ってたんです。短い時間でもかまいませんので、どうか取材させていただけませんか? お願いします」

 

 彼女はそう言って私にぺこりと頭を下げる。……なんか、さっきまでと違って言葉に重みがあるわね。少なくとも、演技をしてるって感じじゃない。

 

 正直、取材なんて面倒だし苦手だから断りたいけど……私と同い年なのに、この子もがんばっているのよね。ライターって職業だから、色々と人に邪険に扱われることや馬鹿にされることもあるでしょうに。

 

 それでも、ひたむきにがんばっている。なんだか……ちょっとシンパシーを感じるわ。

 

「いいわよ。その代わり、事前にアポは取ってね? 普段は新宿FOLTで活動してるからそっちに連絡してくれればいいわ」

「あ、ありがとうございます。近いうちに連絡させていただきますので……」

 

 顔を上げてそう言った彼女は、今度は山田の顔を見る。

 

「ありがとうございます。お兄さんのおかげで、良い仕事ができそうですっ!」

「いえいえ。俺もぽいずんさんと同い年の姉がいましてね。でも、姉はぽいずんさんと違ってどうしようもないダメ人間で……だからがんばってるぽいずんさんを応援したくて……」

 

 山田の言葉に彼女は苦笑いを浮かべている。……これって、考えようによっては山田姉のおかげでこの子が取材できるとも言えるわよね? 山田姉のドヤ顔が目に浮かぶわ。

 

「せっかくなので、お兄さんの名前も教えてくださいっ」

「そういえば、まだ名乗ってませんでしたね。俺の名前は───」

 

 山田が答えようとした瞬間、周囲が一気に盛り上がり、人混みが激しく動き始める。

 

 ちょっ!? このタイミングでサークルモッシュ!? 

 

 私はバランスを崩して倒れそうになったけど、山田がしっかりと抱き止めてくれた。

 

 あのライターは……

 

「ま、また連絡しますねーーーーっ!!」

 

 サークルモッシュの荒波に飲まれ、消えてしまった。可哀想に。今日はもう再会できないわね。弱者が悉く淘汰される……これがフェスよ!

 

「先輩、大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。ありがとう」

 

 私は山田に抱き着いたまま答える。近くで見ると、ほんとにこの男……綺麗な顔してるわね。

 

 そこで私はなぜか急に恥ずかしくなり、赤くなった顔を見られないように彼の胸に顔を埋める。甘くて優しい香りが鼻腔をくすぐって、少し心が落ち着いた。

 

 彼の香りと温かさに触れながら思う。

 

 普段はパリピや陽キャなんて苦手だし、こういうサークルモッシュみたいなノリも大っ嫌いだけど……

 

 今は、ちょっとだけ感謝するわ。

 

 ちょっとだけよ?

 

 

 

 

「うぇいうぇーい!」

「陽キャさいこーう!!」

 

 ライブが終わってみんなのところに戻ると、山田姉と後藤ひとりが星型サングラスとヘアバンドを付けてバグっていた。……暑さに頭をやられたのね。可哀想に。




 一年早い未確認ライオットファイナルステージでした。

 といってもライブの描写は皆無ですけど。……この話のメインはぽいずんとの顔合わせなので。

 レンくんもヨヨコもぽいずんが十七才だと信じ込んでいます。だからあんなに優しい対応になりました。

 ぽいずんは原作での登場時の結束バンドへの態度が辛辣なので、ヘイト役になって二次創作ではオリ主とレスバしがちですけど、本作ではそうなりません。

 というか、レスバする必要がないので。

 ヘイトのないぽいずんはただの有能なお助けユニットなので原作とは違う立ち回りをしてもらいます。

 ……原作と違うことばっかりやってるな。

 次回は一年早く山田家の別荘に行きます。水着回です。あとレンくんの掘り下げをします。掘り下げというほど深くなるかはわかりませんが……

 では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。