【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 ぼっちちゃんの今日のスケジュール

 入学式→放課後青春トーク→ファミレスでみんなとお食事→STARRY訪問

 入学一日目の出来事である。



#03 下北カルテット

「ここから歩いて五分くらいだからすぐだよ~」

「あ、そ、そうなんですか」

 

 姉貴の提案で結束バンド一行とおまけ二人はファミレスを後にしてSTARRYへと向かう。姉貴の飯代は俺が立て替えておきました。次の小遣いかバイトの給料から引いておくからな。

 

「まだできたばっかりでね、あたしのお姉ちゃんが店長やってるんだ」

「あ、はい」

「そこであたしとリョウ、レンくんの三人でバイトしてるんだよ」

「や、山田くんも……?」

「俺は元々バイトしてなかったんだけど、姉貴がちょくちょくサボるようになって、そのバーターとして働いてたらいつの間にかバイトの一員になってた」

 

 受験生にやらすことじゃねーよ、ほんとに。俺の高校入試が推薦で早めに決まっててよかったなぁ! 姉貴!

 

「私もこれからバイトさせてもらうつもりなのよ」

「その前に一度みんなで()()()の練習やっておきたいね」

「そ、そうです、ね……。あ、でもまだ早いんじゃないでしょうか? お、各々のスキルを磨いてからでも遅くないかと……」

「でも、現状でどれくらいできるか把握しておくのも大事じゃない?」

「あ、ううぅ……。た、確かに……」

 

 なんか喜多さんの返事の歯切れが悪いね。そういえば、結束バンドを結成してから三人で演奏してるところって見たことなかったな。

 

 いつもテンション高くてノリが良い喜多さんは微妙な反応だし……もしかしてめちゃくちゃギターが下手くそだったりする? でもバンドに入るときに経験者だって言ってたしな。

 

「あ、着いたよ~」

 

 俺が思考に耽っていると、目的地へと到着する。STARRYは虹夏ちゃんが住むマンションの地下に併設されていて、地下への階段を降りた先にあった。

 

 ちょっと場末のバーっぽい雰囲気があって近寄りがたいけど、ライブハウスってこんなもんでしょ。

 

 虹夏ちゃんを先頭に階段を降りて、俺もそれに続こうとしたけど後藤さんが口を鯉みたいにパクパクさせながら痙攣しているのに気が付いた。

 

「後藤さん、大丈夫?」

「あ、え……あ……」

 

 大丈夫じゃなさそうですねぇ。まあ確かに普通の人でも初めてのライブハウスって怖いだろうし、それが人見知りの激しい後藤さんならなおさらだ。

 

「どうする? 怖かったら無理して中に入らなくてもいいよ。入口で雰囲気だけでもわかっただろうから」

 

 ぶっちゃけ、初対面かつ人見知りでコミュ力に難がある女の子がここまで来たこと自体、結構な快挙だと思う。今さらだけど、ほぼノリと勢いだけで連れ回してごめんね。喜多郁代って女が全部悪いんだ。

 

「あ、い……逝きます」

「そう? (なんか微妙にニュアンスが違う気がするけど)」

 

 後藤さんは意を決した表情で宣言する。そういや、俺と放課後トークすることを決めたり、一緒にご飯食べに行くことを決めたり、ここに来ることを決めたり……もしかしたら、後藤さんは今の自分を変えようとしてるのかもしれない。

 

 あかん涙出そう。後藤さんの努力とか心意気を俺のバカ姉貴にも見習ってほしいですね。

 

「レン、そんな熱い目で見られるとドキドキする」

「俺も姉貴に怒気怒気なんだが?」

 

 そんなわけで、ちょっとひと悶着あったけど無事に後藤さんをSTARRYへと招待することができました。

 

 

 

「じゃーん! ここがSTARRYでーす! ひとりちゃん、足元暗いし階段だから気を付けてね。転ばないように」

「あ、はい。わかりまし───」

 

 言ったそばから後藤さんが階段から落ちそうになる。即落ち二コマ。見事なフラグ回収ですね。俺は後藤さんの前を歩いていたので、そのままこけそうになっていた後藤さんを抱き止めた。

 

 ……あれ? なんかばあちゃん()の押入れみたいな匂いがする。き、きっと制服をしばらく押入れの中に入れていたから匂いが移っちゃったんでしょう。そうに違いない。

 

「後藤さん、大丈夫?」

「あ……あ……あ……」

 

 俺が声をかけるも、後藤さんは千と千尋に出てくるカオナシみたいな声を上げて激しく痙攣していた。あ、この反応ってもしかして───

 

「ぎゃーっ!? ひとりちゃんがピンク色のスライムみたいに溶けたーーーっ!?」

「おお、すごい。人類の新たな可能性」

「さっきの干物状態とはまた違った現象ね」

 

 虹夏ちゃんがリアクション芸人のお手本みたいな反応を見せてくれた。喜多さんはさっき教室で干物になった後藤さんを見てるし、姉貴は姉貴だから。

 

「れ、レレレレレンくん! ど、どどどどうしよう!?」

「大丈夫だよ。五分くらいで復活するから」

「五分っていう根拠は何?」

「だって見るの今日二回目だし」

「入学初日からとんでもない経験してるね!?」

 

 それからは俺が言った通り、約五分後に後藤さんが復活を果たしました。人間、極度に緊張するとこういうことになるんだよ。勉強になったね虹夏ちゃん。

 

 俺がそう言いながら虹夏ちゃんの頭をよしよしと撫でると、虹夏ちゃんは釈然としない表情を浮かべて俺と後藤さんを交互に見ていた。

 

「え、えーっと……ちょっと想定外のアクシデントがあったけど、あらためて紹介します! あたしのお姉ちゃんでSTARRYの店長である伊地知星歌さんです」

「……よろしく」

「ひぅん!」

 

 虹夏ちゃんが星歌さんを後藤さんに紹介した瞬間、後藤さんは小さな悲鳴を上げて俺の背中に隠れてしまった。

 

 うん、しゃーないよ。だって星歌さんってかなりの美人さんだけど切れ長の目で初対面の人には「きつめ」の印象を与えちゃうから。

 

 あ、思いっきりビビられて星歌さんが地味にショックを受けてる。可愛い。

 

「大丈夫だよ後藤さん。星歌さんは確かに見た目がちょっと怖いけど、姉貴より百倍乙女で繊細な可愛い物好きアラサーだから」

「最後のアラサーは余計だろ!?」

「え? 店長ってアラサーだったんですか?」

「喜多も食いついてこなくていいから!」

「お姉ちゃんは今年で三十歳になります」

「これ以上年齢を掘り下げるな!」

「ひとりちゃん、これ。ぬいぐるみ抱いて寝てる店長」

「あ、か……可愛い」

「おいリョウ! なんでそんな写真持ってんだ!?」

 

 こんな感じで星歌さんはよくみんなに弄られています。こういうギャップが星歌さんの魅力だよね。後藤さんも警戒心がちょっと薄れたみたいでよかった。……俺の後ろからは出てこようとしないけど。

 

「あそこにいるのが音響やエンジニアをやってくれているPAさん」

「こんにちは~」

「ひ、ひいぃ!?」

「あ、あれ~? 私ってそんなに怖いですか~?」

 

 次に紹介したのはピアスゴリゴリ黒髪ロング巨乳美人のPAさん。後藤さんはピアスを見てびびっちゃったけど、俺は将来PAさんみたいな人に甘やかされて生きるという野望を抱えているんだ。

 

 PAさんって見た目は確かにインパクトあるけどめっちゃ美人さんでおっぱい大きくて良い匂いするから好き。

 

 その後は練習用スタジオやステージ、受付等一通りライブハウス内を後藤さんに案内した。

 

「ひとりちゃん、どうだった?」

 

 まだバイトまでは少し時間があったので、五人でテーブルについて後藤さんから感想を聞くことにする。

 

「あ、最初はちょっと……怖かったですけど、雰囲気が私の家に似てて……お、落ち着きました」

「どんなお家に住んでるの!?」

 

 予想外の答えが返ってくる。ライブハウスに似た雰囲気の家って……後藤さんの家って自営業だったりする?

 

「あ、いえ。普通の一軒家です」

 

 俺が尋ねると後藤さんはそう答えた。ますますわかんね。……まあ、そのうち彼女の家について詳しく知る機会もあるでしょう。多分。

 

「あのさ、今更なこと聞いてもいいかな?」

「あ、はい。なんでしょう?」

「ひとりちゃんはどうしてレンくんとお話してたの?」

 

 はい出ました。女子高生特有の男女の組み合わせを見たらなんでもかんでも()()()()()に話を持っていきたがる恋愛脳。虹夏ちゃんもそういうのが気になるお年頃だもんね。仕方ないね。

 

「あ、えっと……」

 

 虹夏ちゃんの質問を全く想定していなかったのか、後藤さんは狼狽しながら俺と一瞬だけ目が合う。すると、彼女は顔を赤くして俯いてしまった。

 

 あらら、そんな反応すると変に誤解されちゃうよ?

 

「どうしたのひとりちゃん。顔赤いよ~?」

「あらあら~後藤さんったらなんで照れてるのかしら~?」

 

 虹夏ちゃんと喜多さんが怪しく笑いながら、わざわざ後藤さんの隣に椅子を持って行ってそこに座る。姉貴は姉貴で後方支援者面してうんうんと頷いていた。お前のその反応はなんやねん。

 

 というか、喜多さんは俺と後藤さんがなんで放課後に話してたかっていう理由を説明したじゃん。

 

 困っている後藤さんを見ていると庇護欲を掻き立てられて和むけど、さすがにちょっと可哀想だから助け船を出そうかな。

 

「喜多さんには言ったけど、俺から話しかけたんだよ。後藤さんがバンド好きだって自己紹介のときに言ってたから」

 

 真実にほんの少しの嘘を混ぜる。そうすれば話の信憑性が増すって何かの本で読んだ気がするので実行してみました。

 

「ほうほう。まあ、そういうことにしておいてあげましょうか」

「というか……虹夏ちゃんほんとは全部わかって言ってるでしょ?」

「……てへっ♪ なんのことかな~?」

 

 はいあざとい。そういう小悪魔ムーブするから中学時代に男子達の黒歴史が大量に生み出されたんだよ。幼馴染としては、ある意味姉貴より虹夏ちゃんの将来が心配です。

 

「ひとりちゃんは普段どんな音楽聴いてるの?」

 

 そして、今まで会話に入ってこなかった姉貴が珍しく話題を提供する。姉貴の顔……新しい玩具を見つけた時の顔だ。

 

「えっと……邦ロックや洋楽、一時期デスメタルにもハマってて……割と何でも聴きます」

「ジャンルを選ばないんだ。私と同じだね。……意外と私達、趣向が似ているかも」

「あ、そ、そそそそうですね。ふへへっ」

「あー! 後藤さんばっかりずるいですー! リョウ先輩、私にもおすすめのCD貸してください」

「いいぜ。私色に染め上げてやんよ」

「先輩……」

 

 後藤さんが嬉しそうに不気味に笑っている傍らで喜多さんが姉貴に対して雌顔をさらしていた。悪いけど喜多さん……覚悟しておいた方がいいよ。

 

 姉貴が本気出したらマジで洗脳染みたことしてくるからな。俺も一時期サイケ(サイケデリックロック)が脳内で無限ループして不眠症になったことがあったし。

 

「あ、じゃあ、山田くんのロック好きはリョ、リョウさんの影響、ですか……?」

「そう。でもレンは私と違ってアウトドア派の裏切り者だから十分に洗脳できなかった」

「家で筋トレしてるときにクラシックかけるのほんとやめろ」

「筋肉を和ませようと思って」

 

 乳酸が良い感じに溜まってハイになってるときにドビュッシーがかかったときの俺の気持ちがわかるか?

 

 あれ? そう言えば今、姉貴のこと「リョウさん」って呼んだよね。虹夏ちゃん、リョウさん、喜多さん……あっ。

 

「山田くん、その同情するような視線は何かしら?」

「どんまい」

 

 俺が喜多さんの肩をポンと叩いてそう言うとデコピンされました。めっちゃ痛ぇ!

 

「あと、私もひとりちゃんと会ってからずっと気になってたことがある」

「な、なんでしょう……?」

 

 ほんとに珍しいな。姉貴が初対面の人間にここまで興味を持つなんて。

 

 後藤さんは後藤さんで、さっきの虹夏ちゃんの恋愛脳質問が効いているのか、表情を引きつらせて警戒態勢になってるし。

 

 

 

 

「ひとりちゃんって───ギターかベースやってる?」

 

 

 

 

 ところが、姉貴の口から出てきたのは後藤さんどころか俺ですら全く予想していない言葉だった。

 

「……え?」

「その指先、よく見るとギタリストやベーシスト特有の固い皮になってる。普通の人の指先は、そうはならない」

 

 姉貴の言葉に、後藤さんは大きく目を見開いた。……全然気付かなかった。っつーか、今日会ったばっかりの女の子の指先なんて普通観察せんわ。

 

 よく気付いたな姉貴。虹夏ちゃんも喜多ちゃんも「うそー!?」みたいな表情になってるし。

 

 そして姉貴は後藤さんの手を取って、指先を優しく撫でる。……悔しいけど、我が姉ながら絵になるな。顔面偏差値の暴力だよ。

 

 そんな姉貴の行動に後藤さんは恥ずかしそうに顔を赤くし、喜多さんはNTR郁代ちゃんになっていた。どんまい。

 

「ひ、ひとりちゃん……リョウの言ってること、本当?」

「あ……はい……」

「これだけ固くなってるってことは、数年はやってる証拠。そうでしょ?」

「は、はい。中学一年の時から……一日六時間くらいは……」

「い、一日六時間!?」

 

 はい!? 六時間ってちょっとヤバすぎないか!? 姉貴でもよっぽど集中してる時じゃないと六時間も練習なんてやんないよ!?

 

 驚愕している一方で、なんで後藤さんがあれほど俺の「ロックバンドが好き」っていう発言に食いついてきたのかを理解した。

 

「ろく……ろくじかん……りょうせんぱい……ぎたーやってるひと……わかる……」

 

 喜多さんを見ると、なぜかNTR状態よりも悪化していた。確かに姉貴が後藤さんの指を見てギターやってるって見抜いたのはすごいけどさ……喜多さんの反応がなんかおかしいんだよね。

 

「ひ、ひとりちゃん!」

「は、はいっ!」

 

 虹夏ちゃんがテーブルから勢いよく身を乗り出して後藤さんに顔を近づける。姉貴が手を握ったままだから、この光景が百合ップルの修羅場に見えてしまった俺は心が腐っているのでしょうね。

 

「ひとりちゃんは軽音部に入るつもりだったり……学外のバンドに所属してたりする!?」

「あ、い……いえ……。ぶ、部活はまだ何も決めてないですし、バンドにも所属してません……」

 

 後藤さんの言葉を聞いて、虹夏ちゃんの表情がぱあっと明るくなった。この後に彼女が何を言うのか、まあ全員予想はついているでしょう。

 

 

 

 

「もしよかったら───私達のバンドでリードギターをやってくれないかな?」

 

 

 

 

 結束バンドの現メンバーはドラムの虹夏ちゃん、ベースの姉貴、ギターボーカルの喜多さん。演奏に厚みを持たせるならリードギターの存在は必須だ。ギターとボーカルの兼任っていうのは、外から見るよりも遥かにキツイ。

 

 だからこそ、リードギターが一人いれば演奏の安定性は格段に増すんだけど……

 

「あ、え……えっと……」

 

 あとは後藤さんの意思次第。

 

 一日ギターを六時間練習しているってことは、相当に好きな証拠だ。でも、彼女はその性格故に中学時代も多分バンドを組めていないのだと思う。 

 

 今日初めて会った虹夏ちゃん達の人となりもよくわかっていない状態で、いきなりバンドに所属するっていうのはめちゃくちゃハードルが高い。

 

 俺が後藤さんの立場だったらさすがに尻込みするな。

 

「あ、ありがとうございます。こ、こんなコミュ障な私を誘っていただいて……」

 

 後藤さんは俯きながら、絞り出すような声でそう言った。……これは、やっぱり───

 

 

 

 

「ふ、不束者ですが……よ、よろしくお願いしましゅ……」

 

 

 

 

 彼女は顔を上げて虹夏ちゃんの目を真っ直ぐ見た後、ゆっくりと頭を下げた。

 

 え……? マジで……?

 

「ひ、ひとりちゃん……」

 

 虹夏ちゃんがゆっくりと後藤さんのすぐそばまで歩み寄る。

 

「ありがとーーーーっ!!」

 

 そして、感極まってそのまま彼女を思いきり抱き締めた。うん、そらそーなるよ。俺が虹夏ちゃんでも同じことしたもん。というか正直、断られるって思ってたわ。

 

 でも、後藤さんは勇気を振り絞って一歩を踏み出した。何この少年漫画みたいな展開。

 

「ひとりちゃん……泣いてるの?」

「う、嬉し過ぎて……私、こんな性格だから……小さい頃から友達がいなくて……でもバンド組みたいってずっと思ってて……そ、それが、こんな風に叶っちゃって……夢みたいで……」

「夢じゃないよ! これから一緒にがんばろうね、ひとりちゃん!」

「はいっ!」

 

 あかん涙出てきた。ちょっとほんとにやめて。俺、こういうのにめっちゃ弱いんだから。映画館とかで普通に泣くタイプなんだから。

 

「よしよし」

 

 姉貴が頭を撫でてくる。こういう時だけ姉貴面になるよな。

 

「ひとりちゃんがギタリストだと見抜いた私の功績」

「それ言ったら後藤さんを連れてきた俺の功績だろ」

 

 やっぱ姉貴は姉貴でしたわ。

 

 後藤さんと虹夏ちゃんが漫画みたいな感動シーンを演出している横で俺と姉貴は「功績マウント」を取り合っていた。

 

 喜多さんは……喜んでいたけど、なぜか複雑そうな表情を浮かべていた。やっぱ喜多さん、なんかちょっと様子がおかしいよな。姉貴の狂信者とは違う理由で。

 

 今はこの良い雰囲気に水を差すのもあれだし、今度こっそり話を聞いてみるか。

 

「よし、じゃあ今日は結束バンドの新メンバー加入祝いといこうことで焼肉に行こう。レンの奢りで」

「は? なんでバンドメンバーじゃない俺が金を出さんといかんの?」

「レンの五百円貯金がいい感じに貯まっていることを私は知っている」

「鍵付き棚を開けやがったなてめー!?」

 

 俺の趣味の一つ、五百円貯金。お金が貯まっていくのがすごく楽しいけど、五百円を作るためにわざとお札を崩したりするからそれはそれで面倒なんだよね。

 

「今日はあたしもリョウもレンくんもシフト入ってるでしょ?」

「じゃあ、せっかくだし後藤さん達に今日のライブ観ていってもらおうよ」

「あ、それいいねー! おねえちゃーん。そういうことだからよろしくー!」

「ちゃんとお金払ってくれたらな」

「えー? お金取るのー?」

「こっちも商売なんだよ」

 

 星歌さんはそんなことを言っていたけど、虹夏ちゃんがごねまくった結果、会場の設営をお手伝いしてくれたら無料でいいということになりました。なんだかんだ星歌さんって虹夏ちゃんに甘いよね。

 

「そういえば後藤さんってどこの中学出身なの?」

「あ、実は私……神奈川から二時間くらいかけて来てるんです」

「二時間!? めっちゃ遠いじゃん! 横浜あたり?」

「最寄りは金沢八景駅でして……」

 

 グーグルで調べたら下北沢まで電車で一時間半くらいかかるみたいです。遠いな!? なんでそんなところから通ってんの!?

 

「あ、えっと……高校は昔の自分を知ってる人がいないところに行きたかったので……」

 

 はい! この話題はもうやめましょう!

 

 そうだよね。極度の人見知りで友達が一人もいないって言ってたもんね。でも大丈夫だよ。今日だけで俺含めて四人も友達ができたんだから。

 

「後藤さん」

「は、はい……」

「これからたくさん楽しい思い出作ろうね」

 

 俺はできる限り優しい笑顔で彼女にそう言った。うん……中学までの彼女の学生生活は想像もできないし、したくもないけど……せめて高校くらいは楽しく過ごしてもらいたい! 俺もできる限り協力するからさ!

 

「あ、ありがとう……ございます……」

 

 俺の言葉に、後藤さんは恥ずかしそうに頬を染めて俯きながらそう答えた。……我ながらなかなかこっ恥ずかしいことを言ってしまいましたね。

 

 いやでも俺だって姉貴に負けず劣らず顔面偏差値が高いんだからこれくらい許されるでしょう!!

 

 

 

 

「見てください虹夏さん。あれが私が手塩にかけて育てた弟なんですよぉ」

「なんでリョウがドヤ顔してんの?」

「あれは口説く……というよりも庇護欲が爆発した結果ね。日頃からリョウ先輩を甘やかしているから自然とああなっちゃうんですね」

「つまり全部私のおかげ」

「さすがですリョウ先輩!」

「……あたしは喜多ちゃんの将来がすごく心配だよ」

「伊地知先輩、ブーメラン刺さってますよ」

「なんで!?」

 

 俺と後藤さんが良い感じの雰囲気になっている一方で虹夏ちゃん達はお互いに言葉のブーメランを投げ合っていました。……ほんとに結束してんのこの人達?

 

 その後、俺を含むバイト組の三人は通常通り業務をこなし、バイトがない後藤さんと喜多さんの二人はライブを楽しんでいたみたいです。

 

 後藤さんを喜多さんと二人にするのはかなーり心配だったけど……

 

「ねえ、後藤さんは初心者の頃はどうやってギターを練習していたの?」

「あ、ま、まずは初心者向けの教本から初めて、徐々に難易度を上げていって……自分の弾きたい曲を片っ端から弾いたりしていました」

 

 喜多さんにも何か思うところがあったらしく、後藤さんにギターのことで色々アドバイスをもらってたみたいだね。

 

 喜多さんがギター弾いてるところ見たことないけど、実力的にはどうなんだろ。

 

「じゃあ、明日は軽くミーティングをした後に四人でセッションしてみようか!」

 

 バイトが終わって虹夏ちゃんがそう言うと、なぜか喜多さんが狼狽し始める。

 

「えっと……す、すみません。実は私、今ギターを修理に出してて……」

「あ、そうだったの? じゃあ喜多ちゃんはボーカルに専念するってことで!」

「は、はい……」

 

 うん。明らかに態度がおかしい。喜多さんの歌は何回か聴いたことがあって上手だった印象はあるけど……もしかしてギターの腕に難あり、なのか?

 

 でも、それならそうと素直に言ってくれればいいのに。別に下手だからって虹夏ちゃん達は怒ったりしないんだから。

 

 一応、明日それとなく話を聞いてみるか。

 

 俺はそんなことを考えながら、後藤さんを駅まで送り、「腹が減って動けない」とほざく姉貴を引きずりながら帰路につくのだった。

 

 

 

 

 そして翌日───

 

 

 

 

「や、山田くん……お、おはようございますっ!」

「後藤さん、おは───」

 

 俺が教室に入るなり、後藤さんが元気にあいさつしてくれました。

 

 うん、それはね……いいんだよ。君が前向きに今日からバンド活動をがんばろうっていう思いが伝わってくるから。

 

 だけどさ……だけどさ……

 

 

 

 

 その恰好何!?

 

 

 

 

 学校指定の制服ではなく、厨二臭いバンドTシャツの上からピンクジャージを羽織り、両腕に数多のラバーバンドを装着し、鞄にはびっしりと缶バッジが付けられていた。

 

 教室内が奇妙なざわめきに支配されている中、俺はどうすれば嬉しそうな笑顔を浮かべている彼女を傷つけずに言いくるめることができるのかと高速で思考を巡らせる。

 

 そして 

 

 入学二日目にして

 

 後藤ひとりは一年二組の伝説となった。

 




 現時点でのぼっちちゃんの主要人物に対する警戒度

 喜多ちゃん>>>>越えられない壁>>>>山田>>虹夏>レンくん

 どんまい喜多ちゃん。次かその次で出番たくさんあげるから。

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