【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#31 Gravity

「ではこれより、山田スイミングスクールを開校する!!」

「は、はいっ! よ、よろしくお願いしますコーチ!!」

 

 山田くんに抱きしめられてドロドロに溶けちゃった後、復活した私は山田くんと一緒に水深が胸くらいの浅瀬に入っている。私がこれから少しでも海やプールで楽しめるように泳ぎを教えてくれるんだって。

 

 優しいなぁ山田くん。……それに、さっき抱きしめられた時、思った以上に山田くんの身体つきががっしりしててドキドキしちゃった。顔も近くてもうちょっとでキスできそうなくらい───って! 何をいやらしいことを考えてるんだ私! 

 

 彼は溺れそうになっていた私を助けてくれただけなんだから! 脳内お花畑のピンク色な妄想なんてしちゃいけません! 私は決してえっちな女じゃありません。ピンクは淫乱なんてもう古いんです! 私は確かにピンク色の髪だけど、淫乱じゃないピンクですから! 清楚なピンクですから!

 

「じゃあ確認するけど、水に顔をつけたり、水の中で目を開けることはできる?」

「あ、はい。それくらいなら大丈夫です。ただ、泳ごうとすると体が勝手に沈んでいって全く前に進まなくて……」

「うん。お手本のような初心者あるあるだね。いきなり何の道具もなしに泳げって言うのは無理だから、最初は浮き輪を使おうか」

 

 山田くんはそう言って私に浮き輪を渡してくる。さ、さすがの私も浮き輪があれば沈んだりしませんよ?

 

「まずは何も考えず、ぷかーって浮かんでみようか?」

「は、はい」

 

 私は浮き輪に体を通し、山田くんが言ったようにぷかぷか浮かんでみる。よ、よく考えたら今の私達ってビーチで仲良く遊ぶカップルだよね。で、でへへへっ……

 

「今、体を浮かせるためにどこかに力を入れているかな?」

「あ、い、入れてないです。ただ浮き輪に身を任せているだけで……」

「うん、そうだね。まず理解しておいてほしいんだけど、体が沈む原因は体のどこかに余計な力が入っているからなんだ」

「余計な力、ですか?」

「そう。浮かぼうと思って手や足に無駄な力が入って沈んじゃうのが水泳初心者にありがちな現象。体を浮かすのに、特別な力は必要ないんだ」

 

 そう言って山田くんはあおむけの状態でぷかーっと浮かんで見せてくれた。確かに彼が言ったように、今の山田くんは力を入れている様子はなくて、すごくリラックスして見える。

 

「といっても、いきなりやれって言われても難しいよね? だからまずは浮き輪を使って、力を入れずに体を浮かべる感覚を知ってほしかったんだ」

「な、なるほど……」

「じゃあ、次は浮き輪を外してビート板を使ってみよう」

 

 山田くんがビート版を見せてくれた。ど、どうしよう……ビート版なんて小学生時代のプールの授業でしか使ったことがないからよくわかんない。

 

「こうやって、ビート版に腕全体を乗せて、上の方を手で持つ感じで使うんだ」

「あ、はい」

 

 よかった。ちゃんとお手本を見せてくれた。こういう風に細かい気配りができるところが山田くんの良い所だよね。……優しさに甘えすぎてる部分もあるけど。

 

 で、でもでもっ! この前の花火大会ですごく仲良くなったし! こ、これからは山田君に甘えるだけじゃなくて山田君を積極的に甘やかしていこうと思います! 

 

 具体的に何をすればいいのか全然わからないけど。

 

「で、ビート版を持ったら水に寝転がるイメージで体全体を浮かべるんだ」

「水に、寝転がるイメージ……」

「俺がビート版をゆっくり引きながら歩くから、全身の力を抜いてみよう。そうすれば自然と体が浮いてくるから」

 

 山田くんがお手本を見せてくれた通りにビート版を持つと、彼がゆっくりと引きながら歩いてくれる。そして、彼が言ったとおりに体の力を抜いてみると、自然に体が浮き上がってきた。

 

「や、山田くんっ! すごいです! ちゃんと体が浮きました!」

「うん、上出来だよ! 少しの間このまま引いてあげるから体が浮く感覚を覚えようか」

「はいっ」

 

 う、浮き輪なしで体が自然と浮いちゃった。ビート板を持ってるだけなのに、すごい! も、もしや私には水泳の隠れた才能があったのでは? い、今からでもオリンピック目指せるかも……

 

「じゃあ、次はバタ足ね。ここまでは俺が引っ張ってきたから次は自分で前に進めるようになろう!」

「はいっ! 山田コーチ!」

「お? やる気満々だね~。じゃあ、俺がアドバイスする前に、まずは自力でやってみようか」

「ま、任せてくださいっ」

 

 ふっ……水中で体を浮かべられるようになった(ビート板あり)私にかかればバタ足なんてちょちょいのちょいですよ~!

 

 (脳内)オリンピック金メダリスト級の私の華麗なる足技をご覧にいれましょう!!

 

 そして私は意気込んでバタ足をしたんだけど……

 

 あるぇ!? ま、前に進まないどころかどんどん体が沈んでいく始末!!

 

 ここは私の華麗なる美技に山田君が酔いしれて「もう教えることは何もない」ってなる場面じゃないの!?

 

 な、なんという体たらく……いや、もしかしたら私の胸が大きすぎて沈んじゃったのかもしれない。喜多ちゃんや虹夏ちゃんならこんなことにはならなかったでしょう。 

 

「うんうん。足……というか体全体に力が入って沈んじゃったね。でも、これも初心者あるあるだから気にしないでね」

 

 山田くんはそんな私を見てにこにこと優しく笑いながらそう言った。な、情けないところを見せちゃってごめんなさい。……でも、彼には散々情けないところを見せてるから今さらかな。

 

「力を入れるのは水を蹴る時だけでいいんだ。意識するのは足首と膝の使い方。で、バタ足は大きすぎても小さすぎてもダメだから……ちょっとお手本を見せるから浮き輪が動かないように支えてくれる?」

「あ、はい」

 

 私は山田くんの言う通り浮き輪が波でさらわれないようにしっかりと支えてあげる。そして彼は私が支えている浮き輪を掴んでバタ足のお手本を見せてくれた。なるほど、そのくらい上下に動かせばいいんですね。

 

「こんな感じかな。さっきも言った通り、基本的には力を入れすぎないこと。これが一番大事だからね?」

「わかりました!」

「うん、良い返事です。じゃあ、今俺がやったみたいに浮き輪をつかんでバタ足の練習をやろう!」

 

 今度は山田くんが浮き輪を支えて、私がその浮き輪を掴んで彼のアドバイス通りにバタ足の練習をする。彼のお手本を見ていたおかげか、体も沈まず、さっきよりも上手くできた気がした。

 

「いいじゃんいいじゃん! その調子だよ。体もちゃんと浮いてるし、後藤さんはコツを掴むのが早いんだね」

「え、えへへ~。そんなことないですよ~」

 

 山田くんに褒められてついつい頬が緩んでしまう。すると彼はお母さんみたいな温かい笑顔を浮かべて私を見ていた。なんか、彼って時々私にこんな感じで笑いかけるんだよね。なんでだろう?

 

「次はその感じで実際に前に進んでみようか」

「わ、わかりました」

 

 私は浮き輪からビート板に持ち替えて、山田くんのアドバイスを思い出しながらバタ足をしてみる。すると、バタ足に合わせて体が前に進んでいくのがわかった。

 

「すごいすごい! ちゃんと前に進めてるよ、後藤さん!」

「は、初めて……生まれて初めて泳げました!」

 

 私が感激しながら笑顔で山田くんを見ると、彼が私に向かって手を伸ばしてきたかと思ったら、慌てた様子で手を引っ込めた。

 

 どうしたんだろう? も、もしかして……私の頭を撫でようとしたのか?

 

 別に撫でてくれてもよかったのに……

 

 ちょっぴり残念。

 

 そこで私は、自分がそんな風に考えてしまったことが恥ずかしくなって、赤くなった顔を見られないように泳ぐのだった。

 

 

 

「後藤さん、運動は苦手って言ってたけど数十分でここまでできるようになったじゃん! 偉い偉い」

「や、山田くんの教え方が上手だったからです……」

 

 それから、私はしばらく山田くんが見守る隣で泳いでいた。

 

 中学生までは水泳の時間が地獄でしかなくて、どうやってサボるかばかり考えていたのに……こ、これは天才スイマー後藤ひとりの誕生の瞬間というわけですね! MVの撮影は海かプールでやりましょう!

 

「ほう、ぼっちがかなづちを克服している」

「あ、リョウさん。えへへ、ちょっと私の内なる才能が溢れすぎちゃいまして……」

「ぼっちはよくがんばってる。偉い」

 

 映画を見ていたリョウさんが私達の方へやってきて、私の頭を撫でてくれた。リョウさんはよくこうやって撫でてくれるから好き。

 

「珍しい。泳ぐ気になったんだ」

「サメ映画を見てたら私もサメの気分を味わいたくなった」

「シャークネードって海あんま関係ないじゃん」

「本当はチェーンソーがあればよかったのに」

「あってたまるかそんなもん」

 

 こうして二人が並んでいるのを見ると、本当によく似た顔立ちをしているなと思う。山田くんは今、髪がしっとりと濡れているからなおさらだ。山田くんが本当にスイミングクラブのコーチになったりしたら、すごくモテるだろうなぁ……

 

「後藤さん後藤さん」

「あ、ひゃいっ!?」

 

 ぼーっとそんなことを考えていたら、彼は悪戯っ子のように笑って私にそっと囁いてくる。いつの間にかリョウさんは一人で泳ぎに行っちゃったらしい。

 

「いいことを思いついたから、ちょっと協力してくれない?」

「いいことって……何ですか?」

 

 私が尋ねるも、彼は得意げに笑うだけで答えてくれなかった。そういう態度というか、笑い方、リョウさんにそっくりですよ?

 

 そんなことを言うと、君は嫌そうな表情をするだろうけど、ね。

 

 山田くんが思いついた「いいこと」というのは、喜多ちゃんが持ってきた大きなサメの浮き輪でリョウさんを驚かしてやろうということだった。

 

 リョウさんはあれでヘタレのビビりだから、サメ映画を見た後にこの浮き輪を持って近づけばびっくりするに違いない、とのこと。

 

 私もリョウさんにはよく振り回されてるし、いつものお返しということで山田くんの提案に賛成する。

 

 そして、こっそりリョウさんに近づいたら、リョウさんは私が想像していた十倍はびっくりしてものすごいスピードで泳いで逃げて行っちゃったんだ。

 

 その後、私たちの仕業……というよりも山田くんが首謀者だと気づいたリョウさんは───

 

「レンはさっきぼっちに抱き着かれてすごくドキドキしてたんだよ?」

 

 って私に囁いてきて、ものすごく恥ずかしい目に遭ったんだ。それで山田くんは顔を真っ赤にしてリョウさんを追いかけて行っちゃったんだけど……私は恥ずかしいだけで、全然嫌な気はしなかった。

 

 むしろ、なぜかよくわからないけど……彼が、山田くんがそう思ってくれていることがすごく嬉しかったんだ。

 

 本当に、理由はよくわからないけど……

 

 

 

 

「何してんの?」

「見て見てレンくん! 虹夏先輩が『わがままぼでー』になっちゃったわ!」

 

 山田スイミングスクールが終わり、後藤さんをパラソルの下で休ませている間にバーベキューの準備をするために別荘へ戻ろうとしていたところで、砂に埋まっている虹夏ちゃんと埋めた張本人である喜多さんの元へやってくる。

 

「はぁ~~~~~~。虹夏ちゃんが巨乳とか……喜多さんってほんと()()よな?」

「想像の十倍腹立つ反応ね」

 

 砂に埋められて、胸の部分が思い切り盛られて巨乳になっている虹夏ちゃんを見て、俺は思い切りため息を吐いた。喜多さんはダメだ。何もわかってない。

 

「虹夏ちゃんが巨乳とか解釈不一致。虹夏ちゃんはこのまま色々と小さいままで、背が低いまま抱っこしやすい体型をキープして、それをコンプレックスに感じて恥ずがしがってるのが最高に可愛いんだ」

「レンくんが普段あたしをどんな目で見てるかよくわかったよ」

「だから虹夏ちゃん……どうかちっこいままでいてください」

「珍しくレンくんにお願いされたと思ったらそれ!?」

 

 だって、今の虹夏ちゃんって膝の上に乗っけて腕の中にすっぽり収まる丁度いいサイズだし。

 

「レンくんの言う通りね。私が間違っていたわ……そうよ、虹夏先輩は決して巨乳であってはならない。今のこのサイズのまま大人になって、でもそれに反比例してバブ味はどんどん増してくる。……恐ろしい殺戮兵器ね。でもそれが虹夏先輩のあるべき姿なんだわ!」

「二人して喧嘩売ってる? ねえ?」

「そんなことないよ」

「はい。むしろ先輩の真の魅力に気付いて……浅はかだった己の考えを恥じているところですから」

 

 そこで埋められていた虹夏ちゃんが自力で脱出を図り、立ち上がった。あーあー。可愛い水着が砂まみれに……

 

「だから虹夏先輩……どうか色々と小さいままでいてください」

「小さい小さいって……喜多ちゃんだってあたしとおっぱいの大きさ全然変わんないでしょ!?」

「え? 私の方が大きいですよ?」

「そんなまな板でよく平然と言えるな!?」

 

 虹夏ちゃん、まな板なんてそんな失礼なことを……思っててもそれは口に出しちゃダメ。これじゃあ喜多ちゃんじゃなくて板ちゃんでしょ? 

 

 そんなこと言ったら殺されるな、俺。

 

「レンくん! あたしと喜多ちゃん、どっちがおっぱい大きい!? もちろんあたしだよね!?」

「忖度しなくていいわよ? 幼馴染補正も抜きにして事実を告げなさい。……たとえそれが、残酷な真実だとしても」

 

 どっちも微塵も負けると思ってなくて草生えますよ。……えー? 正直に言っていいの? ほんとに? 残酷な真実を二人に突きつけちゃっていいの?

 

「いいわよ。(虹夏先輩の)覚悟はできているから」

「(喜多ちゃんに)現実を教えてほしい」

 

 二人がそこまで言うのなら……

 

「どんぐりの背比べ」

 

 両者の胸を見比べてそう言った瞬間、二人に砂をぶっかけられました。だって事実じゃん!!

 

 はぁ~、もういいや。バーベキューの準備に行こう。

 

「じゃあ俺、別荘に戻ってバーベキューの準備してるから二人はまだ遊んでなよ」

「あ、それならあたしも手伝うよ!」

「私も───」

「郁代。今からぼっちと砂のお城作るから手伝って」

「はいっ!!」

 

 一瞬で喜多さんに掌返しされました。でも喜多さん……さっきまで胸が小さい話をしてたのに、スタイル抜群の姉貴と巨乳の後藤さんと一緒になって大丈夫? バンドに不和が発生したりしない?

 

 俺、胸の大きさでバンドが解散するとか絶対嫌だからね?

 

 喜多さんならぬ板ちゃんの健闘をお祈りしておくとしましょう。

 

「虹夏ちゃん、行こっか?」

「うん」

 

 ということで、虹夏ちゃんと一緒に別荘に戻ることにします。

 

 

 

 

 裏庭の水道で砂を落として軽く体を拭いた俺達は、水着姿のままで準備する訳にもいかないので、海でべとついた身体を綺麗にするために先にシャワーを浴びることにする。事前にお湯は張っておいたし。虹夏ちゃんに先に入ってもらうか。

 

「虹夏ちゃん、先にシャワー浴びてきなよ」

 

 特に深い意味はなく、俺は虹夏ちゃんにそう言った。バーベキューをしたら匂いがついちゃうと思うけど、近くにスーパー銭湯があったから、食べ終わったらみんなでそこに行くのもいいかもしんないね。

 

「え? レンくんも一緒に入ろうよ」

 

 俺が銭湯のことを考えていたら、虹夏ちゃんがとんでもないことを言ってきた。……耳に水が詰まっちゃったかな? き、聞き間違いだよね?

 

「今、俺と一緒にお風呂に入ろうって言った?」

「うん」

 

 聞き間違いじゃないみたいです。

 

「に、虹夏ちゃん……いつからそんなえっちな子に……結局、私の体が目当てだったのね!!」

「それ女の子が言うことだから!! も~、違うよっ! 海水を流すだけなら二人でさっと入って一緒に準備しようって意味だから! ほら、お互い水着で入れば海に入るのと一緒でしょ?」

「……そうかなぁ?」

「そうだよ」

 

 海とお風呂ってシチュエーションが全然違うと思うんだけど。

 

「もしかしてぇ……あたしのこと、意識しちゃってるのぉ? ただの幼馴染なのにぃ? さっきは散々『小さい小さい』って言ってたのにぃ?」

 

 虹夏ちゃんが小悪魔っぽく笑いながら上目遣い気味に言ってくる。あ、そういうことか。さっきの仕返しというわけね。でもね、そーゆー態度は良くないと思うよ? 俺以外の男にそんなこと言ったら押し倒されても文句言えないからね?

 

「別にいいよ、レンくんなら───なーんてね♪」

「そういうのほんとやめて……ちょっとドキッとするじゃん」

「ふーん? ドキッとしたんだ?」

 

 いくら幼馴染で昔から知っていて家族同然とはいえ、可愛い女の子にそう言われたら反応しちゃうよ。でも、虹夏ちゃんがちんちくりんでよかった。もしも後藤さん並みのおっぱいさんだったら、俺の理性が崩壊していたかもしれない。

 

 虹夏ちゃんも俺のそういうところをわかってるから、こんな風にからかってくるんだろうけど。

 

「ほら、早く入ってバーベキューの準備するよ~」

「え? 一緒に入るのは確定なの?」

 

 俺が尋ねるも、虹夏ちゃんは質問に答えず鼻歌交じりに俺の手を引いて浴室へ向かうのだった。

 

 ……海は人を開放的にするんだね。

 

 

 

 

「お客様ぁ、かゆいところはございませんかぁ?」

「ございませんねぇ」

 

 レンくんを浴室に連れ込んで……連れ込んでって言い方はおかしいな。いやおかしくないな。

 

 と、とにかく一緒にお風呂に入って頭を洗ってあげている。

 

 あれー? 一緒にバーベキューの準備をするだけだったのに、どうしてこんなことになってるんだろう……うん、百パーあたしのせいだ。あたしがとち狂った行動に出たせいだ。 

 

 なんでこんな行動に出たのか意味が分からない。二人でお風呂に入っている間に三人が戻ってきたらどうするのか……レンくんに責任を取ってもらおう、ヨシ!!

 

「はい、終わりー」

「ありがとう。俺も洗ってあげようか?」

「……じゃあ、お願いしようかな」

 

 レンくん、全然動揺してない……いやわかってたけどね。むしろ動揺されたらこっちが困ってたけど。相手がぼっちちゃんだったらどうなっていたことか。……うん、これ以上想像するのはやめておこう。

 

「虹夏ちゃん、髪長いよね。いつも洗うの大変でしょ?」

「洗うのもそうだけど……乾かす方が大変かな~。ドライヤーで何十分もかかるから」

「俺、男でよかった」

「レンくんも髪伸ばしてみたら?」

「手入れが面倒だからやだ」

 

 顔が良いからどんな髪型でも似合うと思うけどね。

 

 それにしても、レンくん髪洗うの上手だね。もしかして、昔の彼女とこうやって一緒にお風呂に入って髪を洗ってあげてたりしたのかな? いや違うな。リョウの寝癖があまりにも酷いときに髪を丸洗いしてたから、そのせいか。

 

 レンくんが髪を洗ってくれる感覚が心地良くて、私は目を瞑りながらそんなことを考えていた。

 

「虹夏ちゃん、そこに座るの?」

「うん……ダメ?」

「いや、ダメじゃないけど……」

 

 髪を洗ってもらってそのまま髪をまとめて、、シャワーで軽く海水を流したら二人で湯船に浸かる。お風呂はすごく広くて、三人くらいなら余裕で入れそうなくらいだった。

 

 でもあたしは、レンくんの足の間にちょこんと座って彼の胸に背中を預けた。さすがにレンくんも苦言を呈そうとしていたみたいだけど、あたしがこうやっておねだりすると彼は大体言うことを聞いてくれる。

 

 君の性格はね? よーくわかってるんだよ?

 

 そしてあたしは、手持無沙汰にしていたレンくんの両腕をあたしのお腹の前あたりで交差させて、後ろからレンくんに抱きしめられるような体勢になった。

 

 我ながら大胆なことをしてるけど、正面から向かい合う方が恥ずかしいんだ。だって、今のあたし、お風呂の温度で誤魔化しきれないくらい顔が赤くなってると思うし。

 

「ほら、やっぱり虹夏ちゃんはこのサイズがちょうどいい。すっぽり収まってるでしょ?」

「えー? 百六十センチはほしいんだけど?」

「百五十八センチまで。それ以上伸びるのは許さない」

「じゃあ、おっぱいを大きくするためにこれから毎日豆乳飲むね」

「じゃあの意味が分からない。あと、SIDEROSで一時期豆乳が流行ってたらしい」

「流行って()んだ……」

「大槻先輩は今も続けてるらしいよ?」

「大槻さんって、怪しい豊胸サプリに騙されそうだよね」

 

 あたしがそう言うと、レンくんは笑った。レンくん……あたしの知らないところで大槻さんと仲良くなってたよね。別に嫉妬するってわけじゃないけど、君の大槻さんに対する態度が、これまで君が付き合ってきた女の子に対するそれと違うからちょっと気になってるんだ。

 

 まあ、レンくんが今、()()()()()で一番意識しているのはぼっちちゃんだろうけど。

 

 でも……そもそもレンくんは恋愛感情を向けられたことがあっても、自分がそれを誰かに向けたことが一度もないからなぁ~。知っているだけで、自覚したことがない。だから君は、女の子と付き合っても長続きしないんだよ。

 

 だって、女の子が本当に求めているものを……感情を、君は持ち合わせていないんだから。

 

 そして、そういうことをレンくんに自覚させる役割を担う()()()()()のがあたしで、リョウもかなり期待していたんだ。

 

 でも、知らない内にあたしも、レンくんも、お互いがお互いに向ける感情が……恋愛感情なんかじゃない、もっと重たい感情になっちゃったんだよね。

 

 レンくんのことは好きだよ? 大好き。

 

 あたしが知り合った男の子の中で一番仲が良くて、一番大好き。それは間違いない。

 

 でも、あたし達が付き合うことはないと思う。

 

 ただ、もしもあたしがレンくんに「付き合って」と言ったらレンくんは承諾してくれるだろうし、逆にレンくんがあたしにそう言ってきたら、あたしは彼と付き合うだろう。

 

 あたしとレンくんは、そんな不思議な関係。

 

 ただの幼馴染……とは言えないなぁ。一歩間違っちゃったら、ドロドロに依存し合うことになっちゃうかも。

 

 それはそれであり……じゃないね。健全じゃないもん。

 

 そうならないために、レンくんには素敵な女の子と恋をしてほしい。だからあたしは、大槻さんやぼっちちゃんには結構期待している。レンくんが知らない感情を、自覚させてくれるかもしれない相手だから。

 

 一番身近にいる格好良い素敵な男の子が自分以外の女の子と付き合うことに対して、嫉妬はしないのか? って思うかもしれないけど……

 

 あたしは全く嫉妬しない。

 

 強がりじゃなくて、本当に。

 

 だって、あたしのレンくんに対する感情って……()()()()で揺さぶられるものじゃないから。

 

 レンくんが誰かと恋をして、幸せになってくれたら、あたしは全力でそれを祝福するよ。それはレンくんも同じ。あたしに素敵な彼氏ができたら、彼は心の底から喜んでくれるに違いない。

 

 あたし達の関係って、そういうものだから。

 

 ただ……もしも、もしも君にそういう相手ができなくて、どうしようもなくなった時は───

 

 あたしだったら、君を幸せにできるからね。 

 

 はぁ~……我ながら嫌になるくらい重たい感情だなぁ。素直にレンくんに恋をしている女子が羨ましい。でもね、レンくんみたいな男の子が昔からずーっとそばにいてくれたら、重たい感情を持っちゃうのも仕方ないと思うんだ。

 

 だってレンくんって、それだけ素敵な男の子なんだもん。

 

 レンくんと幼馴染でよかったと思うことはたくさんある。本当に、数えきれないくらいたーくさんあるっ!

 

 でもね、たまに……ごくたまーに思っちゃうんだ。

 

 レンくんと、別の出会い方をしていたら……もっと違う関係になれたんじゃないかって。

 

「レンくん」

「どうしたの? のぼせちゃった?」

 

 あたしのそんな重たい感情に、レンくんは気付いている。気付いた上で、全部受け止めてくれるから……あたしは君のことが大好きなんだ。

 

「あのね……あたしね……」

「うん」

 

 レンくんが、ほんの少しだけ強く、あたしを抱き締めてくれる。

 

「やっぱりやーめた。なんでもなーい」

「え~……気になるじゃん」

「うん。ずーっと気にしてて?」

「気になって夜しか眠れない」

「そういう言い回し、リョウにそっくり」

 

 あたしがそう言うと、レンくんは腕を解いてあたしの顔にお風呂のお湯をかけてくる。だからあたしもレンくんの顔にバチャバチャとお湯をかけて、お互いに笑い合った。

 

 レンくんの屈託のない笑顔を見て、思う。

 

 あたしはきっと、君の一番にはなれない。

 

 君はきっと、あたしの一番にはなれない。

 

 それでもあたしは、君のことが大好きだよ。

 

 だから君も、あたしと同じ気持ちであってほしい。

 

「レンくん」

 

 そしてあたしは、今度は正面からレンくんにぎゅっと抱き着いた。

 

 彼はちょっぴりびっくりしていたけど、優しく笑って抱きしめ返してくれる。

 

 ただそれだけのことが、たまらなく嬉しいから───

 

 それ以上は、何も望まないよ。




 激重感情虹夏ちゃん回。

 前半のぼっちちゃん水泳教室と重力が違いすぎる。

 あと、レンくんについてちょっと掘り下げ。次回もう少し詳しく触れていきます。

 虹夏は拗らせていますが自覚があるので暴走したりヤンデレ地雷女になったりしません。

 他にいい人が見つかって恋をすればもっと虹夏は楽になるでしょう。……見つかれば。

 次回は順調に行けばレンくん掘り下げ+喜多ちゃんならぬ板ちゃん回になる予定です。

 では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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