【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#34 新(宿)世界

「山田くーん、こっちの機材運ぶの手伝ってくれるー?」

「はーい!」

「山田くんって照明とか音響機材はいじったことある?」

「基本的な使い方くらいなら……」

「レーン! 私がドリンク教えてあげるヨー!」

 

 俺は今、新宿FOLTで労働に勤しんでいます。別にSTARRYでやらかしてクビになったわけじゃなく、吉田店長直々に頼まれて、今日と……あと何日か新宿FOLTで臨時バイトをすることになったんだ。

 

 そもそも、なんで吉田店長が俺にそんなことを頼んできたのかというと、数日前に遡る。

 

 

 

 

『山田ちゃん、ごめんね。いきなり電話しちゃって~』

「いえいえ。でも珍しいですね、吉田店長から俺に電話してくるなんて」

『山田ちゃんに……というよりも結束バンドちゃん達にお願いがあったのよ』

「お願い?」

 

 数日前、いつものようにSTARRYには俺と結束バンドのメンバーが集まっていた。俺はバイトでメンバー達はスタ練の予定になっていたところに、吉田店長から俺に電話がかかってきたんだ。

 

『単刀直入に言うわね~。九月に廣井達がウチでライブをやるんだけど……その前座を大槻ちゃん達のSIDEROSと結束バンドちゃん達にお願いしたいのよ』

 

 ……ぱーどぅん?

 

「すみません。ちょっと……ちょっと脳みその理解が追いつかなくてですね……も、もう一度言ってもらえませんか?」

『九月に廣井達の前座として、ウチでライブしてくれないかしら?』

 

 ふー……ど、どうやら聞き間違いじゃないみたいですね。ほ、本気ですか? 結束バンドを……あの、あの新宿FOLTで……前座とはいえライブさせてもらえると?

 

「た、タイム願います……」

『認めるわ♪』

 

 とはいえ……とはいえだ。こんなもん、俺一人でどうこうできるもんじゃない。

 

 なので───

 

「結束バンド、集合っっ!!」

「どうしたの、レンくん?」

「なんぞ」

「なんかすごく慌ててますね。珍しい」

(誰と電話してるんだろう? も、もしかして山田くんがどこかのモデル事務所に引き抜かれるからバイトを辞める話だったり!? い、嫌だっ……!! や、山田くんが辞めるなら私も辞めてやるっっ!!)

 

 とりあえずメンバー全員を集めます。動揺を隠しきれないまま俺が叫ぶと、四人は首をかしげながら俺の近くに集まってきた。珍しく狼狽している様子の俺に、虹夏ちゃんは心配そうな表情をしている。

 

 こんなのね、冷静になれっていう方が無理だわ。

 

 俺はテーブルにスマホを置いて、スピーカーモードに切り替える。

 

「吉田店長、大変申し訳ありませんが……メンバーを全員集めましたので、もう一度説明をお願いします」

『はーい。結束バンドちゃん達、聞こえてる~? 突然のお願いなんだけど、九月に廣井達がウチでライブをするからヨヨコ達と一緒に前座をやってくれないかしら?』

 

 吉田店長の言葉に、四人は数秒沈黙する。

 

 そして……

 

「えーーーーーーーーっ!!??」

 

 虹夏ちゃんの大声がライブハウス内に響き渡った。姉貴も驚いているらしく、声には出さないけど狼狽えている。喜多さんは首を傾げ、後藤さんは虹夏ちゃんの声にびっくりしていた。

 

「虹夏先輩、何をそんなに驚いているんですか? ただのライブのお誘いですよね?」

「た、た……ただのライブじゃないよっ!! し、新宿FOLTってSTARRYとは比べ物にならないくらいおっきなライブハウスなんだよ!!」

「収容人数五百人。私達が予選落ちしたTOKYO MUSIC RISEのファイナルステージが行われる東京ビジュアルアーツのメディアホールよりもさらに大きい」

「え? そ、そんなところでライブさせてもらえるんですか!? すごいじゃないですか!」

「だからこんなに驚いてたんだよっ!」

(す、STARRYよりも大きいライブ会場……路上ライブは週に一回やってるからだいぶ慣れてきたけど……新しい会場でライブ……おえっ……い、今から吐き気がしてきた)

 

 喜多さんは無邪気に喜び、後藤さんは顔色を悪くしていたので背中を擦ってあげる。今からすごく緊張してて大丈夫かな? でも、ライブが始まってしまえば、なんやかんや後藤さんは結果を出すからな。

 

 あとは、変なパフォーマンスさえしなければそれでいい。

 

「で、でもでもっ……ど、どうしてあたし達なんですか? お誘いはすごく嬉しいですけど、あたし達より実力のあるバンドは他にもたくさん……」

『七月にライブを観に行って、あなた達は伸びそうだと思ったからよ。それに、下北での路上ライブ、がんばってるみたいじゃない? トゥイッターで結構評判良いみたいよ』

「き、喜多ちゃん!? そうなの!?」

「あ、はい。エゴサすると結構トゥイートしてくれてる人がいて……」

『それに、オーチューブに上がってる新曲も聴かせてもらったわ。すごく良い曲ね』

 

 やばい。めちゃくちゃ評価されてる。曲を褒めてくれることはもちろん嬉しいけど、それ以上に……路上ライブとか、そういう地道な活動を評価してくれていることが、俺は自分のことのように嬉しかった。

 

 やべえ、泣きそう。

 

 俺が目頭を押さえていたら、後藤さんが頭をよしよししてくれた。後藤さんも緊張でそれどころじゃないのに……俺のことまで気遣ってくれて、ほんとに優しいね。

 

『廣井からの推薦があったけど、それ以上に───あなた達の曲をウチで演奏してほしい。あたしがそう思っているの』

 

 吉田店長の言葉に、メンバー全員が言葉を失っていた。

 

 新宿FOLTで活動しているバンドは……はっきり言ってSTARRYよりも遥かにレベルが高い。そんなバンドの演奏を聴き慣れている人が、結束バンドをここまで評価してくれている。

 

 この事実に、感動しないわけが───燃えないわけがない。

 

「や、やらせてくださいっ!! 絶対に、良いライブにしてみせます!!」

『ありがと~! どうせなら、SIDEROSやSICKHACKを食っちゃうくらいの意気込みで臨んでね!』

「はいっ! 新宿FOLTを結束バンド色に染め上げてやります!!」

 

 虹夏ちゃんが力強くそう宣言した。……虹夏ちゃん、精神的に強くなったなぁ。初めて路上ライブした日の夜に、一人きりでSTARRYにこもっていたとは思えない。

 

「ですね! モッシュにスタンディングオベーションの嵐を巻き起こしてやりましょう!」

「物販も。たくさん売れるかもしれない」

(ご、五百人の前でライブ……き、緊張で死にそうだけど……も、もしもお客さんの中に音楽業界のお偉いさんがいたら、そのままメジャーデビューして印税生活!! バイトを辞められる!! そ、そう考えたら力がわいてきた!!)

 

 あの後藤さんまで燃えている。後藤さんも成長したなぁ……

 

 未だに路上ライブ後はキャリーケースに引きこもってるけど。

 

『じゃあ、話は決まりね。詳細はまた今度、山田ちゃんに伝えておくから』

「はい、よろしくお願いします!」

 

 なんで俺? 虹夏ちゃんに直接話をすればいいのに。……まあいっか。虹夏ちゃん達には練習に集中してもらって、日程とか流れや段取りは俺がしっかり把握してメンバーに伝えることにしよう。

 

『あと、別件で山田ちゃんにお願いがあるんだけど』

「俺にですか?」

 

 なんだろ、一体。

 

『山田ちゃん───ウチでバイト、する気ない?』

 

 

 

 

 というわけで、吉田店長直々にスカウトされて新宿FOLTでバイトをすることになったんだ。

 

 なんでも、バイトの人数が減って困っているから八月中だけヘルプで入ってほしいとのことらしい。俺としても、STARRYとシフトが被ってない日は大丈夫なので快諾しておいた。

 

 時給もSTARRYよりいいしね。それに、大きいライブハウスの機材にも結構興味があるから。

 

「レンが身体を売って、私達の新宿FOLTでのライブを勝ち取ってきた」

「レンくんの枕営業の成果ということですね」

「実力と将来性を評価された結果だよっ!!」

(や、山田くんが枕営業!? ま、まさか大槻さん相手に……!? 大槻さん、そこまでして山田くんの山田くんを欲しがるなんて……こ、これは、傷物になった山田くんを私が慰める日も近いですね。ふへへっ)

 

 メンバーの四人は変な反応……というか姉貴と喜多さんはマジで失礼な反応をしてたからな! 後藤さんは後藤さんで姉貴と喜多さんの言葉を真に受けてるみたいだし。

 

 ……そんなことないからね?

 

「やっぱり、()()()()()()()()経験者がいると助かるわ~」

「STARRYより規模は大きいですけど、やることは基本的に変わらないですからね」

「ドリンクや会場設営はともかく……機材のことも普通にわかるのね」

「その日の客層に合わせて仕事内容を変えてるんですよ。女性客が多そうなら俺が受付やドリンクをやって……逆に男性客が多そうなら音響スタッフさん達のお手伝いをしてます」

 

 これも顔面偏差値の高さがなせる技。俺を含め、STARRYのバイトは顔が良い人が多いからね。それを有効活用しない手はない。

 

「夏休み中だけじゃなく、他の日にもちょくちょくヘルプに入ってもらっていいかしら?」

「もちろん、都合が合えば」

 

 俺がそう言うと吉田店長は「お給料に色を付けてあげるわね♪」と言って、ご機嫌な様子で仕事に戻っていく。俺としても、タダで新宿FOLTのバンドを観れるからものすごくありがたいんだけどね。

 

「レン、お疲れー! 休憩しヨー?」

「お疲れ様です。色々仕事を教えてくれてありがとうございます」

「ふふん。なんといっても私は先輩だからネ?」

 

 イライザさんはそう言って大きな胸を張る。目の保養になると同時に目のやり場に困るから気を付けてくださいね。ただでさえ、イライザさんってガードが緩そうなんですから。

 

「頼りになります。イライザ先生」

「先生……もう一回呼んでくれる?」

 

 俺がもう一度「イライザ先生」と呼ぶと、得意げな表情で胸を張った。可愛い。

 

 ほっこりした気持ちになりながら、俺はイライザさんと志麻さんの二人と一緒に休憩する。今日はSICKHACKのワンマンライブなんだけど、廣井さんはいつものようにまだ来ていない。

 

 ま、まあ……まだまだ時間はあるから落ち着きましょうよ志麻さん。ね?

 

「はい、志麻さん。チョコあげます。イライラした時には甘い物が一番ですよ~」

「あ、ありがとう……」

「レン~。私も欲しい~」

「もちろん、どうぞ」

 

 志麻さん、苦労してるんだなぁ。虹夏ちゃんもそうだし、あくびちゃんは大槻先輩のお世話係だし、ドラマーは苦労人っていう法則でもあるのかな? おいたわしや、志麻上。

 

 こんな感じで、年上のお姉さんが苦労しているところをみると……甘やかしたくなるんだよなぁ。はぁ、これもう完全に病気だわ。

 

 イライザさん? イライザさんは相変わらずの癒し枠。

 

「志麻さん、今度居酒屋でも行きますか? 俺は飲めないですけど……愚痴くらいなら聞きますよ」

「あ、いや……そこまでしてもらうのは……」

 

 よく星歌さんとかPAさんの愚痴の聞き役になってるから、こういうのには慣れてるんですよ。

 

「えー? 志麻だけずるーい! 私も一緒に行くー!」

「はい。イライザさんも一緒に行きましょう」

「私ね、お魚が美味しいところ見つけたんだヨー」

 

 イライザさんは嬉しそうに、俺に肩を寄せながらスマホでおすすめのお店を見せてくる。彼女の髪からふんわりと良い匂いがしてきた。相変わらず距離感が近いですね。

 

「そういえば、イライザさんは夏コミには行ったんですか?」

「夏コミは……くちゃいから行ってない。私の戦場は冬」

 

 イライザさんは嫌そうな顔で鼻をつまみながらそう言った。確かに、夏コミの激臭は毎年問題になってるね。かといって冬コミが臭くないかと言われれば……まあ、夏よりはだいぶマシだと思う。

 

「冬コミの同人誌はレンにもお手伝いしてもらうからネ~」

「そんな話もしてましたね。まあ、俺にできることだったら……」

「山田くん、あんまりイライザを甘やかさなくていいからな」

「レンはネ、女の子を甘やかすことに喜びを感じる生き物なんだヨ?」

 

 イライザさんが俺と腕を組んでくる。おっぱい当たってますよ。

 

 それに、甘やかすことに喜びを感じるんじゃなくて……甘やかすことが習性になっているという方が正しいです。

 

「それ、余計悪化してないか?」

「ごもっともです。でも、これはきっと一生治らないと思います」

「諦めるのが早すぎないか!?」

「魂の奥底に刻まれてしまっているので……」

「どんな人生を歩んだらそう達観できるんだ?」

 

 どんな人生を歩んだら? ふっ……俺がこうなった原因なんて一つだよ。

 

「俺の姉は、廣井さんに匹敵するダメ人間なんです」

 

 俺がそう言うと、志麻さんは「あっ」と全てを察したような表情になった。

 

「だから、俺の甘やかしや達観は……志麻さんの、廣井さんに対する怒りや諦観と似たようなものですよ」

「ああ、なるほど。すごく……ものすごく納得できた」

 

 志麻さんは腕を組んでうんうんと頷く。俺、やっぱり志麻さんと仲良くなれるな。いくらでも「苦労話」ができる気がする。

 

「志麻さん、俺が二十歳になったら一緒に飲みに行きましょうね?」

「一晩中語り明かそう」

 

 そして俺と志麻さんはガッシリと力強く握手する。俺も早くお酒が飲める歳になりたいな。

 

「じゃあ私はレンをいっぱい甘やかしてあげるネ~? よしよし、いい子いい子」

 

 イライザさんが俺を抱き締めながら頭を撫でてくる。あ、やばい。これはやばい。おっぱいが当たってるのもそうだけど、さっきまで甘やかしの対象だったイライザさんが包容力を発揮してきたから、そのギャップがものすごくグッとくる。

 

 おっぱいに顔を埋めて甘やかされたい~! しかもイライザさんって普通に受け入れてくれそうだからなおさら……

 

 やっぱりSICKHACK(廣井さんは除く)は最高やな!

 

 俺はイライザさんに甘やかされながらそんなことを考えていた。

 

 

 

 

「あ、ほんとにレンさんがいるっすよ」

 

 イライザさん達と談笑をしていたら、あくびちゃん達……SIDEROSの四人がライブハウス内へやってきた。あれ? 確か今日はSICKHACKのワンマンだからSIDEROSは出演しないはずだけど。

 

 純粋にライブを観に来たのかな?

 

「いや、それもあるんすけど、他に用があってですね」

「他に用?」

「ヨヨコ先輩がどうしてもレンくんに会いたいって言うから仕方なく~」

「数日前からずっとそわそわしてたんですよ~」

「適当なこと言ってんじゃないわよあなた達!!」

 

 大槻先輩……どんだけ俺のこと好きなんですか?

 

「だから違う!! 山田も真に受けるな!!」

 

 大槻先輩はやってくるなりぎゃーぎゃーわめき散らす。この人は何回同じネタで弄ってもその度に新鮮なリアクションをしてくれるんだよね。

 

「で、本音は何なんですか?」

「取材よ、取材。ほら、フェスを観に行ったときに痛い恰好したライターに会ったでしょ? その取材が今日なのよ」

「あー、あの『ぽいずん♡やみ』さんですね」

 

 痛い恰好……確かにぶりっ子っぽい恰好と言動だったけど、あれは多分あの業界で生き残るためのぽいずんさんなりの戦略なんだと思う。だって、十七歳なんだから舐められることもたくさんあるだろうし。

 

 だから逆に、十七歳でしかも童顔ということを利用して武器にしているに違いない。

 

 ……それが効果的なのかどうかは微妙だけど。

 

 もしもあれがあの人の趣味なんだとしたら……まあ、後藤さんのファッションセンスよりはいいんじゃないですかねぇ?

 

「姐さん達のライブも観たかったから、始まる前についでに取材を終わらせようと思ってね」

「なるほどねー」

 

 納得納得。レベルの高いバンドの演奏って、見るだけでも結構勉強になるし。

 

「レンさん……なんか、焼けました?」

「この前、海に行ったからね」 

「えー、いいなー! 誰と行ったの?」

「結束バンドのみんなと」

「男の子は山田さん一人だけだったんですか~?」

「そう。俺のハーレム状態。ウチの別荘に一泊してきた」

「レンさん、お金持ちなんすね……」

 

 今さらながら、女の子四人と……いや、姉貴はカウントしないでいいな。女の子三人と海に行って一泊するって、なかなか男子に恨まれることしてるよね。でも、相手が俺だからみんな許してくれるでしょう!

 

「お、女四人と男一人だなんて……そ、そ、そ、そんなの不健全じゃないっ!」

 

 俺がスマホで虹夏ちゃんが砂に埋められている写真やバーベキューの写真、俺が上半身裸でジョジョ立ちしている写真をみんなに見せていると、大槻先輩が顔を真っ赤にしてそんなことを言ってきた。

 

「ヨヨコ先輩、どの辺が不健全なんすか?」

「みんなで仲良く遊んでるだけですよね~?」

「幽々もよくわからないので、不健全なところを詳しく説明してほしいです~」

「は、はぁ!? く、詳しく説明って……そんなこと言えるわけないでしょ!?」

 

 三人がここぞとばかりに大槻先輩を弄り始め、三人に指摘された大槻先輩はたじたじになっていた。普段の関係性もこんな感じなんだろうな。でも、一年前のメンバーとの関係性と比べたら、今の方がずっと良い。

 

「つまり大槻先輩は人前で言えないようなことを想像していたと。そういうことですね?」

「ち、違うわよっ! 別に変なことなんて考えてないからっ!」

「あはは。大槻ちゃんはえっちなんだネ~」

「ヨヨコがそういうことに興味があるとわかって、私は逆に安心したけどな」

「ちょっ!? お二人も誤解しないでくださいっ!!」

 

 イライザさんと志麻さんの二人も乗ってくる。いや、志麻さんは乗ってるというよりも、本気で安心してるっぽいな。さすが新宿FOLTのママですね。

 

 それに、俺もちょっと志麻さんの言うことはわかる。大槻先輩がそういうことを気にするってことは、それだけ精神的に余裕があるってことだから。メンバーがいない半年くらい前だったら、今みたいなやりとりはできなかっただろうしね。

 

 みんなと楽しそうにお喋り……というより弄られている大槻先輩を見て、心がほっこりと温かくなるのだった。

 

 

 

 

「ヨヨコ先輩すみませんって。ちょっと弄り過ぎたっす」

「お菓子あげますから機嫌直してくださ~い」

「ルシファーちゃんとベルフェゴールちゃんを触らせてあげますから~」

「……別に拗ねてないわよっ」

 

 大槻先輩は「つーん」という効果音が聞こえてきそうな雰囲気を出しながら、テーブルに突っ伏している。メンバーの三人はあの手この手で先輩の機嫌を取ろうとしてるけど、あんまり効果がないみたいだ。

 

「レンさん、出番っす」

「ヨヨコ先輩の機嫌を直す気の利いた一言をお願いね~」

「こうなったヨヨコ先輩は面倒臭いですよ~」

「俺に対するフリが雑っ!!」

 

 やるけど。

 

 ただ、大槻先輩の機嫌を直す一言ねえ。お世辞を言ったところで効果はないし、変に褒めたり持ち上げたりすると逆効果になりかねないから……あ、そうだ。

 

「大槻先輩。江の島に行きませんか?」

「……江の島?」

 

 突っ伏していた大槻先輩が顔だけ俺に向けてジト目で見てくる。そういう表情も可愛いですね。

 

「もう盆は過ぎちゃったから、今から海で泳ぐのは無理ですけど、夏休みの思い出作りに一緒に江の島に行きましょうよ」

「江の島……江の島ねぇ」

 

 悪くない反応。もう一押しってところだね。

 

「音楽の神様を祀ってる神社がありますよ」

「行くっ」

 

 めっちゃ食いついてきた。やっぱり大槻先輩は音楽関係のネタで釣るのが一番手っ取り早いね。

 

「八月三十日に行くので、予定空けておいてくださいね?」

「わかったわ」

「結束バンドのメンバーにも伝えておきますんで」

「……え? あの子達も一緒に行くの?」

「はい。元々は虹夏ちゃん達が企画してて、でも人数は多い方が楽しいですからね」

「あ、そ……そう。そう、よね……」

 

 さっきまで嬉しそうだったのに、大槻先輩のテンションが目に見えて下がった。確か、大槻先輩って三人以上の集まりが苦手だったんだっけ? でも、結束バンドとはもう何度か顔を合わせてるから結構仲良くなってたと思ったんだけど……

 

「ヨヨコ先輩は多分、レンさんと二人きりだと思ったんじゃないすか?」

「あくび!? 何言ってるの!?」

「あ、そっち? てっきり三人以上だから苦手意識が発動したと思ったよ」

「山田も山田でさらっと流すな!!」

「それも多少はあると思うっす」

「じゃあ、みんなも一緒に江の島に行く? その方が先輩も安心できるだろうし」

「行きた~い! 八月三十日ならTOKYO MUSIC RISEのファイナルステージも終わってるから大丈夫だよね~」

「幽々もたまにはセロトニンを補給しておきたいです~」

「なんでリーダーを無視して男の言うことばっかり聞いてるの!?」

 

 というわけで、SIDEROSと結束バンド、俺の合計九人で江の島に遊びに行くことになりました。楽しみだな。大槻先輩と遊びに行くのは、なんやかんやで久しぶりだから。

 

「二人っきりは別の機会にしましょうか」

「うっさいバカ!」

 

 俺がからかうようにそう言うと、大槻先輩が顔を赤くしながらぺしぺし俺を叩いてくる。先輩の機嫌も直ったし、遊びに行く約束もできたし、完璧な仕事と言えるでしょう。

 

「八月三十日……志麻~?」

「その日はスタ練だからダメだ」

「ちぇ~……私も江の島行きたかったナ~」

 

 イライザさんが残念そうにそう言った。また今度遊びに行きましょうね?

 

 こんな感じで夏休みの残りの予定を立てていたところで、志麻さんのスマホに着信が入った。相手は……廣井さんだ。どうしよう、この時点でもう嫌な予感しかしない。

 

「廣井、今何時だと思ってる?」

『ごべーん!! 志麻様~~~~!! 助けてくださ~~~~~い!!』

「どこにいるんだクソボケ」

『ここは……ここは……上北沢?』

 

 なんでそんなところにいるんですか!? 上北沢から新宿までは、電車で一本だからすぐ来れるでしょ。そろそろ志麻さん達もリハに入んなきゃいけないだろうし、都内でまだよかったわ。

 

『電車賃が……ないっ!!』

「走ってこい、この大馬鹿野郎。三十分以内に来なかったら断酒させるからな」

『待って待って! 一生のお願い……一生のお願いだからどうぞお慈悲を~~~~!!』

「お前の一生のお願い……これで何回目だと思ってる?」

『両手両足の指では足りないくらい』

「くたばれ」

 

 志麻さんはそう言って通話を切った。廣井さん……言動が完全に姉貴と一致している。やっぱりベーシストってろくなのがいねーな! あ、幽々ちゃんは例外ね? あの子はちょっと変わってるだけでいい子だから。

 

「ね、姐さん……」

 

 ちなみにスピーカーにしていたので、会話の内容は全員にバッチリ聞こえています。大槻先輩、いい加減目を覚ましましょう。あなたが憧れているのは、ろくでもない人間なんですから。

 

 とはいえ、お金がない廣井さんがここまでくる手段は……タクシーがあるけど時間がかかるのと、誰がタクシー代を払うかってこと。なんやかんや志麻さんが出してくれるとは思うけどね。

 

「俺でよければ、迎えに行きますよ。吉田店長の許可が出ればですけど」

 

 一応バイト中だし。

 

「い、いや……君にそこまでやってもらうわけには」

「タクシーだと余計に時間がかかります。電車なら……往復で三十分から四十分ですから。リハにも間に合います」

「う、うーん……」

 

 志麻さんは悩んでいる。俺に迷惑をかけたくないと思いつつ、ライブに来てくれる人たちのためにもリハはしっかりやりたいっていう思いを天秤にかけてるみたいだ。

 

「吉田店長ー! 今から廣井さんを迎えに行くんで四十分くらい抜けても大丈夫ですかー?」

「山田ちゃんごめんね~。あのクソバカが迷惑かけちゃって~。これ、二人分の電車賃。廣井の給料から引いておくから安心して」

 

 志麻さんは立場上、俺にお願いしづらいだろうから俺から吉田店長に提案する方が早い。

 

「ご、ごめんな。気を遣わせちゃって……」

「いえいえ。今度()()()リーダーに技術指導でもしてもらえたらそれで」

「それくらいでよければ、いつでも」

 

 志麻さんは気まずそうな表情をしていたけど、俺が提案すると柔らかい表情で笑ってくれた。やっぱこの人もすごい美人だな。バンドマンでは珍しい正統派黒髪美人。

 

 ついでに虹夏ちゃんのスキルアップ指導もお願いできたからこれでヨシ!!

 

 そして俺は、姉に匹敵するかそれ以上のダメ人間である廣井さんを回収するために上北沢へ向かうのだった。




 本当はぽいずんを出すところまでやろうと思ったけどできませんでした。

 次でがっつり絡ませる予定です。

 あと、江ノ島にはSIDEROSも一緒に行くことになります。ヨヨコもどんどんみんなと仲良くなりましょうね~。

 レンくんが新宿FOLTでもバイトをするようになるのは後々の展開で都合がよかったりします。

 まあ、めっっっっっっっちゃ後のことですけどね。

 虹夏の特訓イベントフラグも立てておいたし、結束バンドは順調にハイスピードで成長しています。

 原作よりも早く新宿FOLTでライブをやりますから。

 未確認ライオットが楽しみですね。何話先になるかわかんないけど。

 では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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