【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 ぼざろ六巻の発売日投稿だよ!!



#35 ポ(いずん♡)ヤミー

「廣井さん、迎えに来ましたよ」

「や、山田しょうね~ん!」

「お水としじみの味噌汁とウコンの力も買ってきました」

「えへへへ~。とうとう山田少年が私にデレてくれた~」

「これ以上志麻さんに心労をかけさせないためですよ」

 

 新宿FOLTを出発して、上北沢駅までやってくると駅前で座り込んでいる二日酔い状態の廣井さんがいた。酒臭い上に、昨日お風呂に入ってないっぽいから汗の臭いもする。年頃の女性がそれでええんか?

 

 とりあえず俺は廣井さんにしじみの味噌汁とウコンの力を飲ませることにする。

 

「なんでまた上北沢にいたんです?」

「全然覚えてなーい。お金がないから色んなお店でお酒とかご飯を奢ってもらってたんだとは思うけど……」

 

 廣井さんは金欠になると……万年金欠だけど、行きつけの居酒屋やバーに行って持ち前のコミュ力でお客さんに飲食代を奢らせているらしい。とんでもねー女だな。でも、姉貴も将来こうなりそうだから怖い。

 

 いや、姉貴の場合は虹夏ちゃんや喜多さん、ファンに奢らせる方向に……余計酷いな!!

 

「そのコミュ力をどうしてもっと良い方向に活かせないのか……」

「え~? 言っておくけど、私がこんななのは酔っぱらってる時だけだからね~? 素面だと陰キャのコミュ障なんだぞ~」

「そっすか」

「あー! 全然信じてないなこいつー!」

「……陰キャなのによくバンドをやろうなんて思いましたね」

「だって、陰キャのままだと『私の人生つまんねー!』って気づいちゃったから」

 

 だからと言って方向転換し過ぎでしょ。

 

 というか、後藤さんといい廣井さんといい、陰キャは覚悟を決めた時の行動力がすごいな。覚悟を決めるまでにものすっごく時間はかかるけど。

 

「今が楽しいのならそれも正解なんでしょうけど……体は大事にしてくださいね。このままだと早死にしますよ?」

「バンドマンの人生なんて太く短くでいいんだよ~」

 

 人の人生に口出しするのは好きじゃないけど、生きたくても生きられない人もいるんです。虹夏ちゃんのお母さんだって……いや、これは廣井さんには関係ない話だな。このことで廣井さんにどうこう言うのは筋違いだ。

 

「なんか思うところがありそうだね?」

「……長生きしてくださいね。廣井さんが早死にすると、悲しむ人がたくさんいますから」

「山田少年……」

「俺以外」

「ずこーっ!?」

 

 俺が無慈悲にそう言うと、廣井さんがコントのようにずっこける仕草をする。

 

「山田少年は悲しくないの!?」

「そういうわけじゃないですけど……でも俺、廣井さんのダメな部分しか見てないから」

 

 一度だけSTARRYでカリスマを発揮してたけど、あれ以外で尊敬できる部分が皆無なんだよな。

 

「それと、大槻先輩が悲しむ顔を見たくないので、長生きしてください」

「どんだけ大槻ちゃんのこと好きなの!?」

 

 無条件に甘えられるくらい大好きですよ。絶対そんなこと言わないけど。

 

「じゃあ、そろそろ行きますか。廣井さん、酒と汗で臭いがだいぶやべーことになってますから気を付けてくださいね」

「女性にそういうデリケートなこと言っちゃダメだよ!?」

「自業自得です。電車で隣に座った人が嫌な顔してもそれは廣井さん自身の責任ですから」

「この辺にコインシャワーとかないかなぁ……」

「コインランドリーならありますよ」

「洗濯物扱い!?」

「ついでに心も洗われるといいですね」

「山田少年が私にドライすぎる!!」

「洗濯機だけに?」

「おあとがよろしいようで」

「はっはっは」

「はっはっは」

 

 こんな感じで、廣井さんとおバカな会話をしながら新宿へと戻るのだった。普通に面白い人ではあるんだよな。酒癖さえ悪くなければ。

 

 

 

 

「なるほどなるほど~。今のSIDEROSにそんな結成秘話があったとは~」

「まだ半年も経ってないけど、それでも今のメンバーは過去最高だと思っているわ」

「近々控えているTOKYO MUSIC RISEは当然……」

「優勝。それ以外に興味はない」

「そのストイックさ。十代とは思えないですね~」

 

 これがSIDEROSの大槻ヨヨコか。噂だともっと傍若無人なイメージがあったけど、実際話してみるととことん自分に厳しくて、他人にも厳しい人物。メンバーに求めるハードルが高過ぎるから入れ替わりが激しかったのね。

 

 ふーん? いいじゃない。そういうストイックさ、あたしは好きよ。才能に胡坐をかかずにひたむきに努力を続ける姿勢、口先だけじゃなくちゃんと結果も出している……都内の十代バンドだと頭一つどころか頭十個くらい抜けているわね。

 

「他の方々も大槻さんをものすごく信頼なさってるんですね~」

「まあ、そっすね。ライブの時はものすごく頼りになるんで」

「そうですね~。ライブの時は」

「ライブの時は、ですね~」

「そんなに『ライブの時は』を強調しなくていいでしょ!?」

 

 ほうほう。つまりプライベートではギャップがあると?

 

「割とずぼらなところがありますね。楽屋の電気を点けっぱなしだったり」

「エナドリの缶を放置したままだったり」

「ライブ後の打ち上げも、自分から言い出すんじゃなくて私達が誘うのを子犬みたいな表情で待ってたり~」

「言わなくていい!! そんなこと言わなくていいから!! 私のイメージが壊れちゃうでしょ!?」

 

 プライベートも完璧でストイックだったら、逆に面白味がなくてネタとしては弱かったわね。むしろそのくらいだらしない方がウケがいいわ。

 

「別にいいじゃないすか。そういうギャップがヨヨコ先輩の魅力だってレンさんも言ってましたよ」

「あ、バカッ! あくび、こんな時にあいつの名前なんて出しちゃダメでしょ!? 今のなし! 今のは聞かなかったことにしてちょうだい!」

「え~、それは無理ですよ~」

 

 大槻ヨヨコをそこまで焦らせるとは……その「レン」っていう人物に興味があるわね。

 

「その『レン』っていう人は、大槻さんのお知り合いなんですか?」

「そうね。ただの知り合いで友達よ。それ以上でもそれ以下でもないわ。はい! この話はもうおしまい!」

「あと、今のメンバーを集めるのに尽力してくれた恩人っす」

「優しくてすごく面倒見が良い人なんですよ~」

「しかも高身長イケメンなんです~」

「ぎゃーーーーっ!! そんなにぽんぽんあいつの情報を漏らすなーーーーっ!!」

 

 へぇ……壊滅状態だったSIDEROSのメンバーを集めるのに協力してくれた優しくて面倒見の良い高身長イケメン。何その痛い夢女子の妄想みたいな存在?

 

 そんな男はね、少女漫画とか恋愛映画の中にしか存在───

 

「すみませーん! 遅くなりましたー!」

「ヒーローは遅れてやってくるぅぅぅぅぅ!! みんな大好き廣井きくりちゃんの登場だぞぉぉぉぉぉぉ!! 者共!! 頭が高いぞ!! 控えおろう!!」

 

 ライブハウスの入り口から変な大声が聞こえてきたから振り返ってみると……あそこにいるのはSICKHACKの廣井きくりと、この前のフェスで会ったイケメン高校生じゃない。

 

 なんであの子がこんなところにいるのかしら? しかも廣井きくりと一緒に……

 

「頭が高い? ほう……廣井、随分と偉くなったもんだな? そうだよなぁ? 重役出勤だもんなぁ? 偉いに決まってるよなぁ?」

「あ、し、志麻様……へへへっ、と、とんでもねえでごぜえやす。い、今のは言葉のあやでして……あ、靴舐めましょうか?」

「廣井は相変わらず三下ムーブが似合うネ~。レン、ご苦労様。いっぱいよしよししてあげるヨ~」

 

 何? SICKHACKは高校生のイケメンマネージャーでも雇い始めたの? 凄テクインディーズバンドなのに、一向にメジャーデビューできないのはそういうこと? イケメン高校生を食い物にするなんて……

 

「あれがウチらの言ってたレンさんっすよ」

 

 は!? マジで!? SICKHACKだけじゃなくSIDEROSのお世話までしてたっていうの!? こ、高校生の癖に敏腕マネージャーってわけ!?

 

「あ、ぽいずんさんじゃないですかー! こんにちは。俺のこと覚えてます?」

 

 そして噂のレンくんがあたしを見るなり笑顔になって駆け寄ってくる。

 

 なんか、あたしに対する好感度高くない? そういえば、初めて会った時も応援して飲み物までくれて……

 

 彼の姉と同い年でひたむきにがんばっているあたしを応援したいって言ってたけど、この反応を見る限り、それはただの照れ隠し。

 

 ふっ、どうやらこの少年は私に一目惚れしていたようね。

 

「あの時は自己紹介できませんでしたね。山田レンです。よろしくお願いします」

 

 山田レンは爽やかな笑顔をでそう言った後、礼儀正しく頭を下げる。年下のイケメン高校生に慕われているこの感じ……悪くないわね。

 

「覚えてますよ~フェスで会いましたよね? 改めて、ぽいずん♡やみです。気軽に『やみ』って呼んでくださいね」

「はい、やみさんですね!」

 

 ぐあっ!? さ、爽やかイケメンオーラが眩しい……あ、あたし、自分の容姿には結構自信がある方だけど、こんな男の子に好かれたことなんてなかったから……

 

 こ、これは佐藤愛子選手……二十三年の生涯で初のモテ期なんじゃないの~?

 

「(なんかレンさん、ライターさんへの好感度高くないっすか?)」

「(リョウさんがライターさんと同い年だから~がんばっているライターさんを純粋に応援しているんだと思いますよ~)」

「(でも、ライターさんってそのことに気付いてないよね?)」

「(そっすね。残念なことに)」

「(残念なのは服装だけじゃなくて頭もだったってことですね~)」

「(幽々ちゃん、それはわかってても言っちゃダメだよ~?)」

「(ふーちゃんもフォローになってないっすからね?)」

 

 何やら三人がこそこそ話してるみたいだけど……ごめんなさいね? あなた達の恩人、あたしが取っちゃったわ。でも大丈夫よ。マネージャー業務に支障が出ないようにしてあげるから。

 

「ちょっと山田!! あなた、いつもはムカつくくらい良いタイミングで現れるのに……なんで今日に限って最悪のタイミングで登場するのよ!?」

「え? そんなまずかったです? あ、そういや取材中でしたね……ごめんなさい。ぽいず───やみさんの姿が見えちゃったからつい」

「あなたの甘やかしセンサーはほんとにガバガバね!!」

 

 大槻ヨヨコが動揺してるわね。ふーん? ただのお友達って言ってた割には、そういう反応をするのね? 甘やかしセンサーがなんのことかさっぱりわからないけど、あなたのお友達……あたしに夢中みたいだから。

 

「と、とにかく……取材はもういいでしょ!? これで終わりっ!!」

「ヨヨコ先輩。そんな態度だとレンさんを意識してるって勘違いされるっすよ」

「そうですよ~レンくんはお友達なんだから動揺しちゃダメです~」

「まるでヨヨコ先輩が~……あ、これ以上は幽々の口からは言えませ~ん」

「なんで誰も私の味方をしてくれないの!?」

 

 なんだか取材が終わりそうな雰囲気ね。まあ、いいわ。聞きたいことはあらかた聞けたし。山田レンっていう面白い材料も見つかったし。

 

 その材料くんは……あれ? どこに行ったのかしら? あぁ、あっちの方で音響スタッフと話してるわね。

 

 ただ、彼はある意味爆弾ね。下手にネタ記事にしちゃうと、せっかくできたSIDEROSとのつながりがなくなりそうだし、それ以上にSICKHACKや新宿FOLTを敵に回しかねないわ。

 

 まあ? 彼があたしに好意を持っているってことがわかっただけでも大収穫だけど?

 

「じゃあ、最後に一つだけいいですか?」

「……山田関連のこと以外なら」

 

 どれだけ意識してるのよ……。もしかして本当に、そういうことだったりする? ふっ、今は彼が近くにいなくてよかったわね。

 

「SIDEROSのみなさんが今、最も注目されている都内の同世代バンドは?」

 

 「ケモノリア」でしょうけどね。全国に目を向けて見れば「なんばガールズ」も活躍してるけど、東京都内に限れば、SIDEROSとケモノリアの二強だわ。

 

「ケモノリア」

 

 やっぱりね。メタルとダンスミュージックっていう違いはあるけど───

 

「それと───結束バンド」

 

 ……はい? 今、何て言いました?

 

「あなたが知らないのも無理はないわ。ただ、このバンドの名前を覚えておいて損はない。私から言えるのはそれだけよ」

 

 大槻ヨヨコはそれだけ言って、楽屋の方へと向かっていく。

 

 確か、結束バンドって言ってたわよね? え? 何? 大槻ヨヨコ渾身の駄洒落なの? だとしたらセンスが壊滅的なんだけど……

 

 大槻ヨヨコはギャグセンスゼロ。これは記事にしないでおいてあげるわ。ものすごく可哀想だもの。

 

「ヨヨコせんぱ~い。颯爽と楽屋に行ってますけど、もうすぐライブ始まるっすよ~!」

 

 ドラムの子、長谷川あくびがそう言うと大槻ヨヨコは顔を赤くしながらステージの方へ走って行く。……最後の最後まで締まらなかったわね。でも、彼女に対するイメージがかなり変わったわ。

 

 もっと近寄りがたい一匹狼って印象だったけど、思ったより親しみやすい女の子ね。

 

「あ、山田くん。後でちょっとお話したいんだけどぉ……いいですかぁ?」

 

 あたしは山田レンに近づいてそう言った。

 

 くらえ!! 渾身の上目遣いおねだりポーズ!! これで落ちない男はいない!! 多分!!

 

「お話、ですか? 仕事が終わった後でよければ」

「ありがとう! そんなに時間は取らせないから!」

「やみさん……ライブ観ていくんです?」

「ええ。そのつもりですよ」

「だったら……ああいや、ライターさんにわざわざ言うことでもないか(廣井さんのライブ中の素行は知ってるだろうし)」

「どうしましたぁ?」

「なんでもないです。ドリンク取ってきますけど、何がいいですか?」

「お気遣いありがとうございます! あたしも一緒に行きますよ~」

「そうですか。じゃあ、こちらへどうぞ」

 

 イケメンに接待されるこの感じ……癖になるわぁ~! 後はSICKHACKのライブを最前線で楽しみましょっ! 生で観るのは初めてなのよね~! 

 

 取材もできたし、イケメンに惚れられるし、生でSICKHACKのライブは観れるし。

 

 今日は最高の一日だわ!!

 

 

 

 

「あの……大丈夫ですか?」

「見てわかんない?」

「タオル……どうぞ」

「ありがと」

 

 SICKHACKのライブが終わり、片付けが一段落したところで俺は呆然と佇んでいるやみさんに声をかけた。なんでやみさんが呆然と佇んでいるのかというと、廣井さんに顔面を踏まれて頭から日本酒をぶっかけられたからだ。

 

「もしかして、知らなかったんです?」

「動画でライブの映像は観たことはあったけど、こんなパフォーマンスがあるなんて聞いてなかったわよ!!」

 

 あー、動画サイトとかだとカットされてたのね。

 

「ライターさんだからてっきり知ってると思って……事前に言っておくべきでしたね。すみません」

「別に、あんたのせいじゃないでしょ?」

 

 やみさんは俺のタオルで頭をワッシャワッシャと拭きながら答える。シャワールームでもあればいいんだけど……さすがに未成年を酒臭いまま帰らせるのはなぁ。

 

「でも、今日のライブは機材をぶっ壊したりしていないのでまだ大人しかった方ですよ」

「あれで!? めちゃくちゃダイブとかしてたじゃない!!」

「俺は一升瓶で頭を殴られたこともあります」

「普通に暴力事件!!」

 

 だからSICKHACKのライブには鍛えられたファンしかいないんだ。初見さんは……ドはまりするかドン引きするかの二択。でも、ドはまりしたコアなファンを味方にし続けてるから強いんだよな。

 

「というか、やみさんって()()()が素なんですね」

「あ───な、なんのことかしらぁ~? えへへ、お酒かけられちゃった~。やだ~臭いが残っちゃったらどうしよぉ~」

 

 やみさんの態度が一瞬で豹変する。プロ根性たくましいですね。

 

「そういうキャラ付けをしないと生き残れない業界なんですね……」

「そうなのよ! わかる!? あたしだってね、好きでこんな痛い恰好してるわけじゃないの!」

 

 やみさんがタオルに頭を乗せたまま、俺に思いきり身体を寄せて上目遣い気味に見てくる。またキャラが戻ってますよ。

 

 あと、やっぱり痛い恰好っていう自覚はあったんですね。

 

「若い女って理由で舐められることも多そうですしね」

「そうよ。だからあたしは若さを逆手に取って、おっさんどもに媚びて印象を良くする努力をしてるの」

「加齢臭漂うおっさん連中は若い子に武勇伝を聞かせたがりますからね。適当におだてて頷いておけばご機嫌取れますし」

「そうそう。お酒を飲ませれば口も軽くなるし~」

「でも、気を付けてくださいよ。やみさんはまだ未成年なんだから場の雰囲気に当てられてお酒を飲まされて小汚いおっさんにお持ち帰りなんかされたら……」

「だ、大丈夫よ。その辺の線引きはちゃんとしてるから! (そ、そういえばこの子ってあたしが十七歳と思い込んだままだったのよね。危ない危ない)」

 

 苦労してるんだなぁ。でも、やみさんのキャラっておっさん達にウケは良さそうだけど、同性からは思いっきり嫌われるよね。

 

 やみさんのことを嫌いにならないように、大槻先輩達には事情を話しておくか。二人とも厳しい世界に身を置いている者同士だから理解し合えるでしょう。

 

「で、俺と話したいって言ってましたけど……」

「ああ、それね。えっと……あなたってSICKHACKのマネージャーなのよね?」

「違いますけど」

「ええ!? あ、SIDEROSのメンバー集めに尽力してたって聞いたからSIDEROSのマネージャーだったのね」

「違いますけど」

「じゃあなんで廣井さんを連れてきたり大槻さんを献身的にサポートしてたのよ!?」

「ん~……まあ、話しても大丈夫か。実はですね───」

 

 俺はやみさんに大槻先輩と俺が元々の知り合いであったことや、今のメンバーを集めるために相談をされていたこと、なりゆきでSICKHACKと知り合いになって、廣井さんが俺のホームであるSTARRYに入り浸っていることなどを話した。

 

「待って……あなた、新宿FOLTが本職じゃないの?」

「こっちはヘルプで入ってるだけです。家は下北沢ですよ」

「下北もバンドの聖地だものね……あなたはバンドを組んでないの?」

「組んでないですね~。俺は聞き専ですから。あ、でも……最近、下北で注目を集めつつある若手バンドを知ってますよ」

「へえ、何ていうバンド?」

「結束バンドです」

 

 俺がそう言うと、途端にやみさんは渋い顔になった。あ、やっぱバンド名だけだとそういう反応になりますよね。

 

「そのギャグ……流行ってるの?」

「ギャグじゃないです。マジでバンド名ですから。……というか、流行ってるって?」

「さっき、大槻さんも同じこと言ってたから。同世代で注目してる若手バンドだ、って」

「大槻先輩が……」

 

 やばい。めっちゃ嬉しい。正直、実力はまだまだSIDEROSには遠く及ばないけど、でも……大槻先輩が、音楽には一切妥協しないストイックな大槻先輩が、お世辞や社交辞令を嫌う大槻先輩が……

 

 結束バンドのことを認めてくれている。

 

「どうしたの?」

「いえ……ちょっと、感極まっちゃって」

「ふーん?」

「えっと、結束バンドの曲……ほんとに良い曲ばかりなので、よかったら聴いてみてください。それで、もし……()()()()の話を聞きたいって、ちょっとでも思ってくれたら嬉しいです」

「……考えておくわ。言っておくけど、あたしは媚びは売るけど魂までは売り払っちゃいない。バンドの実力は公平に評価するから」

「もちろん、その方がありがたいです。あ、そうだ。ロイン交換しましょう! もし、結束バンドの取材をしたいってなったら、俺に連絡してもらえれば、あの子達に事情を話してスケジュール調整しますので」

「別にいいわよ(とかなんとか言っちゃって~! あたしのロインをゲットするのが本命だったんでしょ~? なかなか可愛らしいところがあるじゃない。く~~~~っ!! これだからモテる女は辛いのよねぇ)」

 

 よし、ライターさんの連絡先ゲット! これから先、活動の幅を広げていけばこうやって取材を受ける機会も出てくるだろうし。あの子達にとっても良い経験になる。それに、同年代のライターさんだから話もしやすいだろうしね。

 

 ……なんか、マジで俺、マネージャーみたいなことやってるな。別に営業をかけてるつもりはないけど、変なところでコネができるんだよね。

 

 まあいっか。結束バンドにとってプラスになれば。

 

「山田しょうね~ん! 今から打ち上げ行くけど来る~? 今日は機材を壊さなかったからお姉さんが奢ってあげるよ~!」

 

 廣井さん達と打ち上げ……二日酔いだったのに今日も飲むんかい!!

 

「大槻ちゃんも一緒にどう~?」

「はいっ。ご一緒させていただきます! みんなも行くわよ───っていねえ!?」

 

 いつの間にか、大槻先輩を除く他のメンバーの姿が忽然と消えていた。判断が早い!!

 

 その時、スマホがブルブルと震えたので画面を見ると、あくびちゃんからロインが来ていた。

 

───ヨヨコ先輩のことよろしくっす

 

 あ、普通にリーダーを見捨てていくスタイルなのね。で、廣井さんの相手を俺に押し付ける、と……

 

 あくびちゃんって結構したたかだよなぁ。でも、そういうの、俺は嫌いじゃないよ?

 

「すみませ~ん! あたしも参加していいですか~?」

 

 そして、俺が廣井さんに答える前に、やみさんが俺の手をぐいぐい引いて廣井さん達の前に連行する。さすがライター。酒の席でネタ集めというわけですね。

 

「え? なになに~? 山田少年の彼女~? あはは~、君ってこういうあざとぶりっ子がタイプだったっけ? 趣味悪いね~」

「初対面なのになんてこと言うんですか!? 違いますよ。SIDEROSの取材に来てたライターさんです」

「勘違いしちゃってごめんね~。でも、若いのによくがんばってるんだね~! よーし、君もついて来い! SICKHACKの魅力をたっぷりお伝えしようじゃないか~」

「ありがとうございまーす! じゃあ、遠慮なく……」

 

 え? マジでやみさんも同行するの? 廣井さんの失言とか迷惑行為でSICKHACKの評判が落ちちゃうんじゃ……

 

「大丈夫だヨ~。周知の事実だから」

「記事にされたところで……というか、散々ネタ記事にされてきたからね。ファンは今さらどうとも思わないよ」

「……無敵状態なんですね。志麻さん、約束通りたくさん愚痴聞いてあげますから」

「ありがとう……」

 

 遠い目をしている志麻さんを見て、俺はそう言わずにはいられなかった。

 

「私一人置いて……帰っちゃった。私、リーダーなのに蔑ろにされてる?」

「大槻先輩、違いますって! みんなは廣井さんから逃げただけですから! 先輩はちゃんと信頼されてますから!」

 

 なんか大槻先輩もショック受けてるし。この打ち上げ……介護力全開で臨まないと───危険だな。

 

「レン。美味しい物いっぱい食べようネ?」

「はい!」

 

 イライザさんはほんと癒し。好き。

 

 こうして、廣井さん率いる愉快な仲間達で夜の街へ繰り出したんだけど……

 

 

 

 

「あたしだってねえ! 好きでネタ記事書いてるんじゃないのよ! ネットではアンチ共が好き放題言いやがって~~~!! あたしの個人情報まで漏洩してるじゃない!!」

()()ちゃん。結構いける口だね~。ほらほら、どんどん飲みな~。嫌なことはぜーんぶ、飲んで忘れるに限る!!」

「山田レン! あんたもそう思うわよね!? あたし、がんばってるわよね!?」

「そうですね。本当は()()()()()()()十七歳と偽って、童顔を武器に嫌いな痛い恰好をしてまでなりふり構わず自分の役割を果たそうとするストイックな姿勢には好感が持てますよ」

「でしょ!? でしょ!? あたしはね~すっごくがんばってるの! だから褒めて褒めて~!」

「よしよし。やみさんはがんばってますよ~。いい子ですね~」

「えへへ~」

 

 やみさんがベロベロに酔っぱらってしなだれかかってきたので頭を撫でてあげる。……やみさん、本当は二十三歳だったのね。PAさんの一つ年下とか……全然見えない。マジで中学生くらいにしか見えませんよ。

 

「大槻先輩、そんなに落ち込まないでくださいよ。あの子達が先輩のことを慕ってるのは、普段の態度でよくわかってるでしょ? 今日は廣井さんから逃げたかっただけなんですから」

「それは、そうだけど……」

「先輩の好きなだし巻き頼んでおきましたから。一緒に食べましょ?」

「うん」

 

 近いうちに大槻先輩を遊びに連れて行ったりご飯に誘ったりするよう、あくびちゃんにロインしておこう。こういうのはアフターケアが大事だからね。

 

 そんな風に、酔っぱらったやみさんを甘やかしつつ落ち込んでいる大槻先輩を励ましていると、志麻さんが疲れたような表情をしているのに気が付いた。

 

「志麻さん、グラス空いてますよ。次は何を飲みますか?」

「あ、じゃあ……レモンサワーで」

 

 俺はタブレットを使ってレモンサワーを注文する。

 

「そういえば、前に気持ちの整理をつけるためには、感情の赴くままにドラムを叩くって言ってたじゃないですか? あのアドバイス、すごく参考になったんですよ! ウチのメンバーがTOKYO MUSIC RISEで予選落ちした時に、志麻さんのアドバイスのおかげで気持ちを切り替えて前を向けたんです。お礼を言うのが遅くなっちゃいましたけど、ありがとうございました!」

「別に、大したことじゃないさ……」

「志麻さんにとっては大したことじゃなくても、あの子達にとってはすごく大きなことだったんです。俺が言っても、説得力はありませんから。本職の、()()()()()()の言葉の影響力ってすごいんです! SICKHACKって、志麻さんのそういう部分に支えられてるところがすごく大きいんだなって、今日のライブで改めて思いました!」

 

 俺がそう言うと、志麻さんは優しく笑いかけてくれる。

 

「……君は、あれだな。生まれてくる時代を間違えたかもしれないね」

「よく言われます。はい、レモンサワーが来ましたよ~」

「ありがとう」

「レン、れーん! 次これ食べてみたい! 激辛ロシアン餃子!」

「当たっても知りませんよ」

「私に当たったらレンが代わりに食べてネ?」

 

 結局俺が食べるんだったら注文する意味ないじゃん!

 

「普通の鶏皮餃子にしましょう。これ、皮はパリパリで中がめっちゃジューシーで美味しいんです」

「じゃあ、それにする~!」

「飲み物はどうします?」

「なんか甘くて可愛いの~」

 

 こんな感じで、廣井とゆかいな仲間達の打ち上げはカオスに進み……俺はほとんどの時間を全員の介護に費やしたのだった。

 

 ちなみに翌日、さとうあいこちゃんにじゅうさんさいから怒涛の謝罪ロインが来たので、俺のことは一切記事にしないという取引を持ちかけておきました。

 

 やみさんが話のわかる人でよかった。




 ぼざろ単行本六巻が発売されましたね!

 めっっっっっっっちゃ濃かったです。ぼっちちゃんは相変わらずぼっちちゃんで安心しました。

 あと、六巻の山田を見たらレンくんはキレると思う。

 まだ買ってない人は是非とも買いましょう! 色々語りたいことが多すぎますが一つだけ……

 スプリットタンのバニーPAさんがえっちすぎる!!

 絶対レンくん捕食されてるやん!!

 次回は江の島に行きます。SIDEROSも一緒に行くのでどんなカオスなことになるか今から戦々恐々です。

 ぼざろ六巻発売日投稿ということで、評価、感想、誤字報告、ここすき等たくさんお待ちしておりまーす!

 次回もよろしくお願いします!

 マジでPAさんのおっぱいがえっち……

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