「もっと混雑してるかと思ったっすけど、意外と空いてますね」
「あたし達は夏休みでも世間は普通に平日だからね」
「さて、次は何を食べてやろうか」
「あなた……まだ食べるの?」
「おやつと甘い物は別腹。たくさん食べてぼっち並みのおっぱいを手に入れてやる」
「わ、私は別に大食いなわけじゃ……お、大槻さんもそんなに見ないでくださいっ……」
「み、見てないわよ!? 変な言いがかりはよしてちょうだい!」
海の家でお昼ご飯を食べた後、腹ごなしも兼ねてお散歩しつつ、仲見世通りへとやってきた。ここは江の島神社の参道で、約二百メートルの緩やかな坂道区間に飲食店や土産物屋が並んでいる。
「古風な繁華街……いいね。俺、こういう雰囲気好きだわ」
「あのお土産屋さんとか、掘り出し物がありそうです~」
「また怪しい呪いの人形みたいなもの増やすの?」
「……山田さん。そんなこと言っていると、本当に呪われますよ? 今日の夜、一人でお風呂に入っている時に───」
「ごめんなさい俺が悪かったから許してください!! ルシファー様、ベルフェゴール様!!」
幽々ちゃんがからかうように人形を俺に近づけてくる。その人形マジで怖いからやめて!! 目がヤバいんだよ目が!! 人形なのに勝手に髪が伸びたり、目がキョロキョロ動いてそうで怖い。
「ほう……
「お小遣いは?」
「まだ残ってる。……偉い?」
「偉い偉い」
姉貴の頭を雑にポンポンして和菓子屋さんに女夫饅頭を買いに行く。
「こし餡と粒餡がある。姉貴、どっちがいい?」
「こし餡」
「じゃあ俺は粒餡」
店頭でお饅頭を買うと、蒸したてだったらしくほかほかで温かかった。他のメンバーも甘い物は別物なようで、俺達と同じようにお饅頭を買ったり、みたらし団子を買っていた。
「レン、粒餡一口ちょうだい」
「ほら」
「こっちも一口あげる」
「ん」
こし餡も美味しい。ほうじ茶か濃い目の緑茶飲みたくなるな。それに、餡子自体がめちゃくちゃ甘いから歩いて疲れた体に染み渡る気がする。姉貴はこういう繁華街や屋台で良い店を見つけるのが上手いね。
「なんつーか……あれっすね。ただお饅頭を食べさせ合ってるだけなのに、二人だとめっちゃ絵になりますね」
「リョウも顔だけは良いからね~」
「えへん」
「リョウ先輩! 私のみたらし団子も食べてくださいっ!」
「食べる」
「ヨヨコせんぱ~い! アイス最中です。サザエの形してて可愛いですよ~」
「かわっ? 可愛いのかしらこれ……」
「(女夫……
「え、ええ。いいけど? (何? もしかしてこの子、私と友達になりたいのかしら? ふっ、そこまで言うならロインを交換してあげてもいいわよ? まあ? 私からじゃなくて? あなたから申し出てきたらだけど?)」
(え? 大槻さんがスマホで攻撃してくる? ど、どうしたんだろう?)
後藤さんは粒餡派なのかな? あと、大槻先輩はスマホで後藤さんをツンツンつついて何やってんの? しかもあの満足そうな表情……というか、かまってほしそうな表情。
後藤さんとロイン交換したいとか? でも自分から提案するのは癪だから後藤さんに言わせようと……?
そんなの伝わるわけないじゃん!! 後案の定後藤さんは戸惑ってるし。
仕方がないので大槻先輩のプライドを傷つけないようにうまいこと誘導しながら二人のロインを交換させました。ロインの友達が増えてだらしなく笑っている二人の姿を見て、やっぱり似た者同士だなとあらためて思うのだった。
「しらすパン、しらすまん、しらすたこ焼き、しらすコロッケ……なんでもかんでもしらすぶち込めばいいってもんじゃねーぞ!」
「あ、虹夏がとうとうツッコんだ」
「虹夏先輩……誰もが思っていても口に出さなかったことなのに……」
「虹夏さんが江の島の存在を否定したっす」
「虹夏さん、埋められちゃうね」
「幽々がちゃーんと供養してあげますからね~」
「あたしのツッコミってそんなに大罪なの!?」
虹夏ちゃんの言わんとすることはわかる。江の島にはとにかく食い物にしらすをぶち込んでおけばいいっていう風潮があるのかもしれない。名物をアピールするのは良いことだと思うけど……さすがにソフトクリームにしらすを乗せるのはやりすぎじゃない?
「レン、しらすソフト買ってきて」
「え? 姉貴、あれ食うの?」
「レンが食べる」
「……俺を実験台にする気か?」
「美味しかったら私も買う。ネットで調べる限り、SNS映えするとのこと」
「味についての口コミは?」
おい、黙って目を逸らすなや。
「映え!? レンくん、買ってきなさい!! これは結束バンドのSNS担当大臣の命令よ!!」
「喜多さんが自分で買えばいいじゃん!」
「買ったら食べなきゃいけないでしょ!?」
「写真撮りたいだけか!?」
「そうよ!!」
躊躇いがねえなこの女。逆に清々しいわ。はいはいわかったわかった。わかりましたよ。買って来ればいいんでしょ買って来れば!
俺は半ば自棄になりながらしらすソフトを売っている「とびっちょ」というお店に向かい、お目当てのソフトクリームを買う。抹茶と竹炭パウダーを練り込んだソフトクリームのミックスにしたけど……竹炭!?
竹炭だけでも十分インパクトがあるのに、さらにしらすを乗せるのか……恐るべし江の島。
で、みんなのところに戻ると早速喜多さんがスマホで写真を撮りまくる。
「うわぁ……」
「結構がっつり乗ってるっすね」
大槻先輩も軽く引いていた。よし決めた。先輩にも一口食わせてやるからな!! 絶対に!!
俺はお店でプラスチックスプーンを何本か貰っていたので、そのうちの一本を使ってしらすソフトを口に入れる。
「レンくん、どう?」
虹夏ちゃんが尋ねてくる。……これ、正直に言っていいかなぁ?
「不味くはないよ。不味くは。しらすの塩気とソフトクリームの甘みが意外とマッチしてる」
「へー、そうなのね」
喜多さんは他人事のように言うけど、君にも後で食わすからな!!
「ただ……」
「ただ?」
俺はびみょーに眉をしかめながら言う。
「しらす……ない方が美味しい」
その言葉に全員が「それを言うなよ……」とでも言いたげな表情で俺を見てくる。ハイ決めた。全員に一口ずつ食わせるからね? 食ったら俺の言った意味が分かるからね? そんな顔できなくなるからね?
俺は固く心に誓い、スプーンを渡して一人一人に食わせていく。すると全員───
「レンくんは正しい」
「レンさんは間違ってなかったっす」
「……これは、なかったことにしましょう」
という雰囲気になり、全員の心が一つになるのだった。
不味くないんだよ? 決して不味いわけじゃないんだよ? ネタ的にはおいしいけど……しらすいらねーじゃん。
「姉貴、気を取り直して……次はどこ?」
「あっち。あさひ本店の『たこせん』。江の島に来たらここは絶対外せない」
ということで、江の島名物のしらすは堪能したので別の場所に向かいます。
「あさひ本店」はグルメ番組でも紹介されるくらい有名なお店で、休日は長蛇の列ができる……とのことだったけど、意外や意外。夏休みのほぼ最終日ということもあって、行列はかなり短かった。これならすぐ買えそうだな。
「お、おっきくないですか?」
「確かに……B4用紙くらいの大きさがありそう」
他の人が食べているたこせんの大きさを見て、後藤さんが驚いていた。たこを二、三匹熱した鉄板に乗せてプレスするらしい。二、三匹も使ってんのかよ!? そらあれだけでかくなるわ。
「ぼっち。プレスした時に聞こえる『きゅー』って音は、タコの断末魔なんだよ」
「ひいぃっ!?」
「嘘つくなこら! 後藤さん、そんなわけないからね?」
姉貴の言葉に後藤さんは驚いて俺の腕を思い切り掴んでくる。確かに、あの音はちょっと不気味で断末魔って言われたら信じちゃうかもしれないけど……
「……大槻先輩も信じちゃったんですか?」
「は? 何を? 私は最初から分かってたけど?」
じゃあ何で後ろから俺の服を掴んでるんですか? まあ、そうやって意地張って強がるところも可愛いんですけどね。しかもそれを気付かれてないと本気で思ってるあたりが最高にあざとい。
「わ、私、あんなにおっきいの食べられないかもしれません……」
「じゃあ、俺と半分こする? 俺もお昼に食べ過ぎたから、結構きつくなってきたんだよね」
「は、半分こ!? (お、落ち着け落ち着け!! さっきだってソフトクリームを食べさせてもらったし、何なら前のバーベキューではお肉を食べさせてあげたし……あ、あれに比べたら余裕の義経徳川慶喜ヨークシャーテリア!! そうだよ、大槻さんの五千えちえちポイントに比べたら、おせんべいを半分こするなんてせいぜい四えちえちポイント……全然大丈夫だ)」
あ、ちょっと刺激が強すぎたかな?
「あ、お、お願いしましゅ……」
大丈夫そうだった。よしよし、このくらいなら耐えられる……まあ、それもそうか。この夏休み、後藤さんとは結構濃い時間を過ごしたからね。……花火大会とか。
「喜多ちゃん、あたし達も半分こしよう? 全部食べられる気がしないや」
「そうですね。結構お腹いっぱいになりましたし……」
「私は一枚食べられる」
「でも、たくさん食べる割にはリョウさんって全然太ってないっすよね?」
「私は食べても太らない体質」
姉貴はドヤ顔で世界中の女性陣に喧嘩を売るような発言をする。でも、姉貴の言ったことは事実だ。どれだけ食べても、どれだけ不養生をしてもスタイルが崩れることはない。
きっと、姉貴の前世はものすごく徳の高い人物だったんだと思う。
逆に姉貴の来世になる人は……がんばれ。
「あくび……わ、私も……」
「ウチと半分こしましょうか」
「あ、ありがとう!」
さすがSIDEROSの大槻先輩係。先輩が何を言いたいのかすぐに察してくれる。あくびちゃんがいればSIDEROSは安泰だな。
ふーちゃんと幽々ちゃんも俺達と同じようにたこせんを半分こにするらしい。一人で全部食べ切るのが姉貴だけとか……いや、姉貴ならペロッと食っちゃうだろうけど。
「お、美味しいですっ……!」
十分ほど並ぶと買うことができ、実際手に持ってみると想像以上に大きかった。……これ、一人で食うのは無理だったわ。姉貴はもっしゃもっしゃ食ってるけど。
後藤さんも目を輝かせてるな。気に入ってもらえたようで何より。
「喜多ちゃん、まだ~?」
「こっちの角度がいいかな? それともこっち? あ、虹夏先輩、笑ってくださ~い!」
「いつまで経っても食べられないじゃん!」
喜多さんが喜多さんだったので、俺の分を一かけら虹夏ちゃんに食べさせてあげると、虹夏ちゃんはとても嬉しそうにもぐもぐしていた。
「見た目はあれだけど……思ったより美味しいわね」
「そっすね。見た目と断末魔はあれっすけど」
「断末魔とか言うなっ!」
先輩達も美味しいものを食べられて満足してる。……しらすソフトで終わらなくてよかった。
「たこせん食べてたら、ビールが飲みたくなってくる」
「……姉貴には絶対に酒は飲ませないからな」
「リョウ、飲んだことあるの?」
「正月の甘酒で酔った」
「アホ過ぎる!?」
当然、甘酒にアルコールなんて入ってない。でも姉貴はアルコールが入っていると思い込んで……一種のプラシーボ効果でべろんべろんに酔っぱらったんだ。虹夏ちゃんの言う通り「アホ」の一言に尽きる。
「どんな感じになったんすか?」
「……五十代のおっさんが若者に説教する感じ」
「あー……それは、うざいっすね」
「最近の音楽は~とか、昔は良かった~とか?」
「そんな感じ。しかもさらに面倒なのが、姉貴がそれを全然覚えてないんだ」
「記憶にないから実質無罪」
「俺の記憶には残ってんだよ!!」
だから姉貴には絶対に酒を飲ませないと誓ったんだ。めちゃくちゃうざ絡みしてくるからいつもの十倍面倒になるからね。……相対的に、廣井さんがマシに見えたんだよな。
「お、お姉さんの方がマシ……りょ、リョウさん。もう、お酒飲んじゃダメですよ」
「ぴえん」
注意してくれるのは嬉しいけど、後藤さんも酒癖悪そうなんだよなぁ……
「よし、食べるもの食べたし、帰ろう」
「何言ってんの!? こっからが本番じゃん!」
「リョウ先輩、まだ江の島神社に参拝してませんよ!?」
「私以外で行けばいい。あの石段を登る気にはならん!」
赤い大きな鳥居の下までやってきたところで、あまりにも長い階段を見た姉貴がふざけたことを言い出した。いやいや、ここに音楽の神様が祀られてるから参拝するのが一番の目的だっただろ?
「こんなところいにいられるか! 私は帰らせてもらうぞっ!」
「……姉貴、帰りの電車賃あるの?」
俺の一言で姉貴は黙る。さっきまでの食べ歩きでお小遣いを使い果たしたな? はんっ、それくらい俺にはわかってるんだよ。
「郁代……」
「うっ……」
「喜多さん、貸したらダメだよ。たとえ親しい間柄でも、お金の貸し借りが原因で人間関係が崩壊するなんてよくある話なんだから」
「う、うぐぐ……み、貢ぎたい~……リョウ先輩に貢ぎたいけど……こ、ここはレンくんの方が正しい……」
「貸し借りがダメ。ならばお金を借りるのではなく貰えばいい。郁代、電車賃ちょうだ───」
「
「あ、レンくんが結構本気で怒ってる」
俺が姉貴を名前で呼ぶときは、俺の怒りボルテージが一定のラインを超えた時だ。それを知ってるのは虹夏ちゃんと……後藤さんが俺の家に来た時、彼女の前でも一回姉貴にガチ説教したな。
とはいえ、俺だって楽しい空気をぶち壊したいわけじゃないので、姉貴にある提案をする。
「姉貴、これ見ろ」
「……はい」
俺はスマホを取り出して、江の島神社の境内マップを表示する。
「ここには江の島エスカー……頂上までいけるエスカレーターが三台ある。最初の辺津宮まではがんばって階段で登って、あとはエスカー使っていいから。有料だけど、この分のお金は俺が貸す」
「……いいの?」
「音楽の神様が祀られてるんだから行かなきゃダメだろ? その代わり、辺津宮までは自力で登ること。いいな?」
「うん。……がんばる」
「よし」
「……嫌いにならないで」
「ならんわ。このくらいで」
しょんぼりしている姉貴の頭を撫でてやる。はぁーーーー。ほんとに世話が焼ける。金を借りることやめぐんでもらうことに一切の躊躇いや罪悪感がないからな、姉貴には。
マジでこの部分だけは矯正しないと……将来廣井さんみたいになったら、さすがの俺も心が折れる。
「へー、レンさんもああやって怒ることがあるんすね」
「……初めて見たわね」
「あたしもレンくんが怒ったところはほとんど見たことないよ。リョウ以外に怒ったところなんて一度も見たことないし」
「え? そうなんですか?」
「レンくんって基本的に全方位甘やかしボーイだから。リョウはレンくんに一番甘やかされて一番怒られてるんだよ」
「脳みそバグりそうっすね」
「ああやって、『ダメだよ』ってちゃんと怒った後に優しくフォローするからリョウも甘えちゃうんだよ。もっと厳しくしてもいいくらい」
「五歳児に躾けてるみたいだね~」
「山田さんは幼稚園の先生や保育士さんが向いているのでは~?」
なんか色々言われてるけど……虹夏ちゃんも姉貴にあまあまだからね!?
まあいいや。気を取り直して、このながーい階段を登っていきますか。いざとなったら体力ない組を全員エスカーに放り込めばいいし。
ただ、エスカーは登りオンリーだから帰りは徒歩になるけどね。
とまあ、こんな感じでひと悶着あったけど江の島神社の長い長い石階段を登っていきます。
「死屍累々ね……」
辺津宮に到着して、喜多さんがぽつりと呟いた。
姉貴、虹夏ちゃん、後藤さん、大槻先輩の四人はへたり込んでおり、幽々ちゃんも結構しんどそうにしている。それに対して、喜多さん、あくびちゃん、ふーちゃんの三人はまだまだ元気だった。もちろん俺も。
「も、もう無理……ここからエスカー使う」
「あ、あたしも……階段はむりっ!!」
「キツ過ぎでしょ……膝がぷるぷる震えてるわ……」
「幽々もちょっと辛いです~」
(ぜ、絶対明日筋肉痛になるっ!!)
体力のないインドア派軍団はここで脱落らしい。まあでも、姉貴にしてはがんばった方か。帰りにしらすソフトじゃないアイスでも食わせてやろう。
それに、正直後藤さんについては途中でおんぶする必要があるかと思ったくらいだ。体育でいつも死にかけてたし……真夏の路上ライブでちょっとは体力がついたのかな。
「じゃあ、参拝して階段組とエスカー組に別れましょう! 階段組の人~!」
喜多さんがそう言うと、予想通りあくびちゃんとふーちゃん、そして俺の三人が手を挙げる。エスカーは楽でいいんだろうけど、景色が見れないのが欠点なんだよな。俺、こういうところに来ると隅々まで見たいタイプだし。
「先輩方……参拝、できます?」
「ご、五分ちょうだい」
へばっている大槻先輩達の横を、還暦を過ぎたらしいおばあちゃんがスイスイ歩いていくのを見て、俺は何とも虚しい気持ちになるのだった。
「この緑色の輪っかをくぐってから参拝するみたいですよ~」
社殿の右手に「茅の輪」という緑色の輪があり、みんなでそれをくぐって社殿に参拝する。
「江の島神社って、なんのご利益があるのかしら?」
「縁結びだったり金運だったり勝負運だったり……色々だよ。音楽や芸能の神様が祀られているから」
「金運っ!!」
(ぜ、贅沢は言わないから十億円くださいっ!! そうすれば高校も中退できてバイトも辞められる!! 好きなバンド活動だけに集中できる!!)
俺がご利益について簡単に説明すると姉貴が真っ先に反応した。さっきまで死にかけてたのに現金なヤツだな。金運だけに。
あとなんか、後藤さんもそわそわしてる。……絶対ろくなこと考えてない顔だ。
「音楽の神様、勝負運……どこ!? どこにいるの!?」
「大槻先輩ステイ。まずは社殿を参拝してからです」
大槻先輩が目をキラッキラさせながら犬のように走り出していきそうだったので、手を掴んで動きを制止させる。この人も一気に元気になったな。
「縁結びかぁ~……」
「虹夏さん、好きな人でもいるんすか?」
「そういうわけじゃないけど……色々と思うところがね~」
「私も気になります~」
「えへへ。内緒だよ~」
お労しや虹上……俺もがんばるからさ。一緒に素敵な恋をしようね。
「山田さ~ん。確かに縁結びのご利益があるみたいですけど、カップルで来ると神様が嫉妬してお願い事が叶わないみたいですよ~」
「山田、あなたは入り口で待ってなさい」
「悪いな、レン。この参拝……女用なんだ」
「レンくん、先に一人で登っててもいいのよ?」
「女子特有の陰湿ないじめ!!」
よく考えたら、俺は別に誰とも付き合ってないので問題ないという結論に至り、みんなで仲良く参拝できました。男一人に女八人で神様にハーレム認定されたらって? その場合は神の力に頼らず自分の力で願いを叶えましょう。
「あっちの奉安殿が音楽や芸能の神様が祀られているところね」
「山田っ! 早く行くわよっ!」
「行きますからそんなに引っ張らないでください」
先輩が俺の手をぐいぐい引いて奉安殿へ連れて行こうとする。ほんとに散歩中の犬っぽいな。喜多さんも犬だし後藤さんも小型犬っぽいし……俺の周りにはわんこ系女子が多すぎる。
姉貴? 姉貴は野良ペルシャだよ。
「こ、この白いの……何ですかね?」
奉安殿で参拝を終えると、私は白くて小さい蛇のお人形がたくさん売られているのを見つけた。この蛇さん、ちょっと可愛いかも。
「ひとりちゃん、これはね『一文字願立ての巳さま』よ。漢字を一文字だけ書いて神様にお供えすれば願い事が叶うって言われてるの」
「き、喜多ちゃん……物知りですね」
「って、見知らぬ誰かのブログに書いてあったわ!」
公式サイトよりも個人ブログの方が良い写真を使ってたり、詳細が載ってたりするよね。それにしても、この蛇のお人形さん可愛い。願い事を書くかどうかは別として、普通にお土産として買って帰りたいな。
「私が書く漢字は決めた『金』」
「だろうね。あたしは何一つ驚かないよ」
「虹夏はどうするの?」
「どうしよう……無難に『音』って書こうかな」
みんな一つずつ買って思い思いの字を書いているみたいだ。どうしよう……私は何も思いつかない、どころか思いつきすぎる!!
か、漢字一文字だけって……ちょっとケチすぎやしませんか神様。書きたいことはいっぱいあるのに……
はっ!? じゅ、十個くらい買ってそれぞれ別の漢字を一文字ずつ書けば十個の願いが叶うことになるんじゃ!? よーし……
「こういうのは一つだけ書くから風情があるんだよ?」
「あひぃいやぁ!?」
突然山田くんに声をかけられたから、びっくりして変な悲鳴を上げちゃった……
で、でも、それよりも驚いたのは、山田くんに私の心の中を見透かされちゃったこと。山田くんはニコニコ笑っていたけど、その笑顔を直視できない。うぅ……恥ずかしい。
「や、山田くんは何を書いたんですか?」
「俺はこれ」
「こ『恋』!?」
「そう。今の俺に一番必要なものだから」
「や、山田くん……誰か好きな人がいるんですか?」
に、虹夏ちゃん!? 喜多ちゃんはないだろうし……も、もしやえちえち大槻さん!?
「ヨヨコ先輩は何を書いたんすか?」
「な、なんでもいいでしょ。こういうのは人に話すと叶わないって言うじゃない?」
ぜ、絶対人には言えないようなえっちな漢字を書いたんだ!! そうに違いない!!
「『絆』って書いてあるよ~」
「楓子!? 何勝手に見てるの!?」
「ヨヨコ先輩……絆ってSIDEROSの……」
「そ、そうよ! 悪い!? このメンバーでずっとずっとバンドを続けたいから───」
「「「ヨヨコせんぱーい!!」」」
「だーっ!! 暑いから抱き着いてくるなーーーっ!!」
も、ものすごく良い字を書いてた。ごめんなさい大槻さん。私、絶対に「淫」とか「性」って書くと思ってました。心の中で土下座します。
「別に、好きな人がいるってわけじゃないよ。ただ……後藤さんも知ってるだろうけど、俺って誰かに恋をしたことがないんだ。だから……ね?」
私はそこで、この前の別荘でのお泊りでリョウさんがそんなことを言っていたことを思い出した。
「そ、そうなんですね……」
山田くんが、今は好きな人はいないと聞いて、私はなぜかちょっとだけ安心してしまう。……理由はよくわからないけど。
そして、山田くんは少し愁いの帯びた笑顔を浮かべてお人形をお供えする。そんな彼の表情を見て、私も何を書くのかを決めた。
字を書き終えて、私は彼が置いた隣に自分の人形をそっと置く。
「後藤さんは何を書いたの?」
「な、内緒ですっ」
「えー? 俺は教えたのにー?」
「た、たとえ山田くんでも教えてあげませんっ!」
「ふーん?」
山田くんはちょっとだけ意地悪く笑いながら私の顔を見てくるけど、何を言われても教えてあげないからね?
だってこんなの……教えられるわけないもん。
私が書いた字は───
君と同じ「恋」だったなんて。
ガチ観光させてたら江の島編が終わらなかった……
だって原作もアニメも江の島の描写が少なくて物足りなかったんですよ。
つ、次で終わるから! 8月31日の夏休み最後の日に合わせただけだから!
でも今の子達の夏休みって31日まであるのかな?
それと、最近のぼっちちゃんの扱いが酷かったのでちょっとだけヒロインムーブしてもらいました。
でもぼっちちゃんを一番酷く扱っているのが原作というね……
では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!