【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#38 続々・江の島観測

「エスカー組は大丈夫っすかね」

「さっきの中津宮でも死んでたもんね~」

「姉貴からロイン来た。サムエル・コッキング苑のUMIYAMA DOってカフェでめっちゃ美味そうなアップルパイ食ってる」

「ば、映えレベル四十二ってところね。レンくん、私達も行くわよ!」

 

 エスカー組が文明の利器を利用して、風情を味わうことなくさっさと登り切って、展望台付近でお茶をしているのに対して、俺、喜多さん、あくびちゃん、ふーちゃんの元気っ子組はのんびり景色を楽しみながら階段を登っていた。

 

 喜多さんは「早く行こう」と急かすんだけど、ことあるごとに立ち止まって写真を撮りまくるからな。まあ、確かに景色はすごく綺麗だけどね。

 

「そういえば、喜多ちゃんに見せてもらったんだけど、レンくんってぼっちちゃんと海で抱き合ったんだってね~」

「え? なんすかその情報。ウチ知らないっす」

「はーちゃんがレンくんとおてて繋いで歩いている時に喜多ちゃんに見せてもらったんだ~」

 

 やっぱりあの時の「とっておき」ってその写真だったんかい!? あくびちゃんは興味津々な様子で喜多さんのスマホをのぞき込んでいる。

 

「レンさんも硬派気取ってる割にはやることやってるじゃないっすか」

「……言い訳してもいい?」

「したところで、抱き合ったっていう事実は変わんないっすよ?」

「だとしても!!」

 

 あくびちゃん達にあの時の状況を事細かく説明する。人命救助だったからね! 後藤さんが犬神家みたいに海面から足だけ出して沈んじゃったから仕方なくね! ……後藤さんのおっぱいはめっちゃ柔らかかったけど。

 

「あと、こんな写真もあるわよ~。レンくんが上半身裸でボディビルダーみたいなポーズを取ってる写真」

「あ、すご~い。レンくん、スタイルいいね~」

「うわ、えっろ! なんすかこのエロい身体! えっちの妖怪じゃないっすか!」

「えっちの妖怪って何!?」

 

 あくびちゃんって結構遠慮なく好き放題言うよね。

 

 そしてあくびちゃんとふーちゃんの二人は俺の腹筋を服の上からさわさわしてくる。触るのはいいけど時と場所を考えてほしいかな。

 

「そんなモテ要素の塊なのに、彼女はいないんすね」

「レンくんはね。これまでに何人もの女の子と付き合ってきたけど、恋をしたことがないのよ」

「……どういうことっすか?」

「喜多さんもなんですぐ人の秘密をばらすの!?」

 

 仕方がないのであくびちゃん達に事情を説明する。

 

 俺は愛情を向けることはできても、誰かに恋愛感情を向けたことがないということ。恋愛感情を向けられることは、これまでの経験上察することができるということ。そういう感情のすれ違いで歴代彼女とは長続きしなかったかということ。

 

 さっきから説明してばっかりだな俺!

 

「だから俺は、さっきの蛇の人形に『恋』って書いてお供えしてきた!」

「あざとっ! レンさんってそういうとこほんとあざといっすよね?」

「あざとくないでしょ!? 俺は大真面目に書いたんだからね?」

「だからっすよ。狙ってないから余計に……」

 

 あざとさで言ったらウチのリーダーや君達のリーダーも大概だよ? 特に大槻先輩は無自覚にあざといことをやってのけるから俺と同類。

 

「レンくんって、身近にいるからあまり意識していなかったけど……全方位甘やかし包容力マックスの高身長イケメン高校生なのよね」

「しかもおばけが苦手という母性をくすぐるあざとさに恋を知らないピュアピュアボーイっす」

「完全に年上のお姉さん特効だ~」

「レンさん、絶対に成人女性と二人っきりでご飯とか行っちゃダメっすよ?」

「そうよ! そのままお持ち帰りされて捕食されてしまうわ!」

「『恋を知らないならお姉さんが教えてあげる~』っていうえっちな展開だ~」

「そんな漫画みたいなことあるわけないじゃん!」

 

 そんなのは年上のお姉さんに優しくリードされたいという童貞特有の妄想だから。そういうのはエロ同人の中だけにしておきなさい。

 

「いやいや、レンさんのルックスならありえるっすよ。レンさんってガードが堅いようで意外とガバガバっすから」

「おねだりすれば大体言うこと聞いてくれるもの」

「あ、ヨヨコ先輩とは二人でお出かけしても大丈夫だよ~。ヨヨコ先輩はヘタレだからレンくんに手を出す度胸なんてないし~」

 

 いや、そもそも大槻先輩とそういう関係には……あれ? ちょっと想像してみたけど、大槻先輩とそういう関係になるのって、全然嫌じゃない……むしろ、先輩って結構俺の理想だったりする?

 

 ……これ以上意識するのはやめ! ヨシ!

 

「でも心配っすね。ライブハウスなんかでバイトしてたら悪いバンドマンにレンさんがたぶらかされるかも」

「だ、ダメよ! そんなこと絶対ダメ! レンくんに何かあったらリョウ先輩にも悪影響が出ちゃうわ!」

「はーちゃん、ここは私達三人で『山田レンを守らねば同盟』を結成しようよ!」

「良い考えっすね。STARRYでは喜多さんが、新宿FOLTではウチらでレンさんを守りましょう」

「レンくんをイケないバンドマンの手から守ってあげるわ!」

「だから安心してね~? 私達がいるから」

 

 俺はもう、何もツッコみません。なんか知らんところで俺を守るためという意味不明な同盟ができたけど……好きにしてください。

 

 というか、こういうのは普通隙だらけな女の子を守るためにやるんじゃないの?

 

「レンさんって自分で思ってる以上に隙だらけっすからね?」

「STARRYでよくお持ち帰りされなかったね~」

「店長が保護者だからよ」

「STARRYの店長さんって虹夏さんのお姉さんすよね? 若くて美人さんだったっす」

「でも、今年で三十歳よ? しかも誕生日はクリスマスイブ」

「あの顔で三十なんすか!?」

「全然見えないね~」

 

 星歌さんは三十路詐欺なところがあるから。でも、あざとさでいえばあの人がSTARRYで一番だからね?

 

「ただ、店長が最大の味方と言っても……STARRYにはレンくん特効の危険人物がいるのよ」

「あれ? そんな人いたっすか?」

「あくびちゃん達は直接会ってないかもしれないけど……STARRYにはピアスゴリゴリのスプリットタン巨乳美形お姉さんがいるのよ。年齢は二十四歳で巨乳には視線誘導ホクロも完備しているという……」

「そ、その人こそ本当のえっちの妖怪だ……」

「年上の巨乳お姉さんって……レンさんの好みドンピシャじゃないすか。もしかして、レンさんはもう……」

「ないから! PAさんとそんなことになってないから!」

 

 確かにPAさんってめっちゃエロい見た目してて声がクソ可愛いから、そういう目で見ちゃうこともあるけど……大丈夫! 二人でご飯とか行ったことないし! そもそも俺より九歳も年上だから逆に安全でしょ?

 

「いいすか、レンさん。女性は二十代に入ってから性欲が高まってくるんす。だから二十四歳なんてのは、高まり始めた性欲を持て余し気味になる危険な年齢で……」

「俺はもう、PAさんよりあくびちゃんの方がえっちな子に思えてきたよ……」

「ウチは『レンさんの体エロいなー』くらいにしか思ってないから大丈夫っす」

「それ安心できる台詞じゃないじゃん!? ふーちゃんは!? ふーちゃんは大丈夫だよね!?」

「大丈夫だよ~。()()ちゃーんと守ってあげるからね~」

 

 俺が心配そうに尋ねるとふーちゃんが背伸びして優しく頭を撫でてくれる。癒されている一方で、俺は気付く。

 

 今、「私が」って言った? ……同盟は早くも決裂しそうですね。

 

 

 

 

「あ、レン達やっと来た」

「みんな~、こっちだよ~!」

 

 階段を登り切って、姉貴達がいるカフェにやって来ると、エスカー組は美味しいスイーツを存分に味わった後らしく、だらしなく寛いでいた。

 

「アップルパイとバニラアイス、美味しかった。これで帰りもがんばれる」

「言っておくけど、ここから先はエスカーがないから全部歩きになるからな?」

「……おんぶして」

「もう登りはないから自力で歩け。後藤さんはどう? まだがんばれそう?」

「あ、はい。涼しいところで休んだから大丈夫です」

「よかった。体調が悪くなったら言ってね?」

「ぼっちに甘すぎる。やはりおっぱいか。おっぱいの差か」

「人間性の差だよ」

 

 歩き組もエスカー組が頼んだものと同じものを注文し、甘酸っぱいアップルパイと冷たいバニラアイスに舌鼓を打つ。今日は歩いて食って歩いて食って歩いて食って……めちゃくちゃ江の島を満喫してるな。

 

「大槻先輩は大丈夫ですか?」

「……ふん、余裕よ。このくらい」

「その割には膝がプルプルしてません?」

「し、してないわよっ! そんなに足を見ないでちょうだい! えっち!」

 

 先輩の格好の方がだいぶえっちだと思いますけどね。お詫びも兼ねてアップルパイをフォークに刺して一口分差し出すと、先輩は俺とアップルパイを交互に見て、そのままパクリと食べた。

 

 後藤さんは激しくうんうん頷いていたけど、もしかして君も俺のことえっちな男だと思ってる? 

 

 あれ? なんか俺の周り……俺のことをえっちだと思う女の子が多過ぎない?

 

 

 

 

「わぁ~! すご~い! 富士山が綺麗に見えますよ~!」

「……ドローンの航空写真の方が綺麗」

「なんでそんな情緒のないこと言うんだよ!?」

 

 カフェで休憩した後、俺達は江の島シーキャンドルの展望台へ上がり、景色を楽しんでいた。今日は天気が良いので富士山が綺麗に見えて感激していた喜多さんに、姉貴の無慈悲な言葉が炸裂する。

 

「そういう情緒にとらわれない先輩も素敵!」

「山田、前から思ってたけど……あの子相当やばいわよね?」

「そのうち、先輩に喜多さんのボーカルレッスンをお願いしてもいいですか?」

「この流れでそんな頼み事する!?」

「先輩がダメなら廣井さんにお願いするんで」

「姐さんの手を煩わせるまでもないわ! 私に任せなさいっ!」

 

 喜多さんも前に大槻先輩から貰ったアドバイスメモを頼りにがんばってて、かなり上手くなったと思うけど、まだ演奏にかき消されてる弱い部分があるんだよね。だから、それを改善するために大槻先輩や廣井さんにはぜひとも直接指導をしてもらいたい。

 

「ヨヨコせんぱ~い! 富士山をバックに写真撮りましょうよ~!」

「山田さんも一緒にどうぞ~」

 

 ふーちゃん達に声をかけられたので、SIDEROSっ子達と一緒に写真を撮る。

 

 姉貴達は……姉貴はもう景色に飽きてるな。早すぎだろ。後藤さんでさえちょっとわくわくしてるのに。

 

 そして俺達は屋外の階段を登り、展望台の最上部までやって来る。姉貴は暑いから冷房の効いた中にいたいとかほざいていたけど、虹夏ちゃんが無理矢理引っ張って連れてきているみたいだ。

 

「あ、あれ……? 何か、変な音が鳴っていませんか?」

 

 動物の鳴き声のような「ピュー」という甲高い音が聞こえてくる。

 

「ああ、トンビだよ。江の島ってトンビが多いんだ。しかも人間の食べ物を狙ってくるから外で何かを食べる時は注意しないとね」

「そ、そうだったんですね……」

 

 後藤さんは「はえー」と感心したような表情で、旋回しているトンビを眺めていた。江の島のトンビの被害は結構有名で、注意の看板が立っているくらいなんだよね。人が多いところではあんまり襲ってこないみたいだけど、人気が少ないところで食べ歩きしていると、背後から勢いよく襲いかかって来るらしい。

 

「ぼっちはトンビにも負けそう」

「さ、さすがに鳥には負けませんよっ……!」 

「でもぼっちちゃん。トンビって六十センチくらいあるらしいよ」

「翼を広げたら百六十センチにもなるみたいね」

「あ、あ、あ……そ、それはちょっと勝てない……」

 

 後藤さん、あっさり負けを認める。でも確かに、姉貴の言う通り後藤さんがトンビに食べ物を取られてる絵が簡単に思い浮かぶんだよなぁ……

 

 後藤さんこそ「守らねば」な存在やんけ。

 

 その後、江の島シーキャンドルから出ると、すぐ隣に白い山型の大きなトランポリン……通称「ふわふわドーム」があり、ものすごく面白そうだったので心を引かれた俺と喜多さんが走ってふわふわドームのところへ向かったんだけど……

 

 「三歳から九歳のお子様専用」という無慈悲な現実に叩きのめされ、俺と喜多さんはお互いに慰め合うことになる。

 

「今だけ五歳児になるのは無理かなぁ……」

 

 やみさんは六歳サバ読んでたし……十五マイナス六は九。……いけるな。

 

 ぼく、やまだれんきゅうしゃい。

 

「わたし、きたちゃんごしゃい」

 

 当然ふわふわドームで遊べなかったので、喜多さんと一緒に「五歳児ごっこ」をしながら次の「奥津宮」へ向かうのだった。 

 

 

 

 

 奥津宮へ向かう道は下りだったものの、階段が結構急だったのでエスカー組は手すりにつかまりながらよたよた歩いていた。大丈夫か今時の若者?

 

「こういうところにこそエスカレーターが必要。バリアフリーが行き届いてないなんてけしからん」

「姉貴の財布は常にバリアフリーだもんな」

「その通り。みんな私を見習うべき。ガンガンお金を使って経済を回そう」

「リョウ先輩は日本経済の貢献者ですね!」

「物価高騰? 増税? 私の物欲を止めたければ、その三倍は持ってこい」

「その時は俺が物理的に止めてやるから安心しろ」

「……物理はずるい」

 

 ずるくないわ!

 

 くだらない雑談をしている内に奥津宮へ到着し、みんなで参拝する。カフェで結構休めたからか、エスカー組は思ったよりも元気そうだった。エスカーは登りオンリーだから帰りは全部徒歩になるんだけど……

 

 いや、一応他の手段もあるな。まあ、それに関しては後でいい。

 

「リョウさ~ん。あそこにある像、『山田検校』さんという方の像らしいですよ~」

「ほう……私の先祖だ」

「リョウ先輩の先祖……つまり私のご先祖様でもありますね!」

「もう何もかもおかしい!!」

 

 虹夏ちゃんがたまらずツッコむ。歩き疲れてツッコミをだいぶ放置していたけど、甘い物を食べて元気を取り戻したみたいでよかった。

 

「幽々ちゃん。山田検校さんって何をした人なの?」

「江戸時代の箏曲家さんですね~。のちに『山田流』を興したらしいですよ~」

 

 俺が尋ねると、幽々ちゃんがスマホで調べて答えてくれた。

 

「ほう……筝曲家。間違いなく私の血筋。私の作曲の才能のルーツがここにあった!」

「先輩! ロック界にも『山田流』を広めましょう! それがご先祖様の悲願でもあるはずです!」

「私は私の『山田流』を作り上げる。……待てよ? 山田メソッド、情報商材……閃いた!」

「やめんか!」

 

 虹夏ちゃんが姉貴の頭をひっぱたく。姉貴が情報商材に手を出すとか……絶対ろくなことにならない。

 

 しかし、約一年半後……適当に聞き流していた「山田メソッド」が現実のものになるとは、この時の俺は知る由もなかった。

 

 

 

 

「見て見て、レンくん! 『恋人の丘』ですって!」

「……ほう? 恋愛学習マシーンと化した俺にはうってつけの場所だね」

「恋愛学習マシーンって何!?」

「ヨヨコ先輩。レンさんは今、『恋とは何か』ということを勉強中なんすよ」

「そんな口に出すのも恥ずかしいようなことを勉強してるの!?」

「レンくんは恋愛赤ちゃんだからね~」

「大槻先輩、ばぶーっていった方がいいです?」

「言わんでいい!!」

 

 奥津宮から脇道を通ると「龍恋の鐘」という看板があり、さらに先へ進むと小さな公園になっていた。公園には、一つの鐘と、その鐘を囲むようにフェンスが設置してある。

 

「ふーん。この鐘を鳴らした恋人は別れることはない……か」

「独り身の私達には縁のない場所ね」

「恋について学べる場所でもなさそうかな」

 

 喜多さんと一緒に、鐘の下に設置されている石碑を読むも、俺が思ったのとはちょっと違ったらしい。

 

「恋人がいない状態で鐘を鳴らしたらどうなるのかしら?」

「……自動的に俺と喜多さんが付き合うことになるんじゃない? しかも別れられないという効果付き」

「それは大変! 早く出ましょう! そんなことになると先輩の娘になれないじゃない!」

「これが恋愛スポットを訪れた男女の反応なの!?」

 

 俺と喜多さんが鐘の設置場所からそそくさと出てくると、大槻先輩に盛大にツッコまれた。だって、幸せな出会いがありますとかならともかく……恋人と別れることがないってものなんだったら俺達には意味ないですよ。

 

「……この鐘を鳴らした恋人は別れることはない。恋愛ゲームにありそうな設定っすね」

「ここが学校だったら鳴るはずのない伝説の鐘扱いされてたかもね」

 

 あくびちゃんが呑気にそんなことを言っている一方で、ふーちゃんと幽々ちゃんがきゃっきゃと騒ぎながら鐘をガンガン鳴らしていた。……そんなことして大丈夫?

 

「あたしは鐘より、フェンスに付けられた大量の南京錠が気になる」

「……正直、これだけびっしり付けられてたら恋愛スポットにそぐわない不気味さしか感じないんだけど」

「なんかホラーっぽいよね」

 

 虹夏ちゃんがしゃがみ込んでフェンスを観察していたので、俺も隣に座って南京錠に触れてみる。ここを訪れたカップルの何割が別れずに添い遂げたんでしょうねぇ?

 

「レンくんは鳴らさなくていいの?」

「彼女がいないのに鳴らしても意味ないじゃん」

「……じゃあ、あたしと一緒に鳴らす?」

 

 虹夏ちゃんが俺にクスリと笑いかけてそう言った。

 

「俺と虹夏ちゃんの気持ちがちゃんと整理できて……お互いが恋愛感情を自覚できるようになったら鳴らしに来よう」

「ふふっ。そうだね。今のあたし達じゃ……そんな資格ないから」

 

 虹夏ちゃんは俺の肩に頭をもたれさせてくる。そうだよなぁ……仮に虹夏ちゃんと付き合うことになるとしても、それはこの激重感情をどうにかしてからだもんなぁ。

 

「次はぼっちと大槻ヨヨコだ。行け」

「なんで私と後藤ひとりで鐘を鳴らさなきゃいけないのよ!?」

「じゃあ、選択肢をやろう。鐘を鳴らすか、大槻ヨヨコにとって『恋』とはどういうものかをみんなに教えるか」

「地獄のような二択ね!?」

「あ、はーちゃん。い、一緒に鐘を鳴らしましょう」

「いいっすよ」

「後藤ひとりに一瞬で裏切られた!?」

 

 あっちはあっちで変な盛り上がりになってるな。俺と虹夏ちゃんはなぜかしんみりしてるのに。いつの間にか虹夏ちゃんは手まで握ってきちゃって……なんとかこの子の心労を軽くしてあげたいんだけど。

 

「大槻さんにとって恋とは!? はい、さーん、にーい、いちっ!」

「え? えええっ!? そ、それはあれよ……えっと……こう、甘酸っぱくて……ドキドキして……胸がきゅーってなって……」

「可愛い」

「可愛いわね」

「可愛いっす」

「可愛い~」

「可愛いです~」

「あーっ! あーっ! あーっ! うっさい! うっさいわよあなた達!!」

(ぜ、絶対嘘だっ! こ、恋は下心って聞いたことあるもんっ! こ、ここでは言えないようないやらしいことを考えてるに違いない!!)

 

 大槻先輩が顔を真っ赤にしてぎゃーぎゃー騒いでいるのを見て、俺と虹夏ちゃんは顔を見合わせて思わず噴き出してしまった。

 

「なんか……あたし達、難しく考えすぎなのかもね」

「そうだね。もうちょっと……気楽にいこうか」

「うんっ! 大槻さんを見てたら、なんか元気が出てきた」

 

 虹夏ちゃんはさっきまでの暗さが嘘みたいに明るく笑っていた。大槻先輩には感謝しないとね。

 

「あ、そうだ。レンくん」

「何?」

 

 姉貴達のところへ戻ろうとしたところで、虹夏ちゃんが俺を呼び止めた。

 

「さっきの約束───ちゃーんと守ってね?」

 

 虹夏ちゃんは背伸びをして、俺の耳元でそう囁いたかと思うと、小走りで姉貴の方へ駆け寄っていった。

 

 約束、ね。大丈夫だよ。俺が虹夏ちゃんとの約束を破るわけないじゃん。

 

 

 

 

 恋人の丘でひとしきりはしゃいだ俺達は、そのまま石階段を降りて海岸へとやってくる。午前中に海を散々見たけど、少し高い歩道沿いから眺める海岸は絶景だった。砂浜ではなく岩場になっており、海水浴場とはまた違った趣がある。

 

「みなさんにお知らせがあります。ここから片瀬江の島駅まで戻るには、今降りてきた階段を全て自力で登る必要が───」

 

 俺がそう言うと、エスカー組の五人(姉貴、虹夏ちゃん、後藤さん、大槻先輩、幽々ちゃん)が阿鼻叫喚の嵐となった。正直、俺も今からあの階段を登って、来た道を全部戻るのはしんどい。

 

「───ありましたが、なんとこの近くにフェリー乗り場があります。フェリーに乗れば十分ほどで江の島神社の入り口まで戻れます」

 

 続けると、阿鼻叫喚だった五人が感動を分かち合うように抱き合っていた。いちいち反応が面白いなこの人達。大槻先輩もかなり結束バンドと仲良くなったみたいでよかった。

 

「江の島シーキャンドルのライトアップは観ないんですか!?」

 

 喜多さんはそう提案するも、さすがに他の人達もそんな体力は残っていなかったらしく、喜多さんの案は泣く泣く却下されてしまう。

 

「ま、また別の機会に来よう? ね?」

「レンくぅん……」

 

 あまりにもしょんぼりしていた喜多さんが可哀想だったから、そう提案せずにはいられなかった。俺を含む階段組(あくびちゃん、ふーちゃん)はともかく、エスカー組の体力はもう限界だろうしね。

 

 次は時間をずらしてくるか、最後まで付き合ってくれる彼氏を見つけてからにしてください。

 

 喜多さんのお眼鏡に適う男が現れたらの話だけど。

 

 というわけで、結束バンド&SIDEROS+おまけ(俺)の江の島観光は終わり、帰路に就きます。

 

 

 

 

「電車に乗るなり、みんなあっという間に寝ちゃったわね」

「絵に描いたような電池切れ」

 

 帰りの電車に乗ると、姉貴や虹夏ちゃんはもちろん、はしゃぎまわっていたSIDEROSの陽キャっ子達もみんなお互いの肩にもたれ合って眠っていた。

 

 ちゃんと起きているのは俺と喜多さん。あと、目をシパシパさせている後藤さんと大槻先輩。二人も眠いんだったら寝たらいいのに。

 

「先輩、寝てていいですよ? 後藤さんも、藤沢までだけどちゃんと起こしてあげるから」

「ね、寝れるわけないでしょ!? (山田に寝顔を見られるなんて……恥ずかしいじゃない!!)」

「わ、私も起きてますっ!(私が寝ている隙に大槻さんが山田くんにえっちなことをするかもしれないし! ちゃんと見張っておかないと……)」

 

 なぜか二人とも目を血走らせている。……人に寝顔を、というより俺に寝顔を見られるのが恥ずかしいのかな? でも、寝顔以上に二人の恥ずかしいところを何回も見てきてるんだけどね。

 

 複雑な乙女心ということで、これ以上は刺激しないでおこう。

 

 乗り換えがある後藤さんはともかく、どうせ大槻先輩は十分もすれば力尽きるだろうし。

 

「喜多さんはまだまだ元気だね」

「本当は江の島シーキャンドルのライトアップまで見たかったし、みんなで晩御飯も食べたかったわ」

「それは別の機会にしよう。俺はともかく、さすがにみんなクタクタだから」

 

 実際、インドア派組はよくがんばったよ。まさかここまでガチで江の島観光するとは思わなかったから。

 

「き、喜多ちゃん、山田くん。ありがとうございました。つ、疲れましたけど……すっごく楽しかったです。今日だけじゃなくて、色んな所に遊びに行けて……今年の夏休みは、人生で一番楽しい夏休みでした」

「後藤さん……」

「ひとりちゃん……」

 

 後藤さんが恥ずかしそうに、頬を赤く染めながら笑顔でそう言った。そんなこと言われたら感動するじゃん! ちょっと涙腺が刺激されるじゃん! 

 

「後藤さん、これからもたくさん思いで作ろうね」

「あ、はいっ……!」

「そうよ! 冬休みは毎日一緒に遊びましょう!」

「あえっ!? (そ、そんなには遊びたくないっ!!)」

 

 毎日は勘弁してあげて。それに、バンドの練習もあるでしょ? 初詣に誘ってあげるとか、休みの日に遊びに連れて行ってあげるくらいにしてあげて。

 

 後藤さん達とそんな話をしていると、不意に左肩に重みを感じた。視線を向けると、力尽きたらしい大槻先輩が俺の肩に頭を預けて寝息を立てている。

 

「先輩も電池切れらしい」

「写真撮ってあげるわ」

 

 喜多さんは嬉々とした表情で俺にもたれて眠っている大槻先輩の写真を撮る。メンバー達に共有されて後日盛大に弄られるヤツだ。で、SICKHACKの人達にまで拡散されて俺が先輩に怒られる未来まで見える。

 

 まあいっか。先輩の可愛い寝顔が見られた代償ってことにしておこう。

 

「また遊びに行きましょうね、()()()先輩」

 

 俺は誰にも聞こえないように、大槻先輩の耳元でそっと囁く。

 

「そうだ。今度はカラオケに行きましょう。私、ひとりちゃんの歌声を聞いてみたいわ!」

「か、カラオケですかぁっ!? (よ、陽キャパリピソングの練習しておかなきゃ……)」

「レンくんもいいわよね?」

「ほう? YK(山田家カラオケ)ランキング四年連続二位の俺に勝負を挑むとな?」

 

 一位は姉貴です。姉貴はマジで上手い。そこらのバンドのボーカルより余裕で上手い。作曲もできるし……姉貴はちょっと音楽の才能に溢れすぎている。その代わり人間性が終わってるけど。

 

 その後も俺達は、秀華高校一年生トリオは後藤さんの乗換駅になるまでずっと、色んなことを話していた。

 

 だから俺は、気付かなかったんだ。

 

 大槻先輩の頬が、ほんのりと赤く染まっていたことに。




 江の島編完!

 八月三十一日……夏休み最終日投稿。全部計画通りです。

 嘘です。めっちゃ長引きました。しかも原作の原形をまるでとどめていないという……

 いや、ガチで江の島観光しているぼざろ二次も探せば他にもあるはずです!

 SIDEROS組をノリで連れてきたので、その分観光スポットでのイベントを増やした感じですね。前回はぼっちちゃんのヒロインムーブで締めたので、今回はヨヨコで締めました。

 そして次回についてですが……

「内気でコミュ障な根暗猫背少女が実はクラス一の巨乳美少女だった!? 私の魅力に気付いた男共が言い寄ってくるけど山田くんがいるからもう遅い!!」

 こんな内容です。あと、ぽいずんも出します。

【本作のぼっちちゃんの夏休み】

 あまあま青春花火大会→フェス→山田家の別荘お泊り会→江の島観光

 充実してますね。しかも描写外で週一の路上ライブやSTARRYでのライブもやっているという。原作の卒塔婆ぼっちちゃんはどこだ!?

 では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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