【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#39 ラバーリポート

 新学期初日の教室は朝からやけに騒がしかった。特に女子連中が。

 

 んで、その騒乱の中心にいるのが一人の女の子。

 

 後藤ひとりさん。

 

 内気で物静かな女の子。俺は彼女と話したことはないし、彼女について知っていることなんて、学外でバンドを組んでるってことくらいだ。

 

 彼女がクラスで話す相手は、数人の女子と()()()。あと、コミュ力の高い男子とあいさつするくらい。あいつ以外の男子と話しているところなんて、俺は一度も見たことがなかった。

 

 そして、彼女は決して、クラスの中心になるような、話題になるような女の子じゃない。

 

 いや、一回だけ話題になったな。入学二日目にいきなりピンクのジャージで登校してきたのには驚いた。次の日からはちゃんと制服に戻ってたけど。

 

 あれに関してはあいつも言葉を濁してたし、何か特別な事情があったんじゃないかと思う。

 

 とまあ、その一件以外で彼女のことを話題に出すなんてクラス内でほとんどなかったんだけど……

 

「ひとりちゃん、前髪切ったの!?」

「すっごく可愛いよ~! なんで今まで隠してたの!? もったいな~い!」

「後藤さん、写真撮ってもいい?」

「あ、えへへ。しょ、しょれほどでもないですよ~」

 

 後藤さんがクラスの話題を独占している理由。

 

 彼女が前髪を切ってきた。

 

 ただ、それだけ。

 

 それだけで、彼女の周りにはクラスの女子が十人以上集まっている。

 

 大体、髪を切ってきたら「可愛い~!」って言うのが女子特有の暗黙の了解というか、ルールだと俺は思っていた。所詮は社交辞令だろうと。どんな変な髪型だろうと、似合ってなかろうと「可愛い」という。

 

 それが女子という生き物。

 

 俺は、そう……思って()()

 

「え? 後藤ってあんな可愛かったの?」

「初めて顔全体見たけど……やばくね?」

「陰キャが実はめちゃめちゃ可愛かったとか……現実でもあるんだな」

 

 クラスの男子連中までこんな反応をする始末。もちろん、俺も例に漏れない。クラス全体……というより、秀華高校は全体的に女子のレベルが高いけど、後藤さんの可愛さはちょっと……次元が違う。

 

 普通にアイドル事務所とか、モデル事務所に履歴書を送ってもいいレベルだ。

 

「しかも後藤って……()()()よな?」

「それな」

「地味陰キャが着痩せするって……王道の設定だけど、あの可愛さででかいのは反則だろ」

「ふつーにやばい。っつーか、めっちゃ好み」

「ロイン教えてもらおうかな……」

 

 男子達が言うように、後藤さんはただ可愛いだけじゃなくて、胸も大きいんだよ。かなり。

 

 普段は半袖が嫌いなのか、夏でも白いカーディガンを着てて猫背だったけど、それでも男子高校生の目は誤魔化せない。クラスの男子の間では、後藤さんは隠れ巨乳だっていう共通の認識があったんだ。

 

「マジで俺……後藤さん狙いてえ」

 

 陽キャ男子の一人がそんなことを言い出した。……お前、自分が何言ってるかわかってんの?

 

 よくもまあ、一年二組にいながら、そんな身の程知らずなことを言えたもんだ。

 

 だってお前……このクラスには、()()()がいるんだぞ?

 

「やめとけやめとけ。山田に勝てると思っとるんか?」

「あ、無理だわ。安西先生が『諦めたら? もう試合終了ですよ?』って言うレベルだわ」

「ミッチーがグレて二度とバスケやらなくなる!!」

 

 そう。このクラスにはあの男───山田レンがいるのだ。

 

 このクラス一……いや、下手したら学年一イケメンな男。

 

 しかもイケメンなのはツラだけじゃなくて性格もだ。

 

 基本的にあいつは面倒見が良くて、ものすごく優しい。あの後藤さんと……誰がどう見てもコミュ障全開な後藤さんと、誰よりも早く仲良くなった男。それこそ、クラスの女子連中よりも、だ。

 

 それにあいつは、俺達……クラスの全員が「後藤さんが実はめちゃくちゃ可愛い女の子だ」って気付く前から仲が良かったんだ。

 

 そんな男を相手にして……今頃後藤さんの可愛さに気付いて仲良くなろうって下心丸出しの連中が勝てると思うのか?

 

 ただでさえ、顔面偏差値がずば抜けているのに性格まで完璧……しかもノリが良くてクラスの運動部陽キャと仲が良いかと思いきや、俺みたいな陰キャとも話が合ったりする。

 

「俺は、重曹ちゃんにどうしても幸せになってほしい……」

 

 山田とそんな話をしたことがあった。あいつは、お姉さんの影響で深夜アニメにも結構手を出しているらしく、そういうオタク趣味にも理解がある……どころか積極的に話を振ってくるんだよ!

 

「なあ、夏アニメ何観る? ぶっちゃけ不作な気がするから秋に期待しようかと思うんだけど……」

「今期は割とジャンプアニメが豊作。呪術にるろ剣、BLEACH。あと、刃牙くらいじゃね?」

「きらら作品はお預けかぁ……」

「秋まで待てよ」

 

 クラス一のイケメンと、そんな会話をするなんて夢にも思わなかった。中学まではイケメン陽キャなんて嫉妬の対象でしかなかったんだけど、あいつは……山田は嫉妬する気すら起きない男だ。

 

「山田を相手にするくらいなら坊主にする方がマシだわ」

「俺、女だったら絶対山田のこと好きになってた」

「それな」

「あいつが実は少女漫画の世界からやってきたって言われても俺は驚かない」

 

 クラスの男子連中の山田に対する評価はこんな感じだ。中途半端なイケメンなら嫉妬の対象になるけど……あいつはちょっと次元が違う。ダンゴムシがヘラクレスオオカブトに嫉妬するか? そんなレベルだよ。

 

「でも山田って、五組の喜多さんと付き合ってたんじゃなかったか?」

「え? 佐々木さんだろ?」

「下高に可愛い幼馴染がいるとかなんとか」

「ライブハウスの年上お姉さんにお持ち帰りされたんじゃ……」

「俺、茶髪のツンデレっぽいツインテ女子と山田が歩いてるとこ見たぞ」

「山田のお姉さんって、確かめっちゃ美人らしいな」

「禁断の姉弟ルート……」

「……誰が山田の彼女なんだよ?」

 

 もう……全員彼女でいいだろ。それが許される男だよあいつは。

 

「全員じゃね?」

「それな」

「あいつならハーレムでも許される」

「嫉妬する気にもならん。むしろみんな幸せにしろ。それが山田に課せられた使命」

「でも、山田って確かそういうの嫌いだろ? 『一途な恋がしたい』とか言ってたような」

「ピュアピュアボーイかよ!? どれだけ属性増やせば気が済むんだ!」

「あのツラと性格なら二股、三股なんて余裕なのに……あえて一途を貫くのか?」

 

 そういうところが、山田がみんなに好かれる理由で、みんなと仲良くなれる理由で……後藤さんがあいつに惹かれる理由なんだろうな。

 

「後藤は山田に任せよう」

「それな」

「でも、他のクラスの男が後藤にちょっかいかけたらどうする?」

「その時は、その男が無様に玉砕する様を特等席で眺めていればヨシ!」

「お前性格悪いな」

「だから彼女ができないんだろ?」

 

 陽キャ達がぎゃーぎゃーと言い合っている。中学までの俺なら、こいつらのことを煩わしいって思うだけだったけど、今は山田のおかげで……昔ほどこいつらに嫌悪感を抱いていない。話してみれば、気の良い連中だったしな。

 

 これでも、山田にはかなり感謝してる……んだけど、あいつ全然登校してこねーな?

 

 たまーにあるんだよな。基本的に優等生なのに、こうやって遅刻ギリギリに登校してくることが。

 

 その理由を聞いたんだけど───

 

「おはよー! 五分前か……ギリギリだな」

「あ、山田くん、おはよう! 今日は遅かったんだね」

「新学期初日の恒例行事。姉貴が起きなかった……」

「あー、いつものお姉さんの介護ね」

 

 山田がギリギリに登校してくる理由。それはあいつのお姉さんが原因らしい。なんでも、お姉さんはものすごくずぼらで毎日身の回りのお世話をしているとかなんとか……そりゃあ山田みたいな弟がいたら堕落するに決まってんだろ。

 

「や、山田くん! お、おはようございますっ!」

「おはよう後藤さん。筋肉痛はどう?」

「じ、地獄でした……階段をあれほど恨めしく思ったのは人生初です……い、今もちょっと痛い……」

 

 後藤さんが笑顔で山田にあいさつをする。

 

 ……ほらな? 山田以外の誰が後藤さんのあんな笑顔を引き出せる? 後藤さんが自分から声をかける男が他にいるか?

 

 わかってはいた。わかってはいたさ。初めから勝ち目なんてなかったことくらい。

 

「山田くん! ひとりちゃんが前髪を切ったんだよ!」

「知ってるよ。夏休み中に遊んだからね」

「え、えへへ~。い、いっぱい褒めてもらいました~」

「えー? ひとりちゃん、山田くんと遊びに行ったのー?」

「そういえば、喜多ちゃん達と江の島に行ってたよね?」

「ほ、他にもフェスとか、花火大会とか……色々……」

「写真あるー? 見せて見せてー!」

 

 あ、やべえ。結構きつい。

 

 山田に対して嫉妬なんてしないけど……ちょっと「いいな」って()()()()()()が楽しそうな笑顔で……俺には絶対向けてくれないような笑顔で山田との思い出を話しているのを聞くのは、心にくる。

 

 後藤さんのことは……()()()()()いいなと思ってたんだけどな……

 

 うん。本格的に()()()()前でよかった。心に予防線を張っておいてよかった。

 

「おいっすー。さすが運動部。日焼けしてるね~」

「そういうお前も結構焼けてんじゃん」

「……可愛い女子達と海に行ったからな~」

「お前相手だと嫉妬する気にもなんねーよ」

「それな」

「お前それしか言わねーじゃん!」

 

 山田と陽キャ達が笑い合っている。そんな、一学期にもよくあった当たり前の光景を見て、俺は少しだけ心が落ち着いているのを自覚する。

 

「ねえ、この前のBLEACH見た? 白霞罸(はっかのとがめ)のシーンやばかったよな?」

 

 そして山田はいつものように俺に話しかけてくる。そんな山田を見て、俺はちょっとだけ誇らしい気分になった。

 

 山田は基本的に人の感情の機微に鋭くて、察する力がずば抜けている。そんな山田を相手に、俺が自分の本音を隠しきれていることが、本当に……ちょっとだけ誇らしかった。山田に勝ったような気がして。

 

「あそこでエンディングに入るセンスよな! あれがいい!」

 

 でも、笑顔でそう言った山田を見て、俺はふと思う。

 

 こいつ……俺の心情とか、全部察した上で……俺が気を遣わなくても済むように、俺が気まずくならないで済むように、普段と何ら変わらない態度を───俺が一番望んでいる態度を取っているんじゃないのか?

 

 ありえるよな。山田だから……

 

 そして俺も、山田のそんな態度に安堵していることに気付く。

 

 どうやら俺は、おこがましくも、山田のことを一人の友人だと思っていたらしい。

 

 はぁ……本当に、俺は一生、こいつには勝てねえんだろうな。

 

 不思議と、悔しさはない。

 

 ただ、こいつと友人であることが……俺にとって、筋金入りの陰キャオタクな俺にとって、数少ない将来の自慢話になるだろう。

 

 俺は山田と話しながら、漠然とそんなことを考えていた。

 

 

 

 

「それではみなさんに紹介します。こちらが『ぽいずん♡やみ』さん二十三歳。バンド関係のネット記事を書いていらっしゃるライターさんです」

「年齢まで言わなくていいでしょ!?」

 

 始業式が終わって、今日は午前中で放課になるので結束バンドメンバーとファミレスでお昼ご飯を食べた俺は、STARRYでバンドメンバー達にやみさんを紹介していた。

 

 数日前、突然やみさんから「結束バンドの取材をしたい」って連絡が来たときは結構驚いた。正直、知名度や実力はまだまだSIDEROSに遠く及ばないから、取材の申し込みがあるのはもっと先だと思っていたからだ。

 

 不思議に思ったから、取材をする理由をやみさんに聞いてもはぐらかされちゃったんだよな。

 

「じゃあ、元気な声であいさつしましょう。みんなで声を揃えてー……せーのっ!」

「こんにちは!」

「こんにちは~!」

「こんちは」

「こ、こんにちは……」

「はい、よくできました」

「ここは幼稚園なの!?」

 

 俺の号令の後、四人は元気よく……若干二名のテンションは低めだけど、しっかりあいさつができましたね。偉い偉い。

 

「じゃあ、虹夏ちゃん。あとは任せるね」

「うん。取材なんて初めてだから緊張しちゃうな~」

「レン、私は?」

「余計なこと喋るなよ?」

「酷い」

(しゅ、しゅ、しゅ……取材……!! こ、このインタビュー記事が音楽業界のお偉いさんの目に留まって結束バンドがメジャーデビューしてミリオン飛ばして作詞担当の私に印税ががっぽがっぽ入ってきてバイトを辞める!! 完璧な流れ!! こ、ここはライターさんの心をがっちり掴むために、温めていた一発ギャグを……)

「後藤さんは大人しくこっちに座ろうね~」

「あえっ!?」

 

 後藤さんがニヤニヤと怪しく笑いながらろくでもないことを妄想しているオーラを出していたので、被害が出る前に椅子に座らせる。多分、変な一発ギャグをやろうとしたんだと思う。

 

 この子、自分のギャグセンスにはなぜか絶対に自信を持ってるからな。……もっと他のところで自信を発揮してほしいのに。

 

「ねえレンくん。私の髪型、変じゃないかしら?」

「いや、写真は撮らないからね?」

 

 喜多さんはしきりに手鏡を見ながら髪を弄っている。いつも通りの可愛い喜多さんだから大丈夫だよ。あとは、姉貴関係のことで暴走さえしなければそれでヨシ!

 

 四人を見ていてこう思う。なんかもう……不安だ。ものすごく、不安だ……

 

 やみさんとは知り合いで、SICKHACKの打ち上げで仲良くなったとはいえ、仕事はきっちりやる人だから下手したら結束バンドがイロモノ集団と思われかねない。

 

 ……あながち間違いじゃないから別にいいか。

 

「じゃあ、まずは結束バンドさん達の目標について教えてください」

「もちろん、メジャーデビューです!」

 

 取材が始まったので、俺はみんなから離れて、カウンターで仕事をしている星歌さんの隣に座る。

 

「お前は取材受けなくていいのか?」

「俺が受ける必要はないでしょ」

「そりゃそうだが、一応……お前が持ってきた話だろ?」

「事前に結束バンドの情報はある程度話してますし、どういう話をするかも虹夏ちゃん達に伝えてあります。よっぽど変なことにはならないと思いますよ」

 

 虹夏ちゃん以外の三人が暴走しなければ。

 

「にしても、お前も変なところでコネを作ってくるよな」

「俺が一番不思議に思ってます」

「新宿FOLTでライブはできるし、SIDEROSやSICKHACKと知り合いになるし、ライターは連れてくるし、お前……マネージャーでもやる気なの?」

「学生バンドにマネージャーはいらんでしょ? 何をマネジメントすればいいんですか?」

 

 SIDEROSやSICKHACKにさえいないのに。それに、そういうのは本当に業界に詳しい人がやるべきだ。素人が中途半端に手を出してもあんまりいいことがなさそうなんだよね。

 

 将来的に、どこかの事務所に所属することになれば事務所からマネージャーが斡旋されるだろうし。

 

 だから俺にできるのは、せいぜい細々したお手伝いと……お悩み相談くらい? あとは、素人目線からでもできる客観的な意見を言ったり、業界に詳しい人に話を聞いて情報を集めるとか、わざわざマネージャーっていう肩書や役職にこだわらなくてもできることだ。

 

「あと、ガールズバンドのマネージャーが男って……将来的に色んな問題に発展しそうで怖いっす」

「……バンドが解散する一番の理由って知ってるか? 恋愛関係なんだよ」

「だったら余計にマネージャーなんかできませんよ」

 

 バンドメンバーに男がいなくてよかった。姉貴が男じゃなくてよかった。姉貴が男だったら絶対ギスギスバンドになってたよ。

 

「お前とあいつらの距離感は、今くらいがちょうどいいのかもな」

「ですかねぇ? ……これからどんどんファンが増えていくと、俺の存在が邪魔になりそうな気もしますけど」

「だからといって、今更変に距離を取ろうとするなんて考えるなよ? その方が、あいつらにとってマイナスだからな」

「……うす」

「まあ、私としては虹夏をもらってくれたら嬉しいんだけど」

「またその話ですか? それについては俺と虹夏ちゃんがしっかり気持ちを整理できてからですね。激重感情同士が軽い気持ちで付き合っても、共依存して破滅する未来しかありませんよ」

「お前、そういうところは真面目だよな」

「虹夏ちゃんには、不義理なことをしたくないので」

「お前、真面目だけど面倒臭いヤツだな」

「自覚はあります」

 

 星歌さんの言葉に俺は苦笑する。

 

 それに、俺は激重感情よりもまずは恋愛感情を自覚することから始めないといけないんだ。だからこれからは、色んな人に積極的に「恋とは何か」をいうことを聞いて回ろうと思います。

 

「あ、星歌さん。星歌さんにとって『恋』ってなんですか?」

「何いきなり少女漫画みたいなこと言ってんだお前!?」

「今の俺は恋愛学習マシーンなんですよ。小学生で止まってしまっている情緒をどうにかして成長させようとしているんです」

「全然意味わかんねえ……」

「いいからいいから。教えてくださいよぉ~。可愛い弟分に正しい恋愛観を身に着けさせるためだと思って~」

「珍しく甘えてきたかと思ったら、そんな内容かよ!?」

 

 星歌さんは口調こそ厳しいけど、身内にあまあまなのは知っている。だから俺がこんな風にお願いすると、大体言うことを聞いてくれるんだ。

 

 そこで俺は気付いた。

 

 俺に甘えてくる人達は……今の俺と同じような気持ちになっているのだと。なるほど、一つ勉強になった。でも多分、勉強になったところで俺の甘やかし癖は治らないんだけどね。

 

「恋……恋ってのはなぁ……」

「恋ってのは?」

「こう……甘酸っぱくて、胸がドキドキして苦しくなってキューってなって、でもすごくわくわくして……」

 

 星歌さんは恥ずかしそうに頬を染めながら答えてくれる。

 

 大槻先輩と似たようなこと言ってるよ。今年三十歳になるアラサーが言うことか……これが。

 

 まあ、それが星歌さんの可愛いところなんだけど。

 

「あら可愛い」

「お、おまっ……おまっ……!? 聞いてたのか!?」

「聞いてましたよ~。レンくんがマネージャーうんぬんのあたりから」

「めっちゃ序盤じゃねえか!?」

 

 PAさんがクスクス笑いながらカウンターの裏側からひょっこり顔を出す。そこにいたってことは、最初から全部聞いてましたね?

 

「お前もなんでメモしてんだよ!?」

「恋愛学習帳です。色んな人の話を聞いて、恋愛感情を芽生えさせる参考にしようかと……」

「バカッ! そんなもん消せ消せ消せっ!」

 

 店長さんが身を乗り出して俺からメモ帳を奪おうとしたので、俺はメモ帳を取られないように手を高く上げて椅子に座ったまま後ろにのけぞるような体勢になる。

 

「あ……」

 

 すると、体重をかけ過ぎたのか、そのまま後ろに倒れそうになってしまい……

 

「レンくん、危ないですよ~」

 

 PAさんが後ろから俺を支えてくれた。後頭部にPAさんのおっPAいが当たってる。柔らかい。

 

「店長の恥ずかしい言動なんて今に始まったことじゃないんですから、過剰に反応し過ぎですよ~」

「お前、フォローすると見せかけて全力で私をけなしてるよな?」

 

 PAさんは俺の両肩に手を置いたまま、ニコニコと星歌さんを見ている。

 

「あ、PAさんにとって『恋』とは一体何ですか?」

「まだこの話題続けるのかよ!?」

「俺が人間的に成長するために大事なことなんです!」

「お前のその気迫は何なん?」

 

 言われてみれば確かにそうだ。俺は今まで、恋について深く考えたことなんてなかったのに……

 

 いつからだろう。この感情に強く関心を抱くようになったのは。

 

 あ……

 

 あの時だ。間違いない。

 

 俺には一つ心当たりがあった。

 

 結束バンドのみんなで花火を観に行った日。後藤さんの家で、彼女の浴衣姿を見た時。俺は、今まで経験したことのない、知らない感情を自覚した。

 

 多分、あれがきっかけだったんだと思う。

 

 でも、今は後藤さんと話しててもあの時みたいな気持ちにはならないんだよな。不思議だね。

 

「私にとって恋とは……ですか~。そうですねぇ……」

「レン、聞く相手を間違えてる。ろくな答えが返ってこないから」

 

 そんなことないでしょ!? PAさんって色々経験豊富そうだから、絶対ためになるお言葉をくださるはず。

 

「『熱』ですね」

「熱……ですか?」

「ええ。恋をすると、色々な()()が燃え上がるんですよ~」

「色々なものが、燃え上がる……」

 

 俺は目を閉じてPAさんの言葉を噛み締める様に呟き、メモ帳にしっかりと記載する。星歌さんはものすごく胡散臭そうにPAさんを見るけど……ぶっちゃけ星歌さんの意見より参考になりましたからね?

 

「普通、お前くらいの歳の男って、そういうことを口にするのは恥ずかしいだろ?」

「高校生の男の子なんて、格好つけたがりですからね~」

「俺は格好つける必要がないくらいイケメンなので」

「そういうところ、リョウにそっくりだな」

 

 星歌さんにそう言われて俺がわざとらしくしょぼーんとした表情になると、PAさんが優しく頭を撫でてくれた。優しい。良い匂い。おっぱい大きい。好き。

 

「じゃあ、次の質問ですが……」

「まだ続くのかよ!?」

「安心してください。今度はアウトローギリギリの渋いところへスライダーを投げ込みますので」

「ほんとだろうなぁ?」

 

 星歌さんがめっちゃ疑い深い目で俺を見てくる。……ほんとですよ?

 

「えー……星歌さんは俺を捕食したいと思いますか?」

「どこがアウトローギリギリだ!? インハイの胸元に火の玉ストレート投げ込んでんじゃねえか!?」

「むしろデッドボールでは~?」

 

 PAさんはクスクス笑い、星歌さんは俺の頭にチョップをしてくる。言っておきますけど、ふざけてなんてないですよ。これも真面目な質問ですからね?

 

 でも星歌さんがぎゃーぎゃーうるさくて仕方がないので、先日の江の島観光で俺という人間を客観的に分析した結果「成人女性に捕食される危険性極大」という結論に至ったことを二人に説明した。

 

「誰がそんな分析をしたんだよ?」

「SIDEROSの子達です」

「絶対廣井のせいだな!?」

 

 あと、喜多さんもその場にいたな。正確にはあくびちゃん、ふーちゃん、喜多さんの三人だ。廣井さんに風評被害がいってるけど……あとでフォローしておこう。覚えてたら。

 

「でも、見当違いかもしれないので、俺にとって一番身近な成人女性である星歌さんに意見を聞こうかと」

「ここで仮に私が『捕食したい』って答えたらどうする気なんだ!?」

「父さんと母さんに良い精神科医を紹介してもらいます」

「病人扱いか!?」

「だって、店長は二十九歳で、レンくんはまだ十五歳ですよ~? 歳の差は十四、ほぼ倍ですからね~」

「世界一残酷な引き算はやめろ!!」

 

 もっと正確に言うと、星歌さんの方が俺より誕生日が早いから、一時的に年齢差が倍になるんだけどね。

 

「小学生の頃から知ってる年の離れた弟分が恋愛に興味を持ち始めて熱心に勉強している……事実だけ羅列すると感動するはずなのに悲しみしか浮かんでこねえよ」

「結局、捕食したくないということでいいですね?」

「当たり前だろ!!」

「わかりました。───星歌さんは俺を捕食したくない、っと」

「それはメモしなくていいヤツ!!」

 

 星歌さんはそう言うけど、記念すべき成人女性第一号の貴重な意見なんですからしっかり記録に残しておきますからね。

 

「PAさんはどうです? 俺のこと、捕食したいですか?」

「お前ほんとどんなメンタルしてんだ?」

「レンくんのことをですか? う~ん、ちょっと恥ずかしいですけど……」

「おいやめろ。お前もそれ以上口を開くな」

「正直、()()()()()ところはありますね~」

「口を開くなって言ったよなぁ!?」

「なるほどなるほど。俺にはそそられるところがある、っと。勉強になるなぁ」

「今のお前、ライオンの檻に入れられた生肉状態だからな!?」

 

 PAさんの言葉をしっかりとメモに残しておく。正直、冷静を装っているけど……もしもPAさんに誘惑されたら俺は拒否できる自信がない。というか、拒否できるヤツは男じゃないと思う。

 

 だってすっごくえっちな見た目してておっぱい大きくて可愛い声してるんだよ? 男の夢が詰まりまくってるじゃん。

 

 まあでも、さすがにPAさんも俺の話に乗ってくれただけで本気じゃないだろうし……本気じゃないよね?

 

「今度、SICKHACKの人達にも聞いてみよう」

「もう好きにしろよぉ……」

 

 あ、星歌さんがとうとう諦めた。だけど俺は諦めない。「恋とは何ぞや」という問いの答えを見つけるまでは!

 

「がんばってくださいね~」

 

 PAさんが椅子に座っている俺を後ろからを抱き締めて頭をなでなでしてくれる。後頭部にめっちゃおっぱい押し付けられてやばい。

 

 やっぱ俺、この人に本気で迫られたら抵抗できないや。

 

 俺は今日、生まれて初めて草食動物の気持ちを───()()()()側の気持ちを理解したのだった。

 

 これで「恋」の理解に一歩近づいたな、ヨシ!




 ぽいずんと全然絡めなかった!

 次回がっつり絡むから許してください。

 前半は名もなきモブ視点による美少女ぼっちちゃんのクラスにおける反応、後半はレンくんの恋愛学習教室。

 レンくんがかなりぶっとんだことをやっていますが、原作六巻で山田もえれちゃんや猫々をおとなしくさせるために、STARRYで蟹を食わせるというぶっとんだことをやっているので、似た者姉弟ということで。

 では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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