【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#40 Title of yami

 悪くない。

 

 あたしの結束バンドに対する第一印象はそれだった。

 

 大槻ヨヨコが一目置いているバンドだからということで、何気なくオーチューブで彼女達のライブ動画を観てみると、拙い技術ながらも一生懸命さが伝わってくる。下北に数多くいるアマチュアバンドの一つではあるけど、()()()()()()()確かに光るものを感じた。

 

 でも、たったこれだけのことで、あの大槻ヨヨコが一目置くかしら? しかも、SICKHACKの廣井きくりもやたらとこの子達を高く評価していたし……

 

 廣井きくり、打ち上げ、飲み会、山田レンに晒した醜態……あ゙ーーーっ!! 忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ!!!

 

 あの時の私の失態……山田レンに弱みを握られるなんて……うぎぎぎぎぎぎぎっ!!

 

 ふぅ……話を戻しましょう。

 

 確かに、結束バンドに対する私の第一印象は決して悪くはなかった。だけど、取材対象となるほど、()()()()()()()のだ。

 

 じゃあなんで、わざわざ山田レンに、あたしの弱みを握っている憎たらしいイケメン高校生の山田レンに連絡を取ってまで彼女達の元を訪れたのか。

 

 理由は───一つ。

 

「それでは~……リードギターの後藤さんにお聞きしたいんですけど~」

「あ、は、はい。な、ななななんでしょう?」

 

 あたしの目当ては、後藤ひとり。この子だ。

 

 

 

 

「あなた───ギターヒーローさんですよね?」

 

 

 

 

 「ギターヒーロー」は、オーチューブ界隈では知る人ぞ知る超絶凄腕ギタリストだ。動画の再生数は百万越えのものも多く、平均すると数十万といったところだろう。

 

 正直、最初はどこぞのプロのギタリストが匿名で投稿しているのだとばかり思っていた。

 

 だけど、違う。

 

 見つけた。

 

 あたしは見つけたのよ。ギターヒーローを。

 

 ただ、結束バンドの動画を観ても、すぐにはピンとこなかった。彼女達の最初のライブ動画はあまりにもお粗末な出来で、光るものはあったけど、正直……そこで視聴をやめようと思ったくらいだったから。

 

 でも、ほんの少し……ほんの少しの期待を込めて次のライブ、またその次のライブ動画を観ていく内に、気付く。

 

 このリードギターが時折見せる手癖……ギターソロパートでの圧倒的な技量……

 

 間違いない。この人だ。

 

 この人がギターヒーローだ!!

 

 衝撃の真実に気付いたあたしは、すぐさまロインで山田レンに連絡を取る。「結束バンドに取材を申し込みたい」と。

 

 彼は快諾した。連絡を入れたのは、ほんの数日前のことだったのに、彼はすぐに日程を調整してくれた。彼にとっても、()()の知名度をアップさせるチャンスだものね。

 

 まさか、あたしがギターヒーローさんの正体に気付いているとは夢にも思うまい。それどころか、あんたはこの子がギターヒーローさんだってことすら知らないんじゃないの~?

 

 ふっふっふ。前の打ち上げでは不覚を取ったけど、今度こそあたしの方が大人だってことをわからせてやるんだからねっ!

 

「あ、えっと……」

 

 ギターヒーローさんもとい、後藤ひとりさんはあたしの問いに戸惑っている。そりゃそうよね。こんなこと、聞かれるなんて想定外でしょうから。そもそも、他のバンドメンバーはこのことを知っているのかしら?

 

 ギターソロを積極的に取り入れているくらいだから、彼女が優秀なギタリストだってことは理解しているかもしれないけど……あなた達が思っているよりもずーっとずーーーーーっと、ギターヒーローさんはすごい存在なのよ?

 

 じゃじゃ~ん!! ついに明かされる衝撃の真実!! メンバーにずっと秘密にしていた……いつかは打ち明けようと思っていた……でも、でも……打ち明けた結果、バンドが不和に陥る可能性も捨てきれない!!

 

 だから打ち明けられなかったのよね? だって、バンドでの姿とソロでの姿があまりにも違い過ぎるから。簡単には信じてもらえないかもしれないから。

 

 でも大丈夫よ、ギターヒーローさん。

 

 たとえバンドメンバーが信じてくれなくても、これがきっかけでバンドに不和が生じたとしても……というか、この程度のことで不和になるくらいなら遠くない未来に解散するわよ!!

 

 だけど安心してちょうだい。あたしはあなたの味方───

 

「あ、はい。私がギターヒーローです」

「あっさり認めたーーーーっ!?」

 

 な、ななななななんでなんでなんでなんでよ!? こ、ここは……ここはもっとこう、漫画なら単行本十冊くらい引っ張って引っ張って引っ張って、回想やら葛藤やら色んなものを挟みまくって読者から反感を買って、それでももったいぶってもったいぶって……打ち明ける勇気を得られるようなイベントの先にようやく……ようやく認める展開でしょ!?

 

 それがなんで……「納豆嫌いだったよね?」「はい」みたいな気軽な感じになってるのよ!? さっきの戸惑いはどこいったの!?

 

「あ、わ、私……ひ、人と話すのが苦手で、急に話を振られてびっくりしちゃったから」

 

 戸惑ってた理由が単にコミュ障ってだっただけ!?

 

「そ、その反応を見る限り……他のメンバー達も……」

「あ、はい。みんな知ってます」

 

 ずこーっ!? ダッッセ!! ダッッッセ!!! ダッッッッセ!!!! さっきまでのあたし、ものすごくダサいぃぃぃぃっっっ!!! 

 

 何が「ついに明かされる衝撃の真実!!」じゃい!! すでに周知の事実じゃないの!!

 

「そ、それと……ライターさんにギターヒーローのことについて聞かれたら『認めていいよ』って言われていたので……」

「誰に?」

「や、山田くんに……」

 

 山田ァ!! 

 

 あたしが憎きイケメンの方へ視線を向けると、店長の金髪女にチョップされていたわ。何やらかしたのよ、あいつ?

 

「下手に誤魔化すより、認めてしまって記事の内容をコントロールする方が得策というのが、我が弟の意見」

 

 ベースの子が補足するように言う。やっぱりあんたの弟なのね! 苗字といい、顔立ちといい、血縁者だと思っていたけど!! ちくしょう、顔の良い姉弟ね!! 別の意味でも憎たらしいわ!!

 

「それに、ライターさんがあたし達に取材を申し込む理由が……『大槻さんが一目置いている』っていうだけじゃ弱いって。だからもっと、別のことを聞きたいんだろうって言ってました」

「……誰が?」

「レンくんが」

 

 山田ァ!!

 

 ドラムの子の言葉を聞き、再び憎きイケメンの方を見ると、今度は黒髪のエロそうな女に頭を撫でられていた。何やってんだ山田ァ!!

 

「それで、私達……ぽいずんさんのことを調べたんです。どんな記事を書く人なのかなって。……そしたら、結構アクの強いというか、癖の強いライターさんだってわかって、もっと調べたら実家の住所とか晒されてて……」

「あたしの個人情報が駄々漏れ!?」

 

 ギターボーカルの子がスマホであたしのことをボロクソに言っている某掲示板を見せてくる。やめろ!! ナチュラルに鬼畜な真似をするんじゃない!!

 

「それでもまだ、記事の内容で主導権を握られそうになったら『俺に振れ』って。とっておきのネタがあるからって……」

 

 山田ァ!!

 

 ぐぬぬぬぬぬっ!! あ、あたしが酔っ払ってあいつにベタベタ甘えてデロデロに甘やかされている動画を撮られたせいで~~~~~~~っっ!!

 

「で、でも……ぽいずんさんの記事は、それだけじゃないって、や、山田くんは、い、言ってました。ほ、ほんとはもっと、大きな記事を書きたいけど、任されなくて……すごく、苦労してるって」

「フェスの記事なんて任されないとわかっていても、あなたは真夏のクソ暑い中、しっかりフェスを観に来てた。最前列で、バンドの全てを五感で感じ取ろうとしていた」

「しかも、フェスには出られないけど、確かな技術を持ちながら燻ぶっているインディーズバンドのライブに積極的に足を運んで、彼らのことを綴った熱い記事を書いていますよね?」

「敵は多そうだけど、あなたのバンドに対する評価は的確で、真摯に向き合っていることがわかりました」

「だ、だから……取材を受けようって決めたんです。ちゃ、ちゃんとお話すればわかってくれる人だって……」

「ギターヒーローさん……」

 

 いい子じゃない!! この子達すっごくいい子じゃない!! あたしのことを、ちゃんとわかってくれて……記事もしっかり読んでくれて……

 

「って、や、山田くんが言ってました……」

 

 山田ぁ……

 

 あんたもいい子だったのね。顔が良くて女を甘やかすだけの男じゃなかったのね。ちょっとは見直し───

 

 って!! 黒髪の女に抱きしめられてデレデレしてるじゃない!? 見損なったわよ山田ァ!!

 

 はぁ……はぁ……もういいわ。山田のことは一旦置いておきましょう。

 

 それよりも今は、ギターヒーローさんのことについてよ。

 

「おほん。じゃあ、改めて質問しますけど……ギターヒーローさんは、ライブではどうして()()()演奏になるんですか? ソロの時とは全くの別人ですよ?」

「あ、それは……私、バンドを組むのは初めてで、人と合わせるのが苦手で……どうしても、突っ走る演奏になっちゃって……」

「でも、ぼっちの技量を腐らせておくのはもったいない。だから、どの曲にもぼっちが輝けるようなギターソロを入れてある」

「作曲はあなたが?」

「そう」

 

 ふーん、なるほど。その判断は悪くないわね。

 

 それに、ライブ動画を観る限り、ギターヒーローさんの次にセンスがあるのはこの子なのよね。ドラムの子も悪くないけど、先の二人に比べれば全然足りない。ギターボーカルの子は論外。多分、ギターを始めて一年程度ってところかしら?

 

「最初の質問に関してですけど、あなた達は『メジャーデビューを目指す』と言いました。では今後、具体的にどのような活動をしていくつもりですか?」

「今のあたし達には実力も知名度も何もかも足りません。だからまずは、しっかりと地に足をつけた活動で実力を磨く……具体的には、週一回の路上ライブ、月に一回か二回、ライブハウスでのライブ。基本的には下北で活動しますが、今後は活動のエリアを広げていくことも視野に入れています。そのためには、自分達だけじゃなく、他のバンドとの関係作りも重要だと考えています。今のところはSIDEROSやSICKHACKの人達と友好的な関係を築けていて、そのご縁があって今月は新宿FOLTでライブをさせていただくことになりました。それから───」

「ちょいちょいちょい! ちょい待ち! え!? 新宿FOLTでライブ!? マジで!?」

「はい、本当です。あ、喜多ちゃん。告知ってまだやってなかった?」

「今日が九月一日でキリがいいので、取材の後にやるつもりでしたよ」

「そんな大事な情報はさっさと開示しておきなさいよ!」

「あ、す、すみませんっ!」

 

 知らなかった。この子達、新宿FOLTの音源審査を突破できるくらいの実力があったの? あそこの収容人数はこことは比べ物にならないから、それ相応の実力がないとライブなんてできないのに……

 

 まさか、この短期間でさらに成長して───

 

「ライブと言っても、廣井さん達……SICKHACKの前座ですけどね」

「SIDEROSの人達も出演しますし」

「それに、半分はレンのコネ」

 

 山田ぁ……

 

 新宿FOLTでバイトしながらこの子達が出演できるよう営業をかけていたのね。今度こそ、ちょっとは見直してもいいわ。

 

 それに、コネとはいっても半分は実力で勝ち取った。そしてあたしはこの子達の演奏を、生では聴いたことがない。……聴いてみたいわね。

 

「メジャーデビューを目指すと言っても、結束バンドにはミニアルバムもMVもそれらを製作する資金もありません。だから今はみんなでバイトをしながら資金を貯めて、年明けを目途にMVの第一弾を製作し、来年の春にTOKYO MUSIC RISEへ再挑戦、そして……夏には未確認ライオットでグランプリを獲りにいきます」

「……本気? TOKYO MUSIC RISEで予選通過すらできていないあなた達が、十代最高峰フェスで一位を獲るって?」

「本気です。そのための努力を、惜しむつもりなんてない」

 

 ドラムの子が真っ直ぐにあたしを見据えて言う。他の三人も、力強くあたしの目を見てきた。……なるほど、バンドとして()()()、目標を共有することはできているというわけね。

 

 その熱意は認めてあげるわ。だけどね、熱意だけで駆け上がれるほどこの世界は甘くないのよ。夢半ばで散っていった数多のバンドを見てきたあたしにはわかる。

 

 必要なのは、実力。聴く人間を一瞬で魅了するような圧倒的な実力。

 

 今のそれが備わっているのは……残念ながらギターヒーローさんだけよ。

 

 でも、この子達はそれがわかっている。わかった上で、ギターヒーローさんが実力を最大限発揮できるような工夫もしているし、今後のバンド活動についてもこの子達なりに具体的に考えていた。

 

 ただ漠然とメジャーデビューを口にするような連中とは違う。

 

 この子達は、結束バンドはすでに方向性を決めている。

 

 ……悪くないわね。

 

 ただ、だからこそ余計に───

 

「き、聴いていかれますか?」

「え?」

 

 それまで沈黙を貫いていたギターヒーローさんが口を開く。

 

「わ、私達の演奏……聴いていかれ───いや、聴いてください。今の私達の、全力を」

 

 ギターヒーローさんの綺麗な青い瞳が真っ直ぐにあたしを捉えた。

 

 そしてあたしは、彼女に……彼女の言葉に、無意識の内に頷いていた。

 

 

 

 

「なんすか、やみさん。わざわざ俺だけ呼び出して」

 

 取材が無事に終わり、結束バンドと山田レンに見送られたけど、どうしてもあたしは彼と話がしたくて、彼だけを近くのカフェまで連行した。

 

「結束バンド……よかったわ」

「そうですか」

「映像と、全然違う。まだまだ足りないところばかりだったけど、それを差し引いても、よかった」

 

 あたしがそう言うと、山田レンは嬉しそうな表情を浮かべながら笑う。

 

「本当はね」

 

 あたしはポツリと呟いた。

 

「ギターヒーローさんのこと、記事にしようと思って()のよ」

 

 あたしが今日、取材を申し込んだ最大の理由。彼女のことを記事にして、その正体がちょっと内気で気弱な女子高生だったってことがわかれば、反響がすごく大きいと思ったから。

 

「今は、思ってないんですか?」

「思ってないわ。そんなことをしても、彼女の───彼女達のためにならない。むしろ、ギターヒーローであるという真実はしかるべき時まで隠すべきね」

「しかるべき時?」

「彼女が、バンドでもソロの時と何ら変わりない実力を発揮できるようになるまでよ」

 

 もしも今、ギターヒーローさんの正体が後藤ひとりさんだということを発表してしまえば、彼女だけでなく結束バンドにまで悪影響が出てしまうだろう。

 

 いやそもそも、ギターヒーローと結束バンドの後藤ひとりさんの実力が違い過ぎて、信じてもらえず反感を買ってしまう可能性が非常に高い。そうなってしまえばもう、バンド活動どころじゃなくなってしまう。

 

 あたしは別に、彼女達を潰したいわけじゃないんだ。

 

「俺からも聞いていいですか?」

「何?」

「今の後藤さんって、プロのバンドに放り込んでも通用します?」

「当たり前でしょ。彼女は周りに合わせられなくて実力を発揮できないって言ってたけど、もっとレベルの高い……それこそSICKHACKにでも放り込めば、彼女は周りに気を遣うことなく本来の実力を存分に発揮できるでしょうね」

 

 そう。彼女が成功する一番の近道は、すでにメジャーデビューを果たしているハイレベルなプロのバンドに放り込む……いわば引き抜きに応じることだ。

 

 正直、あたしは編集長や自分の伝手を使ってギターヒーローさんを業界の人に紹介しようとも考えていた。そう()()()だと。

 

 だけど……

 

「あの子達の演奏を聴いたら……そんなことできないわよ」

 

 ギターヒーローさんと話すのは初めてなのに。結束バンドの演奏を聴くのは初めてなのに……

 

 不思議と「彼女はこのバンドじゃなければダメだ」と思ってしまった。

 

 彼女は、もっとレベルの高いステージで輝ける人なのに。

 

「……よかった。俺の一番の不安は、()()だったんですよ」

 

 山田レンは、あたしの言葉を聞いてほっと息を吐く。心の底から、安堵したような表情だった。

 

「今日の取材は大まかな内容を事前に打ち合わせていたとはいえ、細かいところはアドリブでしたから。ギターヒーローについて言及されるかもとも思ってましたし……もっと言えば、後藤さんが引き抜かれるかもと思ってました」

「……あたしの考えを見事に予測していたらしいわね?」

「だって、やみさんって()()()()()()じゃないですか。ウチの虹夏ちゃん……ドラムの子でさえ、後藤さんのソロを聞いてすぐに『ギターヒーローだ』って見抜いたんですよ? それなら、この業界にもっと詳しいやみさんならすぐに気付くだろうって考えたんです」

 

 あんたが賢過ぎるせいであたしは一人で恥を晒してたんだけどね!!

 

「でも、本当に安心しました。あの子達の演奏を聴いて……そりゃあ、SIDEROSやSICKHACK、ケモノリアの人達にはまだまだ及ばないですけど、それでもやみさんは……あの子達を認めてくれた。俺みたいな素人や同じバンドマンじゃなく、()()()()()()()()()に評価された。それが本当に、嬉しいんです」

「もしもあの子達がただのお遊びバンドで、ギターヒーローさんの才能を埋もれさせるようなバンドだったら本気で引き抜きをかけてたわよ。でも、そうじゃなかった。あの子達なりにしっかり将来を見据えて活動している。口先だけじゃない。本気で成し遂げようとしている。それが十分、伝わってきた。それだけのことよ」

 

 もっとも、熱意だけではどうにもならないことが多いけどね。だけど、彼女達にとって、それは諦める理由にはならないのでしょう。そして、どんな状況になっても諦めない姿勢や向上心を持ち続けられるのなら……本物でしょうね。

 

 ただ、熱意も向上心も実力もあるバンドが夢半ばで散っていく。ここがそういう世界だということも忘れてはいけないわ。

 

「あらためて、あの子達に伝えておきますよ」

「そうしてちょうだい。せっかく面白くなりそうなバンドだもの。簡単に終わってほしくないわ」

「他に何か、伝えておくことはありますか?」

「ドラムの子とギターボーカルの子、もっともっと精進しなさいと言っておいて。特にギターボーカル。あの子、ギターを始めて精々一年でしょ?」

「いや、まだ半年足らずですね」

「はん、はんとっ!? そ、それであの成長速度……!?」

「やばいですよね。俺もギターはちょろっと齧ってますけど、彼女を見てるとなんだか悲しくなってきますよ」

「なら、ボーカルとしてのテクが余計にネックになってくるわね」

「あ、やっぱり?」

「声域は広いし、良い物を持っているんだけど、まだちょーっとカラオケ気分が抜けてない気がするのよね。ボーカルの指導ができる人、いないの?」

「……心当たりなら」

「だったら、細かいテクもそうだけど、フロントマンとしての姿勢や在り方を学ばせなさい。それを自覚するだけでもかなり違ってくるから」

「メモメモ……」

「そのメモ『恋愛学習帳』って書いてない!?」

 

 山田レンがおもむろに取り出したメモ帳には表紙に筆で「恋愛学習帳Vol.1」と書かれてあった。何よその怪しいメモ帳は!?

 

「これは文字通り……俺が恋愛感情を学習するためのメモ帳です。あ、ついでにやみさんにも聞いておこう。やみさんにとって『恋』って何ですか?」

「もうどこからツッコんでいいかわからない!! このタイミングでそんなこと聞く!?」

 

 恋愛感情を学習するってどういうことよ!? あんたみたいなイケメンだったらそんなことしなくても選り取り見取りでしょうが!! こんちくしょう!!

 

 初対面のあたしに対して優しかったのも、一目惚れじゃなくてこいつの()()だって教えられて恥かいたし!! くっそー!! この男、どれだけあたしに恥をかかせれば気が済むの!? いつかぎゃふんと言わせてやるんだから!!

 

「で、やみさんにとって『恋』とは?」

「そんなキラキラした純粋な瞳で尋ねてくるなっ!!」

 

 答えるわけないでしょ!? って、ああっ……!! そ、そんな悲しそうな表情になるのはやめなさい!! なんかあたしが悪いことしてるみたいでしょ!?

 

 ……しょ、しょうがないわねえ。い、一度しか言わないからよく聞きなさいよ? 

 

 こらっ! そんな嬉々とした表情でメモしないの!

 

 はあ……ほんと、調子狂うわねぇ……

 

 

 

 

 今日は本当に実りのある一日だった。結束バンドの取材は無事に終わって、やみさんも結束バンドを正しく評価した上で、ギターヒーローについては記事にしないって約束してくれたし。

 

 それに何より、俺の恋愛学習帳のページがたくさん埋まったこと! 

 

 これで俺も「恋」の真実に一歩近づいたかもしれない。でも、まだサンプルが星歌さん、PAさん、やみさんの三人だけだから、もっともっと色んな人から話を聞きたい。明日は佐々木さん辺りに聞いてみようかな。

 

 とまあ、俺の恋愛学習珍道中は置いておくとして……今後、結束バンドがやらなければならないことは、やはりスキルアップ。

 

 特に虹夏ちゃんと喜多さん。この二人は後藤さんや姉貴に比べて技術的に劣っている。だけど、裏を返せば伸びしろがとても大きいということ。

 

 ただ、俺には彼女達のスキルを伸ばしてあげる指導やアドバイスなんてできない。

 

 ならばどうするか?

 

 俺にはこういう時、とても頼りになる心強い知り合いがいる!

 

 スマホを取り出し、ロインを開いてある人物の通話マークをタップした。

 

「もしもし、志麻さんですか?」

『珍しいね、君から連絡をくれるなんて。もしかして、とうとうドラムを本格的に始めるつもりになったのかな?』

「いや、そうじゃなくて……ちょっと、お願いしたいことがありまして」

『お願いしたいこと? 私にか?』

「はい。志麻さんと───廣井さんに」

『廣井にもか? あー……なるほど、なんとなく予想はついたよ』

 

 さすが志麻さん。話が早い! 素敵! SICKHACKの実質リーダー!

 

「ウチのドラムとギターボーカルの技術指導をお願いしたいです」

『それはかまわないが……ヨヨコに声をかけなくていいのか?』

「あ、それは大丈夫です。廣井さんに話が通れば『姐さんの手を煩わせるなんて! 私もお手伝いします!』って感じで勝手についてくると思うんで」

『ヨヨコに対する理解が深すぎる』

 

 俺は電話越しに志麻さんがうんうんと頷いているのがわかった。あと多分、話を聞きつけた他のSIDEROSっ子やイライザさんも面白がってやって来ると思う。

 

 でも、ごめんねイライザさん。今回は後藤さんと姉貴を連れて行くつもりはないんだ。あくまで喜多さんと虹夏ちゃんの秘密特訓って形にしたいから。バイトのシフトのこともあるし。

 

 姉貴と後藤さんの二人だけがシフトに……

 

 星歌さんがんばれ。

 

『日程については、君達に合わせるよ』

「ありがとうございます。急な申し出を受けていただいて……ライブも近くてお忙しいでしょうに」

『かまわないさ。むしろ、ウチでのライブが近いからこそ、少しでもスキルアップをしておきたいんだろう? 結束バンドの演奏を聴く限り、ライブまでの短期間で伸びそうなのはその二人だけだろうからね』

 

 志麻さん……俺の考えなんて全部お見通しなんですね。やばい、格好良すぎる。俺が女だったら志麻さんに惚れてた。絶対に。

 

 是非とも志麻さんにも「恋」について熱く語ってもらいたい! 何なら志麻さん専用ノートを作った方がいいかもしれない。よーし、今日のうちに準備しておくぞー!

 

「じゃあ、明日にでもまた連絡させてもらいますね」

『ああ、待ってるよ』

 

 そして俺は通話を切る。あとは虹夏ちゃんと喜多さんに連絡をすればいいな。で、技術指導のお礼のお菓子を買いに行って、日程調整して……

 

 そこでふと、俺は思う。

 

 たとえ自分は演奏できなくとも、こんな形で好きなバンドに関わって、彼女達の活動を少しでもお手伝いできるのは───

 

 こんなにも、楽しいことなんだなって。

 

 あ、ちなみにやみさんにとって「恋」とは「いつの間にか突然始まり、後から気付くもの」だそうです。

 

 深ぇ……




 ぽいずん回!

 原作とは違ってかなり穏便に取材が終わりました。本作の結束バンドは現時点でガンギマリ状態ですからね。

 次回は虹夏、喜多ちゃん強化大作戦!

 でもレンくんは本格的に関わらず、新宿FOLTで恋愛学習マシーンと化す予定です。

 最近ぼっちちゃんの影が薄い。

 どこかでテコ入れする必要がありますね。

 では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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