【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#41 続・ラバーリポート

「こ、こんにちは……本日、ボーカルの技術指導をさせていただく廣井と申します。よろしくお願いします」

「誰!?」

 

 志麻さんに連絡を取った週の金曜日、俺と虹夏ちゃんと喜多さんは新宿FOLTを訪れていた。そして、訪問するなり、志麻さんとイライザさん、SIDEROSのメンバーに加えて、酒臭くない挙動不審の廣井さんという謎の生命体が俺達を出迎えてくれることになり、戸惑いを隠せない。

 

「し、志麻さん……?」

「普段の廣井じゃ技術指導なんて無理だからね。四十八時間ゆっくりじっくり酒を抜いた成果だ」

「み、みなさん……いつもご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「これ逆に大丈夫ですか!?」

 

 以前、廣井さんから本当は陰キャで不安を紛らわすために酒を飲んでいると聞いたことはあったけど、素の廣井さんって、こんな感じになるのか……

 

「廣井さん、今日はよろしくお願いしますね」

「あ、よろしくお願いします」

 

 喜多さんが声をかけると廣井さんはサッと視線を逸らしてしまう。か、完全に普段の後藤さんと同じ態度だ。

 

「廣井さん、これ……よかったらみなさんで召し上がってください」

「あ、ありがとうございま───すっ!!」

「なんで逃げるんですか!?」

 

 俺が廣井さんに菓子折りを渡そうとするも、廣井さんは俺と目を合わさず志麻さんの後ろに隠れてしまった。マジか……マジか……あんなにウザ絡みしてくる廣井さんがこんなことに……

 

「ご、ごめんなさい。山田()()のような格好良い男の子と話すのは、慣れてなくて……」

 

 そして志麻さんの後ろからひょっこりと顔だけ出して、恥ずかしそうに廣井さんはそう言った。あ、ヤバい……この感じ、まさか……

 

 まさか、この感情は……いや、ありえない。廣井さんだよ? あの廣井さんだよ? STARRYに入り浸って酒臭くてライブではヤジを飛ばしてくるあの廣井さんだよ? 姉貴のダメ人間レベルをMAXにしたような女だよ?

 

 そんな、そんな廣井さんに対して俺は……

 

「はっ!? れ、レンくん……あなたまさか……廣井さんを……!?」

「俺が、廣井さんに……こんな感情を抱いてしまうなんて……」

「だ、ダメよレンくん! 他の人はいいけど廣井さんだけは絶対ダメ! いくら恋愛感情を学習中だとしても、廣井さんを好きになるなんて私が許さないわ!」

「廣井さんを甘やかしたいと思ってしまうなんて……」

「あ、いつものレンくんだったわ」

 

 いやいやいや。これは俺の中でかなり衝撃的な出来事だよ? 正直、廣井さんって「俺が雑に扱う女No.1」候補だったから。そんな廣井さんを甘やかしたくなるって……今の廣井さんがよっぽど俺にクリティカルヒットしたんだね。

 

「私を好きになってもいいことなんてありませんよ? そ、それに……き、君にもたくさん迷惑をかけたので、甘やかされると……は、恥ずかしいです」

「ぐああああああああああああああああっ!?」

「レンくんが雄叫びを上げて膝をついた!?」

「普段の廣井さんと今の廣井さんのギャップに脳が焼き切れた挙句、レンくんの魂に刻まれている甘やかしセンサーが全開で反応している!?」

「……山田くんも難儀な生き物だね」

 

 志麻さんが他人事のように言うけど、俺がここまで追い詰められることになったのは、間接的にはあなたのせいですからね?

 

 でも、正直……これはヤバい。普段の廣井さんを見ているだけに、そのギャップで甘やかしたい欲求が暴走しかけている。俺ってこんなにも女の人のギャップに弱かったんだな。恋愛学習帳にメモしておこう。

 

「大槻先輩、抱きしめて頭撫で回していいですか?」

「いきなり何をとち狂ったことを言っているの!?」

「今の廣井さんを見て俺の甘やかしたい欲求が抑えきれなくなりそうで……とりあえず視界に入った大槻先輩でその欲求を晴らそうと」

「みんなの前でそんなことできるわけないでしょ!?」

「二人きりならおっけーと……楽屋行きます?」

「行かんわっ!!」

 

 大槻先輩に断られてしまった。甘やかしたい欲求をぶつける相手に大槻先輩を真っ先に選んだあたり、俺って先輩にかなり甘えてるよなぁ。……甘やかしたいのに甘える? あかんまた脳みそバグりそう……

 

「レンくん、おいでー」

「虹夏ちゃん……」

 

 虹夏ちゃんが笑顔で両手を広げて待っていたので、俺は躊躇うことなく虹夏ちゃんを抱きしめて頭を撫で回す。あ、虹夏ちゃんのアホ毛が嬉しそうにブンブン動いてる。やっぱり虹夏ちゃんは可愛いね。

 

「なんか、レンさん情緒不安定じゃないっすか?」

「レンくんは最近、恋愛感情を積極的に勉強しているのよ。多分そのせいね」

「レンくん……廣井さんにぶつけられない欲求をヨヨコ先輩でも晴らせなかったから、さらに別の女の子で発散してる~」

「状況だけ箇条書きにすると、山田さんがとんでもないクズに思えますね~」

「あなた達笑顔でなんてこと言ってるのよ!?」

「ヨヨコ先輩がレンさんを受け入れてたらこんなことにならなかったっすよ?」

「私が悪いみたいな言い方しないでくれる!?」

 

 俺が虹夏ちゃんに癒されていると、あっちはあっちで変な盛り上がりになっていた。確かに、最近の俺はちょっと情緒不安定だったかもしれない。気をつけないと……

 

「大槻さん……」

「ヨヨコ先輩……」

「ヨヨコせんぱぁい……」

「う、うぅ……わ、わかったわよ! や、山田っ! こっち来なさい! 私のことも甘やかしていいからっ!」

「あ、虹夏ちゃんのおかげで落ち着いたんで大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 

 俺がそう言うと大槻先輩が顔を真っ赤にしながら俺をポコポコ叩いてきた。いやほんとすいません。情緒不安定でご迷惑をおかけして変な気遣いまでさせちゃって申し訳ないです。

 

 

 

 

 その頃のSTARRY

 

「ぼっち、今日はレンも虹夏も郁代もいない。それがどういう意味かわかるな?」

「あ、はい(全然わからないです)」

「今日……STARRYで一番偉いのはこの私! つまり、ここは山田王国(キングダム)! ぼっちよ。我が手足となって馬車馬の如く働くがよい」

「あ、はいっ」

「てめーも働け! あと、一番偉いのは店長の私だっつーの!」

 

 

 

 

「いや~、ごめんね山田()()。完全に素面だとさすがにキツイわ~」

「なんか……その姿を見て安心しました」

「これでも()()()()で抑えてるから大丈夫。よぉ~し! 喜多ちゃん、お姉さんがフロントマンのいろはを教えてやろうじゃないか~」

「は、はいっ。よろしくお願いします!」

 

 廣井さんに、泥酔しない程度にアルコールを与えてコミュ力を回復させたところでその場は一旦落ち着いた。会話ができないと技術指導もクソもないからね。

 

 それにしても、素面状態の廣井さんには心を揺さぶられるものがあった。後藤さんとは違って、妄想が激しい奇行陰キャじゃなく、ひたすら地味地味している陰キャ。

 

 でも、後藤さんみたいに前髪で顔を隠したりしてないから、学生時代もひそかに人気があったに違いない。

 

「素面の廣井さんだとライブは無理ですね」

「実は一度だけ、酒の力に頼らずにライブしたことがあったんだけど……」

「だけど?」

「……察してくれ」

「あっ……」

 

 志麻さんは気まずそうな表情で俺から目を逸らす。ド滑りしたんですね。わかりますよ。あの居たたまれない地獄のような空気になっちゃったんですね。俺の姉貴も中学時代に同じことやらかしてお通夜になったことがありまして……

 

 俺は志麻さんに深く共感し、慰め合う。苦労してるんだよな、この人も……

 

 なんかもう、あれだな。俺の甘やかしセンサーがSICKHACKとSIDEROSの全員に反応しているあたり、俺はもうダメかもしれない。

 

「虹夏ちゃんは私とだね。動画を観る限り、演奏全体のバランスを取ることに関しては一定のレベルに達しているから、今回は精密さと個性を主張することを重点的にやっていこうか」

「よろしくお願いします!」

「喜多郁代! あなた達のようなバンドが姐さんに指導してもらうなんて普通はありえないんだからね。感謝しなさいよ」

「あれぇ~? 大槻ちゃんも手伝ってくれるんでしょ~?」

「そうなの? やっぱり大槻さんって優しいのね」

「違うわよっ! 姐さんの手を煩わせるまでもないってだけだからっ!」

「大槻ちゃん、そういうのはね……ツンデレっていうんだよ~?」

「店長と同じなのね……」

「つ、ツンデレなんかじゃありませんっ!」

「でも、()()()に手伝ってもらえるってすごく嬉しいわ。よろしくね、大槻さん」

「お、お友達……えへへ」

「ヨヨコ先輩が一瞬で陽キャに陥落されたっす」

 

 こうして、虹夏ちゃん、喜多さん、廣井さん、志麻さん、大槻先輩の五人はスタジオへと入っていく。今月の新宿FOLTでのライブに向けて、存分にレベルアップしてきてください。俺も俺でレベルアップしておくから。

 

「レンはどうするの~? 私がギター教えてあげようか?」

「レンさんはドラマーになるんすよ。イライザさんはお引き取りください」

「いえいえ。ここは山田姉弟でベーシストになるべきですよ~」

 

 なんで俺も楽器を練習する流れになってんの? 気持ちはありがたいんだけど、それよりも俺はやりたいことがあるんだよね。

 

「やりたいこと~?」

 

 ふーちゃんが首をかしげて俺に尋ねてくる。

 

「みなさんにはこれから、俺の恋愛学習教室に付き合ってもらいます!」

 

 

 

 

 その頃のSTARRY

 

「見ろぼっち。今日はカップルが多い。こんな日に限ってレンがいないとは……『私の弟はあなたの彼氏より百倍イケメンですよマウント』が取れない」

「あっあっあっ……り、リア充……(彼氏とライブに来るとかリア充ポイント高過ぎ……おえっ! あ、でも私も山田くんと花火大会に行ったり海で遊んだりしたから……もしや、私の方が格上っ!? ふっ、そうだ後藤ひとり……この夏休みで私は変わったんだ!! リア充なぞ、何も恐れることはない!!)」

「すみませぇ~ん。カルピスとストローを二本お願いしまぁ~す」

「おいおい。別にストローは一本でいいだろ?」

「だってぇ、たっくんと一緒に飲みたかったんだもぉん♡」

「しょうがないなぁ♡」

「……ぼっち、カルピス」

「りょ、リョウさんがやってください」

「お前ら押し付け合ってんじゃねえ!!」

 

 

 

 

「え~、それではこれより『山田レンの恋愛学習教室』を始めます」

「わ~!」

「楽しそう!」

「……レンさんが恋愛について教えるみたいになってるっすよ?」

「実際は山田さんに『恋』について教えるんですよね~?」

 

 ライブハウス内の一角でテーブルを借りて、俺、イライザさん、あくびちゃん、ふーちゃん、幽々ちゃんの五人で恋愛学習教室を開く。今日だけでサンプルが四つも手に入るな! あ、でも志麻さんや廣井さん……廣井さんは別にいいか。あと、吉田店長にも聞いておきたいね。

 

「みなさんに順番に聞いていこうと思います。まずはイライザさん!」

「はーいっ!」

 

 俺が指名するとイライザさんが笑顔で元気よく手を挙げる。相変わらずおっぱい大きいですね。

 

「ずばり、イライザさんにとって『恋』とは何ですか?」

「ふふーん! ズバリ『戦争』だヨ~!」

「せ、戦争っ!?」

 

 俺はその言葉に衝撃を受けながらメモを取る。

 

「そうだヨ! 恋はね、奪い合いなの! ライバルを蹴落として~、陥れて~、意中の人を手に入れる! 強ければ生き、弱ければ死ぬ! 志々雄真実もそう言ってたヨ!」

「強ければ生き……弱ければ死ぬ……なるほど、恋は戦争。意中の人の隣に立てるのはたった一人! その座を、ありとあらゆる方法で勝ち取れと! そういうことですね?」

「そのとーり! 私の大好きなアニメに、こんな名言がある……『ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん』」

「い、イライザ様……」

「苦しゅうないゾ~! 私を崇めたまえ~!」

 

 俺が感激した表情でメモを取っていると、イライザさんが俺の頭を撫でてくれた。なんか、イライザさんに後光がさしているように見える……

 

 この言葉、胸にしっかり刻み付けておかないと!

 

「開幕からとんでもねえ爆弾をぶっこんできたっす。このままじゃレンさんの恋愛観がやべーことに……」

「じゃあ、次はあくびちゃんね?」

「ウチっすか? イライザさんと比べたらインパクトのない当たり前のことっすよ?」

「俺は……その当たり前すらわからないんだよね」

「まあ、そこまで言うなら……」

 

 あくびちゃんは少し恥ずかしそうだった。珍しいな。あくびちゃんって大体のことは飄々とスマートにこなすイメージがあったんだけど。いやでも、こういうサバサバした女の子が恥ずかしがるのが恋なのか! また一つ勉強になったね。

 

「嫉妬するかどうかじゃないっすか?」

「嫉妬?」

「そうっす。例えば……難しいかもしんないすけど、想像してみてください」

「がんばる」

 

 何を想像すればいいのかな?

 

「まず、すごく仲の良い女の子を一人、思い浮かべてください」

「はい」

 

 すごく仲の良い女の子……たくさんいるけど、色んな意味でパッと思い浮かんだのは後藤さんだな。色々とインパクトのある子だし。

 

「その子が……自分以外の男の子とすごく仲良くお話ししたり、二人きりでお出かけしたりするとします」

「うんうん」

「すると、心がもにゃっとしないっすか?」

 

 後藤さんが、俺以外の男子と仲良くおしゃべりして……二人きりで遊びに行って……

 

 成長したなあ! 後藤さん!

 

「感動しました……」

「……ぼっちさんを思い浮かべたっすね?」

「なんでわかるの!?」

「わかんない方がおかしいっすよ。あー……でも、ウチの例えも悪かったっすね。ヨヨコ先輩……もダメっすね。あの人もぼっちだから同じ反応になる。じゃあ虹夏さん? それとも喜多さん?」

「難しいね」

「そうなんすよ。まあ、とにかく……自分の身近にいる仲の良い女の子が、自分以外の男と仲良くしてたり、付き合ったりしてることに対して『悔しいな』っていう、もにゃっとした感情が生まれるようだったら……それは限りなく『恋』に近いと思うっす」

「嫉妬……悔しい……あくびちゃん、メモしたいからもう一回言ってもらっていい?」

「恥ずかしいから嫌っす」

 

 あくびちゃんはそう言って、プイっと顔を逸らした。本当に珍しい反応だな。こんなに恥ずかしがってるなんて。

 

 でも、普段はサバサバしてる女の子が照れてるのって、すごく可愛く見えるよね。マスクでよくわからないけど、多分ほっぺたも赤くなってるんだろうなぁ。

 

「じゃあ、次はふーちゃん」

「私は……はーちゃんとちょっと重なるところがあるけど『独占欲』かなぁ?」

「独占欲?」

「うん。例えば、レンくんにすごく可愛くて学校の人気者な彼女ができたとするよ? それで、その彼女がレンくんを放って仲の良いお友達とばかり遊んでると、もにゃっとしない?」

「え? あんまり……」

「あれぇ!?」

「あ、でも元カノが言ってたのはそういうことか! 俺、元カノが友達と遊びに行きまくるのを全部許してたら『本当に私のこと好きなの!?』って怒られたことがあって……」

「それはレンが半分悪いネ! 女の子はね、束縛され過ぎるのは嫌だけど、適度に束縛されたい生き物なんだヨ?」

「む、難しい……」

「束縛って『自分のことを大事にしてくれてる』っていう、一種の恋愛感情だから」

「心の狭い男って思われない?」

「それは束縛の度合いによるよ。レンくんだって、彼女が男の子と二人きりでお出かけするのは嫌でしょ?」

「さすがにそれには苦言を呈する」

 

 「独占欲」と「束縛」かぁ。あんまり、良い印象のない言葉だと思ってたけど、そういうものが適度にないと、相手に恋愛感情を感じさせることができないんだね。

 

 ふーちゃんの話を聞いて思ったけど、これって……今の俺に足りないものとしてすごくしっくりくる気がする。

 

「レンくんみたいな男の子に束縛されるのも悪くないかなぁ~って」

「過保護ってある意味束縛っすからね。もしかしたら、レンさんに本当に好きな人ができた時……そういう独占欲が強くなっちゃうかもっすよ」

「でも、あんまり束縛しちゃダメだヨ? 独占欲の強いレンも見てみたいけど……」

「ですよねっ! レンくんが私だけを見てくれてるって想像すると……」

「そーそー!」

 

 イライザさんとふーちゃんは共感できるのか、きゃっきゃと手を取り合って話している。逆にあくびちゃんはそこまで共感できないのか、フラットな態度だった。

 

「よし、次は幽々ちゃん!」

「ようやく私の出番ですね~。任せてくださ~い」

 

 幽々ちゃんが怪しく笑いながらそう言ってくる。これまで会話にはほとんど参加してなかったけど……正直俺は、彼女の意見がある意味一番楽しみだったりもするんだよね。何を言うか全く予想ができないから。

 

「私が考える恋とは~『呪い』です」

「の、呪い?」

 

 ほら、とんでもないこと言い出したよこの子。

 

「だって、恋をすると四六時中その人のことを考えて、その人のことで頭がいっぱいになって、無意識の内にその人を目で追っちゃうんですよ~。こんなの『呪い』以外何物でもありませんね~」

「た、確かに……言われてみれば……」

 

 お、思いの外まともな意見だった。ちゃんとメモしておかないと……

 

「それに、恋って『自分がこんなにも好きなんだから、相手にも同じくらい好きになってほしい』って考えたり『こんなに好きなんだから嫌われるはずがない』っていう、究極の自己中心的な願いだと思うんですよね~」

「究極の、自己中心的な願い……」

「幽々ちゃんが言うと説得力あるね~」

「レンさんが度肝を抜かれた表情してるっす」

 

 度肝抜かれるわこんなん。なんというか……心をガツーンと殴られたような気持になったよ。自己中心的な願い、呪い……確かに、俺がよく知る家族愛とは全くの別物だ。

 

「なんというか……愛と違って、恋ってすごく自分本位なものなんだね」

「そうですよ~。愛は二人で育まないといけませんが、恋は一人で完結できますからね」

「い、今の言葉……もう一回お願い!」

「いいですよ~」

 

 俺は幽々ちゃんが言ってくれた言葉をしっかりメモ帳に書き残す。言われてみれば、恋占いやおみくじに「待ち人」ってあるんだから、恋はそういうスピリチュアルな面が強いのも当然だよね。

 

 すごく勉強になった……

 

「あら~? みんなで楽しそうに何を話しているのかしら~?」

「あ、銀ちゃん! 今ね、レンが『恋』について勉強したいって言うから、みんなで『恋』とは何かって教えてあげてたんだヨ!」

「……山田ちゃん、好きな人ができたの?」

「いえ、その逆です。俺は『恋』をしたことがないので、どんなものかみんなの意見を聞いて今後の参考にしようかと……」

「そう。でも、難しい問題ね~。恋なんて十人十色だから……『これだ!』っていう明確な答えがないものよ?」

「吉田店長はどう思います?」

「そうだヨ! 銀ちゃんは新宿FOLTで誰よりもピュアな乙女心を持っている三十七歳のおっさんだから絶対参考になるっ!」

「三十七歳のおっさんは余計でしょ!?」

 

 た、確かに……乙女心を理解する男という意味では、吉田店長は俺が恋愛相談をする相手としては最強なのでは?

 

「あたしにとって『恋』とは、ね~。すこーし抽象的になるけど『その人の隣にいるのが自分じゃなきゃ嫌だ』っていう思いかしら?」

「自分じゃなきゃ……嫌だ……」

「例えば、山田ちゃんに気になる子ができたとする。そして、山田ちゃんの親友も同じ子を好きになってしまった。親友と、気になる子がすごく良い雰囲気になって……誰が見てもお似合いのカップルで、気になる子を幸せにできるのが親友だというのが山田ちゃんにもわかっている」

 

 俺は吉田店長の言葉を黙って聞いていた。

 

「それがわかっていながら、気になる子の隣にいるのが例え親友であっても許せない。自分がそこにいたいっていう気持ちが自覚できたら……それは恋なんじゃないかしら?」

「自分がそこにいたい、か……」

「もちろん、その子の幸せを願って……自分が身を引いて涙で枕を濡らす時に初めて恋だと自覚することもあるでしょうけど」

「それは、辛い……」

「そうよ。恋は楽しいだけじゃない。辛いこともたくさんあるの。だけどみんな、そういうことを一つ一つ経験して大人になっていく。たとえ自分の思いが届かなくても、恋が実らなくても……誰かに恋をしたことがあるというのは、人生の大きな財産になるわ。絶対に」

 

 吉田店長の言葉に、俺は感激せずにはいられなかった。彼の言葉にはすごく……ものすごく重みがあったからだ。きっと、吉田店長もそんな思いを何度も繰り返してきたんだろうなと、俺は勝手に思い込んでいた。

 

「山田ちゃん、焦る必要はないわ。そうやって、恥ずかしがらずに色んな人から素直にお話を聞けるのは、山田ちゃんの良いところよ。あたしは、山田ちゃんがすごく魅力的な男の子だってわかってる。だから、いつか必ず───君は素敵な恋ができる」

 

 俺だけじゃなく、その場にいた全員が吉田店長の言葉に聞き入っていた。ふ、深い……深すぎる……。そっか、俺……ちょっと焦ってたのかもしれない。この夏休み、色々なことがあり過ぎて、初めての感情を抱いちゃって……変に意識していたのかもな。

 

「俺、好きな子ができたら吉田店長に相談しようと思います」

「いつでもウェルカムよ~! 応援してあげるからね! あ、でもウチの廣井はやめておきなさい。あいつとの恋愛だけは応援できないから。それじゃあ、あたしは仕事に戻るわね~」

 

 いやー、ほんとに頼りになるな吉田店長。比べちゃ悪いけど……星歌さんとは大違いだった。星歌さんも、吉田店長に恋愛相談した方がいいんじゃない?

 

「銀ちゃん、すごく良いこと言ってたネ」

「そっすね。言葉の重みが違ったっす」

「さすが三十七歳ですね」

「私達とは人生経験が違います~」

 

 俺だけじゃなくて、他の四人もすごく勉強になったと思う。今日は新宿FOLTに来てよかった。大収穫だよ。あとは志麻さんに話を聞ければ完璧だな。

 

「この後どうします? 特訓組はまだしばらく終わりそうにないっすけど」

「どうしようかな……」

 

 正直、ほとんど勢いで特訓の予定を立てたから、細かいところまであんまり考えてなかったんだよね。うーん……スタジオに様子を見に行くのもありかもしれない。

 

「あ、せっかくなんでレンさんもドラム叩いてみます? ベースやギターと違って、ちょうどステージに設置されてますし」

「……いいの?」

「もちろん。ドラムって練習場所が限られてるからこういう時にちょっとでも触れてもらえると、ドラマーとしては嬉しいっす」

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

「あくびだけずるいー! 私もギター教えてあげる!」

「イライザさん、私と一緒にレンくんを立派なギタリストにしてあげましょう!」

「山田さんはリョウさんと同じベーシストになるべきです~」

 

 正直、ギターやベースは姉貴が持ってるし、ギターは俺も持ってるからいつでも弾けるんだけど……まあ、せっかくだからみんなにちょっとずつ教えてもらおうかな。ドラムの配分多目で。

 

 

 

 

「レンさん、いいセンスしてるっすね。八ビートや四ビートだけじゃなく、裏打ちまであっさりマスターするとは……特に初心者の内は、裏打ちで手足がバラバラになりがちで苦戦するんすけど」

「虹夏ちゃんのドラムをよく見てて、見よう見真似で遊んでたこともあったから」

「うーん、これはもうドラマーになるしかないっすね。ギター? ベース? イケメンドラマーがどれだけ希少価値が高いかわかって言ってるんすか?」

「はーちゃん、次は私が教える番ー!」

「ふーちゃんのお願いでもそれは聞けないっす。レンさんは私が育てるんで」

「レン、ギタリストになったら私が色々イイコト教えてあげるヨ?」

「イライザさん! おっぱいで誘惑するのは反則っすよ!」

「山田さんがドラムを見るとトラウマを思い出す呪いを……」

「呪いをかけるのもレギュレーション違反っす!!」

 

 こんな感じで、俺も色々と楽器の使い方を教えてもらいました。ギターやベースも楽しいけど……俺にはやっぱりドラムが一番合ってる気がするな~。まあ、俺がドラマーとしてライブに出る機会なんて、あるわけないだろうけど。……ないよね?

 

 

 

 

「今日はありがとうございました!」

 

 そして、夜の九時を回った頃、特訓組の二人と俺の三人は協力してくれたSICKHACKとSIDEROSの人達に深々と頭を下げていた。

 

「志麻さんに教えてもらったこと……あたし、絶対に忘れません!」

「ああ。みんなの道標になるのがドラマーだけど、それだけが仕事じゃない。ドラマーは、もっと自由でいいんだ。それをずっと、心に留めておいてほしい。今月のライブ、楽しみにしてるから」

「はいっ! ありがとうございました!」

 

 虹夏ちゃんは充実した表情を浮かべている。いい刺激になったみたいでよかった。やっぱり、自分より上の技量を持つ人に教えてもらうのが一番効果的だね。

 

「細かいテクニックもそうだけど、もっと歌詞の内面に目を向けて、歌に気持ちを乗せなさい。そうすれば、あなたの強い武器である声の良さと、声域の広さ。これらをもっと生かせるわ」

「ありがとう、大槻さん! 今度、一緒に遊びに行きましょうね!」

「じ、時間が合えば……ね」

「絶対合わせるわ!」

 

 大槻先輩と喜多さんもうまくいったみたいでよかった。仲も良くなったみたいだし……大槻先輩の交友範囲がこうやって少しずつ広がればいいなぁ。

 

「喜多ちゃん。フロントマンは観客に一番観られるポジションだ。だけど、観客に見られることを意識し過ぎて、本来の自分を見失っちゃいけないよ。究極『自分が気持ちよ~く歌えればそれでいい』くらいのふてぶてしさがないと、フロントマンなんてやってられないから」

「はい! 廣井さんの、そのメンタル()()は見習おうと思います!」

「よしよ~し、その意気だぁ~!」

 

 なんか廣井さん……最初より酒が回ってない? もしかして、飲みながら指導してたとか……ま、まあでも、フロントマンとしての姿勢は十分に伝わってそうだからヨシ!

 

 喜多さんのメンタル強化にもつながったみたいだし……飲酒に関しては目を瞑ろう。廣井さんに倣ってライブ中にダイブとかしなかったらそれでいいよ。

 

「みなさん、今日は本当にありがとうございました。二週間後のライブ……絶対に成功させましょう!」

 

 虹夏ちゃんの言葉に、みんなは笑顔を浮かべていた。単純な技量だけなら、結束バンドが一番下だ。しかも新宿というアウェーな舞台でライブをすることになるから、STARRYでのライブとは雰囲気も大きく違うだろう。

 

 だけど、虹夏ちゃんの言葉には、そんなマイナス要素を全て吹き飛ばすような力強さがあった。虹夏ちゃんってメンタルがそこまで強くない子だから不安だったけど、これなら大丈夫そうだね。

 

「打ち上げは美味しいお店を予約しておくからね~!」

 

 最後にもう一度頭を下げ、新宿FOLTをあとにすると、後ろから廣井さんのそんな声が聞こえてきたので、三人で顔を見合わせて思わず笑ってしまった。

 

 二人とも、本当に良い表情をしている。

 

 来てよかったな、新宿FOLT。

 

 心の底から、そう思える一日だった。

 

 あ、志麻さんから「恋」について聞くの忘れてた……

 

 

 

 

 その頃のSTARRY

 

「ふっ、私とぼっちにかかればこんなもの。 レン? 虹夏? 郁代? あやつらがいなくとも、STARRYは私達二人がいれば十分」

「どんだけ私がフォローしたと思ってるんだ!?」

「ご、ごめんなさい……店長さん。わ、私が足を引っ張っちゃったから……」

「……ぼっちちゃんはいいんだよ」

「店長()ぼっちに甘い。ライブでぼっちの動画ばかり撮ってるし、お巡りさんこっちです」

「え? ……え?(わ、私……店長さんに目をつけられてる?)」

「はぁ!? ばっ、ち、ちげえし! お前らの成長がちゃんとわかるように記録に残してるだけでだな……」

「盗撮だ。ぼっち、慰謝料請求できるぞ。情報提供した私と折半だ」

「い、慰謝料?(私の動画に価値なんてないと思うけど……あ、喜多ちゃんからロインだ。新宿FOLTでの秘密特訓が終わったのかな?)」

「ぼっちちゃん、違うからな? 私はあくまで結束バンドの成長の軌跡を形に残しておいて将来の役に立てようと……」

「へあぁっ!?」

「あ、ぼっちが気絶した。店長のせいだ」

「ご、誤解だ! 誤解だからなぼっちちゃん! 私はぼっちちゃんを盗撮なんてしてないから! ぐ、偶然ぼっちちゃんのアップが多かっただけで」

「犯罪者はみんなそう言う」

「(き、喜多ちゃんがウチにお泊りに来るなんて……じ、地獄の週末が始まるっ……!!)」




 レンくんの恋愛学習珍道中in新宿FOLTでした。

 虹夏と喜多ちゃんは描写外でしっかり特訓して強化されています。原作よりもハイスピードで成長しているようで何より。

 ぼっちちゃんと山田は二人きりにするとダメだ。ストッパーがいないから星歌さんの心労が大変なことになる。

 原作よりも早く喜多ちゃんのお泊まりイベントが発生しましたが、レンくんは関わりません。というか、関われません。

 なのでごとりちゃん呼びは回避できないんだ。ごめんねごひとりちゃん。

 次回は新宿FOLTでライブします。ささささんとぽいずんを出します。

 では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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