【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#42 オンリーロンリーグロッキー

「それでは~、一年二組の出し物は『メイド&執事喫茶』に決まりました~!」

 

 新宿FOLTでのライブ当日、ホームルームの時間に文化祭でのクラスの出し物を決めることになり、文化祭実行委員の女子二人による司会進行の下、無事に出し物が決まった。

 

 メイド&執事喫茶……ねえ。男子と女子の両方にちゃんと役割を与えて盛り上げようって考えなんだろうけど……執事喫茶にお客さんってくるかなぁ?

 

 メイド喫茶は問題ないと思う。女子のレベルは高いから。だけど執事喫茶……もういっそ、可愛い女の子を選抜して執事のコスプレさせた方がウケがいいんじゃないかな。

 

「んはっ!?」

「お? ようやく復活したね」

「わ、私は一体何を……」

「文化祭の出し物を決める話し合いが終わったところだよ。後藤さんは開始三分で意識を失ってたからね」

「か、開始三分……み、見苦しいものをお見せしてしまって……(や、山田くんに気絶してる顔を見られちゃったっっ!!)」

 

 なんか恥ずかしがってるけど、後藤さんのとんでもない死に様や気絶してる様なんてこの半年近くで数え切れないほど見てきてるからね? あ、でも……異性にそういう顔を見られて恥ずかしいって思えるくらい、後藤さんも成長しているのかもしれない。ちょっと感動。

 

「そ、それで……出し物は一体……」

「メイド&執事喫茶に決まったよ」

「め、メイド!? わ、私がメイドとか……戦力外過ぎる……おえっ……」

 

 後藤さんがえずきながら顔面を崩壊させかけている。後藤さんのメイド服……可愛いから似合うと思うんだけどな。

 

「し、死者の魂が眠る冥土なら自信があるんですけど……」

「それおばけ屋敷だよ。おばけ屋敷は俺が怖いからやだ」

「や、やだって……山田くん。わ、わがままはだめです。こ、ここはあえて冥土喫茶にしてトラウマを克服する胸熱イベントに……」

「他のクラスがおばけ屋敷とかやるんじゃない?」

「あ、じゃ、じゃあ……おばけ屋敷に一緒に行きましょう。だ、大丈夫です。私がちゃんと守ってあげるので……ふへへ」

「えー……だって怖いよ?」

「わ、私だってメイドは嫌です。だからお相子……ね?」

 

 後藤さんが怪しく笑いながらそう言った。学生の出し物とはいえ、おばけ屋敷はめっちゃ怖いから行きたくない。

 

 でも、せっかく誘ってくれたんだし……どうせ一日目はメイド喫茶で女子がメインだから俺はフリーで動けるから───

 

「あ、山田くんはメイドもやってもらうからね?」

「なんで!?」

 

 実行委員の無慈悲な言葉に俺は抗議のツッコミを入れる。

 

「だって、その顔面偏差値の高さを活かさない理由がないじゃない」

「俺の自由時間は!?」

「大丈夫大丈夫! ちゃんとあげるから! ……多分」

 

 今多分って言ったよねこの子!? いやいやいや、二日間ともクラスの出し物で拘束されるとか……ブラックが過ぎる。

 

「すね毛はどうすんの!?」

「真っ先に心配するとこそこ!?」

「脱毛すればヨシ! あとはロングスカートのメイド服でカバーすれば完璧ね!」

「腕の筋肉は!?」

「長袖なら問題ないでしょ?」

「そ、それなら野球部の連中も巻き込めばいいじゃん。坊主頭のゴリゴリマッチョなメイドってそれだけで笑いが取れる───」

「あ、悪い山田。俺達、初日は部活の屋台を手伝わなきゃいけないんだ」

 

 は、薄情者!! 他の男子連中も俺と目を合わそうとしないし……救いはないんか!?

 

「う~ん……まだ粘るのね。仕方ないわ……後藤さん!」

「あ、はい」

「山田くんを説得してちょうだい」

「え、ええっ!?」

 

 実行委員が後藤さんに無茶振りする。こらっ、こんな無茶振りに後藤さんが対応できるわけないだろっ! この半年間、同じクラスで何を学んできたんだ!

 

「ひとりちゃん……あのね───」

「───すれば、山田くんがたくさん───かも」

 

 狼狽している後藤さんに、前の席の女子二人が何やら余計な入れ知恵をしている様子。おい、やめんか。後藤さんに何を言わせる気だ一体。

 

「あ、あの……山田くん」

「はい」

 

 後藤さんが恥ずかしそうに、頬を赤く染めながら俺を見てくる。さて、何を言い出す気やら。

 

「い、いいいいいいいい一緒に冥土に落ちましょうっ!!」

「心中のお誘い!?」

「あ、間違えた。い、一緒にメイドになりましょう!」

 

 後藤さんがテンパりながらわたわたした様子で俺にそう言ってくる。

 

 ……正直に言おう。実行委員がここで後藤さんに話を振ったのは最適解なんだ。悔しいことに。

 

 だって……だってさぁ……

 

「ダメ……ですか?」

 

 俺が後藤さんのお願いを断れるわけないじゃん。ずるいわー。マジでずるいわー。

 

 おーけーおーけー。降参だ降参。俺の負けですよ。メイド喫茶……本気でやってやろうじゃありませんか。

 

「やっぱり山田くんを動かすには後藤さんにお願いするのが一番ね」

 

 俺の習性が完全にクラス全体で認知されている。……まあいっか。後藤さんのメイド服姿も見れるから、それは純粋に楽しみだね。よーし、後藤さんのことが大好きな星歌さんにメイドぼっちちゃんの写真を見せてマウントを取りまくってやろう。

 

 そこで俺は気付いた。一日目のメイド喫茶で超絶本気を出して二日目の分まで売りまくれば、二日目の執事喫茶はかなり早く終われるじゃない? そうすれば俺も二日目は文化祭を回れるかも……ヨシ!

 

「集え! 男共! 緊急会議だ!」

「なんぞ?」

「体育祭マジックの次は文化祭マジックか?」

「体育祭で告白した三組の藤田、もう別れたらしいぞ」

「マジかよ。まだ二週間だぞ」

「初めての彼女で舞い上がって休み時間も放課後もずっと付きまとってたらウザがられたらしい」

「うわぁ……」

 

 俺は教室の後ろの方に男子を集め、文化祭に向けての緊急作戦会議を行う。執事喫茶をやると決まってから、どういう戦法を取るかについては考えていたんだよね。

 

「男子の役割を三つに分担しようと思う」

「三つ?」

「『客引き』『接客』『裏方』の三つだよ」

「誰がどれをやるんだよ?」

「まず『客引き』だけど、これに関してはコミュ力もしくは顔面偏差値の高い者を選抜する。もちろん俺はここに入るから」

 

 飲食系の出店はいっぱいあるし、どれだけお客さんを呼べるかが勝負になってくる。そこで重要なのは、顔とコミュ力。俺はどっちも兼ね備えているから、片っ端から女子生徒や外部の女性客に声をかけて店に客を引き込む。

 

 あとは……サッカー部とかバスケ部の陽キャ組に任せればいい。

 

「次は『接客』なんだけど、これに関しては野球部の坊主集団を中心に『ザ・体育会』って感じの接客をやってほしい」

「えー? そんなんでいいのかよ?」

「他にも似たようなことをやるクラスがあるかもしれないから、差別化を図りたいんだ。屈強な坊主軍団の統率の取れた動きで『お帰りなさいませお嬢様!』ってやれば、良くも悪くも話題になる。あとは運動部の上下関係で鍛えられたキビキビした体育会系接客で良い印象を与えればいい。ガチガチのスポーツマンが執事服で大真面目にそれをやるっていうギャップがウケるはず。……いい? こういうのは変に恥ずかしがったり、小生意気なマセガキみたいな感じでやると逆に寒いんだ。全力で体育会系執事喫茶をやれば、お客さんも必ず評価してくれる」

「ガチだ……こいつ、ガチすぎる……」

 

 当たり前じゃい。二日目の出来で俺の文化祭の自由時間がどれだけ確保できるか決まるんだからな!

 

「で、接客とかやりたくない人は会場の設営や料理の準備、チラシや小道具の製作をがんばってもらう。あと、これは強制じゃなくて提案だから。『客引きや接客に挑戦したい』って人は大歓迎だし、逆に運動部だけど『裏方に徹したい』ってのもおっけー。あくまで文化祭……みんなで楽しむことが最優先だから。誰かが嫌な思いをしちゃったら本末転倒だからね」

 

 とはいえ、客引きが俺だけとかになったら非常に困る。いやがんばるよ? 山田家の遺伝子を最大限有効活用して女性客を引っ張って来まくるよ? それはそれとして……一人はちょっとキツイ。

 

「あと、もう一つやる気を出すことを言っておくと……文化祭は十一月二日と三日……その一か月半後には何がある?」

 

 俺が怪しく笑ってそう言うと、男子連中の目の色が変わった。

 

「そう、クリスマスだ。十二月に入って焦ったところで時すでに遅し。この文化祭っていうのは、女の子達との距離を縮める絶好のイベント。しかもお祭りだから女子のガードも普段よりは緩くなっている&体育祭と違ってクリスマスまでの期間が短いからそれまでに別れる可能性が低い! 高校野球マジック? 体育祭マジック? ふっ、甘いな。真のカップル成立イベントは文化祭! さあ、これまでの人生を思い出せ! 十二月に入って街全体があまあまクリスマスなムードに包まれている中、嫉妬と情けなさで周囲のリア充を全て呪っていたことを! そんな過去とはもうさよならだ! もう、あんな惨めな思いをする必要なんてない! 今年こそ……今年こそ俺達が栄光を掴み取るんだ!」

 

 俺が拳を高くつき上げると、クラスの男子達の盛り上がりは最高潮になった。ノリが良すぎだろこのクラス。やはりこれも俺の人徳、カリスマのなせる技。動機はどうであれ、みんながやる気になってくれたのは何より。

 

 どうせやるなら全力で楽しみたいしね。

 

「山田くーん。盛り上がってるところ悪いけど、時間押してるからそろそろいーい?」

「あ、ごめん。最後に一つだけ……」

 

 気付けば、ホームルームの時間がもうほとんど終わりかけていた。男子のモチベーションは上がったし、これである程度は勝負になると思うけど……それとは全くの別件でクラスのみんなに言いたいことがある。

 

「今日、新宿FOLTっていうライブハウスで後藤さんが所属するバンドがライブしまーす! いつもは下北のライブハウスでやってるんですけど、今日はアウェーで、しかもめちゃくちゃデカいライブハウスなので、お時間ある人は応援に来てくださーい。よろしくお願いしまーす! あ、五組の喜多さんもいるので」

「らしいでーす。ちなみに私は後藤さん達の路上ライブを観たことがあります。すごく格好良かったので、楽しめると思いまーす!」

 

 あ、そういや実行委員の子は路上ライブを何回か観てくれたことがあったな。八月のライブもクラスメイトが何人か来てくれたし、後藤さんもかなりクラスに馴染めてきたから、男子連中にも個人的に声をかけてみるか。

 

「それと、文化祭の体育館ステージで出し物をやりたい人がいたらこの申込用紙に記入して生徒会室前のボックスに出してくださいねー」

 

 その言葉に真っ先に反応したのは俺ではなく、後藤さんだった。 

 

(ぶ、ぶぶぶぶぶぶぶぶ文化祭ライブ!! 中学時代、妄想の中で千回以上やった文化祭ライブ!! い、今はバンドを組んでるし……結束バンドのみんなで出れば……そ、それが偶然音楽業界のお偉いさんの目に留まって現役女子高生バンドがメジャーデビュー!! 『え? あの物静かな後藤さんが実は凄腕天才ギタリスト!? 後藤様抱いて~!! お前が人間国宝!!』大作戦……いけるっ!!)

 

 あ、結束バンドで文化祭ライブに出たいって考えからぶっとんだ妄想に発展してる。顔を見ればわかるよ? 後藤さんって変な妄想する時、大体だらしない笑顔になるからね。……そういう笑顔も可愛いけど。

 

 そしてチャイムが鳴ってホームルームが終わり、涎を垂らしながら妄想の世界から帰ってこない後藤さんをどうにかして正気に戻そうとしていると、教室のドアが勢いよく開いて誰かが飛び込んでくる。

 

 他のクラスでこんなことをしでかす人間を、俺は一人しか知らない。

 

「ひとりちゃん! 結束バンドで文化祭ライブに出ましょう!」

 

 あ、呼び方が「ひとりちゃん」に戻ってる。後藤さんの家のお泊りしてから喜多さんが後藤さんによそよそしくなってたんだよな。理由はよくわかんないけど。ただ、後藤さんの家だし……何が起こっても不思議じゃない。

 

「うへ……うへへ……そ、そうです。私がグラマー賞を受賞した天才ギタリスト、後藤ひとりですぅ……」

()()()ちゃん……」

 

 喜多さんがスンとした顔でそう言った。まーた好感度下がってるよ。

 

 

 

 

「───ということがあったんですよ、大槻先輩。なので、俺のメイド姿を見に来てくださいね」

「そこは普通執事服姿を見に来てって言うところじゃないの!?」

 

 放課後になり、俺は結束バンドのメンバー達より一足早く新宿FOLTへとやってくる。後藤さん達は虹夏ちゃんと姉貴に文化祭ライブ参加について話すためにSTARRYへ向かい、俺はそのまま新宿へ向かって、ライブハウス内の設営やらの雑用を手伝ってたんだ。

 

 で、そこに大槻先輩達がやってきたから、今は楽屋で一緒に話している。

 

「へ~、面白そうっすね。ヨヨコ先輩、せっかくのお誘いですし、秀華高校の文化祭に行きましょうよ」

「私も行きたいです~。レンくんやぼっちちゃんのメイド姿見た~い!」

「幽々は他の出し物にも興味があります~。おばけ屋敷とかぁ、占いがあるといいですね~」

 

 SIDEROSっ子達はかなり乗り気だ。この子達は基本的にこういうイベントが大好きだからね。江の島にも一緒に来てくれたし、来年は花火大会とかウチの別荘に誘うのもいいかもしれない。

 

「うーん……まあ、その日は特にライブの予定とかはないから、みんなで行きましょうか?」

 

 大槻先輩がそう言うと、他の三人は「わーい!」と両手を挙げて喜んでいた。この大槻先輩のママ力の高さよ。完全に保護者になってますね。

 

 大槻先輩が来るとなると……これは全力でおもてなしをしなければ!

 

「俺のメイド姿に酔いしれてくださいよ」

「二日目は執事服なんすよね?」

「でも、二日目は客引きで校内を駆けずり回ってるから多分会えないと思う……」

「酷使されすぎっすよ」

「俺の顔が良いばっかりに……」

 

 俺が大げさに落ち込んだ仕草をすると、ふーちゃんと幽々ちゃんがよしよしと頭を撫でて慰めてくれた。

 

「そういえば大槻先輩、目が血走ってますけど……また寝不足ですか?」

「仕方ないでしょう。ライブの前はいつもこうなるんだから」

「三日くらい前からこんな感じっすよね」

「でも、なんだかんだ本番では最高のパフォーマンスを見せてくれますよね~」

「対バン相手の方が盛り上がってたら裏で泣いてますけど~」

「な、泣いてないっ! ふんっ! どうせ私は無駄に緊張しまくりの女よ! 笑いたければ笑いなさい!」

「笑うわけないじゃないですか」

 

 むしろ、そこまで自分を追い込んだ上で実力を存分に発揮できるんだから逆に尊敬しますって。緊張で思った通りの力を出せないことなんて多々あるのに……大槻先輩はどんな状況でもその時の最高のパフォーマンスを引き出す。

 

 そういう点は結束バンドが大いに見習うべき点だよね。後藤さんのフルパフォーマンスがまだまだ発揮できていないんだから。

 

「ただ、リラックスするに越したことはないですよ。梅昆布茶とどら焼きです。これで心を落ち着けてください」

「なんでそんなもの持ってきてるの!?」

「結束バンドはライブ前にいつも梅昆布茶と和菓子で緊張をほぐしてますよ? それと、このどら焼きは結構高いですけど、めちゃくちゃ美味いんでおすすめです」

「レンくんありがとー! いただきまーす!」

「ウチもいただきます」

「幽々ちゃんは甘いもの平気?」

「は~い。大好きですよ~」

 

 大槻先輩以外の三人は嬉しそうにどら焼きを食べている。可愛い女の子が笑顔でもぐもぐ食べてる姿って癒されるよね。後でSICKHACKの人達にも差し入れしよう。

 

「大槻先輩もどうぞ」

「あ、ありがと……」

 

 俺は紙コップに梅昆布茶を注いで大槻先輩へと渡す。先輩は俺と紙コップを何度か見比べた後、ふーふーと息を吹きかけて梅昆布茶を一口飲んだ。

 

「……美味しい」

 

 大槻先輩の頬が緩むのを見て、俺も思わず笑顔になる。よかったよかった。少しは肩の力が抜けたみたいで。

 

「どら焼きもどうぞ。あんこは……江の島でもお饅頭食べてたから大丈夫ですよね?」

「ええ、ありがとう」

 

 大槻先輩は柔らかい笑顔でお礼を言ってくれた。ツンケンしてる先輩も弄ったらいい反応してくれるから可愛いけど、こうやって穏やかに笑ってくれる先輩もすごくいい。

 

 学校でもこんな感じだったらぼっちにはならなかっただろうになぁ。

 

「……レンさん、ウチらがライブする時は毎回こっちのシフトに入ってくださいよ」

「えー……それは、どうかな? STARRYとの兼ね合いもあるし」

 

 というか、あっちが本職でこっちはヘルプで入ってるだけだからね?

 

「ヨヨコ先輩のメンタルケアができる人材は貴重なんだよね~」

「楓子っ! 別に私はこいつに世話されなくたって……」

「その割にはぁ~、ここに来て山田さんのお顔を見たら露骨に安心してましたよね~?」

「し、してないっ! 普通よ普通!」

 

 大槻先輩の反応を見て、俺は素直に嬉しくなった。先輩にはたくさんお世話になったから、何かしらの形で恩返しがしたいと思ってたけど……俺と会って話をすることで、ちょっとでも先輩に安らぎを与えられたり、支えになれているっていうのなら……ちょっと照れ臭いけど本当に嬉しい。

 

「おはよーございまーす! 今日はよろしくお願いしまーす!」

 

 大槻先輩の緊張もすっかり解けたところで、虹夏ちゃん率いる結束バンドの四人が楽屋にやってくる。もうそろそろリハが始まる時間だから、ちょうどいいタイミングだね。

 

「どもっす。こちらこそよろしくお願いします。虹夏さん、特訓の成果……期待してるっすよ?」

「もちろん! 志麻師匠が見てるからね! 今のあたしにできることを全力でやるよ~!」

「大槻さん! 私、あなたから教えられたことを精一杯がんばるから見ていてちょうだいね!」

「え、ええ……き、気持ちと意気込みは十分伝わったからもう少し離れなさい……!! そ、そのキラキラしたオーラが私を蝕んでるからっ!!」

 

 特訓組は気合十分。喜多さんはほんとに大槻先輩のことを気に入ってるな。元々パーソナルスペースブレイカーだし、後藤さんと同じぼっち気質だし……大槻先輩の成長のために喜多さんっていう劇薬は結構効果的かもしれない。

 

「ぼっちちゃん、文化祭でメイドやるんだよね~? 遊びに行くから可愛いところ見せてね?」

「ほげぇっ!? ど、どこからその情報が……!? わ、私のメイド姿なんてどこにも需要が……」

「そんなことないよ~。ぼっちちゃんはすごく可愛いんだから自信持って! 私が保証してあげる!」

「ふ、ふへへっ……そ、そうですかね?」

 

 いいね、ふーちゃん。後藤さんはそうやって褒めちぎってちょっと調子に乗ってるくらいが一番本領を発揮できるんだ。でも、乗せすぎるとこっちの想定を遥かに上回る暴走っぷりで度肝を抜かれるから注意しないと。

 

「レン、私もどら焼き食べたい」

「そこのテーブルに置いてあるから好きに食え」

「やったぜ」

 

 姉貴はどこまでいってもブレない。でも、結構緊張してるな。表情には出してないけどわかる。まったく、素直じゃないお姉様ですね。

 

「リョウさ~ん。今日は新曲を披露してくれるんですよね~? 楽しみにしてます~」

「今回の曲はちょっと落ち着いた感じになってる。ぼっちのギターソロにも乞うご期待」

 

 ああ、そういえば今日のライブで新曲を演奏するんだったな。オーチューブにもまだアップしてないから、正真正銘初のお披露目になる。

 

 曲名は「星座になれたら」

 

 俺も曲自体は聴いたことはなくて、後藤さんに歌詞だけ見せてもらったんだよね。ただ、この曲は世の中に対する不満をぶつけたりするようなものじゃなくて、一人の登場人物の切ない思いというか……ちょっぴり暗いけど最後は前を向いて進んでいけるような歌詞だった。

 

 ちなみに、この歌詞を後藤さんが披露した時はSTARRYがおかしな雰囲気になったんだよね。

 

(この歌詞……あたしのことだよね、ぼっちちゃん)

(ひ、ひとりちゃん……わ、私のことを歌詞にしたのね。嬉しいような、恥ずかしいような……)

(六時の一番星ってSTARRYの私のことだろっ!! ぼ、ぼっちちゃんが私のことを好き過ぎる……)

(本命は郁代……もしくは虹夏を意識したっぽい歌詞だけど……これ、レンも当てはまる)

 

 俺個人的には喜多さんをイメージした歌詞に思えるんだよね。次点で虹夏ちゃん。星歌さんはない。なんか星歌さんの中で勝手に後藤さんに対する好感度が上がってたけど、俺には夢見るアラサーに残酷な現実を突きつけることができなかった。

 

 姉貴は候補にすら入らない。だって、姉貴がこんなキラキラ輝いた人気者なわけないでしょ。変なファンは多いけど。

 

「あ、レンくーん。あたし達、秀華高校の文化祭ステージでライブやるからね~」

「ぼっちとレンがメイドになることも聞いた。絶対行く」

「当日は私が可愛くメイクしてあげるから任せてちょうだいね! もちろんごととりちゃんも!」

「あえ!? あ、はい……」

「喜多ちゃんまだその気持ち悪い呼び方なの!?」

 

 喜多さんは相手に対する好感度で呼び方が変わる恋愛ゲームの攻略キャラみたいな性質らしいから、今日のライブで後藤さんが格好良いところを見せれば普通に戻ると思うよ。

 

 あと、虹夏ちゃんと姉貴の予定も大丈夫だったんだね。下高の学校行事とかと重なってたら無理だったけど、何もないみたいでよかった。

 

「喜多さんのクラスは何やるの?」

「……担任が真面目だから、何かよくわからない展示をするのよ。だから当日は暇なのよね~」

「じゃあ喜多さんもウチのクラスでメイドやってよ」

「ほんと!? いいの!?」

「たぶん誰も反対しないと思う」

 

 それに、(学校では)人気者の喜多さんがメイドになればそれだけで宣伝になるし、初日の売り上げがアップする。つまり、二日目の俺の負担が少なくなって自由時間を長く確保できることにつながる。……どうよこの完璧で緻密な計画は?

 

(後藤ひとり……この胸でメイドになるつもり? 文化祭の空気に当てられて良からぬことを考える輩がいても……ああ、そのための山田メイドというわけね。山田が近くで後藤ひとりをちゃんと見守っていれば大丈夫でしょう)

(お、大槻さんがじっとこっちを見てくる。目が充血してるし、な、何を興奮しているんだろう? ……はっ!? も、もしや山田くんがメイドになるって聞いて頭の中でえっちな妄想を繰り広げてるんじゃ!? め、メイドになった山田くんを誰もいない空き教室に連れて行って『私だけにご奉仕しなさいよ』とか『ヨヨコ様と呼びなさい』とか言うに違いないっ!! い、いや大槻さんだけじゃないかもしれない!! お祭りの雰囲気に当てられてピンクな妄想を垂れ流しているいやらしい女どもが山田くんを突け狙うかも……そんなこと絶対させない!! ま、守らねば!! 山田くんを守らねばっ!!)

 

 後藤さんと大槻先輩がじーっと見つめ合っていたかと思うと、後藤さんはなぜか俺の隣にやって来て、鼻息をフンフンと荒くして気合いが入ったような表情になっていた。ライブ前に気合いが入っているのなら心強いけど……これ多分ライブと関係ないことを考えてるな。

 

 二人が何を考えてるのかよくわかんないけど、ちゃんと言葉にして会話しよ?

 

「うええーい! みんな揃ってるか~い? 遅刻なんてしてるヤツはいねーだろーなー?」

 

 しばらく談笑していると、SICKHACKの三人が楽屋にやって来る。め、珍しい……廣井さんが遅刻してないなんて……!!

 

「廣井さん、やればできるじゃないですか!」

「でしょでしょ~? がんばって起きたんだから褒めて褒めて~」

「はい。廣井さんはえらいですね~。これからもそれを続けていきましょうね~」

「えへへ~。がんばる~」

 

 俺が優しくそう言うと、廣井さんはだらしない笑顔を浮かべる。俺の態度を見て大槻先輩が軽くショックを受けた表情になってるけど、大丈夫ですよ。取ったりしませんから。

 

「れ、レンくんが廣井さんに甘くなってるわ!? に、虹夏先輩……これは一体!?」

「この前の素面廣井さんがよっぽどレンくんに衝撃を与えたみたいだね。廣井さんの飲酒が不安や緊張を誤魔化すためで、内気でコミュ障な自分を守る防波堤になっていたんだとしたら……レンくんの廣井さんに対する『甘やかしレギュレーション』がアップデートされていてもおかしくない」

 

 虹夏ちゃんの言う通り、俺の中で廣井さんに対する認識が変わったのは確かだ。酔っぱらってる廣井さんは面倒臭いし酒臭いし絡みはウザいけど……素の彼女を見たら、酔っぱらっている姿がお労しく思えるようになったんだよね。

 

 飲酒量はもっと抑えてほしいけど。

 

「じゃあ、今からリハーサルに入るから。ライブ順通り、結束バンド、SIDEROS、SICKHACKでいくよ。結束バンドのみんなは準備してもらえるかな?」

 

 志麻さんがそう言うと結束バンドの四人はそそくさと準備に入る。今回は多分、数百人の前でライブをする上、STARRYの時みたいに盛り上がるとも限らない。ただ、こういう大きな会場で演奏したっていう経験は必ず今後のバンド活動に生きてくるはずだ。

 

「みんな! 気合い入れていくよ!」

「新宿を私達色に染め上げてやりましょう!」

「私達色どころか……ぼっちの顔色が悪い」

「あ、すみません。こんな大きなところで演奏するって思ったら吐き気が……」

「リハの段階で!? ぼっちちゃん! トイレこっちだからもうちょっと我慢して!」

「お、お、お……」

「きゃーっ! ごひとりちゃんの顔色がどんどんナメック星人みたいに!!」

「結束バンドにはいない緑枠。口から卵吐き出しそう」

「ごとりちゃんならそのくらいできそうですね!」

「言うとる場合かぁ!!」

 

 虹夏ちゃんと喜多さんが後藤さんを支えながら彼女をトイレに連れて行く。……後藤さん、一人だけグロッキー状態になるとは。最近はがんばってたから忘れてたけど、本来ああいう子だったよね。

 

「志麻さん……先にSIDEROSのみんなにリハをやってもらっていいですか?」

「……そうだね」

「俺、ドラッグストアに行って吐き気を抑える薬を買ってきます」

「うん、そうしてあげて」

「山田しょうねーん! ウコンとシジミのお味噌汁もおねが~い」

「……しょうがないですねぇ」

「ほんとに廣井に甘くなったな!?」

「レーン! 私が連れて行ってあげるヨ~!」

「お願いします」

「ちゃんと案内できたら私も褒めてネ~?」

「もちろんですよ」

「と、年下の男の子に甘やかされることに喜びを感じてる……う、ウチのバンド、大丈夫か?」

 

 志麻さんの懸念をよそに、俺とイライザさんはドラッグストアへ向かうのだった。




 ぽいずんとささささんを出すところまでいけませんでした。文化祭の話で尺を取りすぎた……

 本作のぼっちちゃんは文化祭ライブに出る出ないで悩んだりしません。本気でメジャーデビューする覚悟を決めているので。 

 それはそれとして、ゲロを吐きそうなほど緊張しますが。でも、ゲロを吐くきらら主人公って一体……

 そして、徐々にアニメ最終話が見えてきましたね。あと何話かかるかわかりませんが。

 次回はライブして打ち上げして終わるはず!

 では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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