【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#43 Stage of the folt

「レン」

「何?」

「すごく緊張してきた」

「デカい会場だもんな」

 

 イライザさんと一緒にドラッグストアに行って、廣井さんの酔い覚まし用の諸々を買って帰ってくると、楽屋には緊張でガチガチになっている結束バンドがいた。

 

 あれ? さっきまで結構余裕そうな感じじゃなかった?

 

「いざ、リハをやると会場の大きさに圧倒されちゃって……」

「STARRYや路上ライブとは全然雰囲気が違いましたね」

(み、みみみみみんなが緊張している! こ、ここは私のクールでホットなハイセンスギャグで緊張をほぐしてあげないと!!)

「後藤さん、ステイ」

 

 後藤さんが何かやらかしそうな気配がしたので、どら焼きを食べさせて大人しくさせる。気持ちだけはありがたく受け取っておくよ。でも、この空気でド滑り一発ギャグを披露されるとさすがに俺もフォローしきれない。

 

「緊張なんて当たり前よ。プロとして……この世界で、音楽で食っていこうって考えているのなら、この緊張感を絶対に忘れてはいけないわ。そういう緊張や不安をずっとずっと抱えながら、でもそれらを少しでもなくすために、少しでも上を目指すために私達は寝る間も惜しんで練習するのよ。……もしも、もしも私が緊張しなくなるとしたら……それこそ全てをやり遂げて()()()()()()()でしょうね」 

「大槻さん……」

 

 大槻先輩の言葉にみんな感銘を受けている。本当に良いこと言うよね、この先輩。何度思ったかわからないけど、とても姉貴と同じ十七歳には見えない。普通さ、こういうことってもっと年上の……それこそ廣井さん達が言うことなんじゃないのかな。

 

「でもヨヨコ先輩、寝不足のガンギマリアイは怖いんでそれは直してほしいっす」

「え!? 私、そんなに怖い顔してた!?」

「ライブの時はいつもですね~」

「三日くらい前から徐々に眉間の皺が深くなっていきます~」

「今日はレンさんのおかげでちょっとマシっすけどね」

 

 良いことを言った直後にメンバー達に梯子を外される。SIDEROSにはもはやお決まりの流れができているんだね。でも、先輩の言葉のおかげで結束バンドのみんなの緊張も少し和らいだみたいだ。

 

「あなた達のリハ……今まで観た中で一番良かったわ。それに、私達と肩を並べて姐さん達の前座を任された意味、それを理解しなさい。私も、姐さんも、吉田店長も、あなた達ならできると思ったから声をかけたのよ。知り合いの縁だけで、ここでライブできるほど───新宿FOLTは甘くない。だから自信を持って、あなた達の今の全力を見せつけてやればいいわ」

 

 こういうところが、大槻先輩の元に人が集まる理由で、今の結束バンドに足りないものなんだろうなと思う。誰よりもひたむきに努力を続け、結果を出してきた先輩だからこそ言えること。

 

 そして、そんな大槻先輩に認められたことが、何よりも嬉しい。きっと、結束バンドのみんなも同じ気持ちだろうな。

 

 俺はそう思って、メンバー達の顔を見る。うん、みんな実に良い表情をして───

 

「でも、それはそれとしてまだ緊張してる。レン、ぎゅーってして?」

「この流れでそれを言うんかい!?」

 

 姉貴が感動の空気をぶっ壊すような発言をする。でも、姉貴はふざけているわけじゃない。顔を見ると、ガチで緊張しているのがわかる。……結束バンドで初めて路上ライブした時と同じだな。

 

「しゃーない。姉貴、こっち来い」

「うん」

 

 姉貴がとてとてと力なく俺の方へ歩いて来る。ふてぶてしくて図々しい癖にこういう時のメンタルは弱い。我が姉ながら、本当に面倒臭い生き物だ。

 

 俺はそう思いながら、姉貴の緊張をほぐすように抱き締める。

 

「……やっぱりレンが一番いい。落ち着く」

「大丈夫そう?」

「うん」

 

 姉貴を離すと、目に見えて肩の力が抜けていた。ほんとにしょうがない女だな。もしも俺がいなくなったらどうする気だよ。

 

「レンくん、あたしもー!」

「よーし、虹夏ちゃんおいでー」

「わーい」

「……私の時と全然態度が違う」

 

 当たり前じゃ!

 

 ちょっぴり不満そうな顔をしている姉貴の横で俺が笑顔で腕を広げると、虹夏ちゃんが飛び込んでくる。腕の中にすっぽり収まった虹夏ちゃんの頭を撫でると、相変わらずアホ毛が嬉しそうにブンブン動いていた。

 

「え? 何すか? 結束バンドはライブ前にイケメンと抱き合って緊張をほぐすとかいう羨ましいルーティーンがあるんすか?」

「リョウ先輩! 私もぎゅーってしてくださいっ!」

「いいよ」

「あ、違った。やっぱ何でもないっす」

 

 喜多さんを見てあくびちゃんは一瞬で素の反応に戻る。いや、いつもやってるわけじゃないからね? 今回は特別だから。 

 

「よしっ! 元気出た! レンくん、ありがとね!」

「どういたしまして」

 

 虹夏ちゃんが眩しい笑顔でそう言ってくれる。うん、強がってる感じはないね。いつもの虹夏ちゃんだ。喜多さんは喜多さんでいつも通り。あっちは見なくていい。

 

「ぼっちちゃんもレンくんにぎゅーってしてもらう?」

「ぃhだhlfcん;lkvんひおあflj!?」

「それ、どうやって発音してるんすか?」

 

 人類が発していい音じゃないからねそれ。

 

 後藤さんとハグするとか……うん、まだ無理だよ。俺ももしかしたら、変に意識しちゃうかもしれないし。

 

「しょうがないなー。ぼっちちゃんはあたしがハグしてあげよう」

 

 虹夏ちゃんはそう言って聖母のような笑みを浮かべてバグった後藤さんを抱き締めて頭を撫でている。尊い光景だね。

 

 そう思っていたら、後藤さんが鼻をスンスン鳴らして虹夏ちゃんの匂いを嗅いでだらしない笑顔になっていた。……後藤さん。

 

「結束バンドって、おかしな人ばっかりっすね」

「あくびちゃんもハグしてあげようか?」

「……恥ずかしいからいいっす」

 

 やっぱりあくびちゃんはまともな感性をしているね。

 

「レンくーん! 私もやって~」

「幽々は頭撫でてほしいです~」

 

 やっぱりふーちゃんや幽々ちゃんはまともな感性してないね!?

 

「わ、私の名言が……完全に食われた……」

 

 そして大槻先輩は一人愕然としていた。

 

 

 

 

「おーい、山田ー」

「あ、佐々木さん」

 

 結束バンド、SIDEROS、SICKHACKのリハが終わり、チケットの販売時間になると数百人のお客さんが新宿FOLTを訪れていた。わかってはいたけどSICKHACKとSIDEROSの人気はすごい。STARRYとは全く雰囲気が違う。

 

「すごい人だね。喜多達、ほんとにこんなところで演奏すんの?」

「ほんとのほんと。いやー、出世したもんだよ」

「最初のライブはあんなにお客さんも少なかったのにねぇ」

「といっても、今日のお客さんの目当てのほとんどはSICKHACKっていうバンドなんだけどね」

「あの、酔っぱらったやべーお姉さんのバンドだっけ?」

「そうそう」

 

 佐々木さんを始め、喜多さんと仲の良い五組の女子が何人か来ていた。あと、今日のホームルームの時間に教室でアピールした成果もあって、二組の生徒の姿もちらほら見える。しかも、女子だけじゃなくて男子の姿も。

 

「後藤、めちゃくちゃ可愛くなってたね。山田が何か言ったの?」

「なんで後藤さん関連のことは全部俺のせいになるのか。……あれは美容院に行って意識を失ってる間に前髪を切られたらしいよ」

「さすが後藤。意味わかんない」

 

 佐々木さんはそう言ってカラカラと笑う。かと思いきや、小悪魔みたいな意地悪な笑みを浮かべて俺を肘でツンツン小突いてきた。

 

「喜多から写真たくさん見せてもらったけどさ~。この夏、後藤と結構いい感じだったらしいじゃない?」

「どの写真を見たのかこと細かく追求したいけど……佐々木さんもそういうのに興味があるんだね」

「ウチも一応女子高生だからね~。そういうのが気になるお年頃なの」

「じゃあ、そんな佐々木さんに質問。佐々木さんにとって『恋』って何?」

「喜多の言ってた通り、ほんとにそんなこと聞いてくるんだ。ウケる」

「今の俺は、恋愛について深く勉強して人間として成長している最中なんだ」

「大真面目に言ってるのが余計にウケる」

 

 佐々木さんは笑いながら俺の肩をバンバン叩いてきた。

 

「そしてこれが俺の恋愛手帳(バイブル)

「めっちゃびっしり書き込んである!? あんたってほんと……何と言うか、あざとい男だね」

「最近よく言われるようになった。俺としては自分の欠点を克服しようと努力してるつもりなんだけどね」

「そのままのピュアな山田でいてちょうだい。ほら、いい子だから飴ちゃんあげよう」

「餌付けかな?」

「あんたが普段後藤にやってることだよ」

「俺って傍からだとそんな風に見えてんの!?」

 

 いや確かに休み時間によくお菓子をあげたりしてるけどさ。あ、そういや佐々木さんって犬を飼ってるんだったな。つまり、今の俺は佐々木さんにとって飼い犬と同じだと……

 

「それで、佐々木さんにとって『恋』とは?」

「そーゆーのは喜多に聞けばいいじゃん」

「喜多さんの恋愛レベルも俺と同じくらいだから参考にならないんだよね」

「……恋愛映画観れば?」

「喜多さんと一緒に観た結果、こうすべきだという結論に至った」

「何を見たの?」

「僕の初恋を君に捧ぐ」

「なるほど、山田がこうなった戦犯は喜多だったか」

 

 戦犯って……いやでもある意味そうだね。花火大会の後藤さんがきっかけとはいえ、俺が具体的なことを考え始めたのは別荘で喜多さんと一緒に映画を観てからだし。なるほど、俺があざといあざとい言われるのは全部喜多さんのせいか。納得。

 

「喜多のせいで面白生物と化してしまった山田少年に、偉大なるシェイクスピアのお言葉を捧げようじゃないか。しっかりメモするように」

「はいっ! 佐々木先生!」

「恋は目でなく心で見るもの」

 

 俺はその言葉を聞いた瞬間、雷に打たれたような衝撃が走った。さ、さすがシェイクスピア……なんという含蓄溢れるお言葉。心で見る……具体的にどうすればいいのか全然わかんないけど深い!!

 

「さ、佐々木さんは心で見るような恋をしたことがあるの?」

「ふふん。内緒だよっ」

 

 佐々木さんはさっきみたいに意地悪く笑い、人差し指を唇に当てながらそう言った。俺のことあざといとか言ってたくせに、佐々木さんもしっかりあざといじゃん。

 

「恋愛って、本当に難しいなぁ……」

 

 俺はメモ帳を見ながらぽつりと呟いた。

 

「山田が深く考えすぎなんだって。こういうのはもっと気楽でいいんじゃない? ウチらはまだ高校生なんだしさ。ほら、なんだったらお試しでウチと付き合ってみるとか? なーんて───」

 

 佐々木さんがそう言った瞬間、バシャッという水音がすぐ近くから聞こえてきた。そちらを向くと、驚愕した表情の一号さんと、ドリンクを落として顔面蒼白で震えている二号さんがいた。

 

 あ、今の会話……お二人に聞こえてました?

 

「レンくん、あのね……」

「れ、レレレレレレンくんダメだよそんな簡単に女の子と付き合ったりしたら!! だ、だだだだだだだってレンくんにはひ───」

 

 一号さんが何かを言う前に、二号さんが思い切り俺に詰め寄って俺の服を掴んで前後に激しく揺らしてくる。そして、言葉を続けようとした二号さんの口を一号さんが抑えて俺から引きはがした。

 

 なんか、この瞬間だけ切り取ると修羅場みたいだなぁ、と俺は半ば現実逃避しながら濡れた床を掃除するためにモップを取りに行くのだった。

 

 

 

 

「ご、ごめんなさいっ! 私ったら早とちりしちゃって……」

「いやいや、紛らわしいことを言ったウチも悪かったですから。あとついでに山田も」

「俺に責任ある!?」

「そもそも、山田が恋愛学習マシーンになってなければ、こんな悲劇は起こらなかった」

「俺がこうなったのは喜多さんのせいなんだけど」

「全部喜多が悪い」

「そういうことにしておこう」

「しておこうじゃないでしょ!?」

 

 床をきれいに掃除して、大学生二人に一から事情を説明して誤解を解く。一号さんは落ち着いてたけど、二号さんは割とテンパってたな。というか、未だにこの二人の本名知らないんだけど……まあいっか。

 

「ちょっと見ない間にレンくんがこんなことになってたなんてね~」

「て、てっきり……レンくんがとうとう女たらしに目覚めちゃったのかと……」

「前から思ってましたけど、二号さんって結構思い込みが激しかったりします?」

「そうなのよ。今日は新宿でライブって聞いて『下北は捨てちゃったの!?』って勝手に勘違いしてて……」

「そんなこと言わなくていいでしょっ!」

 

 二号さんが顔を赤くしながらそう言った。割とほわほわしてるイメージがあったけど、付き合ったら過剰に彼氏の浮気とかを疑っちゃう独占欲の強いタイプと見た。……ふっ、俺の恋愛観も順調に成長しているらしい。

 

「大丈夫ですよ~。ウチと山田は付き合ったりしませんから。だって、山田には……ねえ?」

「その怪しい笑顔は何?」

 

 「ウチ、わかってるよ?」みたいな表情はなんですか? 佐々木さんから見て俺にとって理想の女の子が近くにいるとでも言いたいのかな?

 

「あ~、君も()()思ってるタイプ?」

「そうなんですよ。山田がこんな面白生物になってなければ、とっくに()()なってたと思うんですよね~」

「なんか、指示語ばっかり使ってますね。二号さん、どういう意味か説明してもらえます?」

「え!? で、できないできない! こういうのはレンくんが自分で気付かなくちゃいけないことだから!」

「自分で気付かなくちゃいけない……さっきまでの二号さんの焦った反応……まさか俺は……知らない内に二号さんのことを好きになっていた……?」

「もしそうだとしたら、今ここでそれを聞かされた私はどう反応すればいいの!?」

「え? それはもちろん……イエスかノーかでお答えいただけると……」

「こんなタイミングで付き合えるわけないでしょ!?」

「佐々木さん、フラれた。どうも俺の初恋は儚く散ったみたいで……そっか、これがやみさんの言っていた『いつの間にか突然始まり、後から気付くもの』なんだね」

「ちょっと目を離した隙に山田がまーた面白いことになってる」

「レンくん……普段はすごくしっかりしてるのに、恋愛が絡むと途端にポンコツになるわね」

「いいから二人ともレンくんの誤解を解いてよーっ!」

 

 色々と冷静に分析した結果、どうやら俺の初恋ではなかったみたいです。言われてみればフラれたってわかっても全然ショックじゃなかったし、それもそうか。

 

「すみません二号さん。ご迷惑をおかけしちゃって……」

「気にしなくていいよ。レンくんみたいな男の子に好かれるのは全然迷惑じゃないから」

「そういえば、山田って年上に甘やかされたいって言ってたよね?」

「でも、二号さんはどっちかというと俺が甘やかす類の女の子だと思う……」

「確かにそうね。この子は庇護欲を掻き立てられるタイプだから」

 

 思い込みが激しいみたいだし、あらぬ方向に色んな勘違いをして周囲がそれを温かく見守ってそう。でも、その分変に病んだりしてSNSに痛いポエムを綴ったりするかもしれない。

 

「そ、そんなことないよ! 私だって包容力あるもん!」

「じゃあ、試しに俺を甘やかしてくださいよ」

「いいよ。なんか、さっきからレンくんが私を見る目がひとりちゃんをお世話する時のそれと同じになってるから……この辺で私が年上のお姉さんだって言うことをちゃーんとわからせてあげるからね?」

 

 どうしよう。失敗するフラグにしか見えない。

 

「レンくんはいつもたくさんお勉強してて偉いね~」

 

 二号さんはそう言ってちょっと背伸びをして俺の頭を撫でてくる。

 

 うん……とても可愛らしいし、癒されますよ? 癒されるけど、包容力があるかと言われればちょっと……

 

「ふたりちゃんみたいですね」

「五歳児レベルの包容力!?」

 

 俺の言葉に二号さんはショックを受け、一号さんは呆れたように息を吐き、佐々木さんは爆笑していた。

 

 

 

 二号さんの思わぬ一面が露になり、しばらく談笑しているとライブが始まる時間になったので、そのまま流れで佐々木さん、一号さん、二号さんと一緒にライブを観ることになった。

 

 トップバッターは結束バンド。楽屋での雰囲気を見る限り、全員、緊張しつつもいい精神状態になっていたはずだ。それに、これまでのライブを見る限り、彼女達は……特に後藤さんは本番に強い人種だったりするから大丈夫だろう。

 

「みなさんこんばんはー! 結束バンドでーす! 普段は下北で活動していますが、今回は縁あってここでライブさせていただくことになりましたー! 私の師匠はSIDEROSの大槻さんとSICKHACKの廣井さんなので、師匠達を超える意気込みでがんばりまーす! あ、廣井さんが師匠とはいっても、お酒をぶっかけたり顔面を踏んづけたりしないので安心して前で見てくださいねー!」

 

 喜多さんはいつものように笑顔でそう喋ると、SICKHACKのファンらしき人達の間で笑いが起こった。よく訓練されているファンで何より。

 

「え? あのおねーさん。お酒ぶっかけたりするの?」

「そう。だからほどほどに離れたところで観るのが安全」

「……いざとなったら山田を盾にするか」

 

 佐々木さんが恐ろしいことを言っているけど、これまでの経験上、このくらいの距離なら大丈夫なはず。あと、二号さんがさりげなく俺の後ろに隠れるような位置に移動したけどあなたも俺を盾にする気満々ですね。

 

「それでは一曲目いきます! 『あのバンド』」

 

 今回のライブで一曲目に選んだのは「あのバンド」だ。

 

 選曲の理由は、至極単純。

 

「うおっ……あのギターやべー」

「確かまだ高校生だろ? SIDEROSの大槻ヨヨコの他にまだこんなギタリストがいたのか?」

「俺……結束バンドって知ってる。トゥイッターでちょいちょい流れてくる……下北で最近評判になってるバンドだ」

 

 周囲からそんな声が聞こえてきたので、俺はちょっと誇らしい気持ちになる。今回は新宿というアウェーでのライブだから、一曲目から観客の心を掴んでおく必要があった。

 

 だからこそ、一曲目のイントロで……後藤さんのギターソロで観客全員を虜にする。

 

 周囲の反応を見る限り、作戦は成功。今日の観客の大半はSICKHACKを目当てに来ているにもかかわらず、結束バンドの曲にもかなり乗っている感じだ。

 

「ギターだけずば抜けてるかと思ったけど、ベースの子も上手いね~」

「ボーカルの子は初めてのライブハウスなのに良い声が出てるよ。ギターの腕はまだまだだけど……」

「ドラムも全体をしっかり支えられてて良い感じ。ちょっと志麻様っぽさがあるかも」

「結構レベル高いね」

「SICKHACKの前座を任されるだけはある、か……」

 

 やべーなぁ……結束バンドが真っ当に評価されてて普通に泣きそうだわ。アウェーで、しかも他のバンドのファンの人達が……レベルの高いバンドを観続けてきたような人達が、結束バンドを褒めてくれている。こういう声を間近で聞けただけで、このライブをやった意味は十分あった。

 

「やまだー。()()泣いてんのー?」

「こんなにたくさんの人が結束バンドを観てくれて……」

「うんうん、山田もよくがんばってるよ。よしよし」

 

 佐々木さんが俺の頭を優しく撫でてくれる。俺、ライブの度に泣いてる気がするな。バンドとしてのレベルが一段階上がったこともそうだけど……それ以上に、技術不足で悩んでいた虹夏ちゃんや一番経験の浅い喜多さんがしっかり評価してもらえていることが嬉しかった。

 

「一曲目『あのバンド』でした! ここでメンバー紹介に入ります! まずは───」

 

 一曲目が終わり、喜多さんが他のメンバーを紹介する。今回は事前に、後藤さんには何も喋らずにただ背筋を伸ばして顔を上げて一礼するだけでいいって言っておいたから大丈夫なはずだ。

 

「次は、リードギターの後藤ひとりちゃん!」

 

 頼むから歯ギターとか戦国武将の物真似はしないでよ? 頼むからね? フリじゃないからね?

 

 ハラハラしながら見ていると、俺の心情を察した佐々木さんが隣でくすくす笑っていた。いや、笑い事じゃないから! ここで変なことやると洒落にならないからね!?

 

 そして、後藤さんはどうなったかというと……なんと! なんと! ちゃんと俺の言いつけを守ってくれました! 偉い! 拍手! 

 

「やっぱり、後藤ってちゃんと顔を上げるとすごく可愛いね」

「前髪と姿勢のデバフは酷かった……」

「ウチのクラスでもかなり評判良いよ。後藤が人気者になって焦ってるんじゃない?」

「これで後藤さんの友達の輪が広がれば何も言うことはないよ」

「うーん……これは重症だね」

 

 懸念していた変な男子からの猛アタックも今のところないし……まあ、後藤さんと会話を成立させるのは滅茶苦茶難しいからな。それに、俺というとんでもないハードルがすぐ近くにいたら、後藤さんを口説こうって気にもならないか。

 

 ……あれ? もしかして俺、後藤さんの異性との出会いを邪魔してる?

 

「レンくん。ちゃんと責任取らなきゃだめだよ?」

「い、いざとなったら……」

「ほんとに? 言質取ったからね?」

「なんでそんなグイグイ来るんですか!?」

 

 二号さんの言葉に、俺はちょっぴり不安になりながら答える。どうしよう……このまま後藤さんが他の男子と仲良くなれなかったら……

 

 焦らなくてもいいか。今はまだ男子どころか、女子の一部としかちゃんとコミュニケーションが取れてないんだし。これからちょっとずつちょっとずつ、お話ができる相手を増やしていけばいい。

 

 後藤さんの世界が広がれば、きっといい人が見つかるはずだ。……うん。

 

 見つからなかったら……その時はもう、そらあれよ。あれ。あれするしかないな!

 

「───では、二曲目です! 『忘れてやらない』」

 

 俺が色んな覚悟を決めていると、二曲目が始まった。───っと、いけないいけない。今はライブ中なんだ。あの子達の演奏に集中しないと。

 

 この変な気持ちだって、彼女達の演奏を聴けば吹っ飛ぶはずだ。

 

 一曲目はゴリゴリのロック、二曲目は爽やかな曲調、となると三曲目の新曲は……歌詞の内容的には、あんまり盛り上がる系じゃなさそう。どちらかというと、バラードに近い曲かもしれない。

 

 それにしても、虹夏ちゃんと喜多さん……この二週間でずいぶん良くなったね。

 

「なんか、喜多のヤツ……歌上手くなった?」

「そうなんだよっ! わかる!? あのね、声の出し方と歌詞に対する意識が変わったんだ! この前、すごい人達に指導してもらって……」

「わかった、わかったから。そんな興奮しなくてもウチはちゃーんと聞いてるから、な?」

「ジカちゃんのドラムも、すごく安定してるような」

「それでいて、楽しそうだよね。前までは結構いっぱいいっぱいな感じだったけど」

「そうなんですよ! 虹夏ちゃんは全体のことを考えすぎてて、自分がやりたいようにできてなくて……でも、もっと自由にやっても大丈夫だって教えてもらって……」

「山田って大型犬っぽいね」

「全方位にお腹を見せまくるゴールデンレトリバーね」

「シベリアンハスキーも捨てがたいかも」

 

 興奮してすみません。佐々木さんや一号さん二号さんみたいに、それほど詳しくない人達にもそうやって評価してもらえることが嬉し過ぎたんです。

 

 わかる人達にはわかる技術っていうのも格好いいけど、誰の目から見てもすごいということがわかるっていうのが、本当のアーティストだと俺は思う。

 

「『忘れてやらない』でしたー! 次がいよいよ最後の曲になります。実はできたばかりの新曲で……まだ動画サイトにもアップしていなくて、人前でお披露目するのは今日が初になりまーす!」

 

 二曲目に対するお客さんの反応も上々。やっぱり一曲目でグッと引き込んだのがよかった。あれで会場の空気を一気に変えることができたからね。

 

 伝う汗を拭うことなく、明るい笑顔で話し続ける喜多さんを見ていると、俺はあることに気付いた。

 

「……あ」

「山田、どーしたの?」

「ごめん、佐々木さん。俺ちょっと、知り合いのところ行ってくる」

「ふーん? それって女?」

「うん。十四歳に見える自称十七歳の二十三歳」

「年齢以外の情報はないの!?」

 

 一号さんがツッコんでくるけど、年齢以外の情報か。あとは……痛い服装をしたライターさんってことくらい。いや、これを言ってもフォローにならないな。

 

「もうそれだけでやべー女だっていうのが伝わってきた。ほんとにあんたってそういうヤツだね」

「俺が面倒臭い女の子が好きみたいな言い方やめてくれる?」

「違うの?」

「違わい!」

 

 たまたま俺の周りにそういう女の子が多いだけで……それに、自分で言うのもなんだけど、俺は俺で結構面倒臭い男だからな!

 

「とにかく、ちょっと知り合いにあいさつしてくるから」

「いってらー」

「え? さっつーちゃん、そんな簡単に行かせちゃっていいの?」

「だいじょーぶですよ。面倒臭い女と面倒臭い男……マイナスとマイナスをかけたらプラスになるでしょ?」

「どういう理論!?」

 

 あの三人、意外と仲良くなれるかも。なんやかんや一号さん二号さんは毎回ライブを観に来てくれるし、佐々木さんも五月と七月、それに今回も見に来てくれた。古参ファン同士、厄介ファンになることなく応援してください。

 

 そう考えながら、俺は自称十七歳ライターぽいずん♡やみさんのところへ向かうのだった。




 ライブが終わらなかった。久々のささささんと一号二号と絡ませてたら話が進みませんでした。

 次回はぽいずんとコミュして打ち上げに行きます。

 多分(レンくんが)酷い目に遭います。

 では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

 
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