【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#44 サケガクロス

 この二週間で何があった?

 

 今日の結束バンドを見て、率直に思ったことがそれだった。

 

 九月一日、あたしが結束バンドを取材して、ギターヒーローさん達に色々な話を聞いて、あの子達の演奏を生で聴いて……その時、確かにあたしはこの子達に期待した。

 

 少なくとも、ギターヒーローさんをこのバンドに任せてもいいかもしれないと思うくらいには。

 

 だけど、あれからたった二週間だ。たった二週間で……演奏の安定感が、というよりレベルが一段階上がっている。

 

 特に目を引くのはギターボーカルとドラムの子。あたしが山田レンに直々に「精進しなさい」と伝えておくよう言った二人。確かに……確かにあたしはそう言ったけど。

 

 あの男、一体今度は何をやらかした?

 

「それでは、最後の曲です! 『星座になれたら』」

 

 最後の曲が始まる。新宿というアウェーにもかかわらず、客の反応は決して悪くない。初めて新宿FOLTで演奏するということを加味すれば大健闘といっていい。

 

 ボーカルの子は前に聞いた時よりも声がはっきりと通っているし、何よりも歌詞に対する思いが以前よりもずっとずっと強く伝わってくる。

 

 ボーカルとしての技術が劇的に向上した、というよりもバンドのフロントマンとしての姿勢や考え方に大きな変化があったようね。

 

 ドラムの子は、吹っ切れたような良い顔をしている。前に観た時はその真面目さ故に()()が全然感じられなかったけど、リズム隊として全体の演奏を正確に支えつつ、どこか奔放さを感じる。

 

 何かがきっかけで、バンド全体のレベルが一気に上がるということは稀にある。そして、若いバンドであればあるほど、そうなる可能性は高い。

 

 だけど……ちょっとこの成長速度は異常じゃないかしら?

 

 本当に、あの男は一体何をやったのよ?

 

「やっぱギターの子が一番レベル高いな」

「ソロだと圧倒的だよ。セッションになると微妙になるけど」

「あれだろ? 周りに合わせるのが苦手なタイプ」

「あー……バンドとソロじゃあ勝手が全然違うもんな」

「あのギターの子……どっかで観たことある気がするんだよなぁ」

 

 SICKHACKのライブを見慣れているだけあって、ファンの目も肥えている。だけどさすがに彼女とギターヒーローさんを結びつけることは難しいみたいね。

 

 まあ? 私みたいな生粋のファンだったらぁ? 一目見た瞬間に気付きますけどぉ?

 

 それにしても……本当に上手いわね。二番から大サビへとつながる間奏でギターソロ。落ち着いている曲調だけど、それでも彼女の技術の高さに圧倒されてしまう。

 

 一曲目のイントロといい、ラストのソロパートといい、観客のことをよく考えたセトリになっているわね。

 

「ありがとうございましたー! 次は前座じゃなくここでメインを張る気持ちでこれからも活動を続けていきます! 応援よろしくお願いしまーす!」

 

 ボーカルの子がそう言うと、メンバー全員が丁寧に頭を下げ、会場は拍手に包まれる。ロックバンドらしからぬ爽やかさ。でも、これも彼女達の武器よね。現役の女子高生だからこそ作れる雰囲気。

 

 擦れた感じがない、純粋に音楽を楽しもうという気持ち。

 

「よかったねー」

「下北で活動してるんだって? 私、次のライブも観に行こうかな」

「トゥイッターとイソスタ、フォローしとこ」

「SIDEROSとケモノリアもいるし、都内の若手バンドはレベルが高いね」

 

 正直、結束バンドがここまでやるとは思っていなかった。レベルが上がっているとはいえ、まだまだSIDEROSやケモノリアには及ばない。だけど……この子達の成長速度を考えたら、本当に……本当に来年の未確認ライオットでは彼女達と張り合えるところまでいけるかもしれない。

 

 それだけのものを、この子達は見せつけた。

 

「やみさん、来てくれたんですね。ありがとうございます」

 

 そんなあたしに、山田レンが後ろから声をかけてくる。そうよね、当然いるわよね。あの子達の最古参ファンだものね。あんたには、厄介老害ファンの栄えある第一号になる資格があるわ。

 

「驚いたわ。あんた、あの子達に一体なにをやらせ───ってええええええ!? なんであんた涙目で目ぇ腫らしてんの!?」

「ちょっと、感動し過ぎて……」

「どこまであの子達に入れ込んでいるのよ!?」

「演奏自体、というより……初めてのお客さん達が高く評価してくれたことが嬉しくてですね」

「あんた、拗らせファンを超えた何かだわ……」

 

 というか、その涙目はやめなさいよ。なんかあたしがあんたを泣かしたみたいじゃない。

 

「どうでしたか、今日の結束バンドは?」

「聞くまでもないでしょ。二週間前とはまるで別人よ。あんた一体、何をやったの?」

「やみさんに言われた通り、ギターボーカルとドラムのレベルアップを図りました。ぶっちゃけると、俺は何もしてません。指導者が良かったんです」

「指導者って……誰よ?」

「内緒です」

「ふーん?」

 

 なるほどね。バンド指導の専門家を雇ったか……いや、この子達にそんな金銭的な余裕はなさそうだし、その線は薄いわね。となると、レベルの高いバンドの知り合いに頭を下げたか。

 

「前座とはいえ、こういう大きい会場で演奏できたのは良い経験だわ。これを糧にこれからもがんばりなさい」

「それ、あの子達に直接言ってあげてくださいよ」

「……気が向いたらね」

 

 一ライターとして、あんまり一つのバンドを贔屓し過ぎるのも、ね。それに……ちょっと照れ臭いし。

 

 あたしのそんな心情を察したのか、山田はクスクス笑っていた。それがムカついたので袖でぺしぺし叩いておく。

 

「そうそう。十一月二日と三日、ウチの学校の文化祭で結束バンドがライブやるんですよ。よかったら観に来てください」

「文化祭ライブ? まーた青春ポイントの高そうなイベントね」

「初日に来れば俺のメイド姿が見れますよ」

「アピールするとこそこ!?」

「なんだったら、やみさんもメイドになりますか? 童顔だし、ロリ系ツンデレメイドとして活躍できるかもですよ」

「あたしが二十三歳だとわかってて言ってるのよね!?」

「後藤さんもメイドになります」

「ギターヒーローさんになんてことやらせてるんだ! まさか、ライブもメイドの恰好ででやるつもりじゃ……」

「その発想はなかった。……提案してみよう」

「あ、やばい! こいつに余計な入れ知恵を……」

 

 山田はどこかに連絡を取ろうとしてスマホを取り出す! やらせんぞ! ギターヒーローさんの名誉はあたしが守るんだ! あたしが山田の腕を掴んで抵抗すると、山田は微笑ましいものを見るような目をあたしに向けてきた。

 

 その包容力溢れる笑顔は何!?

 

「冗談ですって。あの子達が望まない限りやりませんよ」

 

 あたしのこと、小さい子供か何かだと思ってる!? 言っておくけど、あんたより八歳も年上なんだからね!?

 

「それはそれとして……今日は本当にありがとうございました。あの子達が今日、あれだけの演奏ができたのは前にやみさんが俺にアドバイスをくれたおかげです」

「一番がんばったのはあの子達よ。それに、もっと感謝すべき相手が他にいる」

 

 あんた達が一番感謝しないといけないのは、今日のためにしっかり指導してくれた人達でしょ? それに、アウェーにもかかわらず、ここまで応援に来てくれたファンの人達。

 

 まあ、こいつならわざわざ言わなくてもわかっているでしょうけど。

 

「わかってます。でも、やみさんにもお礼を言っておきたかったんですよ。結束バンドの取材記事、読みました。すごくよかったです。……ありがとうございました」

「そう……気持ちは受け取っておくわ。これからもがんばりなさい」

「はい。やみさんも、取材したくなったらいつでも連絡ください」

 

 山田はあたしにぺこりと頭を下げた後、背を向けてどこかへ行こうとする。

 

「待ちなさい」

 

 そんな彼を、思わずあたしは呼び止めていた。

 

「まだSIDEROSとSICKHACKの演奏があるでしょ。ここで聴いていきなさいよ」

「……へえ。やみさんってそういう人だったんですね。てっきり、ライブは一人で静かに楽しみたい人だと思ってました」

「普段はね。でも、今日は誰かと一緒に聴きたい気分なのよ。……ダメ?」

「俺でよければ」

 

 山田は優しく笑って私の隣に戻ってくる。なんであたしがこんな提案をしたのか、自分でもよくわからないけど……多分、この喜びを誰かと分かち合いたかったんだと思う。

 

「最後に一つ言っておくと」

 

 身長差の関係で、山田を見上げる形になる。彼は私の隣で、きょとんとした表情を浮かべていた。

 

「ギターヒーローさんはこのバンドじゃなきゃダメよ」

 

 今日の演奏を観て、一番強く思ったこと。彼女が人見知りだからとか、他のプロのバンドに混ざると馴染めないからとか、そういう理由じゃない。

 

 なんというか……彼女の居場所はここなんだって漠然と思っちゃったのよ。上手く説明できない、感覚的なもの。

 

 そして、この男は……山田レンはあたしよりもずっとずっと長い間結束バンドを見続けてきた。だから、わかってくれるはずだ。共感してくれるはずだ。この気持ちを。

 

「あの子達に直接言ってくださいよ」

「気が向いたらね」

 

 山田の笑顔を見て、思う。

 

 思いを共有できるのは、こんなにも気持ちのいいことなんだなって。

 

 

 

 

 

「それではぁ~! 結束バンド、SIDEROS、SICKHACKのライブが無事に終わったことを祝しましてぇ~! かんぷぁ~~~いっ!!」

 

 すでに()()()()()()()()廣井さんの間の抜けた乾杯の音頭で打ち上げがスタートする。今日はSICKHACKの三人+吉田店長もいるので、合計十三人での大所帯だ。

 

 廣井さんおすすめの居酒屋、個室になっている座敷の一室をそのまま俺達が使っている。

 

「結束バンドちゃん達、すごい盛り上がりだったじゃな~い! ウチで初めてのライブなのに、すっごくよかったわよ~!」

「これも、みなさんのご協力のおかげです。特に、あたし達に技術指導や心構えを教えてくださったSICKHACKの方に大槻さん、本当にありがとうございました!」

「えへへ~。それほどでもないヨ~!」

「イライザは何もしてないでしょ~?」

「私はレンに『恋は戦争だ』って教えてあげたもん! ねー?」

「そうですね。イライザさんの言葉はとてもためになりました」

「ほらほら~!」

 

 俺がそう言うと、イライザさんのアホ毛が嬉しそうにぴくぴくと左右に揺れ動く。なるほど、虹夏ちゃんと同タイプか。

 

「後藤さん、お疲れ様。今日も最高に格好良かったよ」

「あ、ほ、ほ、本当ですか? えへへ、しょ、しょんなことないですよ~。あ、あのくらいちょちょいのちょいの朝飯前です~」 

 

 隣に座る後藤さんがえへえへとだらしなく笑っている。この顔を見ると和むなーと思うあたり、俺も結構手遅れかもしれない。

 

「はい、乾杯」

「か、乾杯……です」

 

 俺はジンジャーエールが入ったグラスを、後藤さんはコーラが入ったグラスを持って軽くぶつけ合う。

 

 そこでふと正面を見ると、大槻先輩が不満そうな表情でウーロン茶が入ったグラスを持って俺をじーっと見てくる。分かりやすいなこの人。

 

「大槻先輩もお疲れ様でした。俺、久しぶりに先輩の本気を見ましたけど……鳥肌立ちましたよ」

「そ、そう? ま、まあ、あのくらい……私にかかればどうってことないわ。いつも通りよいつも通り」

 

 大槻先輩は喜びを隠し切れない表情で言う。なんというか……やっぱり後藤さんと大槻先輩って似てるよな。ネガティブぼっちとアクティブぼっちの違いはあるけど、本質が似すぎてる。

 

「山田しょうね~ん! 私は? 私はどうだった~?」

「今日は機材を壊さなかった! ファンを一升瓶でぶっ叩かなかった! 偉い!」

「でしょでしょ~? ダイブと大五郎のぶっかけだけで自重したんだからね~」

 

 廣井さんの自重のハードルが低すぎる。いやでも、これまでのSICKHACKのライブに比べたら本当に大人しかったからな。身構えてたファンの人達も、若干肩透かしを食らった感じだったし。

 

 やみさんも前回酒まみれになったことを警戒して、SICKHACKの演奏が始まったら俺を盾にしてたからね。

 

「でも、今日の演奏の出来なら……定期的にウチでライブしてもらいたいわね」

「ほ、本当ですかっ!?」

 

 吉田店長の言葉に虹夏ちゃんが思い切り食いつく。いや、これって結構な快挙じゃないか? 吉田店長はおそらく、この中の誰よりも多くのバンドを見てきた。そんな人が、結束バンドの実力を認めてくれている。お世辞や、社交辞令ではなく、本心で。

 

「ただ、ウチでライブをするとなると、その分ノルマも大きいけどね」

「の、ノルマ……お金が、お金がいくらあっても足りないよう……」

 

 吉田店長の現実的な言葉に、よわよわ虹夏ちゃんになっていた。アホ毛もしゅんと垂れている。

 

「そこはレンのバイト代と引き換えということで手を打ってもらえませんか?」

「文字通り弟を売るなや!」

「バンドの発展には犠牲が付き物デース」

「じゃあまずは姉貴のハイエンドギターをメルカリで売るところから始めようか」

「待って。売るならせめて郁代から買った六弦ベースにして」

「リョウ先輩!?」

 

 あまりにもクズ過ぎる発言。いやでも、喜多さんの病気を治すには良い機会なのでは?

 

「喜多さん、姉貴はこういう人間なんだ。いい加減目を覚まそう」

「う、うぅ……で、でも、それがバンドのためになるなら、リョウ先輩のお役に立てるなら───リョウ先輩! 私(の物だった六弦ベース)を好きにしてくださいっ!!」

「……こちらも売らねば無作法というもの」

「ベーシストの姿か……これが……」

 

 俺と喜多さんと姉貴が漫才をしていると、大槻先輩は呆れた表情でため息を吐いていた。こんなん結束バンドじゃ日常茶飯事ですからね?

 

「後藤さん。このチキン南蛮美味しいから一緒に食べよ?」

「あ、はい。い、いただきます……」

「先輩もどうぞ」

「あ、ありがとう」

 

 ぼっち組に気を配ることも忘れない。この二人は放っておいたらただ黙々と料理だけを食べ続けるからね。適度に話を振ってあげないと。

 

「先輩、今日みたいにSICKHACKと共演することってよくあるんですか?」

「それなりにね。ただ、姐さん達は遠征に行ったりするから」

「遠征って……車ですよね? ああ、志麻さん……お疲れ様です」

「山田少年! 私も免許持ってるからね~?」

「だとしても廣井さんの運転する車には絶対乗らないですから」

「廣井の運転は、意外に思うかもしれないけど……かなり丁寧なんだ」

「え? そうなんですか?」

 

 志麻さんの言葉に俺は驚いた。素面の廣井さんは超絶コミュ障だから、運転する時はガッチガチに緊張してものすごく力を入れて両手でハンドルを握ってそうなのに。

 

「ヨヨコ先輩、ウチらも来年には遠征行きたいっす」

「そーそー。ヨヨコ先輩が十八歳になれば免許が取れますし~」

「おっきな機材車を買いましょ~」

「私をアッシーにする気でしょ!?」

「ヨヨコだからヨッシーになりますね」

「レンさん、上手いこと言いますね」

「ヨッシー先輩だ~。今度被り物買ってきますね~」

「ヨッシー先輩……いつもマリオに乗り捨てられて可哀想。幽々は応援してますよ~」

「大槻ヨヨコを乗り捨て……乗り捨て……ふっ」

「山田姉っ!! 今何を想像したのよっ!?」

「この場で言えないようなこと」

「ほとんど答え言ってるじゃない!!」

 

 大槻先輩達も変な盛り上がりになってるな。ヨッシーって言った俺が戦犯かもしれないけど、ここはそっとしておこう。

 

 隣に座っている後藤さんを見ると、顔を赤くして口をパクパクさせていた。あ、後藤さんも意味は分かってるのね。

 

「後藤さん」

「ぶあひゃい!?」

 

 驚きのバリエーションが豊富だね。

 

「今、何考えてたの?」

「にゃ、にゃにゃにゃにゃにゃにも考えてないでしゅよ~! にゃーんにゃーん!」

 

 とち狂った後藤さんが手をグーにして猫の物真似をする。その様子があまりにも可愛らしかったので、俺はスマホを取り出して写真に収めた。今度星歌さんに自慢してやろ。

 

「あ、あ、あ……な、何を撮ったんですか!?」

「にゃんにゃん言ってる後藤さん」

「け、消しっ……消してくださいっ! そ、そんな写真を保存してたらスマホが爆発しますよ!?」

「韓国製じゃないから大丈夫」

「あ、あ、じゃ、じゃあ……ありとあらゆるデータを破壊しつくして大変なことに……」

「後藤さんの写真はウイルスか何かなの?」

 

 だったら星歌さんのスマホはとっくにお陀仏になってるね。

 

「そ、そんなに意地悪しないでっ……! 私の手……届かない、から……」

 

 後藤さんが俺のスマホを奪おうとしてきたので、俺は手を伸ばして取られないようにする。

 

 すると、後藤さんは思い切り俺に体を近づけてぐーっと手を伸ばしてがんばって取ろうとしてきた。

 

 ちょっとちょっと! そんなに体近づけないで! 当たってるから! 胸が当たってるから! 君絶対気付いてないでしょ!? 気付いてたら死んじゃうもんね!?

 

 わかったわかった! 消すからちょっと待っ───

 

 その瞬間、パシャリというシャッター音が()()聞こえてきた。

 

「喜多さん!? イライザさん!?」

「良い写真が撮れたヨ~」

「ひとりちゃん見て! レンくんといちゃいちゃしてる写真よ!」

「い、いちゃいちゃ……いちゃいちゃ……あ、あ、あ……」

 

 あ、後藤さんが痙攣し始めた。やばいやばいやばい! 死んじゃうって! ドロドロに溶けるならまだしも、もしも粉末状になったらお通夜会場になっちゃうよ!?

 

 どうする!? どうする俺!?

 

 形状変化をし始めた後藤さんを見て、もう数秒の猶予も残されていない。俺はこれまで彼女と出会ってからの記憶を総動員して、脳みそをフル回転させる。

 

 そして、閃いた。

 

「後藤さんっ!」

 

 俺は今にも爆発四散しそうな(自爆寸前のセルにそっくり)後藤さんの口の彼女の好物である唐揚げを放り込む。

 

「……あ、美味しい、です」

 

 すると後藤さんは正気に戻り、唐揚げをもぐもぐし始めた。なるほど、一度変形してしまったら元に戻すのは時間がかかるけど、その前なら好きな物を食べさせてあげればいいんだね。

 

 後藤さんへの理解がさらに深まったな、ヨシ!

 

「レーン、私とも乾杯しヨー!」

「もちろん。お疲れ様でした、イライザさん!」

「かんぱーい!」

「それ、何飲んでるんですか?」

「ジンジャーハイボール。甘いから結構飲みやすいんだヨ」

 

 へー、そうなんですね。グラスといい、色といい、俺のジンジャーエールとそっくりだから間違えて飲まないようにしないと。

 

「ひとりちゃん、私達も乾杯しましょ!」

「あ、はい(よかった……喜多ちゃんがよそよそしくなくなってる)」

 

 呼び方が元に戻ったみたいだ。今日の後藤さん、格好良かったもんね。好感度が無事に上がったようで何より。

 

「レン、文化祭でメイドになるんでしょ? 私、メイドさん大好きなの! 絶対見に行くからネ!」

「そうなんですか? じゃあ、ライブも観に来てくださいよ。二日目に結束バンドが体育館のステージで演奏するので!」

「うん! 観る観る~! ぼっちちゃん、今日みたいに格好良いところ、期待してるネ!」

「あ、はい。ぜ、ぜひ来てください……しゅ、秀華高校を震撼させちゃいますよ~」

 

 まーたわかりやすく調子に乗ってるよ。まあ、今日の出来なら確かに震撼させられるだろうね。

 

「虹夏ちゃん、セトリはどうするの? 今日と一緒?」

「うーん、どうだろう。ぼっちちゃんと喜多ちゃんの晴れ舞台だし、文化祭のために()()()()()を作りたい! って言いたいとこだけど……」

「こればっかりはインスピレーション待ち。……まあ、()()()()よ。ぼっちと郁代のためだもんね」

「リョウさん……」

「リョウ先輩……」

 

 後藤さんと喜多さんは感激したような表情になっていた。

 

 でも姉貴、あんなこと言ってるけど大丈夫か? あと一ヶ月半しかないのに……それにさっき、ほんの一瞬だけど暗い表情してたろ? 俺にはわかるんだからな。

 

 ……明日から文化祭が終わるまではちょっと優しくしてやるか。

 

「ねーねーレン」

 

 俺が姉貴の様子を見ていると、イライザさんが俺にそっと耳打ちしてきた。内緒話ですか?

 

「さっき……ぼっちちゃんのおっぱいが当たっててドキドキしてたでしょ?」

 

 いきなり何を言ってくるんだこの人!?

 

「ぼっちちゃんや他の人は気付いてなかったけど……私はネ、そういうの……わかっちゃうんだヨ?」

 

 イライザさんが小悪魔チックに笑いながら囁いてくる。……もしかして、酔ってるんですか?

 

「レンはおっぱい大きい子が好きだもんネ~? そういう男の子だもんネ~? もしかして、私のこともえっちな目で見てたりするのカナ~?」

 

 マジで酔っ払ってんじゃないかこの人!? 前の打ち上げの時はこんなことにならなかったでしょ!?

 

 あ、でも前は度数の低い甘いカクテルしか飲んでなかったから……

 

 というか、赤らんだ顔をそんなに近づけないでくださいよ。ただでさえ、最近の俺は情緒不安定なんですから!

 

 あー、くそっ! 前まではこんなスキンシップなんかで動揺することはなかったのに! なんで急にこんなことになってんだよ!

 

「山田……大丈夫? 顔、赤いわよ。あ、もしかして暑い? エアコンの温度下げようか?」

「い、いや……大丈夫ですよ大槻先輩! お気遣い、ありがとうございますっ」

「そう? 今日はあなたも色々お手伝いしてくれたんだから、無理しないのよ。疲れたら横になっていいんだから」

 

 大槻先輩の優しさが心に沁みる……さっきまで動揺していた心が落ち着いて───

 

「そーそー。私が膝枕してあげるから……ネ?」

 

 イライザさんが妖艶に笑いながらそんなことを言ってきた。俺は反応したら負けだと思って、恥ずかしさを誤魔化すようにしてグラスを手に取り、中身を()()()()()()()()

 

「あ、レン……それ……」

「なんですか?」

 

 イライザさんが目を見開いている。どうしたんですか?

 

 あれ? そういえばこのジンジャーエール、さっきまで俺が飲んでたのと味が違うような……

 

「それ……私のジンジャー()()()()()

「マジ……ですか……?」

 

 ヤバい。

 

「ヤバい」

 

 離れたところで姉貴がそう呟いたのが聞こえたかと思うと、そこでぷっつりと俺の意識は途切れてしまった。




 打ち上げが長引いたので二分割!

 次回、間違ってお酒を飲んじゃったレンくんのリミッターが解除されます。

 酒癖の悪さは姉が証明してるので同じ遺伝子を持つレンくんもやべーことになります。

 レンくんの性格を理解している人はどうなるか予想できるでしょうけど……

 では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

 
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