山田くんが間違って清水さんのお酒を飲んじゃったかと思ったら、リョウさんの焦った声が聞こえてきた。め、珍しい……リョウさんがあんなに動揺するなんて。
山田くんは俯いちゃって……顔が全然見えないけど、大丈夫かな?
「や、山田くん……大丈夫ですか? お水、飲む?」
私が声をかけると、山田くんは顔を上げて私を見た。そして私は……彼の表情を見て絶句してしまう。
「ありがとう。後藤さんは、
これまでに、聞いたことのないほど優しい声色。脳が蕩けるような、甘い甘い声。アルコールのせいか、頬を赤らめて目がトロンとしている。彼の顔を見た瞬間、心臓がドクンと高鳴り……女としての欲望が激しく刺激されるのを自覚した。
「後藤さんはすごくがんばり屋さんで……得意じゃない勉強も、弱音を吐かずに毎日毎日コツコツ努力して少しずつ成績が伸びてきたよね。人付き合いやお話しするのが苦手なのに、それを克服しようとバイトもすごく一生懸命で、その上でギターもちゃぁんと練習してて……覚えてる? 初めての路上ライブの時はずーっとキャリーケースの中に引きこもってたんだよ? それが今は……新宿FOLTみたいな大きなライブハウスで堂々と演奏して……本当に、すごくすごくすごーーーく成長したよ? だから、少しくらい自分に自信を持っていいんだ。たまには自分を褒めてあげて、ね? 自分で褒められないなら……これからも俺がたくさんたくさん褒めてあげるから」
「あひゅぅ……」
や、山田くんが……山田くんが私の頭を撫でながら甘い甘い声で優しく褒めてくれる。な、なにこれなにこれなにこれなにこれ!!?? い、色んな感情がぐちゃぐちゃになっちゃって……何も考えられないよぉ……えへへ。もっと、もっと撫でて山田くん……
「りょ、リョウ……こ、これは……!?」
「レンは、酔っぱらったらああなるんだ。私みたいに、甘酒で酔うなんてことはないけど……本物のお酒を飲んだら、理性が崩壊して全方位甘やかしマシーンオーバーフロー状態になる」
「普段のレンくんの理性ってすごくがんばってたんですね!?」
「あれはまずいぞ……私に似てアルコールに耐性が全くない。ああなったレンをどうにかする方法は……」
リョウさんが何か言ってるけど、私の頭には全然入ってこなかった。そっかぁ……山田くんはずうっと私にこうしたかったんだね。いいよぉ~、君の気が済むまで存分に甘やかしていいからねぇ~
「ぼっちちゃんがやべえ顔してる!? ダメだって! 女の子がしちゃいけない顔だってあれ!」
「割といつものぼっちさんじゃないっすか?」
「あくびちゃんはすごく冷静だなっ!」
「いや、結構焦ってますよ。だってレンさん……恋をしたことがないピュアピュアボーイの上、お酒に弱くて、いざ飲んじゃうとあんな色気全開の表情で相手が望んでいる言葉を全力で甘く囁くなんて……いつどこで襲われても文句言えないっす」
「レンくんは絶対に女の人と二人で飲みに行っちゃダメだ!!」
はっ!!?? そ、そうだよっ!! はーちゃんの言う通りだ!! こ、こんなところで理性を崩壊させるな後藤ひとり!! 私はえっちちゃんなんかじゃない!! ぼっちちゃんなんだ!! 本当にえっちちゃんなのは大槻さんなんだ!! 耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ私の理性!!
「後藤さん、どうしたの?」
山田くんが、こてんと首をかしげながら聞いてくる。
あ、無理っすわ。山田くんが全力で私をえっちちゃんに導こうとしていますわ。
えっち・ざ・ろっく、始まります。
「ちょ、山田……あなた大丈夫!? お水持ってきてあげたから!!」
「大槻先輩……」
あ゙ーーーっ!! あ゙ーーーっ!! あ゙ーーーっ!!
えっちの代名詞である大槻さんが今の山田くんと絡んだらどうなってしまうんだ!? えちえち×えちえち……だめーっ!! だめーっ!! いやぁーーーっ!!
おっぱじまって……おっぱじまってしまうぅぅぅぅぅっっっ!!!
「先輩……俺、先輩のこと本当に尊敬してます。これまでずっと、バンドを組んではメンバーに逃げられ、集めては逃げられを繰り返して……でも、それでも一切妥協しないでいつもいつも一番を目指す姿勢。俺、そんな先輩の姿を見て、自分もがんばろうって思ったんですよ。俺だけじゃない。今の結束バンドがあるのは、先輩のおかげなんです。素直になれなくて、意地っ張りで、怖がりで、色んな所で空回りしちゃうけど、なんだかんだで面倒見が良い……俺も、みんなもそんな先輩が大好きで……先輩のそういうところにずーっと甘えてました。だから先輩、これからは俺にもっと甘えていいんですよ」
「おごっ!!??」
「ヨヨコ先輩ってあんなうめき声出せるんすね」
「録音しておけばよかった~」
「幽々が動画に収めてるから大丈夫ですよ~」
「お、大槻さんのカリスマが失われていくわ……」
「あの人のカリスマはライブ中限定っす」
や、山田くんがさっきみたいにすっごく優しくて甘い声で囁きながら大槻さんの頭を撫でると、大槻さんは泡を吹いて白目になって横たわってしまった。
山田くんすごい! 大槻さんのえちえちパワーを真正面から打ち破るなんて!!
いやいや!! 油断するな後藤ひとり! 今の大槻さんは無防備に寝転がっている状態……つ、つまりこれが噂に聞く「誘い受け」だ!! あ、あんな谷間全開の服装で誘惑しておいて無防備に横たわる……
き、気絶していても大槻さんのえちえちパワーは衰えないなんて!! まずい……硬派で清楚で瀟洒で淑女な私では相性が悪い!!
「さあ、次は誰が犠牲になる?」
「犠牲とか言ってる場合じゃないでしょ!! これ以上屍を増やすわけにはいかないんだから!! おーい、レンくーん! とりあえずお水飲んで落ち着こう? ね?」
今度は虹夏ちゃんが山田くんに声をかける。そ、そうだよ! 虹夏ちゃんの包容力なら今の山田くんを何とかできるかも……
「虹夏め……飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのこと」
リョウさんは全く動こうとしない。そ、それだけ虹夏ちゃんのことを信頼しているのかな? 言ってることは物騒だけど。
「虹夏ちゃん……」
「レンくん。ほら、お水飲んで」
「うん」
虹夏ちゃんがお水の入ったコップを渡すと、山田くんは素直にごくごく飲み始めた。あ、虹夏ちゃんの言うことはちゃんと聞くんだね。これはもう大丈───
「落ち着いた?」
「俺はずーっと落ち着いてるよ?」
お水を飲み終えた山田くんが虹夏ちゃんをぎゅーって抱き締めた。あばばばばばばばばばばばばっ!!!!???? だ、だいじょばないっ! ぜんぜんだいじょばないよっ!!
「レンくん!?」
「虹夏ちゃん……今日のライブ、よかった。本当によかった。姉貴と二人っきりだった時とは違って……メンバーがちゃんと集まって……虹夏ちゃんの夢に近づいて……」
「レンくん……」
あ、あれ? 山田くん……もしかして泣いてる!?
「あんなに、あんなにいっつも悩んでた虹夏ちゃんが……リズム隊で一番へたっぴだって悩んで、苦しんでた虹夏ちゃんが……今日は心の底から、すごく、すごく楽しそうで……今まで聴いた中で、最高の演奏だった。この結束バンドはね、虹夏ちゃんが作って……虹夏ちゃんがいるから成り立ってるんだよ? 結束バンドのドラムは……リーダーは……他の誰でもない、虹夏ちゃんじゃなきゃダメなんだ。だからこの先、どんなに辛いことあっても、どんな最後が待っていようとも、俺はずっと……ずーっと虹夏ちゃんを支え続けるから」
「あたしも……何があっても、あたし
な、なんか……なんか私や大槻さんの時と空気が違い過ぎる!? こ、これが幼馴染補正!? うっ……!! 空気が……ふ、二人を取り巻く空気が重いっ……!?
「あの組み合わせだけ湿度ヤバくないすか?」
「あの二人はあんなもん。お互いに激重感情を向け合っててサイヤ人の重力トレーニング室みたいになってる」
「お、幼馴染って……もっとキラキラしているのだと思ってました」
「幽々の知ってる幼馴染と違います~」
ふーちゃんや幽々ちゃんまでそんなことを言っている。や、山田くんって虹夏ちゃんと二人っきりになるとあんな感じになるのかな? 格好良い男の子と幼馴染だっていう関係……羨ましいと思ってたけど、あの二人を見てるとなんか怖いっ!!
「次は郁代だ。ごー!」
「任せてくださいっ! これまでの三人でレンくんの傾向はつかめました。本物のリョウ先輩にあんな風にされたら死にますけど、レンくんは所詮……リョウ先輩と顔が似ているだけで性格は似ても似つかないですから! ふっふっふ。まさに私は、レンくんにとっての天敵というわけね! さあレンくん、大人しくお縄につきなさい!」
「完全に発言がかませ犬のそれなんすけど、大丈夫すか?」
「大丈夫なわけがない」
リョウさんが酷いことを言ってるけど……私もそう思う。き、喜多ちゃん! 完全に負けフラグですっ! 虹夏ちゃんでもダメだったんだよ? ……悪いことは言わないから逃げてください!
「いくら私を甘やかして褒めたところで、絶対に屈したりしないんだからっ!」
くっころ! これがかの有名な「くっころ」だ! いや、喜多ちゃんだからきっころ?
「そうだよね。喜多さんは姉貴のことが大好きだから、俺に褒められても嬉しくないよね」
「あ、いや……嬉しくないわけじゃないわよ?」
だ、ダメです喜多ちゃん! そこで変に退いちゃったら山田くんの怒涛の攻撃が……
「喜多さんは……この半年で、誰よりも成長したと思う。ギターなんて触れたことがないところからスタートして、ボーカルだって他のバンドの人達と比べたら周回遅れで始まって……でも、喜多さんはいつでもどんな時でもポジティブで、前向きで、ひたむきに努力を続けて、誰かに師事されることを苦に思わない……素直な子。そういう姿勢を貫いたから、ここまで成長できたんだよ? 確かに、大槻先輩や廣井さんと比べたら、フロントマンとしてはまだまだだけど……それでもっ! これからもずっと、今の気持ちを忘れずに努力を続けられるならいつか必ず追いつける。だからそのまま、前を向いて走り続けてほしい」
「レンくん……」
単純に甘やかすだけじゃない!? た、確かに……喜多ちゃんにはこういう褒め方の方が
ウチにお泊りに来たときも……喜多ちゃんは私や他の人達との差に不安を感じていた。だけどその不安は事実であると指摘しつつ、喜多ちゃんなら絶対にその
「だけど、ずっと前を向いて走り続けるのは辛いよね。そんな時は……後ろを振り返れなんて言わない。ただ、喜多さんを応援する声や支えてくれている人達の声は聞こえるはず。だから、少し疲れたと思ったら……そういう人達の声に耳を傾けて、糧にしてほしい。もちろん俺も、そこにいるからね?」
「……うん」
喜多ちゃん……完全に沈黙しました!! あれだけ意気込んでおいて見事な即落ち二コマ。今は大人しく山田くんに頭を撫でられている。いつも山田くんを振り回しているか山田くんをドン引きさせているかの二択なのに……しゅごい。
で、でも山田くんはあれだけ色々なことを言っているのに、口説いている感じが全くしないのがすごい……
人間的な部分や、成長しているところを純粋に褒めてくれているんだ。ただ、あんなに色気のある表情をしながら甘い声で囁くから変な気分になっちゃうだけで……
なっちゃダメだなっちゃダメだなっちゃダメだなっちゃだめだ!! 変な気分になっちゃダメだ!! 今の山田くんはいつどこのいやらしいえっちな女にお持ち帰りされてもおかしくない!! だから私が守るんだっ!!
し、下心なんてないっすよ? また褒めて甘やかしてくれるかもなんて思ってないっす!
「喜多さんは案の定でしたっすね」
「見事なフラグの回収っぷりに私は惜しみない拍手を送る」
「次はどーするんすか?」
「ここらでそろそろレンの甘やかしがダメージにならない刺客の登場」
「いるんすか? そんな人」
「清水さん。あと、楓子と幽々。この三人はダメージを受けない。むしろ『褒めて褒めて』と尻尾を振るタイプ」
「……まあ、ウチはあれに耐えられそうにないですし」
「あくびはなんだかんだ常識人。でも、今のレンを相手にすると一番ラブコメっぽい空気になる。私はそんな空気を高みから味わいたい」
「なんでレンさんがああいう人間に育ったのかよーく理解できたっすよ」
「そんなことを言っている間にほら。わんこ系癒しトリオがレンに攻勢を仕掛けている」
リョウさんの言葉に山田くんに目を向けると、真っ白に燃え尽きている喜多ちゃん、魂が抜けている大槻さん、虹夏ちゃんは……あれ? いつの間にかいなくなってる。どこに行ったんだろう?
そ、それより……清水さんとふーちゃんと幽々ちゃんに揉みくちゃにされている山田くんがいた。
「ねーねーレン。私もぎゅーっとしてよしよしして~」
「イライザさんの次は私ね~」
「幽々も甘やかしてくださ~い」
「いいよー。みんなこっちおいで~」
た、躊躇いがないっ!? 三人もそうだし、山田くんも甘やかすことに微塵も躊躇いがない!? 今更だけど、普段の君は……身体的な接触はもっと控えてるのに……
羨ましい。私もどさくさに紛れてあの三人と一緒に───
って!! だめだめだめだめ!! もう一回あんなにとろとろに甘やかされたら私はもう!! 完全に手遅れになってしまう!! ま、まだ片足が浸かってるくらいだからセーフ!!
「レン、冬になったら同人誌作るの手伝ってくれる?」
「もちろん」
「私の好きなコスプレしてくれる?」
「はい」
「売り子も手伝ってくれる?」
「いいですよ」
あっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっま!!!!!
か、かかかかか簡単にお願いを聞きすぎでは!? い、いいいいいい今の山田くんなら何でもやってくれるんじゃ……なんでも、なんでも……
うおおおおおおおおおおおっっっ!!!! 考えるな考えるな考えるな!! ち、違いますよ!? 山田くんで変な妄想とかしてないですからぁ!! STAP細胞はありますし、疑似的なブラックホールも作れますからぁ!!
「ぼっちさんが急に壁に頭を打ち付け始めたっす」
「STARRYではよくある光景。多分、煩悩を取り払ってる」
「除夜の鐘っすか!?」
ふー……今の私は煩悩を取り払った賢者後藤。今の私ならばどんなことがあっても冷静に対処でき───
「ありがとー! いっぱいいっぱいお礼してあげるからネ?」
そう言って清水さんが山田くんに抱き着いておっぱいを思い切り押し付ける。な、何ていやらしい人なんだ!? おっぱいが大きくていやらしいとか……ここにもえっちの妖怪が一人!!
はっ!? 大槻さんもえっちでおっぱいがあって谷間を強調するような服を着ている……ま、まさかおっぱいの大きさとえっち度は比例する?
これが新たなる学説───後藤ひとりの「えっ
ただ……「えっ乳論」によると一番えっちなのはPAさん!? まさか、身近に一番の強敵がいたなんて……よもやよもやだ。
少しは清楚で硬派な私を見習ってほしい。
だけど、安心してください山田くん!! そんなえっちな女の人から私がちゃんと守ってあげますから!!
「ふーちゃんの笑顔にSIDEROSの、新宿FOLTの人達が、ファンの人達が癒されてて、みんなの支えになってるんだよ? だから、みんながふーちゃんのことを、ふーちゃんの笑顔が大好きだってことを忘れないでね?」
「うん。レンくんも、嫌なことがあったら私が癒してあげるからね~」
「幽々ちゃんは家事をやって自分でお洋服を作ってバンドの練習もやって……毎日毎日本当によくがんばってて偉い。俺も時々料理をやるからさ、今度一緒に美味しいもの作ろうね」
「はい。幽々の手料理を食べさせてあげますよ~」
「あ、私はお菓子を作るのが得意だよ! だからデザートは任せて~!」
うん。ふーちゃんと幽々ちゃんは何の問題もない。下心やえっちな気持ちは全く感じない。あの二人は大丈夫! い、今のところ一番警戒すべきなのは「えちえちレベル竜」の清水さん……
同じく「竜」の大槻さんは気絶しているから大丈夫。でも清水さんは……妹系金髪巨乳コミュ強年上お姉さんというずる過ぎる存在!!
これ……「えちえちレベル神」でもいいかもしれない。
「おーい、山田しょうね~ん! きくりお姉さんのことも甘やかしてよ~」
今度はお姉さんがそうやって声をかけた。すると山田くんはふらふらした足取りで歩いていき、お姉さんと岩下さんの間にひょっこりと座る。
お、お姉さんも甘やかしちゃうのかな?
「廣井さんは……」
「うんうん!」
「お酒……控えてください」
「あれ!? なんか私だけ反応が違くない!?」
声と表情は相変わらず色っぽい感じだけど、お姉さんにだけは注意してる……
「飲み過ぎは、ダメです。不安や緊張を紛らわしたいっていう気持ちはわかりますけど……廣井さんは度を超えてます。健康診断、ちゃんと毎年受けてますか? 肝臓ちゃんの数値は大丈夫ですか? 肝臓ちゃんは素面の廣井さん並みにコミュ障なので、こっちから労わってあげないと、いざ肝臓ちゃんが自己主張し始めた時はもう手遅れです。全く飲むなとは言いません。日々の酒量を減らして週一回の休肝日を作りましょう」
「ものすごく甘ったるい声でお医者さんみたいなこと言ってきた!?」
「お医者さん……お医者さん……廣井さん、お医者さんごっこでもします?」
「なんでそうなるの!? 年下の男の子とお医者さんごっこはちょっと背徳感が強すぎる!」
お、おおおおおおお医者さんごっこおおおおおおお!!??
ちょ、聴診器を身体の色んな所に当ててどさくさに紛れてえっちなところを触って……あああああああああっっ!!?? だめだめ!! 今の山田くんがお医者さんになったら患者さんに───食われるっ!!
「お酒の量は日本酒換算で一日二合までにしましょう」
「に、二合!? そ、それはちょっと少なすぎるんじゃないかなぁ……」
「本当は一合にしたいところをあまあま裁定にしてるんです。ゆくゆくは素面の状態でもちゃんとお話しできるようになりましょうね? 大丈夫、ちゃんとお手伝いしてあげますから」
「甘やかしじゃなくて更生だよこれじゃあ!」
「俺、廣井さんが早死にするところなんてみたくないです。どうかしわしわのおばあちゃんになるまで長生きしてください」
「廣井、山田ちゃんの言う通りよ。これを機にお酒の量をちょっとずつ減らしなさい。あなた……いつか本当に急性アルコール中毒で倒れるわよ?」
「いっそ、メンバー全員の健康診断を義務付けようか。私達も二十代だから、健康にはちゃんと気を配らないといけないからね」
「それいいわね~。私も今年は人間ドックを受けてみようかしら」
なんだかお話の内容がとんでもない方向に行っちゃった……
私も、お姉さんの飲酒量はちょっとおかしいと思うけど、バンドが失敗したら私もきっとお酒にハマっちゃうんだろうなぁ……
でも、お姉さんにみたいにはなりたくないし。はっ!? もしも私が酒浸りになっちゃったら、山田くんがお医者さんみたいに優しく諭してくれるかもしれない!!
大人になった山田くんとのお医者さんごっこ~あまあま禁酒編~
ぐへへっ……こ、これはこれでありかも……
「山田ちゃん、このつくね美味しいわよ。食べる?」
「食べます」
「山田くん、こっちのチーズボールも美味しいよ」
「……お箸がない」
「志麻~食べさせてあげなよ~?」
「いやいや、なんで私が?」
「あー……」
「ほら、山田少年も口開けて待ってるよ?」
「……山田くん。君は異性と二人で飲みに行っちゃダメだからね?」
「わかりました」
「私との約束だ」
「じゃあ、指切りしましょう」
岩下さんと山田くんが指切りしている。す、すごい……さっきまで全方位甘やかし状態だったのに……岩下さんと新宿FOLTの店長さんの前だとあんなに子供っぽくなるんだ。
「レンがお酒を飲んだ時の対処法その一、いつもより従順なので甘やかしモードに入る前に命令して行動を制限すればいい」
「なんで最初からやらなかったんすか?」
「……色々事情があった」
「ほんとっすか?」
絶対事情なんてないよ! リョウさんってこういう時にどうすれば面白くなるかってことばかり考えてるから……今回だって山田くんに対する私達の反応を全力で楽しんでたんだ!!
「対処法その二……レン、こっちおいで」
「
あ、お酒を飲んじゃうとリョウさんのことは名前で呼ぶんだ。
山田くんはリョウさんに呼ばれて、さっきよりも覚束ない足取りでリョウさんの隣に座る。
「もう寝る時間だよ」
「そうだっけ?」
「うん。眠くなってきたでしょ?」
「そんな気がする」
「膝枕してあげるから。おいで」
「うん」
リョウさんが自分の太ももとぽんぽんと叩くと、山田くんは素直に言うことを聞いて、リョウさんの太ももに頭を乗せて目を閉じる。すると、十秒くらいで穏やかな寝息が聞こえてきた。ね、寝るのが早い!?
「対処法その二、レンはお酒を飲むとすぐに眠たくなるから寝かせてやればいい」
「だからなんで最初っからそれをやらなかったんすか」
はーちゃんの言葉に私は激しく頷く。リョウさんが最初っからちゃんとやっていれば、この惨劇は防げたはずですっ!
「みんなの面白い反応が見たかったって言う理由が九割」
「逆に残りの一割は何なんすか?」
「レンがこういう人間だっていうことを、知ってもらいたかった」
え? でも、知られちゃうと余計にまずいんじゃ……
「今はまだ高校生だから大丈夫だけど、私達のこういう関係が大人になってもずっと続いていて、誰かがレンと二人でお酒を飲むことになって、初めてレンのこんな姿を見たら……どうなると思う?」
「……
「そう。別に、付き合っている二人なら問題ない。だけど、ただの友達で、お酒の勢いでそういうことになったら……レンはものすごく責任を感じてしまう。レンは真面目でピュアだから、身体だけの関係とか……一夜限りの過ちとか、そういうことは絶対にしない。全力で責任を取ってちゃんとした関係になろうとする。でも、私はレンに自由な恋愛をしてほしいから、お酒なんかで……責任感や義務感で縛られてほしくない。だから、親しい人にレンのこういう姿を事前に見せておけばそういう事態を防ぐ可能性が高くなる」
「あー……なるほど。確かにそれはそうっすね。ウチも、なんも知らないまま大人になってレンさんと二人で飲みに行ったらどうなるかわかんなかったでしょうし」
「レンは私の将来を心配しているけど……姉としては弟のこういうところはすごく心配」
リョウさんはそう言って優しく笑いながら眠っている山田くんの頭を撫でている。りょ、リョウさんもあんな優しい表情ができるんだ……
つ、つまりリョウさんも山田くんを「えっ乳女」から守りたいということですね! それ、賛成です! 私も一緒に山田くんを守ります!
「ぼっちが一番心配」
「な、なんでですか!?」
し、心外です!! 私は大槻さんや清水さんとは違うんですから!!
ただ……山田くんに甘やかされて脳がちょっと蕩けちゃっただけなんです!!
は、はーちゃんも納得したように頷かないで!!
その後、大槻さんや喜多ちゃんが復活したり、いつの間にかいなくなっていた虹夏ちゃんが戻ってくるまで打ち上げは続き、山田くんは最後まで起きなかったのでご両親に迎えに来てもらっていた。
そして翌日、ちゃんと登校してきた山田くんに話を聞くと……どうやら彼は記憶が残るタイプだったらしく、その日は土下座巡業を行っていた。
わ、私は全然気にしてないからね? むしろいつでも好きなだけ甘やかしてくれていいから!
その代わり……お、大人になったら一緒にお酒を飲む練習をしましょう。下心なんてない……下心なんてありませんよぉ! ただ、山田くんがお酒を飲んでも平気になってほしいだけですからぁ!
そう、これも全て山田くんを「えっ乳女」達から守るため!!
後藤ひとりの戦いはこれからだ!!
レンくん暴走回でした。
姉と同様お酒にはめっちゃ弱いです。お酒とおばけに弱い恋愛観ぴゅあぴゅあ包容力MAX全方位甘やかしイケメン。
このくらい属性がないとぼざろ世界では埋もれてしまいますね。
次回は山田&喜多ちゃん回になります。
今度は喜多ちゃんが暴走します。
では、感想評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!