「なんで!! なんであたしがこんな恰好しなくちゃいけないのよ!!」
「大丈夫です。やみさんは童顔だから学生にしか見えませんって」
「そーゆー問題じゃない!! 普通に痛すぎるでしょ!?」
「普段の服装も痛いから大して変わらんでしょ?」
「うがーーーーっ!!」
やみさんを騙して教室に連れ込んだ後、喜多さんやイライザさん達の手によってメイド服に着替えさせられたやみさんが俺をぽこぽこ殴ってくる。
あんまり激しく動かない方がいいですよ。やみさんって普段はダボダボのTシャツとかパーカーを着てるからわかんなかったですけど、結構胸が大きいんですから。十四歳に見えるロリ顔巨乳二十三歳……性癖が壊れるな。
「なんか埋め合わせしますから許してください」
「……銀座のマルコリーニ。そこのホットチョコとパフェで手を打ってあげるわ」
「わかりました。今度連れて行ってあげますよ」
「言質取ったわよ? ライターの前で発言を撤回するなんて許さないから」
俺は後々、やみさんのお願いを軽く引き受けてしまったことを後悔することになる。銀座の時点で気付いておくべきだったんだろうけど、やみさんの指定したお店って高級スイーツ店だったんだよね。
ホットチョコが千円超えるってどういうことだよ!?
「にしても、やっぱりそういう恰好は似合いますね」
「ふふん♪ でしょでしょー? ……可愛い?」
「はい。可愛いです」
「あんたがメイド服じゃなかったらもうちょっと雰囲気が出てたんでしょうけど……まあ、いいわ。案外あたしってメイドに向いてるのかも」
「媚びを売るのは得意ですもんね」
「そうそう。こちとらぶりっ子歴何年だと───って、何言わすんじゃ!!」
やみさんにローキックされる。この人もだいぶ俺に気安くなったな。初対面の時はあんなに「こびこびぶりぶりみらくるきゅん」だったのに。まあ、俺はこっちのぎゃーぎゃー騒いでるやみさんの方が好きだけど。
「レンくん、あのライターさんと仲良いんだね」
「年上、隠れ巨乳、なんだかんだお願いを聞いてくれる、ツンデレ……大槻ヨヨコとキャラ被りはしているもののレンの好み要素を多分に含んでいる」
「確か、あのライターさんって二十三歳でしたよね? リョウ先輩的にはどうなんです? 年上の義妹って」
「あり。そしてあれは結構な世話焼きタイプと見た。具体的には散らかった彼氏の部屋をぶつぶつ文句言いながら片付けて甘やかすような……」
「具体的過ぎる!? ってあれ……なんかあたし、身に覚えがあるような……」
「なるほど! リョウ先輩に対する虹夏先輩みたいな感じですね!」
「そう。とりあえずレンの嫁候補として嫁ポインツを5ポインツ加算しておこう」
(お、おおおおおおおっぱいが大きいツンデレ!? 大槻さんの系譜!? ということはあのライターさんもおっぱいの大きさに比例してえっち度も高いはず!! 「このことを記事にされたくなかったら……わかるわよね?」って言って山田くんの山田くんを取材する気なんだ!! えちえち警報発令!! えちえち警報発令です!! 山田くん!! 今すぐそこから避難してください!!)
俺とやみさんが戯れている一方で、結束バンドの面々もよくわからんことで盛り上がっていたみたいです。会話内容までは聞こえなかったけど、後藤さんが目を見開いて俺を……というよりやみさんをガン見していた。
「レンさーん、ヨヨコ先輩の準備ができたっすよ~」
「お! マジか! やみさんなんかにかまってる場合じゃねえ!」
「こらーっ!! あっさり掌返すなーっ!! あたしより大槻ヨヨコの方がいいってわけ!?」
「……え? 当たり前じゃないですか」
「何を『世間の常識ですよ?』みたいな顔してんのよ! 大槻ヨヨコのこと大好き男か!?」
「はい」
「あっさり認めたーっ!?」
大槻先輩のことは好きですか? って聞かれたらそりゃあ「はい」って答えるよ。虹夏ちゃんを除けば、一番仲の良い年上のお姉さんだから。
「あくび、待って! こ、この恰好で人前に出るのは……」
「大槻先輩。出てこないなら俺から行きますね」
「待って待って待って!! あ、あなたにこんな恥ずかしい恰好を見られるのは───」
言っておきますけど、俺の方が恥ずかしい恰好してるんですからね。大槻先輩の言葉を無視して俺は衝立の向こう側をのぞき込む。すると、SIDEROSっ子達にメイド服に着替えさせられた大槻先輩がいた。髪型はいつものツインテールで胸元が緩いタイプの衣装。首元には黒いリボンが結ばれていて、先輩の雰囲気によく合っている。
「めちゃくちゃ可愛いじゃないですか! ライブのメタルな服装もよく似合ってますけど、こういう甘々な可愛い系コスプレ衣装もいいですね。あ、でもよく考えたら先輩って私服は割と可愛い系の物も多かったような……どっちも似合うとか反則ですね!」
俺が拍手をしながらそう言うと、大槻先輩は顔を赤くして俯き、SIDEROSっ子達は三人とも腕を組んで後方支援者面をしてうんうん頷いていた。
「ちょっと! あたしの時と全然反応が違うじゃない!」
「やみさん
「あたしを当て馬みたいに言うなーっ! くっそー! あたしだってなぁ……本気出せばあんたくらいちょろちょろのあまあまにして───」
「俺じゃなくてお客さんに媚びを売ってください。さあ、行きますよ二人とも! 俺の明日の自由時間を勝ち取るために!!」
「そんなことのためにあたしは巻き込まれたの!?」
俺にとっては結構死活問題なんですけどね。高校最初の文化祭で、出し物もろくに見れずコスプレだけして終わるとか悲し過ぎますから。
「ヨヨコ先輩よかったですね~。レンくんが可愛いって褒めてくれましたよ~?」
「う、うっさい! あ、あああああんなのお世辞に決まってるでしょ!」
「いや、ヨヨコ先輩ほんとに可愛いっすよ。自信持ってください」
「山田さんが執事服だったら完璧だったんですけどね~」
「メイド服だったから……こう、色々もったいなかったっすね」
「ふ、ふわふわぴゅあぴゅあ……み、みらくるきゅん。お、オムライス、美味しくなぁれ……」
「お、大槻さん……そこは恥ずかしがらずに、ちゃんと呪文を唱えないとお客様に気持ちが伝わりませんよ?」
あ、あの大槻先輩がメイド姿で美味しくなる呪文を唱えている。そんな先輩を見てると色んな感情がこみ上げてくるね。今の場面、録画しておけばよかった……
と思ったけど、あくびちゃん達がばっちりスマホで撮ってるな。あとでデータ送ってもらおう。
「あなたの言い方だって似たようなものでしょ!?」
「わ、私の方がメイドの先輩ですから……えへへ。せ、先輩が色々教えてあげますよ~」
「数時間早く始めただけでそんなに先輩面するの!?」
(お、大槻さんがメイド服を着ることでえちえち警戒レベルが第一種戦闘配備にまで跳ね上がっちゃった! し、しかも胸の谷間が見えそうな衣装だし……ライブの衣装もそうだったけど、山田くんの教育に悪すぎる!! こ、ここは清楚な私が大槻さんを浄化しないとっ!)
なぜか後藤さんと大槻さんというペアになったけど、やっぱりあの二人って相性良いよね。それと後藤さん。先輩面してるけど、君よりも後から始めた虹夏ちゃんやイライザさんはとっくに適応しててバンバンお客さんを連れてきてるからね?
「お客様ぁ♡ やみの美味しくなる呪文はいかがですかぁ~?」
「お、お願いします……」
やみさんも最初はぶつぶつ文句言ってた割にはノリノリじゃないですか。名札まで作っちゃってまあ……
ちなみに名札には「やみ♡じゅうよんさいだよ!」と書かれてあった。十四歳でそのおっぱいはいかんでしょ。
「レン、そろそろ山田一族の本気を見せる場面では?」
「それ俺が明日着る衣装!!」
姉貴はなぜかメイド服ではなく執事服を着て女子達にきゃーきゃー言われていた。……おかしくね? なんで俺がメイドになって姉貴が執事になってんの? 何もかも逆!! しかも似合ってんのが腹立つな。
「リョウ先輩、こっち向いてください! あ、あとでツーショットも……」
「いいよ」
「りょ、リョウ様……私も、一緒に写真を……」
「リョウ様って何!?」
クラスの女子達が姉貴に侵食されている。ここ数年で姉貴は男子人気よりも女子人気の方が高くなったんだよな。もしも女子高とかに行ってたらどうなってたことか……
「そうだ。山田くんとお姉さんのツーショットも撮ってあげようよ!」
「いいね! この美形姉弟……しかも姉が男装して弟が女装……胸が熱くなるわね」
「レンくん、こっちに並んで! リョウ先輩との写真撮るから!」
「君ら仕事しろよ仕事!!」
喜多さんまで紛れ込んでるし……どうしよう。このクラスに姉貴信者が増えちゃったら。結束バンドのファンが増えるのは喜ばしいことなんだけど、姉貴のファンって変な人しかいないからなぁ……
「そこまで求められたら仕方ない。行こうレン。山田家の顔面偏差値パワーで客引きだ」
「チヤホヤされて露骨に調子に乗ってやがるな!?」
そして結局、俺と姉貴で校内を回って客引きを行うことにする。俺がノリの良い陽キャグループに声をかけている一方で、姉貴は姉貴で女子生徒の人気を勝ち取っていた。
しゃ、釈然としない……
「みなさん、ありがとうございました! おかげで明日の分もかなり捌けたので、俺の自由時間も確保できそうです」
臨時メイド組のがんばりもあり(後藤さんと大槻先輩もすごくがんばっていた)一日目の売り上げは俺の想定を遥かに上回っていた。出してるのはただのオムライスなのにこれだけお客さんが入るって……やっぱりいつの時代も可愛い女の子のメイド姿は正義だってことだね。
「その通り。日本のコスプレ文化は世界に誇れるヨ」
イライザさんが腕を組んで「ふんす」と言っている。この人が一番ノリノリだったな。ちょっとカタコトの金髪巨乳美人メイド。この人も大概反則レベルだよね。……というか、これだけ集まるんだったら俺がメイドになった意味ないんじゃない?
「やみさん、ありがとうございました。おかげで助かりましたよ」
「あたしが本気出せばこんなもんよ。……で、ライブは?」
「明日ですけど?」
「明日かよっ!?」
え? もしかして今日だと思ってたんですか。あー……だから初日から来てくれたんですね。なるほどなるほど。
「言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないっ! 結束バンドがライブやるってことしか聞いてないっ!」
やみさんが俺の胸元を掴んで前後に激しく揺さぶって来る。じゃあ、やみさんは今日俺達のお手伝いのためだけに来てくれたことになりますね。
「……この後、ご飯行きます?」
「あんたの奢りでしょうね?」
「高校生に金たかるんすか?」
俺が聞き返すとやみさんがべーっと舌を出してくる。確かに、ちゃんと伝えてなかった俺も悪かったですけど、やみさんも確認の連絡くらいしてくれてもよかったのに。うーん、これは俺とやみさんの罪の割合は5:5ですね。
「大槻先輩、お疲れ様でした。飲み物どうぞ」
「あ、あり……がと。ら、ライブと違って変な疲労感があるわね……」
テーブルに突っ伏している大槻先輩に缶ジュースを渡すと、ぷるぷると手が震えていたので俺は苦笑しながらプルタブを開けてあげる。そういえば、途中からあくびちゃん達の姿が見えなくなってたな。
「あくび達なら私を置いて色んな所を回ってるみたいよ」
「……おっふ」
あの子達らしいというかなんというか……確かに、教室にずっといてもやることないから仕方なかったのかもしれないけど。お労しやヨヨ上。
「あ、もう終わってるよ~」
「ヨヨコ先輩、お土産いっぱい持ってきたっす」
「幽々と一緒にタピオカチャレンジしましょ~」
疲労と傷心でうなだれている大槻先輩を宥めつつ甘やかしていると、SIDEROSっ子達がたくさんの戦利品を抱えて帰ってきた。お菓子とか出店の食べ物とかいっぱい持ってるね。
それと幽々ちゃん。タピオカチャレンジって胸が大きい人じゃないと悲惨なことに……って、そういえば幽々ちゃんも結構大きかったよね。ゆる~いゴスロリ服をよく着てるからあんまり目立たなかったけど。
「……楽しかった?」
「楽しかったっすよ。色んな出し物があって。秀華高校ってこういう行事に結構力入れてるんすね」
正直、やりすぎなくらい。文化祭にどんだけ予算使ってるんだって思ってたけど……これも一種の宣伝なのかな。秀華高校って学力自体は普通だから学校行事とか制服の可愛さとかをアピールポイントにしてるのかもしれない。
少子化の波がこんなところにまで影響を……
「私も一緒に……回りたかった……」
「あー……そうっすよね。ウチらは今日で一通り回ったんで、明日は───」
「待ってはーちゃん!」
気力をなくして疲れ果てた大槻先輩にたこ焼きを食べさせてあげていると、ふーちゃんがあくびちゃんの言葉を遮って、またもや先輩をハブって三人でこそこそ話をしている。
「ま、また仲間外れ……」
「ち、違いますって! 明日先輩が楽しめるようなサプライズ企画を考えているんですよ! きっと!」
そうであってほしい。大槻先輩ってこういうことになるとメンタルよわよわになるからな。
俺が先輩を慰めていると、内緒話を終えたらしい三人が良い笑顔で俺達の方へ戻ってくる。なんだろう……絶対変なこと考えてるよこの子達。
「レンさん」
「うい」
「明日って時間作れます?」
「午後から結束バンドのライブだから、午前中の売れ行き次第。でも、今日でほとんど売り切ったから十時くらいからなら体が空くと思う」
「じゃあ、明日はレンくんがヨヨコ先輩を案内してあげてよ~」
「俺が?」
「そうです~。幽々達は今日で一通り回ったので~、明日はライブの時間だけ来ようと思いまして~」
なるほどね。確かに、二日間も同じところをぐるぐる回るのは飽きるか。
「大槻先輩。最近一緒に遊べてなかったですし、今日のお礼も兼ねて明日一緒に回りませんか?」
「ぶほーっ!?」
「ヨヨコ先輩、汚いっす」
俺がサラッとそう言うと、大槻先輩はタピオカドリンクを吹き出しそうになった。俺はティッシュを探して辺りを見回していると、タピオカチャレンジに成功している後藤さんとその傍らで胸元をドリンクでびしゃびしゃに汚している虹夏ちゃんと喜多さんの姿があった。
……見なかったことにしてあげよう。
「げほっ! ごほっ! あ、明日……!? 私とあなたで!?」
「そうですけど。あ、もしかして変に意識とかしちゃってます?」
「は、はぁ!? するわけないでしょ! あ、あなたと二人で遊んだことなんて何回もあるんだから!」
「そうですよね……ダメですか?」
「うぐっ!? ……ま、まあ? あなたがどうしてもって言うなら付き合ってあげてもいいけど?」
「どうしても、です」
「仕方ないわねぇ……」
大槻先輩はニヤニヤを隠し切れない表情で承諾してくれた。なんだかんだ嬉しそうでよかった。俺も先輩と二人で遊ぶのは久しぶりだからすごく楽しみ。
何が何でも明日の十時には残りのオムライスを全部売りさばいてやるからな。サッカー部の凪やバスケ部の沢北というイケメン枠がいるから大丈夫だろう。
「作戦成功っすね。レンさんがメイド服じゃなかったら雰囲気も完璧だったっすけど」
「レンくんとヨヨコ先輩が付き合っちゃったらどうしようか?」
「ヨヨコ先輩を弄るネタが増えるだけですね~」
「ぼっちちゃん、いいの?」
「え? な、何がですか?」
「レンくん……大槻さんと一緒に文化祭回るって」
「あ、そ、そうみたいですね(文化祭は人が多いから大槻さんも大胆なことはできないはず! いや待てよ? 逆に人目がある方が背徳感で燃えるタイプかもしれない!! あががががががががががががっ!!?? 「山田、疲れたわ……ちょっと休みたいかも」「じゃあ保健室に行きますか?」 うおおおおおおおおん!! ほ、保健室のベッドにはカーテンが付いてるから外から見えないように二人とも声を殺して……!!)」
「うーん……ぼっちちゃんにはまだ早かったかな?」
「ひとりちゃんのこの顔……多分、全然違うことを心配してますよ?」
「虹夏はよかったの?」
「あたし? あたしはいいよ───レンくんが笑顔だったら、それで」
「……ふーん?」
「なんか言いたそうだね?」
「……そのおっぱいでよくタピオカチャレンジやろうと思ったね」
「表出ろ山田ァ!!」
なんか結束バンドの四人も盛り上がってるみたいだね。
家に帰ってから姉貴に聞いたけど、明日はライブが始まるまでは時間があるから四人で文化祭を回るらしい。後藤さんにとっては友達と初めて回る文化祭だろうからぜひ楽しんでほしいな。
あ、それは大槻先輩も一緒か。
そして、着替えてメイクを落とし終わった後は解散となり、結束バンドの四人はライブをする体育館を見に行った後にSTARRYでスタ練を行い、SIDEROSの四人はあくびちゃんの家でゲーム大会をやるらしい。
一方俺はやみさんと夜ご飯を食べに行くのだった。
昨日はとんでもない目に遭ったわね。
メイドになった山田をからかってやろうと客として行ったら、まさか私がメイドをやる羽目になるなんて……というか、どうして私だけなのよ!? あくび達はちゃっかり免れてるし!
私一人だけが恥ずかしい目に……
で、でも、山田は「可愛い」って褒めてくれたから、結構似合っていたのかしら? 山田ってああいう服装が好きなのかな? だ、だとしたら今日の服はもうちょっと可愛い系で攻めた方がよかっ───って!! 何を考えてるんだ私は!!
変に意識し過ぎよ。山田と遊んだことなんてそれこそたくさん……ってわけじゃないけど、それなりにあるしぃ? メンバーが集まらなくて悩んでた頃はよく相談に乗ってくれてたしぃ?
ふ、二人きりで行動することなんて慣れたもんよ。緊張なんてするはずないわ!
「すみません大槻先輩。お待たせしました!」
私が煩悩を振り払っていると、待ち合わせ場所である中庭に山田がやってくる。……なぜか執事服を着たまま。
「どうして着替えてないの!?」
「あ、いや……先輩をお待たせするのが申し訳なくて、着替える時間も惜しかったので」
「気遣いは嬉しいけど……別にそのくらい待つのに」
「あと、俺の執事服姿を先輩に見せたかったっていうのもありますね。どうですか? 我ながら中々決まってると思うんですけど」
「……もうちょっと恥じらいを見せなさいよ、恥じらいを」
山田は両手を広げて自分の服装をアピールする。昨日は姉によく似たメイクとヘアスタイルにメイド服姿という、ある意味完全に似合っていたけど……
今日の格好はその……うん。
イライザさんじゃないけど……正直、グッとくるものがあるわね。
「わ、悪くないんじゃない?」
「そうですか。よかった!」
私がそう言うと山田は嬉しそうに笑う。す、素直に褒めるのが恥ずかしいからお茶を濁そうとしたのに……この男は私の性格を熟知してるから、私の内心まで読み取っちゃって!!
「どこ行きましょうか?」
「任せるわ。校内のことはよくわからないもの」
「りょーかいです! たくさん遊びましょうね!」
やけに機嫌が良いわね。そ、そんなに私と一緒に回るのが楽しみだったのかしら? ふーん?
べ、別にニヤケてなんかないわよ! 私にとって山田は懐いている大型犬みたいなものだから! ほら、山田って人懐っこいし、犬っぽいでしょう? それでいて、寂しいときとか辛いときに絶妙なタイミングで甘やかしてくれるというか癒してくれるというか……
ぐおあああああああっっ!! 思い出すな思い出すな思い出すな!! た、確かにこの一年は山田に頼ることも多かったけど!! わ、私の方が年上でお姉さんなんだから……こ、今度は私が山田を甘やかしてあげなきゃね!
「先輩、おばけ屋敷がありますよ」
「……あなた、おばけ苦手でしょ?」
「先輩もね」
二人で廊下を歩いていると、やたらとコスプレをしている生徒が目立つ。私の学校じゃ、絶対に見られない光景ね。
「ただ、俺もいい加減ホラーを克服すべきだと思いましてね」
「うーん……学生の文化祭レベルだからそこまで大したことはないでしょうけど……」
克服したい気持ちはわかるわ。私も昨日、あくびの家でホラーゲームをして醜態を晒したばかりだし。
そうよ! 海外フェスの大トリをめざす者として……いつまでも幽霊ごときにビビってる場合じゃないわ! 今こそ、私も克服すべき時なのよ!
「行きましょう、山田。大丈夫、私達ならきっと乗り越えられる」
「せ、先輩……」
山田が感激したような表情で私を見てくる。ふっ……最近メンバーに舐められっぱなしで自信を失いかけてたけど、私にはやっぱり威厳があったみたいね。
「貞子でも呪怨くんでもかかってきなさい!」
「か、かっこいい……」
そうよ山田。安心して私についてきなさい。
絶対に幽霊なんかに屈しないんだから!!
「先輩」
「何よ」
「怖かったですね」
「予想以上だったわね」
約五分後、即落ち二コマという言葉がぴったりな私達は、半泣きになりながらおばけ屋敷を後にする。学生にできるクオリティじゃないでしょ!! めちゃくちゃ怖かったじゃない!!
結局山田とぎゃーぎゃー叫びながら逃げるように出てきたけど……怖かった。途中で山田と抱き合いながらだったから何とか乗り越えられたわ。人の体温って落ち着くのね。
「き、気を取り直して……次はどこに行きましょう?」
「初っ端からごっそり体力を削られたわね。何か……気軽にできそうなもの……あそこのくじ引きは?」
「いいですね。どっちが良い景品を取れるか勝負です」
「あら? 私に勝てると思ってるの?」
「言っておきますけど、俺って意外とくじ運強いんですよ」
そのまま山田と手を繋ぎながら目的の教室へと向かう。おばけ屋敷からずっと握ったままだったからあまり意識してなかったけど……うん。この方が安心するし、別にいいわよね。
「この紐を引っ張ればいいんですか?」
「そうですよ~。はずれなしの優良くじ引きでーす! がんばって豪華景品を当ててくださいね~」
ふーん。景品と紐が繋がっているタイプのくじね。くじ引きなんて……小さい頃に縁日でやって以来だわ。中学時代? うっ、頭が……
「これにしようかな」
「どうぞ。思いっきり引っ張ってください!」
山田が紐を引っ張って、それに合わせて釣り上がったものは……めちゃくちゃリアルな蜘蛛の人形だった。き、気持ち悪い……
「先輩、いります?」
「いらないわよそんな不気味なもの!」
「幽々ちゃんにあげるかぁ~。喜びそうだし」
山田は珍しくすっごい渋い顔をして蜘蛛の人形とにらめっこしている。見れば見るほど本物みたいね。ぱっと見、人形だとわからないんじゃないかしら。
「先輩の鞄にこっそり……」
「そんなことしたらしばらく口きいてあげないわよ?」
「ごめんなさい!」
私はそう言いながらも、山田と話ができなくなってダメージを受けるのは自分もそうだと自覚する。山田と喧嘩して疎遠になる……そ、想像したくないわね。
山田は初めてのお友達だから……そんな人に縁を切られたらしばらく引きこもる自信があるわ。そう、初めてのお友達なんだもの……お友達……
そう考えて私は、なんだか心の中がもやもやしていることに気が付いた。
「次は先輩の番ですよ」
だけど、山田に声をかけられてそんなもやもやがどこかへいってしまったので、気のせいだと私は思うことにする。……なんだったのかしら。今の。
「この勝負は私の圧勝ね。蜘蛛の人形より下の物はないでしょ?」
「わかりませんよ? 電池で動く滑空機能付きリアルゴキブリ人形とか……」
「気味悪いこと言わないでくれる!?」
そんなものあってたまるか! どこに需要があるっていうのよ!
そして私も紐を一本選んで勢いよく引っ張る。なんだかやけに手ごたえが軽いけど、一体何が……
「あれ? 何もついてない?」
「す、すみません! まさかついてない紐が混ざってたなんて……あ、あの……もう一回やってもらっていいですから!」
女子生徒は焦ってそう言っているけど、山田は隣で爆笑していた。
「いやー、持ってますね先輩。これは俺の勝ちですね。罰としてこの人形を先輩の鞄に……」
「入れなくていいから! もう一回引いて私の方が上だってわからせてやるわ!」
そして次に私が引き当てたのは、山田が言っていたリアルゴキブリ人形だった。だからなんでそんなものを景品にしたのよ!!
「山田、次は射的で勝負よ。今度こそ私が勝つから!」
「さっきのくじ引きの負けを認めるんですね?」
「認めない! 蜘蛛とゴキブリなんだから引き分けよ!」
「でも、アシダカ軍曹はゴキブリを食べるので、自然界の法則に則れば蜘蛛を従えた俺の勝ちということに……」
「勝負って食物連鎖のこと!?」
その後は山田と射的で勝負して……ま、まあ? ほとんど互角の戦いだったと言っていいわね。私だって景品にたくさん当てたんだから!
「当てただけで一つも落とせなかったじゃないですか。こういうのは大物を狙うより、確実に倒せる小物をコツコツやるのが正解です」
「私はね。常にトップを目指すの。だからあえて一番豪華で大きい景品に勝負を挑んだ。あなたはそのチャレンジ精神すら否定するのかしら?」
「でも倒せなかったので先輩の負けです。罰ゲームとして蜘蛛とゴキブリの人形を枕元に置いて寝るという……」
「最悪の目覚めになるでしょ!!」
私がそう言うと山田は笑った。ほんとにこの男は……もう。
でも、全然嫌な感じはしない。学校の文化祭って……お祭りってこんなに楽しかったのね。今年の夏はSIDEROSのみんなで花火を観に行ったから、来年は山田と観に行くのも───
いやいやいや! なんでそうなるのよ! はっ! そ、そうよ! 山田と……あと他にもたくさん人を誘ってみんなでわいわいしながら花火を観に行くってことだから! 決して、決して山田と二人で花火を観たいなんて考えてないから!
でも確か、山田は後藤ひとりと二人きりで花火を観たのよね? ……ふーん。
「先輩、次はクレープ食べましょうよ! ちょっと小腹が空きました」
「……そうね。そうしましょう」
またさっきみたいなもやもやが出てきたけど、山田の笑顔を見るとスッと消えてなくなる。ほんとに……何なのよ、もう。
それからしばらく山田とぶらぶらしながら教室の展示を見たり、出店で色々買って食べさせ合ったりしていると結束バンドのライブの時間が近づいてくる。
もう、そんな時間なのね。あっという間だったわ。
「どうします? あくびちゃん達と合流しますか?」
「そうね。体育館前あたりで一旦集合───」
そう言いかけたところで、山田のスマホに着信が入った。相手は……後藤ひとりだ。どうしたのかしら?
ライブの時間が近づいているこのタイミングで山田に電話なんて……正直、嫌な予感しかしない。
「もしもし。どうしたの、後藤さん」
『あ、あ、あ……や、山田くんっ……』
通話のアイコンをタップし、山田は驚くほど優しい声で電話に出る。ふーん? 後藤ひとりにはいつもそんなに優しい声で話しているのかしら? へー?
『あのっ……あのっ……』
「大丈夫だよ。ちゃんと聞いてるから。落ち着いて」
はっきりと聞こえたわけじゃないけど……なんか、後藤ひとりは妙に焦っているみたいね。
まさか本当に、私の嫌な予感が当たっているのかしら。
数秒の沈黙と深呼吸した音の後、後藤ひとりは私にも聞こえる声量でこう言った。
『た、助けてくださいっ……!!』
ヨヨコ回!
あとぽいずんにも露骨な贔屓が入っていることをお許しください。
次回は文化祭ライブです。
かなり無理矢理な展開になるのでごめんなさい。
では、感想、評価、誤字報告、ここすき等ありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!