「ではこれよりっ! 『祝・伊地知星歌生誕三十周年記念会で渡すプレゼント会議』を始めるっ!」
「お、お~……!」
「おー」
十二月に入り、二学期の期末考査を無事に乗り越えた俺とひとりは一年五組で佐々木さんも交えて星歌さんへの誕生日プレゼントについて話し合っていた。
喜多さんはバイトがあるから参加できなくて俺とひとりの二人きりになりそうだったんだけど、暇そうにしていた佐々木さんをとっ捕まえて今に至る。
「あ、だけどその前に……佐々木さん」
「どしたの?」
「クリスマスイブって予定空いてる?」
「女子にクリスマスイブの予定を尋ねるなんて……山田はいつからそんなにはしたない子になったのかな? ウチはそんな風に育てた覚えはないよ?」
「これも全部喜多郁代って女のせいなんだ」
「うーん、喜多のせいなら仕方ない。どうするごとー? 山田がクリスマスイブに女を食い物にするような男になっちゃった」
「ど、どちらかというとレンくんの方が食い物にされる気が……」
「確かにそうだね。納得。やまだー、あんた油断してると本当に捕食されるよ?」
「誰にだよ!?」
なんで佐々木さんのノリに合わせただけなのに話が変な方向に行ってる。あのね、ライブに誘おうとしただけだからね?
それに俺はクリスマスイブに女の子の予定を聞くことの意味がわからないような鈍感クソボケ野郎じゃないから。ちゃんと自分の容姿の良さと発言の影響力を理解してるから。
「じゃあ、もしもウチが誤解したらどーすんの?」
「そうならないように時と場合と言葉をちゃんと選んでる」
「……ほーん?」
「俺が臭い台詞を吐いて女の子を無意識に口説いておきながら好意に気づかないような一昔前の量産型ラノベ主人公に見える?」
「まぁ、あんたは確かにその辺はしっかりしてるよね」
「口説くときはちゃんと意識して本気で堕としにいくから」
「うわ~。後藤、やっぱり山田ははしたない男だ」
(れ、レンくんがクリスマスの浮ついたピンクのえちえちな空気に当てられている!? こんな状態のレンくんを新宿FOLTに解き放ったら───お持ち帰りからの繁殖待ったなし!? ま、守らねば……!! クリスマスイブにそういう出会いを求めて来るような脳内ピンクなえちえち発情期女どもからレンくんを守らねば!!)
佐々木さんはくすくすと小悪魔のように笑いながらひとりに囁く。ひとりはひとりで目を見開いて覚悟を決めたような表情をしてるし。……どゆこと?
あとさ、話が脱線し過ぎ! 結局佐々木さんはクリスマスイブのライブに来てくれるの?
「行くよ。特に予定もないしね」
「佐々木次子ほどの女にクリスマスの予定がないとか……このクラスの男子は節穴なのかな?」
「半分は山田のせいだから」
「……もう半分は?」
「喜多のせい」
喜多さんってめちゃくちゃモテるからな。そんな子と腐れ縁やってたら相対的に佐々木さんが霞んで……でも、お世辞抜きで佐々木さんってかなりの美人さんだから男子連中からそういうお誘いがあると思ってたんだけど。
昨今の男子高校生のなんと奥ゆかしいことか。嘆かわしいね。
「山田みたいなイケメンと仲良くしてると、他の男子が足踏みするんだよ」
「俺程度の障害を越えられないようじゃ、彼女が出来るなんて夢のまた夢だね」
「山田のせいで少子化がますます進んでしまう」
「先に謝っとく。将来年金が貰えなくなったらごめんね」
「その時は責任持って山田に養ってもらうしかない」
「そんな次子おばあちゃんを老人ホームにシューッ!」
(レンくんに養ってもらう!? う、羨ましい!! 私も養ってほし───じゃなくてっっ!! 養ってもらうって……ささささんとレンくんが結婚するってことで……はっ!? こ、これが噂に聞く『卑しか女ムーブ』か! 「山田とは何もないよー。ただの友達だよー」って言いながらいつの間にかしれっと付き合ってるパターン!? こ、この後藤ひとりの目をもってしても見抜けぬとは……くっ!! えちえちないやらしい大槻さんと違って対抗策が思い浮かばない!! ……あれ? そういえば私……なんで対抗しようとしてるんだろう? 仮にレンくんとささささんが付き合っても……別に私には、関係……ないのに)
佐々木さんとぎゃーすか言い合っていると、ひとりが急に百面相をし始めた……かと思いきや、なにやら思いつめたような表情になった。……考え事かな?
ひとりが何を考えているのかは気になるけど、それよりも佐々木さんに言っておきたいことがある。
「俺に養ってもらうってことは……自動的に俺の姉貴ももれなくついてくるけどそれでいいの?」
「今回はご縁がなかったということで」
「クリスマス前にフラれてしまった……」
「どんまい」
「それ、フッた張本人が言う台詞じゃないよね?」
佐々木さんはけらけらと笑い、ひとりは俺達の会話を聞いてほっとした表情になる。……もしかして、俺と佐々木さんが本気で付き合うって考えてた? それはないと思うよ。多分。
そこまで考えて気付く。
微塵もまともに話し合ってねえな!!
「原宿とか久しぶりだ」
「ウチは喜多と一緒によく来てたよ」
「『喜多と来た』とかいう佐々木さんの激うまギャグ」
結局学校では有意義な話し合いができず「とりあえずぬいぐるみをたくさん売ってる原宿キデイランドに行こう」ということになったので三人で原宿へとやってきた。
そして、改札を出るなり、俺が佐々木さんの激うまギャグを称賛すると背中をどつかれる。
(は、原宿……こ、こんな流行の最先端でお洒落な街を歩くなんて……ヴォエッ!! は、吐き気がしてきた……!!)
「……ごとー、顔色が悪いけど大丈夫なの?」
「あれは原宿に対してアレルギー反応が出てるだけだから」
「本当に大丈夫なの!?」
「ちょっと刺激が強すぎたか……この半年で下北にはだいぶ慣れただろうからいけるかと思ったけど」
下北に慣れたって言ってもほとんどが駅とSTARRYの往復分だけどね。休みの日には喜多さんとか虹夏ちゃんが結構積極的に遊びに誘ってるみたいだけど……喜多さんとも原宿には来たことがなかったのかな。
「ひとり、どうする? 歩くのがきつかったらネットで注文するっていう手もあるけど……」
「最初からそれでよかったんじゃないの?」
「俺は学んだんだ。甘やかすだけじゃ人間は成長しないって」
「……でもなんだかんだ、山田は最終的に甘やかす気がする」
「試練を与えた上で甘やかすからいーの!」
「DV野郎かな?」
佐々木さんが酷いことを言ってくる。別に傷つけたり意地悪するつもりじゃなくて、純粋にひとりに人間的な成長をしてほしいからだからね?
「こ、ここまで来たし……が、がむ……がむばりましゅぅ……(誕生日プレゼントを献上すればバイトを辞められるかもしれないし!!)」
「おー。偉いぞー、後藤。よしよし」
「あ、えへへ……」
ひとりが佐々木さんに頭を撫でられてふにゃふにゃとだらしなく笑っている。心の中で変なことを考えてそうだけど、どういう理由であれ苦手なことに挑戦しようとがんばるのはいいことだ。
そして俺達は表参道をそのまま東に向かって歩き出す。ひとりは死にかけているような覚束ない足取りながらも佐々木さんに支えられてなんとか足を進めていた。
ひとりの様子を気にしつつ、横断歩道の信号待ちをしていると俺はあることに気付く。そのあることとは、俺とひとりの知り合いが横断歩道の向かい側で信号待ちをしているということだ。
「ひとり」
「あ、はい……な、なんでしょう?」
「あっち見て。あそこにあくびちゃんがいるよね?」
「はーちゃん……はーちゃん……あっ、ほんとだ」
「ちょっとはーちゃんにロイン送ってみてよ。もしかしたらここで優秀なアドバイザーをゲットできるかもしれない」
「わ、わかりましたっ(は、はーちゃんにロイン……お買い物のお誘い……そ、そうだっ! 喜多ちゃんっぽく陽キャな感じの内容でかるーくかるーく……あとはレンくんみたいに相手をちゃんと褒めてあげれば……それでいて、無理強いはしない感じで……)」
発見したのはあくびちゃんだった。向こうはスマホを弄ってるみたいで俺達には気づいていない。大槻先輩達の姿は見えないから一人で来たのかな? でも意外だ。あくびちゃん達って新宿を活動拠点にしてるからこっちの方にはあまり来ないと思ってたのに。
「お、送っておきました」
「ありがとう。さてさて、どんな返事が返ってくるか……」
再びあくびちゃんの方へ視線を向けると、彼女はビクリと肩を震わせたかと思うと、挙動不審気味に周囲をキョロキョロ見回していた。……驚きすぎじゃない?
「なんかあくびちゃんが変な反応してる……ひとり、どんな感じの送ったの?」
「あ、こ……これです」
『はーちゃんは、お肌がきれい✨ダネ(^o^)(^з<)(^_^)こんなに可愛くなっちゃったら女神みたいでわたし困っちゃウヨ(T_T)( ̄Д ̄;;(-_-;)あ、ところで今原宿にいるヨネ⁉️✋よかったら一緒にお買い物でもどうカナ⁉ ❗❓( ̄ー ̄?)もちろん無理にとは言わないケド(笑)』
おっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっじ!!!!!!!!
とんでもねえおじさん構文!!??
これをあくびちゃんに送ったの!? まじで!? わざとじゃないよね!? 意識してもこんなおじさん構文作れないよ!? ある意味才能ですね後藤ひとりさん!!
俺と一緒にひとりのスマホをのぞき込んだ佐々木さんは爆笑してるし。うん、ごめんねひとり。俺が判断を間違えたよ。これからはロインの自然なやりとりも勉強していこうね。
俺はそう考えながら、自分のスマホであくびちゃんに謝罪の電話をするのだった。
「いきなり何事かと思ったすよ。おっぢ……ぼっちさんからとんでもないロインがきたから」
「ごめんね。たまたまあくびちゃんの姿を見かけたから……」
「(思わずブロックするところだったっす)」
「(いやほんとごめん! でも
「(でしょうね。ただ、あんな文章を作れるのは───って、レンさん今……)」
あくびちゃんと合流し、簡単にこれまでの経緯を説明する。ブロックうんぬんのくだりはひとりに聞こえないように顔を寄せ合って小声で話し合っていた。確かに、いきなりあんな怪文書が送られてきたらブロックしたくなるよね。
「あ、そうだ。紹介するよ。こちらは
「よろしく~」
「よろしくっす。結束バンドのライブに来てましたよね? 見覚えあるっす」
「ども。実は新宿のライブも観に行ってたんだよね。めちゃ格好良かったよ」
「そうなんすか? ありがとうございます」
「気軽にさっつーとでも呼んでちょーだい」
佐々木さんとあくびちゃんのファーストコミュニケーションは上々。二人とも別に人見知りとかしないタイプだし……それになんとなくこの二人って属性というか雰囲気が似てるんだよね。
「STARRYの店長さんの誕生日プレゼントを買いにキデイランドすか? あの人、そーゆー可愛い物が好きなんすね」
「未だにぬいぐるみを抱いていないと眠れないらしい」
「意外だ……顔は結構きつめの美人さんなのに」
「あんな顔してSTARRYで一番あざといからね」
ちなみにあくびちゃんがなぜ原宿にいたかというと、原宿はゲームショップが結構豊富らしい。で、買い物を終えての帰り道でひとりからおじさん構文が送られてきたということだ。
「あくびちゃんも一緒に行かない?」
「いいっすよ。ウチも(おっぢさんがどんなプレゼントを選ぶのか)興味あるんで」
「あ、は、はーちゃん。よ、よろしくお願いします」
「そういえば、おっ……ぼっちさんと買い物に行くのは初めてっすね。江の島で遊んだことはありましたけど」
「え、江の島……あの時は楽しかったですね」
という感じで、四人で原宿キデイランドへ向かいます。サバサバ系世話焼きガールが二人もいるおかげか、ひとりも楽しそうな様子だった。今思うと、ひとりってあくびちゃんには結構心を開いているよね。
虹夏ちゃんとはタイプが違うけど、あくびちゃんのお世話してくれる系オーラを無意識の内に感じ取ったのかな?
「後藤ってあの子とはちゃんと話せるんだね」
「佐々木さんと同じでサバサバ系世話焼きガールだから」
「山田、ウチのことそんな風に思ってたん?」
「よくない? 俺、魚で一番サバが好きだよ」
「山田の誕生日プレゼントが決まってしまった」
美味しいよねサバ。塩焼きも煮付けも味噌煮もサバ寿司も全部好き。佐々木さんと話しながらスマホで原宿キデイランドについて調べていると、地下一階を含む五フロアになっていて、各フロアごとに販売しているものが違うらしい。……思ったより広いな。
「ひとり、どうする? 一階から順番に見ていくか、星歌さんが好きそうなマイメロちゃんやキティちゃんが集まってる四階から行くか……」
「あ、えっと……四階にしましょう。一階にあるものは、私がよくわかんないので……」
「おっけー。……って、ミニヨンズも扱ってるのか。ふたりちゃんってミニヨンズが好きだったよね?」
「あ、はい。でも最近はおぱんちゅうさぎにハマってて」
「まじか……後で二階にも寄ってみよう」
「さ、三階にもゲーム系のキャラクターのものがありますよ」
「……ヨシ、全部回ろう」
「は、はいっ!」
初めて来たけど結構楽しそうなところだな。ジブリショップもディズニーアベニューもあるし。気持ち悪い王蟲の人形でもあったら姉貴に買っていってやろう。
俺とひとりは肩を寄せ合って俺のスマホをのぞき込みながらエスカレーターに乗るのだった。
「……さっつーさん」
「どしたの?」
「あの二人って、付き合い始めたんすか?」
「いや、付き合ってないよ。名前で呼び合うようになっただけ」
「にしてはなんかこう……距離感がかなり縮まってるような……」
「後藤は情緒が小学一年生だし、山田は恋愛学習マシーンだし、まだまだ進展しないんじゃない?」
「あ、まだ恋愛学習マシーンモードは継続してるんすね」
「山田が『今は人から教えてもらったことをインプットして昇華する段階に入ったのだ』って嬉しそうに報告してきたよ」
「レンさんって普段はしっかりしてるのにそういうところは隙だらけというかガバガバっすよね」
「あれが山田のおもしろ……良いところだから」
「……そうっすね(お労しやヨヨ上。もたもたしてたらぼっちさんに掻っ攫われるっすよ。いやでもヨヨコ先輩と付き合い始めたら付き合い始めたで『惚気を聞いて聞いてアピール』しそうで面倒っす)」
「結構すごいな! そこら中キティちゃんだらけ」
「ぴ、ピンクの圧がすごい……」
「後藤も人のこと言えないよ」
四階にやって来ると、真っ先に目に入ったのがキティちゃんショップだ。ひとりの言う通り前面ピンクピンクしていて、ぬいぐるみはもちろん、折り畳み傘やトートバッグ、お茶碗やコップといった小物も豊富に取り揃えられている。
「あっちはリラックマにすみっこぐらし、ミッフィーちゃんもあるっすね」
「見事に女の人しかいないね。山田、肩身狭いんじゃない?」
「女の子を三人連れてファンシーショップを訪れる男……俺は三股クソ野郎だった?」
「よし、山田の優柔不断ハーレムクソ野郎記念に写真撮ろう」
「いえーい。ほら、ぼっちさんもこっちに」
「い、いえーい……(近い近い近い!! レンくんが近い良い匂い!!)」
佐々木さんが腕を伸ばしてスマホを構え、女の子三人と密着しながら写真を撮る。あくびちゃんもなんだかんだでノリがいいな。
「ほら山田、良い写真が撮れたよ」
「……ぼっちさんの目線がおかしなところにいってるっす」
「ど、どどどどこを見ればいいかわからなかったのでっ!!」
佐々木さんにスマホの画面を見せてもらうと、確かに良い写真だった。ひとりが変なニヤケ顔で目線が明後日の方向に向いているのも、この子らしくて逆に良いね。
「さっつーさん、ウチにも送ってください」
「いいよー」
「さ、ささささん。わ、私にも……」
「ほいほい、ちょっと待ってね」
佐々木さんはあくびちゃんとロインを交換して写真を送る。やっぱりこの二人って属性が似てるから相性がいいよな。ひとりも写真を見て嬉しそうにしてるし。……和む。
「やまだー。トゥイッターに載せられたくなかったら……わかるよね?」
俺が女子三人の微笑ましい交流を見て和んでいると、佐々木さんがスマホの画面を見せながらニマニマ笑ってそう言ってきた。この女、それで俺の弱みを握ったつもりか?
「くっころ」
そう言いながら俺もスマホでニマニマしている佐々木さんをパシャリ。完全に油断していた彼女は実に間の抜けた表情で写っている。これでイーブンやぞ?
「け、消せっ!」
「核兵器抑止論って知ってる?」
俺のハーレム写真を拡散されないために、抑止力として佐々木さんのおまぬけ写真をスマホに保存するのだった。
「一通りこの階は見て回りましたけど、どうすかぼっちさん。ビビッときたものはありました?」
「あ、あのマイメロちゃんが可愛いなって……」
「そこで安易にキティーちゃんに流されないとは。後藤、良いセンスしてるよ」
「ほ、本当ですか? えへへ……」
ひとりが選んだのはマイメロちゃんのぬいぐるみだった。抱っこするのに丁度いい大きさで、見た目もすごく可愛らしい。星歌さんの好みにもドンピシャだ。……というか、あの人はひとりから貰えるものならなんでも喜ぶだろうけど。
「ひとり、これにする?」
「は、はい。他の階の物と比べたい気持ちもありますけど……第一印象って大事だと思うので」
「うん。俺もそう思う」
服や靴を買う時も一緒。色んなお店を見て回っても、最終的に最初のお店で良いなと思ったものを買っちゃうことが多いんだよね。
「れ、レンくんが同意してくれるなら間違いないです。こ、これを買います」
「じゃあ、レジに持っていこうか」
「か、代わりに買ってきてくださいっ……!」
「自分でやりなさい」
「おお、珍しく山田が後藤に厳しい」
「甘やかすだけじゃないんすね」
このくらいで厳しいって言われるとか……この子達には普段の俺がどう見えて───いや、否定できないのが悲しいな。
「せ、せめてレジまでついて来てください……」
「支払いは自分でちゃんとやるんだよ?」
「うぅ……がんまりましゅぅ……」
色々と成長していると思ったけど、こういうところはまだまだだな。
ぷるぷると震えながら、ぎこちない手つきで会計を済ませるひとりを見守りながら俺はそう思うのだった。
「三階はゲーム系のキャラを扱ってるのか。あくびちゃんってこの辺のゲームやってる?」
「まあ、ほどほどっすね。ポケモンなんて精々個体値厳選して色違い縛りをやるくらいで……」
「十分廃人だよ!?」
これは対戦ガチ勢ですね。
「後藤ってよくメタモンみたいになるよね?」
「は、はい。溶けた時の私によく似てます」
「ぼっちさん……(メタモンはポケモン界じゃ廃人御用達の優秀な種馬だってことは黙っておくっす)」
「ひとり……(メタモンと廃人のせいでポケモン界の生態系が乱れてることは黙っておこう)」
「え? え……? な、なんで二人ともそんな残念そうな目で見てくるんですか……?」
世の中にはね、知らないことの方が幸せなこともあるんだよ? 俺とあくびちゃんは考えていることが同じらしく、二人で顔を見合わせてうんうんと頷き合っていた。
「お? あっちにセーラームーンあるじゃん」
「佐々木さん達は世代じゃないでしょ?」
「世代じゃないけど存在は知ってるよ」
あれって確か三十年くらい前のアニメだよね? 俺も詳しくは知らないけど、多分中学生くらいの魔法少女が戦う話……だったと思う。
「黄色、ピンク、青、赤……カラーリングが結束バンドっすね」
「……結束バンドはセーラームーンだった?」
「後藤、今度のライブはセーラームーンのコスプレでやってよ」
「ぜ、ぜぜぜぜぜ絶対嫌ですっ!!」
そうすると主人公枠は虹夏ちゃんになるのか。うん、ぴったりじゃないかな。一つ問題を上げるとすれば、姉貴はどう考えても月にかわってお仕置きされる側だということだけど。
「お、姉貴にこれ買っていこう」
「マジすか? この気持ち悪い王蟲のフィギアをお土産に?」
「めっちゃ喜ぶと思う」
「……リョウさんっすもんね」
二階に降りてジブリショップへやって来ると、姉貴が好きそうなフィギュアがあったので俺は迷うことなくそれを手に取った。姉貴への今年のクリスマスプレゼントはこれでいいな。
「こ、こっちにトトロとかネコバスとか可愛い物もありますよ?」
「姉貴はそういうのよりも、ここにある千と千尋の大根の神様みたいなやつの方が好きなんだ」
「そ、そういえば『けつばんちゃん』を生み出したのもリョウさんでしたね……」
「後藤、けつばんちゃんって何?」
「あ、結束バンドのマスコットキャラクターで……」
ひとりはそう言いながら鞄の中からけつばんちゃんのステッカーを取り出す。……いつの間にステッカーなんて作ったんだ? 姉貴が珍しく熱心にマスコットキャラのデザインを考えてたのは知ってたけど。
「なんというか……一部に刺さりそうなデザインっすね」
「ロインのスタンプでありそう」
「あ、よ、よかったら一枚あげますっ。わ、私……スマホにも貼ってるんですよ?」
ひとりはそう言って嬉しそうにスマホカバーを外しながらステッカーを見せる。あくびちゃんと佐々木さんは微妙な反応だったけど、ひとりの純粋な笑顔に断ることもできず、ステッカーを受け取っていた。
「れ、レンくんもどうぞ」
「……ありがと」
「あ、わ、私がスマホに貼ってあげますよ」
「じゃあ、お願いしようかな」
喜多さんにステッカーの綺麗な貼り方を教えてもらったから試してみたいんだろうな、と俺は嬉しそうにしているひとりを見ながら思う。……ちょうちょ結びを覚えたての小学生かな?
そして、佐々木さん達の方に視線を向けると二人もスマホにステッカーを貼っていた。なんだかんだ二人とも優しいよね。
「ひとり。これ、ふたりちゃんへのちょっと早いクリスマスプレゼントってことで渡しておいてくれる?」
「あ、はい。そ、そんなに気を遣っていただかなくても……(ふ、ふたりにクリスマスプレゼント!? 私だってレンくんから貰ってないのに羨ま───じゃなくて!! こ、これを渡してしまったら絶対にふたりは調子に乗る!! 間違いない!! こ、ここは姉としてふたりが調子に乗ってレンくんに迷惑をかけないようしっかりと教育しなければ!!)」
二階にはおぱんちゅうさぎを扱っているお店もあったので、ふたりちゃんへのクリスマスプレゼントとして可愛らしいポーチを買ってあげることにした。
あの子、年齢の割にませてるところがあるから素直に喜んでくれるといいんだけど。
「やまだー。ウチには何もないの?」
「さっき配ってたポケットティッシュならある」
「……発想が廣井さんと同じっすね」
「そんな残酷なこと言わないでよ!? 傷つくじゃん!」
「その反応の方が残酷っすからね?」
廣井さんと同列扱いは非常に心外だったので、ガチャガチャコーナーに行って一人一回分ずつのお金を出してあげることにするのだった。
「ひとりが無事に誕生日プレゼントを買えたし、結構いい時間になったからそろそろ帰ろうか?」
「……結局レンさんは店長さんに何も買ってないっすね」
「俺は別のものを用意するつもり。他の人と被らないように色々考えてるから」
「何をあげるんすか?」
「今の星歌さんに最も必要な物……それは『理解ある彼氏くん』なんだけど、さすがに用意できないから実用的なものにしようと思ってる」
「店長さん美人だったじゃん。なのに彼氏はいないんだね」
「女子力が崩壊してるから……」
「知り合いのバンドマンとかいないんすか?」
「星歌さんはいくつものバンドが解散する様を見て……断末魔を聞いてきたんだ。バンドマンがどれだけ不安定な生き物なのかはあの人が一番よくわかってる。だから星歌さんはバンドマンと付き合うことはないんじゃないかな?」
星歌さんに必要なのは彼女のダメダメっぷりをちゃんと受け入れてくれる心の広いスパダリ。いや、いっそ家事ができる優しい主夫でもいいな。イメージ的には男の子になった虹夏ちゃん。
そんな男……存在する?
「仮にいたとしても、そういう魅力的な人はすでに恋人がいると思うっすよ」
「だよね」
あくびちゃんの無情なマジレスに首肯せざるを得ない。これは本格的に婚活させるべきか? こっちで色々調べて評判のいい婚活パーティーとかに申し込んで無理矢理放り込むことも視野に入れた方がいいかもしれない。
虹夏ちゃんに相談してみよう。
「化粧品系やコスメグッズはその人の好みのブランドとかがあるから選ぶのが難しいんだよね。いやでもハンドクリームとかボディークリーム、シャンプー、コンディショナーならいけるか……」
「へー……色々考えてるんだね」
「毎年姉貴や虹夏ちゃんの誕生日をお祝いしてるからね。普通の男よりは気遣いできるつもりだよ」
「消え物ってのがポイントっすね。年が離れてるとはいえ、異性へのプレゼントっすから」
「そーそー。変に形が残るものを渡されてもね。山田はその辺がよくわかってる」
女子二人からも好感触なようです。やっぱりそっち方面の物を買った方がいいよな。虹夏ちゃんや喜多さんと被らないように事前に話を聞いておこう。姉貴は俺と連名でのプレゼントになるだろうし。
ひとり? あの子がこの手の話題に入ってこれるわけないでしょ。これから勉強すればいいんだよこれから!
「じゃあ、駅に行こうか」
「そっすね。ぼっちさんから怪文書が来たときはどうなることかと思いましたけど楽しかったっすよ」
「わ、私もお出かけ楽しかったですっ」
「よし、明日喜多に自慢してやるかー」
「多分喜多さんが変に対抗心を燃やしてひとりを遊びに誘いまくるから勘弁してあげて」
まだひとりが喜多さんの全開のテンションについていくには耐久力が足りないんだ。あと半年……一年くらい待ってほしい。案の定ひとりは口をパクパクさせて震えてるし。
「ウチもヨヨコ先輩に自慢してやるっす」
「俺に文句のロインが来るか結束バンドに対抗してSIDEROSでも変なマスコットキャラを作ろうとするかの二択になるよ?」
「両方じゃないっすか?」
「……言ってて俺もそう思った」
そして、俺の予想通り次の日に大槻先輩から怒涛の抗議ロインが来るのだった。ちなみに先輩がけつばんちゃんに対抗して「でろすちゃん」なるものを作ろうとしたけど先輩のセンスが酷すぎて没になったらしい。
「あ、レンくん……」
「んー?」
駅までの道すがら、俺の隣を歩いていたひとりが前の二人に聞こえない声量でそっと耳打ちしてきた。どうしたんだろ?
「こ、これ……今日、プレゼントを選ぶお手伝いをしてくれたお礼……です」
ひとりはそう言って、俺に小さな紙包みを手渡す。サイズ的に……ペンっぽいな?
包みを開けると、中に入っていたのはミッキーのシルエットがデザインされた四色ボールペンだった。ネイビーと白というシックな色合いでデザインされているお洒落可愛いペン。
「き、ききき気に入らなかったら捨ててもらってかまわないので……」
「そんなことしないよ。ちょうど新しいボールペンが欲しかったところなんだ。ありがとね、ひとり。大事に使わせてもらうよ」
「あ、ふへっ……こ、こちらこそ、ありが……ありがとうごじゃいましゅた……」
俺が笑顔でお礼を言うと、ひとりは恥ずかしそうに顔を伏せる。そんな彼女の様子を見て、なんだか俺も少し照れ臭くなってしまうのだった。
「(あの二人、ほんとに付き合ってないんすよね?)」
「(傍から観察してる分には後藤と山田の成長が見られて面白いよ)」
「(……さっつーさんも大概っすね)」
「(喜多と長年友達やってるから)」
「(すごい説得力っす)」
「リョウ!! なんであたしの部屋に王蟲のフィギュアを置いてったの!?」
「レンがクリスマスプレゼントにくれたけど、私の部屋に置くスペースがなかったから」
予想通り、姉貴は王蟲のフィギュアをめっちゃ喜んでくれたけど、最終的に虹夏ちゃんのベッドで可愛らしいぬいぐるみと一緒に王蟲が並ぶことになるのだった。