十二月二十四日、クリスマスイブ。
多分、日本で一番色んな感情がぐっちゃぐちゃに渦巻く日。出番やぞインキュベーター。人間の感情を餌にして宇宙のエネルギー問題やらエントロピーやらをどうにかこうにかできるぞ。
インキュベーター達はわざわざ女子中学生というクソ面倒な生き物をターゲットにしなくても、クリスマスやバレンタインにインキュベーター総出で地球の感情エネルギーを集めまくればよかったのでは?
「く、くりすま……クリスマス……おえっ……」
「ひとり、大丈夫?」
「あ、あんまりだいじょばないです……こ、この一か月間、今日のライブのためにクリスマスソングを練習してきたので耐久力が削られて……」
隣で顔色が見事な紫色になっているひとりが歩いている。結束バンドは吉田店長からクリスマスライブに誘われて以降、今日のためにとあるアーティストのカバーを演奏することにしたんだ。
最初はQUEENとかポー〇マッカートニーっていう案もあったんだけど、喜多さんが洋楽を歌えないので断念。だからbacknumberになりました。
「こ、この時期になるとギターヒーロー動画にも……クリスマスソングのリクエストがたくさん来て……じゅ、十曲くらいで意識を失っちゃって……」
「ぼっちちゃんってほんとに難儀な生き物だね」
虹夏ちゃんが苦笑しながら言う。ひとりはこんな調子だけど、本番になればなんだかんだやる子だから大丈夫だと思う。あとは変なパフォーマンスさえしなければ……それが一番心配なんだよね。
「でも、クリスマスイブにみんなでライブするってわくわくしますね! ……世間の雰囲気とは裏腹に私達には浮いた話なんて一つもないですけど」
十一月の段階でライブの告知をしちゃったからね。もしかしたら、今日喜多さんを遊びに誘おうと思ってた気概のある男子もいたかもしれないけど……いや、もしかしたらライブが終わって勇気を振り絞って喜多さんに声をかける男がいる展開では?
「そういうレンくんはどうなのよ? 中学時代とか、彼女がいた頃はどんなクリスマスを過ごしてたのかしら?」
「……クリスマスまで長続きしなかったから」
「あっ……」
俺がそう言うと喜多さんは気まずそうな顔で俺の肩をポンと叩く。何気に俺もクリスマスに彼女と二人で過ごしたことなんてない。去年は受験生だったし、毎年父さんと母さんが気合を入れてお高いレストランのクリスマスディナーに連れて行ってくれるし。
「虹夏ちゃんはどう? 今年は何もなかった?」
「……何もないよ」
確実に何かあったね。
俺はそう思って姉貴に視線を向けると、姉貴は不敵に笑っていた。
「この一週間、クラスの男子がそわそわしてた。それだけなら可愛らしいもんだったけど、虹夏はそんな男子達の純情を弄んでいた」
「別に弄んではないでしょ!?」
「でも、クリスマス一週間前に『〇〇くん。クリスマスイブって予定空いてるかな?』って聞くのは大罪だと思う」
「……虹夏ちゃん、そんなことしたの?」
「ち、違うよ! 誤解だって! だ、だって最近よく話すようになったクラスの男の子が結束バンドに興味がありそうだったから今日のライブに誘おうと思っただけで……」
「喜多さん、判決」
「虹夏先輩、有罪です! 本当は結束バンドじゃなくて虹夏先輩に興味が───いえ、もしかしたら好意があったのかもしれないわ! そんな風に自分が好意を寄せている女の子からクリスマスイブの予定を聞かれたら舞い上がって『伊地知って俺のこと好きなんじゃ……』って勘違いしますよ! でも虹夏先輩はただのクラスメイトとしか思ってなくて、話の流れで今日のライブに誘っただけ! なんという……なんという天然勘違いさせ女ムーブなの!?」
脳破壊、とは少し違うけど感情ぐちゃぐちゃになりそう。
「虹夏ちゃんって昔からそういうところがあったよね」
「そう。下北の恋心クラッシャーとは虹夏のこと。中学時代にどれだけの屍を築き上げてきたか」
「あ、あたしにそんなつもりは……」
でも正直、その男子を責めることはできない。俺も虹夏ちゃんと幼馴染じゃなくて、もっと別の出会い方をしてたらそういう感情を抱いてただろうし。
「虹夏先輩は純情な男子高校生を弄んだ罪として……ライブではこのミニスカサンタのコスプレをしてもらいます!」
「こんなの履いたらドラムスローンに座ったときパンツ丸見えになっちゃうじゃん!」
「おひねりが増えるかも。あと物販の売れ行きにも良い影響が……」
「打ち上げはともかくライブでは絶対履かないからね!」
あ、打ち上げではコスプレしてくれるんだ。楽しみ。……大槻先輩もコスプレしてくれないかな。メイド姿は前に見たけど。
「そういや、物販で思い出したけど……虹夏ちゃん、MVの製作費用って貯まってる?」
「貯まってるよ~! ここ数ヶ月はライブのノルマも余裕で達成できてるし、みんなのバイト代も積み立ててるから予定通り来月から本格的に動けそうかな」
だとすると、あとはどうやって製作するか、だ。手っ取り早いのはその手の業者に任せることだけど……残念ながら知り合いはいないし。打ち上げの時に大槻先輩や志麻さん、吉田店長に聞いてみるか。
「はー……なんでこんな日に他人の幸せを祝う演奏をしなきゃならんのだ」
「りょ、リョウさんもそういうことを気にするんですね……」
「このピンク一辺倒な空気には私も思うところがある。まったく、脳内ピンクな発情カップル共め。どうせ今日は『性夜』とか言って朝まで男女のロックフェスを開催する気なんだろう。嘆かわしい」
「そ、その通りですっ……! さ、昨今の日本人はクリスマスの意味をはき違えているっ……! (レンくんなんて……いやらしいことしか考えていない女どもにとっては恰好の餌! 守らねば……今日だけは何が何でも私が守らねばっ!!)」
姉貴の言葉にひとりはうんうんと激しく頷いている。この二人ってこういうネガティブなところで波長が合うよな。
「我々はロックバンドだ。つまり、世間の流れに反抗してこそ! ぼっちよ、今日のライブパフォーマンスでクリスマスイブの甘々な雰囲気をぶっ壊してやれ!」
「ま、任せてください……! とっておきのネタで会場を沸かせてやります!」
「ぼっちちゃんは黙ってギター弾いてるだけでいいから」
虹夏ちゃんの言う通りだ。ひとりにパフォーマンスをやらせるとろくなことにならない。しかも今日はSTARRYじゃなくて新宿FOLTだから……下手したら出禁になる可能性もある。
「姉貴はああ言ってるけど、こういう季節のイベントが大好きな喜多さん的にはどう? 相容れない? 相容れないよね? よかったー。これで姉貴の信者を辞められるね」
「それはそれ。これはこれよ! 周りに流されない……つまり揺るぎない自分を持っているということ! やっぱりリョウ先輩は見習うべき存在だわ!」
無敵すぎる回答。メンタルが強すぎるのも問題だ。
「レンくんもリョウ先輩のように世間に対する反骨神を……そういえば、レンくんって反抗期とかあったのかしら?」
「唐突過ぎる話題転換。そりゃあ俺にだって反抗期の一つや二つ……」
あったかな? 姉貴には年中ぎゃあぎゃあ言ってるけど、姉貴があんなだから親に「うざい」とか思ったことはないし。
「そう……私がレンの反抗心を一身に受け止めていた」
「つまりレンくんが良い子に育ったのはリョウ先輩のおかげということですね。レンくん、もっとリョウ先輩に感謝しなくちゃダメよ?」
「……ありえない。そんなに言うなら俺は今からでも反抗期になる」
むしろ姉貴がもっと俺に感謝しろ。
「ほう……? レンがとうとう反抗期を迎えると? 面白い。やってみたまえ」
「レンくんがグレる? つまりグレンくんね!」
しょーもな。喜多さんって時々こういうしょーもないこと言うよね。
「レンくんが反抗期って……全然イメージできないけど、でも反抗期があった方が自立心が養われるっていうよね」
「つまり根っからのロックンローラーである私は自立心の塊」
「あ、この説が間違いだって一瞬で証明されちゃった」
姉貴の言葉は虹夏ちゃんにバッサリ切り捨てられる。実際、姉貴は自立心が皆無だしな。反抗期がなかった俺の方が余裕で自立心あるわ。
「でも、あたしもレンくんの反抗期って気になるな。どんな感じになるんだろ?」
「口が悪くなるとか、ですかね。レンくん、ちょっと暴言吐いてみて?」
どんなお願いだよ。初めて言われたわそんなこと。まあ、やれって言うならやるけど。
「おい、クソ姉貴」
「いつものレンくんじゃん」
「いつものレンくんですね」
虹夏ちゃんはともかく喜多さんまでそんな反応するんかい。ほんとに姉貴のこと尊敬してんの?
「リョウ先輩じゃあ反抗期にならないわね。じゃあ、私に反抗してくれる? こう……本当は女の子に興味津々の男子中学生がついつい女子に冷たく当たっちゃう感じで」
「それ反抗期と関係ある!?」
ただの思春期じゃん。いや、確かに似たようなもんかもしれないけどさ。あとね、自覚ないとは思うけど……今の喜多さんって俺に「口汚く罵って♡」って言ってるようなもんだからね? どMかな?
「おい、郁代ォ!」
「名前で呼ばないで」
「めっちゃスンってされた!?」
言う通りに喜多さんに反抗したのに。
「冷たく突き放すような感じはいいけど名前で呼ぶのはダメ。それ以外で私に反抗して」
「なんてめんどくさい女なんだ……」
「あ、今の良い感じよ」
「おい、喜多ァ!」
「そうそう、調子が出てきたじゃない! もう一回!」
「喜多ァ!」
「わんもあ!」
「喜多ァ!」
クリスマスイブに可愛い女の相手に何をやらされてんだ俺は。
「う~ん、レンくんにちょっと冷たい感じで呼び捨てにされるのも悪くないわね」
「喜多ちゃんってやっぱりダメンズ好きの才能にあふれてるよね」
「虹夏先輩はブーメランを投げる才能にあふれてますね!」
どっちもどっちだわ。いや、姉貴の狂信者である以上喜多さんの方が
「さあ、次はひとりちゃんの番よ! レンくん、今度はひとりちゃんに反抗してみなさい!」
「ヴォエアァ!?」
ひとりがすっげー声を出してる。毎度思うけど、人間の声帯で表現できる音なのそれ?
「大丈夫よひとりちゃん。普段はすごく優しくて甘やかしてくれる男の子がちょっと悪ぶって冷たくなる感じ……そのギャップ、気にならない?」
「あ、あ……ちょ、ちょっとだけ……(レンくんが悪ぶって……つ、つまり肉食系になっちゃうってこと!? 『おい、ひとり。お前この後、俺ん
「レンくん! ひとりちゃんのお許しが出たわ! ちょい悪系山田レンを見せてあげなさい!」
もはや反抗期関係なくね? ひとりもひとりでなんかワクワクしたような表情になってるし……しょうがないにゃあ。
「おい、後藤ォ!」
「ひいぃっ!? (お、思ってたのと違う!!)」
あ、普通に怯えられた。……やばい。かなりショック。
「レンくんが普通に落ち込んじゃった! 喜多ちゃんにどんな無茶振りをされても……メイドになってもリョウのコスプレをさせられても微塵も挫けなかったのに!?」
「すごいわひとりちゃん! あのレンくんのメンタルにダメージを与えるなんて!」
「ほう、レンのあの目……私が熱中症で倒れた時に匹敵する落ち込み具合だ。やるなぼっち」
「ほ、褒められてる気がしない……」
だってさぁ。これまで仲良くしてた女の子にさぁ。内気で気弱でようやく心を開いてくれた女の子にさぁ。目の前でこんな風に怯えられたらショック受けるって。
「さあレンくん、もう一度よ! これは中学時代に反抗期がなかったレンくんを精神的に成長させる試練でもあるの! ひとりちゃんに反抗することで……初めてあなたは一人前になれるわ!」
「喜多ちゃん。さっきから全然意味わかんないよ」
虹夏ちゃんが俺の心情を代弁してくれた。ほんとに何やってんだ俺。
「やんなきゃだめ?」
「だめよ。これはレンくんだけじゃなくてひとりちゃんのためでもあるの。世の中にはレンくんみたいに優しい男の人ばかりじゃない。中には悪~い人だっている。そういう人に対する免疫もつけていかなくちゃね!」
なんかそれっぽいことを言ってるけど、喜多さんが楽しんでるだけだよね? 俺はそう尋ねるけど、喜多さんはにっこりと笑うだけだった。
これ、やらなかったらひたすら駄々をこねられるヤツだ。俺にはわかる。喜多さんって変なところで我儘になるからなぁ……しょうがないですねぇ。
「おい、後藤ォ!」
「は、はひぃっ!」
俺の心に鼻毛を抜いた程度の痛みが走る。
「……お前、もっと自分に自信持てよ。ギターも勉強も、他のこともすげー一生懸命頑張ってんだからさ。お前の努力をちゃんと見てる人がいて、応援してる人がいるんだから……そういう人達のためにも、もっと胸張って生きろォ!」
「は、はいっ! (ほ、褒められた? 褒められたよね……?)」
喜多さんの言う通り、確かに精神的に成長できるわこれ。あぁ……姉貴以外の女の子に初めて「お前」なんて言っちゃったよ。
「これ、反抗してないよね?」
「でも、こういうレンくんもたまにはよくないですか? ヤンキーが雨の日に捨てられた子犬を拾うような感じで……」
「郁代の言う通り。内気なコミュ障少女と実は心優しい俺様系口悪い男子。ラブコメの王道ではある」
(た、確かに……ちょっと癖になりそう。ふ、ふへ……ふへへっ……ふへへへへっ)
雪の降るホワイトクリスマス。可愛い女の子四人とイルミネーションを眺めながら歩いている中で、俺の反抗期が始まるのだった。
「長谷川ァ!」
「まーた結束バンドさんが変なことやってるっす。どうしたんすかレンさん。喜多さんからおかしな命令でもされたんすか?」
「レンくんは精神的に自立するために絶賛反抗期中なのよ」
「なるほど、意味わかんないっす」
新宿FOLTにやってきて、とりあえず視界に入ったあくびちゃんに反抗期モードで声をかけると、あくびちゃんは特に驚いた様子もなく、まるで俺達の奇行を定期イベントのように思っているみたいだった。
「レンさんも恋愛学習モードになったり反抗期モードになったり大変っすね」
あくびちゃんが労わってくれる。優しいし面倒見良いよねこの子。大槻先輩やひとりが懐く理由がよく分かる。
「ふーちゃん、幽々ちゃん。ちょっとこっち来てくださいっす。レンさんの珍しい反抗期姿が見れるっすよ」
「レンくんもとうとう反抗期かぁ~ずいぶん遅かったね~」
「試しに幽々のことをお母さんだと思って冷たくあしらってくださ~い」
あくびちゃんが呼びかけるとSIDEROSのメンバーがわらわらと集まってくる。大槻先輩は……志麻さんやスタッフさん達と打ち合わせしてるみたいだ。
「内田ァ!」
「おぉ~山田さんにそうやって呼び捨てにされるのは新鮮ですね~」
「レンくん私も! 私も呼び捨てにして!」
「本城ォ!」
「う~ん……あり!」
幽々ちゃんとふーちゃんの二人はきゃっきゃと喜んでくれている。……これ、反抗期の意味ないよね? というか、これはそもそも反抗期なの? ただ雑に苗字で呼んでるだけじゃん。
「ちょっとあなた達、何を遊んでいるのよ。そろそろリハが始まるから準備しなさい」
そんな感じで俺達が戯れているところで、打ち合わせを終えた大槻先輩が俺達の方へ歩いてきた。
「あ、ヨヨコ先輩。レンさんが反抗期になったんすよ」
「はぁ? 何を意味の分からないことを……」
「はい、レンさんどうぞ」
「大槻ィ……先輩……」
「へたれちゃった!? 大槻さんには反抗できないのね!?」
「私にはいつも反抗してくるくせに。解せぬ」
「解せる理由しかないよ」
(大槻さんに反抗できない? つ、つつつつつつつまり完全な上下関係ができあがって……れ、レンくんを従順にさせてナニをさせる気なんですか!?)
俺達の様子を見て、大槻先輩はものすごく気の毒そうな表情を俺に向けるのだった。いや、この人に反抗するのは無理だって。怖いとかそういうんじゃなくて……純粋に、そういう態度をとりたくないというか何というか……
「久しぶりにあなたのことを年下だと思えたわ」
「せんぱぁい……」
結束バンドとそれなりに深い付き合いの大槻先輩は、俺が意味の分からない遊びに付き合わされていることを理解したらしく、びっくりするくらい優しい笑顔と声色でそう言った。こんなん甘えたくなるに決まってんじゃん。
「虹夏ちゃーん! レーン! この前はお手伝いしてくれてありがとネー!」
今度はイライザさんが俺達に大きく手を振りながら駆け寄ってくる。その後ろには志麻さんと……千鳥足の廣井さんがいた。よかった。今日はちゃんとリハ前に来られたんですね。
「志麻さん、その節は大変ご迷惑をおかけして……」
「いやいや、迷惑をかけたのはイライザだからな? 君達には何の非もないよ。あの状況なら発狂してもおかしくないからね」
「発狂もしてたんすか? レンさん、ほんとに情緒大丈夫っす?」
あれは黒歴史として永久封印したい。深夜テンション……とはまた違った雰囲気だったよね。俺もイライザさんも虹夏ちゃんも全員もれなくSAN値チェックに失敗してたから。志麻さんが来なかったらどうなっていたことか……
「完全にレンくんの反抗期が終わっちゃったわ……」
「え? レンって反抗期だったの? も~仕方ないナ~お姉さんが甘やかしてあげるから反抗なんてしちゃだめだヨ~?」
イライザさんはそう言いながら笑顔で俺の頭を撫でてくる。こんな優しいお姉さん相手に反抗期になるわけないよね。
「山田少年も大人のお姉さんの包容力には逆らえないってことだよ。ね?」
廣井さんが酒臭さをまき散らしながら肩を組んでくる。……これって完全に
そーゆー
「……廣井ィ!」
「反抗期全然終わってないじゃん!?」
予想通り過ぎるのリアクションに俺は思わず笑ってしまった。
「おーい、レンくーん!」
結束バンドとSIDEROS、SICKHACKのリハが終わり、一般のお客さんの受付が始まってライブハウス内が賑わい出したころ、不意に名前を呼ばれたので声が聞こえた方へ顔を向けると一号さんと二号さんがいた。
俺、未だにこの二人の本名知らないな。
「こんばんは。今日も来てくれたんですね」
「当たり前だよ~。記念すべき初クリスマスライブだからね!」
「……他に予定とかなかったんです?」
俺が尋ねると大学生二人はサッと目を逸らした。彼氏、いないんですね。一号さんは美人さんで二号さんは可愛い系なのに。
「今は多様性が尊重される時代。レンくん、クリスマスは彼氏と過ごすなんてのは古い考え方だよ?」
「……二号さん、愛が重そうですもんね」
「なんてこと言うの!?」
俺がそう言うと二号さんがガーンとショックを受けたような表情になったので思わず笑ってしまった。でも多分、俺の勘は当たってると思う。前にも思ったことだけど、二号さんは過剰に彼氏の浮気を疑って束縛したがる病み病み系女子オーラがあるんだよね。
「この子はね~、可愛らしいし女の子女の子してるんだけど……ちょっと理想が高過ぎて思い込みが激しいというか……」
「そんなこと言わなくていいじゃん!」
「そういうのを全部受け入れられる心の広い度量のある男がいればいいんだけど……」
「あえて束縛されたい系のM気質な男と付き合うとか」
「この子が変な性癖に目覚めたらどうするの!?」
一号さんにツッコまれる。まあ、大学生だったら包容力のある優しい男の人だっているでしょうから、がんばって探してください。
「一号さんはどうなんです?」
「私? 私はこんな感じのサバサバしてちょっとキツ目な性格でしょ? だからあんまり縁がないのよね」
なるほど、星歌さんタイプか。美人なのにもったいない。
「そーゆーレンくんはどうなの? ま、まままままままさか……か、かのかのかのかの、彼女を連れてきたりしてないよね!?」
「なんで俺が浮気してるみたいな言い方なんですか!?」
二号さんが縋るように俺の服を掴んで上目遣いで問い詰めてくる。その反応おかしくない? もしかして二号さんって俺のこと好きなんじゃ……アホくさ。この反応だけで自惚れるほど俺は馬鹿じゃない。多分、二号さんは盛大に勘違いして空回りしてるんだと思う。
「彼女がいたらさすがにここには連れてきませんよ。姉貴がいるバンドとはいえ、可愛い同級生や幼馴染がいるガールズバンドですからね」
クリスマスに彼女を連れて可愛い女の子だらけのガールズバンドを応援する。……うん、少なくとも彼女はいい気持ちじゃないだろうね。お互いファンならともかく。
「そ、そうだよね~よかった~」
何がよかったなんですか、何が? そういう反応、勘違いする男は本当に勘違いするんでやめた方がいいですよ。
「この子が勝手に言ってるだけだから気にしなくていいわ」
「そっすね」
そのまま三人で雑談していると、どんどん人が増えてくる。見知った顔もちらほら。すごいな新宿FOLT。クリスマスイブなのに大盛況……いや、イブだからかな。
「反抗期のやまだー!」
「……佐々木ィ!」
「ほんとに反抗してきた。ウケる」
佐々木さんと五組の女子軍団もやってきた。なんで俺が反抗期をやらされてたって知ってんの?
……喜多さんだな。俺の個人情報はもう駄々漏れ。
佐々木さんはそのままけらけら笑いながらクラスメイト達と一緒に前の方へ移動していった。あんまり前に行き過ぎると廣井さんに酷い目に遭わされるよ。……前に忠告したことがあったし、大丈夫か。
もし大丈夫じゃなくてもそれは俺の責任じゃないしな!
そんなことを考えていると、ダボダボのピンクパーカーを着ているちっこい女の子がぴょんぴょん飛び跳ねたり、背伸びをしながらがんばって前の方を見ようと奮闘している様子が見えた。なんやあの可愛い生き物。
「やみさーん、こんばんはー」
「あぁ? って、山田じゃない! いいところに来たわね! もっと前の方で観たいからあたしの盾になって道を切り開きなさい!」
「出会い頭に人使い荒いですね。言っておきますけど、今日の俺は反抗期なんですよ」
「ほーん? あんたの反抗期とか、どうせ大したことない───」
「おい、佐藤ォ! 本当は二十三歳の佐藤ォ!」
「ぎゃー!? 実年齢を叫ぶな! いいから来なさいっ! あたしの盾になるのよ!」
「……日本酒をぶっかけられた悪夢をもう忘れたんですか?」
「そのためのあんたでしょ?」
「この女ひでえ」
「うっさい。さっさと行くの」
そう言ってやみさんは俺の背中をぐいぐい押して俺を盾のように扱う。ほどほどに後ろの方で平和に観ようと思ってたんだけどな……しゃーない。やみさんに付き合ってあげよう。文化祭で騙してメイドをやらせたお詫びだ。
「一号さん、二号さん。楽しんでいってくださいね~」
「あ、うん……」
俺がやみさんに背中を押されながら二人に手を振ると、二人は怪訝な表情を浮かべながら手を振り返してくれた。
「……レンくんって変な女の子の知り合いが多いよね」
「……そうね」
結局そのまま俺とやみさんは前の方でライブを観ることになりました。
で、ライブ自体がどうなったかというと……
結束バンドとSIDEROSが良い感じに盛り上げて最後に廣井きくり劇場があったというお決まりのオチでした。
めりーくりすます。
あと、やみさんは今回は無事だったよ。俺がちゃんと守って()あげたから。