「それではこれよりクリスマスライブの打ち上げ兼、伊地知星歌店長の生誕三十周年記念パーティーを始めまーす! 司会進行は私、喜多と虹夏先輩でーす! みんなー! 盛り上がっていこうねー!」
「まずはお姉ちゃんの偉大なる三十年の歴史に乾杯!」
「お前ら祝うと見せかけていじめてんだろ!?」
クリスマスライブを無事に終え、結束バンド、SIDEROS、SICKHACKと星歌さん、吉田店長+俺の総勢十四名はパーティー会場として借りていた広めのレンタルルームへとやってくる。
開幕早々喜多さんと虹夏ちゃんの毒が炸裂するも、二人とも別に悪気はなくて純粋に星歌さんをお祝いしたいって思ってるだけなんだよね。
そして、普段はライブが終わると荒れまくっている志麻さんは今回も案の定荒れそうになってたんだけど……
「志麻師匠! 打ち上げに参加してください!」
「美味しいもの食べてお酒飲んで、嫌なことは忘れましょう!」
「……二人がそこまで言うなら」
俺と虹夏ちゃんのおねだり攻撃で新宿FOLTの荒ぶる神を見事に沈めることに成功したんだ。イライザさんは俺達が原稿を手伝ったおかげで、もう印刷まで済ませちゃったらしい。
「で、ライブはどうだったんだよ?」
「二回目だったし、結束バンド目当てのお客さんも来てくれたから結構盛り上がったよ」
虹夏ちゃんの言う通り、トゥイッターで早めに告知したり学校の友達に声をかけていたから思った以上に盛り上がったんだよね。あと、純粋に結束バンドの実力が伸びているからSICKHACKやSIDEROS目的のお客さんの反応もよかったんだ。
「……あなた達の実力を考えたら、あのくらいは当然でしょう? いえ、文化祭の時よりもずっとよくなっていたのだからむしろもっと会場を盛り上げるべきだったわ」
「お、大槻さんが私達を高評価してくれたわ!」
「デレ槻さんだ!」
「う、うっさい! 誰がデレ槻よ!」
大槻先輩が俺の向かい側で顔を赤くして叫ぶ。テーブルの配置は虹夏ちゃん、喜多さん、SIDEROSお子様組の陽キャテーブル、星歌さん、吉田店長、SICKHACKのみなさんのアダルトテーブル、そして俺、ひとり、姉貴、大槻先輩の陰キャ要介護テーブルに分かれていた。
「デレコ、そっちのポテト取って」
「それくらい自分で取りなさい!!」
そう言いながらも先輩は姉貴にポテトを取ってあげている。ぎゃあぎゃあ言いながらも先輩ってなんだかんだ面倒見良いですよね。
「
「あ、ありがとうございます……」
「ん゛ん゛ん゛ん゛ぅっ!?」
「どうしたんですか先輩、ヒキガエルの断末魔みたいな声出して?」
「便秘?」
姉貴が下品なことを言い出したので頭をひっぱたいておく。ご飯を食べてる時にそんなこと言うなアホ!
「い、いえ……なんでもないわ。き、気にしないでちょうだい……(私の聞き間違いよね? そ、そうよね……)」
「れ、
「うん。ありがとう、
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ぅっ!!?? (聞き間違いじゃない!! 聞き間違いじゃないわ!! こ、ここここの二人……な、ななななななな名前で呼びあって……!?)」
「ほんとどうしたんですか先輩!? ……さては姉貴、先輩の飲み物にタバスコ入れたろ?」
「何かあるとすぐに私を疑う。レン、私の曇りなき
「曇りしかねえなあ」
なぜか大槻先輩が俺とひとりを交互に見ながらとんでもない奇声を発している。ほんとにどうしたんですか? 姉貴が飲み物とか食べ物に変な物混ぜたりしてたんだったらシバいておきますんで。
「いや、その……そういうのじゃないんだけど……」
「ならいいですけど……こっちのピザ食べます?」
「あ、ありがとう。いただくわ」
なんかぎこちないな。先輩って思うところがあったらすぐに口に出すのに……もしかして、周りに気を遣って何でもかんでもすぐ口に出さないように努めているとか。先輩……成長しましたね。
「なんでそんな感動したような表情をしてるのよ!?」
「先輩……人は変われるんです」
「いきなり何!?」
「そうだヨヨ槻。人間は成長する生き物なんだ」
「ヨヨ槻って私のこと!?」
「姉貴はもっと成長しろ」
こんな感じで陰キャテーブルも意外と盛り上がっていました。結局、先輩が何を思っていたのかはよくわからなかったけど、あとで二人になった時にでもこっそり聞いてみよう。
「じゃあ今から店長へのプレゼント授与式……に移る前にみんなでクリスマスのコスプレをしようと思いまーす!」
みんなで楽しくおしゃべりしながら料理を食べていると、不意に喜多さんがそんなことを言い出した。クリスマスのコスプレか……いいんじゃない? みんな可愛いし、目の保養になると思う。
「こんなこともあろうかと!! サンタのコスプレグッズをたくさん買い込んできました!!」
「喜多ちゃんの大荷物の中身はそれだったんだね」
なぜか一人だけでかいキャリーケースを持ってきてると思ってたら、そんなもん入れてたのか。
「私も自前のコスプレグッズがあるヨ~!」
「さすがですイライザさん! さあ、志麻さんも私達と一緒にサンタさんになりましょう!」
「そ、そんな短いスカートを履けっていうのか!?」
「いいじゃん志麻~。やりなよ~。似合うと思うよ~」
「だったら廣井、お前もやれ!!」
「わ、私はほら……ゲロ吐いて汚しちゃうといけないから」
志麻さんは駄々をこねていたけど、最終的に吉田店長の「店長命令」および星歌さんの「主賓命令」に逆らえず、渋々ミニスカサンタの衣装を受け取っていた。
「虹夏先輩には渡したから……あとはリョウ先輩と───」
喜多さんがキタキタオーラ全開で俺達がいる陰キャテーブルを見てくる。そして、喜多さんに呼応するようにSIDEROSのお子様組もキラキラした表情で俺達を見てきた。
(あ、あくび達のあの表情はヤバい……ぜ、絶対に私にサンタのコスプレをさせる気ね!?)
(き、喜多ちゃんのあの表情はヤバい……ぜ、絶対に私にサンタのコスプレをさせる気だ!?)
ぼっちコンビが恐れと驚愕が入り混じった表情で喜多さん達を見ている。君達仲良しだね。
「ふっ、甘いな郁代。私はこうなることを見越して事前にトナカイの衣装を持ってきている」
そう言って姉貴はどこからともなくトナカイのコスプレ衣装を取り出した。……それ今どこから出した?
「それなら───ひとりちゃんと大槻さん! 一緒にサンタさんになりましょう!」
「い、嫌だっ!」
「い、嫌よっ!」
息ぴったりだね。先輩はともかく、ひとりまで抵抗するのは珍しいな。この子って大体本心とは真逆のことを言っちゃって、本当は嫌だけど「はい」って言って受け入れることの方が多かったのに。
「そ、それなら山田……山田も犠牲にしましょう!! 山田も私と同じ格好がいいわよね!?」
「あ、それは反対です(れ、レンくんにこんなミニスカを履かせる!? つまりレンくんの生足が大槻さんに惜しげもなく披露されてしまうわけで……しかも大槻さんもミニスカサンタさんになるわけで……『山田、クリスマスプレゼントは私よ』『せ、先輩……』みたいな展開に───ぐわああああああああああっっ!! だめだめだめだめだめ!! 阻止しなければ!! それだけは絶対に阻止しなければ!!)」
「なんで急に裏切るの!?」
ひとりが全力で俺を庇ってくれる。それは嬉しいんだけど……多分変なことを考えているというか、勘違いしてるよね? いや、ここはひとりが俺を庇ってくれたという事実だけを噛み締めておこう。
「サンタの衣装はあと二人分なんですよ。レンくんにはこっちのフライドチキンの被り物を使ってもらう予定で……」
「わ、私もそっちがいいわ!!」
「わ、私もそっちがいいです!!」
「フライドチキン大人気ね!?」
よくそんな被り物見つけたな喜多さん。俺は別にフライドチキンを被るのはいいんだけど、デカすぎて隣に座る人の邪魔になるんじゃない?
で、結局駄々をこねていたひとりと大槻先輩は喜多さんとSIDEROSお子様組に連行されて、着替えのために一旦レンタルルームの外へ出ていくことになるのだった。
「レン、背中のチャック閉じて」
「ほいほい」
「そのフライドチキン、似合ってる……ぷぷっ」
「頭が地味に重たいんだよな」
姉貴がからかうように笑っているので、俺は頭をぶんぶん振ってフライドチキンで姉貴を攻撃する。
「レン、写真撮ろう。二人で」
「トナカイとフライドチキン。肉屋の宣伝かな?」
というわけで、姉貴と仲良く写真撮影。……絵面がシュール過ぎる。まあでも、姉貴が嬉しそうだからいいか。
「あ、そういや廣井さん。健康診断の結果、どうだったんですか?」
「お前、そんなもん受けてたのか?」
レンタルルームに残っているのは俺と姉貴、吉田店長と星歌さんと廣井さんの五人だけだったので、廣井さんに話を振ってみる。何気に気になってたんだよな。
「山田少年……私は、数字では測れない女なんだ」
「悪かったんすね」
「そうやってなんでもかんでもマイナス方向にもっていくのは日本人の悪い癖だよ。そう……肝臓の数値が高いことは個性なんだ! この多様性の時代に個性を潰すような学校教育をするから子供達の自主性が失われて……」
「今日はもうお酒没収です」
「しょ、しょんな~!?」
わけのわからん理屈をこねくり回していた廣井さんから酒瓶を取り上げて代わりに白湯を与える。
「銀ちゃん! これはもう新手のアルハラだよ! お酒を飲みたいのに無理やりお酒を取り上げるという逆アルハラだ! 山田少年、この時代にそんなことをするとすぐにSNSで炎上して……」
「山田ちゃん、ご実家は病院だったわよね? アルコール依存症に強いお医者さんの知り合いっていないかしら?」
「父さんと母さんに聞いてみます」
「廣井包囲網が敷かれている!? 先輩、先輩!! 助けてください!! あなたの可愛い後輩であるきくりちゃんの大事なものが奪われようとしてますよ!?」
「奪われてしまえ」
「ちくしょー、味方がいねー!? こうなったらヤケ酒……」
「はい。白湯です」
「……おばあちゃんになった気分」
「廣井、今の飲酒量だとおばあちゃんになる前に死んじゃうわよ?」
吉田店長の言葉に俺は激しく頷く。別に一生酒断ちしろとは言ってないんですから。日々の飲酒量を減らして肝臓の数値が正常の範囲内でお酒を楽しめばいいんですよ。
「大体、昔はそんなんじゃなかったろ? 素面のお前は心配性でコミュ障で可愛げがあったのに……」
「……店長がぼっちを可愛がる理由がわかった」
「なっ!? ばっ、ち、違えよ!! ぼ、ぼっちちゃんは関係ないだろ!?」
「星歌さん……」
「おい、レン! お前もそんな目で見るな! というか、リョウはともかくレンにそんな目で見られる筋合いはないだろ!? お前もぼっちちゃんのことは散々可愛がってるだろうが!!」
「店長は三十歳なのにぼっちに対して童貞臭いムーブをかましてるのが犯罪チック」
「え……先輩、そんなことしてんすか?」
「は、はぁ!? そんなわけねえだろ!! ぼっちちゃんは人付き合いが苦手で内気なか弱い女の子だからバイト中や練習中に大きな負担がかかってないか特に気を配ってるだけでだな……」
「その結果、店長のスマホにはぼっちの盗撮動画や写真がいっぱい」
「星歌ちゃん……」
「吉田店長もそんな目で見ないでください! おい、私が主賓だよな!? なんで主賓がこんな扱いになってんだ!?」
コスプレ組が戻ってくるまでアダルト組と仲良くトークをしていました。
「いやー、志麻さんのこういう恰好って初めて見ましたけど、すごく似合ってますね!」
「レンもそう思うでしょー? 志麻はスカートなんて履かないから普段のギャップもあってさらに可愛く見えるよネ~!」
「は、恥ずかしいからあんまり見ないでくれるかな」
「志麻のスカート姿なんて相当なレアよ。ご利益がありそうね」
「ありがたやありがたや……」
「廣井、拝むな!!」
最初に登場したのは志麻さんだった。普段はカッコ綺麗系の頼れるお姉さんな雰囲気だけど、こういう甘い恰好をするとこう……ぐっとくるものがあるよね。
「この志麻さんの写真……ファンに高く売れそう」
「やめとけ」
姉貴は姉貴で目を和同開珎にさせながら志麻さんをこっそり盗撮している。高く売れるかもしんないけど、暴動がおこるぞ。
「レーン! 私はどう? 可愛い?」
「もちろん。いつも以上に可愛いですよ」
「えへへ~。ありがとー!」
イライザさんはスカートの裾をちょっと持ち上げながら首をかしげてあざとく尋ねてくる。虹夏ちゃんといい、星歌さんといい「金髪はあざとい」っていう法則でもあるのかな。
その後、イライザさんと恥ずかしがっていた志麻さんと写真を撮ったんだけど「フライドチキンが邪魔!」って言われちゃったんだ。確かに、このコスプレは写真を撮るのには向いてないな。
「レンさん、ウチらも一緒に写真撮りましょうよ」
「あれ? あくびちゃん達はコスプレしないの?」
「足りなかったから帽子だけっす。ぼっちさんとヨヨコ先輩は着替えたんすけど、恥ずかしがってトイレに引きこもっちゃって」
「虹夏さんと喜多ちゃんががんばって引っ張り出そうとしてるとこだよ~」
SIDEROSお子様組はサンタ帽を被るだけだった。それでも十分可愛らしかったので、姉貴も入れて五人で一緒に写真を撮ることにする。
「山田さん、頭が邪魔です~」
「レンくん邪魔~!」
「レンさん、頭のそれもうちょっとどうにかなんないすか?」
「文句は喜多郁代までお願いします」
フライドチキンのコスプレはネタ的には好評だったけど、写真撮影になると大不評だった。しかもこれそこそこ重いうえに暑いんだよね。頭が蒸れて禿げそう。
「ほらぼっちちゃん! いい加減観念しなさい!」
「大槻さんも! すごく可愛いんだからみんなに見てもらわなきゃ損ですよ!」
「ま、待ってください……心の準備が……あと三十分くらい……」
「わ、私ならあと二十分で心の準備ができるわ……!」
「変なところでぼっちちゃんに対抗してる!?」
SIDEROSお子様組と一緒に志麻さんをべた褒めして赤面させつつ雑談していると、ようやくひとりと大槻先輩がやってくる。やってくるというより、虹夏ちゃんと喜多さんに引きずられてるな。
「あの二人を見てると『散歩でそっちには行きたくないって駄々をこねる犬』を思い出す」
「ウチには『おもちゃ売り場から動きたくない五歳児』に見えますね」
あくびちゃんとそんなことを話していると周りもうんうんと頷いていた。二人とも可愛いのにこういうところ……というか自分の容姿には全然自信を持ってないんだよな。
でも、ひとりはひとりで自分のファッションセンスやお笑いのセンスに自信を持ってて、大槻先輩は大槻先輩で自分の動画ネタセンスに自信を持ってて……
この二人ってやっぱり似た者同士だよね。
「おー! ぼっちちゃんも大槻ちゃんも可愛いじゃ~ん! ねえ、先輩!」
「あ、ああ……そう、だな……(ぼっちちゃんがサンタのコスプレ! ぼっちちゃんがサンタのコスプレ! しゃ、写真撮りたい! で、でもさっき盗撮疑惑が浮かび上がったばかりだし……おい、レン! なんとかしろ!)」
星歌さんが強烈な視線で俺に何かを訴えてくる。いや大体想像つくけどね。というかさ、そんなそわそわしないでくださいよ。ほんとに男子中学生みたいな反応しちゃってまあ……
でも、今日は星歌さんの誕生日だから望みを叶えてあげますか。
「せっかくだからみんなで写真撮りましょうよ。とりあえずお誕生日の星歌さんと……虹夏ちゃんは真ん中。で、星歌さんの隣にひとり、虹夏ちゃんの隣に大槻先輩に入ってもらって……」
「しゅ、集合写真とか、ガラじゃないけど……せ、せっかくの誕生日だからな! (っしゃあ! ナイス! レン、ナイス! 来年のお年玉弾んでやるからな!)」
星歌さんは口を開くとボロが出るから黙っててほしい。俺のフォローが台無しになっちゃいますよ?
「わ、わた……私も真ん中ですか!? (て、店長さんの隣……怖いっ!!)」
「わ、わわわわ私みたいなのは後ろの端っこの方で十分よ!」
「……喜多さん、あくびちゃん、ごー!」
「任せて!」
「りょうかいっす」
俺が指令を出すと、二人は迅速な動きでひとりと大槻先輩を確保して星歌さんの隣へ連れて行く。ごめんね二人とも。無理矢理ってあんまり好きじゃないんだけど、誕生日くらいは星歌さんのお願いを叶えてあげたいんだ。
「前列はちょっとしゃがんでくださいね~。ただ、サンタ組はスカートが短いから気を付けて。後列は前列の間から顔を出すように……おっけー、良い感じですよー!」
みんな素直に俺の言うことに従ってくれる。こらこら星歌さん、顔のニヤケが隠しきれてないから。もうちょっとまともな笑顔を……無理ですね。はい。
星歌さんの表情は諦めて、俺は持ってきておいた三脚にスマホを取り付ける。
「レンズはここですからねー?」
変なところを見ないように。特にひとりと大槻先輩。俺は特定の人物に忠告しつつ、スマホの位置を整えてタイマーをセット。そして俺も後列の端へと移動する。……フライドチキンが邪魔だからね。ここにしか入れないんだ。
そして写真撮影も無事に終えて、みんなのロインに写真を送信。星歌さんは爆速で保存していた。……そういうところですよ?
「おっぱいミニスカサンタ。ぼっちはどこまでえっちになれば気が済むのか」
「え、ええええっち!? わ、私はえっちなんかじゃありませんっ……!! ほ、ほんとにえっちなのは……」
「ちょっと後藤ひとり!! どうしてそこで私を見るの!?」
「うぼえぁ!? み、見てません! じぇ、じぇんじぇん見てましぇんよ~?」
「嘘つくのが下手ねこの子!?」
「確かに大槻ヨヨコの生足はえっち。『乳の後藤』『腿の大槻』とえっちの差別化ができている。あとは『尻担当』がいれば完璧」
「山田ァ!! なんとかしなさい!! あなたのお姉さんでしょ!?」
姉貴が暴走しているので止めに入る。でも……ひとりや先輩には悪いけど、姉貴が言うことに共感できちゃうんだよね。二人ともすごく可愛いしスタイルが良いから……それに、俺だって一応男だからね?
二人にそういう視線を向けないように努めてはいるけど、そう
「せっかくだから二人の写真を撮ってあげますよ。ほら、並んで並んで」
「お、大槻さんと……!?」
「何? 嫌なの?」
「あ、いえ……(怖い)」
「十代最高峰ギタリストの夢の共演なんですから。このツーショットを伝説の一ページにしましょう」
「で、伝説の一ページ……ふへへ」
「じゅ、十代最高峰ギタリスト……えへへ」
俺の言葉に二人ともだらしない笑顔を浮かべる。ほんとによく似てるなこの二人。伝説の一ページはともかく、十代最高峰ギタリストっていうのはお世辞でも何でもないですからね。
ただ、撮った写真は二人ともぎこちない表情だったから証明写真みたいになっちゃったけど。
それはそれでこの二人らしくていいな。
「(表情はともかく)やっぱり二人ともこういう衣装がすごくよく似合いますね。可愛いですよ」
「あ、ありがとうごじゃいましゅ……(か、可愛いって言われちゃった……ふへ、ふへへ……)」
「あ、ありがとう。あなたもその衣装、似合って……? 似合ってるわよ……?」
大槻先輩、無理に褒めなくていいっす。というか、いい加減暑いからそろそろ脱ぎたいな。
「レンくん、ひとりちゃん! 写真撮ってあげるわ!」
「喜多さん、頭のこれ取っていい?」
「ダメよ」
なんで!?
「あ、でも頭の部分が邪魔でツーショットには向かないわね……そうだわ! ひとりちゃん、ちょっとしゃがんでレンくんの腕に抱き着くように───」
「む、むむむむむむむむむむむむむむむ無理ですぅっ!!」
ひとりが異性に抱き着けるようになるなんて……何年かかるんだよ。あ、海水浴の犬神家と文化祭ダイブはノーカンだからね? あれは事故みたいなもんだから。
で、結局ひとりが少ししゃがむような感じで俺にできるだけ身体を寄せてきたんだけど、ひとりがすごく照れてて……いや、俺も結構恥ずかしかったな。
……ま、まあとにかく! ひとりと無事にツーショットが撮れてよかった。うん!
「あ、大槻先輩。ちょっと相談したいことがあるんですけど」
「相談したいこと?」
「はい。そうなんですよ。あとは、えーっと……吉田てんちょー! 志麻さーん! ちょっといいですかー?」
「どうしたの山田ちゃん?」
「なんだ? 廣井がまた何かやらかしたか?」
違います。今回は有識者のみなさんに相談したいことがあるだけです。
「虹夏ちゃんもちょっといい?」
「うん、いいよー! あ、もしかしてMV製作のこと?」
その通りです。頼りになる有識者三人が揃うこの機会にちょっとMVの撮影について相談したくて集まってもらいました。バンド関係について相談するならこの三人に限る!!
星歌さん? いや、頼りになる時はなるんだけど……
今はほら! 恋する乙女男子中学生状態だし。あと主賓だし。
「実はあたし達、一月からMVの製作に取り掛かろうと思ってるんです。そこで、あたし達より事情に詳しいお三方にお話を伺おうと思いまして……」
「結束バンドちゃん達もとうとうそういうことができるくらいになったのね~」
「うん、実に感慨深いな」
吉田店長と志麻さんは温かい笑顔で頷きながらそう言った。この人達が初めて結束バンドのライブを観たのは今年の七月だから……大体五ヶ月くらいか。長かったような短かったような。
「コンセプトとかそういうものは決まってるの?」
「ううん。どんな内容にするかも全然決まってないんだよ。それについてはメンバーで話し合って決めようと思ってるんだけど……」
「予算が約三十万円。この予算内でなるべく結束バンドの意向を組んでくれるような優良業者がいれば教えていただきたいなと思ってまして……」
大槻先輩の質問に俺と虹夏ちゃんが答える。本来ならこんな場でする話じゃないかもしれないけど、なんだかんだ吉田店長も志麻さんも大槻先輩も忙しい人だから、三人同時に話を聞ける機会って貴重なんだよね。
「三十万円……初めてのMVなら妥当な金額ね」
「そうですね。お金をかけ過ぎても、逆にかけなさ過ぎても満足のいくものはできないですから。ヨヨコ、SIDEROSのMVはどれくらいの費用がかかった?」
「
「あ、ごめん……」
微妙に大槻先輩のトラウマが刺激されてしまう。だ、大丈夫ですって先輩! 今のSIDEROSは過去最高なんでしょ? だったらその最高のメンバーで最高のMVを作ればいいじゃないですか!
「……そうね。負けないわよ結束バンド! 私達の方がすっごいの作ってやるんだから!」
「レンくん。MVに勝ち負けってあるの?」
「えーっと……ほら、再生数とか」
「あ~……大槻さん個人相手なら勝てそうな気がする」
「なんでよ!?」
そらメントスコーラ動画を嬉々として投稿するくらいですからね。あの動画を未だに再生してるのって多分俺くらいですよ?
「話が脱線しちゃったけど、機材や撮影、編集、出演者、衣装も全部お任せでいいのかしら?」
「あ、実は撮影と編集に関しては美大生の知り合いがいまして……その人達にお願いしようかと。カメラもSTARRYに結構いいものがあるので」
美大の知り合いって……もしかして一号さんと二号さん? あの二人ってそっち方面に詳しかったのか。初めて知ったな。
「あら、そうなの? 撮影と編集が自前で用意できるのなら、他のところに予算をかけられるわね」
「だったら私にいくつか心当たりがある。私からの紹介なら色々と融通を利かせられると思うよ」
「ほ、ほんとですか?」
「あたしもいくつか業者を見繕ってあげるわ。結束バンドちゃん達のコンセプトに合いそうなところを選んでちょうだい」
「ありがとうございます!」
「……私もMVは撮ったことあるから、注意点とかアドバイスをまとめておいてあげる」
「ありがとう大槻さん! すごく助かるよ~!」
うまくいきそうでよかった。ほんとにこの三人は頼りになるな。これでMVに関しては業者と内容と決めて打ち合わせして撮影スケジュールを調節して……年が明けても忙しくなりそうだね。
「そういや大槻先輩。SIDEROSはTokyo Music Riseの春大会に出るんですか? 年明けてすぐにウェブ予選が始まりますけど」
「あなた達は出るの?」
「もちろん出るよ! 夏は悔しい思いをしたからね! 次こそは本気でグランプリを獲りに行くんだ!」
「……残念だけど、あなた達がグランプリを獲ることはないわ。私達が勝つんだもの」
「じゃあ、先輩達も?」
「もちろん出るわ! (今決めたけどね)」
まじか! SIDEROSも参戦ってことは……未確認ライオットの前哨戦ってところですね。今日のライブを観る限り、結束バンドとSIDEROSの差は確実に縮まっているけど……それでもまだ彼女達の方が上だ。でも本気で、本気で虹夏ちゃん達は、結束バンドはSIDEROSに勝とうとしている。
ど、どっちも応援している身としては複雑……いや、一番は結束バンドだよ? でも、先輩にもすごくお世話になってるし……両方がんばれ! ヨシ!
「ヨヨコ先輩、相談なしで決めるのはやめてくださいっす」
「そういうところですよ~?」
「だから前の人達もやめちゃったんです~!」
「あ、ごめんなさい……出てもいいですか?」
いきなり大槻先輩の腰が低くなる。いや、先輩の独断だったんかい!?
「まあ、ウチらも出たかったんで何の問題もないんすけどね」
「じゃあなんであんなこと言ったの!?」
「ヨヨコ先輩のその反応が見たくて~」
「可愛かったですよ~。捨てられたわんちゃんみたいで~」
「私本当に尊敬されてるの!?」
これまで何度も思ったことだけど……先輩がこうしてバンドメンバーと仲良くおしゃべりしている姿を見ると、すごく感慨深い気持ちになるんだ。一年前は本当に苦労してましたもんね。
「ヨヨコがウチのメンバーだけじゃなくて、他のバンドとも盛んに交流するようになるなんてねぇ」
「以前までのヨヨコなら考えられませんでしたよ。……ありがとう、山田くん」
「え? 何がですか……?」
なぜかいきなり志麻さんにお礼を言われてしまった。
「ヨヨコのメンバー集めに協力してくれたり、SIDEROSと結束バンドが出会うきっかけ作りをしてくれただろう?」
「あれは先輩にお世話になったからそのお礼であって……それに、都内でバンドを組む以上、遅かれ早かれ結束バンドとは出会っていたと思いますよ」
「だとしても、だ。君がいなかったらこの子達はこういう関係になれなかったかもしれない」
いやいや、それはさすがに俺を買い被り過ぎですって。
「これはバンドに限った話じゃないのだけど、自分達の力だけで成長するのには限界があるのよ。切磋琢磨して、しのぎを削る相手が必要なの。山田ちゃんは結束バンドちゃんがSIDEROSに刺激を受けてすごく成長したと思っているのでしょうけど、SIDEROSだって結束バンドちゃん達にたくさん刺激を受けているのよ」
「君に自覚がなかったのかもしれないが、二つのバンドが成長することになった要因の一つに間違いなく君の存在がある」
全く自覚がなかった、と言えば嘘になる。確かに俺は、結束バンドが成長できるようにできる限りのフォローをしてきたつもりだ。俺には技術的なアドバイスなんてできないから、それ以外の部分に限った話ではあるけど。
だけど、本当に、一番にがんばったのは彼女達自身だ。自分達の実力のなさを認めて、一つの目標に向かってひたむきに努力を続けてきた。その成果が少しずつ、少しずつ花開こうとしている。
「俺は何もしていない」なんて卑下するつもりはない。だけど「俺のおかげで成長した」なんてことを声高に主張できるほど自惚れてもいない。
それでも、それでもだ。
彼女達の成長の一端を担うことができた。
そのことが、たまらなく───嬉しい。
「何泣きそうになってんのよ、山田」
大槻先輩が優しい笑顔と声でそう言う。
待って。ほんとに待って。今の俺、ちょっとの刺激で涙腺が崩壊しちゃうから。
「だって……久しぶりに、本当に久しぶりに真っ当な大人に真っ当に褒められたから」
「あなたの周りには変な大人しかいないのかしら!?」
大槻先輩のツッコミに俺は笑った。泣きそうになった自分を誤魔化すために。そんな俺の心境に虹夏ちゃんは気付いているらしく、優しく笑いながら俺の頭を撫でてくれた。
吉田店長も志麻さんも柔らかい笑顔で俺達を見守ってくれている。
そうか
これが
ここ───
「へいへーい! 山田しょうね~ん! お酒が足りねーぞぉ! きくりお姉さんにお酌しろーい!」
「───古今東西廣井きくりのダメなところ」
「酒癖」
「金遣い」
「すぐ人の家に寄生する」
「顔と歌とベースの腕以外全部」
俺のフリに吉田店長、志麻さん、虹夏ちゃん、星歌さんが順に即答する。さすがの大槻先輩もフォローできなかったらしい。
「あだだだだだだだだっ!!?? 山田少年!! 山田少年!! こめかみぐりぐりはダメだって!?」
「本当に痛いのは俺の心ですよ」
「心無いこと言われたのは私の方だって!!」
廣井さんのおかげで色々雰囲気がぶち壊しになりました。