【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#57 morning glow

「リョウ先輩、レンくん、あけましておめでとうございます!」

「おめ」

「おめでとう」

 

 一月一日早朝、俺は七割寝ている姉貴をおんぶしながら下北沢駅へとやって来る。喜多さんはすでに改札の前で待っており、あとは虹夏ちゃんとひとりを待つだけだ。

 

 なんでこんな早朝に駅に集まっているのかというと、かの有名な「松陰神社」に初詣に行くためだ。元々、結束バンドの四人と俺で初詣に行くことにはなってたんだけど、喜多さんが「どうしても初日の出を見たい!」って言い出したから先に多摩川緑地公園で初日の出を見た後、松陰神社まで戻って来るという新年早々ハードなスケジュールになったんだよね。

 

「みんなー! あけましておめでとー!」

「あ、あけましておめでとうございます……」

 

 喜多さんが姉貴の寝顔をパシャパシャ撮っていると、虹夏ちゃんとひとりがやってくる。今日は早朝から活動することになっていたから、ひとりは虹夏ちゃんの家にお泊りしていた。

 

 ひとりと一緒に年越しできるってことで星歌さんのテンションがおかしなことになってたんだけど、それについては深く追求しないでおこう。

 

「あ、れ、レンくん……あ、あけまして、お、おめでとうごじゃいましゅ……」

「あけましておめでとう、ひとり。今年もよろしくね」

「あ、ははははひ。ふ、不束者ですがどうぞ今年も何卒よろしくお願い申し上げましゅ……」

 

 やたらとひとりが緊張していた。友達と一緒に年越し&初詣なんて人生で初めてだろうから戸惑ってるのかな?

 

「リョウさん……寝てるんですね」

「着替えさせるのに苦労した……」

 

 ひとりは俺の背中で寝ている姉貴を見ながら苦笑する。

 

「あ、レンくん。これ、お姉ちゃんがレンくんにお年玉だって」

「私の分は?」

「あ、リョウが起きた」

 

 ほんとこういう時の反応は誰よりも早いよな。というか、なんで星歌さんが俺にお年玉? 今まで貰ったことなんてなかったんだけど……

 

「よくわかんないけど『レンに渡しとけ』って」

「え? なんかちょっと怖いんだけど……」

「怖いなら私が貰う。そんな曰く付きのお金を大事な弟に使わせるわけにはいかない」

「……出店でみんなに何か買ってあげるよ」

 

 姉貴が手を伸ばして虹夏ちゃんからお年玉袋を奪おうとするも、ニジカブロックに阻まれていた。姉貴のへなちょこな腕力でドラマーに勝てるわけないだろ。っつーか、起きたなら降りろ。

 

「先輩達、早く行きましょう! 初日の出は七時くらいに見れるみたいですよ!」

 

 喜多さんはすでに改札の向こう側に行っていた。行動早いな。心なしかキタキタオーラがいつもの三割増しにも見える。

 

 そして俺達四人も喜多さんに続いて改札を通っていくのだった。

 

 

 

 

 

「寝る。着いたら起こして」

「さっきまで俺の背中で寝てたろ」

 

 電車に乗るなり姉貴は俺の肩を枕にして寝始める。だから昨日さっさと寝ろって言ったのに。年越しカウントダウンやって三時くらいまで大して面白くもない芸人の番組を惰性で見てたからそうなるんだよ。

 

「あ、そういや今日ってイライザさんの誕生日だったな……ロインしとこ」

「お正月が誕生日だなんて縁起がいいのね。私もロインしようっと」

「なんでレンくんがイライザさんの誕生日を知ってるの?」

「昨日の冬コミで教えてもら───冬コミ……冬コミ? 蔓延る悪臭……イライザさんをいやらしい目で見るオタク連中……廣井さんの介護……おえっ……冬であれって夏だとどうなるんだよ……」

「なんかレンくんのトラウマが刺激されちゃった!?」

 

 臭いだけならマスクするなりなんなりで色々対処できたけど……それ以上に苦労したことがあったんだよ。

 

 まず、参加者が俺とイライザさんと廣井さん。でも廣井さんは泥酔状態でも素面でも使い物にならないからほろ酔い状態を常時キープしておかなきゃいけなくて、廣井さんのアルコール管理という名の介護がまず一苦労。

 

 で、次にイライザさん。イライザさんはコスプレしてたんだけど……まあ、彼女の無防備なこと。しかもイライザさんっておっぱい大きくてめちゃくちゃ可愛いからオタク共が群がって写真を撮るんだよね。で、イライザさんもノリが良いから写真撮影くらいなら許してたんだけど……

 

 調子に乗った輩が「あれ? これいけるんじゃね?」と勘違いしてイライザさんに声をかけたりどさくさに紛れて身体に触れようとする事案が多発。礼儀正しいオタク達もたくさんいるのに、一部のマナーの悪いアホ共からイライザさんを守るのに一苦労。

 

 ぶっちゃけ、売り子うんぬんよりお姉様方のお世話の方が疲れたわ。

 

「イライザさんはもうちょっと自分が可愛いことを自覚してください! その恰好でそんなに隙だらけだったら痴漢されても文句言えませんよ?」

「じゃあ、来年もレンが守ってネ?」

「ら、来年も……!?」

「……守ってくれないの?」

 

 俺の来年の年末の予定が決まってしまったみたいです。こんなお願いの仕方されて断れるわけないって。

 

 ちなみに金欠の廣井さんはそのままイライザさんの部屋で年越ししたらしい。

 

「た、大変でしたね……」

「レンくんはがんばったわ。よしよし」

 

 ひとりと喜多さんが俺のことを不憫に思ったのか、優しく頭を撫でてくれた。涙が出そうですよ。

 

 そして電車に揺られること約二十分、和泉多摩川駅へと到着する。

 

「レン、抱っこ」

「せんわ」

「じゃあおんぶ」

「体勢の問題じゃない!」

 

 ついても姉貴は自分の足で歩くつもりはないらしく、五歳児のように俺に甘えてくるけどさすがにもうおんぶはしないよ。

 

 そう思いつつも半分寝ている姉貴の手を引きながら改札を出る。多摩川緑地公園グラウンドまでは歩いて五分くらいか。

 

 初日の出まではまだ少し時間があるので、駅前のコンビニで温かい飲み物を買うことにする。

 

「姉貴、何がいい?」

「これ。ホットミルク仕立てのカルピス」

 

 俺も同じのにするか。

 

 いつも通り姉貴は金を持っていないので俺が代わりに払うことにする。……この感じだとお賽銭も俺が出さなくちゃいけないよな。

 

「レンくんとリョウ先輩って姉弟っていうより親子みたいですね。……レンくんがリョウ先輩のパパってことは私のおじいちゃん?」

「新年早々何言ってんの喜多ちゃん」

「ま、まだリョウさんの娘になるっていう野望を諦めてなかったんですね……」

 

 どうがんばっても喜多さんが姉貴の娘になるのは無理だと思うよ。養子って原則十五歳未満の子供が対象だし。あとは喜多さんパパと姉貴が結婚するっていう方法しか……地獄絵図かな?

 

 

 

 

 

「さ、むいっっっっ!!!!」

 

 玉川緑地公園グラウンドにやって来るも、風を遮るものが何もない吹きさらし状態なので俺を除く四人は自分の体を抱き締めながらブルブル震えていた。俺も寒いっちゃ寒いけど、かなり厚手のダウンジャケットを着てるからある程度は平気。顔は冷たいけどね。 

 

 それにしても、さすがは有名な初日の出スポット。思ったより人が多いな。こんなクソ寒い中ご苦労様です。

 

「レン、寒い。ぎゅってして」

「へいへい」

 

 姉貴ががくがく震えながらそう言ってきたので後ろから抱き締める。すると、そんな俺達を見た喜多さんが声にならない悲鳴を上げていた。

 

「ず、ずるいわよレンくん!! そうやって兄弟の仲の良さを見せつけるのね!! リョウ先輩! 私も温めてあげますっ! 」

「いいよ、おいで」

 

 姉貴がそう言うと喜多さんが姉貴の真正面から思い切り抱き着いてきた。俺と喜多さんで姉貴をサンドイッチ状態に……何だこの状況?

 

「あー、そうやってあたし達を仲間外れにするんだー!」

「虹夏もぼっちとくっつけばいい。ぼっちのおっぱいカイロ……『ぼっぱイロ』が大活躍すること間違いなし」

「ぼ、ぼっぱイロ……!?」

「お前ほんとセクハラだからな!? 訴えられたら負けるからな!?」

 

 俺は姉貴の頭にあごを乗せてカックンカックンさせる。姉貴さ、男の俺がいる前でそういうこと言うのやめろや。俺は平気だけどひとりが一方的に気まずくなるだろーが。

 

「ぼっちちゃーん、温めてー」

「あ、はい。私なんかでよければ……」

 

 虹夏ちゃんがひとりにぎゅーっと抱き着いている。ひとりもひとりで珍しくお姉ちゃんモードに入ったらしく、虹夏ちゃんを抱き締めて優しく頭を撫でていた。

 

「えへへ~、ぼっちちゃん温か~い」

「あ、に、虹夏ちゃんも温かくて良い匂いがします。えへへ……」

 

 なんという尊い空間。それに比べて俺はどうよ? セクハラ姉貴とそんな姉貴の娘になりたいと声高に叫ぶ狂信者……この差は何?

 

「レンくん、何か言いたげね」

「……喜多さんは今日も可愛いね」

「そうやってレンくんが雑に褒める時って、大抵ろくでもないことを考えてる時ね」

「よくおわかりで」

「まだ一年にも満たない付き合いだけど、君のことは結構わかってるつもりよ?」

 

 喜多さんは少し妖艶に笑ってそう言った。こんな状況じゃなくてなおかつ相手が喜多さんじゃなかったらときめいていたかもしれない。

 

「レンはあっちに混ざりたいって思ってる」

「そうなんですか!? ひとりちゃん! レンくんがひとりちゃんに温めてほしいって!」

「あ、あ、あ、あたたたたたたたたたたたたたたたっ!!!???」

「ぼっちちゃんがケンシロウみたいになっちゃった!?」

 

 結局こんな感じで初日の出が出るまで五人でぎゃーぎゃー騒いで寒さを紛らわすのだった。

 

 で、肝心の初日の出は予定通り七時くらいに見えて、雲も全くなくてものすごく綺麗に見えたんだけど……

 

「ひとりちゃんが灰になっちゃったわ!?」

「ドラキュラぼっち。いや、北斗の拳からあしたのジョーに鞍替えか……」

 

 あまりの神々しさにひとりが灰になっちゃったんだ。もうね、この子がどうなろうと俺は驚かないよ。

 

「レンくん」

 

 俺が初日の出の写真を撮っていると、虹夏ちゃんがジャケットの袖をくいくいと引っ張ってきた。どーしたの?

 

「ちょっとしゃがんで」

「なんで?」

「いーからっ!」

 

 よくわかんないけど言う通りにちょっとしゃがんで虹夏ちゃんと目線を合わせる。すると、虹夏ちゃんは満面の笑みを浮かべてほっぺたがくっつくくらい顔を俺に寄せてきた。

 

「はい、撮るよー!」

 

 そして虹夏ちゃんが初日の出をバックにスマホでパシャリ。なるほど、俺とツーショットを撮りたかったんだね。

 

「えへへ。良い写真が撮れた~。ありがとね、レンくん!」

「どういたしまして」

 

 虹夏ちゃんが喜んでくれたようで何より。天真爛漫という言葉がぴったりな笑顔を浮かべている虹夏ちゃんの頭を撫でると、嬉しそうにアホ毛をぶんぶん揺らしていた。

 

 かと思ったら、虹夏ちゃんは不意に俺の耳元に唇を寄せて……

 

「今年もよろしくね」

 

 と、甘い声で囁いてくる。こらっ! どこでそんなあざといの覚えてきたっ!

 

 俺がそう言うと虹夏ちゃんは悪戯っぽく笑ってペロッと舌を出す。あら可愛い。……これは本気で虹夏ちゃんのクラスの男子に同情するよ。クラスにこんな子がいたら絶対好きになっちゃうじゃん。

 

「レン、虹夏、へるぷ。郁代が鬱になった」

 

 俺と虹夏ちゃんがじゃれ合っていると、姉貴が突然意味の分からないことを言ってくるので姉貴達がいた方に視線を向ける。すると、なぜかどんよりとした表情で体育座りをしている喜多さんがいた。……なんで?

 

「灰になったぼっちを吸い込んだらこんなになった」

「……あっ! そういえばひとりの家に行った時も同じ現象が……」

「なんでリョウは平気なの?」

「私にはこんなもん効かん!」

「……リョウだもんね」

 

 すっかり忘れてた。粉末になったひとりを吸い込んだら極度のマイナス思考に陥るんだった。でも、これって正直対処の仕様がなくて、時間経過で元に戻るのを待つしかないんだよね。

 

「あれ、そういえばひとり(灰)は?」

「これ以上被害が拡大するといけないからコンビニの袋に詰め込んだ」

 

 そう言って姉貴は灰になったひとりが入った袋を見せてくる。……うん、そうだよね。姉貴は正しい、正しいよ。そうするしか方法がなかったもんな。下手に拡散したらどうなるかわかったものじゃないし。

 

「偉い?」

「うん、今回ばかりは偉いよ」

「むふー」

 

 俺が褒めると姉貴は満足そうな笑顔になる。女子高生を袋に詰め込むって字面が狂気的なことには目を瞑ろう。……それがいい。

 

「喜多さーん、大丈夫?」

「あ、レンくん……私なんかに優しくしなくていいです。私なんて所詮、可愛くて歌がちょっと上手くてクラスで人気者なだけの女なので……」

「それほんとに落ち込んでんの?」

 

 結局、十分くらいで喜多さんとひとりが復活したので、その後に全員で初日の出をバックに記念撮影をしました。逆光だったからちょっと暗いけど、その辺はご愛敬だし喜多さんの加工でどうにでもなるでしょう。

 

「初日の出も見たし解散! ヨシ!」

「今から初詣だよっ!」

 

 そして、帰ろうとする姉貴の発言に虹夏ちゃんが盛大にツッコむのだった。

 

 

 

 

 

「思ったより空いてますね。もっと混んでるかと思いました」

 

 電車と徒歩で四十分ほどかけて松陰神社までやって来る。時刻は午前八時過ぎ。喜多さんが言った通り、参拝の列はあるものの、とんでもなく長蛇の列というわけでもなく少し待てば参拝できるくらいだった。

 

「レン、出店がある!」

「参拝が終わったらな。星歌さんからもらったお年玉で買ってやるから」

 

 めざとく出店を見つけた姉貴がふらふら歩いていきそうだったので、首根っこを掴んでおく。「眠い」だの「帰りたい」だの言ってたくせに急に元気になりやがって。

 

「ぼっちちゃん大丈夫?」

「ひ、人が多くて……よ、酔いそう……」

 

 ひとりはひとりで灰から復活しても相変わらずだった。人酔いして顔色を悪くしていたから虹夏ちゃんに支えられながら歩いている。

 

 そしてしばらくひとりを介護したり姉貴が勝手にどこかに行かないように捕まえておきながら喜多さんや虹夏ちゃんと話していると、俺達が参拝する順番が回ってくる。思ったより早かったな。お昼を回るともっと人が増えてくるだろうけど。

 

「レン、お賽銭」

「ほらよ」

(りょ、リョウさん……五円も持ってないって、どれだけ追い詰められてるんだろう……)

 

 お賽銭を入れて、鐘を鳴らし、二礼二拍手一礼。初詣って確か、お願い事だけするんじゃダメだったんだよな。神様に去年一年間の感謝をしないといけなかったはず……

 

(売れてバイト辞める売れてバイト辞める売れてバイト辞める売れてバイト辞める売れてバイト辞める売れてバイト辞める!!!!!)

 

 ひとりがものすごく熱心に拝んでいたけど……表情を見る限りバイトを辞めたいとかそんなことを考えてそうだな。

 

「みんなは何をお願いしたの?」

 

 参拝が終わった後に虹夏ちゃんがみんなに尋ねる。え? それ聞いちゃうの? 虹夏ちゃん以外まともなお願いしてないと思うよ?

 

「姉貴に自立心が芽生えますように」

「レンがこれからも甘やかしてくれますように」

「イソスタフォロワー五万人!」

「あ……世界平和……」

「バンド活動関係ねえ!?」

 

 虹夏ちゃんが盛大にツッコんだ。というか姉貴、俺と正反対のこと願ってんな? この場合ってどっちの願いが優先されるんだろ。日頃の行いから考えたら間違いなく俺だろうだけど。

 

「なんで誰も結束バンドの未来についてお願いしてないの!?」

「……虹夏、そういうのは神様に祈るんじゃない。自分達の力で夢を叶えるんだ!」

「リョウ先輩の言う通りです! 私達には神様の力なんて必要ありません! ね、ひとりちゃん」

「あっはい(ほんとはバイト辞めたいってお願いしてたなんて絶対言えない!! あ、でも売れたいともお願いしてたから結果的にバンドの将来についてお願いしてることになるんじゃ……)」

「こういう時だけ無駄な結束力!!」

 

 仲良いね君達。というか、マジで誰もバンド関係のお願いをしてないのはびっくりだわ。姉貴もなんかすげー良いこと言ってる感出してるけど正直胡散臭い。絶対自分の欲望を優先させただけだろ。

 

「虹夏ちゃんは何をお願いしたの?」

「あ、あたしは……その……な、なんでもいいじゃんっ!」

「これは虹夏もバンドのことをお願いしてない気配」

「なぁんだ。虹夏先輩も所詮私達と同じ穴の狢ですね!」

「所詮とか言うなぁ!! あたしは『このままずっとみんなと一緒に走り続けられますように』ってお願いを……あっ……」

 

 虹夏ちゃんの言葉に姉貴は不敵に笑い、ひとりは目を丸くして、喜多さんは虹夏ちゃんに抱き着いていた。

 

「虹夏先輩……虹夏先輩ったらそんなに私達のことを……!! 私、もっともっとギターも歌も上手くなります!! 今まで家に帰ってからSNS三時間くらいやってましたけど二時間半に減らします!!」

「それはもっと減らせ!!」

 

 SNS三時間って何すんの!? これが現代の悲しきSNS中毒者……喜多さんからスマホを取り上げたら一日経たずに発狂するかもしれない。

 

「レン、あっちにおみくじがある。引きたい」

 

 喜多さんを呆れた表情で見ていると、姉貴が俺のジャケットの袖をくいくい引っ張りながらそう言った。姉貴が指差した先には社務所があっておみくじやらお守りやら絵馬やら売っている。せっかくだし、やっていくか。あと、虹夏ちゃんに学業のお守りも買ってあげよう。もうすぐ受験生だし。

 

 姉貴はどうせ大学進学なんてしないから必要ないな。

 

 ということで、みんなで社務所に向かいます。

 

「ふっふっふ。見ろ、これが私の本気。私レベルになれば大吉が自ら手の中に飛び込んでくるんだ」

「露骨に調子に乗ってやがる……」

 

 姉貴は大吉と書かれたおみくじを見せびらかしてくる。言っておくけど、それも俺の金で買ったからな? 

 

「き、吉!? こんなのじゃイソスタに上げられないわ!! すみません、もう一回お願いします!!」

「おみくじリセマラ!?」

 

 喜多さんは喜多さんでご利益とかガン無視で映えしか意識してないし。

 

「……あたしは小吉かぁ」

「ぷっ。中途半端なくじ運。虹夏らしい」

「うっさい!」

 

 虹夏ちゃんって昔からくじ運は微妙だからな……

 

 あとは俺とひとりか。そう思ってひとりに視線を向けると、ひとりはおみくじを見て絶望した表情で口をパクパクとさせていた。

 

 あー……凶を引いちゃったかぁ。

 

「ひとりちゃん、どうだった?」

「だ、大凶……です」

 

 おみくじリセマラでUR大吉を引き当てた喜多さんが声をかけると、ひとりは口から魂を吐き出しながら答える。すごいな、大凶なんて初めて見た。

 

「さすがぼっち、持ってる。文句なしの最高レア」

「ぼ、ぼっちちゃん! そんなに気にしなくていいからね! ほら、その……所詮紙切れだから!」

「そ、そうよ。こんな紙切れ程度でひとりちゃんの運命が決まるはずがないわ!」

 

 虹夏ちゃんと喜多さん、フォローのつもりかもしれないけどものすごく罰当たりな発言だからね。

 

 そうは言ってもショックはショックらしく、いつもの猫背がさらに丸まって見えた。……仕方ない。

 

「これは俺が貰うよ。ひとりのくじはそっちね」

「あ……え……?」

 

 俺はそう言ってひとりの手から大凶のおみくじを取って、まだ開けていない俺のおみくじを渡す。渡されたひとりは間の抜けた表情でおみくじと俺の顔を交互に見比べていた。

 

「ほら、開けてみて。喜多さんはリセマラしてたんだからこれくらい許されるよ」

「あ、は、はい……あ、ありがとうございますっ」

 

 ひとりの表情が明るくなる。まあ、さすがに大凶より悪いことにはならんでしょ。

 

「……あ」

 

 ひとりがちょっと驚いたような声を出したのでみんなでおみくじをのぞき込むと、そこに書かれてあったのは「大凶」という文字だった。嘘やん。

 

「だ、大凶です……」

「二連続大凶……ぼっちちゃん。逆にこれは縁起がいいんじゃないかな」

「ぷぷっ。あれだけ格好つけてぼっちとおみくじを交換したのに『大凶』を引くとか……レンは()()()()()ね」

「やかましいわ」

 

 二連続大凶ってどんな確率だよ。うっすいところを引いたな。

 

「ひとりちゃん、レンくん。せっかくだから記念撮影しましょ。大凶カップルなんてバズること間違いなしだわ!」

「せめて顔は隠してね」

「あ、えへへ……(カップルだって。大凶なのは残念だったけどレンくんと同じ……)」

 

 その後、ひとりと二人で写真を撮っておみくじを結んでいるとスマホにロインが入った。

 

 佐々木さんからだ。

 

───あけおめ。初笑いありがとう大凶コンビ

 

 早速喜多さんが佐々木さんに写真を送ったらしい。その文面を見て俺は「なかやま〇んに君」の音声付スタンプを十連続で送り付けることにする。きんに君の「やー!」と共に新年の朝を迎えるがいい佐々木次子。

 

 そして反撃を無視するために佐々木さんからのロインの通知をオフにしたところで、今度はあくびちゃんからロインが来た。

 

───ヨヨコ先輩がおみくじで大凶を引いたっす

 

 送られてきたのはおみくじを絶望の表情で見ているヨヨコ先輩の写真だった。

 

 ヨヨコ先輩……零時ぴったりにあけおめロインを送ってくれたのは嬉しかったけど、クリスマスの一件でちょっと照れ臭かったんだよね。あの時のヨヨコ先輩はほんとに可愛かった……先輩ってあんな顔もできたんだ……

 

「別の女のことを考えてる顔」

 

 俺があくびちゃんからのロインをぼーっと眺めていると、姉貴が俺のスマホをのぞき込みながらぼそりと呟いた。いや間違いじゃないけどさ。

 

 姉貴が怪しく笑って何か言いたげだったので、額を小突いてあくびちゃんに返信しておくことにする。

 

 ひとりとの写真は……うん、別に送らなくていいかな。

 

「初詣も終わったし、これからどうしようか?」

 

 おみくじ騒動が一段落し、星歌さんから貰ったお年玉でみんなに出店の物を奢った後に松陰神社の入り口に戻ってくると、虹夏ちゃんが俺達を見回しながら尋ねた。

 

 これから、ねえ……せっかく集まったから午前中で解散っていうのももったいない気もするけど。

 

「みんなでカラオケに行きましょうよ!」

「帰りたい」

(い、行きたくない……)

「絶対混んでるよ~」

「賛同者ゼロ!」

 

 喜多さんの提案に誰一人として乗り気じゃないのがウケるな。でも、虹夏ちゃんの言う通り正月のカラオケボックスとか絶対めちゃくちゃ混んでるよね。入るまでに何時間も待たされそう。

 

 姉貴も虹夏ちゃんもカラオケ自体は嫌いじゃないんだけどな。中学の頃はよく一緒に行ってたし。虹夏ちゃんは「自分は歌が下手」って言ってたけど、姉貴が相手だから悪かったんだと思う。俺は虹夏ちゃんの歌声すごく可愛くて好きなんだけどね。

 

「レンくん! レンくんはカラオケに行きたいわよね!?」

 

 唯一賛成も反対もしなかった俺に喜多さんが縋るように詰め寄って来る。そんなに顔を近づけてこないでください。陽キャオーラの輝きで日焼けしちゃうでしょ。

 

 他の三人を見ると露骨に「なんとかして喜多ちゃんをカラオケに行かない方向に誘導して」って顔してるし。

 

 しょうがないなぁ。まあ、俺に任せておきなさい。要は喜多さんの矛先を別のところに向ければいいんでしょ?

 

「喜多さん、カラオケに行くのと(ウチ)に来るのどっちが───」

「リョウ先輩の家に行くわ!!」

 

 まだ言い終わってないやんけ。わかりきってたリアクションとはいえ、掌返しが早すぎる。

 

「レンくん、いきなりお邪魔しちゃって大丈夫なの?」

「むしろ気合いを入れて盛大に歓迎されると思うよ」

「……だよね」

 

 父さんと母さんが反対するわけがない。でも、一応連絡だけは入れておくか。ひとりのご両親ほどじゃないけど、ウチの両親も相当()()からとち狂った歓迎しそうだし。

 

「あ、母さん? 今から結束バンドのみんなを家に連れて行くからさ。客間使ってもいい?」

『いいわよ~。あ、そうだ! それなら特上寿司を頼んでお歳暮で貰った高級タラバガニを振舞っちゃうわね~』

「普通でいいから普通で!!」

『みんなにお年玉も用意するわ~。一人五万円ずつあげればいいかしら~』

「そういうことさせないために電話したんだよ!!」

 

 ダメだ、全然人の話を聞いてない。いやね、いい両親なんだよ本当に。過剰に甘やかすところさえなければ。

 

 ……まあいっか。あとはなるようになれだ。とりあえずみんなを家に連れて行こう。

 

 そう結論付けると、俺が何かを言う前に姉貴は家への帰り道をさっさと歩いていき、虹夏ちゃんと喜多さんが慌てて追いかけていた。

 

「行こうか、ひとり」

「あ、はい(レンくんのお家……お、お正月にお友達のお家で遊ぶ……去年までの私だと考えられないな。ゆ、夢じゃないよね……?)」

 

 隣を歩くひとりは嬉しさを隠し切れないようでふにゃふにゃと笑っている。こうやって家族以外の誰かと初詣に来るのも初めてだったんだろうな。今年はもっと、去年よりもいろんな世界を見れたらいいね。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、今から初詣に向かうらしい人達とすれ違う。

 

 神社でも思ったけど、振袖を着てる人も結構いるな。着付けとか色々大変だろうけど、女の人の振り袖姿ってこう……いいよね。

 

「ど、どうしたんですか?」

「ん? ああ、振袖着てる人が意外と多いなーって思っただけだよ」

「た、確かに、言われてみればそうですね。れ、レンくんはああいう恰好、好き……ですか?」

「うん。女の子の振り袖姿って、普段より大人っぽく見えてドキッとする」

「そ、そうですか……」

 

 姉貴は面倒臭がって絶対着ないだろうけどな。なんなら成人式もスーツで参加……いやそもそも成人式そのものに出ないかもしれない。

 

「あ、じゃ、じゃあ……」

 

 俺が姉貴の数年後を案じていると、ひとりが俺を見上げてくる。その瞳には期待と不安、緊張の色が見て取れた。

 

「ら、らい……来年はわた、私が───あ、やっぱりなんでもないです(い、言えない言えない!! 『来年は振袖を着てあげます』なんてそんなおこがましいことを言えるわけがない!! そもそも私にあんな恰好は絶対似合わない!! ああいうのは喜多ちゃんとか虹夏ちゃんとか可愛い女の子が着るから絵になるだけで……私が着ても馬子にも衣裳!! 豚に真珠!! 猫に小判!! ぼっちにペアリング!!)」

 

 ひとりは何かを言いかけていたけど、すぐに俯いて俺から顔を逸らしてしまう。でも俺は、会話の流れでなんとなくひとりの言いたいことがわかっていた。

 

「来年はさ」

 

 だから、彼女が言えなかったことを代わりに言おうと思う。

 

「ひとりの振り袖姿───見せてくれる?」

 

 俺が笑ってそう言うと、ひとりは顔を上げて驚いた表情で俺を見て何度も瞬きした。そして、俺の言葉の意味を理解した瞬間、ひとりはゆでだこみたいに顔を赤くして再び俯いてしまう。

 

 そして彼女は、返事をする代わりに俺の袖をそっと握るのだった。

 

 

 

 

 

「ぼっちはどこまでいやらしい女になれば気が済むのか!! そのおっぱいで私のレンを誘惑したんだろうそうだろう!? 最近の若者は性に奔放すぎる!! けしからん!! 実にけしからん!! なーにがぼっちか!! これはまさに『えっち・ざ・ろっく』の始まり!! そのいやらしいおっぱいは私が成敗してくれよう!!」

「にゃ~にが『えっち・ざ・ろっく』ですかぁ~!! 本当にえっちなのは私じゃなくて大槻さんですよ~!! あんないやらしい服装でレンくんをいつも誘惑してるんれす~!! 私はそんな脳内ピンクなえちえち女達からレンくんを守ってるんでしゅよ~!! 私の邪魔をするならいくらリョウさんでも許しましぇん!!」

「黙れ後藤!! お前にレンが救えるか!!」

 

 なお、ウチで甘酒を飲んだ姉貴とひとりが酔っ払ってへなちょこ戦争をすることになりました。

 

 ひとりってヨヨコ先輩のことをそんな風に思ってたんだね。……聞かなかったことにしてあげよう。酔っぱらって支離滅裂なことを言ってるだけだろうし、うん。

 

「レンくぅ~ん、安心してくださいねぇ~。お姉ちゃんがちゃぁんと守ってあげますからぁ……」

「……ありがと、ひとり」

「こらぁ~! ひとり『お姉ちゃん』でしょぉ!? 呼び捨てなんて生意気だぞぉ☆ ぷんぷん!」

「ごとりちゃん……」

「ぼっちちゃん……」

 

 喜多さんと虹夏ちゃんがドン引きしていた。見てないで助けて?

 

 ……はぁ、ついさっきまでひとりとちょっと良い雰囲気だったのに。ほんとにこの子は……

 

「ほらぁ、レンくん。お姉ちゃんと呼びなさぁい!」

「……ひとりおねえちゃーん」

「えへへぇ。よくできましたぁ。レンくんはいい子でしゅねぇ~」

 

 ひとりはそう言ってだらしなく笑いながら俺の頭を撫でてくる。……俺が言うのもなんだけど、この子には絶対お酒を飲ませちゃダメだな!!

 

 新年早々フルスロットルだけど、今年一年もこんな感じで楽しく……楽しく? やれたらいいな。

 

 ちなみにひとりは三十分くらいで元に戻ったけどこの時のことは全く覚えてなかったらしい。

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