【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#58 SHUKIPY

「しゅきしゅきしゅきぴ~しゅきめろり~♡ かわちーかわちーな女の子達のカッコいい姿が最高~!! でも圧倒的ナンバーワンはカッコいい女の子!! えれ、結束バンドさん達のファンになります!! はい、かわちーかわちーカーニバル開催!! あなたのお顔が美し過ぎて人間国宝!! お名前教えてください!!」

「日本語を喋れ」

 

 年が明けてTokyo Music Riseの春大会へのエントリーを済ませ、新年一発目の路上ライブの後、結束バンドが……もっと正確に言うと姉貴がとんでもなくやべー女に絡まれていた。

 

「おおっと! これは大変失礼いたしました。えれの名前は日向恵恋奈です~。趣味は小説執筆とアイドル鑑賞で今年から通信制高校に通う予定で『天使のキューティクル』略して『天キュル』っていう地下アイドルグループに所属してます~」

「ごめん、そこまで紹介しろと言ってない」

 

 姉貴が珍しくツッコミに回っている。初手から強烈だなこの子……陽キャオーラで距離をガンガン詰めてくる喜多さんとはまた違ったタイプのコミュ強か。というかさ、情報が渋滞してるから一回交通整理していい?

 

 虹夏ちゃん達の方を見ると、初めて見るタイプの生物にどう接していいかわからず戸惑っていた。ひとりは早々に虹夏ちゃんのキャリーケースに引きこもり、喜多さんでさえ日向さんに対して距離感を掴みかねている。

 

 しょうがない。姉貴も珍しく困ってるし、ちょっと助けてやるか。

 

「えっと、日向さん……で、いいんだよね? 演奏聴いてくれてありがとう。これから機材の片付けとかあるからお話はまた後で───」

「おきゃわわわわわわわわわわ!!?? こ、ここにも顔が良すぎるお方がもう一人!? それによく見ればお二人の顔がよく似てる……もしやご姉弟でいらっしゃいますか!? あぁ~顔が良過ぎる美形姉弟尊い尊い仰げば尊し蛍の光!! ルーブル美術展開催決定です~!!」

 

 ごめん、俺の手に負えねえや。

 

「れ、レンくんのコミュ力が通用しない……!?」

「ひとりちゃんとすらお友達になったあのレンくんが……!?」

 

 この子……人の話を聞かないタイプと見た。姉貴関係で暴走した時の喜多さんといい勝負するよ。……なんで姉貴の周りにはこんなのばっかり集まるんだ!?

 

「あの、日向さ───」

「『えれ』と呼んでくださいっ!!」

「いや俺達初対面だ───」

「『えれ』と呼んでくださいっ!!」

「だから───」

「『えれ』と呼んでくださいっ!!」

 

 RPGのNPCかな? 正しい選択肢を選ばないと会話が無限ループするやつ。

 

「……えれちゃん」

「はい!! 推しからの『えれちゃん』いただきました~!! はぁ~(恍惚)……お二人並べば世界遺産!! えれの心はサグラダファミリア!! 挟まりてぇ~!! 二人の間に挟まりたいけどルールを守って楽しく推し活!! お二人の間に挟まるのは夢小説の中だけにしておきますね!!」

 

 さてどうしよう。ちょっと未確認生命体すぎてさすがの俺も戸惑いを禁じ得ない。純粋のコミュ症とか暴走陽キャとか……そんな単純な枠にとらわれる子じゃないですね。

 

 ヨシ、まずは冷静に状況を分析しよう。この子の宇宙人語を翻訳すると、結束バンドの演奏を好きになってくれたプラス姉貴の顔面に惚れたって感じか。で、この子は自分の気持ちを微塵も隠すことなくオープンに撒き散らすタイプ。

 

 めちゃくちゃ厄介だな!? でも、きっかけはどうあれ結束バンドのことを好きになってくれたんだから無碍にはしたくない。まずはコミュニケーション……異文化コミュニケーションから始めよう。

 

 そうだよ。あのひとりともわかり合えたんだからできるはず!!

 

 宇宙人えれちゃん一人だけならここからどうにでも───

 

「ちょっと待ちなさい!! リョウ先輩とレンくんの間に挟まりたい!? リョウ先輩の娘になるのは私よ!?」

 

 てめえこのタイミングで絡んでくるなや!!

 

「リョウさんとレンさんですね! えれ覚えました! そしてリョウさんの娘になりたいというその発想……えれの頭の中には存在しませんでした。推しの活動を温かく見守りたいというものとは違った深い愛……えれ、あなたの言葉にものすごく感銘を受けました~」

「レンくん、この子すごくいい子ね!」

 

 とんでもねえ化学反応を起こしてやがる。

 

「間に挟まりたいという欲望には苦言を呈したいけど……でも、結束バンドの中でリョウ先輩が一番だと見抜いたその眼力、あなたはなかなか見どころがあるわ! だけどリョウ先輩の素敵なところは外見だけじゃないの。そこにばかり目を向けているようでは……まだまだ『浅い』わね」

 

 なんやこいつ。自分のこと棚に上げとんのか。姉貴の容姿に一目惚れして「ギターを弾ける」って嘘ついてまでバンドに押しかけてきた女は言うことが違うな!!

 

「むむむっ! あなたからはものすごく強力な『しゅきぴしゅきしゅきしゅきめろりオーラ』を感じます~! 先輩とお呼びしてもいいですか~?」

「もちろん。私の名前は喜多郁代。喜多先輩って呼んでね」

「はい、喜多先輩! あ、さっき言ってた『推しの間に挟まりたい』っていうのはあくまでえれの妄想である夢小説の中だけなので~」

「そうなの? 夢小説ってよくわからないけど一緒にリョウ先輩を推していきましょうね!」

「えれ、同担拒否なんです~」

「いきなり梯子外された!?」

 

 喜多さんとえれちゃんという組み合わせはちょっと食べ合わせが悪すぎる。スイカと鰻並みだね。この場合どっちがスイカなんだろう? やっぱりえれちゃんかな。厚着しててもわかるくらいえれちゃんって胸が大きいし。残念だったね喜多ちゃん鰻。

 

 ふう……現実逃避はやめておこう。そろそろ真面目にえれちゃんとお話しするか。

 

「えれちゃんごめん。ちょっと真面目な話をしてもいいかな?」

「はい、もちろん! 私は空気の読める『しゅきぴの養分になりたいオタク』ですから! ちょっと顔が良過ぎるお方達に会えてテンションが上がり過ぎてしまったのでここからはテンションだうにーだうにーな真面目えれになりますっ!」

「……うん」

 

 だうにーだうにーえれえれだうにー

 

 ……まずい。脳内がえれちゃんに侵食されていく……!?

 

 SAN値チェックが必要なくらい精神が追い込まれるけど、同人誌製作とコミケで鍛えた精神力でなんとか乗り切り、えれちゃんに結束バンドのことについて説明していく。

 

「だから、普段はこのSTARRYっていうライブハウスで活動してて───」

「ふんふん!」

「路上ライブは週一、この場所で。あと、動画サイトと音楽配信サイトでもオリジナルの曲を───」

「登録しましたっ!」

「トゥイッターとイソスタも───」

「フォロー完了! あぁ~レンさんのお顔がこんなに近くに~! 尊過ぎて……尊過ぎてえれの心のアンコールワットが崩壊してしまいます~!!」

「心に愉快なユネスコを飼ってるんだね」

 

 スマホをポチポチしながら説明すると、えれちゃんは瞳にハートを浮かべてしゅきしゅきしゅきぴしゅきめろりオーラ全開で俺を見つめてくる。この子、正統派黒髪巨乳美少女なのになんでこう……なんでこう残念なんだ!!

 

 もっと普通にしていれば真っ当にモテるだろうに。

 

 なんか、俺の周りってそういうタイプの女の子が多くない?

 

「とまあ、こんな感じ。ファンになってくれたのは嬉しいけど、マナーはちゃんと守ってね? ライブハウスって無法地帯なイメージがあるかもしれないけど、ハコ自体の独自ルールやファン同士の暗黙の了解ってものがあるから」

「大丈夫です~! えれ、これでも地下アイドルやってますからそういうルールはしっかり守りますよ~! 出禁になって結束バンドのライブが見られなくなるなんて嫌ですから~」

「お願いね。あと、今から四人に紹介するけどさ。メンバーには人見知りがすごく激しい子がいるんだ。だから今みたいに落ち着いた感じで話してもらえると嬉しい」

「わかりました~。あのピンク色のギターの人ですよね~? えれ、そういうのちゃんとわかる子ですから大丈夫です~。テンションだうにーだうにーで行きますね~」

「だうにーえれえれでね」

 

 なんだ、話せばちゃんとわかる子じゃん。えれちゃんってすごく良い子だね。可愛い。しゅきしゅきだいしゅき。

 

 この時の俺は、明らかに正気ではなかったと後になって思う。

 

 まあなんにせよ、メンバー達に紹介しようと考えて振り返ったら、片付けを終えた四人が俺達から露骨に距離を取っていた。……おい。えれちゃんはすごくいいこなんですよ?

 

 そして俺はえれちゃんを四人の前へ連れて行き自己紹介させる。喜多さん以外の三人はものすごく警戒していたけど、えれちゃんは暴走することなくきちんと自己紹介できました。偉いね。しゅきしゅき。

 

「えれ、この後スタジオで練習があるのでこれで失礼します~。みなさん、これからも活動がんばってくださいね~! これからずーっと結束バンドを推していきますから~!」

 

 えれちゃんはそう言って大きく手を振りながら颯爽と走り去っていった。

 

 えれちゃんいっちゃった。かなしいね。

 

「なんというか……濃かったね」

「天下一品のこってりが可愛く思えましたね……」

「郁代も最初はあんな感じだった」

「あ、あそこまでではありませんでしたよ!?」

(あ、あのテンション……絶対仲良くなれない……)

 

 四人ともえれちゃんに圧倒されてるみたいだった。呆然としてるところ悪いけど、この後は一号さん二号さんと一緒にSTARRYでMVの打ち合わせをするんでしょ?

 

「みんなのことがしゅきめろりな一号さん達が待ってるから早く行こうよ」

「レンくんが日向さんに洗脳されてるわ!?」

「レンくん戻ってきて!! あぁ……レンくんのおめめがぐるぐるに……」

 

 STARRYに戻るまで珍しく俺が介護される立場になるのだった。

 

 

 

 

 

「星歌さん、お疲れ様です」

「おう。……何かお前、やけに疲れてないか?」

「ちょっと妖怪『しゅきめろり』に洗脳されてまして……」

「最近は新手の妖怪が増えたんだな」

 

 STARRYに戻ると一号さんと二号さんが待っていたので、結束バンドのメンバーはそのままMVの内容や製作を依頼する業者について話し合う。俺は別にやることもなかったので、そのままカウンターにいる星歌さんに話しかけた。

 

「───という感じで、結束バンドに新しいファンができた訳でして」

「お前の周りにはほんと変な女が集まるよな」

「虹夏ちゃんは変じゃないでしょ?」

 

 他の三人は……良くも悪くも個性あふれてるからね。

 

「お前はあっちに混ざらなくていいのか?」

「意見を求められたら口を出しますけど、一番大事なのは本人達がどんなものを撮りたいかってことですからね。あと、ちょっと頭が痛くて……」

「洗脳の後遺症が重すぎる」

 

 正直、えれちゃんと会話してた最後の方は記憶があいまいなんだよな。次に会った時にはちゃんと正気を保てるようにしておかないと。

 

「そういや星歌さん、バレンタインライブのことは聞きました?」

「ああ、聞いた聞いた。SIDEROSとSICKHACKをウチに呼ぶんだろ? 正気の沙汰じゃねえな」

「いいじゃないですか。STARRY史上最高の売り上げになると思いますよ」

「廣井が機材をぶっ壊さなけりゃな」

 

 新宿FOLTでのクリスマスライブの後、虹夏ちゃんが「あたし達も自分で企画ライブをやってみたい!」と言い出したので、俺が「バレンタインに何かやれば?」と提案しておいたんだ。

 

 すると行動が早い虹夏ちゃん。すぐに星歌さんに相談して二月十四日のSTARRYのスケジュールを押さえる。出演バンドに関しては、とりあえず俺がヨヨコ先輩と志麻さんに声をかけると、二人とも快諾してくれた。

 

 普通のブッキングライブだともっと他のバンドにも声をかけるんだけど、SIDEROSとSICKHACKのファンだけで余裕でキャパMAXどころかオーバーになりそうなので出演はこの三組だけ。その分、一組当たりの出演時間を長めに取ることにしていた。

 

 今までのライブだと精々二、三曲だったけど今後のことを考えたら出演時間が長いライブを経験しておくことも大事だからね。

 

「SIDEROSもSICKHACKももう身内みたいなもんだし大丈夫か」

「ノルマも問題ないと思いますよ。最近の結束バンド、かなり評判が広まってるみたいなんで」

「あいつらも成長したよなぁ……」

「急に老け込みましたね」

 

 しみじみとしている星歌さんにそう言うと、思いきり頭をぐりぐりされてしまった。でも、星歌さんが言うことにもすごく共感できる。姉貴と虹夏ちゃんが二人で結束バンドを結成した頃から知っている身としては……感慨深いものもあるよね。

 

「今月はMV製作、来月はバレンタインライブ、三月はTokyo Music Riseの決勝戦と未確認ライオットの音源審査……いやぁ、バンド活動って忙しいですね」

「Tokyo Music Riseは予選も突破してねえだろうが」

「歴代の決勝に残ったバンドのレベルを見る限り、今回はいけると思いますよ」

 

 とはいえ、審査員に何が刺さるかわからないので多少の不安もあるけど。目下最大の障壁はSIDEROS。やっぱり彼女達の完成度は頭一つどころではなく抜きんでているからね。

 

「バンド活動もいいけど、ちゃんと勉強もするように言っておけよ」

「虹夏ちゃんは大丈夫。ひとりは俺が面倒見てるから成績アップ中。喜多さんは二学期の成績が落ちたから三学期からはひとりと一緒に俺が面倒を見る予定です。姉貴はいつも通りの一夜漬け」

「一番心配なのは喜多かよ!?」

 

 ひとりは元の学力が「なんで高校に受かったのか不思議なレベル」で伸びしろオンリーだったから問題なし。それに対して喜多さんは元々平均以上の成績をキープしてたんだけど、二学期の期末で平均以下に転落。危機感を感じて俺に助けを求めてきたんだ。

 

 あと、喜多さんのご両親って公務員らしいから成績のことについて結構言われるらしい。

 

 大丈夫? バンド活動のことちゃんと説明してる? 変な誤解とかされてない?

 

 これはどこかのタイミングで喜多さんとしっかり話をした方が良さそうだな。

 

 ちなみに、喜多一家とはこの先多少のいざこざがあって、二年生の文化祭で俺が喜多さんママにとんでもない誤解をされることになるんだけど……まあ、この話は追々ということで。

 

「レンくーん! しゅうごーう!」

 

 星歌さんと話していると、一号さんに招集をかけられる。なんかいつの間にか結束バンドのメンバーがいなくなっていた。どこに行ったのあの子達?

 

「ご指名だ、行ってこい」

「うっす」

 

 さてさて、次は大学生のお姉様達のお相手をしましょうかね。

 

 

 

 

 

「四人はどこ行ったんですか?」

「バンドマンは楽器だけ演奏していればいいのです」

 

 俺が尋ねると一号さんがちょっぴり怒った様子で答える。事情がよく分からなかったので、とりあえず椅子に座ると二号さんがそっと耳打ちしてきた。

 

「レンくん、実はね───」

 

 二号さんの話によると、MVの内容を決める際に「犬を出そう」だの「妹を出そう」だの「楽器店で百万円分買ってみた」だのひとりがドジョウ掬いをやり始めただの……話し合いがカオスになって収拾がつかなくなったので四人をスタジオに放り込んで練習させているらしい。

 

 うん、改めて事情を説明されても意味わからんな!

 

 というか、記念すべき最初のMVだってことをあの子達は理解してるのかな?

 

「それで、どんなMVにするかレンくんの意見を聞こうと思って……」

「変に奇をてらう必要はないでしょ。歌詞の内容に沿って起承転結をつければいいんじゃないですか?」

「よかった。レンくんの意見はまともだった」

 

 一号さんが目頭を押さえながら俺の頭を撫でてくる。よっぽど話し合いの内容が酷かったんですね。

 

「業者は決まったんです?」

「うん、そっちはすぐに決まったよ。ライブハウスの店長さん達に教えてもらった業者の中に、私達が知ってる評判の良い業者があったからね。そこにお願いすることにしたんだ」

「じゃあ、あとはスケジュールだけですね」

「そうそう。業者と話し合いのアポは取ったし、なんとか一月中には撮り終えたいよね」

「二月にはバレンタインライブがありますから」

 

 マジでハードスケジュールだな。二月末には学年末テストがあるし、学業もおろそかにしないよう喜多さんとひとりを監視しつつメンバーの体調管理にも気を配らないとな~。

 

「じゃあ私、ジカちゃん達に伝えてくるわ。歌詞の内容に沿ったオーソドックスなものにするって。撮影場所については業者も交えて話すってことで」

「お願いします」

 

 一号さんはそう言ってスタジオへと入っていく。こういう分野に強い人がいると頼りになるわ~。MV撮影に関してはこの二人と業者に任せればいいな。その間、俺はヨヨコ先輩や志麻さんとバレンタインライブについて話し合っておこう。

 

「バレンタインライブ……自分達で企画ライブができるくらいになったんだね……」

「なんかその割には残念そうですね」

 

 残された二号さんが落ち込んだ様子でぽつりと呟いたので聞き返すと、二号さんは俺の顔をじーっと見て「私の話聞いてほしいなーオーラ」を全力で発していた。そんな露骨に態度に出さなくても話くらい聞きますって。

 

 二号さんは何やら悩んでいるらしいので、とりあえず俺は星歌さんにお金を払ってドリンクサーバーで温かい飲み物を入れて二号さんに渡してあげることにする。

 

「レンくんはさ、寂しいなって思わないの?」

「寂しい?」

「こうやって結束バンドのみんなが夢に向かって努力して成長しているのはものすごく嬉しいよ。最初のライブと比べたらお客さんもたくさん入るようになって下北以外でも結構有名になり始めて……そんな風にたくさんの人に認知されるようになったら、これまでゼロ距離で応援できていたあの子達がものすごく遠い存在に感じちゃうかもしれない。それに、ファンが増えるのは良いことばかりじゃないよ。中には民度の低いファンもいてさ、そういう人達に苦言を呈そうものなら私達古参が厄介老害ファン扱いされちゃんだ。私達だけが知ってる秘密のバンドだったのに……このままTokyo Music Riseや未確認ライオットで結果を出そうものならレーベルだって放っておかないはず。そしてとんとん拍子でメジャーデビュー……私達は武道館の遠く離れた観客席から豆粒みたいなあの子達を観ることしかできなくなっちゃうんだ……」

 

 おっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっも!!!!!!!!!!

 

 一号さんから話には聞いてたけど……二号さんって病むとこんなに重いんだな。「ぽいずん♡やみ」はもう名前返上したら? それか「にごう♡やみ」としてやみやみユニットでも結成する?

 

 とまあ、そんなアホなことは置いておこう。どうやら二号さんは結束バンドが有名になるのは喜ばしいけど、その結果あの子達と距離ができてしまうことに対して大きな不安を抱えているらしい。なるほどねぇ……インディーズバンドあるあるだな。

 

「レンくんだって今はこうやって色々お手伝いできてるけど、レーベルに所属しちゃったら事務所からマネージャーが派遣されてお役御免になっちゃうかもしれないよ? あの子達がどんどん場数を踏んでいけばひとりちゃんだって人見知りを克服するかもしれないしジカちゃんはメンタルつよつよリーダーになってリョウちゃんは立派に自立して喜多ちゃんはリョウちゃん信者から卒業して……レンくんがお世話する余地がなくなっちゃうんだよ!? 寂しくないの!? 悲しくならないの!?」

 

 めちゃくちゃ喜ばしいことじゃないですか。あの四人がそんな風に立派に成長してくれたら俺は……感動して泣く自信がある。寂しさや物足りなさは、もしかしたら感じるかもしれないけどそれよりも遥かに喜びの方が大きいんだよね。

 

 それに、レーベルに所属してマネージャーうんぬんについては専門的な人がサポートしてくれる方がいいに決まってる。

 

 というかそもそも自分の役割についてなんて深く考えてなかったってのが本音だ。

 

 だって、俺のやってきたことってせいぜい虹夏ちゃん達から「レンくん、これってどう思う?」「こうした方がいいんじゃない?」ってレベルのもんだし。それでも吉田店長や志麻さんは俺を褒めてくれたけどね。あれはすごく嬉しかった。

 

 だから二号さんの言う「お役御免」っていうのは正直ピンとこない。というか、レーベルに所属したところで絶対虹夏ちゃん達から個別に色んなことを相談されるだろうし、それだけの関係は築いてきたつもりだ。

 

 そういうわけで、別に俺は不安や寂しさ、悲しさなんてほとんどない。

 

 って二号さんに言いたいけど、今の彼女にそんなことを言うのは酷すぎる。今の彼女が望んでいるもの……それは共感。ここで変に俺が正論を言っちゃうと彼女はますます病んでしまうかもしれない。だからここは、彼女に共感できる部分について肯定しておくことにしよう。

 

 うん、まずは彼女の心を落ち着かせることが先決だ。

 

「確かに、そういう感情を全く抱かないと言ったら嘘になりますね」

「だよね!? だよね!? 私だけじゃないもんね! レンくんは私達よりも前から結束バンドのことを応援してるんだから……私なんかよりあの子達に対する思いは強いもんね!」

 

 思いは強い。強いっすよ。でも二号さんみたいに拗らせたり病むほどじゃないっす。

 

 というようなことはおくびにも出さない。

 

「はい。確かに結束バンドへの思いは強いです。そこは二号さんとも同じですね」

「そうなんだよ! あの路上ライブを観た日から……私はあの子達のファンになって……ライブは毎回欠かさず観て……成長していく姿を身近で見てきたんだよ……」

「あの子達との関係が変わってしまう……壊れてしまうかもしれないことが怖いんですね」

「うん。だって……有名になった途端に昔の知人と距離を取り始めるってよくある話でしょ? もちろん、あの子達がそんなことをするような子じゃないって信じてるけど、でも……どうしても不安になっちゃって……」

 

 これはバンドに限らずよくある話だろう。二号さんのその主張には大いに共感できるので頷いておくことにする。

 

「うぅ……ごめんねレンくん。面倒臭い女で……重たい女でごめんね」

 

 大丈夫ですよ。面倒臭い女にも重たい女にも慣れてますので。姉貴とか姉貴とか姉貴とか。

 

 というかこの場面……なんか俺がメンヘラ彼女と付き合ってるみたいなんだけど。俺が二号さんに悪いことしたみたいな誤解されそうなんだけど。

 

 そう思って星歌さんの方に視線を向けると、見て見ぬ振りされた。……おい。

 

 まあいいや。とりあえず二号さんは吐き出すだけ吐き出して俺という共感相手を見つけてちょっと落ち着いたみたいだから、ここから俺の介護ターンだ。

 

「謝る必要なんてないですよ。それだけ二号さんにとって結束バンドが大事な存在だって伝わってきましたから。あの子達も……それだけ思われてるなんて本望ですよ」

「レンくん……」

「思い出してください。初めての路上ライブの後、お二人がチケットを買ってくれた時にみんながどれだけ喜んでくれたか。それだけじゃありません。お二人はあれからずーっと結束バンドを応援してくれて、ライブも毎回観に来てくれました。そして、今はこうして記念すべき初MV製作のお手伝いもしてくれている。お二人の存在がどれだけ支えになっていたか……二号さんが思っているより、お二人はあの子達にとってずっと……ずーっと特別な存在なんですよ? だから安心してください。絶対に関係が壊れたりしませんから。あの子達は……どこまでいっても二号さんの知る結束バンドです」

「レンくぅ~ん!!」

 

 二号さんが号泣しながら思い切り抱き着いてきた。そんなに不安だったのか……変に拗らせる前に発散できてよかったよ。拗らせ過ぎた結果「ファンを辞めます」ってことになるのが一番悲しいもんね。

 

「もしもあの子達が有名になって、天狗になって初心を忘れるようなことになったら……一緒にお説教してあげましょうね」

「……うん」

 

 俺が優しく抱きしめ返すと、二号さんの腕の力がちょっとだけ強まった。なんか、こうしてみるとこの人って年下っぽいよなぁ。早いとこ包容力のある彼氏ができればいいんだけど……一号さんにこっそり相談してみるか。

 

「あーーーーーっ!!?? レンくんと二号さんが抱き合ってる!? あたし達が練習してる間に何があったの!?」

「お? 修羅場か? 修羅場勃発か?」

「わくわくすんな姉貴」

「……レンくん、ごめんなさいね」

「一号さんが一瞬で事情を察した! どういうことなんですか!?」

「あっ……おっ……あっ……年上……女子大生……高校生……手を出す……犯罪……」

「ひとりちゃん、粉末になるのはダメよ。溶けるだけにしておきなさい」

「溶けるのもダメでしょ!? ぼっちちゃん! 気を確かに!」

「レン、何か申し開きは?」

 

 姉貴が怪しく笑いながら尋ねてくるので、俺は一言こう答える。

 

「初心忘るべからず」

 

 相変わらず結束バンドはぎゃーぎゃー騒いでてカオスなことになってるな。二号さん、この光景を見てもまだ不安ですか?

 

 俺が尋ねると、二号さんは泣き腫らした顔で笑ってくれた。

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