【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#67 H・I・T・O・R・I

 世界には努力だけではどうにもならないことがあると───私は知っている。

 

 ではそんな時、努力では決して超えることのできない壁に直面した時、人はどういう行動に出るのか。

 

 その壁を超えるために挑み続けるか、壁の高さに目を背け全てを諦めるかの二択だろう。

 

 人は言う。

 

「努力は決して裏切らない」と。「努力することに意味があるのだ」と。

 

 だが現実は違う。

 

「結果が全て」なのだ。

 

 人は言う。

 

「越えられない壁などない」と。「越えられないのは己の努力が足りないだけだ」と。

 

 だが現実は違う。

 

「努力すれば夢が必ず叶う」ほど世の中は甘くないのだ。

 

 もしもそんな世の中であれば、高校球児はみんなプロ野球選手やメジャーリーガーになれるだろうし、ストリートライブで誰からも見向きもされないようなバンドマンなんて決して存在しないだろう。

 

 光ある所に、必ず影はある。

 

 話を戻すが、努力では決して超えることのできない壁に直面した時に、人は二通りの行動に出ると私は考えている。

 

 そして、二択の内───壁を超えるために努力を続けることこそが美徳であると誰しも言うだろう。

 

 だが、私はそうは思わない。

 

 挑み続ける覚悟……確かにそれは尊いものだ。尊敬に値する。

 

 だが、だがしかし……「全てを諦める覚悟」というものも、それと同じくらい尊いのではないだろうか。

 

「諦める」という行為は周囲を失望させ、自分自身を嫌いになり、世界を呪う結果になるだろう。そんな全ての業を背負う覚悟……なんと、なんと尊いことか。

 

 人は言う。

 

「諦めるのは逃げることと同意だ」と。

 

 私は否定しよう。

 

「それは違うよ!」と。

 

 あ、なんかこの辺のフレーズ歌詞に使えそう! わ、忘れないようにメモしておかなきゃ……!

 

 ───ごほん……そう。逃げているのではない。

 

 逃げているのではなくてこう……えーっと、その……なんだろう。

 

 ぐぬぬぬぬぬぬっ!! 「クラス替えから逃げるなァァ!!」っていう炭治郎の声が聞こえる。

 

 ち、違うのじゃ!! これは「逃げ」ではなく「後ろへの前進」なんだ!!

 

 炭治郎完全論破!! ヨシ!! ジャンプ屈指のレスバ強者主人公に完全勝利!!

 

 これで私も上弦の鬼!!

 

 それに「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉にあるように、後ろを振り返ることは決して悪いことではない。

 

 つまり私は賢者!!

 

 賢い者と書いて賢者!!

 

 賢者後藤ひとり!!

 

 I am KENJA-GOTO-HITORI

 

 あ、私が賢者なら喜多ちゃんは勇者で、虹夏ちゃんは戦士、リョウさんは魔法使いかな?

 

 レンくんはお助けマスコットキャラ的な立ち位置で……大槻さんはレンくんのレンくんを突け狙ういやらしい女盗賊(シーフ)だ。間違いない。

 

 ……そろそろお気づきかもしれないが、私は今───とてもとても大きな壁に直面している。

 

 努力だけではどうしようもない、誰もが目を背けてしまいたくなるような───高い高い壁。

 

 賢者な私は過去の己の偉業を思い出し、ありとあらゆる打開策を練っていたが……どうやら私の頭脳ですら、叶わぬらしい。

 

 非力な私を許しておくれ。だって別に私悪くないもん。

 

 悪いのはこの世の中だもん!!

 

「クラス替え」なんていう悪魔の所業を生み出したこの社会が全ての元凶なんだ!!

 

 そうだよ!! 物価が高騰しているのもお父さんのお給料が上がらないのも年金制度が破綻しているのもなんもかんも政治が悪い!!

 

 こんな政治───私がぶっ壊してやる!!

 

「賢者後藤ひとり───総理大臣になります!! 私が日本を変えるんだ!!」 

「あ、お姉ちゃんがやっとトイレから出てきた」

「今年は二十三分七秒……去年より早くなったわね~」

「ひとりも成長しているんだな……お父さん嬉しいよ」

 

 そう。私は成長しているんだ。一年前とは違うんだ!!

 

 今こそ!! 私のロック魂が火を噴く時───

 

「レンくんと同じクラスになれなかったら悲惨だね~」

「ひぎぃっ!?」

「あ、お姉ちゃん死んじゃった」

「ひとりちゃん、死んじゃったら遅刻しちゃうわよ~」

 

 お姉ちゃんはおしまい!

 

 

 

 

 

 

 ああ、やってきてしまった。

 

 気付けば私は校門前に到着していた。ふたりの「かいしんのいちげき」で棺桶入りになっていたところをお母さんの「ザオリク」でどうにか復活して、いつも以上に憂鬱かつ重たい足取りで登校する。

 

 周りには友達と一緒に登校している同級生や先輩……そして、パリッとした下ろしたての制服に身を包んだ新入生。ピカピカの一年生。高校デビュー。輝かしい青春。甘酸っぱい恋。

 

 おげろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろっっっ!!!!!

 

 ふう……嘔吐するところだった。一年前なら確実に吐いていた。だが私は耐えた!! これぞ成長の証!! だてに一年間秀華高校で揉まれていない!!

 

 それに今日は、新学年デビューの秘策を用意しているんだ!! 

 

 ピンクジャージ、ヨシ! メジャーバンドのTシャツ、ヨシ! サングラス、ヨシ! ヘアバンド、ヨシ! 缶バッジ、ヨシ! ラバーバンド、ヨシ!

 

 生粋のロックンローラーたるこの私は、一年前と同じ過ちを繰り返さない。決して。なぜなら私は賢者だから。

 

 さあ行くぞ!! 恐れるものは何もない!! かかってきなさいクラス名簿!!

 

 

 

 

 

 レンくんと同じクラスレンくんと同じクラスレンくんと同じクラスレンくんと同じクラスレンくんと同じクラスレンくんと同じクラスレンくんと同じクラスレンくんと同じクラス神様お願いします何でもしますからレンくんと同じクラスにしてくださいお願いですから同じクラスにしてくださいこれから毎日お母さんのお手伝いをして毎朝祈りを捧げますのでお願いしますもしもレンくんと同じクラスになれなかったら二度と信仰しませんし何ならお賽銭なんて金輪際一円も払ってあげませんから!!

 

 ホワイトボードに張り出されたクラス名簿を目ん玉が飛び出るくらいの勢いで凝視する。

 

 二年一組……私もレンくんもいない!! ヨシ!!

 

 二年二組……私はいない。あ、苗字が山田……ち、違った違った!! 山田違いセーフ!! く、首の皮一枚繋がった!!

 

 二年三組……あ、喜多ちゃんだ。そ、そそそそそそそそそそそそそそそそそそそるるれに、わた、わたくしのお名前もございますっ!!

 

 さ、ささささんも一緒!! 喜多ちゃん、ささささん!! リーチ!! リーチですよ!! 通らばリーチ!! こじみのねがきこえるか?(意味は全然わからない) ここでレンくんをツモって嶺上開花!!

 

 さあこい!! こいこい!! こいこい!! こいこい!!

 

 私は二年三組の名簿に書いてある名前を目を血走らせながら……なんなら緑色の汁が流れて出ていたかもしれないけど、とにかく必死に名前を追っていく!!

 

 そして、そして……

 

 ───山田レン

 

 あ、あった……

 

 れ、レンくんの名前……あった。

 

 わ、私と同じクラス……に、二年三組のところに、レンくんの名前があった……

 

 リーチ一発ツモ!! 裏ドラも乗って得点は……なんかよくわかんないけど嶺上開花ではいていらおゆえ(意味は全然わからない)。 ククク、これがワシのイーピンよ……

 

 もしかしたら私は天才雀士なのかもしれない。生粋のロックンローラーで天才雀士……

 

 ヒトリ~闇に降り立った天才~

 

 始まります。

 

 

 

 

猫々(ねね)ちゃん、なんかギター持ってるヤバい人がいるよ!!」

「ヒッピーだ!! 絶対にヒッピーな先輩だ!!」

 

 何やら周囲がざわついているな。無理もない。ここに立っているのはロックの申し子……令和のジョン・レノンと名高く、下北沢のアカギと呼ばれているこの私───賢者GOTO-HITORIなのだから。

 

 どうやら周りの生徒達は私の溢れ出るカリスマに恐れ慄いているらしい。

 

 ふっ……これが持っている者───天才というヤツか。

 

 ああ、この羨望の眼差しのなんと心地良いこと───

 

「ひとり、何してんの?」

 

 私が天才故の孤独感を味わっていると、背後から声をかけられた。その声は、私が今、一番聞きたかった人の声。優しくて、甘くて、心が温かくなるような声。

 

 ……のはずなのに、なんだかちょっぴり冷たい声に聞こえてしまったのは気のせいですよね?

 

「あ、れ、レンくんっ! お、おはっ、おひゃっ、おひゃようごじゃいます!」

「おはよう、ひとり」

「あ、あのあのあのっ! わたっ、わたたっ! 私達一緒のクラスですぅ! き、喜多ちゃんとさささささささささんも一緒でっ!」

「そっか……()()()()よ。一年間よろしくね」

「あ、は、はいっ! よ、よよこよろろ、よろしくおねっ、お願いしましゅ!」

 

「安心した」って! 「安心した」だって! もう、レンくんったらそんなに私とおんなじクラスになりたかったんですか~? しょ、しょうがにゃいな~レンくんは~。寂しがり屋さんなんだからもう! ひとりおねーちゃんが甘やかしてあげるゾ☆ ふへっ♡

 

「……で、その恰好、どうしたの?」

「あ、こ、これは……ロックの申し子で天才雀士たる私を精一杯表現するために……」

「……そっか……そっかぁ」

 

 レンくんが目頭を押さえて俯いた。な、泣いているんですか? い、一体どうして!?

 

 はっ!? わ、私がさっきまで天才過ぎるが故の孤独感を味わっていたことを悲しんでくれているんですね!

 

 もう……本当にレンくんったら本当に優しくて心配性なんですね~♡ 私は大丈夫ですからね~よしよし♡

 

 そう思ってレンくんの頭を撫でてあげる。するとレンくんは一度顔を上げて全てを悟った表情になると「俺がいないとダメだ」って小さくポツリと呟いていた。

 

 えへっ、えへへっ……「俺がいないとダメだ」って! ぎゃ、逆ですよ~レンく~ん! 君は私がいないとダメなんですよね~?

 

 し、仕方にゃいですね~☆ ふへへっ、ふへへへへっ!

 

「ひとり」

「あっはい」

 

 そして、俯いていたレンくんが意を決したような表情で……ものすごく真剣な表情で私を見つめてくる。

 

 な、なんだかそんな風に見られると……ちょっと照れちゃうかも。ちょ、ちょっとだけだよ!?

 

 れ、レンくんったらそんな真剣な表情で一体何を言って───

 

「脱ぎなさい」

 

 ぱ、ぱぱぱぱぱぱーでゅん!?

 

 い、いいいいいいいいいいいまなんて!? なななななななんとおっしゃいましたですか!?

 

「脱ぎなさい」って!! 「脱ぎなさい」って言ったぁ!? 私の聞き間違い!? いいやそれはありえない!! こ、こんな言葉を聞き間違うなんてありえない!!

 

 れ、れれれれれれレンくんが新学期早々私に向かって「脱ぎなさい」なんて……

 

 大槻さんに遠隔操作されている!!

 

 おのれ大槻ヨヨコ!! ……さん!!

 

 私達からTokyo Music Rise優勝の栄誉を掻っ攫って行っただけでなくレンくんの心まで支配しようというのか!!

 

 許すまじ!! たとえレンくんの心を奪えても身体まで奪えると思わないことね!!

 

 いや違う違う!! 逆だよ逆!! 心が奪われてどうするの!? たとえ身体を奪えても心まで───

 

 いや違う違う!! 身体も奪われちゃダメだって!! やはり女盗賊(シーフ)!! きっと大槻さんのご先祖様はさぞかし名のあるいやらしい女盗賊だったに違いない!!

 

 くっ……だけどどうする!? 大槻さんに洗脳されているレンくんを解放するにはどうすれば……

 

 で、でも普段はとっても優しいレンくんにこう……強引に迫られるのも悪くないかも……

 

『ひとり、脱げよ』

『ひゃ、ひゃい……』

 

 ぶへへっ……あ、ありですねぇ~!!

 

 放課後に普段は使われていない空き教室で二人きりになってレンくんに迫られちゃって……あっ、だ、ダメですぅ♡ いや、ダメじゃないですぅ♡

 

 レンくんなら……レンくんなら……

 

「レンくんなら……いい、ですよ……?」

「ピンクジャージ脱いで制服に着替えなさい」

「あっはい」

 

 レンくんにちょっぴり怒られました。レンくんは全然いやらしいことを考えていませんでした。いやらしいことを考えているのは私だけでした。おのれ大槻さんめ!! 私にまでえちえち電波を飛ばしてくるとは!! 普段の硬派で清楚で淑女な私のイメージが崩れちゃうでしょ!!

 

 その後、女子トイレで制服に着替えて教室に行きました。

 

 

 

 

猫々(ねね)ちゃん! イケメンな先輩がヒッピー先輩に絡んで連れて行っちゃった!!」

「絶対勇者だ!! あのイケメン先輩は勇者に違いない!!」

「お、思わず二人の写真を撮っちゃった……ど、どうしよう?」

「待ち受けにするとご利益がありそう!」

 

 

 

 

 

「おはよう、ひとりちゃん! 今年は同じクラスになれたわね。よろしく!」

「あ、き、喜多ちゃん。おはようございます。こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

「……どうしたの? なんだか元気ないわね」

「そ、そんなことないですよ……」

 

 制服に着替えて二年三組にやってくると、喜多ちゃんが眩しいくらいの笑顔で迎えてくれた。ぐうぅぅぅっ!! ただでさえ新学期で精神力が削られていてレンくんにちょっと怒られた上に喜多ちゃんの陽キャオーラ……せ、世界が私に厳し過ぎる。

 

「レンくんもおはよう……難しい顔してるわね?」

「おはよう……ちょっと、ロックの在り方について色々考えてたんだ」

「ロックの在り方?」

「『世間一般の常識を理解した上で()()から外れた行動』をロックと定義するなら、そもそも『外れた行動を常識と思い込んでいる人』が『世間一般の常識から外れた行動』をしたところでそれはロックとなりえるのか……」

「なんだか哲学的……よくわからないけどレンくんは朝からお勉強熱心なのね!」

 

 喜多ちゃんが「偉いわね~」と言ってレンくんの頭を撫でている。そんな喜多ちゃんを見てレンくんは色々と諦めたような表情……というよりものすごく残念な物を見るような目で喜多ちゃんを見ていた。

 

「ひとりちゃんの席は私の後ろよ。その後ろがさっつーだからね。これからは学校でもたくさんおしゃべりしましょう!」

「あ、ほ、ほどほどでお願いします……」

「やまだー、ごとー、おはよう」

「おはよう、佐々木さん」

「お、おはようございます。ささささん」

 

 き、喜多ちゃんとさささんが近くにいてくれるなら安心……と思ったけど喜多ちゃんの席の周りに喜多ちゃんのお友達がだくさん!? こ、これが陽の結界!! ま、まずい……私が無惨様ならこれだけで生き恥を晒してしまうっっ!!

 

「ひとりちゃん、おはよー!」

「今年も同じクラスだね~」

「あ、よ、よろしくお願いします」

 

 自分の席に着くのをためらっていると、一年生の時のクラスで特に仲の良かった女の子二人が話しかけてきてくれた。こ、今年もこの二人と同じクラス……レンくんがいて喜多ちゃんがいてささささんがいて……何だよクラス替えって最高だな!!

 

 ふっ……どうやら世界が私に味方をしているようですねぇ。

 

「あ、そうだレンくん。忘れない内にCD返しておくわね。このアルバムすっごくよかったわ~。私的には『車輪の唄』が一番ね。爽やかだけど切なくなる感じがすごく私好み」

「ほう……喜多さんらしいチョイス。だけどこれはBUMP道の始まりに過ぎない。次は3rdアルバムを持ってきたから心して聴くがよい。かの有名な『天体観測』をはじめ名曲揃いの一品で一曲目はなんとイントロが一分という挑戦的な一曲だけど長いとは微塵も感じなくてむしろイントロを聞いた瞬間───()()よ? そこから二曲目の『天体観測』に続いて最高に盛り上がっていくんだけど……ここから先は君の耳で確かめるといい」

「レンくんってやっぱりリョウ先輩の弟なのね」

 

 レンくんがものすごく目をキラキラさせながら子供っぽく嬉しそうに語っていたら、喜多ちゃんの一言でスンとした表情になる。た、確かに早口で語るところはリョウ先輩っぽいけど、スンってなるのは喜多ちゃんに似てる気がする……ま、まさかレンくんはすでに喜多ちゃんに染め上げられていた!? 

 

 わ、私の……私のあずかり知らぬところで!?

 

「なになに? 喜多って山田にCD借りてたの?」

「ええ。私、もっとギターボーカルについて勉強しないといけないってこの前のコンテストで痛感したからレンくんに相談したのよ。そうしたらBUMPのライブDVD一式とアルバムを一枚持ってきてくれて……」

「BUMP仲間を増やそうかと。あとついでに姉貴への狂信を上書きできないかと思って」

「ふっ、甘いわねレンくん。私のリョウ先輩に対する思いはこのくらいで揺らがないわ!! 私の心をそう簡単に奪えるとは思わないことね!!」

「俺(BUMP)色に染め上げてやんよ……」

 

 あっあっあっ……大槻さん……大槻さんの洗脳がこんなところにまで侵食している!! れ、レンくんも喜多ちゃんも教室でえっちすぎます!! 「心を奪う」とか「俺色に染め上げる」とか……もっと場の空気を読んでください!!

 

 で、でも……!! それ以上に……!!

 

 レンくんからCDを借りるなんて……喜多ちゃんが羨ましい……

 

 私だってまだ借りたことがないのに。

 

 私の方がそのバンドのことをたくさん知ってるのに。

 

 私の方がそのバンドの曲をたくさん弾けるのに。

 

 レンくんにいつリクエストされてもいいようにお家でいっぱい練習してたのに。

 

 喜多ちゃんばっかり……ずるいなぁ。

 

 やっぱりレンくんは……喜多ちゃんみたいな女の子が好きなのかな?

 

 そうだよね。喜多ちゃんってすごく元気で明るくて誰とでもすぐに仲良くなれてみんなから愛される人気者で……私なんかと違ってたくさん魅力がある女の子……

 

 喜多ちゃんのことは大好きなのに……こんな風に思っちゃうなんて、私……嫌な子だ。

 

 楽しそうに話す二人を見て、私は心にもにゃもにゃした暗い感情を抱えてしまった。

 

 そんな暗い感情を悟られたくなくて、これ以上喜多ちゃんとレンくんが話しているのを見ていたくなくて、私は机に突っ伏して誰にも顔を見られないように───

 

「ひとり」

 

 ───しようとした時に、レンくんが私に優しく声をかけてくれた。

 

「ひとりもさ。これ聴いてみてよ」

 

 顔を上げると、レンくんが優しく笑って私にCDを差し出していた。

 

 ああ、本当に……本当に……()()()()()()()だよ?

 

「あ、もしかしてもう持ってた?」

「い、いえ……も、持ってない、ですっ」

 

 嘘。

 

 本当はもう持ってる。

 

 レンくんがこのバンドのことを好きだと知ってから、アルバムは全部買ってあったんだ。

 

 君といつでもお話しできるように、たくさんたくさん聴いていた。

 

 だけど、君の言葉が、優しさがたまらなく嬉しかったから。

 

 私は君に一つ嘘をつきました。

 

「今度、色々リクエストするからさ。また時間がある時にでも演奏聴かせてもらえる?」

「は、はいっ。もちろんっ……」

 

 レンくんは悪戯っぽく笑う。私はそんな彼の笑顔を直視できず、俯いたままCDを受け取って大事に大事に鞄にしまいこんだ。

 

「やまだー」

「何?」

「百点あげよう」

「……やったぜ?」

 

 さ、ささささん!! 余計なこと言わなくていいですっ!!

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