【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#69 吉田銀次郎への電話

「あはは、新学期早々大変だったね~」

「俺は今日一日で色んなものを失った気がする」

「だ、大丈夫よ! 先生はちゃんと事情を理解してくれたでしょう?」

 

 始業式と入学式を終えた放課後、午後からはレーベルに話を聞きに行く以外はフリーだったので結束バンドのみんなと一緒にファミレスでお昼ご飯を食べることにした。

 

「よかったねぼっちちゃん。レンくんや喜多ちゃんと同じクラスになれて」

「あっはい。な、仲の良いお友達も一緒なので……こ、これからバラ色の高校二年生が始まりますよ~」

 

 危うくそのバラは枯れるところだったけどね。

 

「私も虹夏と同じクラス。今年も一年精一杯甘えさせてもらいます!」

「力強く情けないことを宣言するな! もう三年生なんだからお世話は控えるからね」

「絶対無理だ」

「無理ですね」

「む、無理だと思います」

「む、無理じゃないんもん! 今年一年は課題を写させてあげたりリボン直してあげたり制服にアイロンかけてあげたりしないから!」

「もしそうなったら全部レンにやらせるから結局私は何一つ変わらない」

「おいふざけんな」

 

 俺は俺で色々と今後のやるべきことを考えてるんだから、姉貴の世話をする頻度は減るよ? というかさ、本当にそろそろしっかりしてくんない? せめて朝は自分で起きれるようになれ。

 

「でも私が自立して立派になったら虹夏もレンも物足りなくて寂しくなるに違いない」

「いや、ならない」

「あたしも……な、ならないっ!」

 

 虹夏ちゃんの反応がだいぶ怪しいけど本当に大丈夫? この前、星歌さんが廣井さんのことを「野良猫」とか言ってた時に虹夏ちゃんは「リョウは野良ペルシャだから」って誇らしげにしてたけど、手遅れだったりしないよね?

 

「そういえば、ちょうど一年前にこのファミレスでぼっちちゃんと初めて会ったんだよね~」

「あ、そ、そうですね。な、懐かしいです……」

 

 あの出会いから一年か……この一年、本当に色んなことがあったな。今にして思うと、ひとりと虹夏ちゃん達の出会いは奇跡だったかもしれない。もしも去年、俺とひとりが同じクラスじゃなかったら。もしも去年、俺がひとりに声をかけなかったら。もしも去年、ひとりが勇気を出して一歩踏み出そうとしなかったら。

 

 今の結束バンドはなかったかもしれない。

 

「そう思うとなんだか感慨深いですね~」

「一年前……まだ郁代がギターを弾けるって嘘ついてた時期」

「い、嫌なこと思い出させないでください! 封印したい黒歴史なんですから!」

「喜多さん、将来結束バンドのドキュメンタリーを作る時の鉄板ネタだね!」

「絶対公になんてしてやらないから!」

「大丈夫。俺は一生『忘れてやらない』から」

「……こうなったら物理的に記憶を奪うしかないわね」

「そんなことさせないよ。俺には喜多さんの黒歴史を喜多さんの結婚式で暴露して喜多さんの子供にも孫にも未来永劫語り継いでいくっていう使命があるんだから」

「どれだけ私の人生に干渉する気なの!?」

「……死ぬまで?」

「さらっと恥ずかしいこと言わないで頂戴」

 

 喜多さんがちょっと恥ずかしそうに俺から顔を逸らす。まさか姉貴じゃなくて俺相手にそんな反応を見せるようになるとは。……改めて今年の目標の一つに『姉貴への狂信を上書きする』を加えておこう。

 

「そうそう。レーベルに行く前に、俺から一つ提案があるんだけど」

「提案?」

「うん。みんなに……っていうより虹夏ちゃんにかな」

「あたし?」

 

 虹夏ちゃんが自分を指差して首をかしげる。

 

「虹夏ちゃんのバイトのシフトを減らそうと思うんだ」

「え? な、なんでですか……?」

「受験生だからね」

「あ、ああ……そういえば、そうですね」

 

 ひとりの問いに一言で答える。結束バンドでメジャーデビューを目指すとは言え、虹夏ちゃん個人は大学へ進学することを目標としている。しかも目指している大学は芳文大……ぶっちゃけかなり偏差値が高い。だからバイトやバンド活動をしながら受験勉強もやるってなると負担が大きすぎるんだよね。

 

「みんなで虹夏ちゃんの負担を減らしてあげようって考えたんだ。今はもうライブのノルマも問題なくて、しっかり黒字になってるから虹夏ちゃんが無理にバイトをしなくても大丈夫だしね。あ、ちゃんと星歌さんには話を通してあるよ。それに、虹夏ちゃんが入れなくなる分の労働力……新しいバイトには俺に()()があるから」

「あたしの知らないところでものすごく根回しが進んでる!? 勉強に少しでも集中できるから、それはすごくありがたい提案なんだけど……みんなはそれでいいの?」

「もちろんですよ! STARRYは私達に任せてください!」

「虹夏、私がいて何の不安があるというのかね?」

「に、虹夏ちゃん! わたっ、私がSTARRYを守りますから……」

「……レンくん、頼りにしてるよ?」

 

 虹夏ちゃんはバンドメンバーの三人を見て「不安しかねえ!」って露骨に表情に出しながら俺にそう言った。いや、気持ちはわかるよ。この三人だけをシフトに入れるとカオスなことになるって星歌さんも言ってたし。だから俺ができるだけフォローするからさ。

 

「そういえば、レン」

「なんぞ?」

「当たり前のように虹夏を特別扱いしているけど、私も受験生」

「姉貴が受かる大学はない」

「担任にも同じこと言われた」

「だろうな」

「だから私はニート試験を受けようと思う」

「俺が合格出してやるから真面目にバイトしろ」

「やったぜ」

「待て待て待て! ニート試験!? レンくん! そんなのに合格出しちゃっていいの!?」

「甘いな虹夏。私のモットーは常時背水の陣。あえて退路を断ち、人生の全てを結束バンドにベットした。それほどの覚悟があるということ」

「……本音は?」

「昼まで寝たいから進学しない」

「ばかたれ!!」

 

 姉貴の発言に虹夏ちゃんがおしぼりを姉貴の顔面に投げつけた。でも正直、姉貴はこの道以外で食っていくつもりはないし、食っていける気がしない。ただもしも……本当にいざという時には……俺は姉貴のために色んな所に頭を下げる覚悟はできている。

 

「喜多さんやひとりは安心してね。俺がちゃんと大学に合格できるくらいの学力は身につけさせてあげるから」

「キャンパスライフは楽しそうだけど……一番練習しなくちゃいけない私が大学に行っている余裕なんてあるのかしら……」

「気持ちはわかるけどさ。大学って別に遊ぶだけの場所じゃないからね? 見聞を広められれば、それだけ人間性に厚みが出て音楽に対する向き合い方が変わって表現の幅が広がることにつながるんだから」

「レンくん、先生みたいなこと言うのね」

「一応俺も大学……教育学部志望だし」

「そうなの? ふふっ、レンくんならいい先生になれそうね」

「ありがと」

「お礼を言うのは私の方よ。時間はあるから色々考えてみるわね」

 

 音楽だけに向き合うことで成長できる人と、色々な世界を歩んで成長できる人。人によって成長のきっかけはさまざまだ。そして多分、姉貴やひとりは前者の方に近く、喜多さんや虹夏ちゃんは後者に近い性質をしていると俺は思っている。

 

 ただ、音楽以外を蔑ろにするのはそれはそれで問題だと思うから、姉貴もひとりも定期的に外に連れ出す必要はあるけどね。

 

(れ、れれれれれレンくんが学校の先生!? 生徒との禁断の恋!! 『先生……私、もう我慢できません……』って女子生徒に食われるに決まってる!! 昨今の女子高生の性事情は清楚な私と違って乱れに乱れまくっているんだ!! で、でもたとえレンくんが捕食された側だとしても逮捕されるのはレンくんだから……)

 

 なんかひとりがいつものように百面相しているなと思ったら、急に真剣な表情になって俺を見てきた。

 

「れ、レンくん……刑務所には毎日面会に行きますからね」

「未来の俺は何の罪を犯したの?」

 

 俺が聞き返すとひとりは顔を赤くして俯いてしまった。

 

 絶対ろくなこと考えてなかったなこの子!?

 

 

 

 

 

「まだレーベルに行くまでに時間があるね。じゃあ、あらためてこれからお世話になるかもしれないレーベルについておさらいしておこうか」

 

 みんなでお昼ご飯を食べた後、ドリンクバーで食後のブレイクタイムを過ごしていたところで虹夏ちゃんが話を切り出した。

 

「では、山田レン諜報部門大臣。改めて報告を」

「はい。では皆様、お手元の資料をご覧ください。そして善意の情報提供者、吉田銀次郎氏に一礼」

 

 俺がA4用紙をみんなに配った後、スマホに映っている吉田店長の画像にみんなで一礼する。本当にこの人は頼りになるお方。俺も結束バンドもこの人には足を向けて眠れませんわ。

 

 レーベル名は「ストレイビート」

 

 規模の小さいインディーズレーベルながらネット初の音楽ユニット「クリムトの夜」が所属しているなど、確かな実績があるレーベルだ。評判についても特に悪い噂はなく、吉田店長曰く……

 

「下北の事務所だと、二十代の若い女の子が担当ね~。すごくきっちり仕事をするって評判よ~」

 

 とのことだ。二十代の女性がマネジメントしてくれるのか。みんなと年齢が近いし、話しやすいかもしれない。

 

「口を酸っぱくして何度も言うけど、いきなりレーベルから毎月お給料が支払われることはありえないと思ってね」

「なぜそこで私を見る?」

「レーベルに声をかけられたって聞いた瞬間、欲しい機材をネットでポチろうとしたからだよ」

 

 俺と虹夏ちゃんが危惧した通り、レーベルの話をした時に姉貴達は浮かれまくっていた。ひとりはギターヒーローの収益でブランド物のジャージを買おうとするし……あ、でも喜多さんは意外と落ち着いてたな。興奮しまくっている姉貴とひとりを見て冷静になったらしい。

 

「どういう条件で契約を持ち掛けてくるかはわからないけど、内容をよく確認しないで二つ返事で契約しないこと。気になることがあったら些細なことでもいいから必ず確認すること。いいね?」

 

 俺が念を押すと姉貴とひとりと喜多さんが手を挙げて「はーい」と言った。虹夏ちゃんもいるし、俺も同席していいことにはなってるからよっぽど大丈夫だとは思うけど。

 

「まあ、やみさんからの紹介だから信頼はできるんだけどね……」

「レンくんってぽいずんさんのこと結構好きだよね?」

「年上だし面倒見が良いしおもしれー女だしロリ顔のくせして意外とおっぱい大きいから」

 

 俺の代わりに答えた姉貴の頭をひっぱたいておく。

 

「違わい! 見た目と言動は痛いけどバンドに対しては真摯だから信頼してるんだよ」

 

 そもそも、この話を持ってきたのはやみさんなんだ。Tokyo Music Riseのファイナルステージが終わった三日後に俺に連絡があって、虹夏ちゃんとバンドのスケジュールを調整して今日話を聞く予定を立てた。で、今日までに吉田店長に話を聞いたり自分達で色々とストレイビートについて調べたってわけだ。

 

「それと、結束バンドのレーベルに対する大事なスタンスとして二つ、もう一度確認しておくよ」

 

 俺の話が一通り終わると、次に虹夏ちゃんが話し始める。

 

「一つ目は『未確認ライオット』について。レーベルに所属することで、未確認ライオットへの参加を辞退しなくちゃいけなくなったり、優先順位が下がるようだったら考え直さなきゃいけない」

 

 未確認ライオットについては、すでにエントリーを済ませて音源審査用のCDを送付してあった。「レーベルに所属しているバンドが参加してはいけない」っていう条件はないから、そこに関しては大丈夫なんだけど、虹夏ちゃんの言うように場合によってはレーベル側から辞退を促される可能性だってある。

 

 だけど、この一年ずっと目標にしていた未確認ライオットを目の前で諦めろというのは、今の彼女達には絶対にできない。SIDEROSにだってリベンジしてないもんね。

 

「そしてもう一つ……『ギターヒーロー』について」

 

 結束バンドが抱える最大の課題は「ギターヒーローの存在をどう扱うか」というものだ。今のところ、幸運にもひとりとギターヒーローを結びつける人がやみさん以外にいないから安心だけど、レーベルについてはそうはいかない。

 

 当然、結束バンドについて色々調べているだろうし、ギターヒーローの存在にも気付いているだろう。再生数百万回以上の動画を連発する凄腕ギタリスト……レーベル側からしてみれば利用しない手はない。

 

 だけど

 

()()()()、ギターヒーローのネームバリューを借りて売り出す訳にはいかない」

 

 虹夏ちゃんの言葉に全員が頷く。

 

 プロの世界で生きていくためには、そういった売り出し方を受け入れなければならないということを四人はちゃんと理解している。だけど、理解した上でこの点だけは譲れないんだ。

 

 ギターヒーローの名前を使えば、確かに良い宣伝になるだろう。だけど、それは果たして結束バンドの力といえるのだろうか。

 

 綺麗事だと、子供の我儘だと思うかもしれないけど……それでもみんなは「結束バンド全員の力で売れたい」と思っている。

 

 それに、ひとりの演奏はかなり安定してきたとはいえまだまだギターヒーローと同等とは言えない。仮に公表したとしても、信じてもらえずに逆に反感を買う可能性だってある。この辺を交渉材料とすればなんとかなるかな。

 

 ただ、それらのデメリットを承知でギターヒーローを絶対に公表するとレーベル側が頑なに主張するのであれば……その時は契約を見送らざるを得ない。

 

「未確認ライオットへの出場」と「ギターヒーローを公表しない」この二点が結束バンドの絶対に譲れない点だ。あとはレーベルが俺達の意見に対してどう反応するかだけ。

 

「あれ? メールだ」

 

 話が一通り終わり、全員の意思統一ができたところで虹夏ちゃんのスマホにメールが入る。

 

「えっと……池袋のライブハウスからブッキングライブのお誘い?」

「見せて」

 

 姉貴がそう言うと虹夏ちゃんがスマホをテーブルに置いて俺達にメールの文面を見せてくれた。

 

「……何か怪しくない?」

 

 文章を読むなり、姉貴はそう言った。新しいハコからのお誘いなのに全く浮かれた様子はなく、むしろ怪訝な表情を浮かべている。

 

「だよね? そもそもあたし達、ハードロックじゃないし……」

「う、打ち間違いとかじゃないですかね? ほら、ハードロックも広義ではロックですし……」

「あ、アタラシイハコ……」

「あ、ぼっちが溶けた」

「五分くらいで元に戻るでしょ。ねえレンくん、これどう思う?」

 

 溶けたひとりを虹夏ちゃんはあっさりスルーして俺に尋ねる。一年前はひとりの奇行にいちいちツッコんでいたのになぁ。成長したね、虹夏ちゃん。

 

「正直、めっちゃ怪しい」

「だよねー」

「でも、喜多さんの言う通り本当に打ち間違いの可能性もある……だから」

「だから?」

 

 虹夏ちゃんが首をかしげて尋ねてきたので、俺はスマホを取り出した。

 

「困った時の吉田ギンえもん!」

 

 ロインの友達リストから吉田店長を探し出して通話マークをタップ! ヨヨコ先輩も知ってそうだったけど、なぜかちょっと恥ずかしいからパス。

 

 ま、まあ俺のヨヨコ先輩に対する感情は置いといて! 

 

 会話がみんなに聞こえるようにスピーカーモードに切り替えて、と。

 

『はーい、どうしたの山田ちゃん?』

「吉田店長、お忙しいところすみません。今、お時間大丈夫ですか?」

『ちょうどお昼休憩中だから大丈夫よ~』

「ありがとうございます! あの、お聞きしたいことがありまして……池袋の───っていうハコからライブのお誘いがあったんですけど……」

『あ~……結束バンドちゃん達もとうとう目をつけられちゃったか~』

 

 露骨に落胆するような声が電話口から聞こえてくる。もうこのリアクションであかんライブハウス確定やんけ!

 

「ヤバいところなんです?」

『薬とか性犯罪の温床とかっていうヤバさじゃないんだけど……一言で言うと、ブッカーがクズなのよ』

「ブッカーがクズ?」

『ええ。バンドの相性なんて考えずに、とにかく枠を埋めること優先でスケジュールの空いてそうなバンドに片っ端から声をかけてるの。しかもブッカー本人はライブ中に居眠りする始末。キャバクラで女に貢いでるって話もあるわね~』

「それは……クズですね」

『そうなのよ~』

 

 想像以上にクズだった。なんでそんなライブハウスが潰れずに生き残ってるんだよ。本気でやってるバンドを何だと思ってるんだ。ブッカーの風上にも置けねーなー。

 

「ぶっちゃけ、そのハコでライブするメリットってあります?」

『ないわ』

 

 俺が尋ねると吉田店長は即答した。ですよね。

 

『それでも強いて……強いて言うなら、クソみたいな箱の雰囲気を知れるっていうのと、初めてのハコでライブをする経験値が積めるってことくらいかしら。でもはっきり言ってメリットとデメリットが釣り合わないわ。そんなところでライブするくらいならスタ練してる方が一万倍マシよ』

 

 あの温厚な吉田店長にここまで言わせるってことは、よっぽど酷いんだなこのハコ。

 

「虹夏ちゃん、どうする? 出る?」

「え? もう断りのメール作ってるんだけど」

「判断が早い!」

 

 虹夏ちゃんが「みんなもそれでいいよね?」って尋ねると、見事なまでの満場一致だった。さらば池袋のライブハウス。ブッカーが改心したらまた会おう。今回はご縁がなかったということで。

 

『それにしても、ちょうどいいタイミングで電話を貰えたわ~。あたしも山田ちゃんに連絡しようと思ってたところだったのよ』

「何ですか? バイトの助っ人です?」

『それもあるんだけど……結束バンドちゃん達、五月五日のこどもの日は予定が空いてたりしない? ウチでライブする予定のバンドメンバーが一人骨折しちゃって空きが出たのよ~』

「空いてます! 出ます!」

「判断が早い!」

 

 ゴールデンウィークに新宿FOLTでライブか。去年の九月、クリスマスと今回で三回目。Tokyo Music Riseのファイナルステージもかなりデカい会場だったし、そういう会場での経験値は順調に積めているね。

 

 あとは本番……捕らぬ狸の皮算用だけど、未確認ライオットのライブ審査までにどこまで技術を伸ばせるか……一応、考えはあるしレーベルに行った後にでもみんなに提案してみよう。

 

 ただ、ひとりに関してはどうするか……持っている実力は飛び抜けているから後はそれをちゃんと発揮できるかどうかなんだけど、そこが一番難しい。かといって周りに合わせることに集中するだけじゃ彼女の持ち味が死んでしまう。

 

 ……ちょっと別の刺激を与えてみるか。例えば、()()()()()()()()()()()()()()()()とか。他には、そうだな。あんまり頼りたくないけど、廣井さんに「セッションバー」に連れて行ってもらうとか。いやでもセッションバーの雰囲気にひとりが耐えられるとは思えない。

 

 でも、特定の相手だけじゃなくて、違う相手とセッションすることで改めて見えてくることもあると思うんだよね。実際、スランプに陥ってたギタリストがそういうことをやって復活した例もあるし。

 

 ただ、ひとりが極度の人見知りでコミュ障なのがネックなんだ。もちろん俺も付いて行くつもりだけど、無理強いはしないでおこう。あくまでひとりの意思が最優先だから。

 

 それと、同じギタリストの星歌さんにも話を聞いてみるかな。ひとりのこと大好きだからめちゃくちゃ力になってくれるだろうし。

 

『そういえば、この後レーベルに話を聞きに行くんでしょう? 若い子の成長は早いわね~。あたしもなんだか感慨深くなっちゃったわ』

「あたし達が成長できたのはみなさんのおかげです。吉田店長にも何度もお力を貸していただいて、今回だってストレイビートについて教えていただいて……本当にありがとうございます!」

『子供の成長を助けるのが大人の仕事なのよ。それに、一番がんばったのは結束バンドちゃん達でしょう? 誰が何と言おうと、あたしが認めてあげるから! これからも何かあったら気軽に相談してちょうだいね。あ、バンド関係だけじゃなくて恋愛相談もウェルカムよ~!』

「れ、恋愛……ヴォエッ!」

『おっさんみたいなえずきが聞こえてきたわよ!?』

「恋愛相談。結束バンドには微塵も縁がなさそうですね! ……はぁ」

『自分で言って自分で落ち込んじゃうの!?』

「郁代、そうとも限らない」

「え? どういうことですか? ……ま、まさかリョウ先輩に好きな男が!? み、認めませんよ私は!! 最低でもレンくんの十倍……いいえ、百倍は良い男でないと!! それでいて虹夏先輩以上の女子力とひとりちゃん以上の顔面偏差値とリョウ先輩のご両親以上の年収を兼ね備えた───」

 

 恋愛相談、か。喜多さんは変な勘違いをして盛り上がってるけど、姉貴が言ってるのは()()()()()()じゃないんだろうな。

 

 俺に対して意味深に視線を向けてきてたし。

 

 ……わかってるよ。ちゃんと。俺は、不義理なことをするつもりなんてないから。

 

「ねえねえ、レンくん」

 

 俺がそんなことを考えていると、虹夏ちゃんが俺の袖を引っ張ってきた。

 

「さっき言ってた、新しいバイトの()()って誰なの?」

 

 ああ、そういえばまだ言ってなかったね。

 

「えれちゃんだよ」

 

 俺がそう言った瞬間、年老いた縁壱に遭遇した兄上のような視線を全員が向けてくるのだった。

 

 ……酷くない?




 評価、感想、ここすき、誤字報告等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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