「ついた~! よみ瓜ランド~!」
「下北からすぐでしたね」
六月某日、相変わらずバイトとスタ練に勤しむ結束バンドと俺は川崎市にある「よみ瓜ランド」に来ていた。ただ、俺達五人だけじゃなくてSTARRYの慰安プチ旅行も兼ねてるから星歌さんとPAさん、あとなぜか廣井さんも一緒に来てるんだけど……
「しんどい」
「だるい」
「吐きそう」
「やさぐれ三銃士!!」
アダルト組三人は到着早々ベンチに座ってダウナーになっていた。いつも通り二日酔いの廣井さんはともかく星歌さんとPAさんはなんでそんなにテンション低いんですか?
「この歳になって幸せそうな子連れを見ると心が痛くなるんだ……自分の選んだ道を後悔してるわけじゃないんだけどな」
「星歌さん……やっぱ婚活パーティーに行きましょうよ」
「いやだっ! そんな妥協者達の集いの仲間入りなんてしたくない! 絶対どこかに運命の出会いが転がっているはずなんだ!」
「お姉ちゃん! 三十歳にもなって何を少女漫画みたいなこと言ってんの!? 今時女子中学生だってそんな妄想しないよ!」
「女は何歳になっても女だし、
何か名言っぽく言ってるけど、実際の会話内容はものすごく情けないですからね。そりゃあ星歌さんは美人で三十歳にもなってツンデレでSTARRYで誰よりも乙女で家事ができなくてぬいぐるみを抱いてないと寝れなくて……
どうしよう?
「PAさんも元気出してくださいよ。何か嫌なことでもあったんですか?」
「……レンくんもいずれわかります。家に帰っても誰も『おかえり』と言ってくれなくて料理しても誰も食べてくれない。食品添加物まみれのコンビニ弁当やウーバーイーツで済ませるから体の中はボロボロに……」
「わーっ! わーっ! いいですっ! それ以上言わなくていいですからっ! 何ならたまには俺の家にご飯食べに来ていいですからっ!」
「……いいんですか? 本当に行きますよ?」
PAさんがベンチに座ったまま上目遣い気味に俺を見てくる。……そういう感じで男に迫ればイチコロだと思うんだけどなぁ。
「もちろん。ウチ、普段は父さんと母さんの帰りが遅いんで基本的に姉貴と二人ですし。それに、姉貴は何も喋らずただ黙々と食べてるだけなんでPAさんが話し相手になってくれたら嬉しいです」
「……年下の男の子の優しさで涙が出そうです。でも私はそんな優しさに容赦なく甘えますからね」
本当はPAさんみたいなお姉さんに甘やかされるのが俺の夢なんだけど……仕方ないよね。司馬さんといいやみさんといい、最近の俺は年上のお姉さんを甘やかしてばかりな気がする。
「ここが公共の場でなければ抱き着いてましたよ。はぁ……レンくんがあと十歳、歳を取っていれば……」
もし俺がPAさんと同年齢だったら……多分、そういう関係になってたんじゃないですかね。俺の好みどストライクですし。
「山田しょうね~ん、私は~?」
「廣井さんは姉貴との特訓の後にいつもウチにご飯を食べに来てるじゃないですか!」
そう、いつの間にか廣井さんが新宿FOLTで姉貴に技術指導をする→そのまま姉貴がウチに連れてくる→ウチに泊まるという流れができてしまっていたんだ。ただ、ウチに来るときは酒を飲ませないようにしてるから健康状態も少しは改善……されてるといいなぁ。
「いいよなぁ。花の女子高生は羨ましいなぁ。セブンティーンだもんなぁ」
「星歌さんも女子高生時代があったでしょ」
「ただ、私の周りにはお前みたいなヤツはいなかった」
さいですか。
俺や虹夏ちゃんがアダルト組を宥めつつフォローをするも、三人はアトラクションで遊ぶつもりはないらしくフードコートの一角を陣取って酒盛りを始めてしまった。
「何しに来たんですかねこの人達」
「喜多ちゃん、醜い下界は放っておいてあたし達は楽しもうね」
「ですね! 臭い物には蓋をしてないないしちゃいましょう!」
喜多さんと虹夏ちゃんが容赦なくそんなことを言っているけど、残念ながら否定できなかった。しゃーないから俺達は俺達で遊ぼう。
「ここまで来ておいて今さらだけど……ひとりは遊園地とか平気?」
「あっはい(本当はカップルとか子連れとか学生集団とかたくさんいて……私の心を抉るものが多すぎる!!)」
あ、これ嘘ついてる時の顔だわ。
「……本当は?」
「ごめんなさい嘘つきました本当はこういうところ苦手です特にリア充達を見ると青春コンプレックスを刺激されてあががががががががががががががががががが!!!!」
今度はひとりが痙攣し始めた。予想していたことだけど、即死しなかったあたり成長を感じるね。
「でもさ、ひとり。よく考えてみてよ」
「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!??」
「友達と一緒に遊園地に遊びに来てる時点でひとりもリア充の仲間入りしてるでしょ?」
「あばばばばばばば……あばっ?」
あ、痙攣が止まった。
「傍から見れば、ひとり達はキラキラ眩しいJK集団。むしろ周りの方が羨む立場だよ」
「あばっ! あばっ!」
おかしな返事だったけどひとりは元気になったみたいだな、ヨシ!
「何これ異文化コミュニケーション?」
「ギターしか知らない悲しきモンスターと純粋無垢な少年の心温まる交流ですね」
喜多さんと虹夏ちゃんは辛辣だったけど、ひとりが前向きな気持ちで遊ぼうとしてるからこれでいいんだよ。
「で、姉貴はどうすんの? ベンチに座ってボケっとしてるけど」
「家でダラダラしたかった……でも、レンがどうしても一緒に遊びたいって言うならついていってあげてもいい」
こんにゃろう。まーた変な意地張りやがって。家でダラダラしたいっていうのも本音だろうけど、姉貴を無視して俺達だけで楽しんだらそれはそれで拗ねるだろうが。本当に面倒臭い生き物だな。
「どうしても一緒に遊びたい」
「ふふんっ♪ そこまで言うならしょうがない。まったく、レンは私がいないとダメなんだからぁ♡」
「それでいいから。ほら、行くよ」
俺が姉貴に手を差し出すと、姉貴は満面の笑みを浮かべて俺の手を取った。これでなんとか全員で一緒に遊べるな、ヨシ!
「レンくん……」
「何、喜多さん?」
喜多さんが無駄に神妙な面持ちで俺を見てくる。あ、これしょーもないこと言う時の喜多さんだ。
「名前で呼ばないで」
「その『いくよ』じゃないっ!」
このくだり何回やるの?
まあいいや。とにかくこれでみんなと遊べるから、あとは何のアトラクションを回るかなんだけど……
「虹夏先輩、見てください! 瓜ボーカチューシャですよ! みんなでこれ着けましょうよ!」
「え~、あたしこういうの恥ずかしいんだけど」
喜多さんと虹夏ちゃんは近くの売店できゃっきゃとはしゃいでいる。よみ瓜ランドのマスコットキャラはイノシシの子供であるうり坊をモチーフにした瓜ボーで、これがまた絶妙に可愛くないんだよな。本物のうり坊は可愛いのに。
「レンくんレンくん、カチューシャつけてみたんだけどどうかな?」
「はい可愛い。抱きしめていい?」
「こんな人の多いところでダメだよ~♪」
瓜ボーカチューシャを着けた虹夏ちゃんが上目遣いのあざとい仕草で俺に尋ねてくる。こういうテーマパークのカチューシャって女の子が着けると一層可愛く見えるよね。男が着けると「お、おう……」ってなるけど。
「レンくんったら一体何を───って虹夏先輩可愛すぎでしょ抱きしめていいですか!? ありがとうございます!」
「あたしの許可取る前に抱き着いてるじゃん!」
同じく瓜ボーカチューシャを着けた喜多さんが虹夏ちゃんに抱き着いていた。非常に尊い光景だったので、俺はこっそりと二人の様子をスマホで写真に収めておくことにする。
その後、なんやかんやで姉貴とひとりも同じようにカチューシャを買って着けることになったんだけど、あろうことか俺にも同じものを着けさせようとしてきやがったんだ。
「レンくんも着けなさいよ~。ノリが悪いわよ?」
「こういうのは女の子が着けるからいいんだって。俺はありのままの姿で楽しみたいんだ」
「ありのまま? つまり生まれたままの姿……全裸ってこと? レンくんって露出癖があったのね」
「うん、あるある。じゃあ何から回ろうか?」
「対応が雑!」
喜多さんが意味わからんことを言ってきたので適当にあしらうと、今度は無理矢理俺にカチューシャを着けようと実力行使に出てきた。前にも思ったけど、喜多さんってこういうどうでもいい場面で力が強くなるよな!
「くっ……こうなったら最後の手段ね! ひとりちゃん! ひとりちゃんの可愛いおねだりパワーでレンくんにカチューシャを着けさせるのよ」
「え、ええ……?」
まーたそうやってひとりに無茶振りする。そういう雑なフリをした結果、大惨事にしかならなかったことをこの一年の付き合いで嫌というほど学んだはずでは?
「お、おねだり……おねだり……(か、可愛くって言われてもどうすれば……はっ! こ、ここは本物のうり坊の可愛らしさを全面に押し出した物真似をすればいいんじゃ!? これまでは戦国武将物真似シリーズがことごとく滑っていたけど、可愛い動物さんの物真似シリーズならいける!!)」
ほーら、ひとりがろくでもないこと考えてる笑顔になったよ。さあこい。今度はなんだ? 俺はもうどんな奇行でも受け入れる準備ができているから。
「ぷ、ぷぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!」
「めっちゃリアルなうり坊の鳴き声!?」
「ひとりちゃん! その汚い鳴き声のどこに可愛い要素があるの!?」
喜多さんは自分でひとりに振っておいて辛辣なリアクションだったけど……俺はひとりの健闘に免じて瓜ボーカチューシャを着けるのだった。
「まずは定番のおばけ屋敷に行きましょう!」
「嫌だっっっ!!!」
「今までに見たことがないレンくんの全力拒否!?」
おまっ……おまっ……! ふざけんな! 開幕からおばけ屋敷とか……そうか、喜多さんはそんなに俺のことが嫌いだったんだね。
「いいのか喜多さん? 俺をおばけ屋敷なんかに連れ込んで。言っておくけど───俺は文化祭のおばけ屋敷ですら半泣きになる男だよ?」
「全力のキメ顔でなんて情けないこと言うの!?」
おばけ屋敷の前までやってきた俺は、文化祭にヨヨコ先輩と半泣きでおばけ屋敷を回っていたことを思い出した。学生レベルのクオリティであんなになるんだから、本物のおばけ屋敷に入ったらどうなるかわかったもんじゃない。
「別にレンくん一人で行けなんて言ってないでしょ?」
「わかった。それなら俺が真ん中で四人は俺を囲むような陣形で行こう」
「RPGのお姫様枠!? 五人で一緒に回ると怖さが半減するから二人と三人に別れようと思ってるんだけど」
「よく考えるんだ、喜多さん。もしもそれで俺と虹夏ちゃんの組み合わせになってみろ……どうなると思う?」
「……どうなるのよ?」
「ゴールできなくて係員さんに別の出口から出してもらうことになる」
「だからなんでそんなキメ顔で情けないこと言うのよ!?」
言っておくけど、これは冗談じゃなくてマジだからね? 虹夏ちゃんもあれでかなり怖がりだから俺とペアになったら大惨事間違いなし。俺も虹夏ちゃんもホラー映画だと真っ先に死ぬ程度の耐性しかないから。
「だったらレンくんは三人で───はっ!」
あ、今度は喜多さんがろくでもないことを思いついたな。そんなに目をキタキタさせてる時のこの子は大体とんでもないことを言い出すから。
「ひとりちゃんはおばけ屋敷平気だったわよね?」
「あっはい」
「じゃあ、ひとりちゃんとレンくんがペアになればいいわ! あとは私とリョウ先輩と虹夏先輩の三人で回りましょう!」
「あべばぁっ!?」
思いの外まともな提案だった。ひとりがとんでもない叫び声を上げていることを除けば。そういえば、幽々ちゃん曰くひとりには「すごいのが憑いてる」らしいから、この子の傍にいるのが一番安全かもしれない。
「ひとりさん」
「あっはい」
思わずさん付けしちゃった。
「手を離さないでください!」
「あっ……ひゃ、ひゃいっ……!」
俺が手を差し出すと、ひとりは驚きながらも恐る恐る手を握ってくれた。すごく恥ずかしそうにしてるけど、ごめんね。今の俺には人の温かさが必要なんだ。……変な意味じゃなくて、心の安寧のために。
「う~ん、シチュエーションだけなら青春ポイントが高いはずなのに」
「レンくんの怖がりが仇になっちゃったか……いや、でもぼっちちゃんにとっては良い機会かも……」
喜多さんと虹夏ちゃんが腕を組んで後方支援者面していたけど、この時の俺はそんな二人に気付くほどの余裕はなかったんだ。
「お皿……一枚足りない……私のお皿……どこ……?」
「あ゙ーっ!! あ゙ーっ!! 俺の膝の皿あげるから命だけは勘弁してーっ!! あ゙ーっ!!」
井戸から白い死装束を着た女の人がゆらりと現れたので俺は思わずひとりに抱き着いた。こんなことしたらひとりが爆発四散しちゃうかもしれないけどごめん! そんな気遣いできません!
「足いるかー…………足いるかー……?」
「ぎゃーっ!? さっきの膝の皿といい、てけてけといい、ここのおばけは下半身フェチなのかよ!? あぎゃーっ!!」
てけてけはやめて!! ぬーべーのトラウマだから!!
「レ、レンくん……結構余裕ありますね……」
「ないよ!! こうやって叫んで恐怖を紛らわしてんの!!」
「わ、私がいるから大丈夫ですよ」
「……うん」
(怖がってるレンくん可愛い……)
こんな風におばけ屋敷では俺が一人でぎゃーぎゃー騒いでいるだけで終わった。いやね、怖いもんは怖いんだって。作り物や人だとわかっててもそれとこれとは別問題なんだ!
「終わった……ゴールした……俺、泣かなかったよ……」
「はい。よくがんばりました。レンくんは偉いね」
涙が出てないだけで半泣きだったけど俺はゴールした!! 心臓バクバクで呼吸を荒げている俺の頭をひとりが優しく撫でてくれる。こういう時のひとりは包容力があるというかお姉ちゃんっぽくなるよね。
「あ、虹夏ちゃん! 大丈夫だった!? めっちゃ怖かったよね!?」
「怖かった! あたしちょっと泣いちゃったもん……」
「ちょっとじゃない。びーびー泣いてた」
「びーびーは言ってないでしょ!」
先にゴールしていた姉貴達と合流する。どうやら本気で怖がっていたのは俺と虹夏ちゃんの二人だけだったようで、後の三人は平気そうにしていた。俺が虹夏ちゃんと恐怖を分かち合って慰め合っている横で喜多さんはものすごく満足そうな表情をしている。
これはあれだな。おばけ屋敷の中で「こわ~い♡」とか言って姉貴に抱き着いたりしてたんだな。
「あたし、次はジェットコースター乗りたいな~」
「いいですね! 行きましょう!」
ジェットコースターか。絶叫系は平気というかむしろ大好きだけど……姉貴が確かダメだったんだよな。
「姉貴、どうする? 怖いなら下で待ってる?」
「……行く」
「まじ?」
「レン、私は成長する生き物なんだ。今こそ……今こそトラウマを乗り越える時! あ、虹夏。横で手を握っててください」
「レンくんと全く同じ反応してる。もう、しょうがないなぁ~」
乗り越えられてねーじゃん。そうやってがんばろうとする姿勢は認めるけど、どうせ終わったら腰が抜けて立てなくなるだろ。まあ、その時は俺がおんぶしてやるか。
「ひとりは絶叫系は平気?」
「あっはい! (ほんとは大丈夫じゃないけどここで断ったら『こいつノリわりーな』って思われてみんなに失望されちゃう!!)」
ひとりが元気よく返事をするけど目が泳いでるな。絶対大丈夫じゃないじゃん。
「……本音は?」
「あっごめんなさい嘘つきました本当は絶叫マシーンすごく苦手です」
ですよね。
「どうする? 俺と一緒に下で待ってる?」
「あ、そ、それはレンくんに非常に申し訳ないので……わ、私も乗りますっ!」
「ほんとに大丈夫? 無理しなくていいよ」
ひとりは拳を握って気合いの入った表情をしているけど、絶叫系って本当にダメな人はガチで体調崩すからね。俺達だって嫌なものを無理やり乗せたりはしないし。
「しょ、正直すごく怖いですけど……私もみんなと楽しみたいですし……レンくんも、苦手なおばけ屋敷でがんばってましたし……そ、それに……」
「それに?」
俺が尋ねると、ひとりは顔を赤くして俯いた。
「れ、レンくんが隣にいてくれたら、がんばれる……気がします……」
ひとりのその言葉に、俺は自分の顔が熱くなってくるのを自覚した。いや……あのね、その言い方は反則だって。ひとりって奇行が目立つ面白珍獣だから忘れられがちだけど……見た目だけならものすごい美少女だからね。
「わかった。じゃあ、一緒に乗ろうか」
「は、はいっ!」
俺がそう言うとひとりも顔を赤くしたまま笑ってくれた。うん、なんかこっちも恥ずかしくなってくるわ。さっきのおばけ屋敷は全然平気だったのに。
あ、でも俺達五人で姉貴と虹夏ちゃん、俺とひとりっていうペアになると必然的に喜多さんがハブられることに……
それに気付いた俺は喜多さんが駄々をこねるんじゃないかと心配していたんだけど。
「え? ひとりちゃんの隣にレンくん? そんなの当たり前でしょう! 無理矢理にでもそうさせるつもりだったから! 私が一人? 今はそんなことどうでもいいの! それよりレンくん、ちゃんとひとりちゃんの手を握ってあげるのよ! 手を! 握って! あげるのよ!」
なんか喜多さんがキタキタオーラマシマシでそんなことを言ってきた。ごめん喜多さん、ジェットコースターで死ぬ前にそのキタキタオーラでひとりが死にそうだから。このままだとジェットコースターに乗れないから。
とまあ、なんやかんやあったけど、俺はジェットコースターがスタートしてからゴールするまでずっとひとりの手を握ってあげるのだった。
途中で溶けたり爆発四散したり魂が抜けたり顔面のパーツが飛んでいったりということもなかったし、俺が思っていたよりもかなり平和に終わったな。
「……レン、腰が抜けて立てない。抱っこ」
「しょうがねえなあ……」
そして、案の定我がお姉様が腰を抜かしてしまったので、俺は姉貴を抱えてジェットコースターから降りることになるのだった。
「くくく……下北最速の女とはこの私、人呼んで『下北の蒼い彗星』」
「シャアなのか高橋涼介なのかはっきりしろ」
「ゴーカートで思い出したけど、あたし夏休みになったら車の免許を取りに行こうと思うんだ~」
「お金貯めてハイエート買いましょうね! 夏の機材移動……思い出すだけで頭が痛くなるわ」
ジェットコースターの後はみんなでゴーカートに乗ることにする。俺は姉貴と一緒に乗ったんだけど、乗る前は調子に乗っていた姉貴は縁石にぶつけまくった結果、最終的にビビり散らかしてノロノロと安全運転していた。
「へたれ」
「うるさい。私は絶対に免許なんぞ取らん! アッシーは虹夏に任せるっ!」
「力強く情けないことを宣言するな!」
とかなんとか言っていた姉貴だけど、夏休みになって虹夏ちゃんがバイトにほとんど入らなくなり、車校に通い始めてから虹夏ちゃんと会える日が少なくなって寂しくなった姉貴も虹夏ちゃんと同じ自動車学校に通うようになるのだった。
我が姉ながら素直じゃないというか捻くれているというか……ただ、こういうところを可愛いと思ってしまうあたり、俺も大概重症だな。
「あ、バンジージャンプがありますよ!」
「絶対やだっ!」
「無理」
「し、死にます……」
喜多さんがキタキタした表情で恐ろしいアトラクションを指差す。なんでこんな遊園地にバンジージャンプなんてあるんだよ。しかも結構人気だし。俺、絶叫系は好きだけどあんな飛び降り自殺みたいなのはできねーわ。
「……レンくん」
バンドメンバーにあっさりと拒否された喜多さんは捨てられた子犬のような目で俺を見てくる。非常に庇護欲が湧いてくるけど、残念ながら俺もやるつもりなんてない。だからなんとかして喜多さんを言いくるめよう。
「喜多さん、ここ見て。十八歳未満は保護者の同意と同伴が必要なんだってさ……フードコートに戻ってあの酔っ払い達を連れてくる?」
「……やめておくわ。廣井さんが悪乗りしてジャンプと同時に空中からゲロをまき散らしそうだもの」
「ゲロとか言うんじゃありませんっ」
ただ、否定できないのも事実だ。とはいえ、廣井さんをダシにバンジージャンプを回避できたのでそれはそれでヨシ!
「虹夏、お腹空いた」
「もうお昼だね。あたし達もご飯食べようか」
姉貴がお腹をぐーぐー鳴らしていたので、俺達もフードコートへと向かったんだけど……やさぐれ三銃士は酒盛りを終えてベンチで並んで眠りこけていた。何しに来たんだこの人達。ここに司馬さんとやみさんがいたら「五人合わせて四天王!」になるな。
「虹夏ちゃん、音源審査の結果ってまだわからない?」
「うん。まだメールは来てないよ。夜までには来ると思うんだけどな~」
俺が尋ねると虹夏ちゃんがスマホをポチポチ操作してメールを確認してくれる。今日はただの慰安プチ旅行じゃなくて未確認ライオットの音源審査の結果発表日でもあったんだよね。例年通りなら、三千組以上の参加バンドからここで百組にまで絞られることになる。倍率は最低でも三十倍。
「発表日なのにあんまり緊張してないんだね」
「音源審査に送ったデモCDは
虹夏ちゃんは強がっているわけではない。心の底からそう思っているんだろうし、俺には「自分達なら絶対に大丈夫だ」という虹夏ちゃんの自信がひしひしと伝わってきた。
「強くなったね、虹夏ちゃん」
「えへへ~♪ でしょでしょ? 一人で抱え込んで苦悩するあたしはもういないのだ~!」
俺が虹夏ちゃんの頭を撫でてあげると、虹夏ちゃんはアホ毛を嬉しそうにぶんぶん揺らしながら笑顔で俺を見上げてくる。ほんとに成長したよね。この一年間、たくさん悩んで苦しんだことは決して無駄じゃなかったんだ。
俺は虹夏ちゃんを見て感慨深い気持ちになり、熱いものがこみ上げて───
「ヴォエッ!! 胃から……胃からさっき食べた唐揚げがこみ上げてくるぅ~っ!!」
「廣井てめえ!! ここで吐いたらぶっ殺すぞ!!」
感動していたところに思いきり水を差されたので、俺と虹夏ちゃんは自分でもびっくりするくらい冷たい視線を廣井さんに向けるのだった。
お昼ご飯を食べた後はお腹を落ち着かせる意味も込めてアシカショーを観たり、ゲームコーナーで色んな景品を取ったり、カップ焼きそばのU.F.O.になれるよくわからないボートに乗ったりと、午後からもよみ瓜ランドを満喫していた。
来た当初は「家でダラダラしたかった」なんてほざいていた姉貴も全力で遊んでたしほんとに調子いいなこいつ。
それと、こういう場所が苦手なひとりも楽しんでるみたいでよかった。
「見てください! もうイルミネーションが見れる時間になりましたよ!」
「すご~い! 幻想的できれいだね~!」
「……ふん、カップル共がいちゃつきおって。このイルミネーションのためにどれだけの電力が消費されて環境破壊が進んでいるのかわからんのか」
「情緒ないこと言うな!」
周囲が暗くなり始め、ランド全体のイルミネーションが点灯する。完全に日が沈んだらもっと綺麗に見えるだろうな。
「せっかくだから観覧車で夜景を楽しみましょうよ!」
「いいね~、行こ行こ! 観覧車もイルミネーションされてるし!」
虹夏ちゃんと喜多さんが二人並んで歩きだし、そこから少し距離が空いて姉貴とひとりがのそのそとついていく。二人とも楽しんでいたとはいえ、そろそろ電池切れかな。夕方になると露骨に口数が少なくなってたし。
俺は姉貴とひとりがフラッとどこかへ行ってしまわないように二人を見守りつつ虹夏ちゃん達についていく。
で、観覧車までやってきたんだけど……ここで一つ問題が発生した。
「定員は四人まで、か。じゃあ俺は下で待ってるから四人で乗ってきなよ」
さすがの俺も一人で観覧車に乗るほど勇者じゃないし。
「ダメよそんなの! レンくんはひとりちゃんと二人で乗ればいいわ! ね? 虹夏先輩!」
「うん! 喜多ちゃんの言う通り! レンくんはぼっちちゃんと乗ればよろしい! ね? リョウ!」
「え? 別に私がレンと乗っても……」
「いいから行くよ!」
「虹夏先輩、名前で呼ばないでください!」
「その『いくよ』じゃない!」
気付けば俺とひとりがその場に取り残され、虹夏ちゃん達が三人でさっさと観覧車に乗り込んでいった。というか、俺はともかくひとりの意思はガン無視ですか。
……こんなところで変な気を遣わなくてもいいのに。
「二人で乗ろうか?」
「あっひゃい!?」
口をぽかんと開けて間抜けな顔をしていたひとりに声をかけると、ひとりはビクンと体を震わせてガチガチに緊張した様子で手と足を一緒に動かしながら壊れかけのロボットみたいにぎこちなく歩き出す。
俺も彼女と二人で観覧車に乗ることに少しだけドキッとしていたけど、そんな彼女の様子を見て思わず笑ってしまうのだった。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。
と、とととととととととととととととととととんでもにゃいことになってしまったっっっ!!!
れ、れれれれれれレンくんと二人っきりで観覧車に乗るなんて!!!
お友達と遊園地に来ること自体が初めてだったなのに!!
それだけじゃなくて!!
まさか!!
男の子と二人っきりで!!
観覧車に乗るなんて!!
……これは夢なんじゃないでしょうか。
うん、きっとそうだ。夢に違いない。目が覚めればいつもの見慣れたお家の天井が視界に入ってくるはずだ。よーし、そうと決まれば……
「ちょいちょいちょい!! 何やってんの!? なんで窓に頭打ちつけてんの!?」
「あ、あれ……お、お家じゃない……目が覚めない……?」
私が観覧車の窓にガンガン頭を打ち付けていると、私の正面に座っていたレンくんがびっくりした様子で私の肩を掴んで現実世界へと引き戻してくれる。
頭の痛みでぼーっとする私の視界がとらえたのは呆れながらも笑っているレンくんの顔だった。
「ひとり、もしかして緊張してる?」
「あべびゃあ!? べ、別に緊張なんてしてましぇんよ~」
「そっか」
レンくんはそう言いながら意地悪い笑みを浮かべている。うっ……さ、最近レンくんはこうやって私が嘘をつくと意地悪な笑顔をするようになっちゃった。こ、これはいけません。どこでレンくんの教育を間違ってしまったのか……
「そういえば、新曲の歌詞見せてもらったよ。すごく良かった」
「ほ、本当ですか……?」
「うん。ああいう歌詞はやっぱりひとりにしか書けないよ。喜多さんや姉貴や虹夏ちゃんじゃなくて、ひとりにしか……ね」
「え、えへへ……そんなこと。じ、実はインスピレーションが舞い降りてきて一時間くらいで書き上げたんですよ~」
本当は三日くらいまともに眠れなかったんだけどね。で、でもレンくんが褒めてくれたし、がんばったかいがあった。前にレンくんに相談した時に「青春コンプレックスむき出しの歌詞」って言ってくれたから、本当にその通りに色んな鬱憤をぶちまけるような歌詞にしたんだよね。
ふ、ふへへっ……「良かった」って。「すごく良かった」ってレンくんが言ってくれた。虹夏ちゃんも喜多ちゃんもリョウさんも褒めてくれたけど、レンくんに褒められるのが一番嬉しい。
……どうしてかは、わからないけど。
そんなことを考えていると、私はあることを思い出した。レンくんに伝えなくちゃいけない、大事な大事なことを。
「あ、あのっ……レンくん……」
「ん? どうしたの?」
「えっと、その……」
新曲の歌詞について相談した日……レンくんは私に歌詞以外にもう一つ、
その時の私は彼の提案にちゃんと答えることができなかったけど、今なら……言える。
「みんなとも相談したんですけど……わ、私───新曲のバックコーラス、がんばってみようと思います」
レンくんからの提案。それは「私がリョウさんの代わりに新曲のバックコーラスを務めること」
最初はバックコーラスなんて絶対無理だと思った。カラオケでさえ何を歌っていいのかわからなくなるのに、人前で……知らない人達だらけの前で歌うなんて……たとえボーカルじゃなくてバックコーラスだとしても、絶対に自分には無理だ。
そう思っていた。
だけど
私が昔から思い浮かべていた理想の自分は
ステージに立っている理想の自分は
ギターを弾いて───歌っている自分だったから。
「す、少しでも、自分が思い描く……理想の自分に近づきたいから……」
それに何より
「ひとりが歌ってるとこ───見たいから」
君がそう言ってくれたから。君が私の背中を押してくれたから。君が私に勇気をくれたから。
私は一歩、踏み出すことができました。
「だから───ありがとう、レンくん」
何度目かわからない、君への感謝の気持ち。
きっと、今の私は自然に笑えている。
そしてレンくんは、彼は私の言葉を聞いて、私が大好きないつもの優しい笑顔を浮かべてこう言ってくれた。
「楽しみにしてる」
君がそうやって笑顔で私を見守ってくれている。それだけで私はがんばれる。
未確認ライオット。私達は必ず勝ち上がって───君に私が歌っている姿を見せてあげる。
そう考えていると、スマホからロインの通知音が鳴った。
虹夏ちゃんからだ。このタイミングってことは……音源審査の結果が出たんだ!
私は慌ててスマホを取り出し、虹夏ちゃんから送られてきた内容を確認する。
そして
そして───
「レンくん……」
私は震える手で、スマホの画面をレンくんに見せた。
「お、音源審査───通過しました……」
その瞬間、私は甘い香りと温かい何かに包まれる。
それが───レンくんに抱きしめられているのだと気付くのに十秒ほどかかってしまった。
「よかった……ほんとによかった……」
ぎゅうっと、私を抱き締める力が強くなる。彼は私の肩に顔を埋めていたから表情はわからなかったけど、彼の体が震えているように感じた。
だから私は、無意識の内に───彼を抱きしめ返していた。
普段の私なら、こんなことはできなかった。彼に抱きしめられて、耐えられるはずがなかった。
だけど、なんだろう……この気持ち。
心臓が爆発しそうなくらいドクンドクンと高鳴っているのに。
信じられないくらい、顔が熱くなっているのに。
彼の匂いと温かさに包まれて、安心している私がいた。
この一年間で……いや、彼と出会ってから何度も経験したこの感情。
私が知らない不思議な感情。
私が知らないと
ああ、やっぱり……やっぱりこれは……
「あ、ご……ごめんっ……! 感激しちゃって……つい……」
「い、いえっ……! わ、私は全然大丈夫、なの、で……はいっ……」
レンくんが慌てた様子で私から離れる。彼の温もりが遠ざかったことで寂しさを感じてしまい、私はもう……
そしてレンくんは珍しく、本当に珍しく……私と同じように恥ずかしそうに頬を染めている。
それがどうしようもなく嬉しくて。
でも、私も同じように恥ずかしくて。
私は彼から目を逸らしてしまった。
観覧車の窓から見える綺麗な夜景も、私の目に映っているはずなのに映っていない。私の脳裏には、彼の優しい笑顔と、恥ずかしそうにしている姿だけが焼き付いている。
認めよう。
認めるしかないんだ。この感情を───
それから観覧車が降り場に到着するまで、私達の間に会話はなかったけれど、私にはそれがとてもとても心地よい沈黙だった。
「あれ……? もしかして、虹夏ちゃん達先に行っちゃった?」
「三人でイルミネーションを見て回ってるみたいですね。喜多ちゃんがロインに写真をどんどんアップしてて……」
観覧車から降りても虹夏ちゃん達の姿が見当たらなかったのでロインを確認すると、三人は私達を置いて先に園内のイルミネーションを見ているみたいだ。
どうしよう……いつもだったら三人と合流するんだけど……
でも、でも───
私はもう少し───レンくんと二人っきりでいたい。
なんてことを、思ってしまった。
彼に、言ってしまいたかった。
だけど、言えない。
そんなこと、私に言えるわけがない。
自分の正直な気持ちを言葉にする。
たった、それだけのことなのに。なんて……なんて難しいんだろう。
うん。わかってる。わかってるよ。
私の思いを───この感情を。
彼に伝えたりなんて、そんなこと、絶対にできな───
「ねえ、ひとり」
そう、思っていたはずなのに。
「このまま二人で見て回ろう」
そう言って、彼は私に手を差し出す。
いつもいつも、君はそうだった。私がいてほしいときにそばにいてくれて、欲しい言葉を私にくれた。
出会った時からそうだった。あの日、あの時、教室で出会った時から、君はずっとずっと───
「うん」
そして、私は彼の手を握る。掌を通じて、彼の温もりがゆっくりと伝わってきた。
もう、誤魔化せない。
もう、抑えきれない。
私は理解した。理解してしまった。
私は知ってしまった。この感情の名前を知ってしまった。
山田レンくん
私は───
私は君に───恋をしました。
これで原作三巻までの内容は終了です。
以下はお知らせになるのでできれば目を通していただけると幸いです。
本作は未確認ライオット編を持ちまして完結とさせていただきます。第二部完という形ではなく、ガチの完結です。理由は至極単純、「原作が終わっていないから」これに尽きます。
一応私は現時点で原作六巻までの内容は網羅していますが、これ以上話を進めると今後原作で大きな動きがあった場合、整合性が取れなくなる可能性があります。いやこんだけ原作崩壊の内容で話を進めておいて今さらですが……
あと、未確認ライオットが物語の区切りとしてこれ以上ないくらいふさわしいと思ったからです。
順調にいけば、あと五話か六話で完結となります。多分、二月中には終わるでしょう。
もちろん恋愛にも決着をつけます。
「いつか必ず答えを出すからそれまで待っていてほしい」みたいな優柔不断キープクズ野郎ムーブはさせません。ついでに言うと「お前達が俺の翼だEND」にもしません。レンくんには絶対に一人の女の子を選んでもらいます。
現時点での最有力ルートは吉田銀次郎の「あたしと伝説になりましょうEND」
時点で二号さんとの「君を殺して私も死ぬEND」
その次が「レンくん……ふたり、十五歳になったよ? END」です。
レンくんがどのルートを選ぶか目が離せませんね。
それと、大変申し訳ありませんが私はここまで読んでくださっている皆様全員に納得していただけるようなエンディングを書けるとは思っていません。
ですが、最後の最後まで全力で走り続けようと思います。
完結まであとわずかとなりましたが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
では、ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。