【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 今回視点がコロコロ変わって読みにくいかもしれません。ごめんなさい!



#79 動かなきゃきっと君に会えない

「女子高生感が足りない……」

 

 STARRYでのスタ練の後、郁代がいきなりそんなことを言い出した。むむむっ! これは面倒事の予感! 私の長年の勘がそう告げている! 私の勘はこれまで一度たりとも外れたことはないんだ! これは一刻も早く家に帰ってレンに甘やかしてもらわねば!

 

「毎日毎日バイトバイトバイトバイトバイトスタ練スタ練スタ練スタ練!! 全然女子高生感が足りないんですよ!! みんなで練習帰りにお洒落なカフェに行ったり買い物したり遊びたい~!! みんなはきらきらきららしたくないんですか!?」

「だってライブ審査まで時間ないし」

「わかってます! そんなことは合点承知の助!! でもでもっ!! 司馬さん達だって『女子高生らしい感性を大事にしてください』って言ってたじゃないですかぁ~!! ここ数ヶ月の私達の生活は果たして女子高生と言えるのか、いや言えない(反語)!! いやだ~いやだ~!! このまま女子高生成分を失ってシワシワの萎びたピーマンみたいになるなんていや~!! 私は新鮮なパプリカでいたいの~!!」

「喜多ちゃん、可愛い服が汚れるよ」

 

 郁代がおもちゃを買ってもらえない五歳児の様に床をゴロゴロと転がっている。虹夏はそんな郁代を宥めていてぼっちは何やら思いつめている様子。

 

 そういえば最近のぼっちは練習こそしっかりやっていたけれど、どこか挙動不審なことが多かった。

 

 具体的にはみんなでよみ瓜ランドに行ってから。

 

 ふー……ここは平成のシャーロックホームズと呼ばれた天才的頭脳を持つ私が完璧な推理してやろう。じっちゃんの名にかけて!!

 

 ───レンと何かあったな?

 

「それに最近全然イソスタを更新できてなくて承認欲求が満たされないんです~!! いいねが~!! いいねが足りない~!!」

「結束バンドのフォロワーはめっちゃ増えてるじゃん」

「私個人のアカウントの方です! レンくんに一日三十分令を出されて……待てよ? 今日もレンくんはストレイビートでバイトをしてる……鬼の居ぬ間に洗濯ならぬレンの居ぬ間にイソスタ!!」

「も~! そんなことしてるとレンくんに()()スマホ没収されちゃうよ?」

「私、レンくんに初めて(スマホを)奪われちゃった……」

 

 郁代と虹夏の注意は完全に私からそれている。ぼっちの様子も気になるけど、今のところ演奏に支障はないようだし、ここで変に刺激するよりも未確認ライオットが終わってからゆっくり話を聞くのがいいだろう。やだ……私ったらなんて気の遣える先輩なのかしら。

 

 そうと決まればさっさと帰ろうすぐに帰ろうそうしよう。最近のレンは忙しそうにしていてあんまりかまってくれないからな。まったく、愛しのお姉様を放ったからしにしおってからに。けしからん。実にけしからん。

 

 というわけで私は帰る! 忍法「山田隠れ身の術」

 

「あ、あのっ!」

 

 私が山田家に代々伝わる百八の奥義のうち一つを発動させようとしたところで、ぼっちが珍しく大きな声を出した。その声に虹夏と郁代が振り返り、私が帰ろうとしたことがバレてしまう。

 

 虹夏がじーっとジト目で私を見てきたから、観念して二人の方へ戻ることにしよう。おのれぼっち。この貸しは高くつくぞ。

 

「す、すみません……み、みんなに相談したいことが、あり……ます」

「相談したいこと?」

 

 ぼっちはスカートの裾をぎゅっと握りしめて俯きながらそう言った。心なしか耳が赤くなっているように見える。

 

 ……どうしたぼっち?

 

「あ、あの……私……私……」

「大丈夫、ぼっちちゃん? 辛いことでもあったの? 話すのがしんどかったら無理しないでいいからね?」

 

 虹夏がぼっちに歩み寄って背中を優しく撫でている。ぼっちの尋常ならざる様子に駄々をこねていた郁代も寝転がったまま心配そうにぼっちを見ていた。

 

「わたっ、私……」

 

 そして、次にぼっちが放った一言は、文字通りここにいる全員の度肝を抜くことになるのだった。

 

 

 

 

「───好きな人が、できました」

「先輩達何やってるんですか遊びに行きたいとかイソスタがどうとか言ってる場合じゃないですよ結束バンド緊急会議ですひとりちゃん任せてね私が絶対ひとりちゃんの恋を叶えてあげるから!!」

 

 一瞬で郁代が復活し、鬱陶しいくらいの陽キャオーラを纏いながらテーブルをバンバン叩いている。

 

 その余波でぼっちがいつものように死んでしまい……

 

 なぜか店長も死んでいた。

 

 

 

 

 

 最近、ヨヨコ先輩の様子がおかしい。

 

 いや、ヨヨコ先輩の様子がおかしいのなんて割と日常茶飯事なんすけどね。あの人、トゥイッターのフォロワーが増えたり減ったりでわかりやすく一喜一憂したり、CDをおせんべいと間違えて齧ろうとしたり箒とギターを間違えたりする人っすから。

 

 でも、最近のヨヨコ先輩はそういった奇行に走ってる感じじゃなくて……

 

「はぁ……」

 

 楽屋でため息を吐きながらスマホを何度も何度も気にしている。で、いきなり不安そうな表情になったりニヤニヤ笑い出したり顔を赤くしてソファに寝ころんで悶絶し始めたり……正直気味が悪いんでやめてもらいたいっす。

 

 ただ、練習には影響がない、というよりいつも以上に熱が入っているんすよね。元々、練習では一切手を抜くことがない人だったんすけどここ一ヶ月ほどは本当に鬼気迫る勢いだった。未確認ライオットのライブ審査が近づいていてピリピリしてるせいかと思ったんすけど……どうもそうじゃないみたいで。

 

「今日もヨヨコ先輩が気持ち悪いことになってるね~」

「幽々は珍獣みたいで面白いと思いますよ~」

「最初は面白かったけど三日もすれば飽きちゃったよ」

 

 ふーちゃんと幽々ちゃんも中々辛辣なことを……お気の毒にヨヨ上。

 

 でも、なんでこんなことになってるんすかね。あのヨヨコ先輩をここまで変にさせる要因なんて……しまった。心当たりが多過ぎて絞り切れない。ヨヨコ先輩はすぐに変な影響を受けるっすからね。

 

 う~ん、可能性が高いのはレンさんかぼっちさんか……ぼっちさんがウチらとセッションするようになってからヨヨコ先輩の奇行に拍車がかかったみたいだから候補はやっぱりあの二人っすね。

 

「ねえ、はーちゃん。ヨヨコ先輩があんなんだから放置してご飯食べて帰ろうよ~」

「そっすね。明日は休みですし、ウチに泊まって夜通しゲーム大会でもやるっすか?」

「やる~! ねえねえ、幽々ちゃんもお泊りしようよ~」

「弟達のご飯を作ったらはーちゃんのお家に行きますね~」

 

 幽々ちゃんは大家族だから自分で自分の服を作ったり、一通りの家事ができるんすよね。ふーちゃんもお菓子作りが得意だし、同じ女子としてウチも見習わないといけないっす。

 

「じゃあ、そういうことで……ヨヨコ先輩、お疲れっす」

「お疲れ様でした~」

「また次の練習で~」

 

 だらしない笑顔でふへふへ笑っている不気味なヨヨコ先輩にあいさつをする。その顔はやべーっすよ。変な妄想してるぼっちさんと同じ顔してるじゃないっすか。……はぁ、ヨヨコ先輩もぼっちさんも羨ましいくらい顔が整ってるのになんでこんなに残念なんすかね。

 

「あ、ちょ……ちょっと待って!」

 

 ヨヨ先輩に背を向けて楽屋から出ていこうとしたところで先輩に呼び止められる。どーしたんすか? 先輩も一緒にウチでゲームやります? 先輩はクソ雑魚ですけど手加減は一切しないっすからね。

 

「そ、その……あ、あなた達に相談したいことがあるの……」

 

 振り返ると、さっきの気持ち悪いヨヨコ先輩じゃなくて、顔を赤くして俯いている……しおらしい先輩がソファにちょこんと座っていた。……可愛い。

 

「相談っすか?」

 

 珍しい。大体ヨヨコ先輩は一人で突っ走ってウチらに事後承諾を取ることが多かったのに。それでウチらが先輩にぶーぶー文句を言って先輩にご飯を奢ってもらうまでがワンセットだったのに。

 

 そんなヨヨコ先輩がウチらに相談なんて……一体どんな───

 

「あ、あのね……私……私……」

 

 次のヨヨコ先輩の一言により新宿FOLTに激震が走るのだった。

 

 

 

 

 

「───す、好きな人が……できたの」

「SIDEROS緊急会議ーーーー!! ふーちゃん、幽々ちゃん!! お泊り会なんてやってる場合じゃないっす!!」

「し、志麻さんとイライザさんを呼んでこなくちゃ……!! 廣井さん? 知らないですね~」

「店長にも声をかけてきます~」

「ちょっ……呼びに行かなくていいからっ!!」

 

 

 

 

 

 その頃のストレイビート

 

「ぎゃああああああああああああっ!! く、くくく蜘蛛っ!! 蜘蛛がっ!! 山田!! やっつけて!! はやくそいつやっつけて!!」

「蜘蛛は益虫なんで殺しちゃダメなんですよ。というか、暑苦しいんで抱き着いてこないでください」

「うるせーっ! おっぱい押し付けてやってんだから感謝しなさいよっ! ……あ、そっかぁ。山田はおっぱい大きい人が好みだからあたしに抱き着かれて興奮しちゃったのを隠すためわざとそんなに冷たい態度を取ってるんだぁ♡ うへへ~、愛いヤツめ~」

「やみさんってそうやって男を挑発するようなことしますけど、いざベッドに押し倒されたら顔真っ赤にしてぷるぷる震えてそう」

「はぁーっ!? そんなわけないでしょーっ!? どこ情報よそれどこ情報よ!? そんな確証のない情報を悪戯に拡散させてると痛い目に遭うわよ!! なんなら今からあんたで試してやろうか!? おおん!?」

「やみさんはもういい大人なんですから少しは落ち着いてくださいよ。ほら、司馬さんを見習ってください。あんなに大きなアシダカちゃんがすぐそばにいるのにいつも通り冷静沈着で───」

「腰が抜けて動けません。助けてください」

「ぽんこつぅ!!」

 

 

 

 

 

 

「ひとりちゃん! やっとレンくんのことを好きって自覚したのね! レンくんのどんなところが好きか三時間くらいねっとりじっくり聞かせてもらえないかしらできれば出会いから今日までのことを赤裸々に!」

「あぎゃばばぁべぶぅ!? な、なんでレンくんのことってわかっ……わかったんでしゅか……?」

「だってぼっちちゃん、レンくん以外に仲の良い男の子いないでしょ? あ、喜多ちゃんの戯言は無視していいからね」

 

 ぼっちの衝撃的な告白で結束バンドは緊急会議を開くことにする。天に召された店長は放っておこう。PAさんも無視して仕事してるし。今の私達はそんな些事にかまっている暇はないのだ!

 

「ねえひとりちゃん! 恋するってどんな気持ちなの!? やっぱりレンくんの近くにいるとドキドキしちゃうの!?」

「ど、ドキドキもしますけど……そ、それ以上にレンくんの隣にいるとぽわーっと温かくなって安心して……ふへへ……」

 

 ぼっちが顔を赤らめて恥ずかしそうに答える。まさかぼっちがこんな恋する乙女な表情をするようになるなんて……

 

「きゃーっ! いいな~いいな~! 私も素敵な恋をしてみたいわ~! あ~あ、リョウ先輩が男だったらよかったのに」

「リョウが男だったら結束バンドはとっくに崩壊してるよ」

 

 虹夏がとても失礼なことを言っている。でも確かに、女を誑し込む才能にあふれている私が男だったら結束バンドは崩壊するか私のハーレムになっていただろう。内気な巨乳美少女のぼっち、世話焼き幼馴染の虹夏、全肯定ウーマン郁代、まさに選り取り見取り。

 

「喜多ちゃん、一回落ち着こうよ。このままだとぼっちちゃんが話したいことも話せないでしょ?」

「そ、そうでした……ごめんねひとりちゃん。それで、私達に相談したいことって何かしら?」

「あ、はい。え、えっと……わた、私……レンくんことを、す、好きになっちゃって……で、でも、そこからどうしていいかわからなくて……」

「そんなの決まってるわ! 告白よ!」

「喜多ちゃんは結論を急ぎ過ぎる」

「でも虹夏先輩、相手はレンくんですよ。私達は普段、レンくんが身近に居すぎて気付いてなかったかもしれませんが……よく考えたらレンくんってモテ要素の塊じゃないですか!」

「……レンくんが素敵な男の子だってことは───ずっと昔から知ってるよ?」

「おっふ……に、虹夏先輩からの特大の重力波が……つ、潰れちゃう……あまりの重みに潰れちゃうわ……はっ!? 虹夏先輩の胸が小さいのはそうやって常時重力を纏っていて押し潰されていたからだった!?」

「喜多ちゃんよりはおっきいもん!」

 

 いつの間にか郁代と虹夏がお互いの胸を触り合っている。貧乳共の悲しき不毛な戦い。争いは同じレベルの者同士でしか発生しないとはよく言ったもの。まあ、私がこの争いに加わることはないな。私もぼっちには及ばないものの平均よりは大きい上に形も感度も良好だからだ。リョウだけに。

 

「ぼっちが最近おかしくなっていた原因がやっとわかった。まさか恋愛絡みなんて想像もしていなかったけど……」

「あっはい。す、すみません」

「謝ることはないよ。演奏に支障はなかったし、その辺りはきっちり気持ちの切り替えができてて偉いって思ったくらいだから」

「あ、ふへへ……そ、そうですかね」

 

 ぼっちの頭を撫でて褒めてやると、いつものようにだらしなくニヘニヘと笑っている。私もなんだかんだぼっちのこういうだらしない笑顔が好きだった。

 

「それに……弟のことを好きになってくれた。姉として、すごく……すごく嬉しい」

「リョウさん……」

 

 確かに驚きはした。だけどそれ以上に私は嬉しかったんだ。ぼっちがレンのことを好きって言ってくれて。

 

 中学時代、レンは何人かの女の子と付き合っていたけど、その時は一度もこんなに嬉しいって思ったことはなかったんだ。

 

 どうやら、私にとってもぼっちはすごく特別な存在になっていたらしい。

 

「ただ、ぼっちがレンを好きになったってことをレンが気付いているかどうか……」

「あ、さ、ささささんは『私のいつもの奇行だろうって思いこんでいる可能性がある』って言ってました」

「……否定できない」

 

 レンは感情の機微に敏感だからすぐに気付くとは思っていたけど……そうだよ。相手はぼっちだ。出会ってからの一年以上、レンは誰よりも近くでぼっちの奇行を見守り続けてきた男だ。ぼっちの奇行フィルターでレンの察知能力がバグっていてもおかしくない。

 

「待って……ひとりちゃん、あなた……」

「は、はい?」

「相談したのか……!? 私達以外の女に……!?」

「あ、あええっ!? き、昨日の放課後……ささささんに……」

「どうして!? どうして最初に私達に相談してくれなかったの!? 私達はもう家族同然の関係でしょう!?」

「喜多ちゃんがそうやって暴走するからだと思うよ」

 

 ささささん……確かライブをよく見に来てくれている女の子。郁代が「さっつー」と呼んでいた綺麗な子だったはず。レンも確か世話焼きサバサバ系ヒップホップガールって言っていた。

 

「暴走特急喜多ちゃんは置いといて……あたしもリョウと同じ気持ちかな。ぼっちちゃんがこうやって相談してくれたことも嬉しいし、ぼっちちゃんに好きな人ができたってことも嬉しいし……何より、レンくんのことを好きになってくれた───それがね、たまらなく嬉しいんだ」

「に、虹夏ちゃん……」

 

 ふーむ、また虹夏が重力を発生させている。でも、昔と違ってねちっこくて湿度が高い感じじゃないな。単に、レンに対する愛が深いだけみたい。

 

「あ、そ……それで、私がこれからどうすればいいのか、っていうこともそうなんですけど……でも、そ、それ以上に、みんなに……確認しておきたいことがあって……」

「確認しておきたいこと?」

「は、はい……」

 

 ぼっちは膝の上でぎゅっと拳を握り、声を震わせながら私達を見回す。

 

「み、みんなは───レンくんこと、好きですか?」

 

 そして、弱弱しい声色ながらも、顔を上げて力強い瞳で私達に尋ねた。

 

 不覚にも、感動した。

 

 ぼっちがそんなことを言えるようになるなんて。

 

 ぼっちはヘタレでメンタルが弱いと思われがちだけど……一度覚悟を決めてからの行動力にはすさまじいものがある。奇行で台無しになっていることが多いが、ぼっちは大舞台に強いんだ。

 

 今もそう。

 

「自分に好きな人ができた」と相談するのは、このくらいの歳の女の子にはよくあること。

 

 だけど、私達全員に……レンのことをよく知っていて、レンと仲の良い女の子に面と向かって直接「レンのことを好きか?」と聞くには相当の覚悟と勇気が必要。

 

 そんな覚悟と勇気を携えて、ぼっちが私達に尋ねてきた。こんなの……感動せずにはいられないじゃない。

 

「私はレンくんのことが好き……大好きです。も、もちろん……虹夏ちゃんも喜多ちゃんもリョウさんのことも大好きです。でも、私のこの感情が原因で、バンド活動に影響が……大好きなみんなに、大好きな結束バンドに迷惑をかけるのはいや、です。だ、だから……みんなの気持ちを、レンくんのことをどう思っているのかを聞いておきたかったんです」

 

 バンドに限らず、複数の女の子が同じ男の子を好きになるというのはよくある話だ。そして、残念ながら我が弟は……その()()を持った人間である。まあ、レンは二股をかけたり複数の女の子に思わせぶりな態度だけを取り続けてキープするようなクズじゃないけど。

 

 ただ、ぼっち以外の他のメンバーがレンに対してぼっちと同じような感情を抱いてしまっていたら……高校生のガールズバンドなんてあっさり崩壊してしまうだろう。ぼっちはそれを懸念して、勇気を振り絞って私達に直接尋ねてくれたんだ。

 

「レンくんのことは……好きよ。でも、ひとりちゃんの言う『好き』と違って、()()()()()()()()だから安心してね! ……リョウ先輩より先にレンくんと出会っていたらどうなってたかわからないけど」

「こ、後半に不穏な言葉が聞こえてきたような……」

「大丈夫よ! 少なくとも私()()修羅場にはならないから!」

「なんで喜多ちゃんはあたしを見るのかな?」

 

 郁代については思った通り大丈夫。私のおかげで修羅場にならずに済んだのだ! ふっふっふ。私はこうなることがわかっていたからあえて郁代に貢がせるような真似をしていたのよ! すべては計画通り! 私の頭脳ならデスノートを拾ってもキラだとバレずにLに勝てる!! 平成のシャーロックホームズであるじっちゃんの名にかけて!!

 

 虹夏についてはどうにもできなかったって? ……何事にも例外はあるのだよ。

 

「あたしもレンくんのことは()()()。だけど、ぼっちちゃんが心配してるようなことにはならないからね───()()()

「は、はい……」

「聞きづらいことを聞いてくれてありがとう。レンくんのこともそうだけど、ぼっちちゃんがあたし達のことを大好きって言ってくれて嬉しかったなぁ~」

「私もですっ! ひとりちゃん、私達の友情は永遠に不滅だからね!」

 

 虹夏についても大丈夫だろう。あれは恋愛感情なんてそんな軽いものじゃないから。とはいえ、ぼっちが恋愛感情を自覚したことでレンにも大きな影響が出るだろう。……近いうちに虹夏とレンが話し合う場を設けた方がいいかもしれない。まあ、レンの気持ちとぼっちの今後の行動次第だけど。

 

「じゃあ、改めてぼっちちゃんの最初の相談に戻るけど……いきなり告白するのはなしとして、あたしもぼっちちゃんからレンくんにアプローチをかけた方がいいと思うんだ」

「アプローチ……ですか?」

「うん。レンくんがぼっちちゃんのことをどう思ってるかは……憶測になっちゃうから言えないけど、どっちにしてもレンくんがもっともっとぼっちちゃんを意識するようにしなくちゃいけないと思うんだ」

 

 レンがぼっちのことをどう思っているか。私が見る限り、()()()()()()()を抱いていることは確かだ。ただ、それが庇護欲から派生した物なのか……はたまた恋愛感情に近いものなのかはレン本人にしかわからないけど。

 

「アプローチ、ですよね! 私に任せてください!」

 

 郁代が立ち上がって目をしいたけの様にキラキラさせながら陽キャオーラをまき散らす。やめろ郁代。それはぼっちだけじゃなく私にも効く。

 

「ひとりちゃん───私に良い考えがあるわ!」

 

 なんかダメそう。

 

 

 

 

 

 

「───で、ヨヨコ先輩がとうとうレンさんのことを好きって認めたわけなんすけど」

「あぎゃらごごごっ!? な、なんっ……なんで私が山田のことを好きってわかったの!?」

「だってヨヨコ先輩、レンくん以外に仲の良い男の子なんていないじゃないですか~」

「男の子どころか同性のお友達もいないですよね~」

「と、友達は数じゃなくて関係の深さなのっ!!」

 

 確かにレンさんとヨヨコ先輩は二年以上の付き合い……それこそ、SIDEROSの誰よりも二人は長い付き合いだ。ウチがレンさんと初めて出会ったのは一年以上前のヨヨコ先輩の路上ライブで……いやぁ、懐かしいっすね。

 

「そ、それで……私……山田のこと、好きになっちゃって……で、でも、誰かを好きになったことなんて初めてで……どうしていいかわからなくて……」

 

 ヨヨコ先輩は弱弱しい声でそう言いながら顔を赤くしてしおらしくなる。

 

 ……なんすかこの可愛い生き物。ウチが男だったら絶対にヨヨコ先輩のこと好きになってましたよ。もうその姿をレンさんに見せるだけで一撃じゃないすか?

 

「ヨヨコ先輩可愛い~♪ ぎゅーってしていいですか~?」

「幽々も抱き締めてあげます~!」

 

 ウチがそんなことを考えているとふーちゃんと幽々ちゃんの二人がヨヨコ先輩に抱き着いていた。うん、気持ちはわかるっすよ。ウチも抱き締めてあげたいっすもん。

 

「で、いつからレンさんのことを好きになったんすか?」

「そ、そんな情報必要ないでしょ!?」

「必要ですよ~。だってヨヨコ先輩は私達が知らないレンくんをたくさん知ってるんですから」

「そうです~。ヨヨコ先輩から見た山田さんと幽々達から見た山田さんは印象が違うかもしれませんから~。今後の対策には情報の擦り合わせが絶対必要です~」

「そ、そうなの……? 確かに、情報を整理するのは大事よね……」

 

 ヨヨコ先輩、騙されてる……騙されてるっすよ。でも面白そうだからウチも黙っておきます。ヨヨコ先輩の話を聞きたいんで。

 

 で、聞いたのはよかったんすけど……出るわ出るわ甘々青春エピソードの数々が。

 

 二年以上前の路上ライブでレンさんが声をかけてくれたところから始まり、今のメンバーが集まるために色々手を貸してくれたこととか江の島からの帰りにレンさんの肩にもたれかかって寝ちゃったとか秀華高校の文化祭でいちゃいちゃしてたとかクリスマスで二人きりの時だけ名前で呼び合うように約束したとかバレンタインでヨヨコ先輩が勘違いして冷たい態度を取ったにもかかわらず寒い中走り回ってヨヨコ先輩を探し出してマフラーを巻いてくれたとか。

 

 あっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっま!!

 

 なんすかそれ? 口の中砂糖でじゃりじゃりになるっすよ。糖尿病になるっすよ。

 

「……なんでそれで付き合ってないんすか?」

「だ、だって……私が恋愛感情を自覚したのはバレンタインだったし」

「もう四か月も経ってますよ~! それから何もしなかったんですか?」

「ヨヨコ先輩は相変わらずヘタレのチワワちゃんです~」

「へ、へたっ!? ヘタレなんかじゃないわよ! この前山田が倒れて看病してあげた時に───」

 

 ヨヨコ先輩がそこまで言って固まってしまった。と思ったら顔を真っ赤にして俯いてしまう。……ほほう? 看病してあげた時になんかあったんすか? なんかあったんすよね? ねえ?

 

「な、何もないっ! 何もないわよっ!!」

「寝込んでいるレンくんを襲っちゃったんだ……」

「ヨヨコ先輩はえっちです~」

「襲うなんて……()()()()()してないわよっ!!」

「何かしたことは認めるんすね」

 

 大槻ヨヨコ、語るに落ちる。そこからウチら三人の激しい追及が行われるも、ヨヨコ先輩は終ぞ口を割ることはなかった。ふーむ、ここまで頑なになるとは……寝てるレンさんにキスでもしたんすかね? いやいや、さすがのヨヨコ先輩もそんな王道ラブコメみたいなことを……やってそう。

 

「まあ、これ以上は話が進まないんで置いておきましょうか。とにかくヨヨコ先輩はレンさんのことが好き。これは間違いないっすね?」

「ええ……改めて他の人に言われると恥ずかしいわ」

「それで、レンさんとお付き合いしたいと」

「もちろんよ。私はあいつの一番になりたいの!」

 

 ヨヨコ先輩がそう言うとふーちゃんと幽々ちゃんが黄色い声を上げて拍手している。うんうん、ヨヨコ先輩のそういうところはほんとに尊敬できるっす。

 

「でも、ヨヨコ先輩。今の時代は女の子が待ってるだけじゃダメなんですよ~。むしろ女の子から積極的にいかないと今の男の子は恋愛に対して奥手になりがちですから」

「だ、だから……未確認ライオットが終わったら、こ、告白する……つもりよ」

 

 ヨヨコ先輩は言葉を詰まらせながら恥ずかしそうに言う。お、おおう……正直、ヘタレなヨヨコ先輩がそんなことを言うとは思わなかったっす。というか、そこまで覚悟が決まってるならウチらに相談する必要はなかったんじゃ?

 

「こ、告白するにしてもっ……そ、それまでにレンに私を意識させておきたいじゃない」

 

 確かに。ヨヨコ先輩の告白が成功するかどうかは……正直、五分五分っすね。いや、ヨヨコ先輩に魅力がないわけじゃなくて、むしろ普通なら絶対にオーケーを貰えるはずなんすけど……レンさんの隣にはいつもぼっちさんがいるんすよねぇ。

 

「ヨヨコせんぱ~い。そもそもなんですけど、今の山田さんに彼女はいないんですか~? いたら告白する前から玉砕決定ですよ~?」

「え? いないと思うわよ?」

「本当に~? 実はぼっちさんと付き合ってる可能性だってありますよ~?」

「おぐぅっ!?」

 

 あ、幽々ちゃんの口撃がクリティカルヒットしたっす。ヨヨコ先輩もぼっちさんのことは脅威に思ってたんすね。まあ、ぼっちさんって奇行が目立つけどすごく可愛いくてスタイルが良くて、コミュ障だけど優しい女の子ですから。

 

 なぜかウチに対してはおっぢさんになるっすけど。

 

「あ、レンくん彼女いないって~」

「……なんでわかるの?」

「今ロインで聞きました~」

「なんてこと聞いてるのよ!?」

 

 ふーちゃんが嬉しそうにロインの画面を見せてくる。「レンくんって今彼女いるの~?」「いないよー」「わかった~♪ ありがとう!」こんな感じの軽いやりとりだった。お、恐るべしふーちゃん……でも、グッジョブと言わざるを得ないっすね。

 

「楓子……あなたレンと結構ロインしてるのね」

「差し入れに手作りお菓子を用意したいからおすすめを教えてほしいってよく相談されるんですよ~。あと、ギターの練習で意識してることとか、リードギターとしてリズム隊と合わせるために心掛けてることとか」

「……私だって教えてあげられるのに」

「色んな人の考えややり方を聞いて勉強したいって言ってましたよ~」

「幽々もスーパーの特売情報を教えてあげてます~。なんでもレーベルのマネージャーさんに晩御飯を作ってあげてるみたいで~」

「あの男はレーベルで何の仕事をしているのよ!?」

 

 ヨヨコ先輩が微妙に嫉妬してるみたいっすけど、ふーちゃんも幽々ちゃんもそんな色気のあるロインなんてしてないっすよ。

 

 ……まあ、ウチもレンさんとはよくロインしてますけど。なんとかレンさんをドラムの道に引きずり込むためにおすすめのドラマー動画リンクとか送ってるっすからね。

 

「……そういえば、肝心なことを聞いていなかったのだけど」

「肝心なこと? なんすか?」

 

 まだこれ以上の爆弾があるんすか? そろそろお腹いっぱいっす。

 

「あ、あなた達はレンのこと……す、す、す、好きだったりするのかしら?」

 

 ヨヨコ先輩が不安と恐怖が入り混じった目でウチらに尋ねてくる。

 

 ああ、なるほど。確かにそれは重要なことっすね。

 

「好きっすよ」

「ふぐぅっ!?」

 

 あ、ダメージ受けた。

 

「友達としてっす」

「そ、そう……」

 

 あ、笑顔になった。

 

「私も好き~」

「ひぎぃっ!?」

 

 あ、ダメージ受けた。

 

「友達として!」

「そ、そうよねっ!」

 

 あ、笑顔になった。

 

「幽々も好きです~」

「あひぃっ!?」

 

 あ、ダメージ受けた。

 

「お友達としてですよ~」

「私を弄んでそんなに楽しいの!?」

 

 楽しいっす。ヨヨコ先輩みたいな面白生物はなかなかいないっすよ。おもしれー女レベルはぼっちさんにも引けを取らないっす。

 

「でも、安心したわ……あなた達と奪い合うようなことにならなくて……」

 

 確かに。もしもウチら三人の誰か一人でもレンさんに好意を抱いていたら……何度目かわからないSIDEROS解散の危機でしたね。

 

「話を戻しましょう……とにかく私は未確認ライオットが終わるまでになんとかレンを意識させたい。恥ずかしいお願いだけど……力を貸してもらえないかしら?」

 

 いやー、ヨヨコ先輩の口からそんな言葉を聞けるとは……感動して涙が出そうっすよ。いつも(ライブの時だけは)頼れる背中でウチらをぐいぐい引っ張ってくれるヨヨコ先輩が素直に「力を貸してほしい」なんて……

 

 これは何としてでもヨヨコ先輩の恋を成就させてあげなければ!

 

「はいっ!」

 

 そう考えていると、ふーちゃんが勢いよく手を挙げた。ものすっごくキラキラした表情で。

 

「ヨヨコ先輩! 任せてください!」

 

 ふーちゃんの力強い言葉に、ヨヨコ先輩の表情が花が咲いたようにぱぁっと明るくなる。

 

「私に───良い考えがあります!」

 

 くっ……ふーちゃん、いえ楓子様! なんて頼れる女なんすか!

 

 

 

 

 

「ひとりちゃん、いい? 夏……男を落とす最高の武器と言えば───」

「ヨヨコ先輩、いいですか? 夏……男を落とす最高の武器と言えば───」

 

 

 

 

 

「浴衣よっ!!」

「水着ですっ!!」

 

 

 

 

 

 その頃のストレイビート

 

「校長先生お疲れ様です。どうしました? お休みの日にお電話なんて……あ、BUMPの2014年のライブDVD観てくれたんですね! いや~2014年は何と言っても『トーチ』が最高でしたね……そう、そうなんですよ! もう鳥肌立ちまくりで! はい! 先生のおっしゃる通りライブアレンジも最高で……ああ、結束バンドの中間順位もわざわざ確認していただいて……ええ、ネット審査は問題なく通過できます。ただ、次のライブ審査が鬼門でしてね。わざわざお電話いただいたので相談させていただきたいのですが……はい、そうです。一度学校のみんなの前で演奏する機会を設けていただければなと、はい。喜多さんとひと……後藤さんの二人だけにはなりますが、四月とは比べ物にならないくらい成長してまして……はい。その通りです。先生もバンドをやっていらっしゃったのならおわかりでしょうけど、ライブの時の()()ってステージに立っている人達にとってものすごい力になるんですよ。だから、一人でも多くの人に結束バンドの曲を聴いてもらいたくて、応援に来てもらいたくて……はい、お願いします。詳しいことは週明けにでも……え? 芋羊羹? 大好きです! わかりました! 月曜日の放課後、校長室にお邪魔しますね! あ、ちょうど良い茶葉が家にあったので持っていきます! はい、はい。では月曜日に打ち合わせを───失礼いたします」

「あんた校長とどんな関係なのよ!?」

「放課後ティータイムする関係ですけど?」

「私も和菓子を食べたくなってきました……山田さん、お金を出すので買ってきていただけませんか?」

「わかりました。何がいいです?」

「みたらし団子でお願いします」

「あたしはフルーツ大福!」




 ぼっちちゃん&ヨヨコの恋愛相談回でした。

 今後の展開としては「ヨヨコとプールデート」→「ぼっちちゃんと花火大会」→「山田レン覚悟の扉を開く~吉田銀次郎&虹夏編~」→「ライブ審査」という流れになります。恋愛決着前の最後のヒロインイベントです。

 みんなで推しヒロインを応援しよう! でも、他のヒロインを下げるのはだめゼッタイ(喜多ちゃんリスペクト)

 とりあえず次回はヨヨコ回。どんな水着を着せようかな……おすすめあったら誰か教えて♪

 ちなみに前回と今回でレンくんがやったことは……

・ストレイビートでチキン南蛮作り
・ストレイビートで蜘蛛退治
・ストレイビートで和菓子を買いに行かされる

 ……描写外でちゃんと仕事もしてますよ! 主に散らかった部屋の掃除だけどな!

 ではでは、評価、感想、ここすき、誤字報告等ありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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